配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法
【課題】 配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止可能な最適な整定値を導出することを目的とする。
【解決手段】
配電用変圧器110と、複数の高圧配電線120と、複数のセンサ130と、複数の変圧器と、を備える本発明の配電系統システム100は、配電用変圧器におけるバンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を、複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出する整定値導出装置140と、導出された整定値によって形成される整定曲線を用いて、配電用変圧器に、バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる電圧制御装置150と、をさらに備えることを特徴としている。
【解決手段】
配電用変圧器110と、複数の高圧配電線120と、複数のセンサ130と、複数の変圧器と、を備える本発明の配電系統システム100は、配電用変圧器におけるバンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を、複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出する整定値導出装置140と、導出された整定値によって形成される整定曲線を用いて、配電用変圧器に、バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる電圧制御装置150と、をさらに備えることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LDC(Line Drop Compensator)方式における最適な整定値を導出する配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電用変電所における送出電圧の調整方法には、目標とする送出電圧を負荷電流に応じて自動的に調整するLDC方式と、時間の経過に応じて予め定められた送出電圧を出力する電圧指定時間スケジュール方式(プログラムコントロール方式ともいう。)とがある。
【0003】
LDC方式では、配電用変電所における負荷時タップ切替変圧器(Load Ratio control Transformer、以下LRTと略記する。)を通過するバンク送出電流の大きさに比例させて、LRTの2次側における送出電圧を調整することで、配電系統全体における電圧降下を補償する。従って、LDC方式では、LRTより下流の全電気系統の電圧を一括して制御することとなる。このようなLDC方式の概念を図12および図13を用いて説明する。
【0004】
図12は、配電系統システム10の概略的な構成を示した構成図である。配電系統システム10では、LRTから高圧配電線による複数の配電系統(系統A、系統B、系統C、系統D、系統E、系統F)が分岐し、それぞれの高圧配電線上に、配置を異にして(例えば、A1、A2…となる配置)変圧器が接続される。各配電系統では、LRTからの距離に応じて電圧降下が生じるので、変圧比の異なるタップ区間(a、b、c)が設けられており、この変圧比によって、変圧器の低圧配電線への出力を図12の下側に示したような適正範囲内に収めている。ここでは、適正範囲として101V±6Vを示しているが、低圧配電線における電圧降下や変動幅を考慮すると、変圧器近傍の目標値は少々高めに設定される。
【0005】
図13は、上述した配電系統システム10にLDC方式を採用した場合の送出電圧制御を説明するための説明図である。LDC方式では、LRTを通過するバンク送出電流を計器用変流器(CT:Current Transformer)で検出し、そのバンク送出電流から送出電圧を計算してリレーRyを通じて送出電圧を変える。かかるバンク送出電流と送出電圧とは、以下の整定曲線の関係を有する。
【数1】
【0006】
この整定曲線は、図13の左側に表される。かかるLDC方式は、図13の右側の、距離と電圧との関係に示されるように、受電側の任意の点を負荷中心点とし、その負荷中心点の電圧を所定値に維持することを目的としているので、負荷が増加、即ち、バンク送出電流が増加すると、送出電圧が高くなるように制御される。実際の運用においては、送出電圧がタップによって段階的に切り替えられるため、図13に示すように、タップ間隔分の電圧に相当する負荷の上昇に応じて送出電圧が上昇することになる。また、負荷が減少するときも送出電圧は段階的に変化することとなる。上記数式3の上下電圧の飽和点(図13における((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))の値)を整定値という。
【0007】
配電系統システム10の電力は、需用者の受電点においてどのような利用のされ方をするか予測不能であるが、あらゆる受電点での電圧を適正範囲内に収めるため、上記整定曲線の設定は極めて慎重に行わなければならない。例えば、従来から知られている非特許文献1に記載された方法によって整定曲線を算出することができる。
【0008】
かかる非特許文献1によると、任意時刻における望ましい送出電圧VS(t)は、
【数2】
となる。ここで、第1項は高圧配電線の平均電圧降下を、第2項は低圧配電線の平均電圧を高圧配電線側に換算した値を、第3項はタップ使用による補正項を示している。この式は、高圧配電線上で均一に電圧降下する点に設けられた変圧器を介して低電圧に変換された低圧配電線上でさらに均一に電圧降下する点の需要家端の電圧を101Vにすることを目的とし、現実にはあり得ない理想的な状況における送出電圧を算出している。
【0009】
また、近年では、簡素化された、
【数3】
の式が用いられ、重負荷時、軽負荷時における高圧配電線電圧降下DP、任意のタップ区間における電灯変圧器の台数TP、任意のタップ区間における電灯変圧器の巻線比NP、j配電線の負荷電流(ピーク時を1とし各時刻を小数表示したもの)Ij(t)、任意の時刻に基準とすべき2次誘起電圧viさえ分かれば、送出電圧を算出することができる。
【0010】
望ましい送出電圧とバンク送出電流との関係は、配電系統システムの各点における負荷曲線が相違することを原因として、一般的には直線とならない。しかし、数式3として示した線形制御によっても送出電圧を制御できることが知られている。このような従来の線形制御では、理想とする受電点(負荷中心点)での電圧を101Vとして、低圧配電線の電圧降下、変圧器の内部電圧降下を加味した高圧配電線側換算値と、高圧線における電圧降下を加味した高圧電圧との差(偏差二乗和)が最小となるように送出電圧を整定していた。
【非特許文献1】「配電線の電圧調整と管理」、昭和43年12月、電気協同研究第24巻第4号、社団法人電気協同研究会(特にP.23〜P.25、P80〜P.82)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、送出電圧は季節等の環境にも大きく依存するため、その整定には1年分のデータが必要となり、膨大な計算量となってしまう。
【0012】
また、数式5で示した簡素化された送出電圧は、「各高圧配電線の各タップ区間内においては、各負荷(電灯および高低圧電力)は高低圧幹線上に平等に分布している。」、「高圧幹線には、各タップ区間内において、同一太さの電線が使用されている。」、「高圧幹線上の各部の電流特性は高圧配電線ごとにそれぞれ同一である。」、「高圧幹線上の各時刻における力率は、高圧配電線ごとにそれぞれ同一である。」、「1台の電灯変圧器とそれに属する低圧線の電流特性力率は一致している。」といった理想的な環境を条件としている。
【0013】
即ち、従来の送出電圧は、想定する配電線(高圧配電線)の数に拘わらず単純化された1つの配電線モデルを用いて計算されたものであり、各点の目標値からの電圧偏差が最小になる理想値を導出したものである。このような簡素化した式が用いられているのは、本来パラメータとして参照すべき各配電線の個々の電圧が、測定値であっても計算値であってもそのデータ量が膨大となるため、考慮することができないという事情からきている。従って、理想の配電系統システムを前提とした上記の送出電圧と、実際の配電系統システムにおける送出電圧では隔たりが生じ、実際の運用時にはその隔たり分だけ送出電圧の補正を行う必要があった。
【0014】
また、配電系統の各点における電圧の測定値をそのまま採用し、シミュレーション手法によって求める方法も提案されているが、依然として、確立された方法として採用されるレベルには至っていない。近年、分散型電源の系統連系数の増加等配電系統を取り巻く環境は大きく変化しており、分散型電源からの逆潮流の影響を考慮しなければならなくなった等、送出電圧制御は益々複雑化する傾向にある。
【0015】
一方、配電系統における開閉器には、高圧配電系統の任意の地点における電圧や電流の実態を把握するため、その実測値を検出するセンサが内蔵されつつあり(以下、センサが内蔵された開閉器(高圧開閉器)をセンサ内蔵開閉器と呼ぶ。)、高圧配電系統の各地点の電圧や電流の時間推移等も容易に得ることができるようになってきた。このように、配電系統における電圧の実測値を統計的に収集できる状況になったので、後はその膨大な情報を効率的に処理する手法さえ確立すれば、LDC方法における最適な整定値が導出できるということになる。
【0016】
本発明は、従来の配電系統システムにおける上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、運用上の補正を要さず、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止可能な最適な整定値を導出できる、新規かつ改良された配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、配電用変圧器と、配電用変圧器に接続された複数の高圧配電線と、高圧配電線の線路上に配置される複数のセンサと、高圧配電線の線路上に配置され高圧配電線の電力を変成して低圧配電線に供給する複数の変圧器と、を備える配電系統システムであって、配電用変圧器におけるバンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線
【数4】
の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を、複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出する整定値導出装置と、導出された整定値によって形成される整定曲線を用いて、配電用変圧器に、バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる電圧制御装置と、をさらに備えることを特徴とする、配電系統システムが提供される。上記センサは、高圧配電線の線路上に配置される開閉器に内蔵されてもよい。
【0018】
本発明では、配電系統システムにおける電圧の実測値を統計的に収集できる状況になったという背景をもとに、今までのような理想的な変圧器の配置による単純化された配電線モデルではなく、高圧配電系統の任意の地点の実測値を用いて整定値を導出している。従って、現実に沿った送出電圧を配電系統に供給することができ、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる。
【0019】
整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とすることができる。
【0020】
本発明では、相異する所定数の整定値候補それぞれを評価関数で評価して、整定値を導き出す。かかる評価には、配電系統システムの各点における実測値が用いられるので、実際の運用にあった妥当な整定値を導出することが可能となる。
【0021】
上記評価関数は、複数のセンサの実測値が、評価対象となる整定値候補と配電用変圧器のバンク送出電流の実測値とを整定曲線に当て嵌めて計算される、各センサ位置における電圧の適正上限値と適正下限値との中央に位置する程度を表してもよい。この中央に位置する程度は、電圧の適正上限値および適正下限値ぞれぞれと、複数のセンサの実測値との差の二乗和で表され、整定値導出装置は、評価関数の計算値が小さいほど良いと評価することができる。
【0022】
このように、評価関数は、任意の整定値候補を仮に採用した場合における電圧の適正上限値および適正下限値と、センサの実測値との位置関係を評価し、センサの実測値が適正上限値および適正下限値との間に適切に収まっている、即ち、センサの実測値が適正上限値および適正下限値のいずれにも偏らず、中央付近に位置していることで評価値を算出する。
【0023】
また、評価関数は、センサの実測値が、電圧の適正上限値および適正下限値を逸脱していた場合、その逸脱量も二乗和で加算されてもよい。
【0024】
ここでは、逸脱(電圧違反)があった場合のペナルティを課すことで、全体的に適正上限値および適正下限値に収まる整定値候補の評価を高くすることが可能となる。
【0025】
評価関数Fは、
【数5】
(ただし、αは電圧違反評価の重み付け計数、Vkjtはセンサjにおける時間断面tでのk相電圧、Vuj,Vdjは、センサjにおける電圧の適正上限値と適正下限値、Nはセンサjの総数、Tは時間断面の総数、β,γ,δ,εは、重み付け計数である。)であってもよい。
【0026】
かかる評価関数Fを用いることで、配電系統システム100の各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止する整定値を導出することが可能となる。
【0027】
整定値導出装置は、複数の整定値候補に対する評価関数による複数の評価値に基づいて、評価値が良くなる方向の新たな整定値候補を導出してもよい。
【0028】
かかる構成により、既に評価された整定値候補とその評価値に基づいて評価が良い方向を推測することができ、そのサンプル数が多ければ多いほど、高精度に新たな整定値候補を導出することが可能となる。
【0029】
整定値導出装置は、任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))をエージェントiの現在の位置ベクトルSi(k)とした場合に
【数6】
(ただし、w1、w2、w3は慣性定数、PBESTiはエージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値、GBESTは全エージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値である。)から新たな整定値候補Si(k+1)=(ICMIN_i+1,VCMIN_i+1)、(ICMAX_i+1,VCMAX_i+1)を求めることによって、繰り返し整定値候補を導出することができる。
【0030】
上記PSO(Particle Swarm Optimization)法を本発明の整定値生成に適用することにより、莫大なデータの中から効果的に最適整定値を絞り込むことができる。
【0031】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線
【数7】
の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出装置であって、整定値を、高圧配電線の線路上に配置された複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出することを特徴とする、整定値導出装置が提供される。
【0032】
また、上記課題を解決するために、本発明のさらに他の観点によれば、高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線
【数8】
の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出方法であって、整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とすることを特徴とする、整定値導出方法が提供される。
【0033】
上述した配電系統システムにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該整定値導出装置や整定値導出方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように本発明の配電系統システムによれば、最適な整定値が導出され、その最適な整定値を用いて送出電圧を制御することで、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0036】
上述したように、従来では、配電系統中の個々の点における電圧等を考慮せず、単純化した配電線モデルによって送出電圧を導出していたので、実際の配電系統システムでは電圧が逸脱する点が生じていた。本発明の実施形態においては、配電系統における各点、例えば、センサ内蔵開閉器における電圧の実測値を用いて、あらゆる点で適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能な送出電圧の導出を目的としている。
【0037】
図1は、本実施形態における配電系統システム100の概略的な構成を示した構成ブロック図である。かかる配電系統システム100は、配電用変圧器110と、高圧配電線120と、センサ内蔵開閉器130と、整定値導出装置140と、電圧制御装置150とからなる。
【0038】
上記配電用変圧器110は、例えば、負荷時タップ切替変圧器(Load Ratio control Transformer:LRT)等の、通電状態を維持したままで2次側の電圧(送出電圧)を変化させることが可能な変圧器である。
【0039】
上記高圧配電線120は、配電用変圧器110から放射状に分岐された複数の配電系統(Feeder)の配電線であり、例えば、6.6kVといった高電圧電力を送電する。
【0040】
上記センサ内蔵開閉器130は、高圧配電線120上に配置を異にして(例えば、A1、A2、…)接続され、高圧配電線120の電気的遮断または接続を行う。センサ内蔵開閉器130は、柱上に限らず、地上、地中に配される。また、本実施形態において、センサ内蔵開閉器130は、配電系統システム100の統計データを取得するためのセンサを内蔵し、そのセンサによって自己における電圧値を検出する。また、検出した電圧値を一定期間保持することもでき、例えば、30分間隔で1年間分の電圧値を自己の記録部に保持できる。
【0041】
本実施形態では、データ収集先のセンサとしてセンサ内蔵開閉器130のセンサを用いているが、かかる場合に限られず、高圧配電線120上のあらゆる電子機器に内蔵されるセンサを用いてもよいし、高圧配電線120上にデータ収集専用のセンサ機器を設けてもよい。また、以下で、センサ内蔵開閉器130の電圧と言った場合、そのセンサ内蔵開閉器130に内蔵されたセンサの測定電圧値を示す。
【0042】
また、高圧配電線120の線路上には、高圧配電線120の電力を変成して低圧配電線に供給する複数の変圧器(図示せず)を設けることもできる。当該配電系統システム100は、このような変圧器を通じた低圧配電線への出力またはさらにその先の受電点を101V±6Vの適正範囲に収めることを、最終的な目的としている。
【0043】
上記整定値導出装置140は、配電系統の任意の複数の点、本実施形態においては、センサ内蔵開閉器130における電流および電圧の実測値を収集して整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する。かかる整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))は、整定曲線
【数9】
の点のうち、電圧の上下限である任意の2点を示す。ここでIはバンク送出電流を、Vは送出電圧を示す。従って、かかる整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を代入した整定曲線は、
【数10】
となる。
【0044】
上記電圧制御装置150は、整定値導出装置140が導出した整定値によって形成される整定曲線を用いて、配電用変圧器110に、バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる。
【0045】
(評価関数F)
本実施形態では、配電系統システム100の各点における実測値を考慮した評価関数Fを用いて最適な整定値を導出する。具体的には、整定値導出装置140が、相異する多数の整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))を、配電用変圧器110のバンク送出電流Iの実測値と複数のセンサ内蔵開閉器130に設けられたセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とする。
【0046】
上記評価関数は、複数のセンサ内蔵開閉器130の実測値が、評価対象となる整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))と配電用変圧器110のバンク送出電流の実測値とを整定曲線に当て嵌めて計算される、各センサ位置における電圧の適正上限値と適正下限値との中央に位置する程度を表す。
【0047】
ここで、中央に位置する程度は、電圧の適正上限値および適正下限値ぞれぞれと、複数のセンサの実測値との差の二乗和で表され、整定値導出装置140は、評価関数の計算値が小さいほど良いと評価することができる。
【0048】
このように評価関数は、任意の整定値候補を仮に採用した場合における電圧の適正上限値および適正下限値と、センサ内蔵開閉器130の実測値との位置関係を評価し、センサ内蔵開閉器130の実測値が適正上限値および適正下限値との間に適切に収まっている、即ち、センサ内蔵開閉器130の実測値が適正上限値および適正下限値のいずれにも偏らず、中央付近に位置していることで評価値を算出する。
【0049】
また、評価関数は、センサ内蔵開閉器130の実測値が、電圧の適正上限値および適正下限値を逸脱していた場合、その逸脱量も二乗和で加算されてもよい。ここでは、逸脱(電圧違反)があった場合のペナルティを課すことで、全体的に適正上限値および適正下限値に収まる整定値候補の評価を高くすることが可能となる。
【0050】
上述した評価関数を具体的に数式で表現すると、評価関数Fは、
【数11】
と表すことができ、かかる評価関数Fでは、上述したようにその計算値が小さいほど評価が良いこととなる。本実施形態においては、上述した評価関数Fに、当該配電系統システム100の各点における1年間分の電圧および電流の実測値を用いる。
【0051】
ただし、評価関数F中に用いられる、αは電圧違反評価の重み付け計数、Vkjtはセンサ内蔵開閉器jにおける時間断面tでのk相電圧(ここでは、3相)であり、整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))およびバンク送出電流Iの実測値を数式6に代入して求まる値、Vuj,Vdjはセンサ内蔵開閉器jにおける電圧の適正上限値と適正下限値、Nはセンサ内蔵開閉器jの総数、Tは時間断面の総数(例えば、サンプリング間隔を30分とした場合に、1年間分のTは2×24時間×365日=17520となる。)、β,γ,δ,εは重み付け計数である。
【0052】
評価関数Fは、αEkjt2からなる第1項(電圧ペナルティ項)と、β(Vuj−Vkjt)2+γ(Vdj−Vkjt)2からなる第2項(電圧上下限値までの偏差)とで構成される。当該評価関数Fでは、電圧逸脱量Ekjtが適正範囲内に収まることを目的としているので、Ekjtが適正範囲に入らない場合には、相当の重みで評価を下げる。
【0053】
即ち、第1項は、全ての時間断面t、全てのセンサ内蔵開閉器j、3相kにおいてEkjtが適正範囲内であれば、その値は0となり、評価値には全く影響しない。一方、ある時間断面tにおいて、いずれかのセンサ内蔵開閉器jの少なくとも1つの相が適正範囲に収まらない場合、第1項において、Ekjtが2乗され、さらに重み付け計数αで乗算されるため、第1項は、非常に大きな値となり、評価値に大きく影響する。このとき、評価関数Fはほぼ第1項の計算結果に依存することとなり、第2項の値は評価値にほとんど影響しない。
【0054】
本実施形態における上記の評価関数Fでは、複数の配電線の電圧値が適正範囲から逸脱している場合や、特定の箇所においてやむを得ず適正範囲から逸脱してしまう場合、総合的にバランスのとれた送出電圧が設定される。従って、当該評価関数Fを用いると、任意の配電線1回線のみが大きく逸脱している場合、それを緩和するため、適正範囲内に入っている他の配電線路を少し逸脱させてでも、全体的なバランスを優先することとなる。
【0055】
また、Ekjtの重み付け係数δ,εは、高低いずれかの逸脱に対して大きなペナルティを与えることが可能である。適正範囲内から電圧の高い方向への逸脱に対してより大きなペナルティを与えるときはδを大きく、低い方向への逸脱に対してより大きなペナルティを与えるときはεを大きくする。このような重み付けを行わない場合は、δ=ε=1とする。かかるδ,εは、配電系統システム100の運用状況に応じて任意に設定することができる。
【0056】
第2項は、適正上下限値までの偏差を示し、全ての時間断面t、全てのセンサ内蔵開閉器j、3相kにおいてEkjtが適正範囲内であれば、第1項の値は0となるので、評価値は第2項の値により決定される。詳細には、(Vuj−Vkjt)は適正範囲の上限値Vujからの偏差を示し、(Vdj−Vkjt)は適正範囲の下限値Vdjからの偏差を示している。従って、(Vuj−Vkjt)2+(Vdj−Vkjt)2は適正範囲の中央に近づくほど小さい値をとることとなり、VkjtがVujとVdjとの中央に位置するとき、評価関数Fは最小の値になる。
【0057】
また、重み付け係数β,γは、電圧を適正範囲内で高めもしくは低めに維持するための重み付けが可能であり、β=γ=1の場合、Vkjtが適正範囲の中央に集まっているときに評価が良くなり、βが高い場合にはVkjtが高めのときに評価が良くなり、γが高い場合にはVkjtが低いときに評価が良くなる。従って、β=1、γ=0の場合、適正範囲内でもっとも高めの電圧が維持できる値が最適値となり、β=0、γ=1の場合、適正範囲内でもっとも低めの電圧が維持できる値が最適値となる。かかるβ,γは、δ,ε同様、配電系統システム100の運用状況に応じて任意に設定することができる。
【0058】
上記評価関数Fを用いることで、配電系統システム100の各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる最適な整定値を導出することができる。
【0059】
しかし、このような評価関数Fの下、最適な整定値を導出するためには、多数の整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))を代入する必要がある。しかし、整定値候補の4つのパラメータは無数の値をとることができ、その組み合わせまで考慮すると、その整定値候補は膨大な量になる。かといって、整定値候補の数を絞ると、数の減少に応じて、真に最適な整定値からずれてしまう可能性が高くなる。
【0060】
(最適化方法)
そこで、本実施形態においては、上記の評価関数に追加して、その整定値候補自体の生成にも新たな技術を導入する。例えば、複数の整定値候補に対する評価関数による複数の評価値に基づいて、評価値が良くなる方向の新たな整定値候補を導出する。
【0061】
かかる構成により、既に評価された整定値候補とその評価値に基づいて評価が良い方向を推測することができ、そのサンプル数が多ければ多いほど、高精度に新たな整定値候補を導出することが可能となる。ここでは、このような整定値候補の導出方法の一例として非線形最適化手法の一つであるPSO(Particle Swarm Optimization)法を用い、整定値候補の絞り込みを行う。
【0062】
かかるPSO法の基本的な考え方としては、まず、任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を位置ベクトルSi(k)とし、その位置ベクトルSi(k)をエージェントiに割り当てる。エージェントiは整定値導出装置140の計算能力に応じて1または複数で構成することができる。かかるエージェントiの位置ベクトルSi(k)を後述する方法で変更させ、変更後の位置ベクトルSi(k+1)を評価関数Fで評価する。このような位置ベクトルSi(k)の変更は所定回数繰り返される。その中で最も評価関数Fの計算値が小さかった整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))を最適な整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))とする。
【0063】
詳細に述べると、整定値導出装置140は、初期値として任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を適当に導出し、エージェントiの現在の位置ベクトルSi(k)とする。そして、位置ベクトルの更新式
【数12】
から新たな整定値候補Si(k+1)=(ICMIN_i+1,VCMIN_i+1)、(ICMAX_i+1,VCMAX_i+1)を求める。これを繰り返すことで、複数の整定値候補を自動的に生成すると共に、その整定値候補を最適な整定値に近づけることができる。ただし、PBESTiはSi(k)の更新中に評価関数Fが最小となったSi(k)の値、GBESTは評価関数Fが最小となったPBESTiの値、Randは0〜1の範囲で与えられる乱数である。
【0064】
かかるPSO法は、群知能の一種であり、鳥などの生物が群れで目標値に移動する様子を模擬した最適化手法である。この鳥を模擬した複数のエージェントiが自己に蓄積された情報と他のエージェントにより蓄積された情報とを基に整定値を探索する。
【0065】
これは多次元空間において、位置ベクトルと速度ベクトルを持つ粒子群でモデル化される。これらの粒子はハイパー空間を飛びまわり、評価関数Fが最良となる位置ベクトルを探す。群れのメンバは評価関数が最良となる位置ベクトルについて情報交換し、それに基づいて自己の位置ベクトルと速度ベクトルを調整する。
【0066】
図2は、PSO法の位置ベクトルSi(k)の推移を説明するための説明図である。ここでは、複数のエージェントiのうち、1つのエージェントiに着目してその動作を説明するが、他のエージェントiも同様に動作する。また、w1、w2、w3は慣性定数であり通常1より少し小さい値が選択されるが、ここでは、PSO法の理解を容易にするため、w1=w2=w3=1としている。
【0067】
まず、エージェントiは、整定値導出装置140によって適当に決められたSi(k)を自己の位置ベクトルとする。また、エージェントiは任意の速度ベクトルvi(k)も初期値として持っており、エージェントiはその速度で移動する予定である(vi(k+1)の第1項)。
【0068】
その速度ベクトルvi(k)に、エージェントiが今までに探索した、評価関数Fが最良となる位置ベクトルであるPBESTiとSi(k)との差分(線ベクトル)と、群れ全体で今までに探索した、評価関数Fが最良となる位置ベクトルであるGBESTとSi(k)との差分(線ベクトル)に、それぞれ乱数を乗じてできた合成ベクトルΔvi(k)(vi(k+1)の第2、3項)をさらに合成した速度ベクトルvi(k+1)が更新されたエージェントiの速度ベクトルとなる。そして、速度ベクトルvi(k+1)によりエージェントiの位置ベクトルがSi(k+1)に移動する。
【0069】
ここで、エージェントiが今までに探索した位置ベクトルPBESTiとSi(k)との差分(線ベクトル)に乱数を乗じたベクトルと、群れ全体で今までに探索した位置ベクトルGBESTとSi(k)との差分(線ベクトル)に乱数を乗じたベクトルとの合成ベクトルΔvi(k)は、図2においてハッチングされた平行四辺形の範囲内において、乱数に応じて様々なベクトルをとることができる。
【0070】
このようにSi(k)が更新される度に評価関数Fによる評価が行われ、エージェントiの今までに探索した、評価関数Fが最良となる位置ベクトルより良い位置ベクトルが見つかるとPBESTiが更新され、その値が群れ全体の最良の位置ベクトルであればGBESTも更新される。こうして、複数のエージェントiは相互に影響を受けつつ、最良の位置ベクトルを探索することができる。
【0071】
上記のPSO法によって整定値候補が変更される毎に上記数式1による評価関数Fで評価することで、エージェントiの最適な位置ベクトルSi(k)であるPBESTiおよび、全てのエージェントの最適な線ベクトルGBESTも導出および更新される。
【0072】
図3は、Si(k)の推移を示した説明図である。上述した数式2を更新していくと、整定値導出装置140が設定した整定値候補の初期値Si(0)が例えば図3中矢印で示された軌跡で推移し、所定回数M後には、最適値Si(M)となる。かかるPSO法により、無数の整定値候補を準備しなくても、所定回数、例えばM=200回といった変更で最適な整定値を導出することが可能となる。
【0073】
図4は、整定値導出計算における実際の整定値候補Si(k)の軌跡を示した説明図である。かかる図4によると、数式2によるSi(k)の計算が200回実行されており、様々な値をとりつつ最終的な値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))=((642.1,6645.3)、(1572.1,6797.8)に落ち着いている。このときエージェントiが複数あったとしても全てのエージェントiはかかる最適値に落ち着くことになる。
【0074】
図5は、整定値導出計算における評価関数Fの推移を示した説明図である。かかる図5によると、初期値Si(0)では、約15500であった評価関数Fの値が、反復回数15回目には996.0になり、125回目には、ほぼ最小の値988.4に到達している。従って、上記数式2による整定値候補Si(k)が最適となる方向に連続的に落ち着いていることが理解できる。ここでは、最適な整定値を導出するために、例えば200回の評価処理が繰り返されているが、かかる回数に限られず、例えば、評価関数Fの計算値の変動が所定幅以内になったら、その時点で計算を完了し、その値を整定値としてもよい。即ち整定値がある程度落ち着いたら以後の評価処理を省略することができる。
【0075】
数式5で示した従来の整定値の導出方法では、許容される適正範囲の中心の電圧を目標点としており、特性の異なる配電線について、許容範囲の上側や下側の様々な方向に電圧逸脱があった場合には送出電圧の設定がどっちつかずとなり、すべての配電線において逸脱が生じる可能性があった。
【0076】
PSO法を用いる本実施形態においては、更新された位置ベクトルSi(k)をその都度評価する評価関数Fにペナルティ項が設けられているため、送出電圧を最小限変更するだけで、図2中上側、下側のどちらに移動すればより大きな電圧改善効果が得られるかが判断され、その方向に位置ベクトルSi(k)が調整される。
【0077】
従って、配電系統システムの任意の配電路の逸脱が偶然大きくなったとしても、他のすべての線路は逸脱を免れることができる。また、逸脱が生じた点に関しては、SVR(Step Voltage Regulator)等の電圧調整装置を1台設置するだけでその後の逸脱を回避できる。即ち、すべての配電線で逸脱を防止することが可能となる。
【0078】
(整定値導出方法)
次に、上述した配電系統システム100における整定値の導出に至るまでの整定値導出装置140の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。
【0079】
図6は、整定値導出方法の全体的な処理の流れを示したフローチャートである。まず、整定値導出装置140は、整定値候補Si(k)の初期値Si(0)を適当に設定する(S200)。エージェントを複数設定する場合はその数分の初期値Si(0)を設定する。
【0080】
そして、評価関数Fのパラメータとして、各センサ内蔵開閉器130で実測された過去所定時間分の電圧値およびその電圧値に対応した配電用変圧器110のバンク送出電流を読み込み(S202)、そのパラメータを用いて、初期値Si(0)を数式1で示した評価関数Fで評価する(S204)。かかる評価値は、各エージェントiの最良の評価値PBESTiの初期値とし、全エージェントiの最良の評価値は、評価値GBESTの初期値とする(S206)。
【0081】
次に、整定値導出装置140は、新しい整定値候補Si(k+1)を数式2で示した更新式を用いて決定する(S208)。そして、決定された新たな整定値候補Si(k+1)を数式1で示した評価関数Fで評価し(S210)、各エージェントiにおける最良の評価値であれば、評価値PBESTiを更新し、併せて評価値GBESTも更新する(S212)。上述したPSO法は、個々のエージェントが探索した最良の解PBESTiと, そのエージェントが属するエージェント群の中での最良解GBESTから, 過去の探索履歴を考慮して連続変数の多峰性関数の大域的最適解、もしくは準最適解を求める手法なので、かかるPBESTiおよびGBESTはSi(k)の更新毎に行われる。
【0082】
続いて、整定値導出装置140は、上述した整定値候補Si(k+1)の更新および評価関数Fによる評価が規定回数(所定数)行われたかどうか判断し(S214)、規定回数に達していなければ、新しい整定値候補Si(k+1)決定処理(S208)に戻って処理を繰り返し、達していれば、当該整定値導出方法を終了する。このときの最終的な整定値候補Si(k+1)が目的とする整定値となる。
【0083】
(他の送出電圧制御方法との比較1)
以下、上述した整定値導出方法により導出された整定値を用いた送出電圧制御を、他の送出電圧制御方法と比較し、本実施形態による整定方法の有効性を述べる。
【0084】
図7は、電圧指定時間スケジュール方式と本実施形態の方法とを比較した送出電圧の時間変動を示した説明図である。本実施形態の方法による送出電圧と従来からの電圧指定時間スケジュール方式とを比較すると、同一時間においても図7に示したような送出電圧の違いが見られる。
【0085】
図8は、電圧指定時間スケジュール方式における任意の配電系統における各センサ内蔵開閉器130における電圧変動を示した説明図である。図8では、番号0のところが配電用変圧器110、即ち、送出電圧の供給を受けるところであり、センサ内蔵開閉器番号が大きくなるほど配電用変圧器110からの距離が遠いことになる。また、適正範囲の上限250および下限252がセンサ内蔵開閉器番号6と7との間で変化しているのは、タップ区間の切換地点を示し、かかる地点の前後でタップ変圧比が変化する。図8に示した配電系統では、電圧指定時間スケジュール方式における複数の配電系統のうち、センサ内蔵開閉器番号6において電圧が適正範囲を逸脱していることが把握できる。
【0086】
図9は、図8に示した配電系統における本実施形態の方法による電圧変動を示した説明図である。図9を参照すると、電圧が適正範囲を逸脱していたセンサ内蔵開閉器番号6においても適正範囲内で推移していることが確認できる。また、電圧指定時間スケジュール方式では、図8で示した電圧系統以外にも逸脱が確認されたが、本実施形態の方法では、かかる図9で示した電圧系統以外でも逸脱は確認されなかった。
【0087】
(他の送出電圧制御方法との比較2)
また、同一のLDC方式を用いて、従来の整定方法と、本実施形態の整定値方法とを比較し、本実施形態による整定方法の有効性を述べる。比較するための配電系統システムとして、図1に示したようなLRT1つ、配電系統6回線、1配電系統あたりのセンサ内蔵開閉器6つのモデルを用いて潮流計算した。また、適正電圧範囲は6600±126Vとし、センサ内蔵開閉器区間長はすべて0.5km(配電系統の亘長:3km)とし、線路インピーダンスは0.252+j0.348[Ω/km]とした。なお、不感帯幅(タップ間隔)は100Vとし、PSO法のエージェント数を100個、探索回数を100回とし、LDC整定値の探索範囲は、バンク送出電流400〜1200A、送出電圧6300〜6900Vと設定した。
【0088】
図10は、従来の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図であり、図11は、本実施形態の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図である。図10、11を比較した結果以下のように理解できる。即ち、整定値自体の違いから送出電圧の推移が相異し、系統Aの末端にあるセンサ内蔵開閉器A6では、どちらの方法でも線間電圧が適正範囲280内に収まっているが、系統Bの末端にあるセンサ内蔵開閉器B6では、線間電圧が従来の方法において適正範囲を逸脱しているのが把握できる。
【0089】
以上、他の整定方法との比較でも理解できるように、本実施形態による配電系統システムでは、最適な整定値が導出され、その最適な整定値を用いて送出電圧を制御することで、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる。
【0090】
(他の最適化方法)
また、最適な整定値を導出する最適化方法としては、上述したPSO法以外にも例えば、メタヒューリスティクス手法といった最適化手法をとることができる。かかるメタヒューリスティクス手法は、最適値に近い目的関数を有する近似最適解を経験や知識に基づいて、発見的に、かつ、高速に求める方法である。かかるメタヒューリスティクス手法はその設定するパラメータに応じて、遺伝的アルゴリズム(GA)、シミュレーテッド・アニーリング(SA)、タブーサーチ(TS)といった最適化手法に種別される。また、ここでは、PSO以外の最適化方法としてメタヒューリスティクス手法を挙げたが、かかる場合に限られず、当該配電系統システム100には、様々な手法を適用することができる。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0092】
また、自己の電圧等を検知できる機器として実施形態ではセンサ内蔵開閉器を挙げているが、実測値を検知できれば電力需要者の受電点等様々な点を評価対象とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、LDC方式における最適な整定値を導出する配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施形態における配電系統システムの概略的な構成を示した構成ブロック図である。
【図2】本実施形態におけるPSO法の整定値候補Si(k)の推移を説明するための説明図である。
【図3】本実施形態における整定値候補Si(k)の推移を示した説明図である。
【図4】本実施形態における整定値導出計算における実際の整定値候補Si(k)の軌跡を示した説明図である。
【図5】本実施形態における整定値導出計算における評価関数Fの推移を示した説明図である。
【図6】本実施形態における整定値導出方法の全体的な処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】本実施形態における電圧指定時間スケジュール方式と本実施形態の方法とを比較した送出電圧の時間変動を示した説明図である。
【図8】電圧指定時間スケジュール方式における任意の配電系統における各センサ内蔵開閉器における電圧変動を示した説明図である。
【図9】図8に示した配電系統における本実施形態の方法による電圧変動を示した説明図である。
【図10】従来の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図である。
【図11】本実施形態の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図である。
【図12】従来の配電系統システムの概略的な構成を示した構成図である。
【図13】従来の配電系統システムにLDC方式を採用した場合の送出電圧制御を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0095】
100 配電系統システム
110 配電用変圧器
120 高圧配電線
130 センサ内蔵開閉器
140 整定値導出装置
150 電圧制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、LDC(Line Drop Compensator)方式における最適な整定値を導出する配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電用変電所における送出電圧の調整方法には、目標とする送出電圧を負荷電流に応じて自動的に調整するLDC方式と、時間の経過に応じて予め定められた送出電圧を出力する電圧指定時間スケジュール方式(プログラムコントロール方式ともいう。)とがある。
【0003】
LDC方式では、配電用変電所における負荷時タップ切替変圧器(Load Ratio control Transformer、以下LRTと略記する。)を通過するバンク送出電流の大きさに比例させて、LRTの2次側における送出電圧を調整することで、配電系統全体における電圧降下を補償する。従って、LDC方式では、LRTより下流の全電気系統の電圧を一括して制御することとなる。このようなLDC方式の概念を図12および図13を用いて説明する。
【0004】
図12は、配電系統システム10の概略的な構成を示した構成図である。配電系統システム10では、LRTから高圧配電線による複数の配電系統(系統A、系統B、系統C、系統D、系統E、系統F)が分岐し、それぞれの高圧配電線上に、配置を異にして(例えば、A1、A2…となる配置)変圧器が接続される。各配電系統では、LRTからの距離に応じて電圧降下が生じるので、変圧比の異なるタップ区間(a、b、c)が設けられており、この変圧比によって、変圧器の低圧配電線への出力を図12の下側に示したような適正範囲内に収めている。ここでは、適正範囲として101V±6Vを示しているが、低圧配電線における電圧降下や変動幅を考慮すると、変圧器近傍の目標値は少々高めに設定される。
【0005】
図13は、上述した配電系統システム10にLDC方式を採用した場合の送出電圧制御を説明するための説明図である。LDC方式では、LRTを通過するバンク送出電流を計器用変流器(CT:Current Transformer)で検出し、そのバンク送出電流から送出電圧を計算してリレーRyを通じて送出電圧を変える。かかるバンク送出電流と送出電圧とは、以下の整定曲線の関係を有する。
【数1】
【0006】
この整定曲線は、図13の左側に表される。かかるLDC方式は、図13の右側の、距離と電圧との関係に示されるように、受電側の任意の点を負荷中心点とし、その負荷中心点の電圧を所定値に維持することを目的としているので、負荷が増加、即ち、バンク送出電流が増加すると、送出電圧が高くなるように制御される。実際の運用においては、送出電圧がタップによって段階的に切り替えられるため、図13に示すように、タップ間隔分の電圧に相当する負荷の上昇に応じて送出電圧が上昇することになる。また、負荷が減少するときも送出電圧は段階的に変化することとなる。上記数式3の上下電圧の飽和点(図13における((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))の値)を整定値という。
【0007】
配電系統システム10の電力は、需用者の受電点においてどのような利用のされ方をするか予測不能であるが、あらゆる受電点での電圧を適正範囲内に収めるため、上記整定曲線の設定は極めて慎重に行わなければならない。例えば、従来から知られている非特許文献1に記載された方法によって整定曲線を算出することができる。
【0008】
かかる非特許文献1によると、任意時刻における望ましい送出電圧VS(t)は、
【数2】
となる。ここで、第1項は高圧配電線の平均電圧降下を、第2項は低圧配電線の平均電圧を高圧配電線側に換算した値を、第3項はタップ使用による補正項を示している。この式は、高圧配電線上で均一に電圧降下する点に設けられた変圧器を介して低電圧に変換された低圧配電線上でさらに均一に電圧降下する点の需要家端の電圧を101Vにすることを目的とし、現実にはあり得ない理想的な状況における送出電圧を算出している。
【0009】
また、近年では、簡素化された、
【数3】
の式が用いられ、重負荷時、軽負荷時における高圧配電線電圧降下DP、任意のタップ区間における電灯変圧器の台数TP、任意のタップ区間における電灯変圧器の巻線比NP、j配電線の負荷電流(ピーク時を1とし各時刻を小数表示したもの)Ij(t)、任意の時刻に基準とすべき2次誘起電圧viさえ分かれば、送出電圧を算出することができる。
【0010】
望ましい送出電圧とバンク送出電流との関係は、配電系統システムの各点における負荷曲線が相違することを原因として、一般的には直線とならない。しかし、数式3として示した線形制御によっても送出電圧を制御できることが知られている。このような従来の線形制御では、理想とする受電点(負荷中心点)での電圧を101Vとして、低圧配電線の電圧降下、変圧器の内部電圧降下を加味した高圧配電線側換算値と、高圧線における電圧降下を加味した高圧電圧との差(偏差二乗和)が最小となるように送出電圧を整定していた。
【非特許文献1】「配電線の電圧調整と管理」、昭和43年12月、電気協同研究第24巻第4号、社団法人電気協同研究会(特にP.23〜P.25、P80〜P.82)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、送出電圧は季節等の環境にも大きく依存するため、その整定には1年分のデータが必要となり、膨大な計算量となってしまう。
【0012】
また、数式5で示した簡素化された送出電圧は、「各高圧配電線の各タップ区間内においては、各負荷(電灯および高低圧電力)は高低圧幹線上に平等に分布している。」、「高圧幹線には、各タップ区間内において、同一太さの電線が使用されている。」、「高圧幹線上の各部の電流特性は高圧配電線ごとにそれぞれ同一である。」、「高圧幹線上の各時刻における力率は、高圧配電線ごとにそれぞれ同一である。」、「1台の電灯変圧器とそれに属する低圧線の電流特性力率は一致している。」といった理想的な環境を条件としている。
【0013】
即ち、従来の送出電圧は、想定する配電線(高圧配電線)の数に拘わらず単純化された1つの配電線モデルを用いて計算されたものであり、各点の目標値からの電圧偏差が最小になる理想値を導出したものである。このような簡素化した式が用いられているのは、本来パラメータとして参照すべき各配電線の個々の電圧が、測定値であっても計算値であってもそのデータ量が膨大となるため、考慮することができないという事情からきている。従って、理想の配電系統システムを前提とした上記の送出電圧と、実際の配電系統システムにおける送出電圧では隔たりが生じ、実際の運用時にはその隔たり分だけ送出電圧の補正を行う必要があった。
【0014】
また、配電系統の各点における電圧の測定値をそのまま採用し、シミュレーション手法によって求める方法も提案されているが、依然として、確立された方法として採用されるレベルには至っていない。近年、分散型電源の系統連系数の増加等配電系統を取り巻く環境は大きく変化しており、分散型電源からの逆潮流の影響を考慮しなければならなくなった等、送出電圧制御は益々複雑化する傾向にある。
【0015】
一方、配電系統における開閉器には、高圧配電系統の任意の地点における電圧や電流の実態を把握するため、その実測値を検出するセンサが内蔵されつつあり(以下、センサが内蔵された開閉器(高圧開閉器)をセンサ内蔵開閉器と呼ぶ。)、高圧配電系統の各地点の電圧や電流の時間推移等も容易に得ることができるようになってきた。このように、配電系統における電圧の実測値を統計的に収集できる状況になったので、後はその膨大な情報を効率的に処理する手法さえ確立すれば、LDC方法における最適な整定値が導出できるということになる。
【0016】
本発明は、従来の配電系統システムにおける上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、運用上の補正を要さず、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止可能な最適な整定値を導出できる、新規かつ改良された配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、配電用変圧器と、配電用変圧器に接続された複数の高圧配電線と、高圧配電線の線路上に配置される複数のセンサと、高圧配電線の線路上に配置され高圧配電線の電力を変成して低圧配電線に供給する複数の変圧器と、を備える配電系統システムであって、配電用変圧器におけるバンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線
【数4】
の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を、複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出する整定値導出装置と、導出された整定値によって形成される整定曲線を用いて、配電用変圧器に、バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる電圧制御装置と、をさらに備えることを特徴とする、配電系統システムが提供される。上記センサは、高圧配電線の線路上に配置される開閉器に内蔵されてもよい。
【0018】
本発明では、配電系統システムにおける電圧の実測値を統計的に収集できる状況になったという背景をもとに、今までのような理想的な変圧器の配置による単純化された配電線モデルではなく、高圧配電系統の任意の地点の実測値を用いて整定値を導出している。従って、現実に沿った送出電圧を配電系統に供給することができ、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる。
【0019】
整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とすることができる。
【0020】
本発明では、相異する所定数の整定値候補それぞれを評価関数で評価して、整定値を導き出す。かかる評価には、配電系統システムの各点における実測値が用いられるので、実際の運用にあった妥当な整定値を導出することが可能となる。
【0021】
上記評価関数は、複数のセンサの実測値が、評価対象となる整定値候補と配電用変圧器のバンク送出電流の実測値とを整定曲線に当て嵌めて計算される、各センサ位置における電圧の適正上限値と適正下限値との中央に位置する程度を表してもよい。この中央に位置する程度は、電圧の適正上限値および適正下限値ぞれぞれと、複数のセンサの実測値との差の二乗和で表され、整定値導出装置は、評価関数の計算値が小さいほど良いと評価することができる。
【0022】
このように、評価関数は、任意の整定値候補を仮に採用した場合における電圧の適正上限値および適正下限値と、センサの実測値との位置関係を評価し、センサの実測値が適正上限値および適正下限値との間に適切に収まっている、即ち、センサの実測値が適正上限値および適正下限値のいずれにも偏らず、中央付近に位置していることで評価値を算出する。
【0023】
また、評価関数は、センサの実測値が、電圧の適正上限値および適正下限値を逸脱していた場合、その逸脱量も二乗和で加算されてもよい。
【0024】
ここでは、逸脱(電圧違反)があった場合のペナルティを課すことで、全体的に適正上限値および適正下限値に収まる整定値候補の評価を高くすることが可能となる。
【0025】
評価関数Fは、
【数5】
(ただし、αは電圧違反評価の重み付け計数、Vkjtはセンサjにおける時間断面tでのk相電圧、Vuj,Vdjは、センサjにおける電圧の適正上限値と適正下限値、Nはセンサjの総数、Tは時間断面の総数、β,γ,δ,εは、重み付け計数である。)であってもよい。
【0026】
かかる評価関数Fを用いることで、配電系統システム100の各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止する整定値を導出することが可能となる。
【0027】
整定値導出装置は、複数の整定値候補に対する評価関数による複数の評価値に基づいて、評価値が良くなる方向の新たな整定値候補を導出してもよい。
【0028】
かかる構成により、既に評価された整定値候補とその評価値に基づいて評価が良い方向を推測することができ、そのサンプル数が多ければ多いほど、高精度に新たな整定値候補を導出することが可能となる。
【0029】
整定値導出装置は、任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))をエージェントiの現在の位置ベクトルSi(k)とした場合に
【数6】
(ただし、w1、w2、w3は慣性定数、PBESTiはエージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値、GBESTは全エージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値である。)から新たな整定値候補Si(k+1)=(ICMIN_i+1,VCMIN_i+1)、(ICMAX_i+1,VCMAX_i+1)を求めることによって、繰り返し整定値候補を導出することができる。
【0030】
上記PSO(Particle Swarm Optimization)法を本発明の整定値生成に適用することにより、莫大なデータの中から効果的に最適整定値を絞り込むことができる。
【0031】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線
【数7】
の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出装置であって、整定値を、高圧配電線の線路上に配置された複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出することを特徴とする、整定値導出装置が提供される。
【0032】
また、上記課題を解決するために、本発明のさらに他の観点によれば、高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線
【数8】
の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出方法であって、整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とすることを特徴とする、整定値導出方法が提供される。
【0033】
上述した配電系統システムにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該整定値導出装置や整定値導出方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように本発明の配電系統システムによれば、最適な整定値が導出され、その最適な整定値を用いて送出電圧を制御することで、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0036】
上述したように、従来では、配電系統中の個々の点における電圧等を考慮せず、単純化した配電線モデルによって送出電圧を導出していたので、実際の配電系統システムでは電圧が逸脱する点が生じていた。本発明の実施形態においては、配電系統における各点、例えば、センサ内蔵開閉器における電圧の実測値を用いて、あらゆる点で適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能な送出電圧の導出を目的としている。
【0037】
図1は、本実施形態における配電系統システム100の概略的な構成を示した構成ブロック図である。かかる配電系統システム100は、配電用変圧器110と、高圧配電線120と、センサ内蔵開閉器130と、整定値導出装置140と、電圧制御装置150とからなる。
【0038】
上記配電用変圧器110は、例えば、負荷時タップ切替変圧器(Load Ratio control Transformer:LRT)等の、通電状態を維持したままで2次側の電圧(送出電圧)を変化させることが可能な変圧器である。
【0039】
上記高圧配電線120は、配電用変圧器110から放射状に分岐された複数の配電系統(Feeder)の配電線であり、例えば、6.6kVといった高電圧電力を送電する。
【0040】
上記センサ内蔵開閉器130は、高圧配電線120上に配置を異にして(例えば、A1、A2、…)接続され、高圧配電線120の電気的遮断または接続を行う。センサ内蔵開閉器130は、柱上に限らず、地上、地中に配される。また、本実施形態において、センサ内蔵開閉器130は、配電系統システム100の統計データを取得するためのセンサを内蔵し、そのセンサによって自己における電圧値を検出する。また、検出した電圧値を一定期間保持することもでき、例えば、30分間隔で1年間分の電圧値を自己の記録部に保持できる。
【0041】
本実施形態では、データ収集先のセンサとしてセンサ内蔵開閉器130のセンサを用いているが、かかる場合に限られず、高圧配電線120上のあらゆる電子機器に内蔵されるセンサを用いてもよいし、高圧配電線120上にデータ収集専用のセンサ機器を設けてもよい。また、以下で、センサ内蔵開閉器130の電圧と言った場合、そのセンサ内蔵開閉器130に内蔵されたセンサの測定電圧値を示す。
【0042】
また、高圧配電線120の線路上には、高圧配電線120の電力を変成して低圧配電線に供給する複数の変圧器(図示せず)を設けることもできる。当該配電系統システム100は、このような変圧器を通じた低圧配電線への出力またはさらにその先の受電点を101V±6Vの適正範囲に収めることを、最終的な目的としている。
【0043】
上記整定値導出装置140は、配電系統の任意の複数の点、本実施形態においては、センサ内蔵開閉器130における電流および電圧の実測値を収集して整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する。かかる整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))は、整定曲線
【数9】
の点のうち、電圧の上下限である任意の2点を示す。ここでIはバンク送出電流を、Vは送出電圧を示す。従って、かかる整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を代入した整定曲線は、
【数10】
となる。
【0044】
上記電圧制御装置150は、整定値導出装置140が導出した整定値によって形成される整定曲線を用いて、配電用変圧器110に、バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる。
【0045】
(評価関数F)
本実施形態では、配電系統システム100の各点における実測値を考慮した評価関数Fを用いて最適な整定値を導出する。具体的には、整定値導出装置140が、相異する多数の整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))を、配電用変圧器110のバンク送出電流Iの実測値と複数のセンサ内蔵開閉器130に設けられたセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とする。
【0046】
上記評価関数は、複数のセンサ内蔵開閉器130の実測値が、評価対象となる整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))と配電用変圧器110のバンク送出電流の実測値とを整定曲線に当て嵌めて計算される、各センサ位置における電圧の適正上限値と適正下限値との中央に位置する程度を表す。
【0047】
ここで、中央に位置する程度は、電圧の適正上限値および適正下限値ぞれぞれと、複数のセンサの実測値との差の二乗和で表され、整定値導出装置140は、評価関数の計算値が小さいほど良いと評価することができる。
【0048】
このように評価関数は、任意の整定値候補を仮に採用した場合における電圧の適正上限値および適正下限値と、センサ内蔵開閉器130の実測値との位置関係を評価し、センサ内蔵開閉器130の実測値が適正上限値および適正下限値との間に適切に収まっている、即ち、センサ内蔵開閉器130の実測値が適正上限値および適正下限値のいずれにも偏らず、中央付近に位置していることで評価値を算出する。
【0049】
また、評価関数は、センサ内蔵開閉器130の実測値が、電圧の適正上限値および適正下限値を逸脱していた場合、その逸脱量も二乗和で加算されてもよい。ここでは、逸脱(電圧違反)があった場合のペナルティを課すことで、全体的に適正上限値および適正下限値に収まる整定値候補の評価を高くすることが可能となる。
【0050】
上述した評価関数を具体的に数式で表現すると、評価関数Fは、
【数11】
と表すことができ、かかる評価関数Fでは、上述したようにその計算値が小さいほど評価が良いこととなる。本実施形態においては、上述した評価関数Fに、当該配電系統システム100の各点における1年間分の電圧および電流の実測値を用いる。
【0051】
ただし、評価関数F中に用いられる、αは電圧違反評価の重み付け計数、Vkjtはセンサ内蔵開閉器jにおける時間断面tでのk相電圧(ここでは、3相)であり、整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))およびバンク送出電流Iの実測値を数式6に代入して求まる値、Vuj,Vdjはセンサ内蔵開閉器jにおける電圧の適正上限値と適正下限値、Nはセンサ内蔵開閉器jの総数、Tは時間断面の総数(例えば、サンプリング間隔を30分とした場合に、1年間分のTは2×24時間×365日=17520となる。)、β,γ,δ,εは重み付け計数である。
【0052】
評価関数Fは、αEkjt2からなる第1項(電圧ペナルティ項)と、β(Vuj−Vkjt)2+γ(Vdj−Vkjt)2からなる第2項(電圧上下限値までの偏差)とで構成される。当該評価関数Fでは、電圧逸脱量Ekjtが適正範囲内に収まることを目的としているので、Ekjtが適正範囲に入らない場合には、相当の重みで評価を下げる。
【0053】
即ち、第1項は、全ての時間断面t、全てのセンサ内蔵開閉器j、3相kにおいてEkjtが適正範囲内であれば、その値は0となり、評価値には全く影響しない。一方、ある時間断面tにおいて、いずれかのセンサ内蔵開閉器jの少なくとも1つの相が適正範囲に収まらない場合、第1項において、Ekjtが2乗され、さらに重み付け計数αで乗算されるため、第1項は、非常に大きな値となり、評価値に大きく影響する。このとき、評価関数Fはほぼ第1項の計算結果に依存することとなり、第2項の値は評価値にほとんど影響しない。
【0054】
本実施形態における上記の評価関数Fでは、複数の配電線の電圧値が適正範囲から逸脱している場合や、特定の箇所においてやむを得ず適正範囲から逸脱してしまう場合、総合的にバランスのとれた送出電圧が設定される。従って、当該評価関数Fを用いると、任意の配電線1回線のみが大きく逸脱している場合、それを緩和するため、適正範囲内に入っている他の配電線路を少し逸脱させてでも、全体的なバランスを優先することとなる。
【0055】
また、Ekjtの重み付け係数δ,εは、高低いずれかの逸脱に対して大きなペナルティを与えることが可能である。適正範囲内から電圧の高い方向への逸脱に対してより大きなペナルティを与えるときはδを大きく、低い方向への逸脱に対してより大きなペナルティを与えるときはεを大きくする。このような重み付けを行わない場合は、δ=ε=1とする。かかるδ,εは、配電系統システム100の運用状況に応じて任意に設定することができる。
【0056】
第2項は、適正上下限値までの偏差を示し、全ての時間断面t、全てのセンサ内蔵開閉器j、3相kにおいてEkjtが適正範囲内であれば、第1項の値は0となるので、評価値は第2項の値により決定される。詳細には、(Vuj−Vkjt)は適正範囲の上限値Vujからの偏差を示し、(Vdj−Vkjt)は適正範囲の下限値Vdjからの偏差を示している。従って、(Vuj−Vkjt)2+(Vdj−Vkjt)2は適正範囲の中央に近づくほど小さい値をとることとなり、VkjtがVujとVdjとの中央に位置するとき、評価関数Fは最小の値になる。
【0057】
また、重み付け係数β,γは、電圧を適正範囲内で高めもしくは低めに維持するための重み付けが可能であり、β=γ=1の場合、Vkjtが適正範囲の中央に集まっているときに評価が良くなり、βが高い場合にはVkjtが高めのときに評価が良くなり、γが高い場合にはVkjtが低いときに評価が良くなる。従って、β=1、γ=0の場合、適正範囲内でもっとも高めの電圧が維持できる値が最適値となり、β=0、γ=1の場合、適正範囲内でもっとも低めの電圧が維持できる値が最適値となる。かかるβ,γは、δ,ε同様、配電系統システム100の運用状況に応じて任意に設定することができる。
【0058】
上記評価関数Fを用いることで、配電系統システム100の各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる最適な整定値を導出することができる。
【0059】
しかし、このような評価関数Fの下、最適な整定値を導出するためには、多数の整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))を代入する必要がある。しかし、整定値候補の4つのパラメータは無数の値をとることができ、その組み合わせまで考慮すると、その整定値候補は膨大な量になる。かといって、整定値候補の数を絞ると、数の減少に応じて、真に最適な整定値からずれてしまう可能性が高くなる。
【0060】
(最適化方法)
そこで、本実施形態においては、上記の評価関数に追加して、その整定値候補自体の生成にも新たな技術を導入する。例えば、複数の整定値候補に対する評価関数による複数の評価値に基づいて、評価値が良くなる方向の新たな整定値候補を導出する。
【0061】
かかる構成により、既に評価された整定値候補とその評価値に基づいて評価が良い方向を推測することができ、そのサンプル数が多ければ多いほど、高精度に新たな整定値候補を導出することが可能となる。ここでは、このような整定値候補の導出方法の一例として非線形最適化手法の一つであるPSO(Particle Swarm Optimization)法を用い、整定値候補の絞り込みを行う。
【0062】
かかるPSO法の基本的な考え方としては、まず、任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を位置ベクトルSi(k)とし、その位置ベクトルSi(k)をエージェントiに割り当てる。エージェントiは整定値導出装置140の計算能力に応じて1または複数で構成することができる。かかるエージェントiの位置ベクトルSi(k)を後述する方法で変更させ、変更後の位置ベクトルSi(k+1)を評価関数Fで評価する。このような位置ベクトルSi(k)の変更は所定回数繰り返される。その中で最も評価関数Fの計算値が小さかった整定値候補((ICMIN,VCMIN)、(ICMAX,VCMAX))を最適な整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))とする。
【0063】
詳細に述べると、整定値導出装置140は、初期値として任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を適当に導出し、エージェントiの現在の位置ベクトルSi(k)とする。そして、位置ベクトルの更新式
【数12】
から新たな整定値候補Si(k+1)=(ICMIN_i+1,VCMIN_i+1)、(ICMAX_i+1,VCMAX_i+1)を求める。これを繰り返すことで、複数の整定値候補を自動的に生成すると共に、その整定値候補を最適な整定値に近づけることができる。ただし、PBESTiはSi(k)の更新中に評価関数Fが最小となったSi(k)の値、GBESTは評価関数Fが最小となったPBESTiの値、Randは0〜1の範囲で与えられる乱数である。
【0064】
かかるPSO法は、群知能の一種であり、鳥などの生物が群れで目標値に移動する様子を模擬した最適化手法である。この鳥を模擬した複数のエージェントiが自己に蓄積された情報と他のエージェントにより蓄積された情報とを基に整定値を探索する。
【0065】
これは多次元空間において、位置ベクトルと速度ベクトルを持つ粒子群でモデル化される。これらの粒子はハイパー空間を飛びまわり、評価関数Fが最良となる位置ベクトルを探す。群れのメンバは評価関数が最良となる位置ベクトルについて情報交換し、それに基づいて自己の位置ベクトルと速度ベクトルを調整する。
【0066】
図2は、PSO法の位置ベクトルSi(k)の推移を説明するための説明図である。ここでは、複数のエージェントiのうち、1つのエージェントiに着目してその動作を説明するが、他のエージェントiも同様に動作する。また、w1、w2、w3は慣性定数であり通常1より少し小さい値が選択されるが、ここでは、PSO法の理解を容易にするため、w1=w2=w3=1としている。
【0067】
まず、エージェントiは、整定値導出装置140によって適当に決められたSi(k)を自己の位置ベクトルとする。また、エージェントiは任意の速度ベクトルvi(k)も初期値として持っており、エージェントiはその速度で移動する予定である(vi(k+1)の第1項)。
【0068】
その速度ベクトルvi(k)に、エージェントiが今までに探索した、評価関数Fが最良となる位置ベクトルであるPBESTiとSi(k)との差分(線ベクトル)と、群れ全体で今までに探索した、評価関数Fが最良となる位置ベクトルであるGBESTとSi(k)との差分(線ベクトル)に、それぞれ乱数を乗じてできた合成ベクトルΔvi(k)(vi(k+1)の第2、3項)をさらに合成した速度ベクトルvi(k+1)が更新されたエージェントiの速度ベクトルとなる。そして、速度ベクトルvi(k+1)によりエージェントiの位置ベクトルがSi(k+1)に移動する。
【0069】
ここで、エージェントiが今までに探索した位置ベクトルPBESTiとSi(k)との差分(線ベクトル)に乱数を乗じたベクトルと、群れ全体で今までに探索した位置ベクトルGBESTとSi(k)との差分(線ベクトル)に乱数を乗じたベクトルとの合成ベクトルΔvi(k)は、図2においてハッチングされた平行四辺形の範囲内において、乱数に応じて様々なベクトルをとることができる。
【0070】
このようにSi(k)が更新される度に評価関数Fによる評価が行われ、エージェントiの今までに探索した、評価関数Fが最良となる位置ベクトルより良い位置ベクトルが見つかるとPBESTiが更新され、その値が群れ全体の最良の位置ベクトルであればGBESTも更新される。こうして、複数のエージェントiは相互に影響を受けつつ、最良の位置ベクトルを探索することができる。
【0071】
上記のPSO法によって整定値候補が変更される毎に上記数式1による評価関数Fで評価することで、エージェントiの最適な位置ベクトルSi(k)であるPBESTiおよび、全てのエージェントの最適な線ベクトルGBESTも導出および更新される。
【0072】
図3は、Si(k)の推移を示した説明図である。上述した数式2を更新していくと、整定値導出装置140が設定した整定値候補の初期値Si(0)が例えば図3中矢印で示された軌跡で推移し、所定回数M後には、最適値Si(M)となる。かかるPSO法により、無数の整定値候補を準備しなくても、所定回数、例えばM=200回といった変更で最適な整定値を導出することが可能となる。
【0073】
図4は、整定値導出計算における実際の整定値候補Si(k)の軌跡を示した説明図である。かかる図4によると、数式2によるSi(k)の計算が200回実行されており、様々な値をとりつつ最終的な値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))=((642.1,6645.3)、(1572.1,6797.8)に落ち着いている。このときエージェントiが複数あったとしても全てのエージェントiはかかる最適値に落ち着くことになる。
【0074】
図5は、整定値導出計算における評価関数Fの推移を示した説明図である。かかる図5によると、初期値Si(0)では、約15500であった評価関数Fの値が、反復回数15回目には996.0になり、125回目には、ほぼ最小の値988.4に到達している。従って、上記数式2による整定値候補Si(k)が最適となる方向に連続的に落ち着いていることが理解できる。ここでは、最適な整定値を導出するために、例えば200回の評価処理が繰り返されているが、かかる回数に限られず、例えば、評価関数Fの計算値の変動が所定幅以内になったら、その時点で計算を完了し、その値を整定値としてもよい。即ち整定値がある程度落ち着いたら以後の評価処理を省略することができる。
【0075】
数式5で示した従来の整定値の導出方法では、許容される適正範囲の中心の電圧を目標点としており、特性の異なる配電線について、許容範囲の上側や下側の様々な方向に電圧逸脱があった場合には送出電圧の設定がどっちつかずとなり、すべての配電線において逸脱が生じる可能性があった。
【0076】
PSO法を用いる本実施形態においては、更新された位置ベクトルSi(k)をその都度評価する評価関数Fにペナルティ項が設けられているため、送出電圧を最小限変更するだけで、図2中上側、下側のどちらに移動すればより大きな電圧改善効果が得られるかが判断され、その方向に位置ベクトルSi(k)が調整される。
【0077】
従って、配電系統システムの任意の配電路の逸脱が偶然大きくなったとしても、他のすべての線路は逸脱を免れることができる。また、逸脱が生じた点に関しては、SVR(Step Voltage Regulator)等の電圧調整装置を1台設置するだけでその後の逸脱を回避できる。即ち、すべての配電線で逸脱を防止することが可能となる。
【0078】
(整定値導出方法)
次に、上述した配電系統システム100における整定値の導出に至るまでの整定値導出装置140の処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。
【0079】
図6は、整定値導出方法の全体的な処理の流れを示したフローチャートである。まず、整定値導出装置140は、整定値候補Si(k)の初期値Si(0)を適当に設定する(S200)。エージェントを複数設定する場合はその数分の初期値Si(0)を設定する。
【0080】
そして、評価関数Fのパラメータとして、各センサ内蔵開閉器130で実測された過去所定時間分の電圧値およびその電圧値に対応した配電用変圧器110のバンク送出電流を読み込み(S202)、そのパラメータを用いて、初期値Si(0)を数式1で示した評価関数Fで評価する(S204)。かかる評価値は、各エージェントiの最良の評価値PBESTiの初期値とし、全エージェントiの最良の評価値は、評価値GBESTの初期値とする(S206)。
【0081】
次に、整定値導出装置140は、新しい整定値候補Si(k+1)を数式2で示した更新式を用いて決定する(S208)。そして、決定された新たな整定値候補Si(k+1)を数式1で示した評価関数Fで評価し(S210)、各エージェントiにおける最良の評価値であれば、評価値PBESTiを更新し、併せて評価値GBESTも更新する(S212)。上述したPSO法は、個々のエージェントが探索した最良の解PBESTiと, そのエージェントが属するエージェント群の中での最良解GBESTから, 過去の探索履歴を考慮して連続変数の多峰性関数の大域的最適解、もしくは準最適解を求める手法なので、かかるPBESTiおよびGBESTはSi(k)の更新毎に行われる。
【0082】
続いて、整定値導出装置140は、上述した整定値候補Si(k+1)の更新および評価関数Fによる評価が規定回数(所定数)行われたかどうか判断し(S214)、規定回数に達していなければ、新しい整定値候補Si(k+1)決定処理(S208)に戻って処理を繰り返し、達していれば、当該整定値導出方法を終了する。このときの最終的な整定値候補Si(k+1)が目的とする整定値となる。
【0083】
(他の送出電圧制御方法との比較1)
以下、上述した整定値導出方法により導出された整定値を用いた送出電圧制御を、他の送出電圧制御方法と比較し、本実施形態による整定方法の有効性を述べる。
【0084】
図7は、電圧指定時間スケジュール方式と本実施形態の方法とを比較した送出電圧の時間変動を示した説明図である。本実施形態の方法による送出電圧と従来からの電圧指定時間スケジュール方式とを比較すると、同一時間においても図7に示したような送出電圧の違いが見られる。
【0085】
図8は、電圧指定時間スケジュール方式における任意の配電系統における各センサ内蔵開閉器130における電圧変動を示した説明図である。図8では、番号0のところが配電用変圧器110、即ち、送出電圧の供給を受けるところであり、センサ内蔵開閉器番号が大きくなるほど配電用変圧器110からの距離が遠いことになる。また、適正範囲の上限250および下限252がセンサ内蔵開閉器番号6と7との間で変化しているのは、タップ区間の切換地点を示し、かかる地点の前後でタップ変圧比が変化する。図8に示した配電系統では、電圧指定時間スケジュール方式における複数の配電系統のうち、センサ内蔵開閉器番号6において電圧が適正範囲を逸脱していることが把握できる。
【0086】
図9は、図8に示した配電系統における本実施形態の方法による電圧変動を示した説明図である。図9を参照すると、電圧が適正範囲を逸脱していたセンサ内蔵開閉器番号6においても適正範囲内で推移していることが確認できる。また、電圧指定時間スケジュール方式では、図8で示した電圧系統以外にも逸脱が確認されたが、本実施形態の方法では、かかる図9で示した電圧系統以外でも逸脱は確認されなかった。
【0087】
(他の送出電圧制御方法との比較2)
また、同一のLDC方式を用いて、従来の整定方法と、本実施形態の整定値方法とを比較し、本実施形態による整定方法の有効性を述べる。比較するための配電系統システムとして、図1に示したようなLRT1つ、配電系統6回線、1配電系統あたりのセンサ内蔵開閉器6つのモデルを用いて潮流計算した。また、適正電圧範囲は6600±126Vとし、センサ内蔵開閉器区間長はすべて0.5km(配電系統の亘長:3km)とし、線路インピーダンスは0.252+j0.348[Ω/km]とした。なお、不感帯幅(タップ間隔)は100Vとし、PSO法のエージェント数を100個、探索回数を100回とし、LDC整定値の探索範囲は、バンク送出電流400〜1200A、送出電圧6300〜6900Vと設定した。
【0088】
図10は、従来の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図であり、図11は、本実施形態の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図である。図10、11を比較した結果以下のように理解できる。即ち、整定値自体の違いから送出電圧の推移が相異し、系統Aの末端にあるセンサ内蔵開閉器A6では、どちらの方法でも線間電圧が適正範囲280内に収まっているが、系統Bの末端にあるセンサ内蔵開閉器B6では、線間電圧が従来の方法において適正範囲を逸脱しているのが把握できる。
【0089】
以上、他の整定方法との比較でも理解できるように、本実施形態による配電系統システムでは、最適な整定値が導出され、その最適な整定値を用いて送出電圧を制御することで、配電系統システムの各点における電圧の適正範囲からの逸脱を好適に防止することが可能となる。
【0090】
(他の最適化方法)
また、最適な整定値を導出する最適化方法としては、上述したPSO法以外にも例えば、メタヒューリスティクス手法といった最適化手法をとることができる。かかるメタヒューリスティクス手法は、最適値に近い目的関数を有する近似最適解を経験や知識に基づいて、発見的に、かつ、高速に求める方法である。かかるメタヒューリスティクス手法はその設定するパラメータに応じて、遺伝的アルゴリズム(GA)、シミュレーテッド・アニーリング(SA)、タブーサーチ(TS)といった最適化手法に種別される。また、ここでは、PSO以外の最適化方法としてメタヒューリスティクス手法を挙げたが、かかる場合に限られず、当該配電系統システム100には、様々な手法を適用することができる。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0092】
また、自己の電圧等を検知できる機器として実施形態ではセンサ内蔵開閉器を挙げているが、実測値を検知できれば電力需要者の受電点等様々な点を評価対象とすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、LDC方式における最適な整定値を導出する配電系統システム、整定値導出装置および整定値導出方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施形態における配電系統システムの概略的な構成を示した構成ブロック図である。
【図2】本実施形態におけるPSO法の整定値候補Si(k)の推移を説明するための説明図である。
【図3】本実施形態における整定値候補Si(k)の推移を示した説明図である。
【図4】本実施形態における整定値導出計算における実際の整定値候補Si(k)の軌跡を示した説明図である。
【図5】本実施形態における整定値導出計算における評価関数Fの推移を示した説明図である。
【図6】本実施形態における整定値導出方法の全体的な処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】本実施形態における電圧指定時間スケジュール方式と本実施形態の方法とを比較した送出電圧の時間変動を示した説明図である。
【図8】電圧指定時間スケジュール方式における任意の配電系統における各センサ内蔵開閉器における電圧変動を示した説明図である。
【図9】図8に示した配電系統における本実施形態の方法による電圧変動を示した説明図である。
【図10】従来の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図である。
【図11】本実施形態の整定方法による線間電圧の推移を説明する説明図である。
【図12】従来の配電系統システムの概略的な構成を示した構成図である。
【図13】従来の配電系統システムにLDC方式を採用した場合の送出電圧制御を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0095】
100 配電系統システム
110 配電用変圧器
120 高圧配電線
130 センサ内蔵開閉器
140 整定値導出装置
150 電圧制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電用変圧器と、該配電用変圧器に接続された複数の高圧配電線と、該高圧配電線の線路上に配置される複数のセンサと、該高圧配電線の線路上に配置され該高圧配電線の電力を変成して低圧配電線に供給する複数の変圧器と、を備える配電系統システムであって、
前記配電用変圧器におけるバンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を、前記複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出する整定値導出装置と、
前記導出された整定値によって形成される整定曲線を用いて、前記配電用変圧器に、前記バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる電圧制御装置と、
をさらに備えることを特徴とする、配電系統システム。
【請求項2】
前記整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、前記配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と前記複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とすることを特徴とする、請求項1に記載の配電系統システム。
【請求項3】
前記評価関数は、前記複数のセンサの実測値が、評価対象となる前記整定値候補と前記配電用変圧器のバンク送出電流の実測値とを前記整定曲線に当て嵌めて計算される、各センサ位置における電圧の適正上限値と適正下限値との中央に位置する程度を表すことを特徴とする、請求項2に記載の配電系統システム。
【請求項4】
前記中央に位置する程度は、前記電圧の適正上限値および適正下限値ぞれぞれと、前記複数のセンサの実測値との差の二乗和で表され、
前記整定値導出装置は、前記評価関数の計算値が小さいほど良いと評価することを特徴とする、請求項3に記載の配電系統システム。
【請求項5】
前記評価関数は、前記センサの実測値が、前記電圧の適正上限値および適正下限値を逸脱していた場合、その逸脱量も二乗和で加算されることを特徴とする、請求項4に記載の配電系統システム。
【請求項6】
前記評価関数Fは、
【数1】
(ただし、αは電圧違反評価の重み付け計数、Vkjtはセンサjにおける時間断面tでのk相電圧、Vuj,Vdjは、センサjにおける電圧の適正上限値と適正下限値、Nはセンサjの総数、Tは時間断面の総数、β,γ,δ,εは、重み付け計数である。)
であることを特徴とする、請求項5に記載の配電系統システム。
【請求項7】
整定値導出装置は、複数の前記整定値候補に対する前記評価関数による複数の評価値に基づいて、評価値が良くなる方向の新たな整定値候補を導出することを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の配電系統システム。
【請求項8】
前記整定値導出装置は、任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))をエージェントiの現在の位置ベクトルSi(k)とした場合に
【数2】
(ただし、w1、w2、w3は慣性定数、PBESTiはエージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値、GBESTは全エージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値である。)
から新たな整定値候補Si(k+1)=(ICMIN_i+1,VCMIN_i+1)、(ICMAX_i+1,VCMAX_i+1)を求めることによって、繰り返し整定値候補を導出することを特徴とする、請求項7に記載の配電系統システム。
【請求項9】
前記センサは、前記高圧配電線の線路上に配置される開閉器に内蔵されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の配電系統システム。
【請求項10】
高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出装置であって、
前記整定値を、前記高圧配電線の線路上に配置された複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出することを特徴とする、整定値導出装置。
【請求項11】
高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出方法であって、
前記整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、前記配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と前記複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、
その評価値が最良となる値を整定値とすることを特徴とする、整定値導出方法。
【請求項1】
配電用変圧器と、該配電用変圧器に接続された複数の高圧配電線と、該高圧配電線の線路上に配置される複数のセンサと、該高圧配電線の線路上に配置され該高圧配電線の電力を変成して低圧配電線に供給する複数の変圧器と、を備える配電系統システムであって、
前記配電用変圧器におけるバンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を、前記複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出する整定値導出装置と、
前記導出された整定値によって形成される整定曲線を用いて、前記配電用変圧器に、前記バンク送出電流Iに応じた送出電圧Vを高圧配電線に供給させる電圧制御装置と、
をさらに備えることを特徴とする、配電系統システム。
【請求項2】
前記整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、前記配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と前記複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、その評価値が最良となる値を整定値とすることを特徴とする、請求項1に記載の配電系統システム。
【請求項3】
前記評価関数は、前記複数のセンサの実測値が、評価対象となる前記整定値候補と前記配電用変圧器のバンク送出電流の実測値とを前記整定曲線に当て嵌めて計算される、各センサ位置における電圧の適正上限値と適正下限値との中央に位置する程度を表すことを特徴とする、請求項2に記載の配電系統システム。
【請求項4】
前記中央に位置する程度は、前記電圧の適正上限値および適正下限値ぞれぞれと、前記複数のセンサの実測値との差の二乗和で表され、
前記整定値導出装置は、前記評価関数の計算値が小さいほど良いと評価することを特徴とする、請求項3に記載の配電系統システム。
【請求項5】
前記評価関数は、前記センサの実測値が、前記電圧の適正上限値および適正下限値を逸脱していた場合、その逸脱量も二乗和で加算されることを特徴とする、請求項4に記載の配電系統システム。
【請求項6】
前記評価関数Fは、
【数1】
(ただし、αは電圧違反評価の重み付け計数、Vkjtはセンサjにおける時間断面tでのk相電圧、Vuj,Vdjは、センサjにおける電圧の適正上限値と適正下限値、Nはセンサjの総数、Tは時間断面の総数、β,γ,δ,εは、重み付け計数である。)
であることを特徴とする、請求項5に記載の配電系統システム。
【請求項7】
整定値導出装置は、複数の前記整定値候補に対する前記評価関数による複数の評価値に基づいて、評価値が良くなる方向の新たな整定値候補を導出することを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の配電系統システム。
【請求項8】
前記整定値導出装置は、任意の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))をエージェントiの現在の位置ベクトルSi(k)とした場合に
【数2】
(ただし、w1、w2、w3は慣性定数、PBESTiはエージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値、GBESTは全エージェントiにおいて評価関数Fが最良となったSi(k)の値である。)
から新たな整定値候補Si(k+1)=(ICMIN_i+1,VCMIN_i+1)、(ICMAX_i+1,VCMAX_i+1)を求めることによって、繰り返し整定値候補を導出することを特徴とする、請求項7に記載の配電系統システム。
【請求項9】
前記センサは、前記高圧配電線の線路上に配置される開閉器に内蔵されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の配電系統システム。
【請求項10】
高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出装置であって、
前記整定値を、前記高圧配電線の線路上に配置された複数のセンサにおける電流または電圧の実測値を用いて導出することを特徴とする、整定値導出装置。
【請求項11】
高圧配電線に電力を供給する配電用変圧器における、バンク送出電流Iと2次側の送出電圧Vとの関数である整定曲線の整定値((IMIN,VMIN)、(IMAX,VMAX))を導出する整定値導出方法であって、
前記整定値導出装置は、相異する所定数の整定値候補((ICMIN_i,VCMIN_i)、(ICMAX_i,VCMAX_i))を、前記配電用変圧器のバンク送出電流の実測値と前記複数のセンサの実測値とを用いた評価関数で評価し、
その評価値が最良となる値を整定値とすることを特徴とする、整定値導出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−228428(P2008−228428A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61986(P2007−61986)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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