説明

酵素を用いてケト化合物をエナンチオ選択的に還元する方法

【課題】酵素を用いて有機ケト化合物をエナンチオ選択的に還元して相応するキラルのヒドロキシ化合物にする方法、Lactobacillus minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼ、及びラセミ体から(S)−ヒドロキシ化合物をエナンチオ選択的に得る方法を提供する。
【解決手段】上記課題は、有機溶剤、アルコールデヒドロゲナーゼ、水、補因子及びケト化合物を含有する二相系を使用することにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケト化合物を酵素を用いてエナンチオ選択的に還元して相応するキラルのヒドロキシ化合物にする方法、ラクトバチルス・ミノア(Lactobacillus minor)からのアルコール−デヒドロゲナーゼ、及び酵素を用いてラセミ体から(S)−ヒドロキシ化合物をエナンチオ選択的に得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性ヒドロキシ化合物は、多数の薬理学的に重要な化合物を製造するための有用な合成原料である。この化合物は古典的な化学的方法によって製造が困難であることが多く、薬理学的用途に必要なエナンチオマー純度が達成できるのはまれである。従って、キラル化合物の製造のために、一般にバイオテクノロジーによる方法が用いられ、この場合に立体選択的反応は完全な微生物か又は単離された酵素を用いて実施される。
【0003】
この場合に、単離された酵素を使用することが有利であることが多い、それというのもこの酵素を用いると一般的に比較的高い収率ならびに比較的高いエナンチオマー純度が達成できるためである。
【0004】
デヒドロゲナーゼ及び特にアルコール−デヒドロゲナーゼは、有機ケト化合物を相応するキラルのアルコールにする立体化選択的還元により、キラルの生成物を得るために有用な触媒である。主に酵母、ウマの肝臓又はサーモアネロビウム・ブロッキ(Thermoanaerobium brockii)からの相応する酵素が公知である。これらの酵素は補酵素としてNADH(ニコチンアデニンジヌクレオチド)又はNADPH(ニコチンアデニンジヌクレオチドホスフェート)が必要である。他の公知のアルコール−デヒドロゲナーゼは、たとえばロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)からの(S)−特異的アルコール−デヒドロゲナーゼ又はラクトバチルス(Lactobacilius)属からの(R)−特異的アルコール−デヒドロゲナーゼである。2つの酵素タイプは、ケト化合物に関して広い基質スペクトルを有し、かつ高いエナンチオ選択性を示す。ラクトバチルス・ケフィール(Lactobacillus kefir)(ドイツ連邦共和国特許第4014573号明細書)及びラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)(ドイツ連邦共和国特許第19610984号明細書)からのアルコール−デヒドロゲナーゼは、特にキラルの(R)−アルコールを得るために適している。
【0005】
アルコール−デヒドロゲナーゼを使用する欠点は、もちろん有機溶剤中でこのアルコール−デヒドロゲナーゼの酵素安定性及び酵素活性がわずかであることであり、かつ還元すべきケト化合物の水溶性がわずかなことが多いことである。さらに、有機溶剤中でアルコール−デヒドロゲナーゼを使用することに対して他の制限的要因は補因子需要としてのNADP又はNADの使用が必要であることである、それというのもこの補因子(NADP又はNAD)は水溶性であり、かつ経済的方法で再生されるためである。
【0006】
本発明は、プロセス条件を変更することにより前記の欠点を改善することを目的とする。この課題は、本発明の場合に、有機溶剤、アルコール−デヒドロゲナーゼ、水、補因子及びケト化合物を含有する二相系を使用することにより解決される。
【0007】
本発明によるこの方法は、溶剤の酵素安定化作用による高い耐用時間、製造されたキラルのヒドロキシ化合物の99.9%を越えるエナンチオマー純度及び使用したケト化合物の量に対する高い収率を示す。
【0008】
従って、本発明による方法は、次の式I
1−C(O)−R2 (I)
[式中、R1及びR2は相互に無関係に、同じ又は異なり、次のものを表す
1. 水素原子、
2. −(C1〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖である、
3. −(C2〜C20)−アルケニル、この場合にアルケニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の二重結合を含有する、
4. −(C2〜C20)−アルキニル、この場合にアルキニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の三重結合を含有する、
5. −(C6〜C14)−アリール、
6. −(C1〜C8)−アルキル−(C6〜C14)−アリール、又は
7. R1及びR2は−C(O)−基と一緒になって−(C6〜C14)−アリール又は−(C5〜C14)−ヘテロ環を形成し、
その際、上記の1〜7に挙げられた基は非置換であるか、又は相互に無関係に次の基により1〜3箇所置換されてる、
a) −OH、
b) ハロゲン、たとえばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、
c) −NO2
d) −C(O)−O−(C1〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖であり、非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されているか、又は
e) −(C5〜C14)−ヘテロ環、このヘテロ環は非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている]
のケト化合物をエナンチオ選択的に還元する方法に関において、
a) 式Iの化合物、アルコール−デヒドロゲナーゼ、水、補因子及びlogP 0.5〜4.0の有機溶剤を、
b) 二相系の形でインキュベートし、かつ
c) 生成したキラルのヒドロキシ化合物を単離することを特徴とする、ケト化合物をエナンチオ選択的に還元する方法に関する。
【0009】
−(C6〜C14)−アリール基の環中の炭素原子はたとえばフェニル、ナフチルである。アリールの概念とは、6〜14個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基であると解釈され、例えば1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、例えば2−ビフェニリル、3−ビフェニリル及び4−ビフェニリル、アントリル又はフルオレニルである。ビフェニリル基、ナフチル基及び特にフェニル基が有利なアリール基である。「ハロゲン」の概念は、一連のフッ素、塩素、臭素又はヨウ素からの元素であると解釈される。「−(C1〜C20)−アルキル」の概念は、炭素鎖が直鎖又は分枝鎖であり、1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基であると解釈される。
【0010】
「−(C5〜C14)−ヘテロ環」の概念は5員〜14員の単環式又は二環式の複素環であり、この複素環は部分的に飽和されているか又は完全に飽和されていると解釈される。ヘテロ原子の例はN、O及びSである。−(C5〜C14)−ヘテロ環の概念の例は、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、テトラゾール、1,2,3,5−オキサチアジアゾル−2−オキシド、トリアゾロン、オキサジアゾロン、イソオキサゾロン、オキサジアゾリジンジオン、トリアゾール(これらはF、−CN、−CF3又は−C(O)−O−(C1〜C4)−アルキルにより置換されている)、3−ヒドロキシピロロ−2,4−ジオン、5−オキソ−1,2,4−チアジアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、インドール、イソインドール、インダゾール、フタラジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、カルボリン及びこれらのヘテロ環のベンゼン縮合した、シクロペンタ縮合した、シクロヘキサ縮合した又はシクロヘプタ縮合した誘導体から誘導される基である。特に有利なのは、2−又は3−ピロリル、フェニルピロリル、例えば4−又は5−フェニル−2−ピロリル、2−フリル、2−チエニル、4−イミダゾリル、メチルイミダゾリル、例えば1−メチル−2−、−4−又は−5−イミダゾリル、1,3−チアゾル−2−イル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−、3−又は4−ピリジル−N−オキシド、2−ピラジニル、2−、4−又は5−ピリミジニル、2−、3−又は5−インドリル、置換2−インドリル、例えば1−メチル−、5−メチル−、5−メトキシ−、5−ベンジルオキシ−、5−クロロ−又は4,5−ジメチル−2−インドリル、1−ベンジル−2−又は−3−インドリル、4,5,6,7−テトラヒドロ−2−インドリル、シクロヘプタ[b]−5−ピロリル、2−、3−又は4−キノリル、1−、3−又は4−イソキノリル、1−オキソ−1,2−ジヒドロ−3−イソキノリル、2−キノキサリニル、2−ベンゾフラニル、2−ベンゾ−チエニル、2−ベンゾオキサゾリル又はベンゾチアゾリル又はジヒドロピリジニル、ピロリジニル、例えば2−又は3−(N−メチルピロリジニル)、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロチエニル又はベンゾジオキソラニルの基である。
【0011】
式Iに有利な化合物は、4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル、アセトフェノン、アセト酢酸メチルエステル、エチル−2−オキソ−4−フェニルブチレート、2,5−ヘキサンジオン、エチルピルベート又は2−オクタノンであり、有利なのは4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルである。式Iの化合物は、本発明による方法において、全体積に対して2%〜30%、有利に10%〜25%、特に15%〜22%の量で使用される。
【0012】
水には緩衝剤、例えばpH値5〜10、有利にpH値6〜9のリン酸カリウム緩衝剤、Tris/HCl緩衝剤又はトリエタノールアミン−緩衝剤を添加するのが有利である。この緩衝剤濃度は10mM〜150mM、有利に90mM〜110mM、特に100mMである。付加的にこの緩衝剤はマグネシウムイオン、例えばMgCl2を0.2mM〜10mM、有利に0.5〜2mM、特に1mMの濃度で含有する。
【0013】
この温度は、例えば約10℃〜70℃、有利に30℃〜60℃である。
【0014】
本発明による使用可能な有機溶剤は、有利にlogP 0.6〜2.0、特に0.6〜1.9、特に有利に0.63〜1.75を有する。有利な有機溶剤は、例えばジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル又は酢酸エチルエステル、特に酢酸エチルエステルである。酢酸エチルエステルは、例えば反応バッチの全体積に対して1%〜90%、有利に15%〜60%、特に20%〜50%の量で使用することができる。
【0015】
有機溶剤対水の割合は、9:1〜1:9、有利に1:1〜1:3である。
【0016】
水は本発明による二層系において第1の液相を形成し、有機溶剤は第2の液相を形成する。場合により、例えば完全には溶解しないアルコール−デヒドロゲナーゼ又は式Iの化合物によって生じる固相又は他の液相がなお存在することもできる。しかしながら固相のない2つの液相が有利である。この2つの液相は、機械的に混合するのが有利であり、それにより2つの液相間に大きな境界面が生じる。
【0017】
水相に対する補因子のNADPH又はNADHの濃度は、0.05mM〜0.25mM、特に0.06mM〜0.2mMである。
【0018】
本発明による方法の場合に、アルコール−デヒドロゲナーゼの他の安定剤を使用することも有利である。適当な安定剤は、例えばグリセリン、ソルビトール又はジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0019】
グリセリンの量は、全体のバッチの体積に対して5%〜30%である。グリセリンの有利な量は10%〜20%、特に20%である。
【0020】
使用されたNADH又はNADPHの再生のために、本発明による方法の場合に付加的にイソプロパノールを添加することができる。例えば、イソプロパノール及びNADPはアルコール−デヒドロゲナーゼによりNADPH及びアセトンに変換される。使用したイソプロパノール量は、全体のバッチの体積に対して5%〜30%である。イソプロパノールの有利な量は10%〜20%、特に10%である。
【0021】
適当なアルコール−デヒドロゲナーゼは、例えば酵母、ウマの肝臓又はRhodococcus erythropolisから由来し、この場合にこれらの酵素は補酵素としてNADHを必要とし、またThermoanaerobium brockii, Lactobacillus kefir又はLactobacillus brevisから由来する酵素はこの場合に補酵素としてNADPHを必要とする。
【0022】
本発明による方法において、例えば酵母、ウマの肝臓、Thermoanaerobium brockii又はRhodococcus erythropolisからのアルコール−デヒドロゲナーゼを使用する場合には、式Iの化合物から相応する(S)−ヒドロキシ化合物が得られる。本発明による方法において、例えばLactobacillus kefir又はLactobacillus brevisからのアルコール−デヒドロゲナーゼを使用する場合には、式Iの化合物から相応する(R)−ヒドロキシ化合物が得られる。
【0023】
このアルコール−デヒドロゲナーゼは本発明による方法の場合に完全に精製して又は部分的に精製して使用することができるか、又は細胞中に含まれた状態で使用することができる。この場合に使用された細胞はネーティブの、易透化した形又は溶解した形で存在することができる。
【0024】
使用したアルコール−デヒドロゲナーゼの体積活性は、約20mg/ml〜22mg/mlのタンパク質含有量の場合に、100単位/ml(U/ml)〜2000U/ml、有利に約800U/mlである。有利に使用したアルコール−デヒドロゲナーゼは、タンパク質1mgあたり約35〜40Uの比活性を示す。式Iの反応すべき化合物1kgに応じてアルコール−デヒドロゲナーゼ20000〜200000U、有利に約100000Uが使用される。この場合に酵素単位1Uは、1分(min)あたり1μmol分の式Iの化合物を反応させる酵素量に相当する。
【0025】
本発明による方法は、例えばガラス又は金属からなる閉鎖した反応容器中で実施される。このため、これらの成分は個々に反応容器内へ導入され、例えば窒素又は空気の雰囲気下で撹拌される。基質及び使用した式Iの化合物に応じて、反応時間は1日〜14日、有利に4〜7日である。
【0026】
引き続き、この反応混合物は後処理される。このために、水相を分離し、酢酸エチルエステル相を濾過する。この水相を場合によりもう1回抽出し、同様に酢酸エチルエステル相をさらに後処理する。その後で、この濾過した相を減圧下で蒸発させる。こうして、例えば生成物の4−クロロ−3−(S)−ヒドロキシ酪酸エチルエステルが99.9%を上回るエナンチオマー純度で得られ、これは出発物質の4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルを実質的に有していない。このプロセスの全体の収率は生成物の蒸留後に、使用した出発物質量に対して82〜88%である。
【0027】
意外にも、log−P値0〜4の有機溶剤はアルコール−デヒドロゲナーゼに関して安定化作用を示し、一方では先行技術において有機溶剤を用いた二相系の使用は推奨していなかった(M.R. Kula, U. Kragel著; 第28章, Dehydrogenases in Synthesis of Chiral Compounds; R. N. Patel著, Stereoselective Biocatalyses, 2000; Peters J. 著9. Dehydrogenases−Characteristics, Design of Reaction Conditions, and Application, In: N.J. Rehm, G. Reed著Biotechnology, Vol 3, Bioprocessing, VCH Weinheim, 1993; J. Lynda et al. 著,−Solvent selection strategies for extractive Biocatalysis, Biotechnol. Prog. 1991, 7, 116− 124頁)。本発明の方法の場合に、有機相として酢酸エチルエステルが使用され、この場合に有機相は一方で式Iの化合物のリザーバーとして用いられるが、同時にキラルのヒドロキシ化合物を水相から抽出する反応生成物でもある。
【0028】
先行技術の場合とは反対に、log−P値0〜3の有機溶剤の使用により、付加的に時間の経過と共にアルコール−デヒドロゲナーゼの安定化が増進される。先行技術においては、特にlog−P値(オクタノール/水−分配係数の対数)0〜2の有機溶剤は酵素に関して特に不安定化作用を示し、従って、二相系の形での有機相としてほとんど記載されていない(K. Faber著, Biotransformations in organic chemistry, 3rd edition 1997, Springer Verlag, 第3章〜3.17章まで)。
【0029】
本発明は、さらにLactobacillus minorからの高い最適温度を示すアルコール−デヒドロゲナーゼに関する。Lactobacillus minorからのこのアルコール−デヒドロゲナーゼは、添付した配列表に記載のSEQ ID NO:3(SEQ ID NO:3)によるDNA配列及びSEQ ID NO:4(SEQ ID NO:4)によるアミノ酸配列を示す。Lactobacillus minorからのこのアルコール−デヒドロゲナーゼはR特異的であり、この場合に、式Iの化合物から相応する(R)−ヒドロキシ化合物を得ることができる。Lactobacillus minorからのこのエナンチオ選択的アルコール−デヒドロゲナーゼは、意外にもEscherichia coli RB 791中で過剰発現できるが、他の種類のLactobacillus属からのアルコール−デヒドロゲナーゼは著しくわずかにしか発現することができなかった。このことはよりいっそう意外である、それというのもLactobacillus minorの野生株自体中でアルコール−デヒドロゲナーゼは極めてわずかにしか発現されず、従って通常のスクリーニング法(完全細胞バイオトランスフォーメーション、活性テスト)を用いて検出できなかったためである。従って、Lactobacillus minorからR−エナンチオ選択的アルコール−デヒドロゲナーゼがクローニングされ、Escherichia coli中で異常に強く過剰発現可能(クローンの細胞タンパク質の50%、20000単位/湿潤重量g)であったことは極めて意外であった。
【0030】
Lactobacillus minorから精製されたこの酵素は、約5.5〜8.5のpH領域で安定である。この酵素は約40℃まで安定であり、酵素反応の最適pHはpH7〜pH7.5の範囲内にある。この酵素反応の最適温度は、約55℃であり、この酵素は広い基質スペクトルを示す。
【0031】
この酵素は疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて35〜40U/タンパク質mgの比活性まで精製される。
【0032】
本発明は、Lactobacillus minorからアルコール−デヒドロゲナーゼを収得する方法にも関する。このためには、Lactobacillus minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼをコードするDNAを適当な原核生物又は真核生物中で発現させる。Lactobacillus minoからのこのアルコール−デヒドロゲナーゼをEscherichia coli株、特にEscherichia coli RB 791中に形質転換し、発現させる。
【0033】
Lactobacillus minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼは、例えば組み換えEscherichia coli細胞を培養し、アルコール−デヒドロゲナーゼの発現を誘導し、引き続き約10〜18時間(h)後に細胞を超音波処理によるか又はフレンチ−プレス(Gaullin, Siemens)により分解することにより得られる。得られた細胞抽出物を、直接使用するか又はさらに精製することができる。このために、細胞抽出物は例えば遠心分離し、得られた上澄液を疎水性相互作用クロマトグラフィーにかける。このクロマトグラフィーはマグネシウムイオンを含有する水性緩衝液中でpH7.0で実施するのが有利である。
【0034】
本発明は、さらにエナンチオ選択的に式II
1−C(OH)−R2 (II)
[式中、R1及びR2は相互に無関係に、同じ又は異なり、次のものを表す
1. 水素原子、
2. −(C1〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖である、
3. −(C2〜C20)−アルケニル、この場合にアルケニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の二重結合を含有する、
4. −(C2〜C20)−アルキニル、この場合にアルキニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の三重結合を含有する、
5. −(C6〜C14)−アリール、
6. −(C1〜C8)−アルキル−(C6〜C14)−アリール、又は
7. R1及びR2は−C(O)−基と一緒になって−(C6〜C14)−アリール又は−(C6〜C14)−ヘテロ環を形成し、
その際、上記の1〜7に挙げられた基は非置換であるか、又は相互に無関係に次の基により1〜3箇所置換されてる、
a) −OH、
b) ハロゲン、たとえばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、
c) −NO2
d) −C(O)−O−(C1〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖であり、非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている、又は
e) −(C6〜C14)−ヘテロ環、このヘテロ環は非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている]の(S)−ヒドロキシ化合物を得る方法において、
a) 式IIの化合物を含有するラセミ混合物、本発明によるアルコール−デヒドロゲナーゼ、水、補因子及びlog−P値0.5〜4.0の有機溶剤、例えば一連のジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル又は酢酸エチルエステルからの有機溶剤を、
b) 二相系の形のインキュベートし、かつ
c) 生成したエナンチオマー純粋の(S)−ヒドロキシ化合物を単離する
ことを特徴とする、(S)−ヒドロキシ化合物を得る方法に関する。
【0035】
この反応条件は、式Iのケト化合物をエナンチオ選択的に還元する前記方法とほぼ同じである。しかしながら、この方法の場合には式Iのケト化合物のエナンチオ選択的還元を行う代わりに、式IIの相応する(R)−ヒドロキシ化合物を相応するケト化合物に酸化する。さらに、この方法の場合には、NADPの再生のためにイソプロパノールの代わりにアセトンを使用する。例えば、アセトン及びNADPHはアルコール−デヒドロゲナーゼによりNADP及びイソプロパノールに変換される。使用したアセトン量は、全体のバッチの体積に対して5%〜30%である。アセトンの有利な量は10%〜20%、特に10%である。
【0036】
本発明によるアルコール−デヒドロゲナーゼは、式IIの化合物の製造のために、完全に又は部分的に精製して存在することができるか、又は細胞中に含まれた状態で方法に使用することもできる。この細胞はネーティブの、易透化した形又は溶解した形で存在することができる。
【0037】
本発明の対象は、Lactobacillus minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼを発現するEscherichia coli RB 791の組み換えクローンでもあり、これは2001年3月26日にブタペスト条約の条件下でDeutschen Sammlung fuer Mikroorganismen und Zellkulturen(Mascheroder Weg 1b, 38124 Braunschweig)に番号DSM14196で寄託されている。
【0038】
本発明を次の実施例により詳説する:
【実施例1】
【0039】
完全細胞バイオトランスフォーメーションを用いたLactobacillus属の株中でのR−アルコール−デヒドロゲナーゼのスクリーニング
スクリーニングするために、次の媒体中で多様なLactobacillen株を培養した(数値はそれぞれg/l):グルコース(20)、酵母抽出物(5)、肉抽出物(10)、クエン酸水素二アンモニウム(2)、酢酸ナトリウム(5)、硫酸マグネシウム(0.2)、硫酸マンガン(0.05)、リン酸水素二カリウム(2)。
【0040】
この媒体を121℃で滅菌し、Lactobacillus属の株(以後、短縮してL.と表記する)をさらにpH調節又は酸素供給せずに培養した引き続き、この細胞を遠心分離により除去し、完全細胞バイオトランスフォーメーションのために細胞4gをリン酸カリウム緩衝液(KPi−緩衝液)(50mM、pH=7.0)10mlの最終体積に再懸濁させた。グルコースをそれぞれ0.1g添加した後に、細胞を15分間30℃で振盪させた。細胞懸濁液に4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル4を40mMの最終濃度で添加し、それぞれ10分後及び120分後に媒体のガスクロマトグラフィー分析を行った。このために細胞を遠心分離により除去し、上澄液を濾過し、クロロホルム中で4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルが最終濃度10〜15μg/mlになるまで希釈した。
【0041】
基質として使用した4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルを、多様なLactobacillen株で反応させて次のエナンチオマー純度でエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートにした。
【0042】
このエナンチオマー過剰量は次のように計算した:ee(%)=((R−アルコール−S−アルコール)/(R−アルコール+S−アルコール))×100。
第1表
【0043】
【表1】

【実施例2】
【0044】
組み換えたR−特異的アルコール−デヒドロゲナーゼの収得
A.) Lactobacillus属の株からのゲノムDNAの調製
Lactobacillus属の培養液約2mlからの細胞ペレットを、TE−緩衝液300μl(Tris/HCl 10mM、pH=8、EDTA 1mMを含有)中に再懸濁させ、リゾチーム20mg/mlを添加し、37℃で10分間インキュベートした。引き続き、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)100μl、過塩素酸Na(5M)100μl及びクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)500μlを添加した。強力に振盪した後、タンパク質を遠心分離により除去し、水相を新たなエッペンドルフ型容器に移した。その後、エタノール(EtOH)(96%)800μlを添加した。このエッペンドルフ型容器を数回インキュベートし、引き続き沈殿した染色体DNAを新たなエッペンドルフ型容器に移し、EtOH200μlで洗浄した。このDNAをまた新たなエッペンドルフ型容器に移し、減圧下で乾燥し、TE−緩衝液100μl中に溶かした。
B.) PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)のための5′−及び3′−プライマーとしてのオリゴヌクレオチド
PCRのために使用したプライマーは、L.kefirからのアルコール−デヒドロゲナーゼの公知のN−末端及びC−末端配列から誘導した。この場合に、Lactobacillen中の所定のコドンについての公知の優先性を考慮した。各5′−プライマーの前にコドンATG(Met)を開始コドンとして配置し、さらに発現ベクター内での後のクローニングを可能にするために、5′−プライマーの先頭の開始コドンに続いて制限酵素Bam HI用の切断部位(GGATCC)を配置した。3′−プラマーの背後に停止コドン(TAG)及びHind III用の切断部位(AAGCTT)を配置した。このプライマー構築物を次に記載する。
【0045】
N=A、T、C又はG; Y=T又はC; R=A又はG
5′プライマー
5′GCGGATCCATGACNGAYCGNTTRAARGGNAARGTNGC3′
(SEQ ID NO:1)
3′プライマー
5′GGGAAGCTTCTAYTGNGCNGTRTANCCNCCRTCNAC3′
(SEQ ID NO:2)
これらのプライマーは公知の方法により製造した。
C.) Lactobacillus属の株からのゲノムDNAを用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)
PCR−バッチ(100μl)
【0046】

【0047】
dNTP'sはデオキシヌクレオチドトリホスフェート、たとえばdATP、dGTP、dCTP、dTTPである。
【0048】
サイクル:
95℃で2分、その後
80℃を維持
ホットスタート、その後
95℃で30秒間、その後
40℃で1分間 30×
その後、それぞれ30回95℃で30秒、40℃で1分、引き続き
72℃で2.5分、
その後
72℃で2.5分、
その後
10℃を維持
分析のためにこのバッチ10μlを1%のアガロースゲル上に設置し、一定の100Vで電気泳動により分離した。このPCRは約750bpのDNAフラグメントの明らかな増幅を示した。
D.) ゲルからのPCR−フラグメントの単離
PCR−フラグメントを得るために、全PCR−バッチを1%のアガロースゲル上に設置し、一定の100Vで電気泳動により分離した。このために、ゲルは2つのトレースに分かれ、そのトレースの一方は完全なPCR−バッチを有し、他方は5μlの試料を有するため、ゲルからPCR−フラグメントを切り出すために、試料を有するトレースをエチジウムブロミドで染色し、エチジウムブロミドによる及びUV光による単離すべきPCR−フラグメントの損傷を排除した。
【0049】
ゲルからの単離はQiagen社 (Hilden在)のQlAquick Gel Extraction Kitを用いて行った。
【0050】
濃度測定により全体濃度は20ng/μl DNAであった。
E.) リゲーション
リゲーションを準備するために、精製されたPCR−フラグメント及び使用したクローニングベクターpQE30又はpQE70(両方ともQuiagen社)をBarn Hl及びHind IIIで切断した(4μl DNA=200ng DNA、1μl 10×緩衝液、1μl 酵素、BSA及びH2O(Biolabs, New England))。
【0051】
切断されたこのプラスミドを新たにQIAquick Gel Extraction Kitで精製し、水中に入れ、アルカリ性ホスファターゼにより脱リンした(USB, Amersham Life Science)。
【0052】
精製のために相応する反応バッチを新たに1%のアガロースゲル上に設置し、消化させた増幅物並びにプラスミドをD.)に記載したのと同様にゲルから単離した。プラスミド及び増幅物の濃度は精製後に約20ng/μlであった。
【0053】
リゲーションのためにpQE30又はpQE70(60ng)3μl、増幅物(50ng)2.5μl、リガーゼ緩衝液(Boehringer; Mannheim)2μl、H2O 1.5μl及びT4−リガーゼ(Boehringer; Mannheim)1μlを使用した。このバッチを一晩中16℃でインキュベーションした。
【0054】
引き続き、Escherichia coli RB791のエレクトロコンピテント細胞40μlをリゲーションバッチ1.5μlでエレクトロポレーションにより形質転換した。この細胞をSOC−媒体500μlに入れ、37℃で45分間インキュベーションし、引き続きLBamp−寒天プレート上でそれぞれ250μlを平板培養した。このSOC−媒体は水1リットルあたり、トリプトン20g、酵母抽出物5g、NaCl 0.5g、1M MgSO4 10ml及び1M MgCl2 10mlを含有する。LBamp−寒天プレートは水1リットルあたり、トリプトン10g、酵母抽出物5g、NaCl 10g、寒天20g、pH7.0及びアンピシリン50mgを含有する。
【0055】
成長したクローンを継代培養し、4ml液体培地(LBamp媒体)中で一晩中37℃で培養した。この細胞懸濁液からそれぞれ2mlをプラスミド調製物(Quiagen miniprepプロトコル(Quiagen, Hilden)に従って)のために使用した。
【0056】
プラスミド調製物からBam HI及びHind IIIを用いる制限消化を行った。完全な消化物を1%のアガロースゲル上に設置し、100Vで電気泳動により分離(750kpのインサートの検出)し、このためにプラスミドを場合により配列決定のために使用した。750kpのインサートを有するクローンを次いでLBamp−寒天プレート上で平板培養した。
F.) プラスミドの配列決定
この配列決定を、DNA配列決定キット(SequiThermEXCEL II Long−Read DNA Sequencing Kit (Biozym, Oldendorf))を用いて、Li−Cor−シークエンサー(MWG Biotech, Ebersberg)で製造元の指示に従って実施した。プライマーとして、pQE−ベクター用の標準の配列決定プライマーを利用した。
G.) R−ADHの可溶性発現に関したクローンのスクリーニング
750kpのインサートを有するクローンを、酵素活性及び立体選択性に関して調査した。このため、クローンをLBamp−寒天プレートから継代培養し、液体培養(LBamp−媒体)20ml中で25分間培養した。次いで、0.5の細胞密度(OD500)で、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)1mMを用いて誘導を行った。18時間後に細胞を遠心分離により除去し、それぞれ細胞40mgをKpi−緩衝液(50mM、pH=7、MgCl2 1mM)350μlに収容した。細胞からの酵素の分離をガラスパール(0.5g、0.3mm)を用いた湿式粉砕により行った。このために、4℃でラチェットミルを用いて20分間分解を行った。
【0057】
酵素試験物はトリエタノールアミン緩衝液(100mM、pH=7.0、MgCl2 1mM)870μl、4−Cl−アセト酢酸エチルエステルの100mmol濃度の溶液100μl、NADPH(最終濃度0.19mM)10μl及び酵素溶液20μlを有していた。
【0058】
酵素単位の定義: 1Uは1分あたり基質1μmol(4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル)を反応させるのに必要な酵素量に相当する。
【0059】
立体選択性の検出のために、4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル1.0mM、NADPH(それぞれ最終濃度)1.9mM及び酵素溶液20μlを有するトリエタノールアミン緩衝液(100mM、pH=7.0、MgCl2 1mM)480μlを培養した。15分間培養した後で、この反応バッチを濾過し、クロロホルム中で1:10に希釈し、この試料をGC−MSで分析した。
【0060】
ガスクロマトグラフィー(GC)の条件:
キラルのカラム:Lipodex E, ID=0,25mm, l=25m (Macherey−Nagel)
1. 2分 60℃
2. 28分間で60℃から130℃に、1分あたり2.5℃の速度で
3. 15分 130℃
次のLactobacillen株から、(R)−特異的アルコール−デヒドロゲナーゼをクローニングし、活発な過剰発現を行うことができた。
【0061】

【0062】
* 活性はG.)(湿式粉砕)から計算した;この活性は発酵及びフレンチプレスを用いた分解後に極めて高かった。
H.) 酵素の収得及び精製
最も高い酵素活性を示す株を酵素の収得のために発酵容器(フェドバッチ式、10l)中で培養した。この誘導をOD500でIPTG 1mMを用いて行った。18時間後に細胞を収穫し、その際、細胞300gをKpi−緩衝液(500mM、pH=7、MgCl2 1mM)3l中に収容し、引き続き細胞分解をフレンチプレス(Gaullin, Siemens)を用いて行った。遠心分離後に得られた上澄液を、以後粗製抽出液と呼び、これは約2000U/ml(20000U/g湿潤質量)の体積活性を示した。
【0063】
酵素特性決定のために、得られた酵素の一部をQ−Sepharose ff (fast flow)の疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて精製した。この使用したカラムはこのために50mM Kpi−緩衝液(pH=7.0)、MgCl2 1mMで平衡化させたこの粗製抽出液をカラム上に置き、かつ平衡化緩衝液で短時間洗浄した後に、酵素を直線的に上昇する塩勾配(0〜1M NaCl、1ml/min)でNaCl約0.3Mの塩濃度で溶出させた。酵素含有フラクションを集めた後に、約800U/mlの体積活性及び20〜22mg/mlのタンパク質含有量を示す精製された酵素約25mlが得られた。こうして精製された酵素は、つまりタンパク質1mgあたり約35〜40Uの比活性を示す。
【0064】
全ての酵素活性は25℃で測定した。この酵素活性は次のように計算した:
計算: 1単位=1μmol基質転化率/min
ランベルト−ベールの法則
NADPHの減少は340nmで追跡した(酵素試験バッチ参照)=ΔE/min
N=酵素の希釈ファクタ
V=酵素の体積 ml (0.01)
Vキュヘ゛ット=キュベット容量=1ml
d=キュベットの層厚=1cm
NADPH=NADPHの吸光係数=6.22[mM-1*cm-1
活性=(ΔE/min**Vキュヘ゛ット)/(eNADPH**d)
タンパク質測定はブラッドフォード(Bradford)により行った(Bio−Rad− Laboratories GmbH, タンパク質アッセイ)。
【実施例3】
【0065】
エチル (S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートの酵素触媒による製造
A.) 5リットル規模で
4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルからのエチル (S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートの酵素触媒による合成のために、実施例2で得られた、アルコール−デヒドロゲナーゼの粗製抽出液と補酵素NADPとを使用した。酸化された補酵素を、イソプロパノールの同時存在により再生することで、この反応は触媒量の補酵素が必要なだけである。
【0066】
このバッチは次のものを含有していた:
トリエタノールアミン緩衝液 2l 100mM pH=7.0 MgCl2 1mM 10%グリセリン、
NADP 400mg
イソプロパノール 600ml
酢酸エチルエステル 800ml
4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル600ml及び
アルコール−デヒドロゲナーゼ 約100000単位。
【0067】
室温で3日間撹拌した後、ガスクロマトグラフィーにより4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルからエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートへの99.9%のエナンチオマー純度での完全な変換が検出された。
【0068】
水相を分離し、溶剤を蒸発させ、場合により蒸留した後に、純粋なエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートが99.9%を上回るエナンチオマー純度で得られた。
B.) 50l規模で
4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル10lの変換のための反応バッチは次のような組成を有していた:
トリエタノールアミン緩衝液 18l 100mM pH=7.0 MgCl2 1mM 10%グリセリン、
NADP 4g、
イソプロパノール10l、
酢酸エチルエステル10l、
4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル10l及び
アルコール−デヒドロゲナーゼ約2百万単位(粗製抽出液1.25l)。
【0069】
室温で7日間撹拌した後、ガスクロマトグラフィーにより4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルからエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチレートへの99.9%のエナンチオマー純度での完全な変換が検出された。
【実施例4】
【0070】
Lactobacillus minorからクローニングされたアルコール−デヒドロゲナーゼの生化学的特性決定
A.) pH−安定性
多様なpH値を示す緩衝液中で貯蔵した際の酵素の活性の依存性をpH4〜11の範囲内で試験した。このためにpH4〜11の範囲内の多様な緩衝液(50mM)を調製し、実施例2中で精製された酵素をその中に1:100で希釈し、30分間インキュベートした。全ての緩衝液はMgCl2 1mMを含有していた。引き続き、この中の10μlを通常の酵素試験で使用した(トリエタノールアミン緩衝液 100mM pH=7.0、MgCl2 1mM、4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル10mM及びNADPH 0.19mM)。この反応を30℃で1分間、340nmで行った。
【0071】
出発値はこの場合に、トリエタノールアミン緩衝液(50mM pH=7.0)中で酵素を希釈直後に得られた測定値である。この値は所定の条件下で0.20/minの吸光度変化に一致し、100%値と仮定して、全ての次の測定値をこの値に対する割合とした。
【0072】
第2表
【0073】
【表2】

【0074】
第2表は酵素が、特に酸性領域で良好なpH安定性を示し、この場合、酵素安定性はpH値だけでなく、使用した緩衝液系に依存するようにに思われる。例えばTRIS及びMES−緩衝液の使用時に同じpH値でKpi−緩衝液の場合よりも酵素の著しい失活が確認された。
【0075】
Kpi−緩衝液中では5.5〜8.5の範囲内では明らかな失活は示さなかった。
B.) 温度安定性
A.)に記載したのと同様の方法で、25℃〜50℃の範囲の温度安定性を測定した。このためにそれぞれ精製した酵素の1:100希釈液を30分間それぞれの温度でインキュベートし、引き続き30分間上記の試験物質を用いて測定した。この場合でも出発値として、トリエタノールアミン緩衝液(50mM pH=7.0)中で酵素を希釈直後に得られた測定値を使用した。この値はこの場合でも100%値として仮定した。L.minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼは40℃の温度まで安定である。その後でこの活性は急激に低下する。
第3表
【0076】
【表3】

【0077】
C.) pH−最適値
pH−最適値の測定のために、この酵素反応を第3表に記載した緩衝液中でそれぞれ測定した。4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルの濃度は標準試験の場合と同様に10mM及びNADPH 0.19mMであった。この反応を30℃で測定した。この場合に、本発明による酵素について7〜7.5のpH−最適値を測定することができた。
【0078】
第4表
【0079】
【表4】

【0080】
D.) 温度最適値
最適温度の測定のために25℃〜60℃での酵素活性を測定した。この試験バッチは4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステル及びNADPHの標準濃度に一致する。第5表から明らかなように、この酵素は55℃の最適温度値を示し、続いてこの活性は急激に低下する。
【0081】
第5表
【0082】
【表5】

【0083】
E.) 基質スペクトル
さらに、4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルの代わりになお他の基質を試験バッチ中で使用した。このために次の試験バッチを使用した:
トリエタノールアミン緩衝液970μl(100mM、pH=7.0 MgCl2 1mM、ケト化合物10mMを含有)
NADPH(試験バッチ中0.19mM)20μl
酵素10μl(1:100)
この場合に、4−クロロ−3−オキソ−酪酸エチルエステルで測定した活性を100%と仮定し、他の基質の酵素活性をこの値に対して割合で表した。
【0084】
第6表
【0085】
【表6】

【0086】
F.) 有機溶剤中での酵素活性
有機溶剤との接触時の酵素活性の試験のために、L. minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼを所定の溶剤混合物で1:100に希釈し、室温でインキュベートした(水と混合できない有機溶剤の場合には水相上での希釈に関する)。この場合、2つの相の持続的な混合を保証した(シェイカー、200rpm)。引き続きこの酵素溶液10μlを標準試験バッチ中に使用した。この場合でも、出発値は緩衝液(トリエタノールアミン緩衝液100mM、pH=7.0、MgCl2 1mM)中の希釈後に100%として設定し、全ての他の値はこの値に対する割合で表した。
【0087】
第7表:
A.) 水と混合可能な溶剤:
【0088】
【表7A】

【0089】
第7表Aから明らかなように、グリセリン、DMSO及びソルビトールは使用したアルコールデヒドロゲナーゼに関して活性化もしくは安定化する作用を示す。プロセス中で使用するイソプロパノールはそれに対して不活性化する作用を示す。
【0090】
B.) 水と混合不可能な溶剤
【0091】
【表7B】

【0092】
第7表Bから明らかなように、調査したアルコールデヒドロゲナーゼは広範囲の数の溶剤中で著しい安定性を示した。この場合、logP−値0〜3の溶剤が調査したアルコールデヒドロゲナーゼをlogP−値3〜4.5の溶剤よりも著しく阻害せず、特に長時間インキュベーション(24時間及び48時間)に関してlogP−値0〜3の溶剤は緩衝液中での相応する値と比較して調査したADHの安定化作用を有することが顕著であった。試験した脂肪族溶剤のペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びオクタンは長時間インキュベーション時にこの安定化作用を示さなかった。
【0093】
成分XのlogP−値は、オクタノール/水の二相系(50/50)中でのXの分配係数のロガリズムであり、Pはオクタノール相中でのXの濃度/水相中でのXの濃度である。
G.) プロセス条件下での酵素安定性
プロセス条件下での酵素安定性の試験のために、 L.minorからのアルコール−デヒドロゲナーゼを二相系で使用した溶剤混合物を用いて1:100に希釈し、室温でインキュベートした。引き続きこの酵素溶液10μlを標準試験バッチ中に使用した。
【0094】
第8表中で酵素活性は出発値の%で示されている。
【0095】
【表8】

【0096】
混合物B: 緩衝液、グリセリン10%、イソプロパノール10%
混合物C: 緩衝液、グリセリン20%、イソプロパノール10%
混合物D: 緩衝液、グリセリン10%、イソプロパノール10%+酢酸エチルエステル20%
L.minorからの組み替えられたアルコール−デヒドロゲナーゼは二相系の形で使用した、溶剤の組み合わせ中で数日間安定でかつ活性であったことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式I
−C(O)−R (I)
[式中、R及びRは相互に無関係に、同じ又は異なり、次のものを表す
1. 水素原子、
2. −(C〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖である、
3. −(C〜C20)−アルケニル、この場合にアルケニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の二重結合を含有する、
4. −(C〜C20)−アルキニル、この場合にアルキニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の三重結合を含有する、
5. −(C〜C14)−アリール、
6. −(C〜C)−アルキル−(C〜C14)−アリール、又は
7. R及びRは−C(O)−基と一緒になって−(C〜C14)−アリール又は−(C〜C14)−ヘテロ環を形成し、
その際、上記の1〜7に挙げられた基は非置換であるか、又は相互に無関係に次の基により1〜3箇所置換されている、
a) −OH、
b) ハロゲン、たとえばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、
c) −NO
d) −C(O)−O−(C〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖であり、非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている、又は
e) −(C〜C14)−ヘテロ環、このヘテロ環は非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている]のケト化合物をエナンチオ選択的に還元する方法において、
a) 反応バッチの全体積に対して5%以上から30%までの割合の式Iの化合物、アルコールデヒドロゲナーゼ、水、補因子のNADPH又はNADH及びlogP 0.5〜4.0の水と混合できない有機溶剤を、
b) 水及び水と混合できない有機溶剤からなる二相系の形でインキュベートし、
c) アルコールデヒドロゲナーゼにより生成された酸化された補因子を連続的に再生し、かつ
d) キラルのヒドロキシ化合物を単離することを特徴とする、ケト化合物のエナンチオ選択的還元方法。
【請求項2】
一連の、アセトフェノン、エチル−2−オキソ−4−フェニルブチレート、2,5−ヘキサンジオン又は2−オクタノンからの式Iの化合物を使用することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
logP 0.6〜3.0、特に0.6〜1.9の有機溶剤を使用することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
logP 0.63〜1.75の有機溶剤を使用することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
有機溶剤としてジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル又は酢酸エチルエステルを使用することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
酵母、ウマの肝臓、サーモアネロビウム・ブロッキ(Thermoanaerobium brockii)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)からのアルコール−デヒドロゲナーゼを使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
pH値5〜10、有利にpH値6〜9の緩衝液、たとえばリン酸カリウム−緩衝液、Tris/HCl−緩衝液又はトリエタノールアミン−緩衝液を添加することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
緩衝液にマグネシウムイオン、たとえばMgClを0.2mM〜10mM、有利に0.5mM〜2mMの濃度で添加することを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
補因子としてNADPH又はNADHを、水相に対して0.01mM〜0.25mM、特に0.06mM〜0.2mM添加することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
アルコール−デヒドロゲナーゼ用の安定剤としてグリセリン、ソルビトール又はジメチルスルホキシドを添加することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
イソプロパノールを添加することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
式Iの化合物を、全体積に対して5%〜30%、有利に10%〜25%、特に15%〜22%の量で使用することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
反応を約10℃〜70℃、有利に30℃〜60℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
有機溶剤を、反応バッチの全体積に対して1%〜90%、有利に15%〜60%、特に20%〜50%の量で使用することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
有機溶剤対水の割合が9:1〜1:9、有利に1:1〜1:3であることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
安定剤を、反応バッチの全体積に対して5%〜30%、有利に10%〜20%、特に20%の量で使用することを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項17】
イソプロパノールを、反応バッチの全体積に対して5%〜30%、有利に10%〜20%、特に10%の量で使用することを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項18】
アルコール−デヒドロゲナーゼを反応させるべき式Iの化合物1kgあたり20000U〜200000U、有利に100000Uの量で使用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項19】
次の式II
−C(OH)−R (II)
[式中、R及びRは相互に無関係に、同じ又は異なり、次のものを表す
1. 水素原子、
2. −(C〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖である、
3. −(C〜C20)−アルケニル、この場合にアルケニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の二重結合を含有する、
4. −(C〜C20)−アルキニル、この場合にアルキニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の三重結合を含有する、
5. −(C〜C14)−アリール、
6. −(C〜C)−アルキル−(C〜C14)−アリール、又は
7. R及びRは−C(O)−基と一緒になって−(C〜C14)−アリール又は−(C〜C14)−ヘテロ環を形成し、
その際、上記の1〜7に挙げられた基は非置換であるか、又は相互に無関係に次の基により1〜3箇所置換されている、
a) −OH、
b) ハロゲン、たとえばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、
c) −NO
d) −C(O)−O−(C〜C20)−アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖であり、非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている、又は
e) −(C〜C14)−ヘテロ環、このヘテロ環は非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1〜3箇所置換されている]
のエナンチオ選択的(S)−ヒドロキシ化合物を収得する方法において
a) 式IIの化合物を含有するラセミ混合物、アルコールデヒドロゲナーゼ、水、補因子のNADP又はNAD及びlogP値0.6〜1.9の有機溶剤、例えば一連のジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル又は酢酸エチルエステルからの有機溶剤を、
b) 水及び水と混合できない有機溶剤からなる二相系の形でインキュベートし、及び
c) エナンチオマー純粋の(S)−ヒドロキシ化合物を単離することを特徴とする、(S)−ヒドロキシ化合物を収得する方法。
【請求項20】
アセトンを添加することを特徴とする、請求項19記載の方法。

【公開番号】特開2009−207499(P2009−207499A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148703(P2009−148703)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【分割の表示】特願2002−583640(P2002−583640)の分割
【原出願日】平成14年4月15日(2002.4.15)
【出願人】(503382003)イーエーペー・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (5)
【Fターム(参考)】