説明

酵素固定化電極、燃料電池、電子機器、酵素反応利用装置および酵素固定化基体

【課題】一種または複数種の酵素を電極上の最適な位置に固定化することができる高効率の酵素固定化電極およびこの酵素固定化電極を用いた高効率の燃料電池を提供する。
【解決手段】酵素固定化電極は、多孔質カーボンなどからなる電極11と、この電極11上のリン脂質層12と、このリン脂質層12に固定化された酵素13、14とを有する。酵素13、14は例えばジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼである。電極11とリン脂質層12との間にタンパク質などからなる中間層を設けてもよい。この酵素固定化電極を酵素を用いた燃料電池の負極や正極に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酵素固定化電極、燃料電池、電子機器、酵素反応利用装置および酵素固定化基体に関し、例えば、酵素を用いたバイオ燃料電池、このバイオ燃料電池を電源に用いる各種の機器、装置、システムなどに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、正極(酸化剤極)と負極(燃料極)とが電解質(プロトン伝導体)を介して対向した構造を有する。従来の燃料電池では、負極に供給された燃料(水素)が酸化されて電子とプロトン(H+ )とに分離し、電子は負極に渡され、H+ は電解質を通って正極まで移動する。正極では、このH+ が、外部から供給された酸素および負極から外部回路を通って送られた電子と反応してH2 Oを生成する。
【0003】
このように、燃料電池は燃料の持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する高効率な発電装置であり、天然ガス、石油、石炭などの化石エネルギーが持つ化学エネルギーを使用場所や使用時によらずに、しかも高い変換効率で電気エネルギーとして取り出すことができる。このため、従来から大規模発電用途などとしての燃料電池の開発研究が活発に行われている。例えば、スペースシャトルに燃料電池が搭載され、電力と同時に乗組員用の水を補給できることや、クリーンな発電装置であることを証明した実績がある。
【0004】
さらに、近年、固体高分子型燃料電池など、室温から90℃程度の比較的低温の作動温度域を示す燃料電池が開発され、注目を集めている。このため、大規模発電用途のみならず、自動車の駆動用電源、パーソナルコンピュータやモバイル機器などのポータブル電源などの小型システムへの応用が模索されつつある。
このように、燃料電池は大規模発電から小規模発電まで幅広い用途が考えられ、高効率な発電装置として多くの注目を集めている。しかしながら、燃料電池では、燃料として通常、天然ガス、石油、石炭などを改質器により水素ガスに変換して用いており、限りある資源を消費するとともに、高温に加熱する必要があったり、白金(Pt)などの高価な貴金属の触媒を必要としたりするなど、種々の問題点がある。また、水素ガスやメタノールを直接燃料として用いる場合でも、その取り扱いには注意を要する。
【0005】
そこで、生物内で行われている生体代謝が高効率なエネルギー変換機構であることに着目し、これを燃料電池に適用する提案がなされている。ここでいう生体代謝には、微生物体細胞内で行われる呼吸、光合成などが含まれる。生体代謝は、発電効率が極めて高く、また、室温程度の穏やかな条件で反応が進行するという特長を兼ね備えている。
例えば、呼吸は、糖類、脂肪、タンパク質などの栄養素を微生物または細胞内に取り込み、これらの化学エネルギーを、数々の酵素反応ステップを有する解糖系およびクエン酸(TCA)回路を介して二酸化炭素(CO2 )を生成する過程でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ )を還元して還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とすることで酸化還元エネルギー、すなわち電気エネルギーに変換し、さらに電子伝達系においてこれらのNADHの電気エネルギーをプロトン勾配の電気エネルギーに直接変換するとともに酸素を還元し、水を生成する機構である。ここで得られた電気エネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)合成酵素を介して、アデノシン二リン酸(ADP)からATPを生成し、このATPは微生物や細胞が生育するために必要な反応に利用される。このようなエネルギー変換は、細胞質ゾルおよびミトコンドリアで行われている。
【0006】
また、光合成は、光エネルギーを取り込み、電子伝達系を介してニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+ )を還元して還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)とすることで電気エネルギーに変換する過程で、水を酸化し酸素を生成する機構である。この電気エネルギーは、CO2 を取り込み炭素固定化反応に利用され、炭水化物の合成に利用される。
上述したような生体代謝を燃料電池に利用する技術としては、微生物中で発生した電気エネルギーを電子メディエーターを介して微生物外に取り出し、この電子を電極に渡すことで電流を得る微生物電池が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、微生物および細胞には化学エネルギーから電気エネルギーへの変換といった目的の反応以外にも不要な機能が多く存在するため、上述した方法では望まない反応に化学エネルギーが消費されて十分なエネルギー変換効率が発揮されない。
そこで、酵素を用いて所望の反応のみを行う燃料電池(バイオ燃料電池)が提案されている(例えば、特許文献2〜11参照。)。このバイオ燃料電池は、燃料を酵素により分解してプロトンと電子とに分離するもので、燃料としてメタノールやエタノールのようなアルコール類あるいはグルコースのような単糖類あるいはデンプンのような多糖類を用いたものが開発されている。
【0008】
このバイオ燃料電池においては、電極に対する酵素の固定化・配列が非常に重要であることがわかっている。また、電子を伝達する役目を果たす電子メディエーターが酵素とともに有効に存在する必要性もあることがわかっている。従来の酵素の固定化方法は、プラスに電荷を帯びたポリマーとマイナスに電荷を帯びたポリマーとを酵素と適当な割合で混合して多孔質カーボンなどからなる電極上に塗布することにより、電極との接着性を保ちつつ、固定化膜を安定化させるようなポリイオンコンプレックス法が主体であり、開発が進められている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−133297号公報
【特許文献2】特開2003−282124号公報
【特許文献3】特開2004−71559号公報
【特許文献4】特開2005−13210号公報
【特許文献5】特開2005−310613号公報
【特許文献6】特開2006−24555号公報
【特許文献7】特開2006−49215号公報
【特許文献8】特開2006−93090号公報
【特許文献9】特開2006−127957号公報
【特許文献10】特開2006−156354号公報
【特許文献11】特開2007−12281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のポリイオンコンプレックスを用いる固定化方法は、酵素の物理化学的性質、特に電荷に大きく依存しており、外部溶液の変化、測定中の環境変化などにより、絶えず変化することが懸念される。また、一般的に酵素は熱に対する耐性が低いが、バイオ燃料電池の実用化に向けて酵素を改変してゆく際に、酵素そのものの物理化学的性質が変わり、その都度、固定化膜作製方法の最適化を図る必要があり、煩雑である。さらに、燃料からより多くの電子を取り出したいときには、より多くの酵素が必要となるが、これらの酵素を固定化する場合、その固定化条件の最適化に多大な労力を費やすことになる。生体内の電子伝達系に着目すると、この電子伝達系に関与するタンパク質は、必ずしもすべてが水溶性タンパク質ではなく、膜タンパク質や膜結合型タンパク質が含まれることが知られており、高効率に電子を取り出す際にはタンパク質がしかるべき場所に存在することが重要である。
【0011】
一方、生体分子を電子デバイスとして扱うときに、その基材として用いられるシリコン類、金属、カーボンなどからなる電極への生体親和性が問題となっている。例えば、生体高分子の一種であるタンパク質は機能を効率よく発揮するために、高次構造をとっていることが多いが、上記の電子デバイス基材などの固体表面、液体や気体との界面での変性が知られており、また、生体高分子の扱いは個々に異なるために、これを解決することがデバイス特性を向上させる鍵となる。また、複数の酵素を生体模倣型電子デバイスに用いるとき、個々の酵素を最適な位置に配置することは製造上、非常に困難である。
【0012】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、一種または複数種の酵素を電極上の最適な位置に固定化することができる高効率の酵素固定化電極、この酵素固定化電極を用いた高効率の燃料電池、この燃料電池を用いた電子機器およびこの酵素固定化電極を用いた高効率の電極反応利用装置ならびに酵素固定化電極などを含む酵素固定化基体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、電極上に形成したリン脂質層に酵素を固定化した構造としたり、電極上にタンパク質などの中間層を介して形成したリン脂質層やポリイオンコンプレックスに酵素を固定化した構造とすることが有効であることを見出し、実験でその有効性を確認し、この発明を案出するに至った。
【0014】
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化電極である。
【0015】
電極の材料としては各種のものを用いることができるが、例えば、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパーなどのカーボン系材料が用いられる。電極の材料としては、多孔体材料からなる骨格と、この骨格の少なくとも一部の表面を被覆する、カーボン系材料を主成分とする材料とを含む多孔体導電材料を用いることもできる。この多孔体導電材料は、多孔体材料からなる骨格の少なくとも一部の表面に、カーボン系材料を主成分とする材料をコーティングすることにより得ることができる。この多孔体導電材料の骨格を構成する多孔体材料は、多孔率が高くても骨格を安定に維持することができるものであれば、基本的にはどのようなものであってもよく、導電性の有無も問わない。多孔体材料としては、好適には、高多孔率および高導電性を有する材料が用いられる。このような高多孔率および高導電性を有する多孔体材料としては、具体的には、金属材料(金属または合金)や骨格を強固にした(もろさを改善した)カーボン系材料などを用いることができる。多孔体材料として金属材料を用いる場合、金属材料は溶液のpHや電位などの使用環境との兼ね合いにより状態安定性が異なることから様々な選択肢が考えられるが、例えば、ニッケル、銅、銀、金、ニッケル−クロム合金、ステンレス鋼などの発泡金属あるいは発泡合金は入手しやすい材料の一つである。多孔体材料としては、上記の金属材料やカーボン系材料以外に樹脂材料(例えば、スポンジ状のもの)を用いることもできる。この多孔体材料の多孔率および孔径(孔の最小径)は、この多孔体材料からなる骨格の表面にコーティングする、カーボン系材料を主成分とする材料の厚さとの兼ね合いで、多孔体導電材料に要求される多孔率および孔径に応じて決められる。この多孔体材料の孔径は一般的には10nm〜1mm、典型的には10nm〜600μmである。一方、骨格の表面を被覆する材料は、導電性を有し、想定される作動電位において安定なものを用いる必要がある。ここでは、このような材料としてカーボン系材料を主成分とする材料を用いる。カーボン系材料は一般に電位窓が広く、しかも化学的に安定なものが多い。このカーボン系材料を主成分とする材料は、具体的には、カーボン系材料のみからなるものと、カーボン系材料を主成分とし、多孔体導電材料に要求される特性などに応じて選ばれる副材料を微量含む材料とがある。後者の材料の具体例を挙げると、カーボン系材料に金属などの高導電性材料を添加することにより電気伝導性を向上させた材料や、カーボン系材料にポリテトラフルオロエチレン系材料などを添加することにより表面撥水性を付与するなど、導電性以外の機能を付与した材料である。カーボン系材料にも様々な種類が存在するが、いかなるカーボン系材料であってもよく、カーボン単体のほか、カーボンに他の元素を添加したものであってもよい。このカーボン系材料は、特に、高導電性・高表面積を有する微細粉末カーボン材料が好ましい。このカーボン系材料としては、具体的には、例えば、KB(ケッチェンブラック)などの高導電性を付与したものや、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの機能性カーボン材料などを用いることができる。このカーボン系材料を主成分とする材料のコーティング方法は、必要に応じて適当な結着剤を用いるなどして多孔体材料からなる骨格の表面にコーティング可能であれば、いかなるコーティング方法を用いてもよい。この多孔体導電材料の孔径は、その孔を通して基質などを含む溶液が容易に出入り可能な程度の大きさに選ばれ、一般的には9nm〜1mm、より一般的には1μm〜1mm、さらに一般的には1〜600μmである。多孔体材料からなる骨格の少なくとも一部の表面がカーボン系材料を主成分とする材料により被覆された状態、あるいは、多孔質材料からなる骨格の少なくとも一部の表面をカーボン系材料を主成分とする材料によりコーティングした状態では、孔が全て互いに連通し、あるいは、カーボン系材料を主成分とする材料による目詰まりが発生しないようにするのが望ましい。
【0016】
リン脂質層は、典型的には、層状のリン脂質二分子膜や、リン脂質二分子膜が球形になったリポソームなどのリン脂質集合体であるが、その形態は問わない。このリン脂質層には、リン脂質二分子膜が多層(二層以上)積層されたものや、小さなリポソームが大きいリポソームに取り込まれて入れ子になった多重層リポソームも含まれる。このリン脂質二分子膜が多層積層されたものや多重層リポソームでは、より高密度なエネルギーの取り出しが可能になったり、互いに性質が異なる二種類以上のリン脂質二分子膜を用いることにより、高効率の酵素固定化電極を得ることが可能である。リポソームは直径100nm程度のものから10μmに及ぶ大きなものまで作製することができる。リン脂質としては基本的にはどのようなものを用いてもよく、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質のいずれを用いてもよい。グリセロリン脂質としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スフィンゴリン脂質としては、スフィンゴミエリンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。ホスファチジルコリンの代表例はジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)である。
リン脂質層には、好適には酵素に加えて電子メディエーターも固定化され、あるいはさらに補酵素も固定化される。酵素は例えば分解酵素、特に燃料分解酵素であり、必要に応じてこれに加えて他の一種または複数種の酵素を含む。
【0017】
この酵素固定化電極は、電極に対するリン脂質層の固定を安定化するために、電極とリン脂質層との間に中間層を有してもよい。この中間層としては、タンパク質やDNAなどの生体高分子のみならず、親水、疎水の両方の性質を持つような高分子電解質や、ミセル、逆ミセル、ラメラなどの構造体を形成することができるものや、ナノメートル構造を持ち、一つまたは複数の性質を持つ化合物であって生体親和性の高い化合物を用いることができる。タンパク質としては、例えば、アルブミンを代表とした、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、オボアルブミン、ミオキナーゼなどの酸性タンパク質のほか、等電点をアルカリ側に持つリゾチウム、チトクロームc、ミオグロビン、トリプシノーゲンなどを用いることができる。このようなタンパク質などからなる中間層を電極表面に物理的に吸着させ、この中間層にリン脂質二分子膜やリポソームなどのリン脂質層あるいはポリイオンコンプレックスを固定化し、これに酵素を固定化することにより、電極に対して酵素を安定に固定化することが可能であり、電極材料と固定化材料との組み合わせの自由度が高くなる。
【0018】
第2の発明は、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化電極である。
【0019】
ポリイオンコンプレックスとしては各種のものを用いることができるが、例えば、ポリ−L−リシン(PLL)をはじめとしたポリカチオンまたはその塩とポリアクリル酸(例えば、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAcNa))をはじめとしたポリアニオンまたはその塩とを用いて形成されるポリイオンコンプレックスを用いることができ、このポリイオンコンプレックスの内部に酵素、補酵素、電子メディエーターなどが含まれるようにすることができる。
第2の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1の発明に関連して説明したことが成立する。
【0020】
第3の発明は、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とするものである。
【0021】
第4の発明は、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とするものである。
【0022】
第3および第4の発明において、燃料としては、各種のものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、代表的なものを挙げると、メタノール、エタノール、単糖類、多糖類などである。単糖類、多糖類などを燃料に用いる場合、典型的には、これらをリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの従来公知の緩衝液に溶かした燃料溶液の形で用いる。
例えば、燃料としてグルコースのような単糖類を用いる場合には、好適には、負極として用いられる酵素固定化電極において、酵素として、単糖類の酸化を促進し分解する酸化酵素と、酸化酵素によって還元される補酵素を酸化体に戻す補酵素酸化酵素とが固定化される。この補酵素酸化酵素の作用により、補酵素が酸化体に戻るときに電子が生成され、補酵素酸化酵素から電子メディエーターを介して電極に電子が渡される。酸化酵素としては例えばグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が、補酵素としては例えばニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+ )あるいはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+ )が、補酵素酸化酵素としては例えばジアホラーゼ(DI)が用いられる。電子メディエーターとしては基本的にはどのようなものを用いてもよいが、好適には、キノン骨格を有する化合物、取り分け、ナフトキノン骨格を有する化合物が用いられる。このナフトキノン骨格を有する化合物としては各種のナフトキノン誘導体を用いることが可能であるが、具体的には、例えば、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK1などが用いられる。キノン骨格を有する化合物としては、ナフトキノン骨格を有する化合物以外に、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。電子メディエーターには、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物以外に、電子メディエーターとして働く一種または二種以上の他の化合物を含ませてもよい。
【0023】
燃料として多糖類(広義の多糖類であり、加水分解によって2分子以上の単糖を生じる全ての炭水化物を指し、二糖、三糖、四糖などのオリゴ糖を含む)を用いる場合には、好適には、上記の酸化酵素、補酵素酸化酵素、補酵素および電子メディエーターに加えて、多糖類の加水分解などの分解を促進し、グルコースなどの単糖類を生成する分解酵素も固定化される。多糖類としては、具体的には、例えば、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、マルトース、スクロース、ラクトースなどが挙げられる。これらは単糖類が二つ以上結合したものであり、いずれの多糖類においても結合単位の単糖類としてグルコースが含まれている。なお、アミロースとアミロペクチンとはデンプンに含まれる成分であり、デンプンはアミロースとアミロペクチンとの混合物である。多糖類の分解酵素としてグルコアミラーゼを用い、単糖類を分解する酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを用いた場合には、グルコアミラーゼによりグルコースにまで分解することができる多糖類、例えばデンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、マルトースのいずれかを含むものであれば、これを燃料として発電することが可能となる。なお、グルコアミラーゼはデンプンなどのα−グルカンを加水分解しグルコースを生成する分解酵素であり、グルコースデヒドロゲナーゼはβ−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化する酸化酵素である。
【0024】
分解酵素としてセルラーゼを用い、酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを用いた燃料電池では、セルラーゼによりグルコースにまで分解することができるセルロースを燃料とすることができる。セルラーゼは、より詳しくはセルラーゼ(EC 3.2.1.4)、エキソセロビオヒドラーゼ(EC 3.2.1.91)、β−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)などのいずれか少なくとも一種である。なお、分解酵素としてグルコアミラーゼとセルラーゼとを混合して用いてもよく、この場合には、自然界で生産される多糖類の大半を分解することができるため、これらを多く含むもの、例えば生ごみなどを燃料とすることが可能となる。
【0025】
また、分解酵素としてα−グルコシダーゼを用い、酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを用いた燃料電池では、α−グルコシダーゼによりグルコースに分解されるマルトースを燃料とすることができる。
また、分解酵素としてスクラーゼを用い、酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを用いた燃料電池では、スクラーゼによりグルコースとフルクトースとに分解されるスクロースを燃料とすることができる。スクラーゼは、より詳しくはα−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)、スクロース−α−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.48)、β−フルクトフラノシダーゼ(EC 3.2.1.26)などの少なくともいずれか一種である。
また、分解酵素としてβ−ガラクトシダーゼを用い、酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを用いた燃料電池では、β−ガラクトシダーゼによりグルコースとガラクトースとに分解されるラクトースを燃料とすることができる。
必要に応じて、これらの燃料となる多糖類も負極上に固定化してもよい。
【0026】
特に、デンプンを燃料とする燃料電池では、デンプンを糊化してゲル状の固形化燃料としたものを用いることもできる。この場合、糊化したデンプンを酵素などが固定化された負極に接触させるか、あるいは負極上に酵素などとともに固定化する方法をとることができる。このような電極を用いると、負極表面のデンプン濃度を、溶液中に溶解したデンプンを用いた場合よりも高い状態に保持することができ、酵素による分解反応がより速くなり、出力が向上するとともに、燃料の取り扱いが溶液の場合よりも容易で、燃料供給システムを簡素化することができ、しかも燃料電池を天地無用とする必要がないため、モバイル機器に用いたときに非常に有利である。
【0027】
正極に酵素が固定化される場合、この酵素は、典型的には酸素を還元する酵素を含む。この酸素を還元する酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを用いることができる。この場合、正極には、好適には、酵素に加えて電子メディエーターも固定化される。電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、オクタシアノタングステン酸カリウムなどを用いる。電子メディエーターは、好適には、十分に高濃度、例えば、平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上固定化する。
【0028】
プロトン伝導体として緩衝物質(緩衝液)を含む電解質を用いる場合には、高出力動作時に十分な緩衝能を得ることができ、酵素が本来持っている能力を十分に発揮することができるようにするために、電解質に含まれる緩衝物質の濃度を0.2M以上2.5M以下にすることが有効であり、好適には0.2M以上2M以下、より好適には0.4M以上2M以下、さらに好適には0.8M以上1.2M以下とする。緩衝物質は、一般的には、pKa が6以上9以下のものであれば、どのようなものを用いてもよいが、具体例を挙げると、リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(H2 CO3 )、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)などである。リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )を生成する物質は、例えば、リン酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )やリン酸二水素カリウム(KH2 PO4 )などである。緩衝物質としてはイミダゾール環を含む化合物も好ましい。イミダゾール環を含む化合物は、具体的には、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)などである。緩衝物質を含む電解質のpHは、好適には7付近であるが、一般的には1〜14のいずれであってもよい。
【0029】
この燃料電池はおよそ電力が必要なものすべてに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船など)、動力装置、建設機械、工作機械、発電システム、コージェネレーションシステムなどに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状、燃料の種類などが決められる。
第3および第4の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1および第2の発明に関連して説明したことが成立する。
【0030】
第5の発明は、
一つまたは複数の燃料電池を用いる電子機器において、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する酵素固定化電極であるものである
ことを特徴とするものである。
【0031】
第6の発明は、
一つまたは複数の燃料電池を用いる電子機器において、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する酵素固定化電極であるものである
ことを特徴とするものである。
【0032】
第5および第6の発明による電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器(携帯情報端末機(PDA)など)、ロボット、パーソナルコンピュータ(デスクトップ型、ノート型の双方を含む)、ゲーム機器、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)、車載機器、家庭電気製品、工業製品などである。
第5および第6の発明においては、その性質に反しない限り、第1〜第4の発明に関連して説明したことが成立する。
【0033】
第7の発明は、
酵素固定化電極を有する酵素反応利用装置であって、
上記酵素固定化電極が、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とするものである。
【0034】
第8の発明は、
酵素固定化電極を有する酵素反応利用装置であって、
上記酵素固定化電極が、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とするものである。
【0035】
第7および第8の発明において、電極反応利用装置には、上記の燃料電池、すなわちバイオ燃料電池のほか、バイオセンサー(グルコースセンサーなど)、バイオリアクターなどが含まれ、酵素としては個々の目的に応じたものが用いられる。
第7および第8の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1〜第6の発明に関連して説明したことが成立する。
【0036】
第9の発明は、
基体と、
上記基体上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化基体である。
【0037】
第10の発明は、
基体と、
上記基体上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化基体である。
【0038】
第9および第10の発明において、基体は導電性の有無を問わず、電極のほかSi基板や金属基板などの各種の基板、さらには電子デバイスなども含む。
生体における電子伝達をつかさどるタンパク質には、膜タンパク質、膜結合型タンパク質および水溶性タンパク質の三種類があるが、従来のポリイオンコンプレックス法を用いた酵素固定化方法では、これら三種類の物理化学的性質の異なるタンパク質を同様に固定化してしまう欠点がある。このため、本来タンパク質が持っている機能・活性を損なうおそれがあるが、この第9および第10の発明によれば、タンパク質の性質を利用して膜タンパク質は膜中に、膜結合タンパク質は膜表層に、水溶性タンパク質は外側もしくは内側に容易に局在化させることができる利点を得ることができる。電子伝達系のみならず、光受容など生体内の多くの反応では、このようにリン脂質膜を介した局在化を用いているものがいくつかあり、このような場合に適用すると有効であると考えられる。
また、リン脂質層を用いた酵素固定化電極以外に、一つもしくは二つ以上の異なる性質を持つ集合体を組み合わせることにより、階層性を持った擬似組織を作製することができる。これにより、様々な機能を持ったデバイスの実現が可能となる。また、これは外界からの刺激などに応答することが可能であり、情報処理デバイスとして利用することも可能である。
第9および第10の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1〜第6の発明に関連して説明したことが成立する。
【0039】
上述のように構成されたこの発明においては、リン脂質二分子膜やリポソームなどのリン脂質層の適当な位置に一種または複数種の酵素を安定にしかも高活性を保ったまま固定化することができる。
また、リン脂質層またはポリイオンコンプレックスの適当な位置に一種または複数種の酵素を安定にしかも高活性を保ったまま固定化することができる。
【発明の効果】
【0040】
この発明によれば、一種または複数種の酵素を電極上の最適な位置に固定化することができる高効率の酵素固定化電極を得ることができる。この酵素固定化電極を用いることにより、高効率の燃料電池あるいは電極反応利用装置を実現することができる。そして、このように高効率の燃料電池を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施形態の全図において、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
図1はこの発明の第1の実施形態による酵素固定化電極を示す。
図1に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11上にリン脂質二分子膜12が物理吸着などにより固定化されている。このリン脂質二分子膜12には、二種類の酵素13、14がアンカー15を介して固定化されている。ここでは二種類の酵素13、14が固定化される場合について説明するが、三種類以上の酵素が固定化される場合も同様である。アンカー15としては、例えばポリエチレングリコール鎖を用いることができるが、これに限定されるものではない。このリン脂質二分子膜12には、これらの酵素13、14に加えて電子メディエーター16も固定化されている。
この酵素固定化電極は、例えば、リン脂質と酵素13、14と電子メディエーター16とを混和したものを電極11上に滴下したり塗布したりした後、乾燥させることにより作製することができる。
【0042】
〈実施例1〉
タンパク質は一般的に、細胞膜に分布している膜タンパク質、細胞外や細胞内の溶液中に分布している水溶性タンパク質および細胞膜に接して存在している膜結合型タンパク質の三種類に分類される。このうち膜タンパク質と膜結合型タンパク質とはリポソームに導入することが容易である。一方、バイオ燃料に用いるタンパク質の一部は細胞内や細胞外の溶液中に分布していることが多く、脂溶性部位が比較的少ない。
【0043】
一方、リン脂質集合体の形態としてはリン脂質二分子膜になった球形のリポソームが良く知られている。生体を構成する膜はこのリン脂質の集合体であるリポソームからできていることがほとんどであり、酵素、タンパク質、特に膜タンパク質を安定に高活性に保つには非常によい反応場である。そこで、実施例1では、まず、二種類の酵素13、14に脂溶性部位を導入し、これを熱力学的に安定なリン脂質集合体であるリポソームに導入する。具体的には、酵素13、14として、一般的に水溶性であるジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼを用い、これらに脂溶性部位を化学的に導入し、リポソームに任意の量、任意の割合で分布させることにした。脂溶性部位をジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼに化学的に導入するために用いる化合物(日本油脂社製、商品名SUNBRIGHT OE-040CS)は、これらのジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼと共有結合するための部位とリン脂質膜に導入される部位であるオレオイル基とこれらの二つをつなぐポリエチレングリコール鎖とからなっている。この化合物の調製は文献などを参考にして行った。
【0044】
リポソームは作製方法により異なるサイズ、形態を持つことができるが、ここでは、超音波処理方法によりリポソームを作製した。リン脂質の種類としてはEgg yolk由来のリン脂質を用いた。
ジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼをリポソームに配置したプロテオリポソームの調製は、上記のようにして調製されたリポソームと脂溶性部位を化学的に導入したジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼと電子メディエーター16とを同時に混和した後、数時間放置することより行った。これらのジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼのリポソームへの導入を観察するために、これらのジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼに蛍光物質をラベルし、化学的に脂溶性部位を持たせた水溶性のジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼがリポソームに導入されるか検討したところ、いずれも導入されることが確認された。このプロテオリポソームの模式図を図2に示す。符号17はリポソームを示す。
【0045】
上記のようにして調製されたプロテオリポソームを電子デバイスや基板上に滴下することにより、リポソームを固定化することが可能である。リポソームの形態にもよるが、撥水性の基板上にはリン脂質単分子膜が、親水性の基板上にはリン脂質二分子膜が形成されることが知られている。この実施例1では、オゾン処理によりあらかじめ親水化した多孔質カーボン電極を基板11として用いた。実際に蛍光ラベルしたジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼを用いたときの電極表面の共焦点顕微鏡像を図3に示す。ジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼを緑色に発色する蛍光物質と赤色に発色する蛍光物質とを用いて蛍光ラベルしたが、図3からわかるように、いずれも多孔質カーボン電極の表面に付着・融合していると考えられる。
【0046】
上記のようにして調製された多孔質カーボン電極をリン酸緩衝液で十分に洗浄し、余分なプロテオリポソームを除去した後、乾燥させ、電気化学測定用の電極とした。こうして作製された酵素固定化電極を用いてグルコース溶液中でクロノアンペロメトリーおよびサイクリックボルタンメトリーを行った。ただし、緩衝液としてはイミダゾール緩衝液を用い、グルコース濃度は400mMである。サイクリックボルタンメトリーと0.1Vでの定電位測定を行った。ポリ−L−リシン(PLL)とポリアクリル酸ナトリウム(PAAcNa)とを用いて形成されるポリイオンコンプレックスを用いて酵素の固定化を行った従来の酵素固定化電極を用いた場合を比較例とした(比較例1)。触媒電流値がいずれの場合でも確認されたが、1時間後の定電位測定の結果、実施例1の酵素固定化電極では2.99mA/cm2 、比較例1の酵素固定化電極では2.20mA/cm2 となり、有意な差を持つ高い触媒電流値を確認することができた。
【0047】
この第1の実施形態によれば、電極11上にリン脂質二分子膜12が固定化され、このリン脂質二分子膜12に二種類の酵素13、14および電子メディエーター16が固定化された酵素固定化電極を得ることができる。この酵素固定化電極は、これらの二種類の酵素13、14を最適位置に任意の割合で安定に固定化することができるため、高効率であり、大きな触媒電流値を得ることができる。
【0048】
図4はこの発明の第2の実施形態による酵素固定化電極を示す。
図4に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11上にタンパク質などからなる中間層18が物理吸着などにより固定化されており、この中間層18上にリン脂質二分子膜12が物理吸着などにより固定化されている。このリン脂質二分子膜12には、二種類の酵素13、14が固定化されている。このリン脂質二分子膜12には、これらの酵素13、14に加えて電子メディエーター16も固定化されている。
この酵素固定化電極は、例えば、タンパク質などを含む溶液に電極11を浸漬するなどして中間層18を形成し、その上にリン脂質と酵素13、14と電子メディエーター16とを混和したものを滴下したり塗布したりした後、乾燥させることにより作製することができる。
【0049】
〈実施例2〉
電極11として多孔質カーボン電極を用い、紫外線(UV)オゾン処理装置によりこの多孔質カーボン電極を活性化し、表面を親水性にした後、酵素を500μg/mLから5mg/mL程度のリン酸緩衝液に浸漬し、一晩放置した。その後、リン酸緩衝液により洗浄し、乾燥することにより、中間層18として酵素を有する多孔質カーボン電極を得た。
【0050】
次に、この中間層18として酵素を有する多孔質カーボン電極に、電子メディエーター16としてANQ、酵素13、14としてジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼ、補酵素としてNADHを含むリポソームを滴下した後、乾燥し、酵素固定化電極を作製した。コントロールとして、UVオゾン処理装置により多孔質カーボン電極を活性化し、表面を親水化した後、酵素などを含むリポソーム溶液を滴下して酵素固定化電極(比較例2)と、PLLとPAAcNaとを用いて形成されるポリイオンコンプレックスを用いて酵素の固定化を行った酵素固定化電極(比較例1)とを作製し、電気化学的に比較した。測定はグルコースを400mM含むイミダゾール緩衝液を用い、0.1Vにおける定電位測定およびサイクリックボルタンメトリーを行った。いずれの場合でも明瞭な触媒電流値が得られた。1時間後の定電位測定によると、実施例2の酵素固定化電極では3.36mA/cm2 となったのに対し、比較例1では2.29mA/cm2 となり、有意な差が認められ、優れた結果が得られている。また、実施例2の酵素固定化電極は、比較例2と比較した場合(1.96mA/cm2 )でも有意な差が認められ、優れた結果が得られている。従って、リポソームは直接電極と作用し、酵素反応場を形成するよりも、タンパク質などの中間層があった場合の方が安定に酵素固定化膜が形成されるものと考えられる。また、リン脂質が良い酵素の反応場になると考えることもできる。以上のことから、UVオゾン処理装置などにより電極表面を親水化処理するだけではなく、何らかのタンパク質の中間層を導入することにより、リポソームによる酵素固定化膜の安定化を促進することができることがわかる。
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0051】
図5はこの発明の第3の実施形態による酵素固定化電極を示す。
図5に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11上にタンパク質などからなる中間層18が物理吸着などにより固定化されており、この中間層18上にポリイオンコンプレックス19が固定化されている。このポリイオンコンプレックス19には、二種類の酵素13、14が固定化されている。このポリイオンコンプレックス19には、これらの酵素13、14に加えて電子メディエーター16も固定化されている。
この酵素固定化電極は、例えば、タンパク質などを含む溶液に電極11を浸漬するなどして中間層18を形成し、その上にポリカチオンおよびポリアニオンと酵素13、14と電子メディエーター16とを混和したものを滴下したり塗布したりした後、乾燥させることにより作製することができる。
【0052】
〈実施例3〉
電極11として多孔質カーボン電極を用い、紫外線(UV)オゾン処理装置によりこの多孔質カーボン電極を活性化し、表面を親水性にした後、酵素を500μg/mLから5mg/mL程度のリン酸緩衝液に浸漬し、一晩放置した。その後、リン酸緩衝液により洗浄し、乾燥することにより、中間層18として酵素を有する多孔質カーボン電極を得た。
【0053】
次に、この中間層18として酵素を有する多孔質カーボン電極に、電子メディエーター16としてANQ、酵素13、14としてジアホラーゼおよびグルコースデヒドロゲナーゼ、補酵素としてNADH、ポリカチオンとしてPLL、ポリアニオンとしてPLL、ポリカチオンとしてPAAcNaを含む溶液を滴下した後、乾燥し、酵素固定化電極を作製した。コントロールとして比較例1の酵素固定化電極を用い、電気化学的に比較した。測定はグルコースを400mM含むイミダゾール緩衝液を用い、0.1Vにおける定電位測定およびサイクリックボルタンメトリーを行った。明瞭な触媒電流値が得られることを確認できた。また、0.1Vにおける定電位測定結果から、実施例3の酵素固定化電極は1時間後3.12mA/cm2 となり、比較例1(2.29mA/cm2 )に対して有意な差が認められ、優れた結果が得られている。従って、従来法のイオンコンプレックス法を用いた場合でも、タンパク質の中間層が形成されている電極に対して良好な電気化学的応答を示していることがわかる。
実施例2の結果と総合すると、UVオゾン処理装置などにより電極表面を親水化処理するだけではなく、何らかのタンパク質の中間層を導入することにより、リポソームやポリイオンコンプレックス法による酵素固定化膜の安定化を促進することができることがわかる。
この第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0054】
図6はこの発明の第4の実施形態による酵素固定化電極を示す。
図6に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11上にアルブミンからなる中間層18が物理吸着などにより固定化されており、この中間層18のアルブミンに脂溶性の官能基を有する分子20を共有結合させ、この分子20をアンカーとして、二種類の酵素13、14が固定化されたポリイオンコンプレックス19が固定化されている。このポリイオンコンプレックス19には、これらの酵素13、14に加えて電子メディエーター16も固定化されている。
この酵素固定化電極は、例えば、アルブミンを含む溶液に電極11を浸漬するなどして中間層18を形成し、この中間層18に分子20を共有結合させ、その上にポリカチオンおよびポリアニオンと酵素13、14と電子メディエーター16とを混和したものを滴下したり塗布したりした後、乾燥させることにより作製することができる。
【0055】
〈実施例4〉
UVオゾン処理装置により多孔質カーボン電極を活性化し、表面を親水性にした後、約1%程度に濃度調製したアルブミン溶液(ウシ由来)(リン酸緩衝液)一晩室温にて放置した。その後、リン酸緩衝液により多孔質カーボン電極を洗浄し、乾燥することにより、中間層18としてアルブミンを有する電極11を作製した。さらに、脂肪基を持ち、タンパク質などアミノ基を持つ化合物に共有結合にて結合することの可能な分子20を中間層18を有する電極11に作用させた。実際には、分子20として日本油脂社製、商品名SUNBRIGHT OE-040CSを用い、これをジメチルスルホキシド(DMSO)溶液にて溶解した後、これを100μL、中間層18としてアルブミンを有する電極11上に滴下し、1 時間放置した。その後、これをリン酸緩衝液にて洗浄した後、固定化用電極とした。
【0056】
次に、UVオゾン処理装置により表面を親水化した多孔質カーボン電極と上記の固定化用電極とに従来の電極膜を作製する手法であるポリイオンコンプレックス法を適用した。コントロールとして、UVオゾン処理装置により多孔質カーボン電極を活性化し、表面を親水化した後、PLLとPAAcNaとを用いて形成されるポリイオンコンプレックスを用いて酵素の固定化を行った酵素固定化電極(比較例1)を作製し、電気化学的に比較した。測定はグルコースを400mM含むイミダゾール緩衝液を用い、0.1Vにおける定電位測定およびサイクリックボルタンメトリーを行った。いずれの場合も良好な触媒電流値を得ることができた。また、1時間後の定電位測定の結果から、実施例4では2.65mA/cm2 であったが、比較例1では2.35mA/cm2 であった。したがって、実施例4は比較例1に対して有意な差が認められ、優れた結果が得られている。
この第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0057】
次に、この発明の第5の実施形態について説明する。この第5の実施形態においては、バイオ燃料電池の負極として、第1〜第4の実施形態のいずれかによる酵素固定化電極を用いる。
図7はこの第5の実施形態によるバイオ燃料電池を模式的に示す。このバイオ燃料電池では、燃料としてグルコースを用いるものとする。図8は、このバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化された酵素群の一例およびこの酵素群による電子の受け渡し反応を模式的に示す。
図7に示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構造を有する。負極21は、燃料として供給されたグルコースを酵素により分解し電子を取り出すとともにプロトン(H+ )を発生する。正極22は、負極21から電解質層23を通って輸送されたプロトンと負極21から外部回路を通って送られた電子と例えば空気中の酸素とにより水を生成する。
【0058】
負極21は、例えば多孔質カーボンなどからなる電極11(図8参照)上に、グルコースの分解に関与する酵素と、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素(例えば、NAD+ )と、補酵素の還元体(例えば、NADH)を酸化する補酵素酸化酵素(例えば、ジアホラーゼ)と、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーター(例えば、ACNQ)とが、第1〜第4の実施形態のいずれかによる酵素固定化電極と同様に固定化されて構成されている。
【0059】
グルコースの分解に関与する酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、好適にはNAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを用いることができる。この酸化酵素を存在させることにより、例えば、β−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化することができる。
さらに、このD−グルコノ−δ−ラクトンは、グルコノキナーゼとフォスフォグルコネートデヒドロゲナーゼ(PhGDH)との二つの酵素を存在させることにより、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに分解することができる。すなわち、D−グルコノ−δ−ラクトンは、加水分解によりD−グルコネートになり、D−グルコネートは、グルコノキナーゼの存在下、アデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸とに加水分解することでリン酸化されて、6−フォスフォ−D−グルコネートになる。この6−フォスフォ−D−グルコネートは、酸化酵素PhGDHの作用により、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに酸化される。
【0060】
また、グルコースは上記分解プロセスのほかに、糖代謝を利用してCO2 まで分解することもできる。この糖代謝を利用した分解プロセスは、解糖系によるグルコースの分解およびピルビン酸の生成ならびにTCA回路に大別されるが、これらは広く知られた反応系である。
単糖類の分解プロセスにおける酸化反応は、補酵素の還元反応を伴って行われる。この補酵素は作用する酵素によってほぼ定まっており、GDHの場合、補酵素にはNAD+ が用いられる。すなわち、GDHの作用によりβ−D−グルコースがD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化されると、NAD+ がNADHに還元され、H+ を発生する。
【0061】
生成されたNADHは、ジアホラーゼ(DI)の存在下で直ちにNAD+ に酸化され、二つの電子とH+ とを発生する。したがって、グルコース1分子につき1段階の酸化反応で二つの電子と二つのH+ とが生成されることになる。2段階の酸化反応では、合計四つの電子と四つのH+ とが生成される。
上記プロセスで生成された電子はジアホラーゼから電子メディエーターを介して電極11に渡され、H+ は電解質層23を通って正極22へ輸送される。
【0062】
上記の酵素、補酵素および電子メディエーターは、電極反応が効率よく定常的に行われるようにするために、電解質層23に含まれるリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの緩衝液によって、酵素にとって最適なpH、例えばpH7付近に維持されていることが好ましい。リン酸緩衝液としては、例えばNaH2 PO4 やKH2 PO4 が用いられる。さらに、イオン強度(I.S.)は、あまり大きすぎても小さすぎても酵素活性に悪影響を与えるが、電気化学応答性も考慮すると、適度なイオン強度、例えば0.3程度であることが好ましい。ただし、pHおよびイオン強度は、用いる酵素それぞれに最適値が存在し、上述した値に限定されない。
【0063】
図8には、一例として、グルコースの分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ 、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターがACNQである場合が図示されている。
【0064】
正極22は、多孔質カーボン電極などに、例えばビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの酸素を分解する酵素を固定化したものである。この正極22の外側の部分(電解質層23と反対側の部分)は通常、多孔質カーボンよりなるガス拡2層により形成される。正極22には、好適には、酵素に加えて、この正極22との間で電子の受け渡しを行う電子メディエーターも固定化される。
この正極22においては、上記の酸素を分解する酵素の存在下で、電解質層23からのH+ と負極21からの電子とにより空気中の酸素を還元し水を生成する。
【0065】
電解質層23は負極21において発生したH+ を正極22に輸送するためのもので、電子伝導性を持たず、H+ を輸送することが可能な材料により構成されている。電解質層23としては、具体的には、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、PSSA−PVA(ポリスチレンスルホン酸ポリビニルアルコール共重合体)や、PSSA−EVOH(ポリスチレンスルホン酸エチレンビニルアルコール共重合体)などからなるものが挙げられる。なかでも、含フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂からなるものが好ましく、具体的には、ナフィオン(商品名、米国デュポン社)が用いられる。
【0066】
以上のように構成されたバイオ燃料電池において、負極21側にグルコースが供給されると、このグルコースが酸化酵素を含む分解酵素により分解される。この単糖類の分解プロセスで酸化酵素が関与することで、負極21側で電子とH+ とを生成することができ、負極21と正極22との間で電流を発生させることができる。
次に、バイオ燃料電池の具体的な構造例について説明する。
図9AおよびBに示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構成を有している。この場合、正極22の下および負極21の上にそれぞれTi集電体41、42が置かれ、集電を容易に行うことができるようになっている。符号43、44は固定板を示す。これらの固定板43、44はねじ45により相互に締結され、それらの間に、正極22、負極21、電解質層23およびTi集電体41、42の全体が挟み込まれている。固定板43の一方の面(外側の面)には空気取り込み用の円形の凹部43aが設けられ、この凹部43aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴43bが設けられている。これらの穴43bはカソード電極22への空気の供給路となる。一方、固定板44の一方の面(外側の面)には燃料装填用の円形の凹部44aが設けられ、この凹部44aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴44bが設けられている。これらの穴44bは負極21への燃料の供給路となる。この固定板44の他方の面の周辺部にはスペーサー46が設けられており、固定板43、44をねじ45により相互に締結したときにそれらの間隔が所定の間隔になるようになっている。
図9Bに示すように、Ti集電体41、42の間に負荷47を接続し、固定板44の凹部44aに燃料として例えばリン酸緩衝液にグルコースを溶かしたグルコース溶液を入れて発電を行う。
【0067】
この第5の実施形態によれば、負極21として用いられる酵素固定化電極が高効率であることにより、高効率のバイオ燃料電池を実現することができる。また、バイオ燃料電池の高出力化のためには燃料であるグルコースから2電子よりも多くの電子を取り出す必要があり、このためには三種類以上の酵素が適切な位置に固定化された酵素固定化電極を用いる必要があるが、例えば第1〜第4の実施形態による酵素固定化電極において三種類以上の酵素を固定化することによりこのような要求も満たすことができる。
【0068】
次に、この発明の第6の実施形態によるバイオ燃料電池について説明する。
このバイオ燃料電池においては、燃料として、多糖類であるデンプンを用いる。また、デンプンを燃料に用いることに伴い、負極21にデンプンをグルコースに分解する分解酵素であるグルコアミラーゼも固定化する。
このバイオ燃料電池においては、負極21側に燃料としてデンプンが供給されると、このデンプンがグルコアミラーゼによりグルコースに加水分解され、さらにこのグルコースがグルコースデヒドロゲナーゼにより分解され、この分解プロセスにおける酸化反応に伴ってNAD+ が還元されてNADHが生成され、このNADHがジアホラーゼにより酸化されて2個の電子とNAD+ とH+ とに分離する。したがって、グルコース1分子につき1段階の酸化反応で2個の電子と2個のH+ とが生成される。2段階の酸化反応では合計4個の電子と4個のH+ とが生成される。こうして発生する電子は負極21の電極11に渡され、H+ は電解質層23を通って正極22まで移動する。正極22では、このH+ が、外部から供給された酸素および負極21から外部回路を通って送られた電子と反応してH2 Oを生成する。
上記以外のことは第5の実施形態によるバイオ燃料電池と同様である。
この第6の実施形態によれば、第5の実施形態と同様な利点を得ることができるほか、デンプンを燃料に用いていることにより、グルコースを燃料に用いる場合に比べて発電量を増加させることができるという利点を得ることができる。
【0069】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
なお、リン脂質層の代わりに、マイクロカプセル、ナノカプセル、人工赤血球、細胞もしくは細胞、臓器などの破砕物、エマルジョン、ミセルなどを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明の第1の実施形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図2】この発明の実施例1において用いられるリポソームを示す略線図である。
【図3】この発明の実施例1により作製された酵素固定化電極の表面の共焦点顕微鏡像である。
【図4】この発明の第2の実施形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図5】この発明の第3の実施形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図6】この発明の第4の実施形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図7】この発明の第5の実施形態によるバイオ燃料電池を示す略線図である。
【図8】この発明の第5の実施形態によるバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化された酵素群の一例およびこの酵素群による電子の受け渡し反応を模式的に示す略線図である。
【図9】この発明の第5の実施形態によるバイオ燃料電池の具体的な構成例を示す略線図である。
【符号の説明】
【0071】
11…電極、12…リン脂質二分子膜、13、14…酵素、15…アンカー、16…電子メディエーター、17…リポソーム、18…中間層、19…ポリイオンコンプレックス、20…分子、21…負極、22…正極、23…電解質層、41、42…Ti集電体、43、44…固定板、47…負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化電極。
【請求項2】
上記リン脂質層に上記酵素に加えて電子メディエーターが固定化されていることを特徴とする請求項1記載の酵素固定化電極。
【請求項3】
上記酵素は複数種の酵素を含むことを特徴とする請求項1記載の酵素固定化電極。
【請求項4】
上記電極と上記リン脂質層との間に中間層を有することを特徴とする請求項1記載の酵素固定化電極。
【請求項5】
上記中間層は生体高分子または高分子電解質からなることを特徴とする請求項4記載の酵素固定化電極。
【請求項6】
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化電極。
【請求項7】
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
上記リン脂質層に上記酵素に加えて電子メディエーターが固定化されていることを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
上記酵素が、単糖類の酸化を促進し分解する酸化酵素を含むことを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項10】
上記酵素が、上記単糖類の酸化に伴って還元された補酵素を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を上記負極に渡す補酵素酸化酵素を含むことを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項11】
上記補酵素の酸化体がNAD+ であり、上記補酵素酸化酵素がジアホラーゼであることを特徴とする請求項10記載の燃料電池。
【請求項12】
上記酸化酵素がNAD+ 依存型グルコースデヒドロゲナーゼであることを特徴とする請求項9記載の燃料電池。
【請求項13】
上記負極に酵素が固定化され、上記酵素が、多糖類の分解を促進し単糖類を生成する分解酵素および生成した単糖類の酸化を促進し分解する酸化酵素を含むことを特徴とする請求項7記載の燃料電池。
【請求項14】
上記分解酵素がグルコアミラーゼ、上記酸化酵素がNAD+ 依存型グルコースデヒドロゲナーゼであることを特徴とする請求項13記載の燃料電池。
【請求項15】
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項16】
一つまたは複数の燃料電池を用いる電子機器において、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する酵素固定化電極であるものである
ことを特徴とする電子機器。
【請求項17】
一つまたは複数の燃料電池を用いる電子機器において、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、上記正極および/または上記負極に酵素が固定化されている燃料電池であって、
上記正極および/または上記負極が、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する酵素固定化電極であるものである
ことを特徴とする電子機器。
【請求項18】
酵素固定化電極を有する酵素反応利用装置であって、
上記酵素固定化電極が、
電極と、
上記電極上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とする酵素反応利用装置。
【請求項19】
酵素固定化電極を有する酵素反応利用装置であって、
上記酵素固定化電極が、
電極と、
上記電極上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する酵素固定化電極である
ことを特徴とする酵素反応利用装置。
【請求項20】
基体と、
上記基体上のリン脂質層と、
上記リン脂質層に固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化基体。
【請求項21】
基体と、
上記基体上の中間層と、
上記中間層上のリン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスと、
上記リン脂質層および/またはポリイオンコンプレックスに固定化された酵素とを有する
ことを特徴とする酵素固定化基体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−243380(P2008−243380A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77753(P2007−77753)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】