説明

酸性ゲル状食品の製造方法

【課題】タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する酸性ゲル状食品の製造方法であって、大容量に製造する場合であっても、作業性よく、得られる製品のゲル強度にバラツキが生じてしまうという問題がなく、大豆多糖類等の安定剤やゲル化剤の配合量も減らせる、該酸性ゲル状食品の製造方法を提供する。
【解決手段】タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を剪断力のある分散手段で、分散粒子の体積分布のメジアン径が0.1〜10μmになるまで水性液中に分散し、安定剤を加えてさらに混合して原料Aを得、これとジェランガムを含むゲル化剤を加熱溶解した原料Bを混合して、その後、冷却してゲル化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ゲル状食品の製造方法に関し、より詳細には、栄養補助食品等に好適な、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する酸性ゲル状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の補給を目的とした加工食品は種々の形態があるが、近年では、より手軽にタンパク質を摂取できるように調製された、タンパク質補給飲料やタンパク質補給ゼリー飲料等が市販されている。
【0003】
特に近年の食形態の変化によって、食事代替機能を持ったゼリー飲料のようなゲル状食品が消費者の支持を受けており、その中で栄養素としてのタンパク質をより多く補給できるゲル状食品が求められている。
【0004】
ゲル状食品は主としてゲル化剤と呼ばれる増粘多糖類によってゲル状に調製されている。ゲル状食品に使用するゲル化剤には、ジェランガム、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム等が知られている。
【0005】
特にジェランガムは、水生植物の表面から分離された非病原性微生物であるシュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)を用いて産出される高分子多糖類であり、少ない添加量でゲルを形成し、耐熱性、耐酸性が高く、そのゲルは100℃以下ではゾル化せず、保存性が良好である等の利点を有していることから食品のゲル化剤として広く利用されている。
【0006】
タンパク質を含有するゲル状食品を製造する場合、製品のpHによって製造条件や流通管理条件等が異なる。すなわち、低pH領域では増殖できる微生物の種類が限定されるため、ゲル状食品を酸性に調整すれば、タンパク質を豊富に含有させた場合でも中性食品に比較して変敗が起こり難く、流通時の温度管理も容易となる利点がある。また、殺菌処理を行う場合においても、レトルト殺菌のような長時間高温殺菌が不要となるので、風味や内容成分の劣化が少ない。
【0007】
しかし、酸性条件下でタンパク質溶液は凝集・沈殿を生じることがある。また、ゲル化させようとすると、タンパク質とゲル化剤が反応して、ゲル化能力を失って、ゲルを形成させることができないという問題があった。
【0008】
このような問題を回避するためには、従来、大豆多糖類等の安定剤が用いられている。しかし、大豆多糖類等の安定剤は、それ自体の風味が製品に影響を及ぼすため大量に配合することは好ましくない。また、タンパク質が多い場合には、所望の安定化効果が十分に得られない。そこで、酸性ゲル状食品の凝集・沈澱抑制や、ゲル化を目的とした種々の提案がなされている。
【0009】
例えば、下記特許文献1には、乳清タンパク質加水分解物と、ジェランガムと、大豆多糖類とを含有し、酸性となるように調整されている酸性ゲル状食品において、前記酸性ゲル状食品全体に対して、前記乳清タンパク質加水分解物として、(1)分解率が10〜15%であること、(2)アミノ酸スコアが100であること、(3)乳清タンパク質加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が1質量%未満であること、(4)pH3.8において90℃、10分間加熱処理し、沈殿を生じないこと、(5)乳清タンパク質加水分解物のタンパク質1g当たりの緩衝能がクエン酸換算で280mg以下であること、の理化学的性質を有する乳清タンパク質加水分解物をタンパク質換算で2.5〜12質量%、前記ジェランガムを0.1〜0.5質量%、前記大豆多糖類を1〜5質量%含有し、ゲル強度が10g以上であることを特徴とする酸性ゲル状食品が開示され、消化吸収性に優れたタンパク質素材を、タンパク質補給飲料として充分な量含有し、ゲル化剤としてジェランガムを用いた場合においてこれらが酸性下に調整されても凝集・沈殿が起こることなく、食感に優れたゲルを良好に形成できることが記載されている。
【特許文献1】特開2005−6663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の製造方法で酸性ゲル状食品を大容量に製造する場合、原料の均一な混合が難しく、原料を配合した仕込み液を調合するための調合タンク内での攪拌時や、その他の製造過程において仕込み液に部分的な凝集・沈殿が生じ、得られる製品のゲル強度にバラツキが生じてしまうという問題があった。また、ジェランガムをゲル化剤として用いてゲル状食品を製造する際に、タンパク質が持つ電荷に影響されてゲルが固まらないという問題点もあった。そのため、ゲル化剤を多量に配合したり、凝集・沈殿を防ぐ大豆多糖類等の安定剤の効果を、全製造ラインにわたって安定的に発揮させるためには、これを過剰に配合しなければならなかった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、大容量に製造する場合であっても、作業性よく、得られる製品のゲル強度にバラツキが生じてしまうという問題がなく、ジェランガム等のゲル化剤や大豆多糖類等の安定剤の配合量も減らせる、酸性ゲル状食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、発明者らは、従来、電荷を持つタンパク質を微細化するとその表面積が増加することによりタンパク質の電荷の影響がより強く現れ、ジェランガムが含まれているゲルがより固まりにくくなると考えられていたものの、その技術常識を覆すような現象を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明のpHが3.0〜4.6である酸性ゲル状食品の製造方法は、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を剪断力のある分散手段で、分散粒子の体積分布のメジアン径が0.1〜10μmになるまで水性液中に分散し、安定剤を加えてさらに混合して原料Aを得、これとジェランガムを含むゲル化剤を加熱溶解した原料Bを混合して、その後、冷却してゲル化することを特徴とする。
【0014】
本発明の酸性ゲル状食品の製造方法によれば、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を、剪断力のある分散手段で水性液中に前記所定の粒子径になるように分散し、安定剤を加えてさらに混合して、これにゲル化剤を接触させるので、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物とゲル化剤との相互作用が抑制され、原料を配合した仕込み液に部分的な凝集・沈殿が発生するのを防ぎ、得られる製品のゲル強度にバラツキが生じてしまうことを防ぐことができる。また、大豆多糖類等の安定剤の効果が効率的に発揮されるので、安定剤やゲル化剤の配合量を減らすことができる。
【0015】
本発明においては、前記酸性ゲル状食品に含有するタンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が1.0〜15.0質量%であることが好ましい。これによれば、より栄養的価値の高い酸性ゲル状食品を提供することができる。
【0016】
また、前記タンパク質及び/又はタンパク加水分解物が、乳、コラーゲン、小麦、及び大豆からなる群から選ばれた少なくとも1種に由来するものであることが好ましい。また、前記安定剤が、大豆多糖類を含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記原料A、前記原料B、又は前記原料Aと前記原料Bとを混合したものに、更に、糖類、高甘味度甘味料、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、果汁、香料、着色料、調味料、食物繊維、乳化剤、消泡剤、及び酸味料からなる群から選ばれた少なくとも1種を添加することが好ましい。これにより、適宜所望の副原料が配合された酸性ゲル状食品を製造することができる。
【0018】
本発明の製造方法においては、前記原料Aと前記原料Bとを混合したものを、スパウト付パウチ容器に充填して殺菌し、その後、冷却してゲル化することが好ましい。これによれば、市場に流通させるために殺菌し、スパウト付パウチ容器入りの形態にした酸性ゲル状食品を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のpHが3.0〜4.6である酸性ゲル状食品の製造方法によれば、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を、剪断力のある分散手段で水性液中に所定の粒子径になるように分散し、安定剤を加えてさらに混合して、これとジェランガムを含むゲル化剤を接触させるので、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物とゲル化剤との相互作用が抑制され、原料を配合した仕込み液に部分的な凝集・沈殿が発生するのを防ぎ、得られる製品のゲル強度にバラツキが生じてしまうことを防ぐことができる。また、ゲル化剤や大豆多糖類等の安定剤の効果が効率的に発揮されるので、安定剤やゲル化剤の配合量を減らすことができる。これにより、安定剤の持つ好ましくない味や風味を抑制できるとともに、大量のゲル化剤を用いた場合に発生するゲルの凝集や、食感の悪さを改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の製造方法においては、まず、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を、剪断力のある分散手段で、分散粒子の体積分布のメジアン径が0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜8.0μm、更により好ましくは0.1〜5.0μmになるまで水性液中に分散し、安定剤を加えてさらに混合する。以下、この中間原料を原料Aともいう。
【0021】
上記剪断力のある分散手段としては、公知の技術を用いればよいが、具体的にはホモゲナイザー(例えば、イズミフード社製、HV−0A―1−1.55)、ファインミキサー(例えば、ヤスダファインテ社製、50Lファインミキサー乳化機EMG05−2.2)、TKミキサー(例えば、プライミクス社製、MARKII MODEL2.5)、粉体溶解ポンプ(関西乳機社製、15A)を粉体溶解装置として例示できる。
【0022】
本発明において「体積分布のメジアン径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で粒度分布を測定し、粒子の累積積算体積が50%に達したときの粒径を意味する。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業社製)などを用いることができる。
【0023】
タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を剪断力のある分散手段で分散させるときの条件に特に制限はないが、温度条件としては4〜60℃で行うことが好ましい。温度が低すぎると分散に時間がかかり、高すぎるとタンパク質が加熱変性してしまうことがある。また、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有濃度としては、2〜45質量%で行うことが好ましい。濃度が低すぎると、タンパク質含有量の高い酸性ゲル状食品とすることができず、濃度が高すぎると、粘度が高くなり溶解しずらく、また、ダマが発生してしまうことがある。
【0024】
本発明において、タンパク質は、食用に供することができれば特に制限されるものではない。具体的には、例えば、乳清タンパク質、大豆タンパク、コラーゲン等である。なかでも好ましくは乳清タンパク質であり、例えば、限外ろ過濃縮などによりタンパク質含有率が35〜80%程度まで高められた乳清タンパク質濃縮物(WPC)、その脱塩物である脱塩WPC、その脱脂物である脱脂WPC等が好ましく用いられる。また、乳清中のタンパク質をイオン交換樹脂により吸着分離したWPI等を用いることもできる。
【0025】
本発明の製造方法において、タンパク加水分解物は、食用に供することができれば特に制限されるものではないが、凝集、沈殿、相分離などを生じやすい数平均分子量が550以上、好ましくは650以上、より好ましくは800以上のものであれば、本発明の効果が好適に発揮されるので好ましい。
【0026】
タンパク加水分解物として、酵素分解等の公知の手段によってタンパク質のポリタンパク加水分解物鎖を部分的に加水分解して調製されたタンパク質の加水分解組成物等を用いることもできる。具体的には、例えば、乳清タンパク分解物、大豆ペプチド等である。その場合、遊離アミノ酸の呈味の低減、タンパク質のアレルギー原性を低減する等によって食品素材としての特性を改善するために、限外濾過、クロマトグラフィー等の公知の手段により分子量分画及び/又は部分精製することができる。
【0027】
以下に、本発明において好ましく用いることができる乳清タンパク分解物について説明する。
【0028】
すなわち、上記の乳清タンパク質をプロテアーゼで加水分解することにより得ることができ、(1)分解率が10〜15%である、(2)アミノ酸スコアが100である、(3)乳清タンパク質加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が1質量%未満である、(4)pH3.8において90℃、10分間加熱処理し、沈殿を生じない、(5)乳清タンパク質加水分解物のタンパク質1g当たりの緩衝能がクエン酸換算で280mg以下である、という理化学的性質を有する乳清タンパク分解物である。
【0029】
本発明の製造方法において、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の配合量は特に制限されないが、得られる酸性ゲル状食品の全量中に好ましくは1.0〜15質量%、より好ましくは1.0〜10質量%、最も好ましくは1.0〜8質量%含有するように配合することが好ましい。タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が1.0質量%未満の場合は、例えば、栄養補給を目的として提供される場合、一食分から摂取できるタンパク栄養素の摂取量が所望の摂取量に達しないので好ましくない。また、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が15.0質量%を越えると、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物由来の風味が強くでるので好ましくない。
【0030】
なお、ここで示す質量%の値は、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の正味のタンパク質又はペプチドの値を示し、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物中に含まれている遊離アミノ酸をはじめ水分等の他の成分を含まない。すなわち、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の原料としては、食品原料中に60%質量以上のタンパク質及び/又はタンパク質加水分解物が含まれている原料を用いて酸性ゲル状食品を製造することが好ましく、食品原料中に65%質量以上のタンパク質及び/又はタンパク質加水分解物が含まれている原料を用いて酸性ゲル状食品を製造することがさらに好ましい。
【0031】
また、タンパク質及び/又はタンパク質分解物の濃度が1.8〜5%の時に、ジェランガムと大豆多等類の関係は、ジェランガムと大豆多等類の全体量に占める%の和が0.6〜1.1であることが好ましい。これによると、スパウト付パウチに適した固さのゲル状食品を製造することができる。
【0032】
さらに、ジェランガムが0.1〜0.4%の時に、大豆多糖類とタンパク質の比が1:2.5〜10.01であることが好ましい。これによると、従来よりもジェランガムや大豆多糖類の使用量を減少させることができる。
【0033】
本発明の製造方法において、安定剤としては、大豆多糖類、ペクチン等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。このうち、大豆多糖類は、大豆から得られる水溶性の多糖類であり、特に好ましく用いられる。その主な成分はヘミセルロースであり、ガラクトース、アラビノース、ガラクツロン酸、ラムノース、キシロース、フコース、グルコース等の糖類から構成される。この大豆多糖類は、大豆油や分離大豆タンパク質を製造する際に生成するオカラから抽出、精製、殺菌して得ることができる。また、大豆多糖類としては市販のものを用いてもよく、このような市販の大豆多糖類としては、例えば、商品名「SM−700」、商品名「SM−900」、商品名「SM−1200」(いずれも三栄源エフ・エフ・アイ製)等が挙げられる。
【0034】
本発明においては、安定剤の配合量は、安定剤の種類によっても異なるが、例えば大豆多糖類であれば、得られる酸性ゲル状食品の全量中に好ましくは0.1〜8質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、最も好ましくは0.3〜4質量%含有するように配合することが好ましい。大豆多糖類の含有量が0.1%未満の場合は、大豆多糖類による、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の酸性環境下での分散安定性を保持させる効果が得られないので好ましくない。また、大豆多糖類の含有量が8質量%を越えると、大豆多糖類由来の風味が強くでるので好ましくない。
【0035】
本発明においては、得られる酸性ゲル状食品のpHが3.0〜4.6、より好ましくは3.0〜4.0となるように配合することが好ましい。得られる酸性ゲル状食品のpHが4.6を越えると生育可能な微生物の種類が増え、食品衛生上の危険が増大するため好ましくなく、pHが3.0未満では酸味が強くなりすぎるので好ましくない。
【0036】
本発明の製造方法においては、上記の原料を含み、上記分散手段で、上記所定の粒度になるまで水性液中に分散させるようにして得られた原料Aに、ゲル化剤を加熱溶解したゲル化原料(以下、原料Bともいう。)を混合して、その後、冷却してゲル化する。
【0037】
ゲル化剤としては、ジェランガム、寒天、カラギーナン、ファーセルラン、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、グルコマンナン等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。特にジェランガムは、水生植物の表面から分離された非病原性微生物であるシュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)を用いて産出される高分子多糖類であり、少ない添加量でゲルを形成し、耐熱性、耐酸性が高く、100℃以下ではゾル化せず、保存性が良好であるので好ましい。
【0038】
本発明の製造方法で得られる酸性ゲル状食品は、そのゲル強度が0.4N以上であり、好ましくはゲル強度が0.4〜10N、より好ましくはゲル強度が0.4〜7.0Nであり、更に好ましくはゲル強度が0.4〜5.0Nであり、更により好ましくはゲル強度が0.4〜1.3Nである。ゲル強度が0.4N未満であると、ゲルの形成が不充分でゼリー飲料としての良好な食感を得ることができない。また、ゲル強度が10Nを超える場合は、ゲルが固くなり過ぎて喫食が困難になるため好ましくない。更に、スパウト付きパウチに充填する場合には、ゲル強度が1.3Nを超えると、スパウトから出にくくなり、食しにくくなる。
【0039】
また、本発明の製造で得られる酸性ゲル状食品は、固形分が3〜30質量%となるように調製されていることが好ましい。
【0040】
なお、本発明においてゲル強度とは、レオメーターを用いた圧縮試験におけるゲルの破断強度を意味する。ゲル強度は以下のような方法で測定することができる。すなわち、レオメーター(サン科学製:CR−500DX)を用いて圧縮試験(測定条件:プランジャー直径10mmを用い、移動速度60mm/分、進入距離20mm)を行い、ゲルが破断したときの破断強度(N)を測定すればよい。
【0041】
本発明の製造で得られる酸性ゲル状食品は、適宜包装容器に充填され得る。その包装容器としては特に制限はないが、酸性ゲル状食品を喫食するのに適している容器が好ましく、容器素材としては金属、ガラス、紙、プラスチック等いずれも使用可能である。
【0042】
また、容器の形態についてもゲル状食品を喫食するのに適した形態であれば制限はなく、缶、ビン、紙パック、プラスチックカップ、フィルムパウチ容器、スパウト(注出口)付パウチ容器等が使用できる。中でも、スパウト付パウチ容器は、喫食時に食器に移し替えたり、スプーン等の食器を必要とせず、スパウト部分から直接飲用でき、また、パウチ部分は軟包装材料であるためゲル状食品を押し出しながらスムーズに喫食することが可能で本発明に用いる容器としては好適である。
【0043】
上記原料Aとジェランガムを含むゲル化原料である原料Bを混合し、上記包装容器に注入した後に、冷却することによってゲル化が進行し、包装容器への充填を行うことができる。
【0044】
本発明の製造で得られる酸性ゲル状食品は、必要に応じて殺菌処理等を行ってもよく、殺菌方法としては、容器に充填する前に加熱殺菌しホットパックする方法、充填密封後に加熱殺菌する方法、また、容器に充填する前に酸性ゲル状食品を加熱殺菌し、その後無菌条件下で充填する無菌充填等いずれの方法も可能である。なかでも、上記原料Aとジェランガムを含むゲル化原料である原料Bを混合したものを、スパウト付パウチ容器に充填して殺菌し、その後、冷却してゲル化することが好ましい。なお、本発明の酸性ゲル状食品は酸性となるように調整されているので、微生物による変敗が起こり難く、殺菌条件を緩くすることができ、例えばレトルト殺菌のような長時間高温殺菌を行う必要がない。したがって、殺菌による風味や内容成分の劣化が少ない。
【0045】
本発明においては、上述の原料以外の副原料として、糖類、高甘味度甘味料、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、果汁、香料、着色料、調味料、食物繊維、乳化剤、消泡剤、酸味料等を適宜添加することができる。これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0046】
このうち、酸味料としては、食用に供することができれば特に制限されるものではなく、有機酸類又は無機酸類のいずれであってもよい。具体的には、例えば、有機酸類としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、フマール酸及びそれらの塩等が挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸及びその塩等が挙げられる。これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0047】
なお、本発明においては、中間原料や最終製品のpHを調整するため、上記酸味料をいずれの工程においても適宜添加して、その調整を行うことができる。
【0048】
また、糖類としては、ブドウ糖、果糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルトデキストリン等が挙げられ、高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK、スクラロース、ソウマチン等が挙げられる。
【0049】
また、ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンH、ビタミンK、ビタミンP、パントテン酸、コリン、葉酸、イノシトール、ナイアシン、パラアミノ安息香酸(PABA)等が挙げられる。
【0050】
また、アミノ酸類としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等が挙げられる。
【0051】
また、ミネラル類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0052】
また、果汁としては、レモン、グレープフルーツ、オレンジ、パイナップル、リンゴ等が挙げられる。
【0053】
また、乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びこれらを用いた乳化製剤等が挙げられ、消泡剤としては、シリコン等が挙げられる。
【0054】
上記副原料の添加のタイミングには特に制限はなく、上記剪断力のある分散手段にかける前に、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含む原料中、安定剤を含む原料中に添加してもよく、上記剪断力のある分散手段にかける際に一緒に添加してもよく、分散させた後の原料Aに添加してもよく、ゲル化剤を加熱溶解した原料Bに添加してもよく、原料Aと原料Bとを混合した後に添加してもよい。また、例えば、特開2007−215474号公報に開示されているように、副原料として酸味料を添加する場合には、予め酸味料を分散した後にタンパク質及び/又はタンパク加水分解物を分散し、安定化剤を分散させると、タンパク質の沈殿・凝集を防ぎ効率よくこれらを混合することができる。したがって、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を分散する水性液に予め酸味料を添加しておき、これに該タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を加えて、上記分散手段によって所定の粒子径まで分散した後に安定剤を加えることが、最も好ましい。
【0055】
上記乳化剤や消泡剤は、熱変性防止効果、乳化安定効果があり、さらに投入や攪拌によって生じる起泡を抑制、消泡することができるので、該分散手段にかける際に一緒に添加することが好ましい。また、溶液同士の混合時に起泡が発生し、攪拌効率、工程適正、品質に悪影響を及ぼすことがあるため、混合される溶液中に予め乳化剤や消泡剤を加えておくことが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
下記表1に示す原料及びその配合量(実施例1は1000g製造した)を水に溶かし、全量を300gとした。これに乳ペプチド30gを添加して卓上攪拌機(東京理科器機社製、マゼラZ−2100)で1200rpmの条件で1分間攪拌した。続いて、大豆多糖類を下記表2に示す終濃度になるように2g〜6g添加して、再び卓上攪拌機で2000rpmの条件で5分間攪拌した。この後、全量を600gになるように調整して、ベース原料を製造した。このベース原料をホモゲナイザー(イズミフード社製、HV−0A―1−1.55)に20MPaの圧力条件で2回かけて、分散させた。この分散させたベース原液は、体積分布のメジアン径の測定に供した。
【0058】
次に、下記表2に示す終濃度になるようにジェランガム2g〜4gを水に分散させて400gになるように調整した。このゲル化剤原料は、95℃まで加熱し、95℃になったら、分散させたベース原料をゲル化剤原料に混合した。混合したものを90℃になるまで再び加熱し、90℃になったら、スパウト付パウチに充填をした。充填したスパウト付パウチは、口部を90℃以上の湯にどぶ漬けすることで殺菌し、殺菌の後、25℃で15分間水冷して、酸性ゲル状食品を製造した。
【0059】
ベース原料の体積分布のメジアン径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業社製:LMS−30)を用いて算出した。すなわち、前記装置の測定ユニットに蒸留水を予め投入し、タンパク溶液をセンサー電圧が500〜1500mVになるように加え、スターラー強度1、循環ポンプレベル1の条件で粒度の分布を測定し、体積分布を得た。この体積分布よりメジアン径を算出した。
【0060】
沈殿量は、次のようにして求めた。予め秤量した遠沈管にベース原料を5ml量り取り、室温で24時間放置して、上清を取り除き、遠沈管を50℃で24時間放置した。その後、遠沈管を秤量し、予め求めていた遠沈管の重量を減じて沈殿量を求めた。
【0061】
また、製造した酸性ゲル状食品のゲル強度は、25℃の雰囲気温度中でレオメーター(サン科学製:CR−500DX)を用いて圧縮試験を行い、スパウト付きパウチに充填したゲル(パウチを切り開いて試験した)の破断するまでの強度とした。この圧縮試験は、プランジャー直径10mmで毎分60mmの移動速度で、進入距離20mmの条件で行った。測定結果は、表2に記載のとおりになった。
【0062】
なお、特に示さない限り以下の実施例及び比較例においても上記測定法に準じて測定を行った。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

[比較例1]
実施例1で行ったホモゲナイザー処理を行わないようにしてそれ以外は、実施例1と同じ製造方法で酸性ゲル状食品を製造した。ベース原料の体積分布のメジアン径及び沈殿量、並びに製造した酸性ゲル状食品のゲル強度の値を、下記表3に示す。
【0065】
【表3】

上記実施例1及び比較例1の結果から、ホモゲナイザー処理でベース原料の体積分布のメジアン径を小さくすると、沈殿の発生が抑制できることが明らかとなった。また、実施例1では、比較例1よりもスパウト付きパウチに充填する場合、食しやすいゲル強度である1.3N以下の酸性ゲル状食品を得やすかった。
【0066】
[実施例2]
下記表4に示す原料及びその配合量(実施例2は1000g製造した)を300gの水に溶かし、乳ペプチド25g及びコラーゲンペプチド5gを添加して卓上攪拌機(実施例1と同じ)で1200rpmの条件で1分間攪拌した。続いて、大豆多糖類を8g(最終濃度にして0.8%)添加して、再び卓上攪拌機で1200rpmの条件で5分間攪拌した。この後、全量を500gになるように調整して、ベース原料を製造した。このベース原料をホモゲナイザー(実施例1と同じ)に20MPaの圧力条件で2回かけて、分散させた。この分散させたベース原液は、体積分布のメジアン径の測定に供した。
【0067】
次に、終濃度が0.2%になるようにジェランガム2gを水に分散させて500gになるように調整した。このゲル化剤原料は、95℃まで加熱し、95℃になったら、分散させたベース原料をゲル化剤原料に混合した。混合したものを90℃になるまで再び加熱し、90℃になったら、スパウト付パウチに充填をした。充填したスパウト付パウチは、口部を90℃以上の湯にどぶ漬けすることで殺菌し、殺菌の後、25℃で15分間水冷して、酸性ゲル状食品を製造した。実施例2の結果(ベース原料の体積分布のメジアン径、及び製造した酸性ゲル状食品ゲル強度の値)は、下記表5に記載した。
【0068】
【表4】

[比較例2]
実施例2で行ったホモゲナイザー処理を行わないようにしてそれ以外は、実施例2と同じ製造方法で酸性ゲル状食品を製造した。比較例2の結果(ベース原料の体積分布のメジアン径、及び製造した酸性ゲル状食品ゲル強度の値)は、下記表5に記載した。
【0069】
[実施例3]
上記表4に示す原料及びその配合量(実施例3は100kg製造した)を30kgの水に溶かし、乳ペプチド2.5kg及びコラーゲンペプチド500gを添加してクッキングミキサー(カジワラ社製OAM型)で斜軸が25rpm、カッターが2500rpmの条件で3分間攪拌した。続いて、大豆多糖類を800g(最終濃度にして0.8%)添加して、再び上記クッキングミキサーで上記と同じ条件で5分間攪拌した。この後、全量を50kgになるように調整して、ベース原料を製造した。このベース原液は、体積分布のメジアン径の測定に供した。
【0070】
次に、終濃度が0.2%になるようにジェランガム200gを水に分散させて50kgになるように調整した。このゲル化剤原料は、95℃まで加熱し、95℃になったら、先に製造したベース原料をゲル化剤原料に混合した。混合したものを90℃になるまで再び加熱し、90℃になったら、スパウト付パウチに充填をした。充填したスパウト付パウチは、口部を90℃以上の湯にどぶ漬けすることで殺菌し、殺菌の後、25℃で15分間水冷して、酸性ゲル状食品を製造した。実施例3の結果(ベース原料の体積分布のメジアン径、及び製造した酸性ゲル状食品ゲル強度の値)は、下記表5に記載した。
【0071】
[実施例4]
上記表4に示す原料及びその配合量(実施例4は100kg製造した)を30kgの水に溶かし、乳ペプチド2.5kg及びコラーゲンペプチド500gを添加してファインミキサー(ヤスダファインテ社製50Lファインミキサー 乳化機 EMG05−2.2)で60Hzの条件で3分間攪拌した。続いて、大豆多糖類を800g(最終濃度にして0.8%)添加して、再び上記ファインミキサーで上記と同じ条件で5分間攪拌した。この後、全量を50kgになるように調整して、ベース原料を製造した。このベース原液は、体積分布のメジアン径の測定に供した。
【0072】
次に、終濃度が0.2%になるようにジェランガム200gを水に分散させて50kgになるように調整した。このゲル化剤原料は、95℃まで加熱し、95℃になったら、先に製造したベース原料をゲル化剤原料に混合した。混合したものを90℃になるまで再び加熱し、90℃になったら、スパウト付パウチに充填をした。充填したスパウト付パウチは、口部を90℃以上の湯にどぶ漬けすることで殺菌し、殺菌の後、25℃で15分間水冷して、酸性ゲル状食品を製造した。実施例4の結果(ベース原料の体積分布のメジアン径、及び製造した酸性ゲル状食品ゲル強度の値)は、下記表5に記載した。
【0073】
[実施例5]
上記表4に示す原料及びその配合量(実施例5は1000g製造した)を300gの水に溶かし、乳ペプチド25g及びコラーゲンペプチド5gを添加してTKミキサー(プライミクス社製MARKII MODEL2.5)で9000rpmの条件で3分間攪拌した。続いて、大豆多糖類を8g(最終濃度にして0.8%)添加して、再び上記TKミキサーで上記と同じ条件で5分間攪拌した。この後、全量を500gになるように調整して、ベース原料を製造した。このベース原液は、体積分布のメジアン径の測定に供した。
【0074】
次に、終濃度が0.2%になるようにジェランガム2gを水に分散させて500gになるように調整した。このゲル化剤原料は、95℃まで加熱し、95℃になったら、先に製造したベース原料をゲル化剤原料に混合した。混合したものを90℃になるまで再び加熱し、90℃になったら、スパウト付パウチに充填をした。充填したスパウト付パウチは、口部を90℃以上の湯にどぶ漬けすることで殺菌し、殺菌の後、25℃で15分間水冷して、酸性ゲル状食品を製造した。実施例5の結果(ベース原料の体積分布のメジアン径、及び製造した酸性ゲル状食品ゲル強度の値)は、下記表5に記載した。
【0075】
[実施例6]
上記表4に示す原料及びその配合量(2000kg)を600kgの水に溶かし、乳ペプチド50kg及びコラーゲンペプチド10kgを添加して粉体溶解ポンプ(関西乳機社製15A)で粉体溶解ポンプ35Hz及びその一次側に設置した遠心ポンプ20Hzの条件で3分間循環送駅しながら攪拌した。続いて、大豆多糖類を16kg(最終濃度にして0.8%)添加して、再び上記粉体溶解ポンプで上記と同じ条件で5分間循環送液しながら攪拌した。この後、全量を1000kgになるように調整して、ベース原料を製造した。このベース原液は、体積分布のメジアン径の測定に供した。
【0076】
次に、終濃度が0.2%になるようにジェランガム4kgを水に分散させて1000kgになるように調整した。このゲル化剤原料は、95℃まで加熱し、95℃になったら、先に製造したベース原料をゲル化剤原料に混合した。混合したものを90℃になるまで再び加熱し、90℃になったら、スパウト付パウチに充填をした。充填したスパウト付パウチは、口部を90℃以上の湯にどぶ漬けすることで殺菌し、殺菌の後、25℃で15分間水冷して、酸性ゲル状食品を製造した。実施例6の結果(ベース原料の体積分布のメジアン径、及び製造した酸性ゲル状食品ゲル強度の値)は、下記表5に記載した。
【0077】
【表5】

上記実施例2〜6の結果から、各分散手段でベース原料の体積分布のメジアン径を小さくすると、ジェランガム濃度が0.2%のときに、ゲル強度0.4N以上の酸性ゲル状食品を得ることができた。一方、比較例2では、ゲル強度が最も低くなり、ジェランガムや大豆多糖類を添加したことによる効果が、最も得られにくかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を剪断力のある分散手段で、分散粒子の体積分布のメジアン径が0.1〜10μmになるまで水性液中に分散し、安定剤を加えてさらに混合して原料Aを得、これとジェランガムを含むゲル化剤を加熱溶解した原料Bを混合して、その後、冷却してゲル化することを特徴とするpHが3.0〜4.6である酸性ゲル状食品の製造方法。
【請求項2】
前記酸性ゲル状食品に含有するタンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が1.0〜15.0質量%である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質及び/又はタンパク加水分解物が、乳、コラーゲン、小麦、及び大豆からなる群から選ばれた少なくとも1種に由来するものである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記安定剤が、大豆多糖類を含むものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料A、前記原料B、又は前記原料Aと前記原料Bとを混合したものに、更に、糖類、高甘味度甘味料、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、果汁、香料、着色料、調味料、食物繊維、乳化剤、消泡剤、及び酸味料からなる群から選ばれた少なくとも1種を添加する請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料Aと前記原料Bとを混合したものを、スパウト付パウチ容器に充填して殺菌し、その後、冷却してゲル化する請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法。