説明

酸化物ナノ粒子、酸化物ナノ粒子分散コロイド液、およびそれらの製造方法。

【課題】他の気相法と比較して親水性の高い粒子が安価で大量に製造することができる酸化物ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】気化した原料物質を心棒に吹き付け心棒表面で酸化物を粒子状に生成させるとともに、該粒子を堆積させ、その後、堆積した粒子の凝集体を粉砕することを特徴とする酸化物ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物ナノ粒子、酸化物ナノ粒子分散コロイド液、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物ナノ粒子は、電極材料、紫外線吸収剤材料、誘電体材料などの各種材料として有用であり非常に注目されている。
【0003】
一般に、粒子径がナノメートルオーダーの粒子(ナノ粒子)を製造する方法としては、液相中の化学反応により行う液相法と、気相中の化学反応により行う気相法とが知られている。
このうち、液相法の代表的な例としては、ゾルゲル法、共沈法、水熱合成法などが挙げられる。しかし、これらの手法では、不純物の除去及び結晶構造創製のために、合成後の粒子を1000℃以上の高温に長時間晒すアニーリング処理を行うことが一般的で、このアニーリング過程において粒子同士が凝集・焼結するといった粒子サイズの増大を招きやすいという問題点があった。
【0004】
一方、気相法は、前駆物質を気相燃焼反応場(酸化反応場)に通過させることで製造を行うため、酸化物生成に非常に適した場であり、3000℃以上の高温も容易に実現可能であることから、高品位な結晶構造を持つ粒子を短時間に簡便に合成することが可能である。例えば、特許文献1には、複数の金属成分からなる複合微粒子であって、複数種の金属を含有する原料気体流ETと当該原料気体流ETを覆う反応気体流GRとが高温雰囲気の反応空間HKに流入され、原料気体流ETの外周部で熱処理によって粒子生成するとともに、反応気体流GRで冷却することによって製造され、特に、前記熱処理が原料気体流ETと反応気体流GR(例えば酸素含有ガスからなる)の化学反応(酸化反応等)により、複数の金属酸化物からなる複合微粒子を調製すること記載されている。
【0005】
しかしながら、このような従来の気相法では表面の親水性が失われ、生成粒子間で融着が進行するため、水系溶液中での分散が困難であった。
また、通常の気相法では粒子は粉体として得られる。そのため、ハンドリングが困難であり、吸引の危険などがある。また、回収効率の向上が困難であるといった問題点があった。また、金属製のバーナで火炎を発生させるときに、バーナの燃料ガス成分が混入し、ナノ粒子の純度が低下するといった問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−305202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、他の気相法と比較して親水性の高い粒子を低コストで大量に製造することができる酸化物ナノ粒子、酸化物ナノ粒子分散コロイド溶液、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)気化した原料物質を心棒に吹き付け心棒表面で酸化物を粒子状に生成させるとともに、該粒子を堆積させ、その後、堆積した粒子の凝集体を粉砕することを特徴とする酸化物ナノ粒子の製造方法、
(2)(1)項記載の方法で製造された粉体状の酸化物ナノ粒子、
(3)(2)項記載の粉体状の酸化物ナノ粒子を水中で超音波によりさらに粉砕することを特徴とする酸化物ナノ粒子分散コロイド溶液の製造方法、および
(4)(3)項記載の方法で製造された酸化物ナノ粒子分散コロイド溶液、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、他の気相法と比較して親水性の高い酸化物ナノ粒子が廉価に効率よく製造でき、スループットが非常に高い。また、原料が気相で導入され、原料中の不純物と分離されることから、従来の気相法と比較して酸化物粒子の純度を著しく高くできる。また、粒子を凝集体にすることでハンドリングが容易で安全である。さらに、本発明の酸化物ナノ粒子分散コロイド溶液は、粒子凝集体を水中で超音波により破砕することでロスを少なくして分散安定性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例および比較例で得られたシリカ粒子の水中でのζ電位の比較するグラフである。
【図2】実施例で得られたシリカ粒子の超音波照射前後のSEMの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酸化物ナノ粒子の製造方法は、気化した原料物質を心棒に吹き付け心棒表面で酸化物を粒子化して生成させるとともに、該粒子を堆積させ、その後、堆積した粒子凝集体を粉砕する工程を有するものである。
【0012】
本発明の方法を適用しうるナノ粒子の酸化物は、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、アルミナ(Al)、二酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化セリウム(CeO)、酸化亜鉛(ZnO)、などが挙げられ、なかでも、シリカ、チタニアのナノ粒子の製造に好適である。
【0013】
本発明において、気化した原料物質を心棒に吹き付け酸化物を生成させ粒子化して心棒表面上に堆積させる手段として、従来、光ファイバ母材の製造に用いられるVAD法(Vapor phase axial deposition method、気相軸付け法)と同様の方法によっておこなうことができる。すなわち、水素と酸素の混合気体の火炎中で、SiClやGeClなどの原料物質を燃焼させることにより、酸化物を形成し、気化した酸化物を種となる心棒の上に積もらせ、心棒を移動させることによりスートを作製する。このスートは酸化物ナノ粒子の緩やかな凝集体である。本発明における微粒子凝集体スートの作製には、例えば、特開平6−127966号公報の図1に記載の光ファイバ母材製造装置を用い、クラッドバーナの火炎中で合成した酸化物微粒子を、回転しつつ引上げる種棒の下端に堆積させることにより行うことができる。
【0014】
以下、シリカを例に説明すると、バーナの条件は、下記のようにすることが好ましい。
は好ましくは0.5〜50L/min、さらに好ましくは1.0〜10L/minである。
は好ましくは0.5〜50L/min、さらに好ましくは1.0〜10L/minである。
原料物質(SiCl)は好ましくは50〜1000cm/min、さらに好ましくは100〜500cm/minである。
バーナの炎温度は、好ましくは2000〜3500℃、さらに好ましくは2500〜3000℃である。
【0015】
本発明においては、上記スートを破砕して粉体状にする。粉砕には例えば、ヘラやハンマーなどを用いて行うことができる。
【0016】
本発明で得られる粉体状の粒子は、かさ密度が低く、ふんわり感がある。粉体のかさ密度は0.01〜0.5g/cmが好ましく、0.05〜0.2g/cmがさらに好ましい。
この粉体は、平均粒径が好ましくは10〜1000nm、さらに好ましくは100〜500nmである。平均粒径は次のようにして測定した。粉体の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒径とした。
【0017】
本発明では、上記の方法で得られた、破砕された粉体を液体中で、さらに超音波を照射することで、一次粒子にまで破砕され、良好な分散性を有する分散コロイド溶液を得ることができる。
超音波処理の条件としては、超音波の周波数は好ましくは5〜30MHz、さらに好ましくは15〜25MHz、超音波の強度は好ましくは50〜200W/cm、さらに好ましくは100〜200W/cmである。超音波照射時間は1〜100minが好ましく、10〜50minがさらに好ましい。超音波処理には、通常の超音波分散機を用いることができる。
【0018】
本発明の分散コロイド溶液におけるζ電位の絶対値は、好ましくは30mV以上、さらに好ましくは40mV以上である。ζ電位の絶対値は、親水性の指標となり、すなわち、水中での分散性の指標となる。
本発明の分散コロイド溶液のζ電位の絶対値は、気相合成のものとしては、例外的に大きく、単分散性の高いものであり、リチウムイオン電池、太陽電池、燃料電池の電極、電子部品、液晶、研磨材、光触媒、塗料、化粧品、蛍光材料の原料として好適なものである。
【0019】
本発明の方法において、シリカ以外の酸化物、例えばチタニアは、上記のシリカの製造方法において、原料物質のSiClを、TiClとすることで製造することができる。得られたチタニアの粉体のかさ密度は0.01〜0.5g/cmが好ましく、0.05〜0.2g/cmがさらに好ましい。
また、チタニアの分散コロイド溶液は、上記の方法において破砕された粉体を液体中で、さらに超音波を照射する工程を、同程度の照射強度とすることで製造することができる。得られたチタニアの分散コロイド溶液におけるζ電位の絶対値は、好ましくは30mV以上、さらに好ましくは40mV以上である。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0021】
実施例1
<シリカナノ粒子>
(VAD法によるスート作製)
特開平6−127966号公報の図1に記載の光ファイバ母材製造装置を用いて、バーナの火炎中で合成したシリカ微粒子を、回転しつつ引上げるシリカガラスの種棒の下端に堆積させてシリカ微粒子凝集体の製造を行った。バーナの条件は、下記のようにした。
:5L/min
:5L/min
SiCl:300cm/min
炎温度:2800℃
バーナから供給されるシリカ微粒子が堆積し、微粒子凝集体を形成することができた。
【0022】
微粒子凝集体からヘラで削り取ることにより、顆粒状の粉体を回収した。回収された顆粒状の粉体の粒径は1〜10μmであり、かさ密度は0.1であった。
次いで、この顆粒状の粉体を0.1mass%となるように水に分散させ、超音波分散機(株式会社エスエムテー製UH−600SRF)を用いて30分間分散処理を行い実施例1のシリカ粒子およびその分散コロイド溶液を得た。
【0023】
(ζ電位)
実施例1の処理後の溶液を約0.01wt%となるよう希釈し、Malvern Instruments製ZETASIZER NANO ZEN3600を用いてζ電位を測定した。また、他の気相法で得られた粒子又は市販品(比較例1,3〜5)と液相法(ゾルゲル法)で得られた粒子(比較例6)についても同様にζ電位を測定した。結果を図1に示す。また、実施例1、比較例1および2については、その値を表1に合わせて示した。実施例1のVAD製粒子は液相法(比較例6)と同様の値約−50mVが得られ、他の気相法(比較例1〜5)ではいずれも絶対値が小さかった。なお、比較例1のJVD(Jacketed vapor desosition)法、および比較例2のFCM(Flash creation method)はともにその常法に従いシリカナノ粒子を製造したものである。
【0024】
(不純物定量分析)
実施例1、比較例1,3〜5で得られたシリカ粒子の粉体を弗酸で溶解し、ICP発光分析装置で不純物金属の定量を行なった。その結果を表2に示す。
表1の純度の欄において「◎」は表2における金属不純物元素の濃度が20ng/g未満であることを示し、「△」は表2における金属不純物元素の濃度が20ng/g以上であることを示す。
その結果、他の気相法の比較例に対して実施例1のVAD法によるシリカ粒子に含まれる不純物はいずれも少なく、純度が高いことが示された。
【0025】
(粒径)
実施例1、比較例2、4〜6について走査型電子顕微鏡写真により粒径を測定した、結果を表1および2に示す。実施例1では、比較例に比べ真球度の高い粒子であった。
【0026】
(親水性)
実施例1、比較例1〜2の親水性を Malvern Instruments製ZETASIZER NANO ZEN3600を用いてζ電位により測定した。結果を表1に示す。表1の親水性の欄において「○」はζ電位の絶対値が30mV以上を示し、「×」は30mV未満を示す。
【0027】
(スループット評価)
実施例1、比較例1〜2のスループットを単位時間当たりの酸化物ナノ粒子の生成量により評価した。結果を表1に示す。表1のスループットの欄において「○」は単位時間当たりの生成量が3kg/h以上であることを示し、「△」は3kg/hを下回ることを示す。
【0028】
(ハンドリング評価)
実施例1、比較例1〜2のハンドリング性能評価を表1に合わせて示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1および2に示されるとおり、実施例1では各比較例に比べ、親水性の高い粒子が安価で大量に合成でき、スループットが非常に高く、純度が非常に高く、また、ハンドリングが容易で安全である。
【0032】
実施例1において超音波照射前後の溶液を基板上で乾燥させ、走査型電子顕微鏡による顕微観察を行なった。その顕微鏡写真を図2に示す。照射前(図2(a))は粒子が堆積し1つの凝集体を形成していたが、照射後は一次粒子の状態へ分散化していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化した原料物質を心棒に吹き付け心棒表面で酸化物を粒子状に生成させるとともに、該粒子を堆積させ、その後、堆積した粒子の凝集体を粉砕することを特徴とする酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法で製造された粉体状の酸化物ナノ粒子。
【請求項3】
請求項2記載の粉体状の酸化物ナノ粒子を水中で超音波によりさらに粉砕することを特徴とする酸化物ナノ粒子分散コロイド溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法で製造された酸化物ナノ粒子分散コロイド溶液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98849(P2011−98849A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253488(P2009−253488)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】