説明

配水管用着色樹脂組成物及び配水管

【課題】塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、水泡の発生を抑制する事が出来る耐塩素水性に優れた配水管及びそれに用いる配水管用着色樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、本発明は、ポリオレフィン樹脂100質量部に、カーボンブラックとしてサーマルブラックを0.1〜5質量部を含有させたことを特徴とする配水管用着色樹脂組成物、及び該着色樹脂組成物を成形してなる配水管である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐塩素水性に優れた配水管用着色樹脂組成物及び配水管に関する。詳しくは、塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、塩素による劣化が原因である配水管表面の水泡の発生を抑制する事が出来、コスト面でも有利な配水管用着色樹脂組成物及び配水管に関する。
【背景技術】
【0002】
水道用配水管として既存のダクタイル鋳鉄管や塩化ビニル管などからポリエチレン管への代替が近年急速に進んでいる。近年日本国内で発生した阪神・淡路大震災等の大地震で、ポリエチレン管の持つ柔軟性が耐震性に有効であることが評価された為である。ポリエチレン管の着色にはさまざまな無機顔料、有機顔料が使用されているが、特に耐候性が必要とされる非埋設用上水管としては耐候安定剤の目的でカーボンブラックが使用されている。現在一般に使用されているカーボンブラックは平均粒径30nm以下のものが多く、このカーボンブラックを使用したポリエチレン管は、他顔料を使用したポリエチレン管に比較して耐塩素水性に劣るという欠点がある。特に上水道用の配水管では、殺菌を目的として水中に添加された塩素がカーボンブラックの触媒作用により管内壁に水泡を発生させる。これらの水泡は長期間経過すると剥離し水道水中に混入するという問題がおきる。その為、プラスチック管の耐塩素水性に関しては、JIS K6762等に規定された非常に厳しい基準が定められている。
【0003】
カーボンブラックを配合した上水道用プラスチック管の耐塩素水性に関してはさまざまな発案がなされており、特許文献1によるとカーボンブラックの平均粒径を35nm〜500nmと大きくすることで耐塩素水性が改良されることが示されている。しかし本発明者等の実験によれば、カーボンブラックの粒径を大きくしても、例えば、一般に用いられるカーボンブラックであるファーネスブラックの平均粒径を30nm〜120nmまでの間で変更しても耐塩素水性に改良効果はほとんど見られず、単にカーボンブラックの平均粒径を大きくしても耐塩素水性の改良には至らないことが判明した。このように依然としてカーボンブラックを配合したプラスチック管では水道用配水管の厳しい基準をクリアーするのは難しい状況である。この問題を解決する手段として、特許文献2、特許文献3では、水道水に直接接触するポリエチレン管の内面にはポリエチレン単体を、紫外線に直接さらされる外面にはカーボンブラックを配した2層管が発案されている。しかし2層管の成形には単層管と比較して、成形難、高コスト等の問題があり、単層管での高耐塩素水性が求められている。
また、特許文献4〜7には、カーボンブラックをポリエチレンに添加したパイプが示されており、長期の耐候性を付与することを目的にカーボンブラックを添加することが一般的に行われている。しかし、これらの公知文献の技術だけでは、耐塩素水性は必ずしも充分なレベルではなく、更に優れた性能を発揮する改良手段が求められている。
特許文献8では、ポリオレフィン樹脂にカーボンブラック等の染顔料を配合した上水道の、塩素含有水に接した場合のパイプ表面に発生する膨れや色抜けを抑制する技術が開示されているが、耐塩素水性は十分ではなかった。
さらに、非特許文献1では、ゴム製品を目的としたカーボンブラックによる劣化のメカニズムを開示し、特に粒子径が大きく活性点が少ないサーマルブラックの耐塩素性への有効性を述べるも、その有効性の明確な開示や、オレフィン樹脂等への応用可能性を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭64−5191号公報
【特許文献2】特公昭59−31929号公報
【特許文献3】特開平5−212770号公報
【特許文献4】特表2003−531233号公報
【特許文献5】特表2005−529199号公報
【特許文献6】特開2007−218324号公報
【特許文献7】特表2008−542496号公報
【特許文献8】特許第3458660号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】CERI NEWS 第49号 発行日:平成17年5月編集発行:財団法人 化学物質評価研究機構
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、水泡の発生を抑制する事が出来る耐塩素水性に優れた配水管及びそれに用いる配水管用着色樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カーボンブラックとしてサーマルブラックを特定量、ポリオレフィン樹脂に加えることで耐塩素水性に優れた配水管用着色樹脂組成物からなる配水管、具体的には該組成物により作製の試験片が塩素濃度2000±100ppm、塩素水温度60℃におけるJIS K6762−1993塩素水試験方法による168時間後の状態で水泡が発生しないことを見出した。
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)ポリオレフィン樹脂100質量部に、カーボンブラックとしてサーマルブラックを0.1〜5質量部を含有させたことを特徴とする配水管用着色樹脂組成物。
(2)ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂である前記(1)に記載の配水管用着色樹脂組成物。
(3)前記(1)又は(2)に記載の着色樹脂組成物を成形してなる配水管。
(4)単層管である前記(3)に記載の配水管。
(5)非埋設用上水管である前記(3)に記載の配水管。
【発明の効果】
【0008】
本発明の配水管用着色樹脂組成物によれば、耐塩素水性に優れ、水泡発生を抑制する事が可能で、コスト面でも有利であり実用上極めて有用な配水管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明で使用されるポリオレフィン樹脂とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等、押出成形、射出成形などで使用される公知のポリオレフィン樹脂であり、特に限定なく使用できるが、パイプ成形性、コスト面、長期耐久性等総合的な観点から、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0010】
一般的にカーボンブラックは、無機顔料、有機顔料と比較して耐塩素水性に劣ると言われているが、これはカーボンブラックを配合した水道用配水管の劣化のメカニズムはカーボンブラックの持つ活性点の高さから、塩素を吸着しポリオレフィン樹脂の塩素化、酸化反応を速め、水泡剥離現象に至るためと考えられている。また、グレードにより10nm〜500nmの1次粒子が融着した状態で存在し、この融着した状態をアグリゲートと呼んでいる。アグリゲートの発達度合いをストラクチャーといい、種々のカーボンブラックをこのストラクチャーの高、低で分類することができる。
【0011】
カーボンブラックの種類には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等様々なものがあるが、一般的に用いられるカーボンブラックはファーネスブラックである。
本発明で使用するサーマルブラックは、ガスの燃焼、分解を繰り返して得るその製法上の特徴から、粗粒子のカーボンブラックが得られ、またストラクチャーの発達が非常に低くほぼ一次粒子に近い球状の状態で存在している。その為、アグリゲート空隙率が小さく、アグリゲートの発達した他カーボンブラックと比較して塩素を空隙内に吸収することがなく、その為、塩素との反応性が低いため耐塩素水性に有効となる。本発明では、上記サーマルブラックを使用することにより、効果的な耐塩素水性の知見が得られた。
このため、本発明の着色樹脂組成物で得られた配水管は従来のカーボンブラックを配したものに比べ、耐塩素水性に優れ、水泡発生を抑制する事が可能であり、コスト面でも実用上極めて有用な配水管が得られる。
【0012】
本発明で使用されるサーマルブラックは、特に限定されず公知のサーマルブラックを用いれば良く、その配合量はポリオレフィン樹脂100質量部に対し、サーマルブラック0.1〜5質量部の範囲で選定される。この量が0.1質量部より少ないと着色力が少なく、紫外線遮蔽効果が少なく得られた配水管の耐候性に問題があり、5質量部より多いと耐塩素水性試験を行った際、水泡が発生し易くなる。着色力及び耐塩素水性等を考慮すると、サーマルブラックの好ましい配合量は0.5〜3質量部である。
【0013】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で所望により他の添加剤成分、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、抗菌剤、架橋剤などの各種添加剤、さらには、シリカ、アルミナ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、無水石膏等の体質顔料を添加しても良い。
また、当該サーマルブラックを均一に分散させる目的で各種分散剤を配合してもよい。分散剤としては本発明の樹脂組成物を得る為に使用した加工機に合わせ任意のものを選択して良い。
本発明の配水管は、本発明の樹脂組成物を成形してなり、その成形方法は常法によれば良く、特に限定されない。本発明の配水管は、単層管に適しており、また、非埋設用上水管に適している。
さらに、本発明の配水管は、本発明の樹脂組成物を成形時の最終顔料配合の10倍もしくは30倍等に高倍率化したマスターバッチを製造した後に、ナチュラル樹脂と共に希釈して成形しても良い。
【実施例】
【0014】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
ポリエチレン樹脂(密度0.950g/cm3(JIS K 6922−1.2)MFR0.05g/10min(JIS K 6922−2))100質量部にサーマルブラックA(平均粒径(電子顕微鏡による平均粒径の算出)280nm)2.3質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート0.04質量部、分散剤としてステアリン酸カルシウム0.02質量部の混合物を単軸押出機(株式会社マース精機製V−40M/M[商品名])にて混練造粒しカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得た。
【0015】
その後、上記組成物を加熱プレスし厚さ4mmのプレスシートを作成した。プレスシートの作成条件は、230℃で予熱2分間、加圧2分間、冷却20℃10分間とした。得られたプレスシートから20mm×60mmの試験片を打ち抜き、JIS K 6762に準じた耐塩素水性試験(下記参照)を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
(試験条件)
塩素水濃度 :2000±100ppm
試験温度 :60℃
塩素水pH :6.5±0.5
観察時間 :72h、120h、168h
テストピース厚:4mm
(評価方法)
各観察時間にて試験片表面の水泡の有無、発生レベルの評価を行った。評価基準は水泡発生の状況に応じて以下の3段階評価とした。
○・・・水泡発生なし。
△・・・試験片の1部に水泡発生。
×・・・試験片の全面に水泡が発生。
【0016】
実施例2
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の量を4.6質量部とした以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
実施例3
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の量を0.2質量部とした以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
実施例4
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、サーマルブラックB(平均粒径80nm)2.3質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
実施例5
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、サーマルブラックB(平均粒径80nm)4.6質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
【0017】
実施例6
実施例1において、ポリエチレン樹脂(密度0.950g/cm3(JIS K 6922−1.2)MFR0.05g/10min(JIS K 6922−2))100質量部の代わりに、ポリプロピレン樹脂(密度0.900g/cm3(JIS K 6921−1.2)MFR0.5g/10min(JIS K 6921−2))100質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
実施例7
実施例1において、ポリエチレン樹脂(密度0.950g/cm3(JIS K 6922−1.2)MFR0.05g/10min(JIS K 6922−2))100質量部の代わりに、ポリエチレン樹脂(密度0.950g/cm3(JIS K 6922−1.2)MFR0.05g/10min(JIS K 6922−2))70質量部、及びポリエチレン樹脂(密度0.918g/cm3(JIS K 6922−1.2)MFR18.5g/10min(JIS K 6922−2))30質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
【0018】
比較例1
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、ファーネスブラックA(平均粒径24nm)2.3質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
比較例2
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、ファーネスブラックB(平均粒径76nm)2.3質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
比較例3
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、ファーネスブラックB(平均粒径76nm)4.6質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
比較例4
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、ファーネスブラックC(平均粒径122nm)2.3質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
比較例5
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の代わりに、アセチレンブラックA(平均粒径35nm)2.3質量部用いた以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
比較例6
実施例1において、サーマルブラックA(平均粒径280nm)の量を5.5質量部とした以外は同様にしてカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物を得、耐塩素水性試験を行い、試験片表面の水泡発生状況を観察、評価した。評価結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の配水管用着色樹脂組成物によれば、耐塩素水性に優れ、水泡発生を抑制する事が可能で、本発明の組成物により作製の試験片が塩素濃度2000±100ppm、塩素水温度60℃におけるJIS K6762−1993塩素水試験方法による168時間後の状態で水泡が発生しない。また、コスト面でも有利であり実用上有用な配水管を提供することができる。このため、本発明の配水管は、単層管又は非埋設用上水管等として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂100質量部に、カーボンブラックとしてサーマルブラックを0.1〜5質量部を含有させたことを特徴とする配水管用着色樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂である請求項1に記載の配水管用着色樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の着色樹脂組成物を成形してなる配水管。
【請求項4】
単層管である請求項3に記載の配水管。
【請求項5】
非埋設用上水管である請求項3に記載の配水管。

【公開番号】特開2011−105880(P2011−105880A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263964(P2009−263964)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】