説明

酸化物層上に不動態化表面を形成するための中間体および方法およびこれにより製造される製品

酸化物層上に不動態化表面を形成するための中間体および方法、およびこれにより製造される製品が記載される。酸化物表面上のヒドロキシルあるいはヒドロキシド基を式YY(L−Pol)mの金属試薬(式中、Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり、かつ「Pol」はポリエチレングリコール、炭化水素、あるいはフッ化炭化水素などの不動態化剤を表す)と反応させる。生成した修飾表面は、リン酸官能基を有する不動態化剤、あるいは不動態化部分およびYと反応性であるか、あるいは錯体形成する多数の官能基を含む多価試薬とさらに反応させることができる。不動態化剤はビオチンなどの官能基を含んで表面に所望の官能基を提供することもできる。不動態化された表面は生体分子と最小の結合を示し、かつ単分子検出スキームに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、全般的に表面修飾技術に関し、また具体的には酸化物層上に不動態化表面を形成するための中間体および方法およびこれにより製造される製品に関する。
【0002】
本明細書は、2006年11月21日に提出された米国暫定特許出願第60/860,215号、および2006年11月22日に提出された米国暫定特許出願第60/860,480の利点を主張する。上記の明細書はそれぞれその全文が参照文献として本明細書に組み入れられている。
【0003】
本明細書で用いられる節の標題は整理のみを目的としており、決して本明細書に記載の主題への制限として解釈されてはならない。
【背景技術】
【0004】
リアルタイムでのDNA配列決定は、好ましくは表面上での、ポリメラーゼによる個々の組み込み事象のインテロゲーションを必要とする。一般的に、これらの組み込み事象は、個々の分子として組み込まれたヌクレオチド上の標識を検討することよって同定される(例:単分子検出)。最も一般的な標識は蛍光色素である。表面上におけるまれな標識ヌクレオチドの非特異的吸着であっても、偽陽性シグナルを生成する。したがって、基質の表面への結合は最小化されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄い不動態化層の形成を考慮し、かつ最小の生体分子吸収を示す表面をもたらすような不動態化技術の改善へのニーズが未だに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の実施形態によると:
表面がヒドロキシルおよび/あるいはオキシド陽イオン基を含む、表面を金属試薬と接触させること;および
金属試薬を表面上のヒドロキシルおよび/あるいはオキシド陰イオン基と反応させて修飾表面を形成することを含む支持体の表面を修飾する方法が提供され;
このとき金属試薬は以下の式:
Y(L−Pol)m
(式中:
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり;
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり;
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し;かつ、mが整数である)で表される構造を有する。
本実施形態による方法は、不動態化部分およびYと反応性であるかあるいはYと錯体形成する多数の官能基を含む多価試薬と修飾された表面を接触させることをさらに含むことができ、このとき不動態化部分は置換ポリエチレングリコール、非置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素、および置換フッ化炭化水素からなる群から選択される。
【0007】
第2の実施形態によれば、以下の式(I)、式(II)、あるいは式(III):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中:
XはO、Nあるいはメチレン基であり;
はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素であり;かつ
はN(R、あるいはMであり、このときMはLi、Na、KあるいはCsであり、かつこのときRはアルキル基である)で表される化合物が提供される。
【0010】
第3の実施形態によれば、不動態化剤とコンジュゲートした金属錯体化剤を含む化合物が提供され、このとき
金属錯体化剤はカルボン酸エステル、ドーパミンおよびアナセリンからなる群から選択され;かつこのとき
不動態化剤はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素からなる群から選択される。
【0011】
第4の実施形態によれば、以下の式:
Y(L−Pol)m
(式中:
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり;
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し、かつ、mは整数である)で表される化合物が提供される。
【0012】
第5の実施形態によれば:
式:Y(OR)m
の第1の化合物をそれぞれ式:Pol−LH
である1つあるいはそれ以上の第2の化合物と反応させて式:Y(L−Pol)m
(式中:
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、
はC〜C炭化水素であり、
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり;
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し、かつ、mは整数である)の金属エステル化合物を形成することを含む方法が提供される。
【0013】
第6の実施形態によれば:
ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズの酸化物を含む酸化物層;および
部分が以下の式(I)あるいは式(II):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中:
XはO、Nあるいはメチレン基であり;
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり;
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであるか、あるいはLは金属錯体化剤であり;
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し;かつ
はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素であり;かつ
このとき酸素原子はこれとあるいは酸化物層内の異なるケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウムあるいはスズ原子と結合する)において説明されるような構造を有する、酸化物層の表面部分を含む固形支持体が提供される。
金属錯体化剤の非限定的な例はカルボン酸エステル、ドーパミンおよびアナセリンを含む。
【0016】
第7の実施形態によれば:
ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズの酸化物を含む酸化物層;
酸化物層と結合した遷移金属、マグネシウムおよびアルミニウムからなる群から選択される金属原子;
置換ポリエチレングリコール、非置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素および置換フッ化炭化水素からなる群から選択される不動態化部分を含む不動態化剤を含み;
不動態化試薬は多数の部位で1つあるいはそれ以上の金属原子と共有結合あるいは錯体形成する固形支持体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
当業者は、以下に記載する図面が、例示目的のみのためであることを理解するであろう。図面は、本教示の範囲を限定することを全く意図していない。
【0018】
【図1A】1つの実施例にしたがって不動態化することのできる、ヒドロキシル基を含む酸化物層を描出する概略図である。
【図1B】さらなる実施例にしたがって不動態化することのできる、ヒドロキシド陰イオン基を含む表面を描出する概略図である。
【図2】酸化物表面の修飾に使用することのできる金属試薬の調製を示す。
【図3】金属試薬化合物と酸化物表面の反応により生成する修飾表面を示す。
【図4】図4A、BおよびCは金属試薬で処理した表面と反応させて不動態化表面を形成することのできる、リン酸基を含有する不動態化剤の化学構造を例示する。
【図5】金属試薬処理表面とリン酸基を含む不動態化試薬の相互作用の結果を示す概略図である。
【図6】多数のヒドロキシル基を含む多価PEG不動態化剤による表面上の不安定一価不動態化剤の置換を例示する。
【図7A】プロットが100×100μm画像の画素におけるカウント数である、TaPEG550/TEGリン酸修飾表面を有するカバーグラスの共焦点蛍光撮影の結果を示すプロットである。
【図7B】同上
【図7C】同上
【図7D】同上
【図7E】同上
【図8A】sulfo−Liz dCTPを用いたTaPEG550(リン酸なし)修飾表面のカウント率ヒストグラムを示すプロットである。
【図8B】同上
【図8C】同上
【図9A】表面の接着性色素を示す長いラグタイム(例:10m秒)のテールを示す、定法で調整した5%Pegsilane修飾カバーグラス上で0.1nM Liz−dGTPより得られた相関曲線である。
【図9B】TaPEG550表面修飾カバーグラス上で拡散するローダミン色素およびsulfoLiz dCTPの希釈溶液の蛍光相関分光分析(FCS)より得られた相関曲線を示す。
【図9C】TaPEG550表面修飾カバーグラス上で拡散するローダミン色素およびsulfoLiz dCTPの希釈溶液の蛍光相関分光分析(FCS)より得られた相関曲線を示す。
【図10A】Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した石英表面上における、1nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図10B】Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した石英表面上における、緩衝液存在下に4時間あった後での、1nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図10C】Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した石英表面上における、100nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図10D】Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した石英表面上における、緩衝液存在下に4時間あった後での、100nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図11A】Ta(モノメチル−PEG550で処理した石英表面上における1nM蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図11B】Ta(モノメチル−PEG550で処理した石英表面上における100nM蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図11C】Ta(モノメチル−PEG550で処理した石英表面上における、緩衝液存在下に4時間あった後での、1nM蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。
【図12】DNA伸長緩衝液でのインキュベーション前(図12A)および後(図12B)に、TaPEG550で処理した後PEG350−三リン酸により処理した石英ガラスを示す写真であり、このときスライドは100nM LIZ−dATPでインキュベートした後水ですすいで未接着色素を全て取り除いた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書における「あるいは」の使用は、特に明言しない場合、あるいは「および/あるいは」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「および/あるいは」を意味する。本明細書における「ある1つの」の使用は、特に明言しない場合あるいは「1つあるいはそれ以上」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「1つあるいはそれ以上」を意味する。「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含む(including)」の使用は互換的であり、制限的となることを意図していない。さらに、1つあるいはそれ以上の実施形態が用語「含む(comprising)」を用いる場合、当業者は、一部の具体的な場合において、その1つのあるいは複数の実施形態が「ほとんど〜からなる」および/あるいは「〜からなる」という言い回しを用いて代替的に記述することができることを理解するであろう。また、一部の実施形態においては、本教示が実施可能であり続ける限り、工程の順序あるいはある作業を実施する順序は重要でないことも理解すべきである。さらに、一部の実施形態においては2つあるいはそれ以上の工程を同時に実施することもできる。
【0020】
不動態化表面を作成する、あるいは不動態化剤の末端の官能基との反応を目的とした修飾表面を作成する目的を有する、酸化物(例:シリカ)表面上にアルミニウムあるいは遷移金属化合物(例:エステル)の非常に薄い層を形成するための技術が提供される。該不動態化剤は、自己構成しない、ポリエチレングリコール(すなわちPEG)とすることができる。試薬を有機溶媒中での使用に適合するものとするために、官能基はテトラブチルアンモニウム対イオンを伴うリン酸あるいは二リン酸基とすることができる。
【0021】
Ta(5+)、Ti(4+)およびZr(4+)の遷移金属エステルは市販されている(例:メチル、エチルおよびイソプロピルエステルなどとして)。しかし、不溶性酸化物を生成するこれらのエステルと痕跡量の水との反応性は、被覆表面に対して水性環境におけるその使用を妨げる。さらに、特に市販されているTi(4+)エステルの、その有機溶媒に対する限られた溶解度は、多くの有機溶媒中でのこれらの試薬の使用を妨げる。
【0022】
本発明者らは、市販のTa(5+)およびTi(4+)エステルを、4等量あるいはそれ以上の中分子量(すなわち2つあるいはそれ以上のEO単位)PEGモノメチルエーテルと反応させて、大半の有機溶媒における優れた可溶性を有し、かつシリカ表面などの酸化物表面上に、非常に予測可能に、それらの金属の非常に薄い層を形成する能力を有する試薬を作成することができることを見いだしている。ある場合には、沈着によって単一分子検出スキームにおける使用に適した不動態化表面を作成する。他の場合には、修飾表面はさらにPEGのリン酸あるいは二リン酸誘導体あるいは他の不動態化剤と反応させて所望の表面を作成することができる。
【0023】
全体的なスキームは図1〜5に要約されている。
【0024】
図1Aは、反応性ヒドロキシル基を含有する酸化物材料(例:ケイ酸塩ガラスあるいは石英)の模式的描出である。表面上のヒドロキシル基は、塩基で処理することによりヒドロキシド陰イオンに変換することができる。図1Bは、反応性ヒドロキシド陰イオン基を含有する酸化物材料(例:ケイ酸塩ガラスあるいは石英)の模式的描出である。1つの実施形態によると、表面上のヒドロキシル基は水酸化テトラブチルアンモニウムで処理することによりヒドロキシド陰イオンに変換することができる。これにより有機媒体中で容易に溶媒和物とすることができる四級アンモニウム塩が形成される。
【0025】
酸化物表面は、不動態化に先立ち、酸素プラズマによって、あるいは水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化カリウムメタノール溶液、過酸化水素硫酸溶液(すなわち「ピラニア」溶液)、硝酸硫酸溶液(すなわち「王水」)、過酸化水素アンモニア溶液(すなわち「RCA」溶液)、硫酸、フッ化水素酸、EDTAによって、あるいはこれらの処理の連続的組合せによって処理することができる。
【0026】
図2は酸化物表面の修飾に使用することのできる金属試薬の調製を例示する。試薬を合成するために、必要な等量数(すなわちm)よりも多くのPol−LH化合物を加えて、金属上の低分子量アルコールの完全な置換を得ることができる。PEGは金属エステルに添加する前に乾燥しなければならない。数時間後、溶液を排気して置換された低分子量アルコールを除去し、反応を進めて完遂することを助ける。
【0027】
図3は金属試薬と酸化物表面の反応の結果を示す。原則として、残余の「Pol」(例:PEGなど)基は金属エステルの未反応部位に残し、これらは後で不溶性金属−パートナー対の変換のために用いられる。これらの「Pol」基の存在により、異なる極性および還流温度のいずれが沈着速度の最適化に必要な場合、これらを利用するための多様な溶媒(例としてたとえば酢酸エチル、トルエン、塩化メチレンなど)の使用が可能となる。金属試薬による表面の修飾によって、多様な条件の下で非常に薄い層(XPSによる表面元素分析で示されるように)が生成することが確認されている。
【0028】
ある場合には、金属試薬による酸化物表面の処理によって不動態化表面が得られる。他の場合には、金属試薬による処理によって形成された修飾表面が、追加的な不動態化工程による不動態化表面の形成への中間体となる。図4Aは、金属試薬修飾酸化物表面を処理して不動態化表面を形成するために用いることのできる、リン酸あるいはホスホン酸などの錯体化剤を有する高分子不動態化剤の化学構造を示す。図4Aにおいては、置換基Rはポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素とすることができる。
【0029】
図4Bおよび4Cに示すように、リン酸エステルはその塩(例:テトラブチルアンモニウム塩)に変換して多様な有機溶媒中への溶解度を改善することができる。図4Bおよび4Cに示すように、置換基RはN(RあるいはMとすることができ、このときRはアルキル基でありかつMはLi、Na、KあるいはCsであり、また置換基Rはポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素である。
【0030】
さらに、高分子不動態化剤は全てのあるいは一部の表面に所望の官能基を提供するための置換を含有することができる。例えば、図4A〜4Cに示すリン酸エステルのR置換基はビオチン部分を含むことができる。さらに、金属試薬処理表面は、異なる高分子要素を有する不動態化剤の混合物を含む組成物と接触させて、具体的な最終使用用途に最適化した表面を提供することができる。例えば、該不動態化製剤は、所望の表面特性を得るために、PEGのリン酸あるいは二リン酸エステルとフッ化炭化水素のリン酸あるいは二リン酸エステルの混合物を含有することができる。所望の表面特性は、実験を通じて経験的に決定することができる。図4A〜4Cにおいては、XはO、Nあるいはメチレン基とすることができ、また置換基Rはポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素とすることができる。図4Bおよび4Cにおいても、各R置換基はN(R、あるいはMとすることができ、このときMはLi、Na、KあるいはCsでありかつRはアルキル基である。
【0031】
図5は、リン酸基を含む不動態化剤で酸化物表面を処理することにより形成され、該酸化物表面があらかじめ金属試薬で処理される表面を示す。図5よりわかるように、この技術により酸化物表面上に不動態化剤の薄層が生成する。図5においては、R置換基はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素とすることができる。図5においても、Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムとすることができ、かつZはO、Nあるいはメチレン基とすることができる。
【0032】
本明細書に記述された金属試薬の使用により、多様な酸化物表面上における金属前駆体の非常に薄い層の制御された作成が可能となる。さらに、表面は非常に穏やかな条件の下で形成することができる。また金属試薬は製造が容易でもあり、かつ使用前の精製を必要としない。
【0033】
層形成前の金属試薬およびリン酸官能基不動態化剤の使用により、所望の表面の沈着を目的とした入手が容易なリン酸官能基の使用が可能となる。リン酸エステルはオキシ塩化リンおよびアルコール型不動態化剤より容易に合成することができる。合成されたリン酸エステルは、多様な溶媒に容易に可溶であり、かつその金属試薬修飾表面との反応性を未だに保持している誘導体(例:四級アンモニウム誘導体など)に変換することができる。リン酸エステルの表面との反応は、広範な加熱あるいは表面上でのテールしたリン酸の自己構成を必要としない。
【0034】
金属試薬およびリン酸官能基不動態化試薬を使用すると、リン酸エステルに多様な高分子基を配合することにより、多様な表面型および特性の作成も可能となる。例えば、炭化水素、フッ化炭化水素、およびPEGアルコールのリン酸エステルは、金属試薬処理酸化物表面と接触させる前に混ぜ合わせ、特定の用途にとって望ましい特性を有する修飾表面を得ることも可能である。さらに、特定の官能基(例:ビオチンなど)を含有するリン酸エステルを用いて、他の分子(例:ストレプトアビジンなど)と結合するような表面を得ることも可能である。
【0035】
(1種類の多価不動態化剤による金属試薬修飾表面の処理)
一部の実施形態によると、上記のように金属試薬で処理した支持体の表面は、続いて不動態化部分、および表面上で共有結合を形成あるいは金属原子との錯体を形成することが可能な多数の官能基を含む多価不動態化剤で処理することができる。たとえば、多価不動態化剤は、酸化物表面と不動態化剤の間で遷移金属層を維持しながら、遷移金属酸化物表面上の一価の不動態化剤を置換することができる。多価不動態化剤による一価の不動態化剤の置換の模式図は、図6に例示される。この方法で、多価不動態化剤は不動態化表面に相当の加水分解安定性を付与することができる。
【0036】
多価不動態化剤の不動態化部分は:置換ポリエチレングリコール;非置換ポリエチレングリコール;炭化水素;置換炭化水素;フッ化炭化水素および置換フッ化炭化水素からなる群から選択される部分とすることができる。
【0037】
表面上の金属原子と反応性である、あるいは表面上の金属原子と錯体を形成する多数の官能基は、ヒドロキシル基、アミン基、リン酸基、ホスホン酸基、チオール基、アルキルリン酸基、カルボキシル基あるいはその組合せとすることができる。
【0038】
多価不動態化剤の一般式を以下に示す。
【0039】
【化3】

【0040】
(式中:RはH、アルキル、アリールあるいは官能基であり;Lはリンカー基あるいは共有結合であり;WおよびYはそれぞれ独立にO、NH、Sあるいはホスホン酸であり;各XおよびZは独立にH、リン酸、アルキルカルボキシあるいはアルキルリン酸であり;nは3から100であり;oは1〜8であり;pは0〜8であり;かつqは1〜3である。)上記の式に示すように、多価不動態化剤は非置換ポリエチレングリコールを不動態化部分として含む。非置換ポリエチレングリコール不動態化部分が描出されているものの、上記のような他の不動態化部分も使用することができる。
【0041】
ポリエチレングリコール不動態化部分および多数のヒドロキシル官能基を含む多価不動態化剤を合成する方法を以下に示す。
【0042】
【化4】



【0043】
上記の反応スキームに示すように、ポリエチレングリコール部分を含むアミノ官能基化合物を、3,4,5−トリヒドロキシ−6−(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ−2H−ピラン−2−オンと80℃で反応させて多価不動態化剤を形成することができる。この多価不動態化剤については、上記の一般式中の変数は次のように定義される:Rはメチルであり;nは11であり、sは1であり、qは1であり、MはC=Oであり、Nは−NH−C−C−NH−(C=O)−であり、oは4であり、WおよびYはOであり、XおよびZはHであり、かつpは1である。
【0044】
上記に説明されるように、上記の式のリンカーLをリンカー基とすることができる。典型的なリンカー基は式:−(C)−(C=O)−Q−R’−Q−(C=O)−(式中、各Qは独立に−O−あるいは−NH−であり、R’は脂肪族あるいは芳香族基であり、かつsは0から10までの整数である)で表される基を含むが、これに限定されない。
【0045】
上記の一般式に対応する典型的な多価試薬は以下の式で表される:
【0046】
【化5】

【0047】
一部の実施形態によると、多価試薬は以下の式で表すことができる:
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、nは正の整数である。)たとえば、nは3から100とすることができる。
【0050】
上記に説明されるような多価不動態化剤で処理した表面を有する固形支持体も提供される。一部の実施形態によれば:ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズの酸化物を含む酸化物層;酸化物層と結合した遷移金属、マグネシウムおよびアルミニウムからなる群から選択される金属原子;および置換ポリエチレングリコール、非置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素、および置換フッ化炭化水素からなる群から選択される不動態化部分を含み;該不動態化試薬が多数の部位で1つあるいはそれ以上の原子と共有結合、あるいは錯体形成する不動態化試薬を含む固形支持体が提供される。
【0051】
上記に説明されるように、金属エステルによって表面を修飾すると、非常に穏やかな条件の下で、多様な酸化物層への、非常に制御された、金属前駆体の非常に薄い層の沈着が可能となる。金属エステルは製造が容易であり、かつ使用前の精製を必要としない。金属エステル沈着後の多価不動態化剤の沈着の組合せの使用により、多様な表面型および特性を作成することができる。たとえば、最終表面修飾時に、異なる官能基を有する多価不動態化試薬で表面を処理することができる。
【0052】
(リン酸部分を含む多価不動態化剤の合成)
多価不動態化剤は、既知の化学合成技術を用いて容易に合成することができる。典型的な合成技術は、不動態化部分としてポリエチレングリコール、および支持体表面上の金属原子と結合することのできる多数のヒドロキシル官能基を含む多価不動態化剤について上記に記載されている。ポリエチレングリコール不動態化部分および多数のリン酸部分を含む多価不動態化剤を合成する方法を以下に示す。リン酸部分は支持体上の金属原子と錯体を形成することができる。
【0053】
(メチルPEG2000−酢酸の合成および精製)
該方法の第一段階は、メチルPEG2000−酢酸中間体の合成を含む。この中間体は以下に説明する手順によって合成することができる。
【0054】
【化7】

【0055】
この手順は以下に記述される。
1)メチル−PEG2000アルコール(100グラム、平均0.05モル)を、窒素下で無水ジクロロメタン(DCM)100mLに溶解し、NaOH(6g、0.15モル)を加え、氷上で冷却した。
2)ブロモ酢酸t−ブチルエステル(30g、0.15モル)を攪拌しながら少量ずつ加えた。最終混合物を室温で24時間振盪した(NaBr固形物の形成により攪拌は困難になった)。
3)遠心分離あるいはデカントによりNaBr沈殿を除去した。ロータバップで大半のDCMを除去。ヘキサンを加えて未反応のブロモ酢酸t−ブチルエステルを抽出。ヘキサンをデカントした後の半固形物を氷上で(濃)HClによりpH1.0に調節し、室温で一晩攪拌した。
4)生成物をDCMで3回抽出し(合計500mL)、塩水で洗い、無水NaSOで乾燥した。ロータバップで大半のDCMを除去。攪拌しながら冷ヘキサンを1滴ずつ加え、生成物を沈殿。
5)白色の固形生成物(85グラム)を捕集し、ヘキサンで洗い、真空下で乾燥し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)による質量分析(MS)によりポジティブおよびネガティブモードで特性決定した。収率は83%であった。
【0056】
(mPEG2K アセトアミド−トリス−アルコールの合成およびカラム精製)
次に、メチルPEG2K−酢酸中間反応生成物を、以下に説明するように、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオールと反応させて、多数のヒドロキシル基を含む第2の中間体(すなわちmPEG2Kアセトアミドートリスーアルコール)を形成することができる。
【0057】
【化8】

【0058】
この手順は以下に記述される。
1)メチルPEG2000−酢酸(12グラム、平均0.006モル)を、無水トルエン(DCM)およびアセトニトリルと3回ずつ共蒸発させ(各30mL)、無水ジクロロメタン(10mL)に再溶解した。トリエチルアミン(TEA)(0.75mL、0.006モル)を乾燥窒素下で加えた。ジサクシンイミジルカーボネート(DSC)(3グラム、0.012モル)を窒素下で攪拌しながら少量ずつ加えた。反応物を室温で4時間放置し、ロータバップで溶媒を除去した。無水ジオキサン(10mL)を加えて残渣を溶解し、溶液を飽和トリスヒドロキシメチルアミノメタン(トリス塩基)水溶液に激しく攪拌しながら1滴ずつ加えた。反応物を室温で2時間放置した後、DCMで3回抽出した(合計100mL)。DCM相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒の除去後に粗油状物を得た。
2)5%MeOH−DCMを充填したシリカゲル(100mL)カラムで残渣を精製し、5%MeOH−DCMで溶離した。MALDI−MSおよびプロトン核磁気共鳴スペクトル(HNMR)で画分12〜20を所望の生成物(9.5グラム)として同定した。収率は76%であった。
3)シリカTLCプレート上での10%MeOH−DCMにおける生成物のR値は約0.5であった。
【0059】
(メチルPEG2K アセトアミド−トリス−三リン酸の合成および精製)
次に、mPEG2000 アセトアミド−トリス−アルコール中間体を、以下に説明するようにビス(2−シアノエチル)ジイソプロピルホスホロアミダイトと反応させて多価不動態化剤を形成することができる。
【0060】
【化9】

【0061】
この手順は以下に記述される。
1)mPEG2K アセトアミド−トリス−アルコール(2.2グラム、1モル)を、無水トルエン(DCM)およびアセトニトリルとそれぞれ3回共蒸発させた(各30mL)。ビス(2−シアノエチル)ジイソプロピルホスホロアミダイト(FW=271.6、1.22g、4.5mモル)およびテトラゾール−アセトニトリル溶液(15mL、0.45M、6.75mモル)を窒素下で加えた。反応混合物を室温で3時間攪拌した。tert−ブチルヒドロペルオキシド(70%水溶液、6mL、45mモル)を加え、混合物を室温で2時間攪拌した。ロータバップで溶媒を除去した。残渣をDCMで3回抽出し、炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9)で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。10%メタノールDCM溶液の溶離液により、残渣をシリカゲルカラムで精製した。MSおよびHNMRにより、画分15〜20を所望の生成物と同定した。
2)シリカTLCプレート上での10%MeOH−DCMにおける生成物のR値は0.55であった。
3)精製したホスホン酸エステルをNH.HO(5mL)に入れ、室温で一晩インキュベートした。真空下でアンモニアを除去し、水に再溶解し、セファデックスDEAB A−25カラム(2M重炭酸カリウムで平衡化し、水でよく洗った)で精製した。リン酸を2M酢酸トリエチルアミン緩衝液で溶離させた。繰り返し真空下で水と共蒸発させることにより緩衝液を除去し、MALDI−MS、プロトンNMRおよびホスホロNMRで生成物(1.7グラム)を特性決定した。収率は70%であった。
【0062】
(メチルPEG−350アセトアミド−トリス−三リン酸の合成と精製)
メチルPEG−2Kアセトアミド−トリス−三リン酸合成の同じ手順に従い、出発原料メチルPEG350アルコール(平均分子量350)を用いて、メチルPEG−350アセトアミド−トリス−三リン酸を合成した。
【0063】
(実験)
本教示の態様は、以下の実施例に鑑みてさらに理解することができるが、これらは決して本教示の範囲を制限すると理解してはならない。
【0064】
(金属試薬およびTEGリン酸により処理された表面)
表面上で以下の操作を実施した後の、タンタルPEG−エステル修飾二酸化ケイ素表面についてのXPSデータを下記の表に示す:
酢酸エチル中で、エチルアルコキシドをPEG550で交換することによってそのPEG550(モノメチルエーテル)エステルに変換した15mMタンタル(5)溶液により、石英カバーグラスを温度77℃で16時間処理;
続いて、20mM(モノメチル)一リン酸(TEGリン酸)テトラエチレングリコール・テトラ(n−ブチル)アンモニウム塩トルエン溶液により、110℃で4日間処理。
【0065】
【表1】

【0066】
表面上で以下の操作を実施した後のチタンPEG−エステル修飾二酸化ケイ素表面についてのXPSデータを下記の表に示す:
ジクロロメタン溶媒中で、エチルアルコキシドをPEG550で交換することによってそのPEG550(モノメチルエーテル)エステルに変換した0.0002mMチタン(4)溶液により、石英カバーグラスをジクロロメタン還流で18時間処理;
続いて、0.005mM(モノメチル)一リン酸テトラエチレングリコール・テトラ(n−ブチル)アンモニウム塩のジクロロメタン溶媒溶液により、ジクロロメタン還流で24時間間処理。
【0067】
【表2】

【0068】
蛍光標識生体分子でインキュベートした後に、表面からの蛍光を測定することにより、これらの修飾表面への生体分子の吸収を試験した。
【0069】
図7A〜7EはTaPEG550/TEGリン酸修飾表面を有するカバーグラスの共焦点蛍光撮影の結果を示すプロットである。プロットは100×100μm画像の画素におけるカウント率のヒストグラムである。図7Aは、何らかの色素を添加する前の、2.5kHz付近でのバックグラウンド蛍光シグナルピークを示す。図7Bおよび7Cは、1nM A488溶液を添加するときカウント率ヒストグラムピークが70kHzにシフトし、かつ色素を除去したときバックグランドに近いシグナルレベルに再度低下することを示す。図7Dに示すように、これは同じ100×100μm領域において1nM R110溶液でも繰り返される。この場合も、R110をカバーグラスより取り除くとき、蛍光シグナルはバックグラウンドレベルに戻ることが結果より示される(図7E)。これらの結果より、ローダミン色素A488およびR110は修飾表面と非特異的に結合しないことが立証される。
【0070】
図8A〜8Cは、修飾表面がsulfo−Liz dCTPのカバーグラスとの非特異的結合を防止することを立証する、sulfo−Liz dCを用いたTPTaPEG550(リン酸なし)修飾表面の同様のカウント率ヒストグラムを示すプロットである。これは、高濃度のsulfo−Liz dCTP溶液を表面に添加(図8B)および除去(図8C)したときにも認められる。ここでも、これらの結果よりsulfo−Liz dCTPが修飾表面と非特異的に結合しないことが立証される。
【0071】
図9A〜9Cは、TaPEG550およびsilanePEG表面修飾カバーグラスと接触させた、上記のローダミン色素およびsulfoLiz dCTPの希釈溶液の蛍光相関分光分析(FCS)より得られた相関曲線の比較を例示する。相関曲線の減衰率は、溶液中の遊離色素の拡散速度に関する情報を提供する。したがって、色素が表面に接着する場合、相関曲線はより緩やかに減衰する。図9Aは、比較のための、表面の接着性色素を示す長いラグタイム(例:10m秒など)でのテールを示す相関曲線の例である。図9Aのためのデータは、還流トルエンよりPEGsilaneを沈着した、従来法で調製した5%PEGsilane修飾カバーグラス上の0.1nM Liz−dGTPより得られた。
【0072】
図9Bは、修飾表面上で拡散するA488およびR110希釈溶液から得られた相関曲線を示すプロットである。このプロットは、比較のために、既知の非接着性表面上で自由拡散するA488についての相関曲線も示す。sulfo−Liz dCTPの希釈溶液を用いたFCS実験も実施し、その結果を図9Cに示した。このプロットは、修飾カバーグラス上の異なる位置における3つの異なるFCS測定値より生成した。同時に、これらのFCSの結果および上記の蛍光撮影の結果より、石英ガラス基板上のTaPEG550修飾表面は、A488、R110、およびsulfo−Liz dCTPと非特異的に結合しないことが立証された。
【0073】
(複数の多価不動態化剤による金属試薬修飾表面の処理)
石英の表面をTa(モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理して修飾表面を形成した。次に、修飾表面を以下の構造を有する多価不動態化剤のエタノール溶液で処理した:
【0074】
【化10】

【0075】
(ペンタ(ヒドロキシル)−モノメチルPEG550と命名された。)結果を図10A〜10Dに示す。
【0076】
図10Aは、Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した石英表面上における、1nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。図10Bは、Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した、トリス緩衝液中で4時間インキュベートした後の、1nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。図10Cは、Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した表面上における、100nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。図10Dは、Ta(モノメチル−PEG550で処理した後ペンタ(ヒドロキシル)モノメチル−PEG550エタノール溶液で処理した石英表面上における、トリス緩衝液中で表面を4時間インキュベートした後の、100nm蛍光LIZ色素溶液の非特異的結合のデータを示す。図10A〜10Dより見て取れるように、緩衝液の存在下に4時間あった後でも、多価不動態化剤による処理によって、Liz蛍光色素の100nM水溶液の非特異的吸着を防止する表面が得られる。
【0077】
対照的に、図11A〜11Cに示すように、多価不動態化剤で処理していないTa(モノメチル−PEG550処理石英スライド上では、1nMの蛍光Liz色素(図11A)および100nMの蛍光Liz色素(図11B)の若干の接着が認められた。4時間緩衝液の存在下にあった後では、広範な接着が認められた(図11C)。
【0078】
多価不動態化剤(すなわちポリ(ヒドロキシル)−モノメチル−PEG)による処理後のTa表面の完全性は、以下に示す、ポリ(ヒドロキシル)−モノメチル−PEG修飾の前後の修飾石英表面のXPSによって立証される。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
図12Aおよび12Bは、DNA伸長緩衝液中でのインキュベーションの前(図12A)および後(図12B)に、TaPEG550で処理した後PEG350で処理した石英ガラス表面を示す。PEG350三リン酸は以下に説明されるような化学構造を有する:
【0082】
【化11】

【0083】
(式中nはポリエチレングリコール部分が平均分子量約350を有するような値である)。処理表面を100nM Liz−dATPでインキュベートした後、水ですすいで表面に接着していない色素を全て除去した。図12Bより見て取れるように、100nM LIZ−dATPは、処理スライドをDNA伸長緩衝液でインキュベートした後でも、修飾表面に対して最小限の吸着を示した。
【0084】
前述の明細書は、例示を目的として提供された実施例により本発明の原理を教示するが、本開示を読むことにより、本発明の真の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における多様な変更を行うことができることが、当業者によって理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の表面を修飾する方法であって、前記方法が:
前記表面がヒドロキシルおよび/あるいはオキシド陰イオン基を含む、前記表面と金属試薬を接触させること;および
前記表面上で前記金属試薬とヒドロキシルおよび/あるいはオキシド陰イオン基を反応させて修飾表面を形成することを含み;
前記金属試薬が以下の式:Y(L−Pol)m
(式中:
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり、
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し、かつ、mは整数である)で表される構造を有する方法。
【請求項2】
以下の式(I)、式(II)、あるいは式(III)の化合物:
【化1】

(式中:
XはO、Nあるいはメチレン基であり;
はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し;かつ
はN(R、あるいはMであり、MはLi、Na、KあるいはCsでありかつRはアルキル基である)を含む不動態化組成物と前記修飾表面を接触させることを含む、請求項1に記載の前記方法。
【請求項3】
前記不動態化組成物が前記式(II)の化合物あるいは前記式(III)の化合物を含む、請求項2に記載の前記方法。
【請求項4】
がアルキル基でありRがN(Rである、請求項3に記載の前記方法。
【請求項5】
前処理することが前記支持体の前記表面を酸素プラズマで処理するかあるいは前記支持体の前記表面を水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化カリウムメタノール溶液、過酸化水素硫酸溶液、硝酸硫酸溶液、過酸化水素アンモニア溶液、硫酸、フッ化水素酸、EDTA、あるいはその組合せと接触させることを含む、前記支持体の前記表面を前記金属試薬と接触させる前に前記支持体の前記表面を前処理することをさらに含む、請求項1に記載の前記方法。
【請求項6】
前記支持体の前記表面が塩基と接触しかつ前記塩基が水酸化テトラブチルアンモニウムである、請求項5に記載の前記方法。
【請求項7】
前記支持体が金属酸化物を含む、請求項1に記載の前記方法。
【請求項8】
前記支持体がケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズの酸化物を含む、請求項1に記載の前記方法。
【請求項9】
少なくとも1つの「Pol」基がポリエチレングリコールあるいは置換ポリエチレングリコールである、請求項1に記載の前記方法。
【請求項10】
少なくとも1つの「Pol」基がビオチン部分を含むポリエチレングリコールである、請求項9に記載の前記方法。
【請求項11】
前記不動態化組成物が第1のR基を有する前記式(I)、(II)、あるいは(III)の第1のリン酸化合物および第2のR基を有する前記式(I)、(II)、あるいは(III)の第2のリン酸化合物を含みかつ前記第1のR基が前記第2のR基と異なる、請求項2に記載の前記方法。
【請求項12】
がポリエチレングリコールあるいは置換ポリエチレングリコールである、請求項2に記載の前記方法。
【請求項13】
請求項1に記載の前記方法で製造される支持体。
【請求項14】
請求項2に記載の前記方法で製造される支持体。
【請求項15】
以下の式(I)、式(II)、あるいは式(III):
【化2】

(式中:
XはO、Nあるいはメチレン基であり;
はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素であり;かつ
はN(R、あるいはMであり、MはLi、Na、KあるいはCsでありかつRはアルキル基である)の化合物。
【請求項16】
前記化合物が前記式(II)の化合物あるいは前記式(III)の化合物である、請求項15に記載の前記化合物。
【請求項17】
がN(Rである、請求項16に記載の前記化合物。
【請求項18】
がブチル基である、請求項17に記載の前記化合物。
【請求項19】
がポリエチレングリコールあるいは置換ポリエチレングリコールである、請求項15に記載の前記化合物。
【請求項20】
請求項15に記載の前記化合物を含む組成物。
【請求項21】
前記組成物が前記式(I)、(II)、あるいは(III)の第1のリン酸化合物および前記第1のリン酸化合物と異なる前記式(I)、(II)、あるいは(III)の第2のリン酸化合物を含む、請求項20に記載の前記組成物。
【請求項22】
式: Y(L−Pol)m
(式中Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり、
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し、かつ、mは整数である)の化合物。
【請求項23】
YがTa、Ti、Nb、ZrおよびAlからなる群から選択される、請求項22に記載の前記化合物。
【請求項24】
請求項22に記載の前記化合物を含む組成物。
【請求項25】
式:Y(OR)mの第1の化合物を1つあるいはそれ以上の式:Pol−LHの第2の化合物と反応させて式:Y(L−Pol)m
(式中:
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、
はC〜C炭化水素であり、
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであり、
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し、かつ、mは整数である)の金属エステル化合物を形成することを含む方法。
【請求項26】
前記の1つあるいはそれ以上の第2の化合物を前記第1の化合物と少なくともm:1のモル比で反応させる、請求項25に記載の前記方法。
【請求項27】
ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズの酸化物を含む酸化物層;および
部分が以下の式(I)あるいは式(II):
【化3】

(式中:
XはO、Nあるいはメチレン基であり;
Yは遷移金属、マグネシウムあるいはアルミニウムであり、
Lは酸素、イオウ、セレニウムあるいはアミンであるかあるいはLは金属錯体化剤であり;
各「Pol」基は独立してポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し、
はポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素を表し;かつ
mは整数である)で説明されるような構造を有する、前記酸化物層の表面上の前記部分を含み;かつ、前記酸素原子が前記酸化物層中の同じあるいは異なるケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズ原子と結合する固形支持体。
【請求項28】
YがTa、Ti、Nb、ZrおよびAlからなる群から選択される、請求項27に記載の支持体。
【請求項29】
金属錯体化剤がカルボン酸エステル、ドーパミンおよびアナセリンからなる群から選択され;かつ
不動態化剤がポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素からなる群から選択される、前記不動態化剤とコンジュゲートした前記金属錯体化剤を含む化合物。
【請求項30】
金属錯体化剤がカルボン酸エステル、ドーパミンおよびアナセリンからなる群から選択され;かつ
不動態化剤がポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素あるいは置換フッ化炭化水素からなる群から選択される、前記不動態化剤とコンジュゲートした前記金属錯体化剤を含む不動態化組成物と前記修飾表面を接触させることをさらに含む、請求項1に記載の前記方法。
【請求項31】
Lがカルボン酸エステル、ドーパミンおよびアナセリンからなる群から選択される金属錯体化剤である、請求項27に記載の前記固形支持体。
【請求項32】
不動態化部分が置換ポリエチレングリコール、非置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素、および置換フッ化炭化水素からなる群から選択され、前記不動態化部分およびYと反応性であるかあるいはYと錯体形成する多数の官能基を含む多価試薬と前記修飾表面を接触させることをさらに含む、請求項1に記載の前記方法。
【請求項33】
Yと反応性であるかあるいはYと錯体形成する前記多数の官能基が:ヒドロキシル基、アミン基、リン酸基、ホスホン酸基、チオール基、アルキルリン酸基、カルボキシル基およびその組合せからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記多価試薬が以下の式:
【化4】

(式中:
RはH、アルキル、アリールあるいは官能基であり;
Lはリンカー基あるいは共有結合であり;
WおよびYがそれぞれ独立にO、NH、Sあるいはリン酸であり;
XおよびZがそれぞれ独立にH、リン酸、アルキルカルボキシあるいはアルキルリン酸であり;
nが3から100であり;
oが1〜8であり;
pが0〜8であり;かつ
qが1〜3である)で表される、請求項32に記載の前記方法。
【請求項35】
前記リンカーLが式:−(C)−(C=O)−Q−R’−Q−(C=O)−(式中、各Qは独立に−O−あるいは−NH−であり、R’は脂肪族あるいは芳香族基であり、かつsは0から10までの整数である)で表される、請求項34に記載の前記方法。
【請求項36】
前記多価試薬が以下の式:
【化5】

(式中、nは正の整数である)で表される、請求項32に記載の前記方法。
【請求項37】
前記多価試薬が以下の式:
【化6】

(式中、nは正の整数である)で表される、請求項32に記載の前記方法。
【請求項38】
請求項32に記載の前記方法で製造される支持体。
【請求項39】
ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、マグネシウムあるいはスズの酸化物を含む酸化物層;
酸化物層と結合した遷移金属、マグネシウムおよびアルミニウムからなる群から選択される金属原子;
置換ポリエチレングリコール、非置換ポリエチレングリコール、炭化水素、置換炭化水素、フッ化炭化水素および置換フッ化炭化水素からなる群から選択される不動態化部分を含む不動態化剤を含み;
前記不動態化試薬が多数の部位で1つあるいはそれ以上の金属原子と共有結合あるいは錯体形成する固形支持体。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−510247(P2010−510247A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537418(P2009−537418)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/085347
【国際公開番号】WO2008/064291
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(500069057)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】