説明

酵母での異種タンパク質の発現の方法

【課題】酵母宿主細胞を発現系として使用した生物学的に活性な成熟形態の異種タンパク質の発現およびそれらの分泌のための方法を提供する。
【解決手段】5'から3'方向に、そして作動可能に連結された、(a)酵母認識転写開始領域および翻訳開始領域、(b)ハイブリッド前駆体ポリペプチドのコード配列、ならびに(c)酵母認識転写終結領域および翻訳終結領域を含むヌクレオチド配列であって、ここで該ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、5'-SP-(PS)n-1-(LP-PS)n-2-(NPROMHP-PS)n-3-MHP-(PS-CPROMHP)n-4-3'を含むヌクレオチド配列を用いる異種タンパク質の発現方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、発現系として酵母宿主細胞を使用する、組換えタンパク質の産生に関する。より詳細には、異種タンパク質の発現およびそれらの生物学的に活性な成熟タンパク質としての分泌についての組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
酵母宿主発現系は、酵母に対して外来のタンパク質の発現および分泌に使用されてきた。多くのアプローチが、発現の程度および生物学的に活性な成熟タンパク質の収量の面から開発されてきた。
【0003】
このようなアプローチは、酵母におけるタンパク質の発現および分泌に関与する種々の分子成分の改変を含む。これらの成分は、遺伝子発現のための翻訳および終結調節領域;シグナルペプチドおよび分泌リーダーペプチド配列(これらは、異種タンパク質の前駆体形態を酵母の分泌経路を介して導く);およびプロセシング部位(これらは、目的のタンパク質のポリペプチド配列からリーダーペプチド配列を切断する)を含む。
【0004】
目的のタンパク質の発現は、酵母認識調節領域を使用して増強され得る。目的の異種タンパク質の増強される収量は、一般に、酵母由来のシグナルおよび分泌リーダーペプチド配列を使用して達成される。天然のシグナル−リーダーペプチド配列の使用は、酵母宿主の分泌経路を介する目的のタンパク質の誘導を改良することであると考えられる。
【0005】
これまでの研究が、完全長の酵母α因子シグナル−リーダー配列が酵母宿主細胞での異種タンパク質の発現およびプロセシングを駆動するために使用され得ることを実証してきた。発現の有効性の実質的な改良は、特に完全長配列により発現が乏しいか、またはその発現が完全長配列に応答しない異種タンパク質について、短縮型α因子リーダー配列を使用して達成され得る。
【0006】
当該分野で利用可能な種々のアプローチは、いくつかのタンパク質がともに作用することを示してきたが、翻訳後のプロセシングに問題が残る。しばしば、分泌されるタンパク質の量が容認し得ないほど低量か、または不正確なプロセシングのためにタンパク質が不活性形態となる。これは特に、前駆体ポリペプチド配列として最初に発現され、およびそれが天然のコンホメーションをとることが、前駆体ポリペプチドの天然のプロペプチド配列の存在により容易になるタンパク質についてあてはまる。
【0007】
酵母宿主細胞を発現系として使用した生物学的に活性な成熟形態の異種タンパク質の発現およびそれらの分泌のための方法が必要とされる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
項目1.5'から3'方向に、そして作動可能に連結された、(a)酵母認識転写開始領域および翻訳開始領域、(b)ハイブリッド前駆体ポリペプチドのコード配列、ならびに(c)酵母認識転写終結領域および翻訳終結領域を含むヌクレオチド配列であって、ここで該ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、以下:
5'-SP-(PS)n-1-(LP-PS)n-2-(NPROMHP-PS)n-3-MHP-(PS-CPROMHP)n-4-3'
を含み、ここで:
SPは、酵母分泌タンパク質のシグナルペプチド配列を含み;
PSは、酵母タンパク質分解酵素によってインビボで切断された優先プロセシング部位を含み;
LPは、酵母分泌タンパク質のリーダーペプチド配列を含み;
NPROMHPは、目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のN末端プロペプチド配列を含み;
MHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質のペプチド配列を含み;
CPROMHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のC末端プロペプチド配列を含み;そして
n-1、n-2、n-3、およびn-4は、独立して0または1であり;
ここで、該プロセシング部位は、酵母宿主細胞によってインビボでの該成熟タンパク質への該前駆体ポリペプチドのタンパク質分解性プロセシングを可能にし、ここで少なくともn-3またはn-4が1である、
ヌクレオチド配列。
項目2.前記哺乳動物タンパク質が、PDGFタンパク質もしくはIGFタンパク質、またはそれらの改変体である、項目1に記載のヌクレオチド配列。
項目3.前記タンパク質がヒトタンパク質である、項目2に記載のヌクレオチド配列。
項目4.前記ヒトPDGFが、PDGF-BBまたはその改変体である、項目3に記載のヌクレオチド配列。
項目5.前記SPが、Saccharomyces cerevisiaeα因子のシグナルペプチド配列である、項目4に記載のヌクレオチド配列。
項目6.前記α因子が、Matαまたはその改変体である、項目5に記載のヌクレオチド配列。
項目7.n-2=1、n-3=1、およびn-4=0である、項目6に記載のヌクレオチド配列。
項目8.LPが短縮型リーダーペプチド配列である、項目7に記載のヌクレオチド配列。
項目9.前記ハイブリッド前駆体ポリペプチドの前記コード配列が、配列番号26に示されるヌクレオチド配列を有する、項目8に記載のヌクレオチド配列。
項目10.前記ハイブリッド前駆体ポリペプチドが、配列番号27に示されるアミノ酸配列を有する、項目8に記載のヌクレオチド配列。
項目11.n-3=0およびn-4=1、ならびに前記ヒトIGFタンパク質がIGF-I-Aまたはその改変体である、項目3に記載のヌクレオチド配列。
項目12.SPがSaccharomyces cerevisiaeα因子のシグナルペプチド配列である、項目11に記載のヌクレオチド配列。
項目13.前記α因子がMatαまたはその改変体である、項目12に記載のヌクレオチド配列。
項目14.前記ハイブリッド前駆体ポリペプチドの前記コード配列が、配列番号40に示されるヌクレオチド配列を有する、項目13に記載のヌクレオチド配列。
項目15.前記ハイブリッド前駆体ポリペプチドが、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有する、項目13に記載のヌクレオチド配列。
項目16.5'から3'方向に、そして作動可能に連結された、(a)酵母認識転写開始領域および翻訳開始領域、(b)ハイブリッド前駆体ポリペプチドのコード配列、ならびに(c)酵母認識転写終結領域および翻訳終結領域を含むヌクレオチド配列を含むベクターあって、ここで、該ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、以下:
5'-SP-(PS)n-1-(LP-PS)n-2-(NPROMHP-PS)n-3-MHP-(PS-CPROMHP)n-4-3'
を含み、ここで:
SPは、酵母分泌タンパク質のシグナルペプチド配列を含み;
PSは、酵母タンパク質分解酵素によってインビボで切断された優先プロセシング部位を含み;
LPは、酵母分泌タンパク質のリーダーペプチド配列を含み;
NPROMHPは、目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のN末端プロペプチド配列を含み;
MHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質のペプチド配列を含み;
CPROMHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のC末端プロペプチド配列を含み;そして
n-1、n-2、n-3、およびn-4は、独立して0または1であり;
ここで、該プロセシング部位は、酵母宿主細胞によってインビボでの該成熟タンパク質への該前駆体ポリペプチドのタンパク質分解性プロセシングを可能にし、ここで少なくともn-3またはn-4が1である、
ベクター。
項目17.前記ベクターが、酵母シャトルベクターpAB24である、項目16に記載のベクター。
項目18.発現カセットを含むヌクレオチド配列で安定に形質転換された酵母宿主細胞であって、該カセットは、5'から3'方向に、そして作動可能に連結された、(a)酵母認識転写開始領域および翻訳開始領域、(b)ハイブリッド前駆体ポリペプチドのコード配列、ならびに(c)酵母認識転写終結領域および翻訳終結領域を含み、ここで、該ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、以下:
5'-SP-(PS)n-1-(LP-PS)n-2-(NPROMHP-PS)n-3-MHP-(PS-CPROMHP)n-4-3'
を含み、ここで:
SPは、酵母分泌タンパク質のシグナルペプチド配列を含み;
PSは、酵母タンパク質分解酵素によってインビボで切断された優先プロセシング部位を含み;
LPは、酵母分泌タンパク質のリーダーペプチド配列を含み;
NPROMHPは、目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のN末端プロペプチド配列を含み;
MHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質のペプチド配列を含み;
CPROMHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のC末端プロペプチド配列を含み;そして
n-1、n-2、n-3、およびn-4は、独立して0または1であり;
ここで、該プロセシング部位は、酵母宿主細胞によってインビボでの該成熟タンパク質への該前駆体ポリペプチドのタンパク質分解性プロセシングを可能にし、ここで少なくともn-3またはn-4が1である、
酵母宿主細胞。
項目19.前記プロセシング部位が、SaccharomycesのKEX2遺伝子産物によって切断されたジペプチドである、項目18に記載の細胞。
項目20.前記ジペプチドが、5'-Lys-Arg-3'である、項目19に記載の細胞。
項目21.前記酵母細胞が、Saccharomyces属由来である、項目20に記載の細胞。
項目22.前記酵母細胞がS. cerevisiaeである、項目21に記載の細胞。
項目23.発現系として酵母宿主細胞を使用する、生物学的に活性な成熟形態における異種タンパク質の発現およびその分泌のための方法であって、該方法は、5'から3'方向に、そして作動可能に連結された、(a)酵母認識転写開始領域および翻訳開始領域、(b)ハイブリッド前駆体ポリペプチドのコード配列、ならびに(c)酵母認識転写終結領域および翻訳終結領域を含むヌクレオチド配列を含むベクターで、該酵母細胞を形質転換する工程を包含し、ここで、該ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、以下:
5'-SP-(PS)n-1-(LP-PS)n-2-(NPROMHP-PS)n-3-MHP-(PS-CPROMHP)n-4-3'
を含み、ここで:
SPは、酵母分泌タンパク質のシグナルペプチド配列を含み;
PSは、酵母タンパク質分解酵素によってインビボで切断された優先プロセシング部位を含み;
LPは、酵母分泌タンパク質のリーダーペプチド配列を含み;
NPROMHPは、目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のN末端プロペプチド配列を含み;
MHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質のペプチド配列を含み;
CPROMHPは、該目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のC末端プロペプチド配列を含み;そして
n-1、n-2、n-3、およびn-4は、独立して0または1であり;
ここで、該プロセシング部位は、酵母宿主細胞によってインビボでの該成熟タンパク質への該前駆体ポリペプチドのタンパク質分解性プロセシングを可能にし、ここで少なくともn-3またはn-4が1である、
方法。
【0009】
発明の要旨
発現系として酵母宿主細胞を使用する、異種タンパク質(より詳細には、異種の哺乳動物タンパク質)の発現、および生物学的に活性な成熟形態でのそれらの分泌のための組成物および方法が提供される。本発明の組成物は、酵母分泌タンパク質のシグナル配列、目的の成熟タンパク質の天然のプロペプチドリーダー配列、および目的の成熟タンパク質のペプチド配列をコードするヌクレオチド配列である。これらのエレメントの各々は、インビボで酵母タンパク質分解酵素により認識されるプロセシング部位と結合する。いくつかまたは全てのこれらのプロセシング部位は、インビボでより効率的な切断のために改変されるかまたは合成的に誘導される優先(preferred)プロセシング部位であり得る。次には、全てのこれらのエレメントは、酵母プロモーターおよび必要に応じて他の調節配列と作動可能に連結される。
【0010】
これらの組成物のヌクレオチドコード配列は、酵母分泌タンパク質のためのリーダーペプチド配列をさらに含み得る。存在する場合、このエレメント(これは、インビボで酵母タンパク質分解酵素により認識されるプロセシング部位とも結合する)は、酵母シグナル配列の3’側および目的の成熟タンパク質の配列の5’側に位置する。従って、酵母タンパク質分解酵素による切断は、目的の成熟タンパク質の配列を含むハイブリッド前駆体分子から酵母リーダー配列を除去する。
【0011】
これらの組成物は、異種哺乳動物タンパク質の発現および生物学的に活性な成熟形態でのそれらの分泌のための方法で有用である。特に、配列をコードするこれらのヌクレオチドコード配列を含むベクターは、酵母宿主細胞を形質転換するために使用され得、ついで、これは培養され得、そして目的の生物学的に活性な成熟タンパク質の分泌についてスクリーニングされ得る。
【0012】
本発明の方法は、これが天然のコンホメーション(confirmation)をとることが、前駆体ポリぺプチドにおける天然のプロペプチド配列の存在により容易になる哺乳動物タンパク質の産生に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、発現系として酵母宿主細胞を使用する、目的の異種タンパク質(より詳細には異種哺乳動物タンパク質)の発現および生物学的に活性な成熟形態でのそれらの分泌のための組成物および方法を提供する。「生物学的に活性な成熟形態」とは、そのコンホメーション形態が、そのタンパク質の生物学的活性が天然のタンパク質の生物学的活性と実質的に同じであるように、天然のコンホメーションと類似するタンパク質を意図する。
【0014】
本発明の組成物は、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、これらはそれぞれ目的の成熟異種タンパク質のポリペプチド配列を含む。これらのヌクレオチド配列(全て酵母プロモーター領域および酵母終結因子領域の作動制御下にある)を含む発現ベクターもまた提供される。本発明の方法は、このベクターでの酵母宿主細胞の安定な形質転換を包含し、ここで、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチドの発現が、生物学的に活性な形態での目的の成熟異種タンパク質の分泌を導く。
【0015】
「目的の異種タンパク質」とは、天然には酵母宿主細胞により発現されないタンパク質を意図する。好ましくは、異種タンパク質は、哺乳動物タンパク質であり、実質的に相同および機能的に等価であるその改変体を含む。「改変体」とは、天然のタンパク質のN末端および/またはC末端に1つ以上のアミノ酸の欠失(いわゆる短縮化)または付加;天然のポリペプチドの1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の欠失または付加;あるいは天然のポリペプチドの1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の置換による、天然のポリペプチドから誘導されたポリペプチドを意図する。このような改変体は、例えば、遺伝的多型性または人工的な操作から得られ得る。このような操作に関する方法は、一般に当該分野で公知である。
【0016】
例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列改変体は、目的の天然ポリペプチドをコードするクローン化されたDNA配列の変異により調製され得る。変異誘発およびヌクレオチド配列交互変化の方法は、当該分野で周知である。例えば、WalkerおよびGaastra編(1983)Techniques in Molecular Biology(MacMillan Publishing Company,New York);Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488-492;Kunkelら(1987)Methods Enzymol.154:367-382;Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor,New York);米国特許第4,873,192号;ならびにそれらで引用される参考文献;(これらは、本明細書で参考として援用される)を参照のこと。目的のタンパク質の生物学的活性に影響しない適切なアミノ酸置換に関する指針は、Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C.)でのDayhoffら(1978)のモデル(本明細書中で参照として援用される)に見出され得る。保存的置換(例えば、1つのアミノ酸を類似の特性を有する他のアミノ酸へ交換すること)は好まれ得る。保存的置換の例は、以下を含むがこれらに限定されない:Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln、およびPhe⇔Trp⇔Tyr。
【0017】
目的のタンパク質の改変体の構築では、改変体が所望の活性を保有し続けるように、改変が行われる。明白に、改変体タンパク質をコードするDNAでなされたいかなる変異も、リーディングフレーム外に配列を配置しないようであり、そして好ましくは二次的なmRNA構造を産生し得る相補領域を作製しない。EP特許出願公開第75,444号を参照のこと。
【0018】
従って、本発明のタンパク質は、天然に存在する形態ならびにその改変体を含む。これらの改変体は、実質的に相同であり、そして天然のタンパク質と機能的に等価である。天然のタンパク質の改変体は、そのアミノ酸配列の少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも95%が天然のタンパク質のアミノ酸配列と同一である場合、天然のタンパク質に対して「実質的に相同性」である。改変体は、1、2、3または4個のアミノ酸の程度で異なり得る。「機能的に等価」とは、改変体の配列が、目的の天然のタンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するタンパク質を産生する鎖を規定することを意図する。実質的な配列変化を含むこのような機能的に等価な改変体もまた、本発明により包含される。従って、天然タンパク質の機能的に等価な改変体は、治療的に有用であるために十分な生物学的活性を有する。「治療的に有用」とは、例えば、創傷の治癒のような治療の到達点に達するのに有効であることを意図する。
【0019】
機能的等価物を決定するための方法は、当該分野で利用可能である。生物学的活性は、天然のタンパク質の活性を測定するために特別に設計されたアッセイ(本発明で記載されるアッセイを含む)を使用して測定され得る。さらには、生物学的に活性な天然タンパク質に対して惹起される抗体が、これらの機能的に等価な改変体へ結合するこれらの能力について試験され得、ここで、有効な結合が、天然のタンパク質と類似のコンフォメーションを有するタンパク質を示す。
【0020】
目的の成熟異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、非酵母生物からクローニングされた配列であり得、または、それらは合成的に由来する配列であり得、通常は酵母優先(yeast-preferred)コドンを使用して調製され得る。本発明に適した異種タンパク質の例は、以下を含むがこれらに限定されない:トランスフォーミング増殖因子(TGF-αおよびTGF-β)、ソマトスタチン(SRIF 1など)、副甲状腺ホルモン、ならびにより詳細には、血小板由来増殖因子(PDGF)およびインシュリン増殖因子(IGF)、これらの全ては前駆体タンパク質の一部として天然のプロ配列を有する。
【0021】
従って、本発明の組成物は、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、これらはそれぞれ、目的の成熟異種タンパク質または任意の実質的な相同および機能的に等価であるその改変体のポリペプチド配列を含む。より詳細には、本発明のヌクレオチド配列は、以下の主要エレメントを含むハイブリッド前駆体ポリペプチドを5’から3’の方向にコードする:
5'-SP-(PS)n-1-(LP-PS)n-2-(NPROMHP-PS)n-3-MHP-(PS-CPROMHP)n-4-3'
ここでは:
SPは、酵母分泌タンパク質のシグナルペプチド配列を含み;
PSは、酵母タンパク質分解酵素によりインビボで切断されるプロセシング部位を含み;
LPは、酵母分泌タンパク質のリーダーペプチド配列を含み;
NPROMHPは、目的の成熟異種タンパク質の天然のN末端プロペプチド配列を含み;
MHPは、目的の上記成熟異種哺乳動物タンパク質のペプチド配列を含み;
CPROMHPは、上記目的の成熟異種哺乳動物タンパク質の天然のC末端プロペプチド配列を含み;そして
n-1、n-2、n-3、およびn-4は独立して0または1であり;
ここで、上記プロセシング部位は、酵母宿主細胞によるインビボでの上記成熟タンパク質への上記前駆体ポリペプチドのタンパク質分解プロセシングを可能にし、そしてここでは少なくともn-3またはn-4が1である。
【0022】
目的の異種タンパク質についての場合と同様に、ハイブリッド前駆体ポリペプチド中に存在するそれぞれの他のエレメントは、公知の天然に存在するポリペプチド配列であり得るか、または合成的に誘導され得、本明細書中で記載されるようなエレメントの機能に逆行的に影響しないその任意の改変体を含む。「逆行的に影響する」とは、エレメントの改変形態の含有が、エレメントの天然形態を含むハイブリッド前駆体ポリペプチドに対して、目的の分泌される成熟異種タンパク質の収量の減少を生じることを意図する。
【0023】
ハイブリッドの前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の構築では、前駆体ポリペプチドの種々のエレメントをコードするヌクレオチドフラグメントを結合するためにアダプターまたはリンカーを使用することは当該分野の技術範囲内である。例えば、Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor,New York)を参照のこと。従って、ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、上記で列挙された主要エレメントのいずれかの5’または3’に位置するさらなるエレメントを含み得、これらは存在する場合、酵母リーダーペプチド配列およびそれと結合する酵母認識プロセシング部位を含む。
【0024】
本発明の目的のためには、SPは、酵母分泌タンパク質の成熟形態の前駆体ポリペプチドについてのN末端配列であるプレ配列である。ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、形質転換された酵母宿主細胞で発現される場合、シグナルペプチド配列は、目的の成熟異種タンパク質を含むハイブリッド前駆体ポリペプチドを小胞体(ER)へ導くように機能する。ERの内腔への移動は、酵母宿主細胞の分泌経路への最初の段階を表す。本発明のシグナルペプチドは酵母宿主細胞に対して異種であり得るが、より好ましくはシグナルペプチドは、宿主細胞に対して固有である。
【0025】
本発明のシグナルペプチド配列は、公知の天然に存在するシグナル配列または上記のようなシグナルペプチドの機能に逆行的に影響しない任意のその改変体であり得る。本発明に適したシグナルペプチドの例は、以下を含むがこれらに限定されない:α因子のシグナルペプチド配列(例えば、米国特許第5,602,034号;Brakeら、(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:4642-4646を参照のこと);インベルターゼ(WO 84/01153);PHO5(DK 3614/83);YAP3(酵母アスパラギン酸プロテアーゼ3;PCT公開番号95/02059);およびBAR1(PCT公開番号87/02670)。あるいは、シグナルペプチド配列は、当該分野で利用可能なハイブリダイゼーションプローブ技術(Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor,New York)を参照のこと)を使用してゲノムまたはcDNAライブラリーから決定され得るか、または合成的に誘導され得る(例えば、WO 92/11378を参照のこと)。
【0026】
ERへの進入の間、シグナルペプチドはプロセシング部位で前駆体ポリペプチドから切断される。プロセシング部位は、酵母タンパク質分解酵素によりインビボで認識される任意のペプチド配列を含み得る。このプロセシング部位は、シグナルペプチドの天然に存在するプロセシング部位であり得る。より好ましくは、優先プロセシング部位であるように、天然に存在するプロセシング部位が改変されるか、またはプロセシング部位は合成的に誘導される。「優先プロセシング部位」とは、天然に存在する部位よりもより効率的に、酵母タンパク質分解酵素によりインビボで切断されるプロセシング部位を意図する。優先プロセシング部位の例は、以下を含むがこれらに限定されない:二塩基性ペプチド、詳細には2つの塩基性残基(LysおよびArg)の任意の組合せ、すなわちLys-Lys、Lys-Arg、Arg-Lys、またはArg-Argであり、より好ましくはLys-Arg。これらの部位は、Saccharomyces cerevisiaeのKEX2遺伝子によりコードされるエンドペプチダーゼ(Fullerら、Microbiology 1986:273-278を参照のこと)または他の酵母種の等価なプロテアーゼ(Juliusら(1983)Cell 32:839-852を参照のこと)により切断される。KEX2エンドペプチダーゼが、目的の成熟異種タンパク質のペプチド配列内部の部位を切断する場合には、他の優先プロセシング部位は、目的のペプチド配列がインタクトのままであるように利用され得る(例えば、Sambrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor,New York)を参照のこと)。
【0027】
機能的シグナルペプチド配列は、酵母細胞由来の異種タンパク質の細胞外分泌物をもたらすために不可欠である。さらに、ハイブリッド前駆体ポリペプチドは、この分泌プロセスをさらに促進するための酵母の分泌型タンパク質の分泌リーダーペプチド配列を含み得る。存在する場合、このリーダーペプチド配列は、一般に、シグナルペプチド配列プロセシング部位のすぐ隣の3’側に位置される。「分泌リーダーペプチド配列」(LP)によって、本発明の目的のために、分泌される成熟異種タンパク質を含むハイブリッド前駆体ポリペプチドである前駆体ポリペプチドの、細胞壁領域および/または増殖培地への細胞膜を横切る分泌のための、ERからゴルジ装置へ分泌され、そしてそこから分泌ベヒクルへの前駆体ポリペプチドの移動を導くペプチドが意図される。リーダーペプチド配列は、酵母宿主細胞に固有またはそれに対して異種であり得るが、より好ましくは、宿主細胞に固有である。
【0028】
本発明のリーダーペプチド配列は、シグナルペプチド配列の供給源として作用した同じ酵母分泌タンパク質について天然に存在する配列、異なる酵母から分泌されたタンパク質について天然に存在する配列、もしくは合成配列(例えば、WO 92/11378およびWO 95/02059を参照のこと)、またはリーダーペプチドの機能に逆行的に影響しないその任意の改変体であり得る。
【0029】
本発明の目的のために、リーダーペプチド配列は、存在する場合、好ましくはシグナルペプチド配列の供給源として作用した同じ酵母から分泌されたタンパク質、より好ましくは、α因子タンパク質由来である。前駆体α因子タンパク質をコードする多くの遺伝子がクローン化され、そしてそれらの組み合わされたシグナルリーダーペプチド配列が同定されている。例えば、Singhら、(1983) Nucleic Acids Res. 11: 4049-4063; Kurjanら、米国特許第4,546,082号;米国特許第5,010,182号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。α因子シグナルリーダーペプチド配列は、酵母において異種タンパク質を発現するために使用される。例えば、Elliottら、(1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 7080-7084; Bitterら、(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 5330-5334; Smithら、(1985) Science 229: 1219-1229; WO 95/02059;米国特許第4,849,407号および同第5,219,759号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0030】
オリゴペプチドを接合している約13残基長のフェロモンであるα因子は、約100と約200残基長との間、より代表的には約120〜160残基の大きな前駆体ポリペプチドから産生される。この前駆体ポリペプチドは、約19〜23(より代表的には20〜22残基)であるシグナル配列、約60残基であるリーダー配列、そして代表的には成熟フェロモン配列の2〜6のタンデム反復を含む。シグナルペプチド配列および全長α因子リーダーペプチド配列は使用され得るが、本発明についてより好ましくは短縮型α因子リーダーペプチド配列が、両エレメントがハイブリッド前駆体分子中に存在する場合、シグナルペプチドと共に使用される。
【0031】
「短縮型」α因子リーダーペプチド配列により、約20〜約60アミノ酸残基であり、好ましくは、約25〜約50アミノ酸残基長、より好ましくは、約30〜約40残基長である全長α因子リーダーペプチド配列の部分が意図される。酵母中の異種タンパク質の分泌を導く短縮型α因子リーダー配列を使用するための方法は、当該分野で公知である。特に、米国特許第5,602,034号を参照のこと。ハイブリッド前駆体ポリペプチド配列が短縮型α因子リーダーペプチドを含む場合、全長リーダーについての欠失は、好ましくはC末端由来であり、そして短縮型ペプチド配列中の少なくとも1つのグリコシル化部位(-Asn-Y-Thr/Ser-、ここでYは任意のアミノ酸残基である)を維持するような方法において行われる。改変が当該技術範囲内にある、このグリコシル化部位は、分泌を促進するために保持される(特に、WO 89/02463を参照のこと)。
【0032】
本発明のハイブリッド前駆体ポリペプチド配列が、α因子リーダー配列のようなリーダーペプチド配列を含む場合、リーダーペプチド配列の3’末端にすぐ隣接するプロセシング部位が存在する。このプロセシング部位は、酵母宿主細胞に固有のタンパク質分解酵素が目的の成熟異種タンパク質の天然のN末端プロペプチド配列の5’末端由来、または存在する場合、目的の成熟異種タンパク質のペプチド配列の5’末端由来の酵母分泌リーダーペプチド配列を切断することを可能にする。このプロセシング部位は、目的の成熟異種タンパク質が正確にプロセシングされ得るように、酵母タンパク質分解酵素によりインビボで認識される任意のペプチド配列を含み得る。このプロセシング部位についてのペプチド配列は、リーダーペプチド配列の天然のプロセシング部位について天然に存在するペプチド配列であり得る。より好ましくは、天然に存在するプロセシング部位は改変されるか、または、上で記載されるように優先プロセシング部位となるように、このプロセシング部位が合成的に誘導される。
【0033】
本発明において、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、目的の成熟異種タンパク質について天然のプロペプチド配列(PROMHP)を含む。「天然のプロペプチド配列」または「天然のプロ配列」により、初期前駆体ポリペプチド(または「プレプロタンパク質」)由来の天然のシグナルペプチド配列(またはプレ配列)の切断後に成熟タンパク質配列のN末端および/またはC末端に付着したままである。成熟分泌タンパク質についての中間前駆体ポリペプチド(「プロタンパク質」と呼ばれる)の部分が意図される。プロペプチド配列の残基は、成熟分泌タンパク質中に含まれない。むしろ、このような過剰残基は、トランスGolgiネットワーク(trans-Golgi network)(GriffithsおよびSimons (1986) Science 234: 438-443)および分泌顆粒(Orciら、(1986) J. Cell Biol. 103: 2273-2281)における分泌経路の終結付近のタンパク質分解酵素によるプロセシング部位で除去される。
【0034】
本発明は、目的の成熟異種タンパク質の天然のプロタンパク質前駆体形態のN末端および/またはC末端で天然に存在するプロペプチド配列の存在について提供する。従って、プロペプチド配列は、天然のプロタンパク質内のその方向に依存して、シグナルペプチド配列プロセシング部位の3’末端、存在する場合、もしくはリーダーペプチド配列に隣接する酵母認識プロセシング部位の3’末端と、目的の成熟異種タンパク質(N末端プロペプチド配列、PROMHP)についてのペプチド配列の5’末端との間に、または目的の成熟異種タンパク質(C末端プロペプチド配列、CPROMHP)についてのペプチド配列の3’側にすぐ隣接して位置される。本発明はまた、両プロペプチド配列が天然のプロタンパク質中に存在する場合、目的の成熟異種タンパク質についてのペプチド配列に隣接するN末端およびC末端プロペプチド配列の両方の包含を提供する。N末端およびC末端プロペプチド配列の両方が天然のプロタンパク質中に存在する場所、ハイブリッド前駆体ポリペプチド中の両プロペプチド配列の包含のための優先性は、実験的に決定される。
【0035】
天然のN末端および/またはC末端プロペプチド配列が本発明の使用について決定され得るように、プレプロタンパク質の天然のシグナルペプチドおよびプレタンパク質のプロペプチド配列についての天然に存在するプロセシング部位を決定するための方法は、当該分野において利用可能である(例えば、von Heijne (1983) Eur. J. Biochem. 133:17-21, (1984) J. Mol. Biol. 173: 243-251, 1986) J. Mol. Biol. 184: 99-105, および(1986) Nucleic Acids Res. 14: 4683-4690を参照のこと)。
【0036】
天然のN末端プロペプチド配列のすぐ隣の直接的3’側(存在する場合)、またはC末端プロペプチド配列へのすぐ隣の5’には、酵母タンパク質分解酵素によりインビボで認識されるプロセシング部位が存在する。このプロセシング部位は、目的の成熟異種タンパク質(MHP)についてのペプチド配列からのプロペプチド配列の切断を可能にする。天然に存在する部位が酵母宿主細胞のタンパク質分解酵素によりインビボで認識される場合、このプロセシング部位が、プロペプチド配列についての天然に存在するプロセシング部位であり得ることが認識される。より好ましくは、優先プロセシング部位であるために、天然に存在するプロセシング部位は改変されるか、またはプロセシング部位は合成的に誘導される。優先プロセシング部位の例は、他のプロセシングについて先に考察される例を含むが、これらに限定されない。好ましくは、これらの全てのプロセシング部位は、同じ酵母タンパク質分解酵素が、シグナルペプチド配列およびリーダーペプチド配列ならびに天然のプロペプチド配列の切断を生じるように類似している。
【0037】
上述のように、本発明に従って、酵母シグナルペプチドおよび分泌リーダーペプチド配列、ならびに、天然のペプチド配列は、酵母宿主細胞の分泌経路を通して、目的の成熟異種タンパク質についての配列を導き得る本発明のハイブリッド前駆体ポリペプチドのこれら部分を表す。
【0038】
本発明の1つの好ましい実施態様において、ハイブリッド前駆体ポリペプチドのヌクレオチド配列は5’から3’方向に、以下を含む:
5'-AFSP-tAFLP-PSL-NPROPDGF-PSNPRO-MPDGF-3'
ここで;
AFSPは、α因子シグナルペプチド配列およびプロセシング部位を含む;
tAFLPは、短縮型α因子分泌リーダーペプチド配列を含む;
PSLは、リーダーペプチド配列についての優先プロセシング部位を含む;
NPROPDGFは、成熟血小板誘導増殖因子(PDGF)の天然のN末端プロペプチドについてのペプチド配列を含む;
PSNPROは、N末端プロペプチド配列についての優先プロセシング部位を含む;そして
MPDGFは、上記成熟PDGFについての配列を含む。
【0039】
好ましくは、α因子シグナルペプチドおよび短縮型α因子分泌リーダーペプチド配列は、実施例で概略を説明されるようなS.cerevisiaeのMatα遺伝子由来である。好ましい短縮型α因子リーダーペプチド配列は、全リーダー配列のN末端部分を含む;すなわち全長配列の最初のアミノ酸残基で開始し、そして約20〜約60のアミノ酸残基長、好ましくは約25〜約50残基長、より好ましくは約30〜約40残基長へ広がる。1つの実施態様において、約35残基のリーダーが使用される。
【0040】
この好ましい実施態様の成熟タンパク質は、ヒト血小板誘導増殖因子(PDGF)である。間葉誘導細胞についての血清中の一次マイトジェンであるPDGFは、血小板α顆粒中に貯蔵される。血管への損傷は、損傷した脈管付近中のこれらの顆粒からのPDGFの放出を活性化する。このマイトジェンは、線維芽細胞および平滑筋細胞、ならびに単球および好中球についての有力な化学誘引物質として作用する。局在化したPDGFの分裂促進的な活性は、創傷回復のプロセスに寄与する、損傷部位でのこれらの細胞の増殖を生じる。
【0041】
精製された天然の血小板誘導増殖因子(PDGF)である約30,000ダルトンの糖タンパク質は、2つのジスルフィド結合したポリペプチド鎖から構成される。AおよびBと命名されたこれらの鎖の2つの形態は同定されている。天然のタンパク質は、ホモダイマーAAまたはBBまたはヘテロダイマーAB、あるいはその混合物として生じる。PDGF-A鎖についての部分的アミノ酸配列は同定されており(Johnssonら、(1984) EMBO J. 3: 921-928)、そして2つの形態のPDGF-A鎖前駆体をコードするcDNAが記載されている(米国特許第5,219,759号)。A鎖は、211アミノ酸前駆体ポリペプチドタンパク質分解プロセシングにより誘導される。このPDGF-B鎖をコードするcDNAはまた、記載されている(Nature (1985) 316: 748-750)。B鎖は、241アミノ酸前駆体ポリペプチドのタンパク質分解プロセシングにより誘導される。
【0042】
本発明の成熟PDGFタンパク質は、ホモダイマーPDGF-AAおよびPDGF-BBまたはヘテロダイマーPDGF-AB、そして先に定義したような、その任意の実質的に相同および機能的に等価な改変体を含む生物学的に活性なダイマー形態である。例えば、A鎖またはB鎖についての天然のアミノ酸配列は、N末端またはC末端のいずれかで短縮され得る。従って、B鎖の、それぞれN末端またはC末端から15までまたは10までのアミノ酸の除去は、改変体の生物学的活性に影響しない。さらに、アミノ酸置換体を作製し得る。例えば、セリンのようなアミノ酸は、天然の鎖の実質的に相同および機能的に等価である改変体を得るために、天然のヒトB鎖の43、52、53、および97位、ならびに天然のA鎖の対応する位置での任意のシステイン残基と置換し得る。例えば、A鎖の改変体は、C末端にさらなる6または19アミノ酸を有する改変体のような、クローン化されたDNA配列に基づいて公知である。例えば、Tongら、(1987) Nature 328:619-621; Betsholtzら、(1986) Nature 320:695-699を参照のこと。1つのPDGF B鎖改変体は、サル肉腫ウイルスのv-sis遺伝子によりコードされるアミノ酸配列の対応する実質的に相同な部位であり得る。この遺伝子産物p28sisの相同領域は、67アミノ酸で始まり、そして175アミノ酸に続き、そして4つのアミノ酸のみでヒトB鎖とは異なる(例えば、欧州特許出願第0 487 116 A1号を参照のこと)。機能的に等価である改変体は、実施例に記載されるように生物学的活性についてのアッセイにより決定され得る。
【0043】
本発明の成熟PDGFタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、ゲノム、cDNA、または合成DNAであり得る。このPDGFの天然型をコードする遺伝子は、配列決定されており、そしていくつかの改変体は当概分野において周知である。PDGFホモダイマーおよびヘテロダイマーの発現は、例えば、米国特許第4,766,073号; 同第4,769,328号; 同第4,801,542号; 同第4,845,075号; 同第4,849,407号; 同第5,045,633号;同第5,128,321号;および同第5,187,263号(本明細書中で参考として援用される)に記載される。A鎖およびB鎖ポリペプチドについての公知のアミノ酸配列に基づいて、PDGFA鎖およびB鎖ポリペプチドをコードする合成ヌクレオチド配列は、当該分野に有用な方法を使用してインビトロで作製され得る。特に、Sambrookら、(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor, New York)を参照のこと。目的の成熟タンパク質がヘテロダイマーPDGF-ABである場合、A鎖およびB鎖ポリペプチドを含むハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードする核酸配列は、1つの発現カセット部分として組み立てられ得るか、または酵母宿主細胞の同時形質転換のための別々の発現カセットに組み立てられ得る。
【0044】
成熟IGF-Iを含むこの好ましい実施態様において、短縮型α因子分泌リーダーペプチド配列のC末端、および天然のN末端プロペプチド配列のC末端は、優先プロセシング部位で終結し、好ましくはS.cerevisiaeのKEX2エンドペプチダーゼについて特異的である二塩基性プロセシング部位で終結する。このジペプチドは、塩基性残基LysおよびArgの任意の組合せであり得、より好ましくはLys-Argジペプチドである。
【0045】
さらに、天然のプレプロPDGF-Bは、51アミノ酸C末端プロペプチドを含む。別の好ましい実施態様において、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、5’から3’方向において、以下の改変された配列を含む:
5'-AFSP-tAFLP-PSL-NPROPDGF-PSNPRO-MPDGF-PSCPRO-CPROPDGF-3'
ここで:
CPROPDGFは、目的の上記PDGF成熟異種タンパク質についてのC末端プロペプチド配列を含む;そして
PSCPROは、C末端プロペプチド配列についての優先プロセシング部位を含む。
好ましくは、C末端プロペプチド配列についての優先プロセシング部位は、リーダーペプチド配列およびN−末端プロペプチド配列のプロセシング部位と類似しており、その結果同じ酵母タンパク質分解酵素は、α因子リーダーペプチド配列および両方の天然のプロペプチドについての配列の切断を引き起こす。これらの2つの付加成分の包含は実験的に決定される。
【0046】
本発明の別の好ましい実施態様において、ハイブリッド前駆体ポリペプチドのヌクレオチド配列は、5’から3’方向において、以下を含有する:
5'-AFSP-AFLP-PSL-MIGF-PSCPRO-CPROIGF-3'
ここで:
AFSPはα因子シグナルペプチド配列およびプロセシング部位を含む;
AFLPはα因子分泌リーダーペプチド配列を含む;
PSLはリーダーペプチド配列についての優先プロセシング部位を含む;
MIGFは成熟インスリン様増長因子(IGF)についてのペプチド配列を含む;
PSCPROはC末端プロペプチド配列について優先プロセシング部位を含む;そして
CPROIGFは、上記成熟IGFの天然のC末端プロペプチドについてのペプチド配列を含む。
【0047】
好ましくは、α因子シグナルペプチド配列およびα因子分泌リーダーペプチド配列は、PDGFについての好ましい実施態様に関して概略が記載されるようなS.cerevisiaeのMatα遺伝子に由来する。
【0048】
この好ましい実施態様の成熟タンパク質は、インスリン様増殖因子(IGF)であり、より詳細にはIGF-Iである。インスリン様増殖因子(IGF-I)は、ソマトメジンとして公知であるポリペプチドのファミリーに属する。IGF-Iは、特に発生の間、種々の細胞型の増殖および分裂を刺激する。例えば、欧州特許出願第560,723 A号および同第436,469 B号を参照のこと。従って、骨格増殖および細胞複製のようなプロセスは、IGF-Iレベルにより影響を及ぼされる。
【0049】
IGF-Iは、インスリンと構造的および機能的に類似しているが、抗原性は異なる。このことについては、IGF-Iは、3つの鎖内ジスルフィド架橋、およびそれぞれA、B、C、およびDドメインとして公知である4つのドメインを有する単鎖ポリペプチドである。AおよびBドメインは、Cドメインにより連結され、そしてプロインスリンの対応するドメインに相同である。C末端プロ配列であるDドメインは、IGF-I中に存在するが、プロインスリンには存在しない。IGF-Iは70アミノ酸残基を有し、そして約7.5kDaの分子量を有する。Rinderknecht (1978) J.Biol. Chem. 253:2769およびFEBS Lett. 89: 283を参照のこと。IGFの総説について、Humbel (1990) Eur. J. Biochem. 190:445-462を参照のこと。
【0050】
本発明の成熟IGFタンパク質は、生物学的活性な形態であり、そして上で定義したように、その実質的に相同および機能的に等価な任意の改変体である。機能的に等価な任意の改変体は、実施例に記載したようなアッセイを含む生物学的活性についてのアッセイにより決定され得る。代表的なアッセイは、胎盤膜を使用する公知のラジオレセプターアッセイ(例えば、米国特許第5,324,639号; Hallら、(1974) J. Clin. Endocrinol. and Metab. 39: 973-976;およびMarshallら、(1974) J. Clin. Endocrinol. and Metab. 39: 283-292を参照のこと)、BALB/c 3T3線維芽細胞のDNA中に、容量依存的様式でトリチウム化したチミジンの取り込みを増強する分子能力を測定するバイオアッセイ(例えば、Tamuraら、(1989) J. Biol. Chem. 262: 5616-5621を参照のこと)などを含み;これらは、本明細書中で参考として援用される。
【0051】
当該分野は、IGF-I改変体の調製および使用に関する実質的な指針を提供する。例えば、IGF-Iのフラグメントは、一般に、完全長分子の少なくとも約10の連続するアミノ酸残基、好ましくは完全長分子の約15〜25の連続するアミノ酸残基、そして最も好ましくは完全長IGF-Iの約20〜50またはそれ以上の連続するアミノ酸残基を含む。用語「IGF-Iアナログ」はまた、国際公開番号WO91/04282に記載されるような、1つ以上のペプチド模倣体(「ペプトイド」)を有するペプチドを捕捉する。いくつかのIGF-Iアナログおよびフラグメントが当該分野で公知であり、そして例えば、本明細書に参考として援用される; Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1986)83:4904-4907; Biochem. Biophys. Res. Commun.(1987)149:398-404; J. Biol. Chem.(1988)263:6233-6239; Biochem. Biophys. Res. Commun. (1989)165:766-771; Forsbergら(1990) Biochem. J. 271:357-363; 米国特許第4,876,242号および第5,077,276号; 国際公開番号WO87/01038およびWO89/05822に記載されるものを含む。代表的なアナログは、成熟分子のGlu-3の欠失をもつアナログ、N末端から5アミノ酸まで短縮されたアナログ、および最初の3つのN末端アミノ酸の短縮をもつアナログ、およびヒトIGF-Iの最初の16アミノ酸の代わりにヒトインスリンのB鎖の最初の17アミノ酸を含むアナログを含む。
【0052】
本発明の成熟IGFタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、cDNA、または合成DNAであり得る。IGFの天然の形態をコードする遺伝子は、配列決定され、そしていくつかの改変体が当該分野で周知である。IGF-Iおよびその改変体は、当該分野で周知であるかなり多くの任意の方法で産生され得る。例えば、IGF-Iポリペプチドは、血清または血漿のような血液から、公知の方法により直接単離され得る。例えば、本明細書に参考として援用される、米国特許第4,769,361号; Svobodaら(1980) Biochemistry 19:790-797; CornellおよびBoughdady(1982) Prep. Biochem. 12:57および(1984) Prep. Biochem. 14: 123を参照のこと。あるいは、IGF-Iは、当業者に公知である任意のいくつかの技術により化学的に合成され得る。例えば、本明細書中に参考として援用される、固相ペプチド合成技術について、StewartおよびYoung(1984) Solid Phase Peptide Synthesis(Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois)ならびにBaranyおよびMerrifield(1980) The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology(GrossおよびMeienhofer編)3-254頁、Vol.2(Academic Press, New York);および古典的溶液合成についてBodansky(1984) Principles of Peptide Synthesis(Springer-Verlag, Berlin)、ならびにGrossおよびMeienhofer編(1980) The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, Vol.1を参照のこと。本発明のIGF-Iポリペプチドはまた、同時複数ペプチド合成方法により化学的に調製され得る。例えば、本明細書に参考として援用される、Houghten(1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:5131-5135; 米国特許第4,631,211号を参照のこと。
【0053】
成熟IGF-Iを含む本発明の好適な実施態様では、短縮型α因子分泌リーダーペプチド配列のC末端および天然のC末端プロペプチド配列のN末端は、好適なプロセシング部位、好ましくは S.cerevisiaeのKEX2エンドペプチダーゼに特異的である二塩基性のプロセシング部位で終結する。ジペプチドは、塩基性残基LysおよびArgの任意の組合せであり得、より好ましくはLys-Argジペプチドであり得る。
【0054】
本発明のヌクレオチド配列は、酵母プロモーターに作動可能に連結されるとき、酵母宿主細胞中で、目的の生物学的に活性な成熟異種タンパク質を産生するために有用である。このように、本発明のハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、酵母宿主細胞中への導入のために発現カセットで提供される。これらの発現カセットは、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に連結される転写開始領域を含む。このような発現カセットは、ヌクレオチド配列が、調節領域の転写調節下にある挿入のために複数の制限部位を提供する。発現カセットは、選択マーカー遺伝子をさらに含み得る。
【0055】
このような発現カセットは、5'から3'方向にあり、かつ作動可能に連結された酵母認識転写および翻訳開始領域、目的の成熟タンパク質についての配列を含むハイブリッド前駆体ポリペプチド配列をコードするヌクレオチド、および酵母認識転写および翻訳終結領域を含む。「作動可能に連結された」により、ハイブリッド前駆体ポリペプチドのコード配列の、酵母認識転写および翻訳開始および終結領域の調節制御下にある発現が意図される。
【0056】
「酵母認識転写および翻訳開始および終結領域」により、コード配列(この場合、ハイブリッドポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列)に隣接する調節領域が意図され、そして酵母中のコード配列の転写および翻訳を制御する。これらの調節領域は、酵母宿主中で機能的でなければならない。転写開始領域、酵母プロモーターは、RNAポリメラーゼに対する結合部位を提供し、コード配列の下流(3')翻訳を開始する。プロモーターは、構成的または誘導性プロモーターであり得、そして特定酵母宿主に天然のまたは類似または外来または異種であり得る。さらに、プロモーターは、天然配列またはそれに代わって合成配列であり得る。外来により、転写開始領域が導入される転写開始領域の目的の天然の酵母中に見出されないことが意図される。
【0057】
適切な天然の酵母プロモーターは、野生型α因子プロモーターおよび他の酵母プロモーターを含むがこれらに制限されない。好ましくは、プロモーターは、解糖系酵素であるホスホグルコイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホトリオースイソメラーゼ、ホスホグルコムターゼ、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ(PyK)、グリセルアルデヒド-3リン酸デビドロゲナーゼ(GAPまたはGAPDH)、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)のプロモーターを含むリスト(EPO公開第284,044号)から選択される。例えば、EPO公開番号第120,551号および第164,556号を参照のこと。
【0058】
誘導性発現を可能にする、1つの酵母プロモーターの上流アクチベーター配列、および別の酵母プロモーターの転写活性化領域からなる合成ハイブリッドプロモーターもまた、酵母宿主において機能的プロモーターとして作用し得る。ハイブリッドプロモーターの例はADH/GAPを含み、これは、ADHプロモーターの誘導性領域が、GAPプロモーターの活性化領域と組み合わされている(米国特許第4,876,197号および第4,880,734号)。GAPまたはPyKのような解糖系酵素の転写活性化領域と組み合わせたADH2、GAL4、GAL10、またはPHO5遺伝子いずれかの上流アクチベーター配列を用いるその他のハイブリッドプロモーターが、当該分野で利用可能である(EPO公開第164,556号)。より好ましくは、酵母プロモーターは、誘導性ADH/GAPハイブリッドプロモーターである。
【0059】
酵母認識プロモーターはまた、酵母RNAポリメラーゼに結合し、そしてコード配列の翻訳を開始する天然に存在する非酵母プロモーターを含む。このようなプロモーターは、当該分野で利用可能である。例えば、本明細書に参考として援用される、Cohenら(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:1078; Mercereau-Puigalonら(1980) Gene 11:163; Panthierら(1980) Curr. Genet.2:109; Henikoffら(1981) Nature 283:835;およびHollenbergら(1981) Curr. Topics Microbiol. Immunol. 96:119を参照のこと。
【0060】
発現カセットの終結調節領域は、転写開始領域に固有であり得るか、またはそれが酵母宿主により認識されることを条件に他の供給源由来であり得る。終結領域は、天然のα因子転写終結配列の終結領域であり得るか、または上記の解糖系酵素の終結領域のような、別の酵母認識終結配列であり得る。より好ましくは、転写終結因子は、米国特許第4,870,008号に記載されるMat-α(α因子)転写終結因子である。
【0061】
本発明のハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、酵母宿主における発現のための発現カセットで提供される。このカセットは、目的のハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された5'および3'調節配列を含む。カセットはまた、酵母宿主中に同時形質転換されるべき、少なくとも1つのさらなる目的のヌクレオチド配列を含み得る。あるいは、さらなるヌクレオチド配列は、別の発現カセット上に提供され得る。適切な場合には、ハイブリッド前駆体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列および目的の任意のさらなるヌクレオチド配列は、形質転換された酵母において増加した発現のために最適化され得る。即ち、これらのヌクレオチド配列は、改善された発現のために酵母優先コドンを用いて合成され得る。目的の酵母優先ヌクレオチド配列を合成する方法が、当該分野で利用可能である(例えば、米国特許第5,219,759号および第5,602,034号を参照のこと)。
【0062】
さらなる配列改変が公知であり、細胞宿主におけるヌクレオチドコード配列の発現を増大する。これらは、不要のポリアデニル化シグナル、エキソン-イントロンスプライス部位シグナル、トランスポゾン様反復、およびこのような遺伝子発現に有害であり得る良く特徴付けられたその他の配列をコードする配列の除去を含む。配列のG-C含量は、宿主細胞中で発現された既知遺伝子を参照することにより計算されるように、所定の細胞宿主に対する平均レベルに調整され得る。可能な場合、ヌクレオチドコード配列は、予想されるヘアピン二次mRNA構造を避けるために改変される。
【0063】
発現カセットを調製することにおいて、種々のヌクレオチド配列フラグメントは、適切な配向で、そしてふさわしく適切な読み取り枠の配列で提供されるように操作され得る。この目的に向かって、アダプターまたはリンカーが、ヌクレオチドフラグメントを連結するために採用され得るか、または便利な制限部位、余分のヌクレオチドの除去、制限部位の除去などを提供されるために、他の操作を関与させ得る。この目的には、インビトロ変異誘発、プライマー修復、制限、アニーリング、再置換(例えば転位および転換)が関与され得る。特に、Sambrookら(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor, New York)を参照のこと。
【0064】
本発明の発現カセットは、レプリコン(例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、ミニ染色体)中に連結され得、それ故、インビボで自律DNA複製し得る発現ベクターを形成し得る。好ましくは、レプリコンはプラスミドである。このようなプラスミド発現ベクターは、発現目的のための酵母宿主細胞内、およびクローニング目的のための原核宿主内の安定な維持を可能にする、1つ以上の複製系、好ましくは2つの複製系中に維持される。このような酵母-細菌シャトルベクターの例は、Yep24(Botsteinら(1979) Gene 8:17-24; pC1/1(Brakeら(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 4642-4646)、およびYrp17(Stnichombら(1982) J. Mol. Biol. 158:157)を含む。
【0065】
さらに、プラスミド発現ベクターは、高または低コピー数プラスミドであり得、一般にコピー数は約1〜約200の範囲である。高コピー数酵母ベクターで、単一宿主中、一般に少なくとも10、好ましくは少なくとも20、そして通常約150コピーを超えない。選択された異種タンパク質に依存して、ベクターおよび外来タンパク質の宿主に対する影響に依存して、高または低コピー数ベクターのいずれかが所望され得る。例えば、Brakeら(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:4642-4646を参照のこと。本発明のDNA構築物はまた、組み込みベクターにより酵母ゲノム中に組み込まれ得る。このようなベクターの例は、当該分野で公知である。例えば、Botsteinら(1979) Gene 8:17-24を参照のこと。
【0066】
好ましくは、本発明の異種タンパク質の発現のために選択された宿主は酵母である。「酵母」により、子嚢胞子酵母(Endomycetales)、担子胞子酵母、および不完全菌(Blastomycetes)に属する酵母が意図される。子嚢胞子酵母は、2つの科SpermophthoraceaeおよびSaccharomycetaceaeに分けられる。後者は4つの亜科(subfamily)Schizosaccharomycoideae(例えばShizosaccharomyces属)、Nadsonioideae、Lipomycoideae、およびSaccharomycoideae(例えば、Pichia属、Kluyveromyces属、およびSaccharomyces属)を含む。担子胞子酵母は、Leucosporidium属、Rhodosporidium属、Sporidiobolus属、Filobasidium属、およびFilobasidiella属を含む。不完全菌に属する酵母は、2つの科Sporobolomycetaceae(例えば、Sporobolomyces属、Bullera属)およびCryptococcaceae(例えば、Candida属)に分けられる。本発明の目的に特に重要なのは、Pichia属、Kluyveromyces属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、およびCandida属の種である。目的に特に重要なのは、Saccharomycesの種、S.cerevisiae、S.carlsbergensis、S.diastaticus、S.douglasii、S.kluyveri、S.norbensis、およびS.oviformisである。Kluyveromyces属内で特に重要な目的の種は、K.lactisを含む。酵母の分類は、将来変わり得るので、本発明の目的には、酵母は、Skinnerら編(1980) Biology and Activities of Yeast (Soc. App. Bacteriol. Symp. Series No.9)に記載のように定義される。前記に加えて、当業者は、多分、酵母の生物学および酵母遺伝学の操作に親しんでいる。例えば、本明細書に参考として援用される、Bacilaら編(1978) Biochemistry and Genetics of Yeast; RoseおよびHarrison編(1987) The Yeasts(第2版); Strathernら編(1981) The Molecular Biology of the Yeast Saccharomycesを参照のこと。
【0067】
本発明の実施のための適切な酵母およびその他の微生物宿主の選択は、当該分野の技術内にある。発現のために酵母宿主を選択する場合、適切な宿主は、とりわけ、良好な分泌能力、低いタンパク質分解活性、および全体の成長力を有することが示された宿主を含み得る。一般に、酵母およびその他の微生物は、Yeast Genetic Stock Center, Department of Biophysics and Medical Physics, University of California, Berkeley, California; およびAmerican Type Culture Collection, Rockville, Marylandを含む種々の供給源から入手可能である。
【0068】
外来DNAを酵母宿主中に導入する方法は、当該分野で周知である。酵母を形質転換する広範な種類の方法がある。例えば、スフェロプラスト形質転換は、本明細書に参考として援用される、Hinnenら(1978) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1919-1933およびStinchcombら、EPO公開番号45,573により教示される。形質転換体は、適切な栄養培地中で増殖し、そして適切な場合には、選択圧力の下で維持し、内因性DNAの保持を確実にする。発現が誘導性である場合、高密度の細胞を生じる酵母宿主の増殖を可能にし、次いで発現が誘導される。分泌された成熟異種タンパク質は、任意の従来手段により回収され、そしてクロマトグラフィー、電気泳動、透析、溶媒-溶媒抽出などにより精製され得る。
【0069】
以下の実施例は、例示のために提供され、制限を意図するものではない。
【実施例】
【0070】
以下の実施例は、開示された発明に従って、成熟ヒトPDGF-Bをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターの構築をさらに記載する。酵母宿主で生物学的に活性な成熟PDGF-BBを産生するためのこの発現ベクターの使用を示す実施例もまた提供される。
【0071】
さらなる実施例は、開示された発明に従って、成熟ヒトIGF-Iをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを記載し、そして酵母宿主中で生物学的に活性な成熟IGF-Iを産生するためのこの発現ベクターの使用を示す。
【0072】
実施例1:プラスミドベクターpAB24
rhPDGF-BBを発現するために選択されたベクターpAB24は、酵母-細菌シャトルベクターである。このプラスミドは、いくつかの天然に存在する細菌プラスミド由来のpBR322からの配列、および内因性 S.cerevisiae2-μプラスミド(Broach(1981)Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces(Cold Spring Harbor Press, New York)、1:445-470)の配列のキメラである。これはまた、E.coliおよびS.cerevisiae宿主の両方において選択を可能にする遺伝子をコードする。pAB24のpBR322部分は、βラクターマーゼをコードするアンピシリン耐性(Apr)付与遺伝子、およびテトラサイクリン耐性(Tcr)を付与する遺伝子を含む。これらの遺伝子は、コンピテントE.coliの形質転換およびプラスミドを含む細菌の選択を可能にする。テトラサイクリン耐性をコードする遺伝子に存在する特有のBamHIクローニング部位は、発現カセットの挿入のために利用される部位である。このベクターのpBR322部分はまた、E.coliにおける複製を可能にするColE1-様複製起点を含む。YEp24(Botsteinら(1979) Gene 8:17-24)由来の2つのS.cerevisiae遺伝子URA3およびleu2dは、これら遺伝子のいずれかまたは両方を欠いている酵母宿主株における選択を可能にする。後者の遺伝子leu2dは、5'非翻訳プロモーター領域の一部分を欠き、そしてロイシン欠損培地中の増殖のために高プラスミドコピー数を必要とする。これは、LEU2を欠く酵母株の相補のために十分なLEU2タンパク質発現を達成することが必要である(ErhartおよびHollenberg(1983) J. Bacteriol. 156:625-635)。pAB24の2-μ配列は、S.cerevisiaeにおいて発現プラスミドの複製と分裂を与える。図1は、鍵となる制限部位および遺伝的エレメントをもつプラスミドpAB24の概略マップを示す。pAB24の構築の記載は、欧州特許出願公開EPO 0324 274 B1に見出され得る。
【0073】
PDGF-B遺伝子を含む、3つの発現プラスミドpYAGL7PB、pYL7PPB(pYAGL7PPBとしても知られる)、およびPYJST400を用いて酵母宿主中でPDGF-BBを産生した。これらの発現ベクターのすべては、PDGF-B遺伝子を含む発現カセットが挿入されたプラスミドとしてpAB24を利用している。
【0074】
実施例2:発現プラスミドpYAGL7PBの構築
一般的な記載
プラスミドpYAGL7PBは、以下の特徴を有する発現カセットを含む。転写は、誘導性の、ハイブリッド酵素プロモーターADH/GAPによって媒介される。このプロモーターは、S. cerevisiae ADH2遺伝子(BeierおよびYoung (1982) Nature 300:724-728)由来のADR2転写因子応答性配列およびS. cerevisiae遺伝子TDH3(糖分解酵素グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)をコードする)由来のプロモーター配列を含む。ADR2転写因子応答性配列は、下流配列に対して誘導性遺伝子転写を与える。誘導は、増殖培地におけるグルコース涸渇によって達成される。転写の終結は、α型S. cerevisiae接合因子(Matα)遺伝子由来の終結因子によって媒介される(Brakeら(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 4642-4646)。
【0075】
カセットは、ヒトPDGF-B遺伝子をコードする配列に融合した短縮型Matα配列をコードするオープンリーディングフレームをさらに含む。短縮型α因子リーダーは、インフレームタンパク質融合物の分泌を媒介する。これは、S. cerevisiaeα因子リーダーの誘導体(Matα遺伝子の産物)(KurjanおよびHerskowitz(1982) Cell 30:933-943)である。二塩基性のアミノ酸プロセシング部位は、短縮型α因子リーダー/PDGF-B結合部に存在し、正確にプロセスされたrhPDGF-BBポリぺプチドの酵母による産生を容易にする。図2は、pYAGL7PB発現カセットのマップ(これらの特徴およびこの発現カセットの構築に関連する制限酵素部位を強調してある)を示す。短縮型α因子リーダーPDGF-B一次翻訳産物をコードするオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および配列番号2に示す。
【0076】
pYAGL7PBの連続的構築
以下は、この発現ベクターを構築するために行われる連続的な工程の記載である。
【0077】
PDGF-B合成遺伝子の構築および酵母発現ベクター中へのクローニング
部分的二塩基性プロセシング部位をコードする合成遺伝子およびrhPDGF-B(配列番号3〜4)を、17の重複するオリゴヌクレオチド(配列番号5〜21)から、Urdeaら(Proc. Natl. Acad Sci. USA 80 (1983): 7461-7465)に記載されるように作製した。フラグメントの連結により、XbaI-SalIフラグメントを生じ、続いてこれをXbaI-SalIで切断したpPAG/αFベクター中に挿入した。
【0078】
プラスミドpPAG/αFは、BamHI部位によって分離される発現カセットを有するpBR322誘導体である。発現カセットには、ADH/GAPハイブリッドプロモーター、ならびに酵母α因子リーダー(BamH1-XbaI)、XbaI-SalI遺伝子フラグメント、およびMatα(α因子)転写終結因子(SalI-BamHI)をコードするオープンリーディングフレームが含まれる。異種タンパク質を発現し得るXbaI-SalI遺伝子フラグメント(インフレーム)のこのプラスミド中への置換により、異種タンパク質の発現および分泌が可能となる。酵母グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)遺伝子プロモーターの単離、プロモーターのADH2成分の起点、およびハイブリッドADH/GAPプロモーターの構築は、米国特許第4,876,197号および同第4,880,734号に記載される。転写終結因子を含む酵母α因子遺伝子の単離は、米国特許第4,870,008号に記載される。
【0079】
ジデオキシ配列決定の際に、合成遺伝子配列が、標準的な手順により修復される単一の塩基対変異を有することを見出した。プラスミドpPAGBB-1は、正確な合成PDGF-B(XbaI-SalI)遺伝子を含有するpPAG/αFに由来するプラスミドである。
【0080】
二塩基性プロセシング部位を有する合成短縮型α因子リーダー遺伝子の構築
短縮型α因子リーダーは、インフレームハイブリッドポリぺプチドの分泌を媒介する。これは、S. cerevisiaeα因子リーダーの誘導体で、α型接合因子の分泌リーダー、Matα遺伝子の産物であり(KurjanおよびHerskowitz(1982) Cell 30:933-943)、そして天然のリーダーのはじめの35アミノ酸からなる。分泌を媒介するための短縮型α因子リーダー遺伝子の構築および使用は、EPO公開第0324 274 B1号に記載される。匹敵する部分的(アミノ酸8〜35)短縮型α因子リーダー(L7)、および二塩基性プロセシング部位の一部をコードする合成オリゴヌクレオチドを、配列番号22に示されるオリゴヌクレオチドから作製し、そして配列番号23に示される相補鎖で組み立てられる場合には、3'-ACGTC-および5'-CTAG-オーバーハングを有するPstI-BglIIフラグメントを生じて、発現カセットへの都合の良い連結を可能にした。
【0081】
pAGL7PBの構築
この構築の目的は、pPAGBB-1のPDGF-B発現カセットにおける完全長α因子リーダーのほとんどについての、上記の合成の部分短縮型α因子リーダーPstI-BglII遺伝子フラグメントの置換であった。pBR322配列、ADH/GAPハイブリッドプロモーター(5'末端でBamHI部位によって標識した)、および5'部分α因子リーダー遺伝子配列(天然のα因子リーダーのはじめの7アミノ酸をコードする)を含む1.9kb Pst Iフラグメントを、pPAGBB-1から単離した。これを、キナーゼ処理し、アニーリングした合成オリゴヌクレオチド1.49/3゜.40に連結した。BamHIでの消化の後に、部分発現カセット5'フラグメント(ADH/GAPハイブリッドプロモーターおよび短縮型α因子リーダーの5'部分についての配列を含む)を得た。
【0082】
同様に、PDGF-B合成遺伝子、α因子終結因子(3'末端でBamHI部位で標識した)、およびpBR322配列を含有するBglIIフラグメントを、pPAGBB-1から単離した。これを、キナーゼ処理し、アニーリングした合成オリゴヌクレオチド2.32/4゜.50に連結した。BamHIでの消化の後に、部分発現カセット3'フラグメント(短縮型α因子リーダーの3'部分、PDGF-B、およびα因子リーダー転写終結因子についての配列を含む)を得た。完全PDGF-B発現カセットを5'および3'部分的発現カセット遺伝子フラグメントの連結およびBamHIでの消化の後に得た。BamHI発現カセットを、pBR322由来ベクター(pBRDEco-Sal)のBamHI部位中にクローニングして、プラスミドpAGL7PBを得た。このプラスミドにおけるPDGF-B発現カセットのマップを以下の図2に示す。
【0083】
pYAGL7PBの構築
pAGL7PBのPDGF-B発現カセットをBamHI消化によって単離し、上記の酵母-細菌シャトルベクターpAB24のBamHI部位に挿入した。酵母発現プラスミドpYAGL7PBを単離した。pYAGL7PBのプラスミドマップを図3に示す。完全発現カセットのヌクレオチド配列および短縮型α因子リーダーPDGF-B一次翻訳産物をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)の推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号24および配列番号25に示す。
【0084】
発現株同定:MB2-1 (pYAGL7PB)
発現プラスミドpYAGL7PBを、標準的な手順でS. cerevisiae MB2-1中に形質転換し、そして原栄養性ウラシルコロニーを選択した。独立した形質転換体からの個々のコロニーを、単一のコロニーのロイシン原栄養体について選択する培地への接種の後に発現についてスクリーニングした。この培地はまた、ADR2調節(PDGF-B遺伝子を含む)抑制下での配列の発現を維持するためのグルコースを多く含む。培養を引き続き希釈し、そしてウラシルを含まない低グルコース培地中でコンフルエンシーまで増殖させた。細胞を含まない培養上清を、調製し、そしてPDGF-BBについて免疫活性(ELISA)によっておよび3T3細胞についての分裂促進活性によってアッセイした。高PDGF-BB発現コロニーであるMB2-1(pYAGL7PB#5)を同定した。
【0085】
実施例3:発現プラスミドpYL7PPBの構築
一般的な記載
プラスミドpYL7PPB(pYAGL7PPBとしても知られる)は、以下の特徴を有する発現カセットを含む。転写開始および終結は、誘導性のハイブリッド酵母プロモーターADH/GAPおよび上記のMatα転写終結因子によって媒介される。遺伝子は、rhPDGF-BBの分泌を媒介する短縮型酵母α因子リーダーをコードするオープンリーディングフレームをさらに含む。発現構築物中に含まれるプロペプチド配列は、唯一の天然のN末端プロペプチド配列である;天然のC末端プロペプチド配列は、構築物中には含まれていなかった。N末端プロペプチド配列を含むことは、おそらく折り畳みが改善されるために、rhPDGF-BBの発現の増強を生じた。短縮型α因子リーダー/N末端プロぺプチドおよびN末端プロペプチド/PDGF-B結合部での二塩基性プロセシング部位は、正確にプロセシングされるrhPDGF-BBポリぺプチドの酵母による産生を容易にするために含めた。図4は、これらの特徴を強調するpYL7PPB発現カセットおよびこの発現カセットの構築に関連する部位のマップを示す。短縮型α因子リーダープロPDGF-B一次翻訳産物をコードするオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号26および配列番号27に示す。
【0086】
pYL7PPBの連続的構築
rhPDGF-B cDNAの供給源
天然のヒトプレプロPDGF-B、λhPDGFb-17をコードするクローン化cDNAは、共同研究者Arne OstmanおよびCarl Heldinによって提供された。hPDGF-BをコードするcDNAの単離を、ヒトクローン化グリア細胞株U-343 MGa Cl2(Ostmanら、(1988) J. Biol. Chem. 263:16202-16208)から単離したRNAから調製したcDNAライブラリーを使用して達成した。
【0087】
pSV7d-PDGF A103-B1の構築
プラスミドpSV7d-PDGF A103-B1は、N末端プロペプチドPDGF-B cDNAの供給源であった。プラスミドを下記のように構築した。
【0088】
クローンλhPDGFb-17からの3kbのEco R1 PDGF-B cDNA挿入物を切り出し、そして哺乳動物発現ベクターpSV7dの唯一のEco RI部位にクローン化し、プラスミドphPDGFβ-1(pSV7d-PDGF-B1としても知られる)を得た。
【0089】
それぞれのcDNA由来のPDGF-AおよびB鎖の両方の同時発現のための哺乳動物プラスミドであるpSV7d-PDGF A103-β1を、以下のように構築した。プラスミドphPDGFβ-1をPstIで、2つのプラスミドPstI部位(pSV7dベクター骨格のアンピシリン耐性遺伝子中の部位での所望の単一切断)の1つでの切断に有利な条件下で消化し、そしてPstI消化pSV7d-PDGF-A103(D1)と連結した。この後者のプラスミドは、PDGF-B鎖cDNAではなくPDGF-A鎖の長い211アミノ酸形態をコードするcDNAを含むこと以外は、PDGF-B哺乳動物発現プラスミドphPDGFβ-1に厳密に類似している。このプラスミドは、pSV7dベクター骨格のアンピシリン耐性遺伝子中の単一のPstI部位を含有する。
【0090】
形質転換の後、それぞれのまたは適切に標識したEcoRI cDNAプローブを用いて、PDGF-BおよびPDGF-A cDNA配列の両方の存在について細菌コロニーをスクリーニングした。PDGF-Bおよび-A鎖配列の両方について陽性であるコロニーを、プラスミドDNAのEcoRI消化によってさらにスクリーニングし、そして予想されたEcoRIパターンを有するプラスミドpSV7d-PDGF A103-B1を同定した。
【0091】
hPDGF-B cDNAの変異誘発
PDGF-B cDNAを(1)短縮型α因子分泌リーダーの導入を可能にするSacI部位を導入するため、および(2)二塩基性アミノ酸Arg-ArgをコードするhPDGF-B cDNA配列をLys-Argをコードするように変化させるために変異誘発させた。この二塩基性の組み合わせは、酵母二塩基性プロセシング酵素KEX2エンドペプチダーゼによって、Arg-Argよりも効率的に切断される。変異誘発のためのテンプレートは、以下のように調製した。
【0092】
約3kbのEcoRI hPDGF-B cDNAを、pSV7d-PDGF A103-B1から単離し、そしてpBR322のEcoRI部位に挿入して、プラスミドpPPB/6を得た。2.7kbのPstI-EcoRI cDNAフラグメントのヌクレオチド配列を確認した。0.9kb PstI-NcoI cDNAフラグメントをM13のPstI-NcoI部位に挿入し、そして挿入したヌクレオチド配列を確認した。PDBF-B cDNAの部分ヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号28および配列番号29に示す。
【0093】
M13 PstI-NcoI PDGF-B cDNAフラグメントの二重変異誘発を、以下のプライマーを使用して標準的な方法によって行った。プライマー1(配列番号30)はSacI部位を導入する;プライマー2(配列番号31)はプロペプチド/PDGF-B結合部でArg-ArgをLys-Argに変換する。さらなる変異を導入して、標識プライマーを用いるハイブリダイゼーションによる変異誘発された配列の検出を容易にした。プライマー1変異誘発によって一次アミノ酸配列には変化は生じなかった;Arg⇒Lysアミノ酸変化のみがプライマー2変異誘発から生じた。変異体hPDGF-B挿入物を、プライマー1および2放射標識プローブの両方のハイブリダイゼーションによって検出した。DNA配列を確認し、そしてRF(二重標準)プラスミドを調製した。
【0094】
pL7PPB(pAGL7PPB)の構築
本質的に、以下に記載する工程は、短縮型α因子リーダーC末端部分、Lys-Arg二塩基性プロセシング部位、およびPDGF-BをコードするpAGL7PB中のPDGF-B発現カセットのXhoI-SalI部分(図2)の、短縮型α因子リーダーのC末端部分、Lys-Arg二塩基性プロセシング部位、PDGF-B N末端プロペプチド、Lys-Arg二塩基性プロセシング部位、およびPDGF-BをコードするXhoI-SalI遺伝子フラグメントとの置換を生じる。N末端PDGF-BプロペプチドおよびPDGF-Bをコードする配列は、上記のようにcDNAに由来した。生じる発現カセットのマップを図4に示す。
【0095】
プロPDGF-B遺伝子のほとんどを含む447bp SacI-SphIフラグメントを、改変されたプレプロPDGF-B cDNAを含有するM13 RFから単離した。短縮型α因子リーダーのC末端部分、Lys-Arg二塩基性プロセシング部位、およびPDGF-BプロペプチドのN末端部分をコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチド(配列番号32〜33)を連結して、3' SacIオーバーハングを有するフラグメントを得た。合成オリゴヌクレオチドであるSph-Sal I/Sph-Sal II(PDGF-Bの最後の14アミノ酸をコードする配列を含む)および終止コドンを結合させて、SphI-SalIフラグメント(配列番号34〜35)を得た。アニーリングしたオリゴヌクレオチドのこれらの2つのセットを、447bp SacI-SphIプロPDGF遺伝子フラグメントに連結した。これにより、短縮されたα因子リーダーのC末端部分、Lys-Arg二塩基性プロセシング部位、およびプロPDGF-Bをコードする配列を含む遺伝子フラグメントを生じた。 合成オリゴヌクレオチド(短縮型α因子リーダーの中央のアミノ酸をコードする配列を含む)を連結して、5' XhoIオーバーハングを有するフラグメント(配列番号32〜33)を生じた。このアニーリングしたオリゴヌクレオチドを、XhoIで切断したpAGL7PB(発現カセット中のpAGL7PBプラスミド中の唯一の部位、図2を参照のこと)と連結した。オリゴヌクレオチドアニーリングの後、改変されたプラスミドをSalIで消化し、pAGL7PB XhoI-SalIフラグメントを欠失させ、そしてベクター/遺伝子フラグメントを生じた。
【0096】
PDGF-B発現カセットの構築における最終工程は、遺伝子フラグメントのベクター/遺伝子フラグメントへの連結であり、図5に示すようにプラスミドpL7PPB(pAGL7PPB)を生じた。PstI-BamH1挿入物フラグメントを単離し、そしてヌクレオチド配列決定により所望の構築物を得たことを確認した。pL7PPB中のPDGF-B発現カセットのマップを図4に示す。
【0097】
pYL7PPB(pYAGL7PPB)の構築
pL7PPBのPDGF-B発現カセットは、上記のようにBamHI消化後に単離して、そして酵母シャトルベクターpAB24のBamHI部位に挿入し、酵母発現プラスミドpYL7PPBを得た。pYL7PPBの地図を図6に示す。完全な発現カセットのヌクレオチド配列および短縮型α因子リーダー-Lys-Arg-プロPDGF-Bをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)の推定アミノ酸配列を、それぞれ、配列番号36および配列番号37に示す。酵母発現プラスミドpYL7PPBの完全なヌクレオチド配列を決定した。
【0098】
発現株の同定:MB2-1(pYL7PPB)
発現プラスミドpYL7PPBをS.cerevisiae MB2-1へと、標準的な手順によって形質転換し、そしてプラスミドが保有するウラシル原栄養体を単離コロニーとして選択した。独立した形質転換体からの個々のコロニーをロイシン原栄養性について選択する増殖培地への単離コロニーの播種後の発現についてスクリーニングした。培地はまた、ADR2調節(PDGF-B遺伝子を含む)下の配列の発現を抑制状態に維持するためにグルコースが高濃度である。続いて、培養物を希釈し、そして低グルコースのウラシルを欠く選択増殖培地中でコンフルエントにまで増殖させた。無細胞上清をPDGF-BBについて、免疫活性(ELISA)および3T3細胞に対する分裂促進性活性によりアッセイした。常に高レベルの発現を示すいくつかの形質転換体の凍結ストックを調製した。反復試験後、平均で最も高いPDGF-BBの発現を示す形質転換体であるMB2-1(pYL7PPB#22)を選択した。
【0099】
実施例4:発現プラスミドpYJST400
α因子リーダー配列とN末端プロペプチドとの間のLys-Arg二塩基性プロセシング部位を発現プラスミドpYL7PPBからインビトロ変異誘発によって除去して、発現プラスミドpYJST400を構築した。従って、pYJST400は、単一の二塩基性プロセシング部位を有する。これは、プロペプチド/PDGF-B接合部に存在する。この最初のプロセシング部位の除去を行って、α因子リーダーペプチドによって媒介されるような酵母からのrhPDGF-BBの分泌に対する相対的な影響を決定した。
【0100】
実施例5:組換えヒトPDGF-BBの発現
組換えヒトPDGF-BBを、ヒトPDGF-Bをコードする遺伝子を含む多重コピー酵母発現プラスミドで遺伝子改変した、酵母Saccharomyces cervisiaeの株から産生した。好ましいS.cerevisiae株MB2-1は遺伝子型:Matα、ura3Δ、leu2-3、leu2-112、his3-11、his3-15、pep4Δ、[cir゜]を有する。これは、ウラシル、ロイシン、およびヒスチジンに対して栄養要求性であり、最小培地において増殖させる場合にはこれらの栄養補充成分を要求する。MB2-1は、内因性2-μプラスミド(これは、導入されるプラスミドの安定性を阻害する傾向にあり、そして内因性プラスミドと導入されるプラスミドとの間の組換えを促進する)を含まない。この株は、PEP4遺伝子の産物である機能性プロテアーゼA(これは、異種タンパク質の産生を阻害する)を発現しない。MB2-1を、これらの有利な特徴(これは、異種タンパク質の高発現についての選択を含む)を付与するために設計した。
【0101】
酵母発現プラスミドpYAGL7PB、pYL7PPB、およびpYJST400を酵母株MB2-1へと、Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:1929〜1933に記載されるように形質転換し、そしてura-、8%グルコース、ソルビトールプレート上にプレートした。形質転換体をleu-、8%グルコース液体培地中で24時間増殖させて、次いで、leu-8%グルコースソルビトールプレート上にプレートして、個々のコロニーを得た。個々のコロニーを拾い、そして3mlのleu-、8%グルコース培地において24時間30℃で増殖させ、次いで1リットルのura-、1%グルコース培地に播種(1:50)し、そして75時間30℃で増殖させた。酵母培養培地をPDGF活性についてヒト包皮線維芽細胞分裂促進因子アッセイによりアッセイした(以下の実施例5を参照のこと)。
【0102】
表1に示すように、N末端プロペプチドをコードする配列を含ませると、生物活性およびELISAによって測定される場合、rhPDGF-BBの分泌が平均3.4倍の増加を生じた。さらに、リーダー/プロペプチド接合部でのLys-Argプロセシング部位の除去はrhPDGF-BB分泌の2.8倍の減少を生じた(表1)。
【0103】
これらの結果は、天然のN末端プロペプチドの存在が酵母宿主細胞のタンパク質分解酵素による認識の改善のために改変された優先プロセシング部位に隣接する場合、生物学的に活性な成熟rhPDGF-BBの分泌が増強された。従って、リーダー/プロペプチド接合部ならびにプロペプチド/PDGF-B接合部での切断は、明らかに、プロPRGF-Bの正確な折り畳みおよび/またはプロセシングおよび/または輸送を容易にし、成熟rhPDGF-BBの分泌を増強する。
【0104】
【表1】

実施例6:ヒト包皮繊維芽細胞(HFF)
PDGFに関するマイトジェンアッセイ
ヒト包皮繊維芽細胞ストックを凍結保存した;凍結はパッセージ13であった。使用前に、HFFを解凍し、次いでT75フラスコ中でコンフルエントになるまで(これは通常5〜7日で生じる)増殖させた。増殖培地は、Dulbeccoの改変イーグル培地(DMEM)、20%ウシ胎児血清(FBS)、1mMピルビン酸ナトリウム、300μg/ml L-グルタミン、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを含んだ。細胞を加湿化7%CO2、93%空気雰囲気下で37℃でインキュベートした。コンフルエンシーにおいて、Ca2+およびMg2+を含まないリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で単層をリンスし、EDTAを含むトリプシン中でそれらを分離し、そして増殖培地でそれらを希釈することによって継代した。細胞を解凍後8回だけ継代した。
【0105】
PDGFに関してアッセイするために、HFFを以下のようにプレートした。細胞を上記のようにリンスし、そしてトリプシンで分離した。トリプシン化細胞をペレット状にし、そして5%FBSを20%FBSに置き換えた以外は、増殖培地と同様の培地中に1×105細胞/mlの濃度に再懸濁し;懸濁液の100μlを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに分配し;次いで、細胞を上記の条件下で5〜6日インキュベートした。
【0106】
サンプル中のPDGFを、PDGFによって刺激されるHFF DNAへの3H-チミジンの取り込みをモニターすることによって決定した。サンプルをHFF単層を含むウェルに添加し、そしてこのアッセイプレートを18時間上記のようにインキュベートした。次いで、HFF培養物を、37℃で上記インキュベーション条件下で8時間、[メチル-3H]チミジン(10μC/ml最終濃度、1μC/ウェル)でパルスした。インキュベーションの後、細胞をPBSでリンスし、そして固定化した。固定化は5%トリクロロ酢酸(TCA)、次いで100%メタノールで15分間インキュベーションし、次いで空気中で乾燥することによって行った。次に細胞を0.3N NaOHで可溶化し、次いで液体シンチレーションカウンターでカウントした。
【0107】
コントロールサンプルを上記のサンプルのように処理し、そして以下のように調製した。ポジティブコントロールに関して、PDGF(PDGF, Inc.から購入した)を10mg/ml BSAを含むDMEM中に、最終濃度100ng/mlまで溶解した。標準曲線を調製し;第1の点は10ng/mlであり、残りの点は2倍段階希釈である。各希釈液を3通り試験した。ネガティブコントロール(これはサンプルおよびコントロールPDGFの両方を含まない)もまた行った。
【0108】
実施例7:発現プラスミドpYLUI
プラスミドpYLUIGF24は、ハイブリッド酵母プロモーターADH/GAP、およびヒトIGF-I-A遺伝子をコードする配列に融合したMatα因子リーダー配列を有する発現カセットを含む。この配列を酵母優先コドンを用いて合成的に誘導した。二塩基アミノ酸プロセシング部位は、α因子リーダー/IGF-I-A接合部に存在する。α因子リーダー/IGF-I-A一次翻訳産物をコードするオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号38および配列番号39に呈示する。
【0109】
プラスミドpYLUIGF34は、pYLUIGF24と、そのオープンリーディングフレームでのみ異なる。このカセットは、C末端プロ配列を有するヒトIGF-I-A遺伝子をコードする配列に融合した完全長Matα因子リーダー配列をコードするオープンリーディングフレームを含む。二塩基アミノ酸プロセシング部位は、α因子リーダー/IGF-I-AおよびIGF-I-A/IGF-I-Aプロ配列接合部に存在する。α因子リーダー-proIGF-I-A一次翻訳産物をコードするオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を、それぞれ配列番号40および配列番号41に呈示する。
【0110】
これらのプラスミドは両方とも、上記のように酵母シャトルベクターpAB24の特有のBamHIクローニング部位にそれぞれの発現カセットを挿入することによって作製した。
【0111】
実施例8:組換えヒトPDGF-BBの発現
組換えヒトIGF-I-Aを酵母Saccaromyces cerevisiae株によって産生し、これはヒトIGF-I-Aをコードする遺伝子を含む多コピー酵母発現プラスミドで遺伝的に改変されている。酵母発現プラスミドpYLUIGF24およびpYLUIGF34を上記の手順によって酵母菌株に形質転換した。
【0112】
ウェスタンブロットデータは、適切にプロセスされたIGF-IAタンパク質が、プロ配列、改変KEX2プロセシング部位、および酵母分泌リーダーと共に得られたことを示した。
【0113】
本明細書中に記載された全ての刊行物および特許出願は、本発明が関連する当業者の水準を示す。全ての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が詳細にかつ個別に参考として援用されるように示されているのと同程度に本明細書中で参考として援用される。
【0114】
上記の発明は、理解を明確にするための例示および実施例としてある程度詳細に記載されているが、特定の変更および改変が添付の請求項の範囲内で実施され得ることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、プラスミドpAB24の地図である。
【図2】図2は、pAGL7PBおよびpYAGL7PBのrhPDGF-B発現カセットの地図である。
【図3】図3は、rhPDGF-B発現プラスミドpYAGL7PBの地図である。
【図4】図4は、pL7PPBおよびpYL7PPBのrhPDGF-B発現カセットの地図である。
【図5】図5は、pL7PPBのrhPDGF-B発現カセットの構築における最終工程を示す。
【図6】図6は、rhPDGF-B発現プラスミドpYL7PPBの地図である。
【0116】
【数1】

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【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の、ヌクレオチド配列。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−119008(P2008−119008A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338286(P2007−338286)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【分割の表示】特願平10−526926の分割
【原出願日】平成9年12月12日(1997.12.12)
【出願人】(591076811)カイロン コーポレイション (265)
【Fターム(参考)】