説明

酵素的プロセス

バニラ抽出物を形成する方法であって、緑熟バニラ豆を高い乾燥温度中に晒し、溶媒で抽出し、および、ベータ−グルコシダーゼ酵素とともに処理してグルコバニリンをバニリンに酵素的に変換し、これにより良好なバニリン収量および望ましくないオフノートが欠落した複雑でバランスの良いバニラの芳香を有するバニラ抽出物を提供する前記方法を、提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緑熟(green ripe)バニラ豆からのバニラ抽出物を形成する酵素的プロセスであって、緑熟バニラ豆は熱への暴露中に乾燥され、その後ベータ−グルコシダーゼ酵素に晒してグルコバニリンをバニリンに変換する前記プロセスを開示する。
【背景技術】
【0002】
バニリンおよび他のフレーバー化合物を含むバニラ抽出物は、緑熟バニラ豆をキュアリング(curing)および抽出プロセスに供することにより製造される。キュアリングプロセスは、スーパーマーケットで入手可能な茶〜黒の丸ごと(whole)のバニラ豆を形成する。キュアされた豆は、その後、抽出され、液状のバニラ抽出物を形成する。
【0003】
その前駆体グルコバニリンからのバニリンへのバニラ豆中の酵素反応は、残存する植物酵素、特にグルコシダーゼ酵素により、主に引き起こされると考えられている。
完全に熟したバニラ豆中のグルコバニリン含有量は、平均で乾燥バニラ豆の重量あたり約10%であり、これは、完全な変換および損失がないことを仮定すると、最大4.84%のバニリンへ理論的に変換されることができる。通常、特に従来のプロセスにおいては、ずっとより低い収量が得られる。
【0004】
従来のいわゆる「キュアリング」プロセスは、熱湯処理段階、発酵(sweating)段階、および数週間または数か月続き、かつ天然に起こる酵素反応を用いる長期の調整段階を伴う。 発酵および調整より前に、豆を、約65℃の熱湯中で熱湯処理する短い(例えば、3分間)段階に通常供する。
発酵段階の間、豆が乾ききることを防ぐための湿気のある雰囲気における熱への暴露により、天然に発生する酵素がグルコバニリンを含む種々の前駆体をバニリンを含むバニラフレーバー成分へと変換することができる。
【0005】
通常何週間または何か月も続く調整期間の間、豆は、非常にゆっくりと乾燥し、天然の酵素反応が継続することができる。この段階は、繰り返しの品質管理を伴い、環境条件に依存する。
得られる抽出物の官能プロファイルおよびフレーバーが優れ得る一方で、最適の条件下でさえ、バニリン収量は非常に低く、通常、バニラ豆の乾燥重量あたり約2.2%までである。
【0006】
より少ない時間を消費する公知の方法も、同様に低い平均バニリン収量をもたらす、および/または、官能プロファイルが許容できず、複雑なバニラ芳香を欠いている、および/またはバニリンの収量が比較的高い場合であってもバニリン風味を完全に圧倒する望ましくないオフノートを含み、そして、数か月の長い従来のキュアリング法によって形成されるバニラ抽出物の典型的な芳香に関連しない人工的なノートをもたらす。
【0007】
例えば、WO 2004/091316およびUS 5,705,205に記載されるように、例えば、いくつか知られるより短いプロセスは、酵素を緑色(green)バニラ豆に添加する。
WO 2004/091316は、緑色バニラ豆に基づく、抽出および引き続く酵素反応の組み合わせ処理を記載する。酵素的プロセスは、高い溶解作用および際立ったセルラーゼ活性を有する酵素(例えば、ベータ−グルコシダーゼとは異なる)を用いる。これらの溶解酵素は、植物細胞壁の溶解によって植物細胞から褐変中に生じたバニリンを放出するのに用いられる。0.5〜7日の促進された褐変段階は、緑色バニラ豆を凍結し、続いて解凍し、または代わりに、低いバニリン収量を許容する場合には、60℃〜65℃の水中にて短時間熱湯処理し、および、その後の発酵段階、熱湯処理された豆を15℃〜45℃にて同様の時間、茶色までインキュベートすることにより行われる。
【0008】
US 5,705,205は、酵素的プロセスを記載し、ここで、緑色の収穫したての豆を含水させて水中で粉砕し、とりわけβ−グルコシダーゼを含む種々の酵素に供し、後者はグルコバニリンをバニリンに加水分解する。
いくつかの以前の酵素的プロセスと比較した際に官能的に改善される一方で、短期間(約一週間までの数日)の既知の酵素的プロセスによって処理された緑熟(すなわち、「キュアされていない」)バニラ豆は、それでもやはり数週間または数か月続く従来のキュアリングプロセスと比較した際に同等に複雑な芳香を発現させていない。
【0009】
したがって、オフノートのない、より複雑なバニラ芳香を有する改善された官能プロファイルを有し、良好なバニリン収量を有するバニラ豆抽出物を提供することのできる短期間のプロセスについての要求が依然として存在する。
特に、複雑なバニラ芳香は、所望のフェノールのノートを低濃度で含み(これらは、他を圧倒するものであると理解されるであろうため)、および、緑色バニラ豆から作られる抽出物としばしば関連した非常に支配的な脂肪酸のオフノートおよびグリーンのオフノートが欠落するまたは最小化しているべきである。
従来のキュアリングおよびより短期間の酵素的プロセスの両方は、プロセスの相当の期間、バニラ豆を湿らせ続け、残存する植物酵素および/または添加した酵素がグルコバニリンをバニリンに変換するそれらの働きを行うことを可能とする。
【発明の概要】
【0010】
要約
出願人は、緑色バニラ豆を最初に約24時間以内に約10%の低い水分含量まで迅速に乾燥し、その後にのみb−グルコシダーゼを用いた酵素処理に供した際に、オフノートのない、複雑でバランスの良いバニラ芳香を有し、良好なバニリン収量を有するバニラ豆抽出物を形成することができることを見出した。
【0011】
以下を提供する:
(1) バニラ抽出物を形成する方法であって、
a)緑熟バニラ豆を砕き、これらを約65℃〜約120℃の乾燥温度で約5〜約24時間、10%未満の水分含量に達するまで水分が抜けることのできる環境中においてインキュベートすることにより、乾燥バニラ豆を形成すること、
b)乾燥バニラ豆を粉砕する、または細かく切り刻むこと、
c)乾燥バニラ豆またはその抽出物を、添加剤として供給された1種または2種以上のベータ−グルコシダーゼ酵素とともにインキュベートし、グルコバニリンをバニリンに変換すること、および
d)段階c)の前または後に、乾燥粉砕バニラ豆を、溶媒で抽出すること、
を含む前記方法。
【0012】
(2) 抽出段階b)を、酵素インキュベーション段階c)より前に行う、(1)に含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
(3) 段階b)の得られるバニラ抽出物を、溶媒を少なくとも一部取り除くことにより、濃縮する、(1)および(2)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
【0013】
(4) 段階c)の混合物を、約45℃の最高温度で濃縮する、(1)〜(3)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
(5) 抽出物の体積を、食品等級の溶媒を添加することによって調節し、バニラ抽出物の所望の濃度を達成する、(1)〜(4)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
【0014】
(6) 乾燥温度が、約80〜約90℃である、(1)〜(5)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
(7) 溶媒が、水、エタノール、ヘキサンまたはこれらの混合物からなる群から選択される、(1)〜(6)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
【0015】
(8) 緑熟バニラ豆のグルコバニリン含有量が、少なくとも6%(wt/wt)である、(1)〜(7)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
(9) 段階d)における酵素の量が、バニラ豆の投入重量の0.005〜2倍に等しい、(1)〜(8)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
【0016】
(10) 段階c)における温度が、約20℃〜約80℃である、(1)〜(9)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
(11) 段階c)におけるインキュベーション時間が、10時間〜2日間である、(1)〜(10)のいずれか1つに含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
(12) 段階c)におけるインキュベーション時間が、16〜24時間である、(11)に含まれる、本明細書に記載されるとおりの方法。
【0017】
詳細な説明
最初の段階では、緑熟バニラ豆を砕き、これらを約65℃〜約120℃の乾燥温度で約5〜約24時間、10%(w/w)未満の水分含量に達するまで水分が抜けることのできる環境中において乾燥することにより、乾燥バニラ豆を形成する。
【0018】
出願人は、緑色のキュアされていないバニラ豆を最初に迅速に乾燥し、約10〜48時間、例えば、16〜24時間の酵素的プロセスにおいて酵素的に処理した後にのみ、低濃度のフェノールのノートを含み、およびオフノート、特に脂肪酸およびグリーンのオフノートが欠落した、豆を従来通りキュアリングすることによって形成されるものと同様の、複雑でバランスの良いバニラ芳香を有するバニラ抽出物を提供することができることを見出した。
【0019】
抽出物を、酵素反応より前に形成することができ、これは、バニリン収量を含むバニラ抽出物の合計収量を低下させる問題を含み得、およびさらに追加の下流工程を必要とし得る植物由来繊維を除去する追加の利益を有する。あるいは、酵素的に処理されたバニラ豆材料を、その後に抽出することができる。
【0020】
さらに、理論によって結び付けられることを望まずに、出願人は、バニラ豆のバニリン収量についての一つの要因が、ある細菌の存在であることを見出した。最初の加熱/乾燥段階は、また、これらの微生物を減少させることに貢献し、バニリンの早期形成(これは、植物酵素よりもむしろ細菌酵素によりかなりの程度形成されると思われる)を避け、これにより、その毒性を避けるために、より高いバニリン濃度で始まる微生物によるバニリンの分解を避ける。したがって、収量を最大化するためには、豆をできる限り素早く約10%の水分含量まで乾燥するべきである。
【0021】
任意に、バニリン収量をさらに最大化するために、本方法を、グルコバニリンが高い(すなわち、バニリン前駆体は高いが、バニリンは低い)バニラ豆で行ってもよい。理想的には、グルコバニリンは、少なくとも6%またはより高く、例えば、少なくとも7%、少なくとも8%または少なくとも10%であるべきである。したがって、Vanilla planifoliaからの豆が好ましく、一方で、V. pomponaおよびV. tahitensisからの豆は、通常、十分なグルコバニリン濃度を有していない。
【0022】
任意に、十分に発達し、バランスの良い複雑な芳香の発生を確実にするために、抽出段階は、グルコバニリンのバニリンへの変換前に(後よりもむしろ)行うべきである。再び理論によって結び付けられることを望まずに、酵素インキュベーション前の抽出は、バランスの良い複雑な芳香の発生に貢献するようである酵素処理中に、さもなくば存在する微生物を減少させる。
【0023】
本明細書中に記載されるバニラ抽出物を限定することなく含むバニラ豆製品は、主要なバニラフレーバー化合物を含む、良く発達し、バランスの良い複雑なフレーバープロファイルを提供する。主要なバニラフレーバー化合物は、限定することなく、フェノール化合物、フラン化合物、脂肪酸化合物、エタノールとの反応により生成した化合物、およびアセトアルデヒドジエチルアセタールを含む。
【0024】
フェノール性バニラフレーバー化合物は、限定することなく、アセトバニロンアルファ−エトキシ−p−クレゾール、安息香酸、グアイアコール、4−メチルグアイアコール、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、メチルパラベン、バニリン酸メチル、2−メトキシ−4−ビニルフェノール、5−メトキシバニリン、フェノール、バニリン、バニリン酸、バニリルアルコール、バニリルエチルエーテル、およびp−ビニルフェノールを含む。
これらのフェノール性バニラフレーバー化合物は、特に、グアイアコールは、これらが支配して、バランスを失するフレーバーをもたらすことがないように、低濃度で存在すべきである。
【0025】
フランバニラフレーバー化合物は、限定することなく、2−フルフラール、2−フルフロール、5−(ヒドロキシメチル)−2−フルフラール、5−メチル−2−フルフラール、2−ヒドロキシフラネオール、ガンマ−ブチロラクトン、ジヒドロ−2(3H)−フラノンを含む。
【0026】
脂肪酸バニラフレーバー化合物は、限定することなく、リノール酸およびパルミチン酸を含む。
エタノールとの反応により生成したバニラフレーバー化合物は、限定することなく、酢酸エチル、グリコール酸エチル、乳酸エチル、リノール酸エチル、ピルビン酸エチル、レブリン酸エチル、およびコハク酸ジエチルを含む。
【0027】
バニラ抽出物は、実質的に、バニラ属の植物からのバニラ豆の抽出物質および任意に溶媒からなる。例えば、いくつかの国においては特定の糖を添加してもよい。溶媒は、限定することなく、アルコール/エタノールおよび水を含む。食品等級でない溶媒は、国で異なる規制上の要件に準じて消費者に販売される最終製品を形成するように、除去するまたは十分に濃度を下げなければならない。
【0028】
現在、世界的に栽培されるバニラ属の3種の主要な栽培種があり、全てメソアメリカで発見された種から派生している:マダガスカル、レユニオンおよびインド洋に沿った他の熱帯地域で栽培されるVanilla planifolia(V. planifolia、異名V. fragrans);南太平洋で栽培されるV. tahitensis;および西インド諸島、中央および南アメリカで見られるV. pompona。生産される世界のバニラの大部分は、東アフリカの国のマダガスカルの小さな地域およびインドネシアで栽培されるV. planifoliaの品種であり、それは、マダガスカルで生産された場合には、「マダガスカル−ブルボン(Madagascar-Bourbon)」バニラとしてより一般的に知られる。
【0029】
バニラ種は、限定することなく、V. planifolia、V. tahitensis、V. pompona、およびこれらのまたは他のバニラ種植物との交配種、例えば、限定することなく、V. planifoliaとV. pomponaとの交配種を含む。
【0030】
バニラ豆は、十分につるが発達するのに約6か月かかり、この段階の間、豆は、色が緑である。生長段階の終わりにおいて、豆は、依然として小さな黄色の先端を有する緑色であり、これは、時々「花床黄色(blossom-end yellow)」または「成熟」といわれ、成熟または緑熟豆が収穫される段階である。従来通りキュアされるとき、これらは、緑色から茶色に変化する。緑色バニラ豆はしたがって、熟したキュアされていない豆である。緑熟バニラ豆は、最大のグルコバニリン含量のために、完熟であるべきである。これは、目視検査により検査することができる(黄色の先端を有する緑色豆)。収量をさらに最適化するために、グルコバニリン濃度を検査してもよい。好適なグルコバニリン濃度は、約6%またはそれ以上からである。
【0031】
バニラ豆を、これらを例えば限定することなく約1〜2.5cm長のかけらの状態にするのに好適な任意の手段によって、砕く。任意の好適な道具や機構を用いてもよい。例えば、豆を切断するまたはたたき切ってもよい。切断は、一般に、豆の長軸を横断して行うが、他の方向もまた可能である。
【0032】
バニラ抽出物を形成するプロセスは、砕かれた緑熟豆を約65℃〜約120℃の乾燥温度で少なくとも1時間または10%未満の水分含量に達するまで乾燥させることを含む。好適な乾燥温度は、例えば、約80℃〜約90℃を含む。乾燥は、強制換気、真空の適用または豆を焦がさないまたは焙煎しない他の任意の手段によって促進される。
【0033】
温度は、限定することなくBacillus subtilisを含むバニリン分解微生物を減少させるのに十分に高く、例えば65℃およびそれ以上であるが、豆が焦げる温度より低い必要がある。後者も、また乾燥プロセス中に低下するであろう残存水分含量に依存するであろう、例えば、乾燥を120℃で開始することができるが、しかし、温度を、豆がより乾いた時点かつこれらが焦げ始める前に65℃〜100℃のより低い温度に調節するであろう。豆は、10%(w/w)未満の水分濃度に達するべきである。水分含量は容易に測定でき、例えば、赤外線オーブン/水分分析計を用い、乾燥前後にて重量を量り、粉砕して完全に乾燥した豆に対して部分的に乾燥した豆を比較する。開始温度および乾燥の間の温度減少の度合いに応じて、乾燥の継続時間は変化するであろう。通常、長くて24時間であり、これは、生成したバニリンが酵素反応中を含む引き続く段階中において著しく分解されないように、微生物を許容可能な水準まで減少させるのに十分な時間である。より多くの時間があれば、丸ごとの豆をより低い温度、例えば約60℃にて、ゆっくりと乾燥させてもよいが、これによりBacillus subtilisを含むより多くの微生物が生存し、その結果バニリン収量が低下するため、より好ましくない。
【0034】
乾燥バニラ豆を、グラインダーで粉砕し、溶媒で抽出する。
バニリンおよび/またはさらなるバニラフレーバーを溶液にする任意の溶媒を、使用することができる。有用な溶媒は、水、および限定することなく有機アルコールを含むアルコールを含む。有機アルコールは、限定することなく、4個までの炭素原子を有するアルカノール、例えば、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、限定することなくプロピレングリコール、ブチレングリコール、もしくはグリセリンを含む低分子量グリコールおよびポリオールまたはこれらの混合物を含む。
【0035】
好適な溶媒は、限定することなく、用いられる比率で水と混合可能な少なくとも一種のアルコールを含有する水性アルコール溶媒を含む。好適な水性アルコール溶媒は、限定することなく、エタノールおよび水の混合物、例えばエタノール/水(50:50)を含む。
【0036】
食品等級の溶媒を使用する場合には、それを、その後に除去する必要はなく、これは、最終プロセス段階において特により効率的である。食品等級の溶媒は、限定することなく、エタノール、水、エタノールと水との混合物、エタノール/水(50:50)およびこれらの混合物を含む。別の代替手段は、超臨界流体抽出であってもよい。
【0037】
消費者に販売される最終製品を形成するために、食品等級でない、または全ての最終製品について全ての法律においてもしくは全ての濃度において食品等級でない溶媒、例えば、限定することなく、ヘキサン、エチルメチルケトン、酢酸メチル、ジクロロメタン、フーゼル油またはこれらの混合物を、完全に除去するか、少なくとも一部(通常国の食品規制に応じて変化する特定の低い濃度まで)除去しなければならない。用語「フーゼル油」は、主としてイソペンチルアルコール、アミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびプロピルアルコールなどのアルコールの混合物からなるアルコール発酵および蒸留の副生成物として少量得られる、蒸留され、濃縮された液体を指す。
【0038】
任意に、得られるバニラ抽出物を、溶媒を少なくとも一部除去することにより濃縮することができる。
溶媒の一部が水でなく、例えば、限定することなく、エタノールである場合、溶媒の非水部分を、ベータ−グルコシダーゼ酵素を用いたインキュベーションの前に、少なくとも一部、例えば25%未満のエタノール濃度まで、除去する必要がある。低分子量グリコールおよびポリオールは、通常、酵素活性により少ない影響を与え、ベータ−グルコシダーゼ酵素に悪影響を与えない濃度で残存してもよい。
【0039】
バニリンの酵素変換後、抽出物を任意に、例えば、限定することなく、真空下で蒸留装置中で加熱することにより、濃縮してもよい。抽出物を、バニリンの分解を回避するために、高過ぎる温度で加熱すべきでない。抽出物の濃縮中の45℃までの温度は、通常、バニリン収量に著しい悪影響を与えない。
任意に、所望の倍量のバニラ抽出物を達成するために、バニラ抽出物の体積を、所望通りに、本明細書に記載されるように溶媒を添加することにより調整してもよい。
【0040】
バニラ抽出物を、ベータ−グルコシダーゼ酵素(Biocatalysts Limited, Cardiff, UKを含む様々な源から市場で入手可能)またはベータ−グルコシダーゼ酵素および任意な追加の酵素を含有する混合物を用いた、酵素反応に供する。ベータ−グルコシダーゼ酵素の量は、継続期間、温度、基質および溶媒の量ならびに濃度を含むインキュベーションのパラメーターに依存する。
【0041】
過剰の酵素は、さらなる利益を有さず、そして、オフテイストをもたらし得る。少なすぎる酵素は、許容可能なバニリン収量に達するのに、酵素的プロセスに必要とされる時間を長くするであろう。酵素の最適な量を、容易に測定し、適宜調整することができる。
1gあたり5ユニットのベータ−グルコシダーゼを含有する酵素の混合物を用いる場合、その後、バニラ豆投入重量の0.005〜0.2倍の酵素の量が通常十分であり、例えば、限定することなく、0.02〜0.1または0.035〜0.15倍である。
【0042】
酵素インキュベーションにおいて使用するための好適な溶媒は、水ならびに水および酵素と適合する別の溶媒の混合物を含む。例えば、最適な酵素反応のために、エタノールを25%未満とすべきである。
【0043】
酵素を、好適な温度範囲、例えば20℃〜80℃または40℃〜60℃、例えば、限定することなく、その約55℃〜60℃における至適温度付近でインキュベートし、およびグルコバニリンを所望のバニリン収量へ変換するのに十分な時間、この温度で行う。連続的な撹拌により、一定の温度および濃度が確保されるであろう。より小さい容量は、撹拌を必要としないかもしれない。
【0044】
インキュベーション時間は、酵素および基質の量および濃度、存在する溶媒、選択された温度に依存し、例えば、限定することなく、1時間〜2日またはより長いであろう。通常、24時間は、十分である。
好ましくは、混合物を、酵素反応の間、反応槽の至るところで十分な混合、一定の温度、および酵素の基質へのアクセスを確保するために撹拌すべきである。
【0045】
酵素インキュベーションの後、任意に、バニラ抽出物は、当該分野で周知なように、例えば、真空下の蒸留装置中で、濃縮してもよい。温度は、バニリンのあらゆる部分的分解を回避するために、約45℃の最大値を超えるべきでない。
任意に、食品等級の溶媒を、濃度またはいわゆるバニラ抽出物最終製品の倍を所望に調整するために、添加してもよい。
【0046】

別段の表示がない限り、百分率はwt/wtとして与えられ、および全ての成分および溶媒は食品等級である。バニラ豆は、Vanilla planifolia植物からであった。下記のバニラ抽出物は、US「倍」単位を用いる、例えば、単倍バニラ抽出物は、1USガロン(35%アルコール)の製品中に1ユニットのバニラ豆(25%の最大水分含量を含む13.35ozバニラ鞘)の抽出物質を含むものである。したがって、FDA、タイトル21によると、10倍バニラ抽出物は、最終製品の1USガロンあたりに10ユニットのバニラ豆の抽出物質を含むものである。
【0047】
例1
高バニリンバニラ抽出物の調製
乾燥緑色バニラ豆の調製:
目視検査により検査した高濃度(豆の乾燥重量に基づいて少なくとも6%〜10%またはより高い;通常、緑色豆は約16%の乾燥物質を有し、乾燥後、約90%の乾燥物質を有する)のグルコバニリンを有する緑色の完熟した豆(黄色の先端を有する緑色豆)を使用した。乾燥は、豆を約2.5cm長のかけらに切断し、その後約85℃(80℃〜90℃)でオーブンで10%未満の水分濃度に達するまで乾燥することにより行った。水分百分率は、赤外線オーブン(Arizona InstrumentsによるMoisture Analyzer, Computrac, Model Max-1000)を用い、そして乾燥前後の豆の重量を量り、測定した。乾燥工程は、通常約10〜20時間かかった。これにより、酵素反応中に生成するバニリンが顕著に分解しないように、微生物を許容可能な水準まで減少させた。
【0048】
乾燥豆を、グラインダー(Mr Coffee, Cleveland OH, USA)で粉砕した。
1.59kg(または3.5lbs)の粉砕バニラ豆を抽出し、得られる抽出物がバニラ豆投入重量の1倍となるまで濃縮した。バニラ豆を50/50(w/w)水道水およびエタノールで1度の抽出につき2.27kgまたは5lbsの溶媒で、5回抽出した。合わせた抽出物を真空下、最高温度45℃でバニラ豆投入重量の1.35倍まで濃縮し、エタノール溶媒を除去した。水道水を総重量がバニラ豆投入重量の6.86倍になるまで加えた。高濃度のベータ−グルコシダーゼを含有するDepol 40L酵素ミックス(Biocatalysts Limited, Cardiff, UK)を、バニラ豆投入重量の0.0686倍に等しい量で添加した。酵素を有する混合物を60℃まで加熱し、この温度で16時間継続的に撹拌しながら保持した。酵素反応後、混合物を45℃以下まで冷却し、バニラ豆投入重量の0.71倍まで真空下、バニリンの分解を回避するために45℃の最高温度にて濃縮した。
エタノールを、約40%(v/v)エタノールに調整するように加え(バニラ豆投入重量の約0.3倍)、得られる澄んだ10倍バニラ抽出物の最終重量をバニラ豆投入重量の1倍と等しくした。
【0049】
酵素処理前の乾燥重量に基づく緑色バニラ豆のグルコバニリン濃度を測定すると、5.9%(w/w)であり、またバニリン濃度は、0.9%であった。したがって、少しの分解もないグルコバニリンの完全な変換に基づく、理論的に得られる100%バニリン収量のみを仮定すると、計算された最大のバニリン収量は、3.76(w/w、乾燥重量に基づく)(グルコバニリン濃度に0.484を乗じ、初期のバニリン濃度を加える)であった(既知のバニリン生産プロセスは、生成したバニリンの回収中における損失のため、通常、理論的に得られる最大のバニリン収量の多くても約90%にしか達しない)。
【0050】
10倍バニラ抽出物中、得られたバニリン収量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定すると、3.0%(w/w)であり、グルコバニリン濃度を測定すると、処理された乾燥バニラ豆の重量に基づいて0.36%(w/w)であった。
したがって、達成したバニリン収量(3%)は、理論的に可能な最大バニリン収量(3.7%)の80%に相当する。
【0051】
例2
改変プロセス−抽出前の酵素処理
乾燥粉砕豆を、上記例1に記載されるように調製した。
22lbs(9.979kg)の乾燥粉砕豆を、撹拌槽中の110lbs(49.895kg)の水に対し加え、1時間にわたり85℃まで加熱した。得られた混合物を60℃まで冷却した。1.1lbs(0.499kg)のDepol 40Lを加えた。得られた混合物を、18時間にわたり60℃で撹拌し、その後50℃まで冷却した。50%水酸化ナトリウムの添加によりpHをpH7に調整した。110lbs(49.895kg)のエタノールをこの混合物に対して加え、4時間にわたり50℃で撹拌し、その後25℃まで冷却した。抽出物を静かに移し(decant)、そして確保した。4回のさらなる抽出を50℃にて、44lbs(19.958kg)のエタノールおよび44lbs(19.958kg)の水の混合物で行った。各抽出後、抽出物を静かに移し、そして確保した。合わせた抽出物を真空下、最高温度45℃でバニラ豆投入重量の1.35倍まで濃縮し、エタノール溶媒を除去した。
エタノールを、約40%(v/v)エタノールに調整するように加え(バニラ豆投入重量の約0.3倍)、得られる澄んだ10倍バニラ抽出物の最終重量をバニラ豆投入重量の1倍と等しくした。
【0052】
酵素処理前の乾燥重量に基づく緑色バニラ豆のグルコバニリン濃度を測定すると、7.1%(w/w)であり、またバニリン濃度は、0.4%(w/w)であった。
したがって、少しの分解もないグルコバニリンの完全な変換に基づく、理論的に得られる100%バニリン収量のみを仮定すると、計算された最大のバニリン収量は、3.85(w/w、乾燥重量に基づく、グルコバニリン前駆体から3.44%および既存のバニリン0.4)であった。
【0053】
10倍バニラ抽出物中、得られたバニリン収量を測定すると、3.28%(w/w)であり、グルコバニリン濃度を測定すると、処理した乾燥バニラ豆の重量に基づいて0.10%(w/w)であった。
したがって、達成したバニリン収量(3.28%)は、理論的に得られる最大バニリン収量(3.84%)の85%に相当する。
【0054】
例3
例2と同様の、しかし緑色バニラ豆を乾燥してない、改変プロセス
除外した緑色バニラ豆の加熱および乾燥段階を除き、例2のプロセスを本質的に繰り返した。
10リットルの水中に16%の乾燥物質を有する(乾燥プロセスに供しなかった)2kgの緑色バニラ豆を、例2に記載するように、切り刻み、酵素的に処理し、抽出した。抽出で加えられる水の量を、適宜調節した。
【0055】
酵素処理前の乾燥重量に基づく緑色バニラ豆のグルコバニリン濃度を測定すると、6.9%(w/w)であり、バニリン濃度は、1.9%であった。
したがって、計算された最大のバニリン収量は、5.2%(w/w、乾燥重量に基づく)であった。
【0056】
10倍バニラ抽出物中、得られたバニリン収量をHPLCにより測定すると、3.2%(w/w)であり、グルコバニリン濃度を測定すると、処理された乾燥バニラ豆の重量に基づいて0%(w/w)であった(グルコバニリンの完全な分解および変換を意味する)。
したがって、達成したバニリン収量(3.2%)は、理論的に得られる最大バニリン収量(6.9%)の61%に相当する。
【0057】
例4
官能評価
例1、2または3、および対照として市場で入手可能な従来のキュアされたバニラ豆(数か月にわたる標準的なキュアリングプロセスに供された)の10倍抽出物0.15mlを、100mlの加糖乳(5%スクロース)に加え、そして、訓練を受けたパネリストにより官能評価で比較した。
【0058】
パネリストは、例1のバニラ抽出物および対照の芳香を、強いバニリンのインパクトを有し、オフテイスト、例えば脂肪酸オフテイストまたはグリーンのオフテイストを有さず、バランスのとれた、調和のとれた(well-rounded)、複雑な、混じり気のない味のする、バニラ芳香を有し、フェノールノートの低い(後者は、より高い濃度では望ましくない)ものと描写した。
例1の抽出物および対照を比較すると、例1の抽出物は、よりバニリンインパクトを有し、より少なくフェノールノートを有していたが、バニラ芳香は、対照的により強い望ましくないフェノールノートを有していた対照と同程度有していた。
【0059】
例2のバニラ抽出物は、例1に官能的に(organoleptically)非常に類似していたが、わずかに好ましくなかった。
例3のバニラ抽出物(乾燥段階を有さない)は、明らかに最も好ましくない抽出物であり、対照からならびに例1および例2からの両方と芳香において大きく異なっていた。それは、バニリンノートをほぼ完全に圧倒する望ましくない人工的なノートに貢献する強い脂肪酸、例えばオレイン酸およびリノレイン酸のオフテイストならびにグリーンノートのオフテイストを有し、追加のバニラ芳香化合物の複雑さを失ったバニリンノートを有していると描写された。
【0060】
プロセスが特定の例示的態様と関連させて上記に記載される一方、他の同様の態様を用いてもよいか、または改変および追加を、記載した態様に対して行って、同一の機能(1または2以上)を発揮させてもよいことを理解するべきである。さらに、種々の態様を組み合わせて、所望の特徴を提供してもよいように、すべての開示した態様が、必ずしも代替的であるわけではない。変型を、本開示の範囲から逸脱せずに通常の当業者によって行うことができる。したがって、プロセスは、いかなる単一の態様にも限定されるべきではなく、むしろ幅および範囲においては、添付した特許請求の範囲の記述に従って解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バニラ抽出物を形成する方法であって、
a)緑熟バニラ豆を砕き、これらを約65℃〜約120℃の乾燥温度で約5〜約24時間、10%未満の水分含量に達するまで水分が抜けることのできる環境中においてインキュベートすることにより、乾燥バニラ豆を形成すること、
b)乾燥バニラ豆を粉砕する、または細かく切り刻むこと、
c)乾燥バニラ豆またはその抽出物を、添加剤として供給された1種または2種以上のベータ−グルコシダーゼ酵素とともにインキュベートし、グルコバニリンをバニリンに変換すること、および
d)段階c)の前または後に、乾燥粉砕バニラ豆を、溶媒で抽出すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
抽出段階b)を、酵素インキュベーション段階c)より前に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階b)の得られるバニラ抽出物を、溶媒を少なくとも一部取り除くことにより、濃縮する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
段階c)の混合物を、約45℃の最高温度で濃縮する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
抽出物の体積を、食品等級の溶媒を添加することによって調節し、バニラ抽出物の所望の濃度を達成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
乾燥温度が、約80〜約90℃である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
溶媒が、水、エタノール、ヘキサンまたはこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
緑熟バニラ豆のグルコバニリン含有量が、少なくとも6%(wt/wt)である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
段階d)における酵素の量が、バニラ豆の投入重量の0.005〜2倍に等しい、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
段階c)における温度が、約20℃〜約80℃である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
段階c)におけるインキュベーション時間が、10時間〜2日間である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
段階c)におけるインキュベーション時間が、16〜24時間である、請求項11に記載の方法。


【公表番号】特表2012−511308(P2012−511308A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539867(P2011−539867)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000392
【国際公開番号】WO2010/066060
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】