説明

酸化物磁性材料の製造方法

【目的】 低温焼結性に優れた酸化物磁性材料の製造方法を提供すること。
【構成】 Ni,Cu,Zn,Feの酸化物を主成分として含有するスピネル型フェライト焼結体を水を分散媒として原料粉末の混合処理し,粉末冶金法にて製造する方法において,水に添加剤としてカルボン酸ナトリウム塩を粉末重量に対して0.01〜5.0wt%添加し,900℃以下の低温で焼結する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,低温焼結が可能な酸化物軟磁性材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に,種々の酸化物を主成分として含有するスピネル型フェライト焼結体では,まず原料粉末である酸化鉄,酸化ニッケル等の酸化物粉末の混合処理が行われる。この混合処理では,原料粉末を分散媒に分散し,ボールミル等の混合機を用いて混合する湿式混合が広く行われている。従来,この混合処理における分散媒には,純水が広く用いられていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記混合処理における分散媒としての純水は,酸化物粉末に対して,高い分散性を示さないことが本発明等の検討の結果明かとなっている。このような分散性の低い分散媒中では,原料粉末は同種の粉末粒子同志が凝集し,個々の粒子が独立して移動することができなくなる。従って,原料の混合処理において純水を分散媒に用いた場合,混合機の種類や混合時間などの混合条件によらず,複数の原料粉末の粉末粒子レベルでの均一な混合は得られないのが現状である。ところで,低温焼結を要求されない焼結体(焼結温度950℃以上)の場合には,焼結による原子の拡散距離が大きいため,純水を分散媒に用いた場合に見られるような混合不均一の状態でも,必要とする焼結密度が得られる。しかし,低温焼結酸化物磁性材料では,焼結による大きな原子の拡散が期待できないため,原料粉末の粉末粒子レベルでの混合の均一性が大きく影響し,上記のような混合不均一の状態では,必要とする低温焼結性が得られないという致命的な問題点があった。
【0004】ここで,酸化物磁性材料の低温焼結性の必要性について述べる。
【0005】近年,小型軽量な表面実装型のインダクタンス素子が要求されている。このような表面実装用部品の製造法の一つに,各構成材料の粉末を分散したスラリーを使用し,印刷等の方法によって,各回路を構成した成形体を焼結して,インダクタンス素子を形成する手法がある。この場合,電気の導体部と磁性フェライト部が独立して形成される必要がある。つまり,焼結温度に対して,導体部は焼結しており,かつ破断せず,更にフェライト材料への拡散が抑制されていなければならない。
【0006】従来のフェライト粉末成形体の焼結温度は1050〜1400℃であったため,導体部材料としては,Ag−Pd合金が有効と判断できる。しかしながら,Pdは極めて高価であり,また電気抵抗を増大させるため,Pdの使用は減少させることが望ましい。従って,Agのみで導体部を構成することができれば,工業上極めて有用となる。Ag単独で導体を焼結によって構成するには,フェライト材の焼結温度を900℃以下とする必要がある。この時のフェライト材の焼結状態は,素子の特性(インダクタンス,インピーダンス等)が環境によって変化することは好ましくないので,吸水性のない状態となることが好ましい。この吸水性については,焼結体の密度diとそのフェライト材のX線密度dx(X線回折より求めた格子定数とフェライト元素の構成組成より求めた密度。空孔が零の状態に相当)との比が,90%以上では,非吸水性となることを本発明者等は確認している。
【0007】そこで,本発明の技術的課題は,低温焼結性に優れた酸化物磁性材料の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば,Ni,Cu,Zn,Feの酸化物を主成分として含有するスピネル型フェライト焼結体を,水を分散媒として原料粉末の混合処理し,粉末冶金法にて製造する方法において,前記水に添加剤としてカルボン酸ナトリウム塩を粉末重量に対して0.01〜5.0wt%添加し,低温焼結することを特徴とする酸化物磁性材料の製造方法が得られる。
【0009】ここで,本発明において,カルボン酸ナトリウム塩の添加量を粉末重量に対して0.01〜5.0wt%と限定したのは,0.01wt%より少ない範囲においては,高い比透磁率μ,密度比di/dx=90%以上が得られず,また,添加量が5.0wt%を超える場合には,原料混合の後の予焼工程において,粉末中に残留するカルボン酸ナトリウム塩が炉を著しく汚染し,工業上の不利益となるためである。
【0010】尚,本発明において,低温焼結とは900℃以下の温度で焼結することを呼ぶ。
【0011】
【作用】本発明において,水を分散媒とした原料粉末の混合処理における添加剤としてカルボン酸ナトリウム塩を粉末重量に対して0.01〜5.0wt%添加することにより,著しく均一性の高い原料の混合状態が得られる。
【0012】
【実施例】以下,本発明の実施例について,図面を参照して説明する。
【0013】化学組成比が28(Ni0.7・Cu0.3)O・25ZnO・47Fe2 3 として,酸化鉄(α−Fe2 3 )と酸化ニッケル(NiO)と酸化第二銅(CuO)および酸化亜鉛(ZnO)を原料として用意した。
【0014】分散媒として,純水を用意し,これに添加剤としてカルボン酸ナトリウム塩を粉末重量の0〜10wt%を加えた。添加剤が溶解したところで,上記組成の原料粉末を必要重量加え,これをボールミルを用いて20時間湿式混合した。次にこれら混合した原料粉末を800℃で大気中で2時間仮焼した後,ボールミルにて3時間湿式粉砕し,成形用粉末とした。
【0015】次に,上記成形用粉末にポリビニルアルコール(PVA)を1wt%湿式混合した後,成形圧1トン/cm2 で,外径約20mm,内径約12mm,高さ約8mmの成形体となるように,金型を使用して圧縮成形した。次に,これら成形体を,大気中,徐熱炉冷にて,900℃で2時間保持し,焼結を行った。
【0016】次に,これらの焼結体に直径0.26mmの絶縁被覆銅線を10回巻線した後,YHP製インピーダンスアナライザーを用いて,100kHzでの比透磁率μを測定した。また,焼結体の密度比di/dxは,焼結体の密度diをアルキメデス法で測定し,一方dxをX線回折より求めた格子定数とフェライトの原子比より算出した値(X線密度)より求めた。
【0017】図1は,水を分散媒とした原料混合において,添加するカルボン酸ナトリウム塩の添加量を0〜10wt%まで変えた場合の,比透磁率μ,密度比di/dxを示す図である。この図より,カルボン酸ナトリウム塩の添加量が0.01wt%以上の範囲で,高い比透磁率μ,密度比di/dx=90%以上が得られ,低温焼結特性の極めて優れた軟磁性酸化物磁性材料を得ることができることが分かる。
【0018】また,カルボン酸ナトリウム塩の添加量が5.0wt%を超える場合には,原料混合の後の予焼工程において,粉末中に残留するカルボン酸ナトリウム塩が炉を著しく汚染し,工業上の不利益となるため,不適当である。
【0019】また,本発明の実施例では,化学組成比を28(Ni0.7・Cu0.3)O・25ZnO・47Fe2 3 としたが,これ以外の組成比でも同様なカルボン酸ナトリウム塩の添加の効果が得られる。また,Ni,Cu,Zn,Feを主成分として含有していれば,他の元素を含有したとしても,同様な効果が得られる。更に,本発明の実施例では,原料混合にボールミルを用いたが,これ以外の混合手段であっても,同様な効果が得られる。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように,本発明では,水を分散媒としたフェライト材料の原料混合において添加剤としてカルボン酸ナトリウム塩を粉末重量に対して0.01〜5.0wt%添加することによって,低温での焼結性に極めて優れた酸化物磁性材料を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において,水を分散媒とした原料混合において,添加するカルボン酸ナトリウム塩の添加量を変えた場合の,焼結体の比透磁率μ,密度比di/dxを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Ni,Cu,Zn,Feの酸化物を主成分として含有するスピネル型フェライト焼結体を,水を分散媒として原料粉末の混合処理し,粉末冶金法にて製造する方法において,前記水に添加剤としてカルボン酸ナトリウム塩を粉末重量に対して0.01〜5.0wt%添加し,低温焼結することを特徴とする酸化物磁性材料の製造方法。

【図1】
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