説明

酸化チタン系セラミック塗料およびその製造方法

【課題】 透明性、密着性、光触媒性にすぐれた酸化チタンを主成分とし、かつ安定なセラミック塗料と製造方法の提供。
【解決手段】 チタン化合物水溶液に過酸化物、好ましくは過酸化水素を反応させ、得られた反応生成液に夾雑イオン除去処理を施して、酸化チタン又はチタン酸コロイドと、ペルオキソチタン酸とを、〔H2 TiO3 /H4 TiO5 〕重量比20,000:1〜500で含み、実質的に夾雑イオンを含まないセラミック塗料を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸化チタン系セラミック塗料およびその製造方法に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、光触媒機能の付与が容易な酸化チタンを主成分とするセラミック塗料、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、有機系塗料に比較して、耐熱性、耐摩耗性などに優れるセラミック塗料として、アルカリ金属けい酸塩系、りん酸塩系、シリカゾル系、および金属酸化物系などの塗料が知られている。これらの塗料は、前記のように優れた耐熱性、耐摩耗性などにおいて無機系塗料の特徴を有しているが、近年、セラミック塗料により得られる皮膜の前記特徴に加えて、さらに新しい機能を付与する試みが金属酸化物系を中心になされている。
【0003】金属酸化物の中でも酸化チタンは、塗料皮膜に高い光触媒効果を有しているため、このような光触媒効果を有する酸化チタン皮膜を金属、ガラス、セラミックなどの被塗物表面に形成させることにより、汚れの付着防止、大気、水質の浄化、防錆、抗菌、藻類の繁殖防止、大気や水質浄化、などに有効であることが知られている。このような用途のために、より良好な酸化チタン皮膜を素材表面に形成する各種の酸化チタン塗料やその製造方法がこれまでにいくつか提案されてきた。
【0004】酸化チタン皮膜の形成方法としては、チタンアルコキシドの加水分解生成物を含有する塗料を塗布する方法、すなわちゾル−ゲル法が最も一般的であり、これに類似する技術としては、例えば特開平4−83537号公報に示される方法、すなわちチタンアルコキシドにアミド、グリコールを添加して塗料を調製する方法や、および特開平7−100378号公報に示される方法、すなわちチタンアルコキシドにアルコールアミン類を添加して塗料を調製する方法が開示されている。
【0005】また、この他にも、特開平6−293519号公報には、水熱処理により結晶化させた酸化チタン微粒子を分散剤を使用して分散させ、この分散液を塗布する方法が開示されており、更に別の方法として、結晶性酸化チタン粒子に、水ガラス、コロイダルシリカ、弗素系樹脂などのバインダーを混和して塗布する方法が知られている。
【0006】しかし、ゾル−ゲル法を用いた方法には、加水分解に使用した酸が塗料中に残留したり、添加剤として加えたアミン、グリコールなどが皮膜中に残存しやすいうえ、原料が割高であるなどの問題点がある。また、結晶成長させた酸化チタンを塗布する方法には、皮膜の密着性が不良で、形成される皮膜が透明にならないという問題点がある。さらに、これにバインダーを使用した場合には、塗料の塗工性、および密着性は改善されるが皮膜の酸化チタン含有率が低下するため、光触媒能が充分に発揮されないなどの難点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術の上記問題点を解決しようとするものであって、酸化チタンの光触媒活性に有害な不純物を殆ど含まず、常温乾燥のみでも透明な酸化チタンの連続膜を形成することができるという優れた塗工性と密着性を有する、ペルオキソチタン酸含有セラミック塗料およびその製造方法を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の技術的課題を解決するための手段について鋭意検討した結果、チタン酸または酸化チタンコロイドと、ペルオキソチタン酸とを特定比率で含み、残部が実質的に水からなる、酸化チタン系セラミック塗料により、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】本発明の酸化チタン系セラミック塗料は、チタン酸または酸化チタンのコロイド、およびペルオキソチタン酸を含む水性液であって、前記チタン酸または酸化チタンのコロイドのH2 TiO3 換算含有量の、前記ペルオキソチタン酸のH4TiO5 換算含有量に対する重量比が20,000:1〜500であり、かつ実質的に他のイオンを含まないことを特徴とするものである。
【0010】上記ペルオキソチタン酸含有セラミック塗料を製造するための本発明の製造方法は、水溶性チタン化合物と、過酸化化合物とを水中において反応させ、得られた反応生成物含有水性液を、夾雑イオン除去工程に供することを特徴とするものである。本発明において、夾雑イオンとは、本発明のセラミック塗料を塗布、焼付後に塗膜中に残存するイオン種のことであって、Ti4+ , Ti6+ ,OH- ,H+ 、およびH2 2 などのように、酸化チタンを形成するために必要な成分は、夾雑イオンに包含されない。
【0011】本発明の製造方法の前記夾雑イオン除去工程において、前記反応生成物含有水性液が、半透膜を用いる透析処理、又は電気透析処理が施されてもよい。或は、本発明方法の前記夾雑イオン除去工程において、前記反応生成物含有液が、陰極室と陽極室とが、イオン交換膜により仕切られている電解槽中において、電解処理を施されてもよい。或は、本発明方法の前記夾雑イオン除去工程において、前記反応生成物含有水性液が、イオン交換材料に接触せしめられてもよい。
【0012】本発明方法において、前記反応生成物含有水性液に加熱処理が施され、その後に前記夾雑イオン除去工程が施されてもよい。また前記加熱処理は、100℃未満の温度において施されることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】一般にチタン酸はH2 TiO3 、酸化チタンはTiO2 の化学式で表される。本発明に用いられる酸化チタンには、アナタース型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、および無定型酸化チタンを包含し、チタン酸は、TiO2 ・nH2 Oで表される含水酸化チタンも包含する。
【0014】上記チタン酸または酸化チタンの水性コロイドは、水溶性チタン化合物、好ましくは三塩化チタン、四塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニルまたはチタンフッ化物の酸性溶液を原料とし、好ましくはこれにアルカリ性溶液で中和するか、又は加熱前処理を施した後に脱イオン処理を施すことによって調製することができる。この場合チタン酸または酸化チタンのコロイド粒子の粒径が1μmを超えると、その水性液および塗膜が透明性を失うことがあるため、コロイド粒子の粒径は1μm以下であることが好ましい。また、チタン酸または酸化チタンのコロイド粒子の粒径が10-5μm未満になると、得られる塗料がゲル化して流動性を失うことがあるので好ましくない。好ましいコロイド粒径の範囲は1〜10-5であり、より好ましくは10-1〜10-4μmである。
【0015】本発明のセラミック塗料の必須成分であるペルオキソチタン酸は、チタン酸またはチタンイオンの一部を過酸化化合物、好ましくは過酸化水素と反応させることによって容易に得ることができる。過酸化水素水は、酸化反応後水になるため、不要な分解生成物がなく、爆発等の危険性が少なく有利であるが、他の過酸化物、例えば、過酸化ナトリウムおよび過酸化バリウムなどを本発明方法に用いてもよい。
【0016】また、本発明のセラミック塗料中のチタン酸または酸化チタンコロイドの含有量とペルオキソチタン酸との含有量の重量比は、〔H2 TiO3 /H4 TiO5〕に換算して、20,000:1〜500、すなわち、40〜20,000:1である。
【0017】〔H2 TiO3 /H4 TiO5 〕の重量比が20,000:1を超えると、得られる水性液中のコロイドゾルが不安定になり易く、またそれが40:1未満では得られる塗料による塗膜の乾燥、焼き付けの際に酸素ガスが多量に発生し、塗膜欠陥発生の原因になるため好ましくない。より好ましい〔H2 TiO3 /H4TiO5 〕重量比の範囲は200〜8,000:1である。
【0018】また、本発明塗料中の酸化チタン又はチタン酸のコロイドと、ペルオキソチタン酸との合計濃度には特に限定はないが、200〜80,000ppm であることが好ましい。
【0019】本発明のセラミック塗料のpHは2〜10であることが好ましく、3〜9であることがより好ましい。pH値が10を超えると得られる塗料塗膜中のアルカリ含有量が過度に高くなり、その光触媒効果が不十分になることがあり、またpH値が2未満では塗料酸性が強いため、その塗布、焼付け時に被塗布素材を腐食することがある。
【0020】尚、本発明のチタン化合物溶液にセラミック塗料を使用する場合に、その使用目的に応じて、それに各種酸化物、窒化物、炭化物等からなるセラミックス(例えば、TiO2 ,MoO3 ,SiO2 ,TiN,BN,WCおよびマイカなど)および亜鉛末、アルミニウム末などの金属微粒子から選ばれた1種以上を混合使用してもよい。
【0021】次に本発明のセラミック塗料の製造方法について説明する。本発明のペルオキソチタン酸含有セラミック塗料は、下記本発明方法により調製することができる。すなわち、水溶性チタン化合物と、過酸化化合物とを、水中において反応させ、得られた反応生成物含有水性液を、夾雑イオン除去工程に供する。除去されるイオンは、水溶性チタン化合物および過酸化化合物の種類、および中和処理の有無などに応じて定まる。また、夾雑イオン除去工程において、主として反応副生成物、および未反応原料のアニオンが、反応生成物含有水性液から除去され、また、中和のために水酸化アルカリ、又はアンモニア水を添加した場合には、これらのアルカリ性カチオンも除去される。
【0022】本発明方法に用いられる水溶性チタン化合物は、前述のように、三塩化チタン、四塩化チタン、硫酸チタン、およびチタンフッ化物などから選ばれる。また、本発明方法に用いられる過酸化化合物は、前述のように過酸化水素、過酸化ナトリウム、および過酸化バリウムなどから選ぶことができるが、過酸化水素を用いることが好ましい。本発明方法におけるチタン化合物と過酸化化合物との反応は、チタン化合物3〜30%濃度水溶液に、過酸化化合物水溶液を添加し、pH0.5〜3の範囲内において、10〜50℃の温度において行われることが好ましい。過酸化化合物水溶液の使用量は、チタン酸化合物の全量と反応して、酸化チタン又はチタン酸コロイドおよびペルオキソチタン酸を、前記含有量重量比で生成させるのに十分な量であることが好ましい。例えば、過酸化化合物として過酸化水素を用い、チタン化合物として、三価チタン化合物、例えば三塩化チタンを用いるときは、チタン(III)1モルに対し、過酸化水素約3モルを用いることが好ましい。またチタン化合物として四価チタン化合物を用いるときは、チタン(IV)1モルに対し、過酸化水素約2モルを用いることが好ましい。
【0023】本発明方法において、夾雑イオン除去工程は、反応副生成物、例えばCl- ,SO42- ,F- などの主としてアニオンを除去することを目的とする工程であるが、前述のように、予じめ、例えば苛性ソーダ、又はアンモニア水などにより中和を施した場合には、Na+ 又はNH4 + などの不純物カチオンを除去することもできる。
【0024】夾雑イオンを除去するための第1の方法としては、チタン化合物溶液を過酸化水素水と反応させた後、この反応生成物含有水性液に半透膜を使用して透析または電気透析を施するものである。この処理により反応生成物含有水性液中の夾雑アニオンおよび夾雑カチオンは、半透膜を通って除去され、酸化チタン又はチタン酸コロイド、およびペルオキソチタン酸含有水性液が精製される。
【0025】夾雑イオン除去の第2の方法は、チタン化合物溶液を過酸化水素水と反応させた後、得られた反応生成物含有水性液を、陰極室と陽極室とがイオン交換膜で仕切られている電解槽中に電解液として用い、これを電解するものである。電解槽におけるイオン交換膜の設置としては、両極板と平行に、陰極板/陰イオン交換膜/陽極板の配列にするか、又は陰極板/陰イオン交換膜/陽イオン交換膜/陽極板の配列にすることが好ましく、夾雑カチオンが含まれる場合は、後者の配列を用いることが好ましい。この処理により、反応生成物含有水性液中の夾雑アニオンは、陰イオン交換膜および陽極液中に除去され、夾雑カチオンは陽イオン交換膜および陰極液仲に除去される。この方法において、中央の電解室中に、精製された酸化チタン又はチタン酸のコロイドおよびペルオキソチタン酸の水性液が得られる。
【0026】夾雑イオン除去の第3の方法は、チタン化合物溶液を過酸化水素水と反応させた後、得られた反応生成物含有水性液をイオン交換体例えば、陰イオン交換樹脂(例えばダイヤイオンSA(商標)、三菱化学(株)製)陽イオン交換樹脂(例えばダイヤイオンSK(商標、三菱化学(株)製)に接触させるものである。この処理により、反応生成物含有水性液中の夾雑イオンは、イオン交換体により捕集除去され、精製されたチタン酸又は酸化チタンコロイドおよびペルオキソチタン酸を含有する水性液が得られる。
【0027】本発明の製造方法において、チタン化合物の水溶液におけるチタンイオンの加水分解を防止するため、反応系中に塩酸や硫酸を過剰に添加することも許容される。
【0028】本発明方法において、チタン化合物を過酸化化合物、例えば過酸化水素と反応させた後、得られた反応生成物含有水性液に、夾雑イオン除去工程を施す前に、100℃未満の温度に加熱し一定時間保持することが好ましい。この加熱処理によりチタン酸または酸化チタンコロイドの粒子を成長させ、それを最適なサイズに制御することができ、ひいては塗料の安定性や塗膜の光触媒性を向上させることができる。従来技術では、酸化チタンコロイド液を100℃を超える温度で加熱することが知られているが、この場合、生成されるコロイド粒子が粗大化し、あるいは粒径分布がばらつく結果となり、品質が一定化しないという問題点があった。本発明方法において、40℃以上100℃未満であることがより好ましく、55〜90℃であることがさらに好ましく、加熱時間は1分〜3時間であることが好ましく、10〜60分であることがより好ましい。
【0029】一般に加熱処理の温度が高く且つ保持時間が長いほどコロイド粒径は大きくなるが、加熱処理温度が100℃を超えると酸化チタン粒子またはチタン酸粒子の粒径が過剰成長して1μmを超え、その結果、塗膜の透明性や密着性が不十分になることがある。
【0030】また、加熱処理により酸化チタンコロイドの粒径を制御する際、例えばチタンアルコキシドの加水分解生成物および硫酸チタニル加水分解生成物等のような、コロイド粒子成長核となる酸化チタン粒子またはその分散液を加熱処理前に少量添加してもよく、これによって、粒径の均一性を向上させることができる。また、本発明方法において、水溶性チタン化合物を過酸化水素と反応させる前、又は反応副生成物除去工程の前に、苛性ソーダやアンモニア水で水性液に中和操作を施してpH値を調整してもよく、この場合、1規定以下の濃度のアルカリ性溶液を用いて中和を行うことが好ましい。
【0031】本発明の製造方法において、夾雑イオン除去工程を透析法または電気浸透法により行う場合、使用される半透膜は、RO膜、セロハン膜、ぼうこう膜、コロジオン膜、イオン交換膜、バイポーラ膜などから選ばれるが、コロイド粒子を透過せず水および無機アニオンを透過するものであればよい。この透析操作は好ましくは数時間以上行い、pHまたは電気電導度で透析の進行状態を確認することができる。尚、透析に伴うpH上昇により、ペルオキソチタン酸の一部が分解し、酸素ガスの気泡を発生するが、この場合にはエアレーション等により気泡を除去することが好ましい。
【0032】また、本発明の製造方法の夾雑イオン除去工程において、電解処理槽をイオン交換膜で仕切り、電解室には反応生成物含有水性液を入れて電解する。陰イオン交換膜としては強塩基性陰イオン交換膜で耐酸性を有するもの(例えばスチレン系強塩基性樹脂からなる膜)を用いることが好ましい。また陽イオン交換膜を陰イオン交換膜と併用する場合には、強酸性樹脂(例えばスチレン系など)を用いることが好ましい。陽極には白金、白金被覆チタン、またはDSEを使用することが好ましく、陰極には白金被覆チタン、ステンレス鋼などが使用でき、電解処理における電流密度は0.1〜10A/dm2 の範囲で行うことが好ましい。尚、処理の終了は、陰極室内の精製水性液のpH、または電気電導度の測定によって確認することができる。
【0033】本発明方法の夾雑イオン除去工程において、イオン交換体を用いる方法においては、イオン交換体としては陰イオン交換樹脂に陽イオン交換樹脂を適宜の割合で混合して用いることが最も好ましく、この他にも、ゼオライト、塩基性白雲母、水和酸化鉄、水和酸化ジルコニウムなどを使用できる。反応生成物含有水性液とイオン交換体との接触は、反応生成物含有水性液中にイオン交換体を直接投入し攪拌する方法、および反応生成物含有水性液をイオン交換体を充填したカラムを通過させる方法のいずれによっても可能である。この場合も、処理の完了は、精製液のpHが高くなっていること、または電気電導度が低下していることを確認することにより行われる。
【0034】本発明方法に用いられるチタン化合物水溶液としては不純物の少ないものを使用し、希釈、中和等に使用する水も硬度分を除去した脱イオン水または蒸留水を使用することが好ましい。
【0035】本発明のセラミック塗料は、粒径が極めて微細なチタン酸または酸化チタンのコロイドを主成分として含み、さらにペルオキソチタン酸を含むものであって、不純物イオンを殆ど含まず、少量のペルオキソチタン酸がゾルの安定性を高めるため、中性に近いpH領域でもゲル化せず、しかもある程度の粘性を有しているから、塗布し易く、透明かつ緻密で密着性の良い皮膜が得られるという特徴がある。また、ペルオキソチタン酸が酸化チタンコロイド粒子の表面に吸着して、これに負電荷を付与し、それによって、コロイド粒子の凝集、沈澱を防止し、これを安定化する。
【0036】また、本発明の製造方法において、3価または4価のチタンイオンを、いったんペルオキソチタン酸において6価チタンとし、透析やイオン交換などのアニオン除去工程によって、塩素イオン、硫酸イオンなどの供雑イオンのみを除去し、これと同時にチタン酸又は酸化チタンの微細コロイド粒子が生成する。
【0037】本発明方法において、チタンイオンを過酸化水素と反応させてこれを、いったんペルオキソチタン酸とし、次にこれからチタン酸又は酸化チタンコロイドを生成させることは、微細なチタン酸又は酸化チタンコロイド粒子を生成させるうえで最も重要である。4価のチタンイオンをアルカリの添加等によって粒子析出させるような従来の方法では、粒子成長が急激に行われるため粒子が粗大化し易く、微細粒子のコロイドを得ることは困難であるが、本発明のようにチタンイオンをペルオキソチタン酸に変えたのちこれからチタン酸又は酸化チタンコロイド粒子析出を行わせる方法によればチタン酸の安定なコロイドを得ることが可能であり、この安定性は少量のペルオキソチタン酸の共存により著るしく向上する。
【0038】この際の反応は三塩化チタンを原料として使用した場合、ペルオキソチタン酸の生成反応は、2TiCl3 +3H2 2 +4H2 O→2H4 TiO5 +6HClで示され、生成したHClは透析やイオン交換体処理等の脱イオン処理によって除去される。また、二酸化チタン又はチタン酸コロイドの生成は、2H4 TiO5 →2TiO2 +4H2 O+O2 ↑で示され、この際、過剰の過酸化水素は酸素と水となって分解除去される。また、塗料中に含まれるペルオキソチタン酸は、塗膜の焼付けのときに、完全に分解して二酸化チタンとなり、純度の高い二酸化チタン塗膜が得られる。
【0039】さらに、透析やイオン交換等の夾雑イオン除去処理を行う前に反応生成物含有水性液を100℃未満の温度に加熱処理することにより、二酸化チタンコロイド粒子が最適粒子径10-1〜10-4μmを有するようになり、この塗料から得られる塗膜の透明性および密着性が著るしく向上すると同時に、光触媒活性および塗料の安定性をより一層高めることができるのである。
【0040】
【実施例】以下に本発明のセラミック塗料およびその製造方法を実施例によりさらに説明する。
【0041】実施例1〜420%三塩化チタン水溶液に、31%過酸化水素水を加えて充分反応させ、この反応系に、1規定苛性ソーダ水溶液を添加して、そのpH値を3に調整し、得られた黄橙色反応生成物含有水性液を、RO膜またはセロハン膜を半透膜として使用して流水中で48時間拡散透析を施した。但し、この拡散透析前に表1に示す条件により加熱処理を施した。得られた精製液について後に詳述する方法により分析および試験を行った。
【0042】実施例5〜7四塩化チタン溶液を水および希塩酸で希釈し、これに5%アンモニア水を添加してpH値を2に調整し、これに31%過酸化水素水を加えて充分反応させ、得られた黄橙色反応生成物含有水性液に、表1に示す条件による加熱処理を施した後、これを、陰イオン交換膜(セレミオンAMV型:旭硝子(株)製)および陽イオン交換膜(セレミオンCMV型、旭硝子(株)製)で仕切った電解槽の電解液とし、陰極板、および陽極板として白金めっきチタン板を使用して電流密度0.2〜2A/dm2 で電解を施した。電解後に、中央電解室から陰極液を採取してその分析および試験を行った。
【0043】実施例8〜930%硫酸チタン溶液を水で希釈し、これに31%過酸化水素水を加えて充分反応させ、得られた黄橙色反応生成物含有水性液に、表1に記載の条件による加熱処理を施し、この液に陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂を混合して充分攪拌した後、これを濾過して得られた精製液について、分析および試験を行った。
【0044】比較例1〜3比較例1は実施例1と同様に、比較例2は実施例5と同様に、また比較例3は実施例8と同様にして調製した黄橙色反応生成物含有水性液を、これに夾雑イオン除去処理を施すことなくセラミック塗料として供試した。
【0045】比較例4四塩化チタン溶液を水で希釈した液を、そのままRO膜またはセロハン紙を半透膜として使用する流水中48時間の拡散透析に供し、この液をセラミック塗液として分析および試験に供した。
【0046】塗料組成の分析(1)ペルオキソチタン酸濃度液中のペルオキソチタン酸濃度は、供試液に硫酸を加えて酸性とし、分光光度計を使用してペルオキソチタン酸錯体の波長430nmの吸光度から測定し、H4TiO5 濃度に換算した。
(2)チタン酸濃度チタン酸濃度は、試料溶液の水分を加熱蒸発させ、500℃で2時間加熱して二酸化チタンとし、残渣重量からペルオキソチタン酸重量分を減じた重量をH2TiO3 に換算して求めた。
【0047】塗膜性能の評価調製したセラミック塗料試料液を、板ガラス基盤上に約1μmの厚さに塗布し、100℃で乾燥した後、500℃で焼付けた。この塗膜の密着性、透明性、および光触媒性を下記方法により測定又は評価した。
(1)密着性、透明性塗膜の透明性は目視で判定し、板ガラスに対する密着性はセロハンテープ貼付け後にこれを引き剥がして剥離の有無を観察評価した。
(2)光触媒性光触媒性は、10cm×3cmの塗膜表面にサラダ油を塗布し、UVライト(15W)を用いて紫外線を200時間照射した後、塗布油の分解量を重量差から求め、その値により表した。
【0048】表1に試験に供したセラミック塗料の製造条件、組成分析値および塗膜性能を示す。
【表1】


【0049】表1は、本発明に係る実施例1〜9のセラミック塗料は、密着性、透明性、光触媒性とも優れていたことを示している。一方、本発明範囲外の比較例1〜4のセラミック塗料は、これらの性能いずれかにおいて不満足なものであった。
【0050】
【発明の効果】本発明のセラミック塗料、および本発明の方法により製造されたセラミック塗料は、透明性および密着性が良好で、かつ良好な光触媒性を有する酸化チタン塗膜を形成するものである。本発明のセラミック塗料において、酸化チタンコロイドは、ペルオキソチタン酸により安定されておりこの塗料により得られる塗膜は、光触媒性に優れ、さらに汚れの付着防止および分解効果、抗菌効果、防錆効果、並びに大気および水質の浄化効果などに優れたものであって、実用上の利用価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 チタン酸または酸化チタンのコロイド、およびペルオキソチタン酸を含む水性液であって、前記チタン酸または酸化チタンのコロイドのH2TiO3 換算含有量の、前記ペルオキソチタン酸のH4 TiO5 換算含有量に対する重量比が20,000:1〜500であり、かつ実質的に他のイオンを含まないことを特徴とする酸化チタン系セラミック塗料。
【請求項2】 水溶性チタン化合物と、過酸化化合物とを水中において反応させ、得られた反応生成物含有水性液を、夾雑イオン除去工程に供することを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン系セラミック塗料の製造方法。
【請求項3】 前記夾雑イオン除去工程において、前記反応生成物含有水性液が、半透膜を用いる透析処理、又は電気透析処理に供される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】 前記夾雑イオン除去工程において、前記反応生成物含有水性液が、陰極室と陽極室とが、イオン交換膜により仕切られている電解槽中において、電解処理に供される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】 前記夾雑イオン除去工程において、前記反応生成物含有水性液が、イオン交換材料に接触せしめられる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】 前記反応生成物含有水性液に加熱処理が施され、その後に前記夾雑イオン除去工程が施される、請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】 前記加熱処理が、100℃未満の温度において施される、請求項6に記載の製造方法。