説明

酸化被膜除去試験装置

【課題】スケール(酸化被膜)の除去にかかる経時的な変化を連続的に確認することが非常に簡単にできる酸化被膜除去試験装置を提供する。
【解決手段】金属の表面に酸化被膜を形成されたテストピース1の表面に酸液3を流通させて酸化被膜の除去能力を試験する酸化被膜除去試験装置10であって、テストピース1の表面に酸液2を流通させると共にテストピース1の表面を目視可能な覗き窓14を有する流通路11〜16等を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面に酸化被膜を形成されたテストピースの表面に酸液を流通させて当該酸化被膜の除去能力を試験する酸化被膜除去試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を空気雰囲気で高温に加熱すると、当該金属の表面が酸化して表面に酸化被膜(スケール)が生成してしまう。このため、空気雰囲気で熱間加工や熱処理等を施された鋼帯は、酸液を内部に蓄えた酸洗槽内を走行させることにより、スケールを除去する酸洗処理が行われている。この酸洗処理においては、鋼帯の材質や加熱温度等の各種条件によって、生成するスケールの種類や厚さ等が大きく異なるため、当該スケールを確実に除去できる条件を予め試験して求めておくようにしている。
【0003】
このようなスケールを除去する条件を予め求める従来の試験装置としては、例えば、下記特許文献1等に記載されているように、酸液が満たされた酸洗槽内にテストピースを入れ、当該酸液をヒータで加熱保温すると共に、円板を回転させて当該酸液に液流を生じさせることにより、当該酸液と上記テストピースとの間に相対速度差を生じさせることにより、実機の場合と同様な酸洗状態で試験できるようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−081179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1等で提案されている従来の試験装置において、スケールの除去にかかる経時的な変化を連続的に確認するには、上記試験を各種時間毎に行った後、それらの各テストピースのスケールの状態をそれぞれ観察しなければならなかったため、非常に手間がかかっていた。
【0006】
このようなことから、本発明は、スケール(酸化被膜)の除去にかかる経時的な変化を連続的に確認することが非常に簡単にできる酸化被膜除去試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決するための、第一番目の発明に係る酸化被膜除去試験装置は、金属の表面に酸化被膜を形成されたテストピースの表面に酸液を流通させて当該酸化被膜の除去能力を試験する酸化被膜除去試験装置であって、前記テストピースの表面に前記酸液を流通させると共に当該テストピースの表面を目視可能な覗き窓を有する流通路を備えていることを特徴とする。
【0008】
第二番目の発明に係る酸化被膜除去試験装置は、第一番目の発明において、前記テストピースの表面に対して前記液を鉛直方向に沿って接触させるように前記流通路が鉛直方向に沿って設けられていることを特徴とする。
【0009】
第三番目の発明に係る酸化被膜除去試験装置は、第二番目の発明において、前記流通路に下方から上方へ向けて前処理液を流通させる前処理液送給手段と、前記流通路に下方から上方へ向けて前記酸液を流通させる酸液送給手段と、前記流通路に下方から上方へ向けて後処理液を流通させる後処理液送給手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る酸化被膜除去試験装置によれば、流通路の覗き窓からテストピースの表面を目視することができるので、酸化被膜の除去にかかる経時的な変化を連続的に確認することが非常に簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る酸化被膜除去試験装置の主な実施形態の概略構成図である。
【図2】図1のII−II線断面矢線視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る酸化被膜除去試験装置の実施形態を図面に基づいて以下に説明するが、本発明は図面に基づいて説明する実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
[主な実施形態]
本発明に係る酸化被膜除去試験装置の主な実施形態を図1,2に基づいて説明する。
【0014】
図1,2に示すように、鉛直方向に立設されたベースコラム11の正面には、切欠溝11aが鉛直方向に沿って形成されている。このベースコラム11の正面の上記切欠溝11aの上方寄りの水平方向中央部分には、ホルダ穴11bが形成されている。このホルダ穴11b内には、テストピース1を保持するホルダ12が着脱可能に配設されている。
【0015】
前記ベースコラム11の前記切欠溝11aには、取付板13が着脱可能に取り付けられている。この取付板13の前記ベースコラム11との対面側の水平方向中央部分には、流路溝13aが鉛直方向に沿って形成されている。この取付板13の正面の上方寄りの水平方向中央部分には、前記流路溝13aと連通する覗き穴13bが前記ベースコラム11の前記ホルダ穴11bと対向するようにして形成されている。
【0016】
前記取付板13の前記覗き穴13b内には、透明なガラス板からなる覗き窓14が当該覗き穴13bと前記流路溝13aとを仕切るようにして配設されている。上記取付板13の上記覗き穴13bには、当該覗き穴13bに上記覗き窓14を固定する枠型の押さえフレーム15が着脱可能に取り付けられている。前記覗き窓14の正面には、移動ステージ25aに支承されたマイクロスコープ等の記録手段である撮影装置25が前記取付板13の前記流路溝13aと対向するようにして配設されている。
【0017】
前記ベースコラム11の前記ホルダ穴11bと背面との間には、前記ホルダ12を前記取付板13へ押え付ける押さえボルト16が螺合している。前記ベースコラム11の下方寄りの水平方向中央部分には、前記取付板13の前記流路溝13aの下端側と当該ベースコラム11の背面との間を連通する連通穴11cが形成されている。前記ベースコラム11の上方寄りの水平方向中央部分には、前記取付板13の前記流路溝13aの上端側と当該ベースコラム11の背面との間を連通する連通穴11dが形成されている。前記ベースコラム11の上端面と前記連通穴11dとの間には、当該間を連通する逃がし穴11eが形成されている。
【0018】
前記ベースコラム11の前記連通穴11cには、防護パン17の内側に配設された複数(本実施形態では3つ)の貯液槽18A〜18Cの下方がマグネットポンプ21A〜21C及びボールバルブ22A〜22Cを有する供給ラインを介してそれぞれ連結されている。前記ベースコラム11の前記連通穴11dは、ボールバルブ23A〜23C及びストレーナ19A〜19Cを有する回収ラインを介して前記貯液槽18A〜18Cの上方にそれぞれ連絡している。前記供給ラインの前記ボールバルブ22A〜22Cの下流側口近傍と前記回収ラインの前記ボールバルブ23A〜23Cの上流側口近傍との間は、ボールバルブ24A〜24Cを有する各バイパスラインを介してそれぞれ連結されている。上記貯液槽18A〜18Cには、当該貯液槽18A〜18Cの内部を所定の温度に加熱保温するヒータ20A〜20Cがそれぞれ設けられている。
【0019】
また、前記取付板13の前記流路溝13aは、前記ベースコラム11の前記連通穴11cとの連通部分と、前記ホルダ12に保持された前記テストピース1の下端との間の長さCが、以下の式(1),(2)の関係を満たす大きさとなっている。
【0020】
C>5de (1)
de=4S/L (2)
ただし、deは前記流路溝13aの水力直径(前記流路溝13aの断面の相当直径)、Sは前記流路溝13aの流れ方向と直角な方向の断面積、Lは前記流路溝13aの濡れ縁長さ(流体が前記流路溝13aで流れ方向に接する長さ)である。
【0021】
なお、本実施形態においては、前記ベースコラム11、前記ホルダ12、前記取付板13、前記覗き窓14、前記押さえフレーム15、前記押さえボルト16等により、流通路を構成し、前記貯液槽18A、前記ストレーナ19A、前記ヒータ20A、前記マグネットポンプ21A、前記ボールバルブ22A〜24A等により、前処理液送給手段を構成し、前記貯液槽18B、前記ストレーナ19B、前記ヒータ20B、前記マグネットポンプ21B、前記ボールバルブ22B〜24B等により、酸液送給手段を構成し、前記貯液槽18C、前記ストレーナ19C、前記ヒータ20C、前記マグネットポンプ21C、前記ボールバルブ22C〜24C等により、後処理液送給手段を構成している。
【0022】
このような本実施形態に係る酸化被膜除去試験装置10を使用した酸化被膜除去試験方法の一例を次に説明する。
【0023】
まず、テストピース1を前記ホルダ12に取り付けた後、前記取付板13を前記ベースコラム11の前記切欠溝11a内に取り付けてから、前記押さえボルト16を調整して前記ホルダ12を前記取付板13に向けて押し付けることにより、前記テストピース1を当該ホルダ12と当該取付板13との間で確実に挟持する。
【0024】
続いて、前記覗き窓14を前記取付板13の前記覗き穴13b内に嵌め込んだ後、当該取付板13の当該覗き穴13bに前記押さえフレーム15を嵌め込んで、当該覗き窓14を当該取付板13の当該覗き穴13bに固定する。
【0025】
次に、前記貯液槽18Aに前処理液である温調水2を入れると共に、前記貯液槽18Bに塩酸水溶液や硫酸水溶液等の規定濃度の酸液3を入れ、さらに、前記貯液槽18Cに後処理液である規定組成のリンス液4を入れた後、前記ヒータ20A〜20Cを作動させることにより、上記液1〜3をそれぞれ規定の温度に加熱したら、前記マグネットポンプ21Aを作動すると共に前記ボールバルブ22A,23Aを開放する一方、前記ボールバルブ24Aを閉鎖すると、上記温調水2が前記ベースコラム11の前記連通穴11cを介して前記取付板13の前記流路溝13a内を下方から上方へ向って流通して前記テストピース1等を規定の温度に予熱した後、前記連通穴11dを介して前記貯液槽18Aに回収されて再び利用される。
【0026】
このようにして前記テストピース1等が規定の温度に予熱されたら、前記ボールバルブ22Aを閉鎖すると共に前記マグネットポンプ21Aの作動を停止する一方、前記ボールバルブ24Aを開放することにより、前記取付板13の前記流路溝13a内の前記温調水2を前記貯液槽18A内に回収した後、前記ボールバルブ23A,24Aを閉鎖する。
【0027】
続いて、前記撮影装置25を作動して撮影を開始し、前記マグネットポンプ21Bを作動すると共に前記ボールバルブ22B,23Bを開放する一方、前記ボールバルブ24Bを閉鎖すると、上記酸液3が前記ベースコラム11の前記連通穴11cを介して前記取付板13の前記流路溝13a内を下方から上方へ向かって流通して前記テストピース1の表面に接触し、当該テストピース1の表面を酸洗処理した後、前記連通穴11dを介して前記貯液槽18Bに回収されて再び利用される。
【0028】
これにより、前記テストピース1の表面は、前記酸液3で酸洗されている状態を前記撮影装置25により前記取付板13の前記覗き穴13bから前記覗き窓14を通じて撮影され、酸化被膜(スケール)の除去にかかる経時的な変化を連続的に記録することができる。
【0029】
このようにして前記テストピース1の表面を規定時間酸洗処理したら、前記ボールバルブ22Bを閉鎖すると共に前記マグネットポンプ21Bの作動を停止する一方、前記ボールバルブ24Bを開放することにより、前記取付板13の前記流路溝13a内の前記酸液3を前記貯液槽18Bに回収した後、前記ボールバルブ23B,24Bを閉鎖する。
【0030】
続いて、前記マグネットポンプ21Cを作動すると共に前記ボールバルブ22C,23Cを開放する一方、前記ボールバルブ24Cを閉鎖すると、上記リンス液4が前記ベースコラム11の前記連通穴11cを介して前記取付板13の前記流路溝13a内を下方から上方へ向かって流通して前記テストピース1の表面をリンス処理(後処理)した後、前記連通穴11dを介して前記貯液槽18Cに回収されて再び利用される。
【0031】
このようにして前記テストピース1の表面のリンス処理を規定時間行ったら、前記撮影装置25の作動を停止して撮影を終え、前記ボールバルブ22Cを閉鎖すると共に前記マグネットポンプ21Cの作動を停止する一方、前記ボールバルブ24Cを開放することにより、前記取付板13の前記流路溝13a内の前記リンス液4を前記貯液槽18Cに回収した後、前記ボールバルブ23C,24Cを閉鎖する。
【0032】
そして、前記押さえフレーム15を前記取付板13から取り外して前記覗き窓14を当該取付板13の前記覗き穴13bから取り外すと共に、前記押さえボルト16を調整して前記ホルダ12を当該取付板13から引き離した後、当該取付板13を前記ベースコラム11から取り外して、上記ホルダ12から前記テストピース1を取り外すことにより、酸化被膜除去試験を終了する。
【0033】
したがって、本実施形態に係る酸化被膜除去試験装置10によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0034】
(1)テストピース1の表面を目視可能な覗き窓14を設けたので、スケールの除去にかかる経時的な変化を連続的に確認することが非常に簡単にできる。
【0035】
(2)取付板13の流路溝13aを鉛直方向に沿って設けて、テストピース1の表面に対して前記液2〜4を鉛直方向に沿って下方から上方へ向けて接触させるように流通させるようにしたので、当該流路溝13a内に気泡が発生しても、当該気泡をベースコラム11の逃がし穴11eから外部へ容易に抜き出すことができ、試験精度の向上を図ることができる。
【0036】
(3)取付板13の流路溝13aの前記長さCが前記式(1),(2)の関係を満たす大きさとなっているので、当該流路溝13a内を流通する前記液2〜4の境界層を十分に発達させることができ、試験精度の向上を図ることができる。
【0037】
(4)温調水2を流通させてテストピース1等を規定の温度に予熱してから酸液3を流通させることができるので、試験精度の向上を図ることができる。
【0038】
(5)酸液3を流通させた後に引き続いてリンス液4を流通させることができるので、実際の酸洗設備と同様な条件で酸洗処理を行うことができ、試験結果をより実際に近似させることができる。
【0039】
なお、少なくとも前記酸液3と接触する部分(覗き窓14を除く)は、ポリプロピレンやフッ素樹脂等のような耐酸性を有する材料で構成又はコーティングしておくとよい。
【0040】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、温調水2、酸液3、リンス液4を流通させてスケールの除去試験を行うようにしたが、本発明はこれに限らず、他の実施形態として、例えば、取付板13の流路溝13aに複数種の酸液を順次流通させることができるように、前記酸液送給手段を複数設けることや、温調水2に代えてその他の各種の前処理液を取付板13の流路溝13aに流通させることにより、テストピース1等の予熱と併せて当該テストピース1に各種の前処理を施すことや、さらに、リンス液4に代えてその他の各種の後処理液を取付板13の流路溝13aに流通させることにより、テストピース1のリンス処理と併せて当該テストピース1に各種の後処理を施すことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る酸化被膜除去試験装置は、酸化被膜の除去にかかる経時的な変化を連続的に確認することが非常に簡単にできることから、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 テストピース
2 温調水
3 酸液
4 リンス液
10 酸化被膜除去試験装置
11 ベースコラム
11a 切欠溝
11b ホルダ穴
11c,11d 連通穴
11e 逃がし穴
12 ホルダ
13 取付板
13a 流路溝
13b 覗き穴
14 覗き窓
15 押さえフレーム
16 押さえボルト
17 防護パン
18A〜18C 貯液槽
19A〜19C ストレーナ
20A〜20C ヒータ
21A〜21C マグネットポンプ
22A〜22C,23A〜23C,24A〜24C ボールバルブ
25 撮影装置
25a 移動ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面に酸化被膜を形成されたテストピースの表面に酸液を流通させて当該酸化被膜の除去能力を試験する酸化被膜除去試験装置であって、
前記テストピースの表面に前記酸液を流通させると共に当該テストピースの表面を目視可能な覗き窓を有する流通路を備えている
ことを特徴とする酸化被膜除去試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化被膜除去試験装置において、
前記テストピースの表面に対して前記液を鉛直方向に沿って接触させるように前記流通路が鉛直方向に沿って設けられている
ことを特徴とする酸化被膜除去試験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の酸化被膜除去試験装置において、
前記流通路に下方から上方へ向けて前処理液を流通させる前処理液送給手段と、
前記流通路に下方から上方へ向けて前記酸液を流通させる酸液送給手段と、
前記流通路に下方から上方へ向けて後処理液を流通させる後処理液送給手段と
を備えていることを特徴とする酸化被膜除去試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate