説明

酸化セリウムナノチューブ及びその製造方法

【課題】チューブ構造を有する、新規な酸化セリウム(IV)ナノチューブ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】先ず、無水塩化セリウム(III)と水酸化ナトリウム水溶液から水酸化セリ
ウム(III)ナノチューブを製造する。次に、生成した水酸化セリウム(III)ナノチューブをアルゴンガスとアンモニアガスの混合気流中で、200〜500℃に1.5〜2時間加熱する。これにより、直径20〜500nmで長さ数百nm〜数μmのチューブ構造を有する酸化セリウム(IV)ナノチューブを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用固体電解質、不飽和化合物の選択的水素添加用触媒、自動車排ガス用浄化触媒、MOS半導体用ケミカルメカニカル研磨用スラリー、紫外線用の日焼け止め、紫−青色用蛍光発光材料などに有用な、酸化セリウムナノチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズの酸化セリウムとして、多孔質状、粒子状、フィルム状、布目状などの構造物が知られている(例えば、非特許文献1〜4参照)。また、一次元の酸化セリウムであるナノワイヤーやナノロッドは、多孔質の陽極酸化アルミナを鋳型として用いる方法や界面活性剤を用いる方法で製造されている(例えば、非特許文献5〜8参照)。
【0003】
【非特許文献1】K.M.S.Khalil他、Microporous MesoporousMater、78巻、83頁、2000年
【非特許文献2】X.D.Zhou他、Appl.Phys.Lett.、80巻、3814頁、2002年
【非特許文献3】B.P.Gorman他、J.Mater.Res.、19巻、573頁、2004年
【非特許文献4】S.Chen他、Physica C、419巻、7頁、2005年
【非特許文献5】G.S.Wu他、Mater.Res.Bull.、39巻、1023頁、2004年
【非特許文献6】R.J.La他、Mater.Sci.Eng.A、368巻、145頁、2004年
【非特許文献7】C.W.Sun他、Chem.Lett.、2004年、662頁
【非特許文献8】A.Vantomme他、Langmuir、21巻、1132頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ナノチューブ構造を有する酸化セリウム(IV)は知られていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、ナノチューブ構造を有する、新規な酸化セリウム(IV)ナノチューブ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の酸化セリウム(IV)ナノチューブは、チューブ状の形状を有し、その直径が20〜500nmであり、その長さが数百nm〜数μmであることを特徴とする。
本発明の酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造方法は、水酸化セリウム(III)ナノ
チューブを、還元性ガスを含むガスを流しながら200〜500℃で1.5時間以上加熱することにより酸化セリウム(IV)ナノチューブを合成することを特徴とする。
上記構成において、還元性ガスを含むガスは、好ましくは、アルゴンガスとアンモニアガスとの混合ガスである。ガスの流量は、好ましくは、100〜1000sccmの範囲である。アルゴンガスとアンモニアガスとの混合比率は、好ましくは、30:1〜1:1の範囲である。
【0007】
上記構成によれば、直径が20〜500nmであり、長さが数百nm〜数μmのチューブ状の新規な酸化セリウム(IV)ナノチューブが得られる。また、本発明の方法によれば、直径が20〜500nmであり、長さが数百nm〜数μmの新規な、酸化セリウム(IV)ナノチューブを得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な酸化セリウム(IV)ナノチューブ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
最初に、本発明の酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造方法について説明する。
先ず、化学式Ce(OH)で表される水酸化セリウム(III)ナノチューブをグラフ
ァイト製容器に入れ、この容器を石英管を有する炉に設置する。次に、石英管を減圧して還元性ガスを流しながら、200〜500℃の加熱温度で、1.5〜2時間加熱する。これにより、化学式CeOで表される酸化セリウム(IV)ナノチューブを得ることができる。
【0010】
上記において、加熱温度は200〜500℃の範囲が好ましい。加熱温度が500℃より高いと生成した目的物である酸化セリウム(IV)ナノチューブが徐々に還元されて酸化セリウム(III)になってしまい、それに伴ってチューブ構造が崩壊してしまうので好まし
くない。逆に、200℃未満では、水酸化セリウム(III)が酸化セリウム(IV)に変換され
ないので好ましくない。
【0011】
加熱時間は、1.5〜2時間の範囲が好ましい。2時間で十分に酸化セリウム(IV)ナノチューブが生成するので、これ以上の時間をかける必要はない。逆に、加熱時間が1.5時間未満では、水酸化セリウム(III)が酸化セリウム(IV)に完全には変換されない。
【0012】
還元性ガスとしてアンモニアガスを用いることができる。還元性ガスを輸送する、所謂キャリアガスとしては、アルゴンガスを用いることができる。したがって、還元性ガスを含むガスとしては、アルゴンガスとアンモニアガスとの混合ガスを用いることができる。この混合ガスの全流量は、100〜1000sccm(cm/分)の範囲が好ましい。混合ガスの全流量が1000sccmより多いと、混合ガスが無駄になるので好ましくない。逆に、混合ガスが100sccm未満の流量では、酸素が十分に除去できないので望ましくない。
【0013】
アルゴンガスとアンモニアガスの混合比率は30:1〜1:1の範囲が好ましい。アンモニアガスが上記の範囲よりも少ない場合には、水酸化セリウム(III)に十分に作用せず
、酸化セリウム(IV)ナノチューブが得られないので、好ましくない。逆にアンモニアガスが上記の範囲よりも多い場合は、安全性の点で好ましくない。
【0014】
上記の操作を施すことにより、水酸化セリウム(III)の直径や長さを変動させないで
、直径が20〜500nmで、長さが数百nm〜数μmを有するチューブ状の酸化セリウム(IV)ナノチューブを得ることができる。
【0015】
次に、酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造に用いた水酸化セリウム(III)の製造
方法について説明する。
先ず、オートクレーブの中に、無水塩化セリウム(III)と水酸化ナトリウム水溶液を
入れて、オートクレーブ中の空気を完全に窒素ガスで置換する。その後、100〜150℃で8時間以上加熱する。これにより、直径が20〜500nmで、長さが数百nm〜数μmである水酸化セリウム(III)が収率約80%で得られる。
【0016】
ここで、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、10モル/リットル以上が好ましい。水酸
化ナトリウム水溶液の濃度が10モル/リットル以下では、水酸化セリウム(III)ナノチューブは成長せず、直径が数μmの水酸化セリウム(III)の粒子が生成するので、好ましく
ない。
【0017】
加熱温度は、100〜150℃の範囲が好ましい。この範囲以外の加熱温度では、不規則な直径の粒子や長さの短いナノロッドが主に生成するので、好ましくない。
【0018】
加熱時間は8時間以上が好ましい。8時間以上加熱することで、用いた塩化セリウム(III)が完全に水酸化セリウム(III)に変換される。8時間未満の加熱時間では、塩化セリウム(III)の全部が完全に水酸化セリウム(III)に変換されないので好ましくない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
窒素ガスで置換されたグローブボックスの中で、次の操作を行った。容量が、50cmのポリテトラフルオロエチレンを内張りしたステンレススチール製オートクレーブの中に、無水塩化セリウム(III)(純度99.9%、和光純薬工業(株)製)150mgと濃度
12モルの水酸化ナトリウム水溶液40cmとを入れ、2時間かけてオートクレーブ中の空気を窒素ガスで置換した後、オートクレーブを密閉した。
次に、オートクレーブを、120℃で72時間加熱した後、オートクレーブを室温まで冷却して、オートクレーブの中に沈殿した粉末を回収した。この粉末を、窒素ガス雰囲気中で希塩酸と蒸留水で洗浄した。この洗浄した粉末を、窒素気流中で、50℃、12時間乾燥した。このようにして得られた中間生成物は、後述するように、水酸化セリウム(III)である。
【0020】
次に、上記で製造した水酸化セリウム(III)ナノチューブ100mgをグラファイト
製坩堝に入れ、この坩堝を抵抗加熱炉内の石英管の中央部に設置した。石英管内を、約133×10−2Pa(1Torr)に減圧して、この状態で2時間維持した後、アルゴンガスとアンモニアガスとを20:1にした混合ガスを500sccmの流量で流しながら、50K/hの昇温速度で石英管内の温度を450℃まで上げ、この温度において2時間保った。最後に、抵抗加熱炉を室温に冷却すると、グラファイト坩堝の中に黄色の粉末が残留した。
【0021】
図1は、実施例で合成した中間生成物をX線回折して得られた測定結果を示す図である。図1において、縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示し、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。
図1から明らかなように、X線回折パターンの各ピークの位置から、中間生成物は、格子定数a=0.6486nm、c=0.3808nmを有する六方晶系の水酸化セリウム(III)からなることが分かった。
【0022】
図2は、実施例で合成した中間生成物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
図2から明らかなように、ナノチューブ状構造を有するものが80%以上存在することが分かった。ナノチューブは、直径数十nmで長さ数百nm〜数μmであることが分かった。
【0023】
図3は、実施例で合成した最終生成物である黄色粉末をX線回折して得た測定結果を示す図である。図の縦軸はX線回折強度(任意目盛り)であり、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度である。図3から明らかなように、実施例で合成した最終生成物である黄色の粉末は、格子定数a=0.541nmを有する立方晶系の酸化セリウム(IV)からなることが分かった。
【0024】
図4は、実施例で合成した最終生成物である酸化セリウム(IV)の透過型電子顕微鏡像を示す図である。図4から明らかなように、酸化セリウム(IV)は、その直径が数十nm、長さ数百nm〜数μmのナノチューブであることが分かった。
したがって、図2の結果と比較して、使用した中間生成物である水酸化セリウム(III
)ナノチューブの直径、長さ、チューブ形状が、酸化セリウム(IV)ナノチューブになった後でも維持されていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、酸化セリウム(IV)ナノチューブ及びその製造方法が可能となったので、電池用固体電解質、不飽和化合物の選択的水素添加用触媒、自動車排ガス用浄化触媒、MOS半導体用のケミカルメカニカル研磨用スラリー、紫外線用の日焼け止め、紫−青色用蛍光発光材料などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例で合成した中間生成物をX線回折して得られた測定結果を示す図である。
【図2】上記実施例で合成した中間生成物の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】上記実施例で合成した最終生成物である黄色粉末をX線回折して得た測定結果を示す図である。
【図4】上記実施例で合成した最終生成物である酸化セリウム(IV)の透過型電子顕微鏡像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状の形状を有し、その直径が20〜500nmであり、その長さが数百nm〜数μmであることを特徴とする、酸化セリウム(IV)ナノチューブ。
【請求項2】
水酸化セリウム(III)ナノチューブを、還元性ガスを含むガスを流しながら200〜
500℃で1.5時間以上加熱することにより酸化セリウム(IV)ナノチューブを合成することを特徴とする、酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記還元性ガスを含むガスが、アルゴンガスとアンモニアガスとの混合ガスであることを特徴とする、請求項2に記載の酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記ガスの流量が、100〜1000sccmの範囲であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記アルゴンガスとアンモニアガスとの混合比率が、30:1〜1:1の範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の酸化セリウム(IV)ナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290909(P2007−290909A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120725(P2006−120725)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月31日 インターネットアドレス「http://www3.interscience.wiley.com/cgi−bin/home」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】