説明

酸化ジルコニウム分散液とその製造方法

【課題】微細な酸化ジルコニウムが分散媒に均一に分散している酸化ジルコニウム分散液の製造方法とそのようにして得られる酸化ジルコニウム分散液を提供する。
【解決手段】ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄することによって、微細な酸化ジルコニウムが水に均一に分散してなる酸化ジルコニウム水分散液を得ることができる。この酸化ジルコニウム水分散液における分散媒である水を有機溶媒と置換することによって、その有機溶媒を分散媒とする酸化ジルコニウム分散液を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウム分散液とその製造方法に関し、詳しくは、微細な酸化ジルコニウム粒子が分散媒に均一に分散してなり、従って、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム分散液とその製造方法に関する。本発明によるこのような酸化ジルコニウム分散液は、上記特性を有するので、例えば、特に、LED封止樹脂や反射防止膜等の光学用の複合樹脂の材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、その高い屈折率を利用して、酸化ジルコニウムを透明な樹脂やフィルムと複合化し、その屈折率を向上させてなる高機能性樹脂やフィルムが種々、提案されている。
【0003】
例えば、LEDを覆う封止樹脂に屈折率の高い酸化ジルコニウムを加えることによって、封止樹脂の屈折率が高められて、発光体の放つ光をより効率的に取り出すことが可能となり、LEDの輝度が向上することが知られている。
【0004】
同様に、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(EL)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の表示面の反射防止膜にも、酸化ジルコニウムが用いられている。この反射防止膜は低屈折率層と高屈折率層を積層してなる積層膜であり、この高屈折率層に酸化ジルコニウムを分散させた複合樹脂材料が用いられている。
【0005】
上述した用途においては、酸化ジルコニウムの一次粒子径と樹脂中での二次凝集粒子径が可視光線の波長(380〜800nm)よりも十分に小さくないときは、酸化ジルコニウム粒子による散乱の影響によって、封止樹脂や反射防止膜が白濁するので、必要とされる透明性が得られない。従って、酸化ジルコニウム粒子を樹脂に微粒子として分散させた透明性の高い酸化ジルコニウム分散液の開発が強く要望されている。
【0006】
このような要望に応えるべく、近年、酸化ジルコニウム微粒子やその分散液を得る方法が種々、提案されている。酸化ジルコニウム分散液を得るための代表的な方法は、ジルコニウム塩のアルカリ中和によって生成する水酸化ジルコニウムを利用するものであって、例えば、水酸化ジルコニウムのスラリーに塩酸を所定の濃度で加え、煮沸温度で加熱して、酸化ジルコニウム分散液を得る方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法によれば、得られる酸化ジルコニウムの平均粒子径が50nm以上であるので、分散液は、十分な透明性をもち難い。
【0007】
60℃以上に加熱したアルカリ金属の水酸化物水溶液にジルコニウム塩を含む水溶液を加え、中和した後、即ち、逆中和した後、濾過、洗浄し、水を加えて、攪拌した後、酸を加え、80〜100℃の温度で加熱攪拌して、ジルコニア分散液を得る方法も知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法によれば、長い加熱処理時間を必要とするので、ジルコニア分散液の工業的な製造には採用し難い。
【0008】
また、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等のカルボン酸の存在下、水中にてジルコニウム塩をアルカリで中和して、水酸化ジルコニウムゲルを得、これを一旦、洗浄した後、熟成し、超音波照射等によって十分に分散させた後、再度、上記カルボン酸の存在下に水熱処理することによって酸化ジルコニウム分散液を得る方法が知られている(特許文献3参照)。しかし、この方法は、工程数が多いうえに、ジルコニウム塩の中和の際に用いたカルボン酸の水洗、除去が容易ではなく、従って、その後の水熱処理に際して用いるカルボン酸量が一定しないので、同じ品質の酸化ジルコニウム分散液を安定して得ることが困難である。更に、水熱処理前に超音波照射等による分散処理を十分に行うことが必要不可欠であるので、酸化ジルコニウム分散液の工業的な製造には採用し難い。
【特許文献1】特開平5−24844号公報
【特許文献2】特開2008−31023号公報
【特許文献3】特開2006−143535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、従来の酸化ジルコニウム分散液における上述した問題を解決するために鋭意、研究した結果、ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理し、これを洗浄することによって、微細な酸化ジルコニウム粒子が均一に水に分散してなり、従って、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム水分散液を得ることができることを見出し、更に、このようにして得られた酸化ジルコニウム水分散液における分散媒である水を有機溶媒と置換することによって、そのような有機溶媒を分散媒とし、同様に、微細な酸化ジルコニウム粒子がその有機溶媒に均一に分散してなり、従って、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム分散液を得ることができることを見出して、本発明を完成したものである。
【0010】
従って、本発明は、微細な酸化ジルコニウム粒子が分散媒に均一に分散してなる、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム分散液と、そのような酸化ジルコニウム分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄することを特徴とする酸化ジルコニウム水分散液の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、ジルコニウム塩とアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウムと上記安定化元素との共沈物の粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウムと上記安定化元素の合計量の1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた上記安定化元素を含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄することを特徴とする酸化ジルコニウム水分散液の製造方法が提供される。
【0013】
以下、本発明において、酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物とは、ジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて得られる酸化ジルコニウムと安定化元素の塩の中和物の共沈物を意味する。
【0014】
本発明によれば、水熱処理によって得られた酸化ジルコニウム水分散液は、好ましくは、限外濾過膜を用いて洗浄する。
【0015】
また、本発明によれば、上述した方法において、ジルコニウム塩か、又はジルコニウム塩とアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させるために、ジルコニウム塩水溶液か、又はジルコニウム塩とアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素の塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に張り込み液に加えて反応させる、同時中和法によることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、上述したようにして得られた酸化ジルコニウム水分散液における分散媒である水を有機溶媒と置換することによって、そのような有機溶媒を分散媒とする上記特性を有する酸化ジルコニウム分散液を得ることができる。
【0017】
本発明によれば、上述した方法によって得られる酸化ジルコニウム分散液も提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、微細な酸化ジルコニウム粒子が均一に水に分散してなる、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム水分散液を得ることができる。更に、このようにして得られた酸化ジルコニウム水分散液における分散媒である水を有機溶媒と置換することによって、そのような有機溶媒を分散媒とし、同様に、微細な酸化ジルコニウム粒子がその有機溶媒に均一に分散してなる、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム分散液を得ることができる。
【0019】
このように、本発明による酸化ジルコニウム分散液は、微細な酸化ジルコニウム粒子が分散媒に均一に分散しているので、例えば、LED封止材や反射防止膜等の光学用途において、樹脂に複合化して、屈折率が高く、透明性にすぐれた複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明による酸化ジルコニウム水分散液の製造方法は、ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄するものである。
【0021】
また、本発明によるアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素を含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子水分散液は、ジルコニウム塩と上記安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウムと上記安定化元素との共沈物の粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウムと上記安定化元素の合計量の1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた上記安定化元素を含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄するものである。
【0022】
本発明において、ジルコニウム塩としては、特に、限定されるものではないが、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等の水溶性塩が用いられる。しかし、ジルコニウム塩としては、なかでも、オキシ塩化ジルコニウムが好ましく用いられる。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましく用いられるが、これら例示に限定されるものではない。
【0023】
上記安定化元素の塩も、特に限定されるものではなく、通常、塩化物や硝酸塩等の水溶性塩が用いられる。例えば、安定化元素がアルミニウムであるときは、塩化アルミニウムが好ましく用いられ、また、安定化元素がイットリウムであるときは、塩化イットリウムが好ましく用いられる。上記安定化元素は、通常、ジルコニウム元素に対して、1〜20モル%の範囲で用いられる。
【0024】
本発明において、ジルコニウム塩又はジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させる際の温度も、特に限定されるものではないが、通常、10〜50℃の範囲であり、好ましくは、15〜40℃の範囲である。更に、ジルコニウム塩又はジルコニウム塩と安定化元素の塩をアルカリと水中にて反応させる方法についても、例えば、ジルコニウム塩水溶液又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液にアルカリ水溶液を添加する方法、アルカリ水溶液にジルコニウム塩又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液を添加する方法、ジルコニウム塩水溶液又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に張り込み液に添加する方法等、いずれであってもよいが、なかでも、ジルコニウム塩水溶液又はジルコニウム塩と安定化元素の塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に張り込み液に添加する同時中和法が好ましい。
【0025】
本発明によれば、ジルコニウム塩水溶液、例えば、オキシ塩化ジルコニウム水溶液についていえば、その濃度は、2.4モル/L以下であることが好ましく、また、アルカリ水溶液は、その濃度が10モル/L以下であることが好ましい。
【0026】
本発明においては、このように、ジルコニウム塩か、又はジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて、それぞれ酸化ジルコニウム粒子のスラリー又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、水にリパルプして、再度、スラリーとするに際して、このスラリーは500μS/cm以下の電気伝導度を有することが好ましい。一般に、ジルコニウム塩、例えば、オキシ塩化ジルコニウムを水中にて、例えば、水酸化ナトリウムで中和するとき、塩化ナトリウムが副生する。そこで、ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて得られたスラリー中に含まれる上記副生塩、即ち、塩化ナトリウムが十分に除去されていないときは、そのようなスラリーに有機酸を加え、水熱処理しても、十分な分散効果が得難く、透明性の高い酸化ジルコニウム分散液を得ることができない。
【0027】
更に、本発明によれば、得られたスラリーを濾過、洗浄し、得られたケーキを水中にリパルプして、再度、スラリーとするために、上記ケーキを水中に投入し、攪拌機にて攪拌して、スラリーとしてもよいが、必要に応じて、ビーズミル等の湿式メディア分散のほか、超音波照射、高圧ホモジナイザー等の手段を用いて、上記ケーキを水中にリパルプしてもよい。
【0028】
本発明によれば、このようにして、通常、酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の合計量の含有率1〜20重量%の水スラリーを得る。水スラリーの酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の合計量の含有率が20重量%を超えるときは、スラリーの粘度が高く、その攪拌が困難であり、その結果、洗浄が不十分となって、このようなスラリーを用いることによっては、目的とする高い透明性を有する酸化ジルコニウム水分散液を得ることができない。特に、本発明によれば、水スラリーの酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素の共沈物の粒子の合計量の含有率は、1〜10重量%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
本発明によれば、このようにして、ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子の水スラリーを得、又はジルコニウム塩と安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の水スラリーを得、次いで、得られたスラリーを濾過、洗浄し、水にリパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと上記安定化元素の合計量の1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理する。
【0030】
本発明によれば、水熱処理に供するスラリーについても、酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の合計量の含有率は、通常、1〜20重量%の範囲であり、好ましくは、1〜10重量%の範囲である。水スラリーの酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の合計量の含有率が20重量%を超えるときは、スラリーの粘度が高く、水熱処理に困難を生じる。特に、本発明によれば、水スラリーの酸化ジルコニウム粒子含有率又は酸化ジルコニウムと安定化元素との共沈物の粒子の含有率は、1〜10重量%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
有機酸は、スラリー中の酸化ジルコニウム粒子又は酸化ジルコニウムと前記安定化元素との共沈物の粒子を相互に電荷的に反発させることによって分散させる、所謂酸解膠させるために用いられる。特に、本発明によれば、スラリーを過酷な条件下に水熱処理するので、酸化ジルコニウム粒子又は上記酸化ジルコニウムと前記安定化元素との共沈物の粒子は、より効果的に解膠される。
【0032】
上記有機酸としては、好ましくは、カルボン酸やヒドロキシカルボン酸が用いられ、これらカルボン酸やヒドロキシカルボン酸は塩であってもよい。そのような有機酸の具体例としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸とその塩、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸等の多塩基酸とその塩、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸とその塩を挙げることができる。上記カルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩が好ましく用いられる。
【0033】
また、これらの有機酸は、上述したように、水熱処理に供するスラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量1モル部に対して、通常、1モル部以上の範囲で用いられるが、好ましくは、1〜5モル部の範囲で用いられ、最も好ましくは、1〜3モル部の範囲で用いられる。スラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量1モル部に対して有機酸の量が1モル部よりも少ないときは、得られる酸化ジルコニウム水分散液がその透明性において不十分であるのみならず、粘度も高くなることがある。他方、スラリー中のジルコニウム又はジルコニウムと安定化元素の合計量1モル部に対して有機酸の量が5モル部を超えても、それに見合う効果も特になく、経済的でもない。
【0034】
次に、本発明によれば、このように、上記有機酸を含む酸化ジルコニウム粒子か、又は酸化ジルコニウムと前記安定化元素との共沈物の粒子の水スラリーを水熱処理する。この水熱処理の温度は、通常、170℃以上であり、好ましくは、170℃〜230℃の温度である。水熱処理の温度が170℃よりも低いときは、得られる酸化ジルコニウム水分散液が十分な透明性をもたないのみならず、沈降性の粗大な凝集粒子を含み、また、高い粘度を有することがある。
【0035】
水熱処理の時間は、通常、1時間以上であり、好ましくは、3時間以上である。水熱処理の温度が1時間よりも短いときは、得られる酸化ジルコニウム水分散液が十分な透明性をもたないのみならず、沈降性の粗大な凝集粒子が生成して、目的とする透明性の高い酸化ジルコニウム微粒子の水分散液を得ることができない。この水熱処理を幾ら長くしてもよいが、それに見合う効果も特に得られないので、通常、10時間以下で十分である。
【0036】
このようにして得られた酸化ジルコニウム水分散液を洗浄するには、イオン交換樹脂によるイオン交換、半透膜を用いる拡散透析、電気透析、限外濾過膜を用いる限外濾過等の手段によることができる。本発明においては、特に限定されるものではないが、これらのなかでは、限外濾過膜を用いる限外濾過による洗浄が好ましい。
【0037】
本発明によれば、このようにして、酸化ジルコニウム粒子含有率が、通常、1〜10重量%の範囲の酸化ジルコニウム水分散液を得ることができる。このようにして得られる酸化ジルコニウム水分散液中の酸化ジルコニウム粒子は、動的光散乱法による粒度分布測定において、体積基準での累積粒度分布の小粒子側から50体積%の粒子径であるD50が2〜20nm、好ましくは、3〜15nmの範囲にあり、体積基準で得られる粒度分布の最大粒子径であるDmaxが100nm以下、好ましくは、75nm以下である。また、透明性についても、波長800nmにおける透過率が95%以上である。
【0038】
本発明によれば、このように洗浄した酸化ジルコニウム水分散液を、必要に応じて、濃縮することができる。この濃縮のためには、ロータリーエバポレーターによる蒸発濃縮、限外濾過膜を用いる限外濾過による濃縮等の手段によることができるが、この濃縮手段についても、特に限定されるものではないが、限外濾過膜を用いる限外濾過による濃縮が好ましい。
【0039】
従って、本発明によれば、上記水熱処理によって得られた酸化ジルコニウム水分散液を限外濾過膜を用いて濃縮すると同時に洗浄することができる。即ち、水分散液を限外濾過して濃縮し、得られた濃縮液に水を加えて希釈、洗浄し、得られたスラリーを再度、限外濾過し、このようにして、水分散液を限外濾過して、その濃縮と希釈を繰り返すことによって、水熱処理によって得られた酸化ジルコニウム水分散液を濃縮しつつ、残存副生塩類を水と共に繰り返して除いて、かくして、酸化ジルコニウム水分散液を濃縮して、酸化ジルコニウム含有率を高めた水分散液を得ることができる。
【0040】
また、本発明によれば、前述したように、水熱処理によって得られた分散液を洗浄した後、必要に応じて、ビーズミル等の湿式メディア分散処理、超音波照射、高圧ホモジナイザー等による分散処理を行って、目的とする酸化ジルコニウム水分散液を得てもよい。
【0041】
本発明によれば、このようにして、分散媒が水である酸化ジルコニウム水分散液を得ることができるが、この水分散液における分散媒を有機溶媒と置換することによって、その有機溶媒を分散媒とする、前記特性、即ち、微細な酸化ジルコニウムが有機溶媒に均一に分散されてなる、透明性にすぐれる酸化ジルコニウム分散液を得ることができる。
【0042】
本発明において、上記有機溶媒は、特に限定されるものではないが、好ましくは、水混和性有機溶媒である。このような水混和性有機溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の脂肪族アルコール類、酢酸エチル、ギ酸メチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の脂肪族ケトン類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類や、これらの2種以上の混合物であるが、特に、好ましくは、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン又はこれらの混合物である。
【0043】
本発明によれば、酸化ジルコニウム水分散液における分散媒である水を有機溶媒と置換するには、水分散液をロータリーエバポレーターで処理して、水を除いた後、新たに有機溶媒を加えたり、また、水分散液を限外濾過して分散媒である水を除去してスラリーを得、これに有機溶媒を加えて希釈し、再度、限外濾過し、このようにして、濾過と希釈を繰り返すことによって、当初の分散媒である水を有機溶媒に置換して、分散媒がその有機溶媒である酸化ジルコニウム分散液を得ることができる。
【0044】
また、例えば、酸化ジルコニウム水分散液における分散媒である水を水混和性有機溶媒と置換して、その水混和性有機溶媒を分散媒とする酸化ジルコニウム分散液を得た後、その水混和性有機溶媒を更に別の有機溶媒と置換して、その別の有機溶媒を分散媒とする酸化ジルコニウム分散液を得ることもできる。
【0045】
本発明によれば、このようにして得られた酸化ジルコニウム分散液は、必要に応じて、更に、ビーズミル等の湿式メディア分散、超音波照射、高圧ホモジナイザー等による分散処理を行ってもよい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
以下において、限外濾過には旭化成ケミカルズ(株)製「マイクローザ」(型式ACP−0013)、分画分子量13000)を用いた。
【0048】
酸化ジルコニウム分散液の分散径は動的光散乱法(日機装(株)製UPA−UT)によって測定した。ここに、分散径とは、分散液中に分散している粒子の大きさ(直径)である。また、酸化ジルコニウム分散液の透過率は、光路長が10mmのセルに分散液を充填して、可視紫外分光光度計(日本分光(株)製V−570)にて測定した。酸化ジルコニウム分散液の粘度は、音叉型振動式SV型粘度計(エー・アンド・デイ(株)製 SV−1A )にて測定した。
【0049】
実施例1
(酸化ジルコニウム分散液A)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0050】
酢酸86.3g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して半透明の分散液を得た。この半透明の分散液を限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Aを得た。
【0051】
(酸化ジルコニウム分散液B)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0052】
酢酸86.3g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、230℃で3時間水熱処理して半透明の分散液を得た。この半透明の分散液を限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Bを得た。
【0053】
(酸化ジルコニウム分散液C)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウム水溶液0.76Lと1.7モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調整した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムを中和して、酸化ジルコニウム粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの酸化ジルコニウム含有率が5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は258μS/cmであった。
【0054】
酢酸82.2g(上記スラリー中のジルコニウム1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して半透明の分散液を得た。この半透明の分散液を限外濾過膜にて洗浄し、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Cを得た。
【0055】
(酸化ジルコニウム分散液D)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化アルミニウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化アルミニウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化アルミニウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとアルミニウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化アルミニウム換算にて5.5重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は173μS/cmであった。
【0056】
酢酸86.3g(上記スラリー中のジルコニウムとアルミニウムの合計量1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して半透明の分散液を得た。この半透明の分散液を限外濾過膜にて洗浄し、アルミニウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Dを得た。
【0057】
(酸化ジルコニウム分散液E)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化マグネシウムの混合水溶液0.76Lと1.8モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化マグネシウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化マグネシウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとマグネシウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化マグネシウム換算にて5.5重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は156μS/cmであった。
【0058】
酢酸86.3g(上記スラリー中のジルコニウムとマグネシウムの合計量1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して白濁した分散液を得た。この白濁した分散液を限外濾過膜にて洗浄し、マグネシウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この分散液を更に湿式メディア分散処理して、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Eを得た。
【0059】
(酸化ジルコニウム分散液F)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の四塩化チタンの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと四塩化チタンの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと四塩化チタンを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとチタンとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化チタン換算にて5.5重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は392μS/cmであった。
【0060】
酢酸86.3g(上記スラリー中のジルコニウムとチタンの合計量1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して白濁した分散液を得た。この白濁した分散液を限外濾過膜にて洗浄し、チタンを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この分散液を更に湿式メディア分散処理して、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Fを得た。
【0061】
(酸化ジルコニウム分散液G)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0062】
クエン酸ナトリウム2水和物140.8g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して1モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して半透明の分散液を得た。この半透明の分散液を限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Gを得た。
【0063】
(酸化ジルコニウム分散液H〉
前記酸化ジルコニウム舎有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Aを酸化ジルコニウム含有率が2.5重量%となるまでメタノールにて希釈した後、限外濾過膜にて再び5重量%まで濃縮した。この希釈、濃縮の操作を5回繰り返して、分散媒がメタノールである酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Hを得た。
【0064】
(酸化ジルコニウム分散液I)
前記酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Hを酸化ジルコニウム含有率が2.5重量%となるまでメチルエチルケトンにて希釈した後、ロータリーエバポレーターにて再び5重量%まで濃縮した。この希釈、濃縮の操作を5回繰り返して、分散媒がメチルエチルケトンである酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液Iを得た。
【0065】
比較例1
(酸化ジルコニウム分散液 I)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0066】
酢酸86.3g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して3モル部)を上記スラリーに加え、150℃で3時間水熱処理して半透明の分散液を得た。この半透明の分散液を限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この分散液を更に湿式メディア分散処理して、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液 Iを得た。
【0067】
(酸化ジルコニウム分散液II)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0068】
酢酸14.4g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して0.5モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して白濁した分散液を得た。この白濁した分散液を限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この分散液を更に湿式メディア分散処理して、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液IIを得た。
【0069】
(酸化ジルコニウム分散液III)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0070】
クエン酸ナトリウム2水和物140.8g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して1モル部)を上記スラリーに加え、150℃で3時間水熱処理して白濁した沈降性のスラリーを得た。このスラリーを限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウムの含有率5重量%とし、これを更に湿式メディア分散処理して、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液IIIを得た。
【0071】
(酸化ジルコニウム分散液IV)
0.6モル/L濃度のオキシ塩化ジルコニウムと0.03モル/L濃度の塩化イットリウムの混合水溶液0.76Lと1.9モル/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液0.53Lを調製した。予め、純水0.74Lを張った沈殿反応器に上記オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを同時中和にて共沈させて、酸化ジルコニウムとイットリウムとの共沈物の粒子のスラリーを得た。得られたスラリーを濾過、洗浄し、スラリーの固形分含有率が酸化ジルコニウムと酸化イットリウム換算にて5.6重量%となるように純水にリパルプして、スラリー1Lを得た。このスラリーの電気伝導度は235μS/cmであった。
【0072】
クエン酸ナトリウム2水和物70.4g(上記スラリー中のジルコニウムとイットリウムの合計量1モル部に対して0.5モル部)を上記スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理して白濁した分散液を得た。この白濁した分散液を限外濾過膜にて洗浄し、イットリウムを含む固溶体である酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。この分散液を更に湿式メディア分散処理して、酸化ジルコニウム含有率5重量%の酸化ジルコニウム分散液IVを得た。
【0073】
本発明による酸化ジルコニウム分散液A〜Iの透過率と粘度を第1表に示し、比較例による酸化ジルコニウム分散液I〜IVの透過率と粘度を第2表に示す。
【0074】
第1表及び第2表において、粒度分布D50は体積基準での累積粒度分布の小粒子側から50体積%の粒子径を表し、粒度分布Dmaxは体積基準で得られる粒度分布の最大粒子径を表す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウム粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウム1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄することを特徴とする酸化ジルコニウム水分散液の製造方法。
【請求項2】
ジルコニウム塩とアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させて、酸化ジルコニウムと上記安定化元素との共沈物の粒子のスラリーを得、次いで、このスラリーを濾過、洗浄し、リパルプして、得られたスラリーにこのスラリー中のジルコニウムと上記安定化元素の合計量の1モル部に対して有機酸1モル部以上を加え、170℃以上の温度にて水熱処理した後、得られた上記安定化元素を含む固溶体である酸化ジルコニウム粒子水分散液を洗浄することを特徴とする酸化ジルコニウム水分散液の製造方法。
【請求項3】
水熱処理によって得られた酸化ジルコニウム水分散液を限外濾過膜を用いて洗浄する請求項1又は2に記載の酸化ジルコニウム水分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法において、ジルコニウム塩か、又はジルコニウム塩とアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素の塩を水中にてアルカリと反応させるために、ジルコニウム塩水溶液か、又はジルコニウム塩とアルミニウム、マグネシウム、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素の塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に張り込み液に加えて反応させる酸化ジルコニウム水分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の方法によって得られた酸化ジルコニウム水分散液を更に分散処理する酸化ジルコニウム水分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、分散処理が湿式メディア分散処理である酸化ジルコニウム水分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法によって酸化ジルコニウム水分散液を得た後、分散媒である水を有機溶媒と置換して、その有機溶媒が分散媒である酸化ジルコニウム分散液を得る酸化ジルコニウム分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の方法によって得られる酸化ジルコニウム水分散液。
【請求項9】
請求項7に記載の方法によって得られる酸化ジルコニウム分散液。


【公開番号】特開2010−150066(P2010−150066A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328604(P2008−328604)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】