説明

酸化スズ粒子及び酸化スズゾルの製造方法

【課題】膜にしたときの導電性や透明性が高い酸化スズ粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の酸化スズ粒子は、2価〜4価の範囲で価数が異なる複数種のスズを含み、ドーパント元素を実質的に含んでおらず、かつ導電性を有することを特徴とする。この酸化スズ粒子は、2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合し、2価のスズの水酸化物を液中に生成させ;生成した2価のスズの水酸化物を液中で酸化して、2価のスズの一部を2価超4価以下のスズに酸化することで好適に製造される。この場合、2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合した液のpHが1〜7となるように、該アルカリを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化スズ粒子に関する。また本発明は、酸化スズゾルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非導電性材料、例えばプラスチックに導電性を付与する方法として、プラスチックに導電性粉末を添加する方法が知られている。導電性粉末としては、例えば、金属粉末、カーボンブラック、アンチモン等をドープした酸化スズ等が知られている。しかし、金属粉末やカーボンブラックをプラスチックに添加すると得られるプラスチックが黒色になり、プラスチックの用途が限定されることがある。一方、アンチモン等をドープした酸化スズをプラスチックに添加すると、プラスチックが青黒色になり、カーボンブラック等と同様にやはりプラスチックの用途が限定されることがある。またアンチモンの使用に起因する環境負荷の問題もある。そこで、アンチモン等のドーパントを含まない酸化スズについての検討が種々行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、水酸化テトラメチルアンモニウムをNH3/SnO2モル比0.01〜0.3の範囲で含有してなる粒子径30nm以下のアルカリ安定型酸化スズゾルが記載されている。この酸化スズゾルは、酸化スズ濃度がSnO2として15質量%以下のアルカリ型酸化スズゾルに水酸化テトラメチルアンモニウムを添加し、濃縮を行うことで製造される。
【0004】
酸化スズゾルの製造方法の別法として、特許文献2には、0.1〜8規定の塩酸にスズをHCl/Sn(モル比)=0.5〜1となるように添加し、この液に過酸化水素水を添加する方法が提案されている。同文献によれば、この方法で得られる酸化スズ粒子の平均粒子径は5〜100nmになるとされている。
【0005】
しかし、上述の技術によって製造された酸化スズ粒子は、これを膜にしたときの透明性や導電性が十分なものとは言えない。
【0006】
また、二価及び四価のスズを含む化合物に関して特許文献3及び特許文献4に記載の技術が知られている。特許文献3においては、二価及び四価のスズ並びにスズと複合酸化物を形成しうる第2元素を含む複合酸化スズ粉末が提案されている。特許文献4においては、二価及び四価のスズを含む二酸化スズ前駆体粒子が提案されている。特許文献3に記載の複合酸化スズ粉末は、スズ以外の元素を含むものであり、経済性や環境負荷の点から有利とは言えない。また特許文献4に記載の二酸化スズ前駆体粒子は、同文献全体の記載から見て水酸化物であると考えられ、酸化物ではない。更に、この前駆体粒子から製造される二酸化スズは、四価のスズのみを含むと考えられる。
【0007】
特許文献5には、導電性フィラーとして用いられるスズ系酸化物が提案されている。そのスズ系酸化物は、SnO2-xで表され、スズの平均価数は四価以下になっている。しかし、このことはスズが複数の価数を有していることを意味するものではなく、スズの価数としては四価のみの単一のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−359477号公報
【特許文献2】特開2008−222540号公報
【特許文献3】特開平11−292535号公報
【特許文献4】特開2008−150258号公報
【特許文献5】特開2003−128417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の目的は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る酸化スズ粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、2価〜4価の範囲で価数が異なる複数種のスズを含み、ドーパント元素を実質的に含んでおらず、かつ導電性を有することを特徴とする酸化スズ粒子を提供するものである。
【0011】
また本発明は、前記の酸化スズ粒子の好ましい製造方法として、
2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合し、2価のスズの水酸化物を液中に生成させ、
生成した2価のスズの水酸化物を液中で酸化して、2価のスズの一部を2価超4価以下のスズに酸化することを特徴とする酸化スズゾルの製造方法であって、
2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合した液のpHが1〜7となるように、該アルカリを混合する酸化スズゾルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膜にしたときの導電性や透明性が高い酸化スズ粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例1で得られた酸化スズ粒子のXRD回折図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた酸化スズ粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の酸化スズ粒子は、価数が2価から4価までの範囲で価数が異なる複数種のスズを含んでいる点に特徴の一つを有する。従来知られている導電性酸化スズは、一般に4価のスズに、アンチモン、ニオブ、タンタル等のドーパント元素をドープして導電性を高めていたところ、本発明においてはn型半導体である2価の酸化スズに、ドーパント元素として2価超4価以下のスズをドープする構成を採用している。この構成を採用することによって、従来用いられてきたドーパント元素が有する不都合、例えば経済的に不利であることや、環境負荷が大きいこと等を克服しつつ、酸化スズ粒子の導電性を高めることが可能となった。2価のスズのみからなる酸化物は黒色となり、透明性が要求される用途、例えば透明導電膜等に利用することができない。一方、4価のスズのみからなる酸化物は、2価のスズのみからなる酸化物に比べて導電性を高くすることができない。2価超4価以下のスズの具体例には、4価のスズ(SnO2)や3価のスズ(Sn23)等がある。
【0015】
2価から4価までの範囲で価数が異なる複数種のスズが酸化スズ粒子中に存在することは、例えば酸化スズ粒子のXRD測定によって確認することができる。具体的には、酸化スズ粒子は、スズの価数に応じてXRDの回折ピークが異なるので、この回折ピークを測定することで、酸化スズ粒子を構成するスズの価数を知ることができる。また、価数が異なる複数種のスズが存在することは、粉末の色によって確認することもできる。すなわち、酸化スズ(II)粒子の粉末は黒色であり、一方酸化スズ(IV)粒子の粉末は白色ないし透明である。これに対し、2価から4価までの範囲で価数が異なる複数種のスズを含む酸化スズ粒子の粉末は、それぞれの価数のスズの存在割合に応じて、黄色みがかった色に着色されている。したがって、かかる色に着色されている酸化スズには、2価から4価までの範囲で価数が異なる複数種のスズが含まれていると判断する。
【0016】
本発明の酸化スズ粒子は、金属としてスズのみを有し、ドーパント元素を実質的に含有しない、いわゆるノンドープのものである。酸化スズ粒子がノンドープのものであることによって、高価であり経済性に劣るか又は環境負荷の大きい元素である各種のドーパント元素を用いることなく、導電性の高い酸化スズ粒子を得ることができる。ドーパント元素としては、酸化スズの導電性を向上させるための元素として当該技術分野において従来用いられてきたものが挙げられる。そのような元素としては、例えばNb、Ta、Sb、W、P、N、Biが挙げられる。なお「実質的に含有しない」とは、意図的にドーパント元素を添加することを除外することを意図するものであり、酸化スズ粒子の製造過程において不可避的に微量のドーパント元素が混入することは許容される趣旨である。
【0017】
本発明の酸化スズ粒子における2価のスズと、2価超4価以下のスズとの割合は、モル比で表して前者:後者=1:9〜9:1、特に2:8〜5:5であることが好ましい。この比率は、XRD測定装置によって測定される。
【0018】
本発明の酸化スズ粒子は微粒のものであることによっても特徴付けられる。具体的には、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察された一次粒子の平均粒径が1〜20nm、特に2〜10nmという微粒のものである。
【0019】
微粒であることに加えて、本発明の酸化スズ粒子は導電性の高いものである。具体的には、500kgf下での圧粉体積抵抗率が107Ω・cm以下、特に105Ω・cm以下という低抵抗のものである。圧粉体積抵抗率は例えば三菱化学株式会社製ロレスタPAPD−41を用い、四端子法に従い測定される。
【0020】
更に本発明の酸化スズ粒子は、これを膜状に成形した場合に、透明性の高いものである。例えば厚さ2〜3μmで、酸化スズ粒子の含有量が30〜80%の膜を製造した場合、この膜の可視光の全光線透過率は85%以上、特に90%以上という透明性の高いものとなる。
【0021】
次に本発明の酸化スズ粒子の好ましい製造方法について説明する。本製造方法においては、2価のスズを原料として用い、これを用いて2価のスズの水酸化物を得、該水酸化物を酸化して、2価〜4価の範囲で価数が異なる複数種のスズを含む酸化スズ粒子を得る。以下、具体的な工程について説明する。
【0022】
先ず原料として2価のスズを含む水溶液を用意する。この水溶液を調製するために、例えば2価のスズの塩、例えば二塩化スズ(II)を用いることができる。水溶液中における2価のスズのイオンの濃度は0.01〜0.35mol/Lとすることかできる。二塩化スズ(II)の水への溶解を促進させるために、濃塩酸又は希塩酸を併用してもよい。なお、原料として四価のスズを用いることも考えられるが、2価のスズと4価のスズとでは、2価のスズの方が4価のスズよりも酸化物になりやすいことが本発明者らの検討の結果判明したことから、本製造方法では2価のスズを原料として用いている。
【0023】
このようにして2価のスズを含む水溶液が調製できたら、この水溶液をアルカリ(塩基性物質)の水溶液中に添加する。この操作によって液中に2価のスズの水酸化物が生成する。アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア等が挙げられる。両者の混合は室温において行うこともでき、又は加熱下に行うこともできる。両者の混合時に加熱を行う場合も行わない場合も、アルカリの水溶液のpHは7〜13、特に11〜13であることが好ましい。pHがこの範囲内であれば、十分に反応速度が高いので、微粒子が得られるからである。なお、2価のスズの水溶液中にアルカリを添加することも可能であるが、この操作よりも、上述したようにアルカリの水溶液中に2価のスズの水溶液を添加する方が、微粒子を得る観点から有利である。
【0024】
2価のスズの水溶液をアルカリの水溶液中に添加する際、添加のしかたによっては、2価のスズの水酸化物が生成せずに、直接に酸化スズが生成することがあるので注意を要する。直接に酸化スズが生成することを防止するためには、2価のスズの水溶液をアルカリの水溶液中に添加する際に、激しく攪拌を行って2価のスズの濃度が局所的に高くなることを防止するようにすればよい。2価のスズを含む水溶液から直接酸化スズを生成させず、2価のスズの水酸化物の生成を経由して酸化スズを生成させる理由は、後述する易解粒性の凝集体からなる酸化スズ粒子を容易に生成させるためである。易解粒性の酸化スズ粒子を生成させることの利点については後述する
【0025】
2価の水酸化スズの生成よって、反応系内には該水酸化スズからなる易解粒性の凝集体が生成する。この凝集体を構成する水酸化スズの粒径は、最終目的物である酸化スズ粒子の粒径に影響を及ぼす。この凝集体を構成する水酸化スズの粒径は、温度、時間及びpHなどの反応条件をコントロールすることによって制御することができる。また、この凝集体自体の平均粒径は、0.1〜10μm程度である。2価のスズの水酸化物の生成時に易解粒性の凝集体が生成するメカニズムは、一次径が微粒であることによる強い凝集性に起因していると、本発明者らは推測している。
【0026】
本明細書において「易解粒性」とは、メディアミルを用い、直径0.3mmのジルコニアビーズを50ccの樹脂容器に充填率60%となるように仕込み、1時間にわたり解粒操作を行なったときに、解砕前の凝集体の個数が10%以下まで減少する程度に容易に解粒させやすいことをいう。
【0027】
本製造方法において2価のスズの水酸化物を生成させる場合、これを易解粒性の凝集体の形態で生成させる理由は、後工程における酸化スズ粒子の洗浄を容易にするためである。酸化スズ粒子が生成した時点で、この酸化スズ粒子が高分散性の微粒である場合には、効率のよい洗浄を行うことができず、不純物がゾル中に残存してしまう。不純物がゾル中に残存すると、ゾルに着色が生じてしまう。その結果、本製造方法によって得られた酸化スズ粒子を用いて膜を形成した場合、当該膜の透明性を低下させる一因となることがある。
【0028】
2価のスズの水酸化物が生成したら、これを液中で酸化する。酸化には各種の酸化剤を用いることができる。具体的には、例えば過酸化水素の液への添加、酸素ガスの液中への吹き込みなどを用いることができる。また、過酸化水素以外の過酸化物、ハロゲン、ペルオキソ酸、酸素酸、高価数の金属塩、オゾン等を酸化剤として用いることもできる。この酸化によって、2価のスズのうちの一部を、2価超4価以下のスズに酸化するとともに、2価〜4価の範囲で価数が異なる複数種のスズを含む酸化スズ粒子が得られる。この酸化スズ粒子は易解粒性酸化スズ粒子の凝集体の形態で液中に生成する。
【0029】
本製造方法においては、酸化剤の種類やその添加量を適切に制御することによって、酸化スズ中に含まれる各種の価数を有するスズの割合をコントロールすることができる。詳細には、酸化性の強い環境で2価のスズの水酸化物の酸化を行うと、ほとんどすべての2価のスズが4価のスズまで酸化されてしまうところ、酸化の環境を調節することで、2価のスズのうちの一部のみを2価超4価以下のスズに酸化させることが可能になる。
【0030】
2価のスズのうちの一部のみを2価超4価以下のスズに酸化させるための条件としては、例えば酸化剤として過酸化水素を用いる場合には、過酸化水素を添加する前の状態において、液中に含まれる2価のスズ1モルに対して、1〜13モル、特に3〜12モルの過酸化水素を添加することが好ましい。この場合、過酸化水素は一括添加でもよく、あるいは逐次添加でもよい。スズ(II)の局所的な酸化が生じるのを防止する観点からは、所定の時間にわたって逐次添加することが好ましい。
【0031】
一方、酸化剤として酸素ガスを用いる場合には、1Lの液に対して、酸素ガスを0.01〜1L/min、特に0.05〜0.1L/minの割合で吹き込めばよい。
【0032】
2価のスズのうちの一部のみを2価超4価以下のスズに酸化させる場合、液中に存在する不純物の濃度も影響を及ぼすことが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、2価のスズの原料として二塩化スズ(II)を用いる場合、これを水に溶解させるために塩酸(例えば濃塩酸)を併用すると、水溶液中には、二塩化スズ(II)の化学量論比よりも過剰の塩化物イオンが存在することになる。この過剰の塩化物イオンが、2価のスズがそれ以上の酸化数のスズへの酸化を妨げることが本発明者らの検討の結果判明した。この観点から、酸化反応前の状態において、液中に存在する2価のスズ1モルに対して、塩化物イオンを0.1〜5モル、特に1.5〜3.5モル存在させることが好ましい。
【0033】
2価のスズのうちの一部のみを2価超4価以下のスズに酸化させる場合、2価のスズの水酸化物を生成させるときのアルカリの濃度も影響を及ぼすことが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、アルカリの濃度が高い場合よりも低い場合の方が、2価超の価数を有するスズが生成しやすくなる。より具体的に説明すると、2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合した液のpHが1〜7、好ましくは2〜6となるように、該アルカリを混合すると、2価超の価数を有するスズが生成しやすくなる。
【0034】
2価のスズを酸化させるときの温度及びそれに先立つ2価のスズの水酸化物を生成させるときの温度は、2価のスズのうちの一部のみを2価超4価以下のスズに酸化させることに影響を及ぼす場合がある。具体的には、両温度を低めに設定すると2価超4価以下のスズが生成しやすく、両温度を高めに設定すると2価超4価以下のスズが生成しづらい。中間の温度に設定することで、2価〜4価の範囲で価数が異なる複数種のスズを適切な割合で生成させることができる。より具体的には、両温度を2〜100℃、特に40〜100℃、とりわけ50〜90℃とすることが好ましい。
【0035】
以上の(イ)塩化物イオンの濃度、(ロ)2価のスズの水酸化物を生成させるときのアルカリの濃度、(ハ)2価のスズを酸化させるときの温度及び2価のスズの水酸化物を生成させるときの温度を適切に設定することで、価数の異なる複数種のスズの組成を所望のものとすることができる。
【0036】
生成した酸化スズ粒子は、その原料である水酸化スズにおける易解粒性の凝集体の形態を引き継ぎ、易解粒性の凝集体の形態となっている。酸化スズ粒子を易解粒性の凝集体の形態として生成させるための条件としては、水酸化スズ生成後、液の組成を変えずに、酸化することが挙げられる。
【0037】
酸化スズ粒子が易解粒性の凝集体であることによって、次工程における酸化スズ粒子の洗浄を容易にすることが可能となる。具体的には、易解粒性の凝集体からなる酸化スズ粒子は、例えばリパルプ洗浄を行うことで、不純物の容易な除去が可能である。洗浄は、分散媒である水の導電率が500μS以下、特に100μS以下になるまで行うことが、不純物の十分な除去の点から好ましい。特に液中の塩化物イオンの濃度が0.5〜1.0重量%になるまで洗浄を行うことが好ましい。
【0038】
リパルプ洗浄によって所定の導電率まで洗浄された易解粒性酸化スズ粒子の分散液は、解粒操作に付される。それによって、酸化スズゾルが得られる。解粒操作には、例えばビーズミル等のメディアミルを用いることができる。この場合、各種のpH調整剤を液に添加して解粒操作を行うことで、酸化スズ粒子を単分散状態に近づけやすくなる。pH調整剤としては、液のpHを2〜12に調整できるものを用いることが好ましい。そのようなpH調整剤としては、例えばトリエタノールアミン等のアミン類や、水酸化テトラメチルアンモニウム等の四級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0039】
以上の操作によって、水を分散媒とする酸化スズゾルが得られる。この酸化スズゾルにおける酸化スズ粒子の濃度は0.1〜30重量%、特に10〜20重量%とすることが好ましい。この酸化スズゾルにおいては、酸化スズ粒子が高度に分散しており、長時間保存しても沈殿の生成等は認められない。
【0040】
以上の方法によれば、液中(水中)でスズの酸化物を生成させるので、焼成によって得られた酸化スズを粉砕した後にゾル化する従来の方法に比べて、凝集が少なく分散性の高い酸化スズゾルを容易に得ることができる。
【0041】
このようにして得られた酸化スズ粒子は、例えばその高い導電性を利用して、プリンタや複写機関連の帯電ローラー、感光ドラム、トナー、静電ブラシ等の分野、フラットパネルディスプレイ、CRT、ブラウン管等の分野、塗料、インク、エマルジョンの分野等など、幅広い用途に適用できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0043】
〔実施例1〕
80gの二塩化スズ(II)・五水和物を2000mlの純水に溶解させ、スズ(II)を含む水溶液を得た。溶解させる際、120mlの濃塩酸を用いた。この水溶液とは別に、1%水酸化ナトリウム水溶液2000mlを用意した。水酸化ナトリウム水溶液中に、2価のスズを含む水溶液を33ml/minの添加速度で逐次添加し、pHを3.0とした。このときの混合液の温度は25℃であった。この添加によって、液中に2価のスズの水酸化物からなる黄色の沈殿が生じた。この沈殿は、易解粒性の凝集体から構成されていた。
【0044】
次に、液中に200mlの過酸化水素水(30%)を、20ml/minの添加速度で逐次添加し、2価のスズの水酸化物の酸化を行った。過酸化水素の全添加量は200mlであった。酸化は25℃で行った。過酸化水素の添加によって、液中に存在する2価のスズの一部を4価のスズに酸化させるとともに、易解粒性の凝集体からなる酸化スズ粒子を液中に生成させた。凝集体の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。マイクロトラックUPAによる測定の手順は以下の次のとおりである。すなわち、分散液を原液のままセル内に入れ、レーザーを照射して粒径を測定する。
【0045】
次に、60℃の温水を用いて液のリパルプ洗浄を行った。洗浄は、液の導電率が100μSになるまで行った。この時点での液中の塩化物イオンの濃度は、イオンクロマト法を用いた測定の結果0.4%であった。洗浄完了後、易解粒性酸化スズ粒子の解粒を行った。解粒には、0.1mmφのジルコニアビーズを用いたペイントシェーカを使用した。解粒においては、pH調整剤として水酸化テトラメチルアンモニウムを液に添加し、液のpHを11に調整した。解粒は1時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とする酸化スズ粒子のゾルを得た。このゾルにおける酸化スズ粒子の濃度は20%であった。TEMによって測定された酸化スズ粒子の平均粒径は5nmであった。また、この酸化スズ粒子のゾル及び粉末は薄黄色を呈していた。この粉末についてXRD測定を行ったところ、2価のスズの酸化物と4価のスズの酸化物のパターンが混在していた。XRDの測定結果を図1に示す。図1に示すXRD測定図においては、ブロードなピークが4価の酸化スズのピークであり、シャープなピークが2価の酸化スズのピークである。この結果から、この酸化スズは2価のスズ及び4価のスズを含むものであることが確認された。2価のスズと4価のスズの比率は、2価の酸化スズのピーク面積及び4価の酸化スズのピーク面積から算出した。その結果、2価のスズ:4価のスズ=5:5であった。また、この酸化スズ粒子はドーパント元素を実質的に含んでいなかった。この酸化スズ粒子のTEM像を図2に示す。同図から明らかなように、得られた酸化スズ粒子はその直径は数nmの微粒のものである。
【0046】
この酸化スズ粒子の圧粉体積抵抗率(500kgf下)を、三菱化学株式会社製ロレスタPAPD−41を用い、四端子法に従い測定したところ、2.1×105Ω・cmであった。また、この酸化スズ粒子を市販のアクリル樹脂とともにトルエン−ブタノール混合溶液に添加し、ペイントシェーカを用いてビーズ分散して分散液を調製した。この分散液をPETフィルムに塗布し、1時間風乾して透明薄膜を形成した。この薄膜について、可視光の全光線透過率を測定したところ90%であった。
【0047】
〔実施例2〕
2価のスズを含む水溶液を添加する際のpHを2.0とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、2価のスズの水酸化物の沈殿を得た。この水酸化物は黄色の沈殿であった。この沈殿は、易解粒性の凝集体から構成されていた。次に、実施例1と同様の条件で液中に過酸化水素水(30%)を添加し、2価のスズの水酸化物の酸化を行った。過酸化水素の添加によって、液中に存在する2価のスズの一部を4価のスズに酸化させるとともに、易解粒性の凝集体からなる酸化スズ粒子を液中に生成させた。凝集体の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。
【0048】
次に、実施例1と同様の条件でリパルプ洗浄及び易解粒性酸化スズ粒子の解粒を行った。洗浄後の易解粒性酸化スズ粒子の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。また、解粒後の酸化スズ粒子をTEMで測定したところ、平均粒径は5nmであった。この酸化スズ粒子のゾル及び粉末は黄色を呈していた。この粉末についてXRD測定を行ったところ、2価のスズの酸化物と4価のスズの酸化物のパターンが混在していた。この結果から、この酸化スズは2価のスズ及び4価のスズを含むものであることが確認された。2価のスズと4価のスズの比率は、2価のスズ:4価のスズ=4:6であった。また、この酸化スズ粒子はドーパント元素を実質的に含んでいなかった。この酸化スズについて、実施例1と同様に圧粉体積抵抗率及び全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0049】
〔実施例3〕
2価のスズを含む水溶液を添加する際のpHを6.0とし、かつ2価のスズの水酸化物を生成させるときの温度を50℃とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、2価のスズの水酸化物を得た。この水酸化物は白色の沈殿であった。この沈殿は、易解粒性の凝集体から構成されていた。次に、温度を50℃とした以外は実施例1と同様の条件で液中に過酸化水素水(30%)を添加し、2価のスズの水酸化物の酸化を行った。過酸化水素の添加によって、液中に存在する2価のスズの一部を4価のスズに酸化させるとともに、易解粒性の凝集体からなる酸化スズ粒子を液中に生成させた。凝集体の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。
【0050】
次に、実施例1と同様の条件でリパルプ洗浄及び易解粒性酸化スズ粒子の解粒を行った。洗浄後の易解粒性酸化スズ粒子の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。また、解粒後の酸化スズ粒子をTEMで測定したところ、平均粒径は5nmであった。この酸化スズ粒子のゾル及び粉末は白色を呈していた。この粉末についてXRD測定を行ったところ、2価のスズの酸化物と4価のスズの酸化物のパターンが混在していた。この結果から、この酸化スズは2価のスズ及び4価のスズを含むものであることが確認された。2価のスズと4価のスズの比率は、2価のスズ:4価のスズ=2:8であった。また、この酸化スズ粒子はドーパント元素を実質的に含んでいなかった。この酸化スズについて、実施例1と同様に圧粉体積抵抗率及び全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0051】
〔実施例4〕
実施例1で用いた1%水酸化ナトリウム水溶液に代えて1%アンモニア水溶液を用い、2価のスズを含む水溶液を添加する際のpHを6.0とし、かつ2価のスズの水酸化物を生成させるときの温度を50℃とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、2価のスズの水酸化物を得た。この水酸化物は黄色の沈殿であった。この沈殿は、易解粒性の凝集体から構成されていた。次に、温度を50℃とした以外は実施例1と同様の条件で液中に過酸化水素水(30%)を添加し、2価のスズの水酸化物の酸化を行った。過酸化水素の添加によって、液中に存在する2価のスズの一部を4価のスズに酸化させるとともに、易解粒性の凝集体からなる酸化スズ粒子を液中に生成させた。凝集体の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。
【0052】
次に、実施例1と同様の条件でリパルプ洗浄及び易解粒性酸化スズ粒子の解粒を行った。洗浄後の易解粒性酸化スズ粒子の大きさをマイクロトラックUPA(商品名)で測定したところ、平均して10nm程度であった。また、解粒後の酸化スズ粒子をTEMで測定したところ、平均粒径は5nmであった。この酸化スズ粒子のゾル及び粉末は黄色を呈していた。この粉末についてXRD測定を行ったところ、2価のスズの酸化物と4価のスズの酸化物のパターンが混在していた。この結果から、この酸化スズは2価のスズ及び4価のスズを含むものであることが確認された。2価のスズと4価のスズの比率は、2価のスズ:4価のスズ=4:6であった。また、この酸化スズ粒子はドーパント元素を実質的に含んでいなかった。この酸化スズについて、実施例1と同様に圧粉体積抵抗率及び全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0053】
〔比較例1〕
2価のスズを含む水溶液を添加する際のpHを8.0とし、かつ2価のスズの水酸化物を生成させるときの温度を90℃とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、2価のスズの水酸化物を得た。この水酸化物は黒色の沈殿であった。次に、温度を90℃とした以外は実施例1と同様の条件で液中に過酸化水素水(30%)を添加し、2価のスズの水酸化物の酸化を行い酸化スズ(II)粒子を液中に生成させた。
【0054】
次に、実施例1と同様の条件でリパルプ洗浄を行った。この酸化スズ粒子のゾル及び粉末は黒色を呈していた。この粉末についてXRD測定を行ったところ、スズ(II)の酸化物のパターンであることが確認された。また、この酸化スズ粒子はドーパント元素を実質的に含んでいなかった。この酸化スズについて、実施例1と同様に圧粉体積抵抗率及び全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0055】
〔比較例2〕
2価のスズを含む水溶液を添加する際のpHを7.0とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、2価のスズの水酸化物を得た。この水酸化物は白色の沈殿であった。次に、実施例1と同様の条件で液中に過酸化水素水(30%)を20ml/minの添加速度で逐次添加し、2価のスズの水酸化物の酸化を行った。過酸化水素の全添加量は400mlであった。過酸化水素の過剰添加によって、液中に存在する2価のスズのすべてを4価のスズに酸化させ、酸化スズ粒子を液中に生成させた。
【0056】
次に、実施例1と同様の条件でリパルプ洗浄を行った。この酸化スズ粒子のゾル及び粉末は黒色を呈していた。この粉末についてXRD測定を行ったところ、スズ(IV)の酸化物のパターンであることが確認された。この酸化スズについて、実施例1と同様に圧粉体積抵抗率及び全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた酸化スズは、高透明性を有し、かつ低抵抗のものであることが判る。これに対し、比較例1で得られた酸化スズは、抵抗は低いものの透明性に劣ることが判る。比較例2で得られた酸化スズは、逆に透明性は良好なものの高抵抗であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価〜4価の範囲で価数が異なる複数種のスズを含み、ドーパント元素を実質的に含んでおらず、かつ導電性を有することを特徴とする酸化スズ粒子。
【請求項2】
2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合し、2価のスズの水酸化物を液中に生成させ、
生成した2価のスズの水酸化物を液中で酸化して、2価のスズの一部を2価超4価以下のスズに酸化することを特徴とする酸化スズゾルの製造方法であって、
2価のスズを含む水溶液とアルカリとを混合した液のpHが1〜7となるように、該アルカリを混合する酸化スズゾルの製造方法。
【請求項3】
液に過酸化物、ハロゲン、ペルオキソ酸、酸素酸、高価数の金属塩、酸素ガス又はオゾンを添加して、2価のスズの水酸化物の酸化を行う請求項2記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26172(P2011−26172A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174028(P2009−174028)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)