説明

配水管用着色樹脂組成物及び配水管

【課題】塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、水泡の発生を抑制する事が出来、かつ長期耐久性を兼ね備えた耐塩素水性に優れた配水管及びそれに用いる配水管用着色樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリエチレン樹脂100質量部に、カーボンブラック0.1〜5質量部、及び少なくとも1種のアルカリ土類金属の水酸化物0.01〜5質量部を含有させた組成物であって、前記ポリエチレン樹脂が、(a)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLa)が5〜20g/10分、(b)密度(Da)が0.945〜0.965g/cm3、(c)α−オレフィン含有量(Ca)が0.05〜1.5mol%、(d)ノッチ入りLander法ESCRによる破壊時間(T)が200時間以上を満足することを特徴とする配水管用着色樹脂組成物、及び該着色樹脂組成物を成形してなる配水管である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐塩素水性に優れた配水管用着色樹脂組成物及び配水管に関する。詳しくは、塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、塩素による劣化が原因である配水管表面の水泡の発生を抑制する事が出来て耐塩素水性に優れ、かつ長期耐久性を兼ね備えた配水管用着色樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水道用配水管として既存のダクタイル鋳鉄管や塩化ビニル管などからポリエチレン管への代替が近年急速に進んでいる。近年日本国内で発生した阪神・淡路大震災等の大地震で、ポリエチレン管の持つ柔軟性が耐震性に有効であることが評価された為である。ポリエチレン管の着色にはさまざまな無機顔料、有機顔料が使用されているが、特に耐候性が必要とされる非埋設用上水管としては耐候安定剤の目的でカーボンブラックが使用されている。現在一般に使用されているカーボンブラックは平均粒径30nm以下のものが多く、このカーボンブラックを使用したポリエチレン管は、他顔料を使用したポリエチレン管に比較して耐塩素水性に劣るという欠点がある。特に上水道用の配水管では、殺菌を目的として水中に添加された塩素がカーボンブラックの触媒作用により管内壁に水泡を発生させる。これらの水泡は長期間経過すると剥離し水道水中に混入するという問題がおきる。その為、プラスチック管の耐塩素水性に関しては、JIS K6762等に規定された非常に厳しい基準が定められている。
【0003】
カーボンブラックを配合した上水道用プラスチック管の耐塩素水性に関してはさまざまな発案がなされており、特許文献1によるとカーボンブラックの平均粒径を35nm〜500nmと大きくすることで耐塩素水性が改良されることが示されている。しかし本発明者等の実験によれば、カーボンブラックの粒径を大きくしても、例えば、、一般に用いられるカーボンブラックであるファーネスブラックの平均粒径を30nm〜120nmまでの間で変更しても耐塩素水性に改良効果はほとんど見られず、単にカーボンブラックの平均粒径を大きくしても耐塩素水性の改良には至らないことが判明した。このように依然としてカーボンブラックを配合したプラスチック管では水道用配水管の厳しい基準をクリアーするのは難しい状況である。この問題を解決する手段として、特許文献2、特許文献3では、水道水に直接接触するポリエチレン管の内面にはポリエチレン単体を、紫外線に直接さらされる外面にはカーボンブラックを配した2層管が発案されている。しかし2層管の成形には単層管と比較して、成形難、高コスト等の問題があり、単層管での高耐塩素水性が求められている。
また、特許文献4〜7には、カーボンブラックをポリエチレンに添加したパイプが示されており、長期の耐候性を付与することを目的にカーボンブラックを添加することが一般的に行われている。しかし、これらの公知文献の技術だけでは、耐塩素水性は必ずしも充分なレベルではなく、更に優れた性能を発揮する改良手段が求められている。
【0004】
また管の内部圧力が1MPaかかる上水配水管に使われるポリエチレン樹脂は、ISO9080およびISO12162で規定されているPE100(MRS:Minimum Required Strength =10MPa)といった優れた長期耐久性を満足する必要がある。また最近はパイプ敷設のコストダウンを目的とした非開削工法や、老朽管の更生のために既設管の内部に新設管を挿入して使用する工法などの新たな施工方法の適用、またポリエチレン管の更なる信頼性向上の要求により、パイプの表面に傷がついても長期耐久性に優れる、すなわちISO13479に規定されているノッチ入りパイプ試験のような低速亀裂進展性(Slow Crack Growth=SCG)に対する耐久性に優れるPE100材料が求められるようになってきている。しかし、ポリエチレン樹脂に性能付与のため色々な成分を配合することがあるが、配合するものの種類や量によっては、そのポリエチレン樹脂が本来有している強度や耐久性を低下させる可能性がある。特にSCGについては敏感であり、極度の性能低下を招くことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭64−5191号公報
【特許文献2】特公昭59−31929号公報
【特許文献3】特開平5−212770号公報
【特許文献4】特表2003−531233号公報
【特許文献5】特表2005−529199号公報
【特許文献6】特開2007−218324号公報
【特許文献7】特表2008−542496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、水泡の発生を抑制する事が出来て耐塩素水性に優れ、かつ長期耐久性を兼ね備えた配水管及びそれに用いる配水管用着色樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明で得られたポリエチレン樹脂、カーボンブラック、少なくとも1種のアルカリ土類金属の水酸化物を含有する着色樹脂組成物からなる成形品は、従来の成形品に比べ、耐塩素水性に優れ、水泡発生を抑制する事が可能であり、かつ長期耐久性を兼ね備えコスト面も効果的な実用上極めて有用な配水管用着色樹脂組成物を見出した。
具体的には、ポリエチレン樹脂製水道用配水管のカーボンブラックの使用に際し、一般にカーボンブラックを配した劣化のメカニズムはカーボンブラックの持つ活性点の高さから、塩素を吸着しポリエチレン樹脂の塩素化、酸化反応を速め、一般に水泡剥離現象に至ると考えられている。
これに対し、本発明では、ポリエチレン樹脂に、カーボンブラック及びアルカリ土類金属の水酸化物を添加することにより、アルカリ土類金属の水酸化物の水酸基と塩素水中の塩素との間で置換反応が起き、金属塩として安定化する為、ポリエチレン樹脂への塩素化、酸化反応による劣化が緩和され、塩素濃度2000±100ppm、塩素水温度60℃におけるJIS K6762−1993塩素水試験方法による168時間後の状態で水泡が発生しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)ポリエチレン樹脂100質量部に、カーボンブラック0.1〜5質量部、及び少なくとも1種のアルカリ土類金属の水酸化物0.01〜5質量部を含有させた組成物であって、前記ポリエチレン樹脂が下記(a)〜(d)を満足することを特徴とする配水管用着色樹脂組成物。
(a)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLa)が5〜20g/10分
(b)密度(Da)が0.945〜0.965g/cm3
(c)α−オレフィン含有量(Ca)が0.05〜1.5mol%
(d)ノッチ入りLander法ESCRによる破壊時間(T)が200時間以上
(2)前記(A)ポリエチレン樹脂が、下記(B)と(C)のポリエチレン系重合体により構成される前記(1)に記載の配水管用着色樹脂組成物。
(B)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLb)が0.01〜3g/10分、かつエチレン以外のα−オレフィン含有量(Cb)が3.0mol%以下のポリエチレン系重合体を重合量比(Xb)20〜60質量%の割合
(C)温度190℃で荷重21.18Nにおいて測定したメルトフローレート(MFRc)が1〜1000g/10分、かつエチレン以外のα−オレフィン含有量(Cc)が0.5mol%以下のポリエチレン系重合体を重合量比(Xc)40〜80質量%の割合
(3)前記(1)又は(2)に記載の着色樹脂組成物を成形してなる配水管。
(4)単層管である前記(3)に記載の配水管。
(5)非埋設用上水管である前記(3)に記載の配水管。
【発明の効果】
【0009】
本発明の配水管用着色樹脂組成物によれば、耐塩素水性に優れ、水泡発生を抑制する事が可能であり、コスト面も有利で実用上極めて有用であり、長期耐久性を兼ね備えた配水管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明で使用されるカーボンブラックは、特に限定されないが、粒径10nm〜500nmの範囲のものであると好ましく、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等様々なものが挙げられ、いずれのカーボンブラックに対しても耐塩素水性の改良効果は望まれるが、好ましくは、サーマルブラック等に代表される大粒径カーボンがその活性点の低さから、塩素との反応性が低く、本発明との相乗効果が見込まれ望ましい。
カーボンブラックの配合量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対し、0.1〜5質量部の範囲で選定される。この量が0.1質量部より少ないと着色力が少なく、紫外線遮蔽効果が少なく得られた配水管の耐候性に問題があり、5質量部より多いと耐塩素水性試験を行った際、水泡が発生し易くなり、さらに高コストとなる。着色力及び耐塩素水性等を考慮すると、カーボンブラックの好ましい配合量は0.5〜3質量部である。
【0011】
本発明で使用されるアルカリ土類金属の水酸化物は、一般式MX(OH)Yで表される水酸化物であり、アルカリ土類金属Mとしては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raが挙げられ、汎用性、コスト面を考慮すると水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムがより望ましい。
また、少なくとも1種のアルカリ土類金属の水酸化物を含有するとは、ハイドロタルサイト、タルク等に代表されるその化学構造式中にアルカリ土類金属の水酸化物を少なくとも1種以上含む複合金属水酸化物をも含むことを意味する。
なお、アルカリ金属は、水への溶解性が高く成形後の配水管表面より水中への溶出が懸念されるため、アルカリ金属の水酸化物は避けるべきである。
アルカリ土類金属の水酸化物の配合量は、ポリエチレン樹脂100質量部に対し、0.01〜5質量部の範囲で選定され、0.01〜4質量部であると好ましい。この量が0.01質量部より少ないと耐塩素水性への改良効果が乏しく、5質量部より多いとSCGの極度の性能低下を招く原因となる。また、4質量部より多いと得られた配水管の耐塩素水性への改良効果は十分であるが、水酸基と塩素との置換反応により生成された金属塩が微少の白粉として塩素水と接触している成形品表面に現れ、特に5質量部より多いと顕著であり、外観不良や、機械物性低下の恐れがある。
【0012】
本発明で用いるポリエチレン樹脂は、使用するポリエチレン樹脂によっては、配合するカーボンブラックやアルカリ土類金属の水酸化物の種類や配合量によって、長期耐久性の性能が低下する恐れがあるため、本発明で使用されるポリエチレン樹脂は下記(a)〜(d)を満足するものである。
(a)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLa)が5〜20g/10分
(b)密度(Da)が0.945〜0.965g/cm3
(c)α−オレフィン含有量(Ca)が0.05〜1.5mol%
(d)ノッチ入りLander法ESCRによる破壊時間(T)が200時間以上
【0013】
本発明の(A)ポリエチレン樹脂は、(a)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLMFR、HLa)が通常5〜20g/10分、好ましくは7〜15g/10分の範囲にある。
HLMFRが5g/10分未満では流動性が低下し、20g/10分を超えるものはSCG耐性やノッチ入りLander法ESCRなどの長期耐久性や配水管成形時の垂れ(サグ特性)が劣る恐れがある。
HLMFRは、JIS K−7210(1996年版)の表1−条件7に従い、温度190℃、荷重211.82Nにより測定される。
HLMFRは、重合温度や連惧鎖移動剤量を変化させることにより増減させることが可能である。即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより分子量を下げて結果としてHLMFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより分子量を上げて結果としてHLMFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて結果としてHLMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて結果としてHLMFRを小さくすることができる。
【0014】
本発明の(A)ポリエチレン樹脂は、(b)密度(Da)が0.945〜0.965g/cm3、好ましくは0.947〜0.960g/cm3の範囲にある。また、分子量で表示すれば数平均分子量で5000〜40000程度のものが使用される。
密度が0.945g/cm3未満では剛性が低下し、0.965g/cm3を超えるものはSCG耐性やノッチ入りLander法ESCRなどの長期耐久性が劣る恐れがある。
密度は、JIS K−7112(1996年版)に従い測定される。
密度は、エチレンと共重合させるα−オレフィン量(短鎖分岐の数)を増減させることにより増減させることが可能である。
【0015】
本発明の(A)ポリエチレン樹脂は、(c)α−オレフィン含有量(Ca)が0.05〜1.5mol%、好ましくは0.1〜1.0mol%の範囲にある。
α−オレフィン含有量が0.05mol%以下ではSCG耐性やノッチ入りLander法ESCRなどの長期耐久性が低下し、1.5mol%を超えるものは剛性が劣る恐れがある。なお、ここでいうα−オレフィン含有量とは、重合時にリアクターにフィードし共重合したα−オレフィンのみでなく、副生による短鎖分岐(例えばエチル分岐、メチル分岐)も含むものとする。
α−オレフィン含有量は、13C−NMRにより測定される。
α−オレフィン含有量は、エチレンと共重合させるα−オレフィン量の供給量を増減させることにより増減させることが可能である。
【0016】
本発明の(A)ポリエチレン樹脂においては、(d)ノッチ入りLander法ESCRによる破壊時間(T)が200時間以上、好ましくは300時間以上である。
本発明者らは、プラスチック管のSCG耐性を評価する為に一般的に用いられているISO13479に規定されたノッチ入りパイプ試験と良い相関があり、少量のサンプルかつ短時間で評価が可能なノッチ入りLander法ESCRを考え出した。両データの相関はWO2006/126547公報の図1に示されたとおり、かなり良い相関であり、ノッチ入りLander法ESCRが長期耐久性の評価法として十分使用可能であり、破壊時間(T)は長期耐久性の指標となる。
ここで、ノッチ入りLander法ESCRとは、JIS K 6922−2:1997 附属書に規定されている定応力環境応力き裂試験装置を用い、試験温度を80℃とし、試験液は1wt%の高級アルコールスルホン酸ナトリウム水溶液を使用し、初期引張応力を60kg/cm2として測定するものであり、試験片は1mm厚、6mm幅のプレスシートを用い、引張部の中央厚み方向に0.4mmのレザーノッチを入れたものを使用し、破断までの時間を計測するものである。
本発明において、Tの値が200時間未満では、本発明のカーボンブラックやアルカリ土類金属の水酸化物を含有した組成物のノッチ入りLander法ESCRが低下し、SCG耐性に不安が残る。Tの値の上限に限定はされないが、本発明から得られる(A)ポリエチレン樹脂では3000時間が限界となる。
【0017】
さらに、本発明に使用される(A)ポリエチレン樹脂は、基本的には上記の要件を満たす重合体単独で構成され、分子量分布が広く、高分子量側にα−オレフィンがより多く導入されるなどの条件を満足するものであると好ましい。
本発明に使用される(A)ポリエチレン樹脂の具体的な重合体を例示すれば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−1−デセン共重合体などが挙げられる。これらは単独でも複数種使用してもよい。
【0018】
この(A)ポリエチレン樹脂の実施態様の一つは、実質的に比較的高分子量のポリエチレン成分(これを「(B)ポリエチレン系重合体成分」ともいう)からなるものと、それとは異なる比較的低分子量のポリエチレン成分(これを「(C)ポリエチレン系重合体成分」ともいう)からなる、少なくとも二種類以上のポリエチレン成分により構成されていると好ましい。これは二種類以上のポリエチレン成分からなる(A)ポリエチレン樹脂は、予め重合により調製された(B)ポリエチレン系重合体成分と(C)ポリエチレン系重合体成分なるポリエチレンを、慣用のポリマーブレンド、例えば、チーグラー触媒の多段重合により製造できる。勿論この(B)ポリエチレン系重合体成分と(C)ポリエチレン系重合体成分なるポリマー組成には、さらにそれ以外の第三成分としての他の汎用の各種ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、合成ゴムをブレンドして含ませることは、ポリエチレン樹脂の特性を変えない範囲で可能である。
【0019】
(A)ポリエチレン樹脂の実用的な製法の一つは、リアクターにおける多段重合工程において、予め先の工程において(B)ポリエチレン系重合体成分を調製し、次の工程で(C)ポリエチレン系重合体成分を調製することにより、最終工程においては両者の成分が適量ブレンドした状態にするという手法で達成できる。この(B)ポリエチレン系重合体成分と(C)ポリエチレン系重合体成分の組成割合は、任意に変えることが出来るが、配水管用という特定の用途において、配水管の特性を適正に発現するためには、その組成割合には自ずと適正な範囲がある。
(B)成分と(C)成分の配合割合は、(B)/(C)成分:20〜60質量%/80〜40質量%、好ましくは(B)/(C)成分:30〜55質量%/70〜45質量%である。
上記(B)成分が20質量%以上、(C)成分が80質量%以下であれば、SCGが低下することがなく、(B)成分が60質量以下、(C)成分が40質量%以上であれば、流動性が低下することがない。
【0020】
前記(B)ポリエチレン系重合体としては、具体的には、温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定したHLMFR(HLb)は0.01〜3g/10分、好ましくは0.02〜1g/10分の範囲であり、かつエチレン以外のα−オレフィン含有量(Cb)は3.0mol%以下、好ましくは、0.1〜2.0mol%の範囲にあるものが好ましい。α−オレフィンが3.0mol%以下であれば、ポリエチレン樹脂の密度が低下することがなく、剛性が低下することがない。
前記HLbが0.01以上であれば流動性の低下および分散不良が起こらず、3以下であればSCG耐性やノッチ入りLander法ESCRなどの長期耐久性や配水管成形時の垂れ(サグ特性)が劣ることがない。
HLMFRは、JIS K−7210(1996年版)の表1−条件7に従い、温度190℃、荷重211.82Nにより測定される。
HLMFRは、重合温度や連鎖移動剤量を変化させることにより増減させることが可能である。
α−オレフィン含有量は、13C−NMRにより測定される。
α−オレフィン含有量は、エチレンと共重合させるα−オレフィン量の供給量を増減させることにより増減させることが可能である。
【0021】
本発明の(B)ポリエチレン系重合体の具体例としては、α−オレフィン含有量(Cb)が3.0mol%以下の、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体などが挙げられる。これらは複数種使用した二元、三元共重合体が例示できる。
この(B)ポリエチレン重合体の密度(Db)は、0.910〜0.940g/cm3、好ましくは0.915〜0.935g/cm3の範囲のものが好適に使用できるが、他の(C)成分との組成割合により変わる性質であり、その密度範囲に限定されるものではない。分子量で表示すれば、数平均分子量で10000〜300000程度のものが使用される。好ましくは、数平均分子量50000〜200000程度のものが使用される。
【0022】
前記(C)ポリエチレン系重合体としては、具体的には、温度190℃で荷重21.18Nにおいて測定したMFR(MFRc)は1〜1000g/10分、好ましくは5〜500g/10分の範囲であり、かつエチレン以外のα−オレフィン含有量(Cc)は0.5mol%以下、好ましくは、0.3mol%以下の範囲にあるものが好ましい。α−オレフィンが0.5mol%以下であれば、ポリエチレン樹脂の密度が低下することがなく、剛性が低下することがない。
MFRcが1以上であれば流動性が低下することがなく、1000以下であればSCG耐性やノッチ入りLander法ESCRなどの長期耐久性や衝撃強度が劣ることがない。なお、MFRcは、JIS K−7210(1996年版)の表1−条件4に従い、温度190℃、荷重21.18Nにより測定される。
α−オレフィン含有量は、13C−NMRにより測定される。
α−オレフィン含有量は、エチレンと共重合させるα−オレフィン量の供給量を増減させることにより増減させることが可能である。
【0023】
前記(C)ポリエチレン系重合体の具体例としては、α−オレフィン含有量(Cc)が0.5mol%以下の、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体などが挙げられる。これらは複数種使用した二元、三元共重合体が例示できる。
この(C)ポリエチレン重合体の密度(Dc)は、0.935〜0.980g/cm3、好ましくは0.935〜0.960g/cm3の範囲のものが好適に使用できるが、他の(B)成分との組成割合により変わる性質であり、その密度範囲に限定されるものではない。分子量で表示すれば、数平均分子量で1000〜20000程度のものが使用される。好ましくは、数平均分子量2000〜10000程度のものが使用される。
【0024】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で所望により他の添加剤成分、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、抗菌剤、架橋剤などの各種添加剤、さらには、シリカ、アルミナ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、無水石膏等の体質顔料を添加しても良い。
また、カーボンブラックを均一に分散させる目的で各種分散剤を配合しても良い。分散剤としては本発明の樹脂組成物を得る為に使用した加工機に合わせ任意のものを選択して良い。
本発明の配水管は、本発明の樹脂組成物を成形してなり、その成形方法は常法によれば良く、特に限定されない。本発明の配水管は、単層管に適しており、また、非埋設用上水管に適している。
さらに、本発明の配水管は、本発明の樹脂組成物を成形時の最終顔料配合の10倍もしくは30倍等に高倍率化したマスターバッチを製造した後に、ナチュラル樹脂と共に希釈して成形しても良い。
【実施例】
【0025】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種物性の分析及び評価方法を以下に示す。
[HLMFR]
JIS K−7210(1996年版)の表1−条件7に従い、温度190℃、荷重211.82Nにおける測定値をHLMFRとして示した。
[MFR]
JIS K−7210(1996年版)の表1−条件4に従い、温度190℃、荷重21.18Nにおける測定値をMFRとして示した。
[密度]
JIS K−7112(1996年版)に従い測定した。
【0026】
[α−オレフィン含有量]
13C−NMRにより、以下の条件で測定した。
装置:日本電子(株)製JNM−GSX400
パルス幅:8.0μsec(フリップ角=40°)
パルス繰り返し時間:5秒
積算回数:5,000回以上
溶媒および内部標準:o−ジクロロベンゼン/ベンゼン−d6/ヘキサメチルジシロ キサン(混合比:30/10/1)
測定温度:120℃
試料濃度:0.3g/ml
測定で得られたスペクトルを(1)エチレン/1−ブテン共重合体については、「Macromolecules,15,353−360(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)」、(2)エチレン/1−ヘキセン共重合体については、「Macromolecules,15,1402−1406(1982)(Eric T.Hsieh and James C.Randall)」の文献に従い、観測ピークの帰属後、α−オレフィン含有量を求めた。また、他の短鎖分岐、例えばメチル分岐については、「J.Polym.Sci. Part A: Polym.Chem.、29、1987−1990(1991)(Atsushi Kaji, Yoshiko Akimoto、 and Masao Murano)」の文献に従い、観測ピークの帰属後、短鎖分岐数を求めた。なお、短鎖分岐数(個/主鎖1000炭素)とα−オレフィン含有量(mol%)の間には、α−オレフィン含有量=短鎖分岐数/5の関係がある。
【0027】
[ノッチ入りLander法ESCR]
170℃で予熱5分間、加圧1分間、冷却15℃/分で冷却し、1mm厚のプレスシートを得た。得られたプレスシートから6mm×65mmの試験片を打ち抜き、その中央部の厚み方向に0.4mmのレザーノッチを入れて試験サンプルとした。
そして、JIS K 6922−2:1997 附属書に規定されている定応力環境応力き裂試験装置を用い、試験温度を80℃とし、試験液は1質量%の高級アルコールスルホン酸ナトリウム水溶液を使用し、試験片のノッチ部分がチャック間の中央部に来るように、チャック間距離が25mmになるように取り付け、初期引張応力を60kg/cm2として破断までの時間を計測した。
【0028】
[塩素水試験]
Krauss−Maffei社製KME1−45−33B型単軸押出機(45mmφ、L/D=33)を用いて、ダイス温度190℃にて外径60mm、肉厚5.5mmの配水管を成形した。
得られた配水管から円周方向に20mm、長手方向に60mmとなるように試験片を切り出し、JIS K 6762に準じた耐塩素水性試験を行い、配水管内表面に水泡が発生するまでの時間(h)を計測した。
(試験条件)
・塩素水濃度 :2000±100ppm
・試験温度 :60℃
・塩素水pH :6.5±0.5
・観察時間 :水泡発生まで
[外観試験]
塩素水試験にて水泡発生までの間に、金属塩の生成による試験片表面の白粉発生有無を目視にて観察した。
・白粉発生なし :○
・極僅かに白粉発生あり :△
・白粉発生あり :×
【0029】
実施例1
(ポリエチレン樹脂の製造)
国際公開WO2006/126547号の実施例3と同様にしてポリエチレン樹脂を得た。各重合工程後の反応生成物、および混練後の物性は以下の通りであった。
[第一工程後の重合生成物]
・HLMFR:0.16g/10min
・密度:0.923g/cm3
・α−オレフィン含有量:1.03mol%
・組成比:23質量%
[第二工程後の重合生成物]
・HLMFR:0.14g/10min
・密度:0.923g/cm3
・α−オレフィン含有量:1.00mol%
・組成比:23質量%
[第三工程後の重合生成物]
・HLMFR:15g/10min
・密度:0.948g/cm3
・α−オレフィン含有量:0.55mol%
・組成比:54質量%
[第三工程で製造される低分子量成分のポリエチレン系重合体]
・MFR:120g/10min
・α−オレフィン含有量:0.15mol%
[混練後]
・HLMFR:9.4g/10分
・密度は0.948g/cm3
・α−オレフィン含有量:0.55mol%
・ノッチ入りLander法ESCR:533時間
【0030】
得られたポリエチレン樹脂100質量部に、カーボンブラックとしてファーネスブラックA(平均粒径(電子顕微鏡による平均粒径の算出)30nm)2.3質量部、アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)0.5質量部、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010[商品名]、チバケミカル社製)0.04質量部、分散剤としてステアリン酸カルシウム0.02質量部の混合物を単軸押出機(株式会社マース精機製V−40M/M[商品名])にて混練造粒しカーボン分散の均一な配水管用着色樹脂組成物のペレットを得た。その後、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
実施例2
アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)2.0質量部を配合した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
実施例3
アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)の代わりにハイドロタルサイト類化合物(DHT−4A[商品名]、協和化学(株)製)を配合した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
実施例4
カーボンブラックとしてファーネスブラックA(平均粒径30nm)の代わりにサーマルブラックA(平均粒径280nm)を配合した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
【0032】
実施例5
カーボンブラックとしてファーネスブラックA(平均粒径30nm)の代わりにサーマルブラックA(平均粒径280nm)を配合した以外は実施例3と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。
評価結果を表1に示す。
実施例6
アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)4.0質量部を配合した以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
【0033】
実施例7
(ポリエチレン樹脂の製造)
国際公開WO2006/126547号の実施例4と同様にしてポリエチレン樹脂を得た。各重合工程後の反応生成物、および混練後の物性は以下の通りであった。
[第一工程後の重合生成物]
・HLMFR:0.22g/10min
・密度:0.926g/cm3
・α−オレフィン含有量:0.98mol%
・組成比:23.1質量%
[第二工程後の重合生成物]
・HLMFR:0.20g/10min
・密度:0.926g/cm3
・α−オレフィン含有量:0.90mol%
・組成比:22.9質量%
[第三工程後の重合生成物]
・HLMFR:16g/10min
・密度:0.951g/cm3
・α−オレフィン含有量:0.45mol%
・組成比:54質量%
[第三工程で製造される低分子量成分のポリエチレン系重合体]
・MFR:100g/10min
・α−オレフィン含有量:0.11mol%
[混練後]
・HLMFR:12g/10分
・密度は0.951g/cm3
・α−オレフィン含有量:0.45mol%
・ノッチ入りLander法ESCR:285時間
【0034】
得られたポリエチレン樹脂100質量部に、カーボンブラックとしてファーネスブラックA(平均粒径30nm)2.3質量部、アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)0.5質量部、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010[商品名]、チバケミカル社製)0.04質量部、分散剤としてステアリン酸カルシウム0.02質量部の混合物を単軸押出機にて混練造粒しペレット化した。その後、このペレットを用いて、塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)を配合しない以外は実施例1と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
比較例2
アルカリ土類金属の水酸化物として、水酸化マグネシウム(キスマ5A[商品名]、協和化学(株)製)5.5質量部を配合した以外は実施例7と同様にしてペレットを得た。そして、このペレットを用いて塩素水試験と外観試験とノッチ入りLander法ESCRを評価した。評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、耐塩素水性に優れ、塩素を含有する水道水などに長期間直接接触しても、水泡の発生を抑制する事が出来、本発明の組成物により作製の試験片が塩素濃度2000±100ppm、塩素水温度60℃におけるJIS K6762−1993塩素水試験方法による168時間後の状態で水泡が発生しない。また、長期耐久性を有し、コスト面でも有利であり実用上有用な配水管を提供することができる。このため、本発明の配水管は、単層管又は非埋設用上水管等として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン樹脂100質量部に、カーボンブラック0.1〜5質量部、及び少なくとも1種のアルカリ土類金属の水酸化物0.01〜5質量部を含有させた組成物であって、前記ポリエチレン樹脂が下記(a)〜(d)を満足することを特徴とする配水管用着色樹脂組成物。
(a)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLa)が5〜20g/10分
(b)密度(Da)が0.945〜0.965g/cm3
(c)α−オレフィン含有量(Ca)が0.05〜1.5mol%
(d)ノッチ入りLander法ESCRによる破壊時間(T)が200時間以上
【請求項2】
前記(A)ポリエチレン樹脂が、下記(B)と(C)のポリエチレン系重合体により構成される請求項1に記載の配水管用着色樹脂組成物。
(B)温度190℃で荷重211.82Nにおいて測定した高荷重メルトフローレート(HLb)が0.01〜3g/10分、かつエチレン以外のα−オレフィン含有量(Cb)が3.0mol%以下のポリエチレン系重合体を重合量比(Xb)20〜60質量%の割合
(C)温度190℃で荷重21.18Nにおいて測定したメルトフローレート(MFRc)が1〜1000g/10分、かつエチレン以外のα−オレフィン含有量(Cc)が0.5mol%以下のポリエチレン系重合体を重合量比(Xc)40〜80質量%の割合
【請求項3】
請求項1又は2に記載の着色樹脂組成物を成形してなる配水管。
【請求項4】
単層管である請求項3に記載の配水管。
【請求項5】
非埋設用上水管である請求項3に記載の配水管。

【公開番号】特開2011−105881(P2011−105881A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263965(P2009−263965)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】