説明

配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置

【課題】感光性導電ペーストを焼成して得られる配線を用いた配線基板形成において、配線の高さおよび断面形状を制御し、配線の欠陥を抑制するとともに、画像形成装置の発光効率・信頼性向上を実現しつつ、配線基板の素子作成工程及びこれを用いた画像形成装置の真空信頼性を得る。
【解決手段】感光性導電ペーストを焼成して得られる配線の下に、この配線となじみのいい下地層を配置して配線基板を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
配線基板の一例として電子放出素子を多数作りこんだ電子源基板があげられる。従来、電子放出素子としては熱電子源と冷陰極電子源の2種類が知られている。冷陰極電子源には電界放出型素子(以下FE型素子と略す)、金属/絶縁層/金属型素子(以下MIM素子と略す)、表面伝導型電子放出素子(以下SCE素子と略す)等がある。
【0003】
上述の表面伝導型電子放出素子は構造が単純で製造も容易であることから、それを大面積にわたり多数形成できるという利点を有している。そこでこの特徴を生かすべく各種の応用が研究されている。たとえば荷電ビーム源、画像形成装置等の表示装置等への応用である。
【0004】
本出願人は、電子放出素子とその応用に関しこれまで多数の提案を行っており、その一部を紹介する。
【0005】
インクジェット方式による素子作成に関しては特開平9−102271号公報や特開2000−251665号公報に、これらの素子をXYマトリクス形状に配置した例として、特開昭64−031332号公報、特開平7−326311号公報に詳述されている。更には配線形成方法に関しては特開平8−185818号公報や、特開平9−50757号公報に、駆動方法については特開平6−342636号公報等に詳述されている。
【0006】
また、表面伝導型電子放出素子の構成、製造方法などは、例えば特開平7−235255号公報、特登録2903295号公報に詳述されている。
【0007】
以下に、上記公報に開示されている表面伝導型電子放出素子の概略を簡単に説明する。
【0008】
上記の表面伝導型電子放出素子は、図15に模式的に示すように、基板1上に対向する一対の素子電極2,3と、該素子電極に接続されその一部に電子放出部5を有する導電性膜4とを有してなる。
【0009】
電子放出部5は、導電性膜4の一部が、破壊・変形ないし変質され、間隙が形成された部分を含み、間隙内部及びその近傍の導電性膜上には、活性化と呼ばれる工程を行うことにより、炭素及び/または炭素化合物を主成分とする堆積物が形成されている。なお、この堆積物は上記導電性膜に形成された間隙よりもさらに狭い間隙部をもって対峙した形状となっている。
【0010】
また、多数の表面伝導型電子放出素子をマトリクス状に配線接続した電子源基板の構成例を図2に示す。図2中、21は基板、2と3は素子電極、4は導電性膜(素子膜)、5は電子放出部、24はY方向配線(下配線)、25は絶縁層、26はX方向配線(上配線)である。
【0011】
上記電子源基板は、基板21上に、複数のY方向配線(下配線)24と、該Y方向配線24の上に絶縁層25を介して複数のX方向配線(上配線)26が形成され、該両方向配線の交差部近傍にそれぞれ、電極対(素子電極2,3)を含む電子放出素子が配設され、該電極対の一方(素子電極3)がY方向配線24と、他方(素子電極2)が絶縁層25に設けられたコンタクトホールを介してX方向配線26と接続された構成を有している。
【0012】
以下、この電子源基板の製造方法の一例を、図3乃至図6を参照しつつ簡単に説明する。
【0013】
先ず、基板21上に複数の電極対(素子電極2,3)を形成する(図3参照)。
【0014】
次に、一方の素子電極(素子電極3)に接して、かつそれらを連結するようにライン状のパターンで複数のY方向配線(下配線)24を形成する(図4参照)。図示していないが、Y方向配線(下配線)24の終端部は外部駆動回路への引出し配線としてして使うために、線幅をより大きくしている。このY方向配線(下配線)24は、本電子源基板を用いて画像形成装置としてパネル化した後は信号電極として作用する。
【0015】
次に、上下配線を絶縁するために、絶縁層25を形成する(図5参照)。この絶縁層25は、後述のX方向配線(上配線)下に、先に形成したY方向配線(下配線)24との交差部を覆うように、かつX方向配線(上配線)と他方の素子電極(素子電極2)との電気的接続が可能なように、各素子に対応した接続部にコンタクトホール27を開けて形成する。
【0016】
次に、先に形成した絶縁層25の上に、X方向配線(上配線)26を形成する(図6参照)。X方向配線26は、絶縁層25を挟んでY方向配線24と交差しており、絶縁層25に設けたコンタクトホール27部分で素子電極2と接続される。図示していないが、外部駆動回路への引出し配線もこれと同様の方法で形成する。X方向配線26は画像形成装置としてパネル化した後は走査電極として作用し、信号電極として作用するY方向配線24よりも低い配線抵抗を要求されるため、線幅を太くするか膜厚を厚くする設計がなされる。
【0017】
次に、素子電極2,3間に、例えば特開平9−102271号公報や特開2000−251665号公報に記載のインクジェット方式によって導電性膜4を形成する(図7参照)。
【0018】
次に、両方向配線24,26間にパルス電圧を印加し、素子電極2,3間に通電することによって、導電性膜4を局所的に破壊、変形もしくは変質させることにより、電気的に高抵抗な状態の電子放出部(間隙)を形成する(フォーミング工程)。この時、図2及び図15に示すように、電子放出部(間隙)5は素子電極2,3の対向する間隙部分に該間隙と略平行に形成される。
【0019】
次に、炭素原子を含むガスの雰囲気下で、上記のフォーミングと同様、両方向配線24,26間にパルス電圧を印加し、素子電極2,3間に通電することによって、炭素あるいは炭素化合物を、前記間隙近傍にカーボン膜として堆積させる(活性化工程)。
【0020】
以上の工程により、基板上に多数の表面伝導型電子放出素子をマトリクス配線接続してなる電子源基板が作製される。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上述したような、素子をXYマトリクス状に配置し、電極の一方をY方向配線、他方を絶縁層を介してY方向配線の上に形成されたX方向配線と接続した電子源基板を、蛍光体を配置した対向基板と張り合わせて高真空容器とした表示装置としての応用においては、その大面積化・高品質化にあたり以下のような問題点がある。
【0022】
1、配線材料として低抵抗化と高精細化の要求に応えるために金属とガラスフリットからなる感光性ペーストを用いるが、図16に図示したような、パターンエッジのカールとアンダーカット、基板のクラック発生といった問題がある。パターンエッジのアンダーカットは周辺封止部においては真空気密性の低下を引き起こす。また、パターンエッジのカール形状は配線の収縮応力による基板へのクラック形成の原因となって、やはり周辺封止部における真空気密性の低下を引き起こす。また、樹脂製Oリング等で機械的に真空形成する上でも障害となる(出願No.2001−255466に詳述)。
【0023】
2、パターンエッジのアンダーカットは、素子部において層間絶縁膜の形成時に気泡を抱きんだり、あるいは感光性ペーストの現像液である炭酸ナトリウム水溶液を吸収し、図23に示すように後の焼成工程で気泡を発生させたりして、上下配線のクロスショートの原因となる。
【0024】
(発明の目的)
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を改善するものであり、画像形成装置の発光効率向上を図りつつ配線の欠陥を低減し、さらに電極基板の素子作成工程及びこれを用いた画像形成装置の真空信頼性を実現し、その電極基板を用いる画像形成装置において、大型でより高密度な画素配列による高品位な画像を得られるようにすることにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
そこで本出願人らの検討の結果、下地層として酸化物ガラス層を形成した上に素子電極およびマトリクス配線を形成することによりこれらの課題が解決する事が確認された。
【0026】
図24は酸化鉛ガラス層を下引きして下配線を形成した場合の断面SEM写真である。配線が下地層にやや沈み込む形で配線下に空隙ができない形状となっている。また電子放出面からの配線高さを底上げできる。さらにこの構成では幅広・厚膜の配線端子部のエッジカールが抑えられ、(出願No.2001−255466)で詳述したように、一体化した配線断面が基板と形成する平均角度が鈍角とならないため、基板に発生するサイドクラックも抑えられる。したがってマトリクス配線のクロスショート低減を実現しつつ、封止部の真空気密も確保される。
【0027】
このときの露光エネルギーは1000mJであり生産にも対応できる露光条件である。ただし、配線の膜厚が厚くなるとその収縮応力で酸化物ガラス自体にクラックが生じることがあるので注意が必要である。
【0028】
加えて工程の短縮を図って酸化物ガラス下地層を乾燥した状態で、この上に下配線を塗布パターニングし一括焼成を試みた。しかしこの形成方法では下配線のエッジカール形状が逆に助長されて
所望の効果を得る事はできなかった。
【0029】
次表は酸化物ガラス下地層の膜厚と下地層および配線の焼成プロセスが配線のエッジ形状に及ぼす影響を検討した結果である。同時焼成ではカールしようとする配線を引きとどめる力がまだ下地層に発生していないと考えられる。この実験の配線膜厚は17μmである。
【0030】
【表1】



【0031】
また図22に示すように、酸化物ガラス下地層としては酸化鉛ガラスを使う事で、配線の導電材料である銀が素子電極材料の白金を介して素子部へ拡散することを軽減する効果が得られ、電子源素子の特性向上と信頼性の改善が確認された。
【0032】
さらに電子放出素子形成部を除くために、酸化物ガラス下地層として感光性ペーストを用いる事で、電子源基板の高密度化が可能となった。
【0033】
加えて、図24に示した配線の断面形状を形成する事で上下配線間の絶縁層に要求される膜厚が低減し、絶縁層形成工程が短縮できるため、結果的に下引き層の追加が付加工程にならずに上述の種々の特性改善が達成される。
【0034】
以上の事実を踏まえて、本発明の電極基板及びこれを用いた画像形成装置は、必要部に下地層として酸化物ガラス層を形成した上に、素子電極およびマトリクス配線を形成することを特徴とするものである。
【0035】
この酸化物ガラス下地層の軟化点としては下配線の焼成温度近傍が好適で、実用的周辺材料のプロセス温度から640℃以下が望ましい。
【0036】
また酸化物ガラスとして酸化鉛ガラスが好適である。
【0037】
さらに酸化物ガラスとして感光性ペーストが好適に使われる。
【0038】
本発明の別の態様は、表示領域の内側においてのみ、必要部に酸化物ガラス層を形成したことを特徴とする請求項1〜3記載の電極基板及びこれを用いた画像形成装置に関するものである。
【0039】
これによって、電極形成において、配線の高さおよび断面形状を制御し、配線の欠陥を抑制するとともに、画像形成装置の発光効率・信頼性向上を実現しつつ、電極基板の素子作成工程及びこれを用いた画像形成装置の真空信頼性を得ることができる。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を電子源基板への適用例によって詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0041】
本発明の電子源基板に形成される電子放出素子としては、図15に例示した構成が挙げられる。
【0042】
基板1はガラス等からなり、その大きさおよびその厚みは、その上に設置される電子放出素子の個数、および個々の素子の設計形状、および電子源の使用時に容器の一部を構成する場合には、その容器を真空に保持するための耐大気圧構造等の力学的条件等に依存して適宜設定される。
【0043】
ガラスの材質としては、廉価な青板ガラスを使うことが一般的であるが、この上にナトリウムブロック層として、例えば厚さ0.5μm程度のシリコン酸化膜をスパッタ法で形成した基板等を用いる必要がある。この他にナトリウムが少ないガラスや、石英基板でも作成可能である。
【0044】
また素子電極2、3の材料としては、一般的な導体材料が用いられ、例えばNi、Cr、Au、Mo、Pt、Ti等の金属やPd−Ag等の金属が好適であり、あるいは金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体や、ITO等の透明導電体等から適宜選択され、その膜厚は、好ましくは数百Åから数μmの範囲が適当である。
【0045】
素子電極間隔L、素子電極長さW、素子電極2、3の形状等は、実素子が応用される形態等に応じて適宜設計されるが、間隔Lは好ましくは数千Åから1mmであり、より好ましくは素子電極間に印加する電圧等を考慮して1μmから100μmの範囲である。また、素子電極長さWは、好ましくは電極の抵抗値、電子放出特性を考慮して、数μmから数百μmの範囲である。
【0046】
電子源となる導電性膜(素子膜)4は、素子電極2、3を跨ぐ形で形成される。
【0047】
導電性膜4としては、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜が特に好ましい。またその膜厚は、素子電極2、3へのステップカバレージ、素子電極間の抵抗値、および後述するフォーミング処理条件等を考慮して適宜設定されるが、好ましくは数Åから数千Åであり、特に好ましくは10Åから500Åの範囲とするのが良い。そのシート抵抗値は、好ましくは10〜10Ω/□である。
【0048】
なお、ここで述べる微粒子膜とは、複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接あるいは重なり合った状態(島状も含む)の膜を指しており、微粒子の粒径は、数Å〜数千Å、好ましくは10Å〜200Åである。
【0049】
導電性膜材料には、一般にはパラジウムPdが適しているが、これに限ったものではない。また成膜方法も、スパッタ法、溶液塗布後に焼成する方法などが適宜用いられる。
【0050】
電子放出部5は、例えば以下に説明するような通電処理によって形成することができる。尚、図示の便宜から、電子放出部5は導電性膜4の中央に矩形の形状で示したが、これは模式的なものであり、実際の電子放出部の位置や形状を忠実に表現しているわけではない。
【0051】
所定の真空度のもとで素子電極2,3間に不図示の電源より通電すると、導電性膜4の部位に、構造の変化した間隙(亀裂)が形成される。この間隙領域が電子放出部5を構成する。尚、このフォーミングにより形成した間隙付近からも、所定の電圧下では電子放出が起こるが、この状態ではまだ電子放出効率が非常に低いものである。
【0052】
通電フォーミングの電圧波形の例を図8に示す。電圧波形は、特にパルス波形が好ましい。これにはパルス波高値を定電圧としたパルスを連続的に印加する図8(a)に示した手法と、パルス波高値を増加させながらパルスを印加する図8(b)に示した手法がある。
【0053】
まず、パルス波高値を定電圧とした場合について図8(a)で説明する。図8(a)におけるT1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔である。通常、T1は1μ秒〜10m秒、T2は10μ秒〜100m秒の範囲で設定される。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、電子放出素子の形態に応じて適宜選択される。このような条件のもと、例えば、数秒から数十分間電圧を印加する。パルス波形は、三角波に限定されるものではなく、矩形波等の所望の波形を採用することができる。
【0054】
次に、パルス波高値を増加させながら電圧パルスを印加する場合について図8(b)で説明する。図8(b)におけるT1及びT2は、図8(a)に示したのと同様とすることができる。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度づつ、増加させることができる。
【0055】
通電フォーミング処理の終了は、パルス電圧印加中の素子に流れる電流を測定して抵抗値を求めて、例えば1MΩ以上の抵抗を示した時に通電フォーミングを終了させることができる。
【0056】
このフォーミング処理後の状態では電子発生効率は非常に低いものである。よって電子放出効率を上げるために、上記素子に活性化と呼ばれる処理を行うことが望ましい。
【0057】
この活性化処理は、有機化合物が存在する適当な真空度のもとで、パルス電圧を素子電極2,3間に繰り返し印加することによって行うことができる。そして炭素原子を含むガスを導入し、それに由来する炭素あるいは炭素化合物を、前記間隙(亀裂)近傍にカーボン膜として堆積させる。
【0058】
本工程の一例を説明すると、例えばカーボン源としてトルニトリルを用い、スローリークバルブを通して真空空間内に導入し、1.3×10−4Pa程度を維持する。導入するトルニトリルの圧力は、真空装置の形状や真空装置に使用している部材等によって若干影響されるが、1×10−5Pa〜1×10−2Pa程度が好適である。
【0059】
図11に、活性化工程で用いられる電圧印加の好ましい一例を示した。印加する最大電圧値は、10〜20Vの範囲で適宜選択される。
【0060】
図11(a)に於いて、T1は電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。また、図11(b)に於いて、T1およびT1’はそれぞれ電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、T1>T1’、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。
【0061】
このとき、約60分後に放出電流Ieがほぼ飽和に達した時点で通電を停止し、スローリークバルブを閉め、活性化処理を終了する。
【0062】
以上の工程により図15に示したような電子放出素子を作製することができる。
【0063】
上述のような素子構成と製造方法によって作製された電子放出素子の基本特性について図9、図10を用いて説明する。
【0064】
図9は、前述した構成を有する電子放出素子の電子放出特性を測定するための測定評価装置の概略図である。図9において、51は素子に素子電圧Vfを印加するための電源、50は素子の電極部を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、54は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極、53はアノード電極54に電圧を印加するための高圧電源、52は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを測定するための電流計である。
【0065】
電子放出素子の素子電極2,3間を流れる素子電流If、及びアノードへの放出電流Ieの測定にあたっては、素子電極2,3に電源51と電流計50とを接続し、該電子放出素子の上方に電源53と電流計52とを接続したアノード電極54を配置している。
【0066】
また、本電子放出素子およびアノード電極54は真空装置55内に設置され、その真空装置には排気ポンプ56および真空計等の真空装置に必要な機器が具備されており、所望の真空下で本素子の測定評価を行えるようになっている。なお、アノード電極54の電圧は1kV〜10kV、アノード電極と電子放出素子との距離Hは2mm〜8mmの範囲で測定した。
【0067】
図9に示した測定評価装置により測定された放出電流Ieおよび素子電流Ifと素子電圧Vfの関係の典型的な例を図10に示す。なお、放出電流Ieと素子電流Ifは大きさが著しく異なるが、図10ではIf、Ieの変化の定性的な比較検討のために、リニアスケールで縦軸を任意単位で表記した。
【0068】
本電子放出素子は放出電流Ieに対する三つの特徴を有する。
【0069】
まず第一に、図10からも明らかなように、本素子はある電圧(しきい値電圧と呼ぶ、図10中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。すなわち、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子としての特性を示しているのが判る。
【0070】
第二に、放出電流Ieが素子電圧Vfに依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
【0071】
第三に、アノード電極54に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。すなわち、アノード電極54に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
【0072】
次に、本発明に係る電子源基板及び画像形成装置について説明する。
【0073】
本発明の電子源基板の基本構成としては、図2に例示したような構成が挙げられる。
【0074】
本発明の電子源基板は、基板21上に、複数のY方向配線(下配線)24と、この列方向配線24の上に絶縁層25を介して複数のX方向配線(上配線)26が形成され、該両方向配線の交差部近傍にそれぞれ、電極対(素子電極2,3)を含む電子放出素子が配設されているものであり、特に、図2に示されるように素子電極2,3の対向する間隙部分がY方向配線(下配線)と略平行に配置されているものである。
【0075】
本発明の一実施形態に係る電子源基板における特徴を図1を参照して説明すると、発光材料が形成された透明基板と対向配置することによって表示パネルを構成する際、発光材料が形成された領域に対向する表示領域内においては所望のY方向配線の高さを確保し、表示領域内外ともにエッジカール・アンダーカット及びサイドクラックがないマトリクス配線を有する点である。これは電子放出素子形成部を除き、素子電極およびマトリクス配線の下に下地層として酸化物ガラス層を有することによって実現している。
【0076】
上記のような下地層として酸化物ガラス層を有するマトリクス配線の具体的な形成方法は後述の実施例において詳しく説明するが、
酸化シリコン膜を形成した基板に、酸化鉛ガラスを含むペーストをパターン印刷し焼成して、軟化点が600℃以下の酸化鉛ガラス下地層を形成した後、通常の工程で電子源基板を形成する方法。
酸化シリコン膜を形成した基板に、酸化鉛ガラスを含む感光性ペーストをパターニングし焼成して、軟化点が600℃以下の酸化鉛ガラス下地層を形成した後、通常の工程で電子源基板を形成する方法。
が好適である。
【0077】
また、本発明の別の一実施形態に係る電子源基板における特徴を図1を参照して説明すると、発光材料が形成された領域に対向する表示領域内にのみ、電子放出素子形成部は除いて素子電極およびマトリクス配線の下に下地層として酸化物ガラス層を有する点である。
【0078】
上記のような下地層としての酸化物ガラス層の具体的な形成方法は後述の実施例において詳しく説明するが、基板に、酸化鉛ガラスを含む感光性ペーストを印刷しパターニング・焼成して、軟化点が600℃以下の酸化鉛ガラス下地層を形成した後、通常の工程で電子源基板を形成する方法。が好適である。
【0079】
以上のように電子放出素子形成部を除き下地層として酸化物ガラス層を形成した上に、素子電極およびマトリクス配線を形成することにより、表示領域内においては所望のY方向配線の高さを確保し、表示領域内外ともに配線のエッジカール・アンダーカット及びサイドクラックがない電子源基板を得ることができる。
【0080】
次に、上記のような単純マトリクス配置の電子源基板を用いた本発明の画像形成装置の一例について、図12を用いて説明する。
【0081】
図12において、21は上記の電子源基板、82はガラス基板83の内面に蛍光膜84とメタルバック85等が形成されたフェースプレート、86は支持枠である。電子源基板21、支持枠86及びフェースプレート82をフリットガラスによって接着し、400〜500℃で、10分以上焼成することで、封着して、外囲器90を構成する。
【0082】
尚、フェースプレート82と電子源基板21との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大面積パネルの場合にも大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器90を構成することもできる。
【0083】
図13はフェースプレート82上に設ける蛍光膜84の説明図である。蛍光膜84は、モノクロームの場合は蛍光体のみから成るが、カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体の配列によりブラックストライプあるいはブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電体91と蛍光体92とで構成される。ブラックストライプ、ブラックマトリクスが設けられる目的は、カラー表示の場合必要となる三原色蛍光体の、各蛍光体92間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜84における外光反射によるコントラストの低下を抑制することである。
【0084】
また、蛍光膜84の内面側には通常メタルバック85が設けられる。メタルバックの目的は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート82側へ鏡面反射することにより輝度を向上すること、電子ビーム加速電圧を印加するためのアノード電極として作用すること等である。メタルバックは、蛍光膜作製後、蛍光膜の内面側表面の平滑化処理(通常フィルミングと呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
【0085】
前述の封着を行う際、カラーの場合は各色蛍光体と電子放出素子とを対応させなくてはいけないため、上下基板の突き当て法などで十分な位置合わせを行う必要がある。
【0086】
封着時の真空度は10−5Pa程度の真空度が要求される他、外囲器90の封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行なう場合もある。これは、外囲器90の封止を行なう直前あるいは封止後に、抵抗加熱あるいは高周波加熱等の加熱法により、外囲器内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、真空度を維持するものである。
【0087】
この時、本発明の電子源基板では表示領域外の両方向引出し配線ともエッジカール及びサイドクラックを無くすことができるため、図16に示したようなリークパスの発生を防ぎ、真空信頼性の高い画像形成装置を実現できる。
【0088】
前述した本発明に係る表面伝導型電子放出素子の基本的特性によれば、電子放出部からの放出電子は、しきい値電圧以上では対向する電極間に印加するパルス状電圧の波高値と巾によって制御され、その中間値によっても電流量が制御され、もって中間調表示が可能になる。
【0089】
また多数の電子放出素子を配置した場合においては、各ラインの走査線信号によって選択ラインを決め、各情報信号ラインを通じて個々の素子に上記パルス状電圧を適宜印加すれば、任意の素子に適宜電圧を印加する事が可能となり、各素子をONすることができる。
【0090】
また中間調を有する入力信号に応じて電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式が挙げられる。
【0091】
以下に具体的な駆動装置について説明する。
【0092】
単純マトリクス配置の電子源基板を用いて構成した表示パネルを利用した、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示用の画像形成装置の構成例を、図14に示す。
【0093】
図14において、101は図12に示したような画像表示パネル、102は走査回路、103は制御回路、104はシフトレジスタ、105はラインメモリ、106は同期信号分離回路、107は情報信号発生器、Vaは直流電圧源である。
【0094】
電子源基板を用いた画像表示パネル101の行方向配線26には、走査線信号を印加するXドライバーの走査回路102が、列方向配線24には情報信号が印加されるYドライバーの情報信号発生器107が接続されている。
【0095】
電圧変調方式を実施するには、情報信号発生器107として、一定の長さの電圧パルスを発生するが入力されるデータに応じて、適宜パルスの波高値を変調するような回路を用いる。また、パルス幅変調方式を実施するには、情報信号発生器107としては、一定の波高値の電圧パルスを発生するが入力されるデータに応じて、適宜電圧パルスの幅を変調するような回路を用いる。
【0096】
制御回路103は、同期信号分離回路106より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscan,Tsft及びTmryの各制御信号を発生する。
【0097】
同期信号分離回路106は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から、同期信号成分と輝度信号成分とを分離するための回路である。この輝度信号成分は、同期信号に同期してシフトレジスタ104に入力される。
【0098】
シフトレジスタ104は、時系列的にシリアルに入力される前記輝度信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換して、制御回路103より送られるシフトクロックTsftに基づいて動作する。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分のデータ(電子放出素子n素子分の駆動データに相当)は、n個の並列信号として前記シフトレジスタ104より出力される。
【0099】
ラインメモリ105は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、記憶された内容は、情報信号発生器107に入力される。
【0100】
情報信号発生器107は、各々の輝度信号に応じて、電子放出素子の各々を適切に駆動する為の信号源であり、その出力信号は列方向配線24を通じて表示パネル101内に入り、走査回路102によって選択中の行方向配線26との交点にある各々の電子放出素子に印加される。
【0101】
行方向配線26を順次走査することによって、パネル全面の電子放出素子を駆動することが可能になる。
【0102】
以上のように本発明による画像形成装置において、各電子放出素子に両方向配線を通じ、電圧を印加することにより電子放出させ、直流電圧源Vaに接続された高圧端子Hvを通じ、アノード電極であるメタルバック85に高圧を印加し、発生した電子ビームを加速し、蛍光膜84に衝突させることによって、画像を表示することができる。
【0103】
この時、本発明の電子源基板では放出電子の軌道制御を良好に行えるように表示領域内において所望のY方向配線のエッジ高さを十分確保することができるため、発光効率の向上が図られ、長期にわたり高輝度な画像を表示することができる。
【0104】
ここで述べた画像形成装置の構成は、本発明の画像形成装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号についてはNTSC方式を挙げたが、入力信号はこれに限られるものではなく、PAL、HDTVなどでも同じである。
【0105】
(実施例)
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
[実施例1]
本実施例は、図2に示したような多数の表面伝導型電子放出素子をマトリクス配線接続してなる電子源基板を製造した例である。図2中、21は基板、2と3は素子電極、4は導電性膜(素子膜)、5は電子放出部、24はY方向配線(下配線)、25は絶縁層、26はX方向配線(上配線)である。
【0107】
尚、図2は電子源基板の表示領域内のみを示しており、実際に製造した電子源基板では図1に示したように、表示領域内に形成されたY方向配線24は表示領域外のY方向引出し配線12と接続され、同じくX方向配線26はX方向引出し配線11と接続されている。X方向配線26はパネル化した後走査電極として作用し、信号電極として作用するY方向配線24よりも低い配線抵抗を要求されるため、線幅を太くするか膜厚を厚くする設計がなされる。
【0108】
以下、本実施例の電子源基板の製造方法を、図1および図7等を参照しつつ説明する。
【0109】
(下地層の形成)
基板21としてアルカリ成分が少ないPD−200(旭硝子(株)製)の2.8mm厚ガラス上にナトリウムブロック層としてSiO膜100nmを塗付焼成したものを用いた。
【0110】
酸化鉛ガラス含有ペーストとしてはPbOを主成分としてSiO2、B2O3、Al2O3を微量含むペースト(ノリタケカンパニー社製;商品名NP7730)をスクリーン印刷し、乾燥後480℃で焼成する事により、電子放出素子形成部として200μm□の開口部を有する膜厚7μmの酸化鉛ガラス下地層を形成した。
【0111】
(素子電極の形成)
そして、この下地層を形成したガラス基板21上に、スパッタ法によってまず下引き層としてチタニウムTi(厚さ5nm)、その上にPt(厚さ40nm)を成膜した後、ホトレジストを塗布し、露光、現像、エッチングという一連のフォトリソグラフィー法によってパターニングして素子電極2,3を形成した(図3参照、下地層は不図示)。なお、本実施例では素子電極の間隔L=10μm、対向する長さW=100μmとした。
【0112】
(Y方向配線の形成)
共通配線としてのX方向配線26とY方向配線24の配線材料に関しては、多数の表面伝導型電子放出素子にほぼ均等な電圧が供給されるように低抵抗である事が望まれ、材料、膜厚、配線巾等が適宜設定される。
【0113】
信号配線としてのY方向配線(下配線)24は、フォトペースト材料を用いたフォトリソ法により、一方の素子電極3に接して、かつそれらを連結するようにライン状のパターンで形成した。材料には銀AgフォトぺーストインキDC−206(Dupont社製)を用い、スクリーン印刷した後、乾燥させてから所定のパターンに露光し、これを2回繰り返した後一括現像した。この後480℃前後の温度で焼成してY方向配線24を形成した(図4参照)。このY方向配線24の電子放出面からの高さは約15μm、線幅は約100μmである。
またこのとき図1−aに示すX・Y両方向の外部駆動回路との引出し配線も同時に形成した。配線のみの膜厚は10μm線幅は場所により異なるが100μm〜500μmである。
【0114】
(絶縁層の形成)
上下配線を絶縁するために、絶縁層25を形成する。後述のX方向配線(上配線)下に、先に形成したY方向配線(下配線)24との交差部を覆うように、かつX方向配線(上配線)と素子電極2との電気的接続が可能なように、各素子に対応した接続部にコンタクトホール27を開けて形成した(図5参照)。
【0115】
具体的には、PbOを主成分とする感光性のガラスペーストJ1345(Dupont社製)をスクリーン印刷した後、露光−現像した。これを4回繰り返し、最後に480℃前後の温度で焼成した。この絶縁層25の厚みは、全体で約30μmであり、幅は500μmである。
【0116】
(X方向配線の形成)
先に形成した絶縁層25の上に、Agぺーストインキをスクリーン印刷した後乾燥させ、この上に再度同様なことを行い2度塗りしてから、420℃前後の温度で焼成してX方向配線(上配線)26を形成した(図6参照)。X方向配線26は、絶縁層25を挟んでY方向配線24と交差しており、絶縁層25に設けたコンタクトホール27部分で素子電極22と接続されている。
【0117】
このX方向配線26はパネル化した後は走査電極として作用する。尚、X方向配線26の厚さは約15μm、線幅は450μmである。
【0118】
このように本実施例では、電子放出素子形成部を除き下地層として酸化鉛ガラス層を形成した上にマトリクス配線を形成する事により、表示領域内においては所望のY方向配線の高さを確保し、表示領域内外ともに配線のエッジカール・アンダーカット及びサイドクラックがないマトリクス配線を有する基板が形成された。
【0119】
(導電性膜の形成)
次に、上記基板を十分にクリーニングした後、撥水剤を含む溶液で表面を処理し、表面が疎水性になるようにした。これはこの後塗布する導電性膜形成用の水溶液が、素子電極上に適度な広がりをもって配置されるようにするためである。用いた撥水剤は、ジメチルジエトキシシランをスプレー法にて基板上に散布し、120℃にて温風乾燥した。
【0120】
その後、素子電極2,3間に導電性膜4を形成した。本工程を図7の模式図を用いて説明する。尚、基板21上における個々の素子電極の平面的ばらつきを補償するために、基板上の数箇所に於いてパターンの配置ずれを観測し、観測点間のポイントのずれ量は直線近似して位置補完し、導電性膜形成材料を塗付する事によって、全画素の位置ずれをなくして、対応した位置に的確に塗付するようにした。
【0121】
本実施例では、導電性膜4としてパラジウム膜を得る目的で、先ず水85:イソプロピルアルコール(IPA)15からなる水溶液に、パラジウム−プロリン錯体0.15重量%を溶解し、有機パラジウム含有溶液を得た。この他若干の添加剤を加えた。この溶液の液滴を、液滴付与手段71として、ピエゾ素子を用いたインクジェット噴射装置を用い、ドット径が60μmとなるように調整して素子電極間に付与した(図7(a))。
【0122】
その後、この基板を空気中にて、350℃で10分間の加熱焼成処理をして酸化パラジウム(PdO)からなる導電性膜4’が形成された(図7(b))。ドットの直径は約60μm、厚みは最大で10nmの膜が得られた。
【0123】
(フォーミング工程)
次に、フォーミングと呼ばれる本工程に於いて、上記導電性膜4’を通電処理して内部に亀裂を生じさせ、電子放出部5を形成する(図7(c))。
【0124】
具体的な方法は、上記基板21の周囲の引出し配線部を残して、基板全体を覆うようにフード状の蓋をかぶせて基板21との間で内部に真空空間を作り、外部電源よりこの引出し配線の端子部から両方向配線24,26間に電圧を印加し、素子電極2,3間に通電することによって、導電性膜4’を局所的に破壊、変形もしくは変質させることにより、電気的に高抵抗な状態の電子放出部5を形成する。
【0125】
この時若干の水素ガスを含む真空雰囲気下で通電加熱すると、水素によって還元が促進され酸化パラジウムPdOからなる導電性膜4’がパラジウムPdからなる導電性膜4に変化する。
【0126】
この変化時に膜の還元収縮によって、一部に亀裂(間隙)が生じるが、この亀裂発生位置、及びその形状は元の膜の均一性に大きく影響される。多数の素子の特性ばらつきを抑えるには、上記亀裂は導電性膜4の中央部に起こり、かつなるべく直線状になることがなによりも望ましい。
【0127】
なおこのフォーミングにより形成した亀裂付近からも、所定の電圧下では電子放出が起こるが、現状の条件ではまだ発生効率が非常に低いものである。
【0128】
また得られた導電性膜4の抵抗値Rsは、10から10Ωの値である。
【0129】
本実施例ではフォーミング処理に図8(b)に示した様なパルス波形を用い、T1を0.1msec、T2を50msecとした。印加した電圧は0.1Vから始めて5秒ごとに0.1Vステップ程度ずつ増加させた。通電フォーミング処理の終了は、パルス電圧印加時に素子に流れる電流を測定して抵抗値を求め、フォーミング処理前の抵抗に対して1000倍以上の抵抗を示した時点でフォーミングを終了した。
【0130】
(活性化工程)
前記のフォーミングと同様にフード状の蓋をかぶせて基板21との間で内部に真空空間を作り、外部から両方向配線24,26を通じてパルス電圧を素子電極2,3間に繰り返し印加することによって行う。そして炭素原子を含むガスを導入し、それに由来する炭素あるいは炭素化合物を、前記亀裂近傍にカーボン膜として堆積させる。
【0131】
本実施例ではカーボン源としてトリニトリルを用い、スローリークバルブを通して真空空間内に導入し、1.3×10−4Paを維持した。
【0132】
図11に、活性化工程で用いられる電圧印加の好ましい一例を示した。印加する最大電圧値は、10〜20Vの範囲で適宜選択される。
【0133】
図11(a)に於いて、T1は電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。また、図11(b)に於いて、T1およびT1’はそれぞれ電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、T1>T1’、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。
【0134】
このとき、素子電極3に与える電圧を正としており、素子電流Ifは、素子電極3から素子電極2へ流れる方向が正である。約60分後に放出電流Ieがほぼ飽和に達した時点で通電を停止し、スローリークバルブを閉め、活性化処理を終了した。
【0135】
以上の工程で、基板上に多数の電子放出素子をマトリクス配線接続してなる電子源基板を作製することができた。
【0136】
(電子源基板の特性評価)
上述のような素子構成と製造方法によって作製された電子源基板の電子放出特性を、図9に示したような装置を用いて測定した。その結果、素子電極間に印加する電圧12Vにおける放出電流Ieを測定したところ平均0.6μA、電子放出効率は平均0.15%を得た。また素子間の均一性もよく、各素子間でのIeのばらつきは5%と良好であった。
【0137】
次に、以上のようにして製造した単純マトリクス配置の電子源基板を用いて図12に示したような画像形成装置(表示パネル)を製造した。尚、図12は内部を表現するために部分的に切り欠いて表している。
【0138】
本実施例では、電子源基板21、支持枠86及びフェースプレート82をフリットガラスによって接着し、480℃で、30分焼成することで、封着して、外囲器90を得た。
【0139】
尚、この一連の工程を全て真空チャンバー中で行うことで、同時に外囲器90内部を最初から真空にすることが可能となり、かつ工程もシンプルにすることができた。
【0140】
このようにして図12に示されるような表示パネルを製造し、図14の走査回路・制御回路・変調回路・直流電圧源などからなる駆動回路を接続し、パネル状の画像表示装置を製造した。
【0141】
以上のようにして製造した画像表示装置において、X方向端子とY方向端子を通じて、各電子放出素子に時分割で所定電圧を印加することにより電子放出させ、高圧端子Hvを通じ、アノード電極であるメタルバック85に高圧を印加し、発生した電子ビームを加速し、蛍光膜84に衝突させることによって、画像を表示した。
【0142】
本実施例では、ライン状の電子放出部5と略平行に配置されているY方向配線24の高さを十分確保して放出電子の軌道制御を良好に行えるため、発光効率が高く、また、表示領域外のXY両方向配線(引出し配線11,12)の断面が基板と形成する平均角度が鋭角となるようにしたことにより、表示領域外において両方向配線ともエッジカール及びサイドクラックが発生しておらず、真空信頼性の高い画像形成装置が得られた。
【0143】
以上述べた電子源基板の製造方法とその画像形成装置への応用によれば、マトリクス配線の欠陥を抑制するとともに、画像形成装置の発光効率・信頼性向上を実現しつつ、電子源基板の素子作成工程及びこれを用いた画像形成装置の真空信頼性の向上を実現し、大型でより高品位な画像を得られるようになった。
【0144】
[実施例2]
本実施例では酸化物ガラス下引き層として酸化鉛ガラスを含む感光性ペーストをパターニングし焼成して形成した。これにより電子放出素子形成部がコンパクトにできる為、マトリクス配線の高密度化が達成されている。この点以外は実施例1と同様である。以下に酸化物ガラス下引き層形成から配線形成部分のみ説明する。
【0145】
(下地層の形成)
基板21としてアルカリ成分が少ないPD−200(旭硝子(株)製)の2.8mm厚ガラス上にナトリウムブロック層としてSiO膜100nmを塗付焼成したものを用いた。
【0146】
絶縁層形成と同様のプロセスである。PbOを主成分とする感光性のガラスペーストJ1345(Dupont社製)をスクリーン印刷した後、露光−現像した。これを480℃前後の温度で焼成し7μmの酸化鉛下地層を形成した。
【0147】
(Y方向配線の形成)
Y方向配線(下配線)24は、フォトペースト材料を用いたフォトリソ法により、一方の素子電極3に接して、かつそれらを連結するようにライン状のパターンで形成した。材料には銀AgフォトぺーストインキDC−206(Dupont社製)を用い、スクリーン印刷した後、乾燥させてから所定のパターンに露光し、これを2回繰り返した後一括現像した。この後480℃前後の温度で焼成してY方向配線24を形成した(図4参照)。このY方向配線24の電子放出面からの高さは約15μm、線幅は約50μmである。
【0148】
また、このY方向配線の形成と同時に、図1に示すX・Y両方向引出し配線11,12も形成した。X・Y両方向引出し配線11,12の配線のみの膜厚は10μm線幅は場所により異なるが60μm〜300μmである。但し、配線のパターニング後、感光性アクリル樹脂を用い表示領域外に部分コーティングし、配線と同時に焼成した。
【0149】
(絶縁層の形成)
上下配線を絶縁するために、絶縁層25を形成する。後述のX方向配線(上配線)下に、先に形成したY方向配線(下配線)24との交差部を覆うように、かつX方向配線(上配線)と素子電極2との電気的接続が可能なように、各素子に対応した接続部にコンタクトホール27を開けて形成した(図5参照)。
【0150】
具体的には、PbOを主成分とする感光性のガラスペーストJ1345(Dupont社製)をスクリーン印刷した後、露光−現像した。これを4回繰り返し、最後に480℃前後の温度で焼成した。この絶縁層25の厚みは、全体で約30μmであり、幅は500μmである。
【0151】
(X方向配線の形成)
先に形成した絶縁層25の上に、Agぺーストインキをスクリーン印刷した後乾燥させ、この上に再度同様なことを行い2度塗りしてから、420℃前後の温度で焼成してX方向配線(上配線)26を形成した(図6参照)。X方向配線26は、絶縁層25を挟んでY方向配線24と交差しており、絶縁層25に設けたコンタクトホール27部分で素子電極22と接続されている。このX方向配線26の厚さは約15μm、線幅は450μmである。
【0152】
このように本実施例では電子放出素子形成部を除き下地層として、酸化鉛ガラス含有感光性ペーストを用いて酸化鉛ガラス層を形成した上にマトリクス配線を形成する事により、表示領域内においては所望のY方向配線の高さを確保し、表示領域内外ともに配線のエッジカール・アンダーカット及びサイドクラックがない高密度なマトリクス配線を有する基板が形成された。
【0153】
本実施例の電子源基板においても、実施例1と同様にマトリクス配線の欠陥を抑制するとともに、画像形成装置の発光効率・信頼性向上を実現しつつ、電子源基板の素子作成工程及びこれを用いた画像形成装置の真空信頼性の向上を実現でき、それに加え、外部駆動回路と接続される引出し配線部分も高密度にして、画像表示領域に対する外形をよりコンパクトにすることができた。
【0154】
[実施例3]
本実施例では表示領域の内側においてのみ、電子放出素子形成部を除いて酸化物ガラス層を形成した。これにより表示領域外の取り出し端子部が厚膜化できる為、配線抵抗を低減しマトリクス配線の高密度化が達成されている。
【0155】
これらの点以外は実施例1と同様である。以下に酸化物ガラス下引き層形成から配線形成部分のみ説明する。
【0156】
(下地層の形成)
基板21としてアルカリ成分が少ないPD−200(旭硝子(株)製)の2.8mm厚ガラス上にナトリウムブロック層としてSiO膜100nmを塗付焼成したものを用いた。
【0157】
絶縁層形成と同様のプロセスである。PbOを主成分とする感光性のガラスペーストJ1345(Dupont社製)をスクリーン印刷した後、露光−現像し表示領域内にのみパターンを形成し、これを480℃前後の温度で焼成した。焼成後の膜厚は5μmであり、電子放出素子形成部のサイズは150μm□、開口部の間隔は55μmである。
【0158】
(素子電極の形成)
そして、この下地層を形成したガラス基板21上に、スパッタ法によってまず下引き層としてチタニウムTi(厚さ5nm)、その上にPt(厚さ40nm)を成膜した後、ホトレジストを塗布し、露光、現像、エッチングという一連のフォトリソグラフィー法によってパターニングして素子電極2,3を形成した(図3参照、下地層は不図示)。なお、本実施例では素子電極の間隔L=10μm、対向する長さW=100μmとした。
【0159】
(Y方向配線の形成)
共通配線としてのX方向配線26とY方向配線24の配線材料に関しては、多数の表面伝導型電子放出素子にほぼ均等な電圧が供給されるように低抵抗である事が望まれ、材料、膜厚、配線巾等が適宜設定される。
【0160】
信号配線としてのY方向配線(下配線)24は、フォトペースト材料を用いたフォトリソ法により、一方の素子電極3に接して、かつそれらを連結するようにライン状のパターンで形成した。材料には銀AgフォトぺーストインキDC−206(Dupont社製)を用い、スクリーン印刷した後、乾燥させてから、所定のパターンに露光した。さらに後述の引き出し配線部を形成するために重ねてペーストを塗布し露光せずに一括現像という処理を行った。この後480℃前後の温度で焼成してY方向配線24を形成した(図4参照)。このY方向配線24の高さは電子放出面から15μm、線幅は約50μmである。
【0161】
またこのとき図1−aに示すX・Y両方向の外部駆動回路との引出し配線も同時に形成した。この引き出し配線部は、前述のように塗布−乾燥−露光を2回繰り返したのち一括現像−焼成することによって表示領域内よりも膜厚を厚く形成した。この配線の膜厚は12μm、線幅は場所により異なるが60μm〜300μmである。
【0162】
(絶縁層の形成)
上下配線を絶縁するために、絶縁層25を形成する。後述のX方向配線(上配線)下に、先に形成したY方向配線(下配線)24との交差部を覆うように、かつX方向配線(上配線)と素子電極2との電気的接続が可能なように、各素子に対応した接続部にコンタクトホール27を開けて形成した(図5参照)。
【0163】
具体的には、PbOを主成分とする感光性のガラスペーストJ1345(Dupont社製)をスクリーン印刷した後、露光−現像した。これを4回繰り返し、最後に480℃前後の温度で焼成した。この絶縁層25の厚みは、全体で約30μmであり、幅は500μmである。
【0164】
(X方向配線の形成)
先に形成した絶縁層25の上に、Agぺーストインキをスクリーン印刷した後乾燥させ、この上に再度同様なことを行い2度塗りしてから、420℃前後の温度で焼成してX方向配線(上配線)26を形成した(図6参照)。X方向配線26は、絶縁層25を挟んでY方向配線24と交差しており、絶縁層25に設けたコンタクトホール27部分で素子電極22と接続されている。
【0165】
このX方向配線26はパネル化した後は走査電極として作用する。尚、X方向配線26の厚さは約15μm、線幅は450μmである。
である。
【0166】
このように本実施例では、表示領域の内側にだけ電子放出素子形成部を除いて酸化鉛ガラス層を形成した上にマトリクス配線を形成する事により、表示領域外では配線端子部の膜厚を厚くして配線抵抗を低減し、表示領域内においては所望のY方向配線の高さを確保し、エッジカール・アンダーカット及びサイドクラックがないマトリクス配線を有する基板が形成された。
【0167】
これを用いた画像形成装置の真空信頼性の向上を実現しながら、高信頼・高品質かつコンパクトな画像形成装置を実現することができた。
【0168】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電極基板によれば、下地層として酸化物ガラス層を形成した上に、電極および配線を形成することにより、配線の欠陥および素子部への銀の拡散が抑制され、表示領域内においては配線の高さを補正し、表示領域内外ともに配線のエッジカール・アンダーカット及びサイドクラックがない電子源基板を実現できる。
【0169】
そして、かかる電子源基板を用いた画像形成装置においては、素子特性および生産性の向上と共に、真空信頼性の高い画像形成装置を実現でき、より高密度な画素配列による高品位な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子源基板の配線構成を説明する為の模式的平面図である。
【図2】電子源基板の表示領域における基本的構成を示す平面図である。
【図3】図2の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図4】図2の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図5】図2の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図6】図2の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図7】図2の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図8】フォーミング電圧の例を示す図である。
【図9】本発明に係る電子放出素子の特性を測定するための装置を模式的に示す図である。
【図10】本発明に係る表面伝導型電子放出素子の素子電流及び放出電流と素子電圧との関係を示す図である。
【図11】活性化電圧の例を示す図である。
【図12】本発明に係る画像形成装置の一構成例を模式的に示す斜視図である。
【図13】本発明に係る画像形成装置における蛍光膜の例を模式的に示す図である。
【図14】本発明に係る画像形成装置の駆動回路図である。
【図15】表面伝導型電子放出素子の一構成例を示す模式図である。
【図16】リークパスの形成とその原因を示す模式図である。
【図17】本発明の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図18】本発明の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図19】本発明の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図20】本発明の電子源基板の製造工程を説明するための図である。
【図21】配線エッジのアンダーカットを示す断面写真である。
【図22】銀拡散改善効果を示す比較図である。
【図23】クロスショート部の気泡を示す断面写真である。
【図24】酸化物ガラス下地層の効果を示す断面写真である。
【符号の説明】
1 基板
2 素子電極
3 素子電極
4 導電性膜(素子膜)
5 電子放出部
11 X方向引出し配線
12 Y方向引出し配線
13 真空容器形成用部材(封着部材)
21 基板(電子源基板)
22 酸化物ガラス下引き層
24 Y方向配線
25 絶縁層
26 X方向配線
27 コンタクトホール
28 電子放出素子形成部
50 素子電流Ifを測定するための電流計
51 素子に素子電圧Vfを印加するための電源
52 放出電流Ieを測定するための電流計
53 アノード電極に電圧を印加するための高圧電源
54 放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極
55 真空装置
56 排気ポンプ
71 液滴付与手段
82 フェースプレート
83 ガラス基板
84 蛍光膜
85 メタルバック
86 支持枠
90 外囲器(表示パネル)
91 黒色導電体
92 蛍光体
101 表示パネル
102 走査回路
103 制御回路
104 シフトレジスタ
105 ラインメモリ
106 同期信号分離回路
107 情報信号発生器
122 リークパス
123 真空容器形成用絶縁層
124 マウスホール
125 フリットシール(フリットガラス)
126 サイドクラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性導電ペーストを焼成して得られる配線の下に、この配線となじみのいい下地層を配置したことを特徴とする配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項2】
下地層が配線と共拡散する事を特徴とする請求項1記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項3】
下地層に対して配線のバインダーガラスが軟化時に良く濡れることを特徴とする請求項1記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項4】
下地層の軟化点が配線のバインダーガラスの軟化点よりも高いことを特徴とする請求項1記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項5】
下地層が酸化物ガラスであることを特徴とする請求項2−4記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項6】
酸化物ガラスの主成分が酸化鉛であることを特徴とする請求項5記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項7】
酸化物ガラスの副成分がルテニウムを含む酸化物であることを特徴とする請求項5ないし6記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項8】
下地層が複数の酸化物ガラスからなることを特徴とする請求項2−4記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項9】
下地層の軟化点が異なる複数の酸化物ガラスの少なくとも一つの軟化点が、配線のバインダーガラスの軟化点よりも高いことを特徴とする請求項7記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項10】
酸化物ガラスの主成分が軟化点の異なる複数の酸化鉛であることを特徴とする請求項8記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項11】
下地層の軟化点が異なる複数の酸化物ガラスの少なくとも一つの軟化点が、配線のバインダーガラスの軟化点よりも高く、かつ配線の焼成温度よりも高いことを特徴とする請求項7−9記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。
【請求項12】
下地層が感光性ペーストを塗布、焼成した酸化物ガラスであることを特徴とする請求項1記載の配線構造、この配線構造を有する配線基板及びこれを用いた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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