説明

酸性気体濃度測定方法および測定装置

【課題】塩化水素、フッ化水素等の酸性気体の検出用の隔膜式電気化学的検出手段において、光化学オキシダントの影響を受けない測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】気体透過性の隔膜を有する検出槽内に作用極、対極、参照電極を有し、ヨウ素酸イオン、およびヨウ化物イオンを含有する電解液を有する第一の気体検出器3a、および前記第一の気体検出器の電解液からヨウ素酸イオンを除いた電解液を有する光化学オキシダントを検出する第二の気体検出器3bのそれぞれに被検気体を導入し、前記第一の気体検出器の出力V1から前記第二の気体検出器の出力V2を減算して、光化学オキシダントによる影響を受けることなくフッ化水素等の酸性気体濃度の正確な測定が可能な酸性気体濃度測定方法および測定装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性気体濃度測定方法および測定装置に関し、特に塩化水素、フッ化水素等の濃度測定に好適な電気化学的な濃度測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化水素、フッ化水素に代表される酸性気体の検出には、各種の検出手段が用いられて
いるが、なかでも本発明者らが提案した隔膜式電気化学的検出手段(例えば、特許文献1参照)は、比較的構造が簡単であるものの測定精度が高く、塩化水素、フッ化水素等を取り扱う半導体装置の製造工程等において漏洩気体の検出手段として広く用いられている。
酸性気体の隔膜式電気化学的検出手段は、隔膜を透過した酸性気体を電気化学セルを構成する検出手段の内部に導入して電解液中で生成した水素イオンとの反応による反応生成物によって流れる電流を検出するものである。
【0003】
塩化水素、フッ化水素等の酸性気体の検出用の隔膜式電気化学的検出手段は、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオンを含有した水溶液を電解液としている。隔膜を透過した酸性気体は電解液中において水素イオンを生成し、生成した水素イオンは以下の化学式1で示されるように、
6H++IO3-+5I-→3I2+3H2O 化学式1
なる反応でヨウ素を遊離する。
次いで、遊離したヨウ素は以下の化学式2で示すように、
2+2e-→2I- 化学式2
なる電気化学反応により電流に変換されて検出される。
【0004】
フッ化水素、塩化水素等のハロゲン化水素は、IC、LSIはじめとする電子材料等の製造には欠かせない化学物質であるが、近年、フッ化水素については、TLV−TWA、すなわち米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が定める時間加重平均曝露限界値が、従来の1/6である0.5ppmに強化されている。その結果、フッ化水素等の測定には高感度の測定が要求されている。
一方、交通量の増加、生産活動の集中等によって増加した大気中の窒素酸化物が夏期の強い太陽光を受けてオゾンに代表される光化学オキシダントを生成することが知られている。
光化学オキシダントを含む大気が上記したフッ化水素等の酸性気体の検出用の隔膜式電気化学的検出手段に到達すると、以下の化学式3で示すように、
6H++O3+6I-→3I2+3H2O 化学式3
の反応が起こり、酸性気体検出器にフッ化水素等の酸性気体が導入された場合と同様にヨウ素を遊離し、ヨウ素は、上記の化学式2で示すように電気化学反応により電流に変換されて検出値として観測される。
【0005】
フッ化水素濃度が高濃度である場合には、光化学オキシダントによる影響は無視しうるが、近年、フッ化水素濃度のTLV−TWAが3ppmから、0.5ppmに強化された結果、フッ化水素濃度の測定においては、大気中の光化学オキシダントによる影響は無視できなくなっている。
【0006】
隔膜式電気化学的検出手段による酸性気体の測定において、光化学オキシダントによる検出値への影響を防止するために、「沃素酸カリウム、沃素酸ナトリウム、沃素酸リチウムの少なくとも一種、及び臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化リチウムの少なくとも一種を含む溶液を電解液として収容」した隔膜式電気化学的検出手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、電解液中に臭化カリウム等の臭化物を配合すると、0.5ppm程度の低濃度のフッ化水素に対する応答速度が非常に遅くなることがあった。特に、電解液から水分が減少することを防止するためにエチレングリコールを加えた場合には、応答速度の低下はさらに顕著なものとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3748388号公報
【特許文献2】特許第4166104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、夏期に自動車の排ガスによる影響を受ける場所等のように光化学オキシダント濃度が無視できない場合であっても、TLV−TWAで規定している低濃度フッ化水素等の酸性気体濃度の測定を迅速に行うことが可能な酸性気体濃度測定方法および測定装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、気体透過性の隔膜を有する検出槽内に作用極、対極、参照電極を有し、ヨウ素酸イオン、およびヨウ化物イオンを含有する電解液を有する酸性気体を検出する第一の気体検出器、および前記第一の気体検出器の電解液からヨウ素酸イオンを除いた電解液を有する光化学オキシダントを検出する第二の気体検出器のそれぞれに被検気体を導入し、前記第一の気体検出器の出力から前記第二の気体検出器の出力を減算して、酸性気体濃度を求める酸性気体濃度測定方法によって解決することができる。
また、前記第一の気体検出器およ第二の気体検出器の電解液のpHを9よりも大きく、12よりも小さい範囲に保持し、前記参照電極が銀・ヨウ化銀電極であって、前記作用極の電位を前記参照電極に対して0.1Vから0.3Vの範囲に維持した状態で前記作用極と前記対極の間に流れる電流を検出する前記の酸性気体濃度測定方法である。
【0010】
気体透過性の隔膜を有する検出槽内に作用極、対極、参照電極を有し、ヨウ素酸イオン、およびヨウ化物イオンを含有する電解液を有する第一の気体検出器と、前記第一の気体検出器の電解液からヨウ素酸イオンを除いた電解液を有する光化学オキシダントを検出する第二の気体検出器と、前記第一の気体検出器の出力から前記第二の気体検出器の出力を減算する減算器と、を有する酸性気体濃度測定装置である。
また、前記第一の気体検出器および前記第二の気体検出器の電解液のpHが9よりも大きく、12よりも小さい範囲であり、前記参照電極が銀・ヨウ化銀電極であって、前記作用極の電位を前記参照電極に対して0.1Vから0.3Vの範囲に維持した状態で前記作用極と前記対極の間に流れる電流を検出する前記の酸性気体濃度測定装置である。
対極として銀・ヨウ化銀電極を用いた前記の気体検出器である。
検出槽内の気相部に気体を透過する圧力調整膜を設けた前記の気体検出器である。
酸性気体が塩化水素、フッ化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種である前記の気体検出器である。
対極と作用極との間にスイッチング手段を設けた前記の気体検出器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸性気体濃度測定方法および測定装置は、酸性気体を検出する酸性気体検出器と同様の構造を有し、酸性気体検出器とは電解液が異なり酸性気体に影響されることなくオゾンに代表される光化学オキシダントのみに出力を示す第二の気体検出器が、酸性気体の検出電位範囲において光化学オキシダン濃度に対して安定した出力を示すので、酸性気体検出器によって検出された検出値から光化学オキシダントの検出による検出値を減算することによって、光化学オキシダントによる影響を受けることなくフッ化水素等の酸性気体濃度の正確な測定が可能な酸性気体濃度測定方法および測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、酸性気体濃度測定装置の一実施例を説明する図である。
【図2】図2は、本発明の酸性気体濃度測定装置に用いる気体検出器の一実施例を説明する図である。
【図3】図3は、オゾンを導入した場合の作用電極の電位に対する電流の変化を示す図である。
【図4】図4は、フッ化水素濃度と測定装置の指示値を説明する図である。
【図5】図5は、電解液に臭化物イオンを含む場合のフッ化水素に対する応答特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、酸性気体の検出に使用する第一の気体検出器が、酸性気体のみでなく光化学オキシダントに対しても出力を示すという問題点を、第一の気体検出器と同様の構造を有し、電解液の成分が一部異なるオゾンに代表される光化学オキシダントのみに出力を示す第二の気体検出器が、酸性気体の検出電位範囲において低濃度の光化学オキシダント濃度に対して一定の出力を示すものであることを見出したものである。
自動車排ガス等によって生成する光化学オキシダントはその大部分がオゾンであるために第二の気体検出器としてオゾンの検出が可能な検出器を使用して、酸性気体を検出する第一の気体検出器によって検出された検出値から第二の気体検出器によって検出された検出値を減算することによって、フッ化水素等の酸性気体濃度の測定を行う酸性気体濃度測定方法および測定装置を提供するものである。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の酸性気体濃度測定方法に使用する装置の一実施例を説明する図である。
本発明の酸性気体濃度測定装置1は、フッ化水素等の酸性気体を検出する第一の気体検出器3a、オゾンに代表される光化学オキシダントを検出する第二の気体検出器3bを備えており、各気体検出器3a、3bには、それぞれ検出槽5a,5bを有し、各検出槽5a,5bの一端に、検出すべき気体を検出槽内に導入する気体透過性膜7a、7bを有しており、検出槽5a、5b内には、それぞれ電解液9a、9bが充填されている。
検出槽5a,5b内には、気体透過性膜7a、7bに近接して作用極11a、11bが配置され、気体透過性膜7a、7bと作用極11a、11bの間に電解液の液膜が形成されている。また、検出槽5a,5b内には、対極13a、13b、および参照電極15a,15bが配置されている。
【0015】
参照電極15a,15bは、増幅器17a、17bの一方の入力端子に接続され、その出力側に対極13a,13bが接続されており、作用極11a、11bの電位を参照電極15a,15bに対して所定の電位に保持している。
また、増幅器17a、17bの一方の入力端子に安定な可変電圧電源19a、19bを接続することによって、作用極11a、11bの電位を参照電極15a,15bの電位に対して任意の値に設定することが可能となる。
【0016】
また、フッ化水素等の第一の気体検出器3aには、電解液9aとして、ヨウ素酸カリウム等のアルカリ金属ヨウ素酸塩およびヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ化物塩を溶解した水溶液が充填されている。
一方、第二の気体検出器3bには、電解液9bとして、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ化物塩を溶解した水溶液が充填されており、ヨウ素酸イオンは含有していない。
【0017】
フッ化水素等の酸性気体は、ヨウ素酸カリウム、ヨウ化カリウムを含有した電解液を充填した酸性気体検出器3aの気体透過性膜を透過して、電解液中において、
6H++IO3-+5I-→3I2+3H2O 化学式1
なる反応によってヨウ素を遊離する。
次いで、遊離したヨウ素は以下の化学式2で示すように、
2+2e-→2I- 化学式2
なる電気化学反応により電流に変換されて作用極11aの電流として検出され増幅器21aの出力として取り出される。増幅器21aには、温度補償用のサーミスタ23aを設けても良い。
【0018】
また、酸性気体中にオゾンが含まれていると、
6H++O3+6I-→3I2+3H2O 化学式3
なる反応によってヨウ素を遊離する。
次いで、遊離したヨウ素は以下の化学式2で示すように、
2+2e-→2I- 化学式2
の反応が起こり、フッ化水素等の酸性気体が導入された場合と同様にヨウ素を遊離し、ヨウ素は、上記の化学式2で示すように電気化学反応により電流に変換されて、フッ化水素等の酸性気体による検出電流に、オゾンによる検出電流を加えた電流が増幅器21aの出力として取り出される。増幅器21aの出力は反転増幅器25a、電圧ホロア回路27aを経て、出力V1として減算回路29へと送られる。
【0019】
第二の気体検出器3bでは、測定気体中のオゾンは気体透過性膜を透過して、電解液中において、
6H++O3+6I-→3I2+3H2O 化学式3
なる反応によってヨウ素を遊離する。
次いで、遊離したヨウ素は以下の化学式2で示すように、
2+2e-→2I- 化学式2
なる電気化学反応により電流に変換されて作用極11aからオゾンによる電流として検出され増幅器21bの出力として取り出される。増幅器21bには、温度補償用のサーミスタ23bを設けても良い。
【0020】
増幅器21bの出力は反転増幅器25b、電圧ホロア回路27bを経て、出力V2として減算回路29へと送られる。減算回路29では、第一の気体検出器3aで検出された、酸性気体およびオゾンの両者を加えた検出電流に基づく第一の気体検出器出力V1からオゾンによる検出電流に基づく第二の気体検出器出力V2を減算することによって酸性気体に基づく酸性気体濃度に対応する出力Vが得られる。
その結果、本発明の測定装置では、酸性気体検出装置の出力信号に含まれているオゾンの検出信号を相殺することによって、低濃度のフッ化水素等の酸性気体濃度の測定が可能となる。
【0021】
図2は、本発明の酸性気体濃度測定装置に用いる気体検出器の一実施例を説明する図である。
気体検出器3は、検出槽5の一端に酸性気体、オゾンを透過する気体透過性膜7を有し、検出槽5内には電解液9を有している。また、気体透過性膜7は、その周囲を気体不透過性膜6によって覆われた状態で取り付け部材8によって検出槽5に取り付けられている。このために、気体透過性膜7と大気との接触面積が小さくなるために、大気中の二酸化炭素の吸収量を少なくし電解液の組成の変化を小さくすることができる。
【0022】
また、気体透過性膜7に近接して作用極11が配置され、気体透過性膜7と作用極11の間に電解液の液膜12が形成される。
気体透過性膜7は、酸性気体、オゾンに対して長期にわたり安定な特性を示すフッ素樹脂製の多孔性膜を用いることができる。具体的には、平均孔径0.1μm〜5.0μmの細孔径を有し、膜厚が0.05mm〜0.3mmのポリテトラフルオロエチレン製の多孔性膜を挙げることができる。
気体透過性膜7に近接して配置される作用極11には金、白金電極等の電解液中において分極した場合にも特性が安定した電極を用いることができる。また、作用極と電解液との接触面積を大きくするために、作用極の表面に凹凸を形成したものであっても良い。
【0023】
また、電解液9中には、対極13および参照電極15が配置される。対極13としては、電解液中において安定なものであれば任意のものを用いることができる。具体的には、白金、銀等の金属を挙げることができるが、特に銀は電解液中のヨウ素によって表面にヨウ化銀を生成し、安定な銀・ヨウ化銀電極として機能するのでヨウ化物イオンが寄与する反応の対極としては安定な電位を示すので好適である。
対極として用いる銀電極として銀の線材等を用いた場合には、酸性気体の検出器のエージング中には、表面にヨウ化銀が析出し、銀・ヨウ化銀電極として作用するが、予め銀をヨウ化物イオンが存在する電解液中において陽極として通電して表面にヨウ化銀を析出させたものであっても良い。
また、対極として用いる銀・ヨウ化銀電極は、検出時に流れる電流によって電位の変化の影響を受けないようにするために表面積が大きなものを用いることが好ましく、線状の電極である場合には、螺旋状等としたものが好ましい。
【0024】
更に、電解液中には、電位の基準となる参照電極15が配置される。参照電極15としては、ヨウ化物イオンが存在する電解液中において安定な基準電極として作用する銀・ヨウ化銀電極を使用することができる。銀・ヨウ化銀電極からなる参照電極は、ヨウ化物イオンが存在する電解液中において、銀を陽極として通電することによって作製することができる。
【0025】
また、電解液9中には、電解液のpHの調整によって、酸性気体あるいはオゾンを検出していない場合に検出される電流である暗電流を調整することができる。電解液のpHの調整は炭酸カリウムの添加によって行うことができる。
電解液のpHは9よりも大きく12よりも小さい範囲に調整することが好ましく、pH9.5〜pH12とすることがより好ましい。
pHが9よりも小さい場合には、電解液中にヨウ素が析出し、ヨウ素の還元電流による暗電流が大きく、使用可能な電位範囲が存在しないか、あるいは電位範囲が小さいので好ましくない。また、pHが12よりも大きくなると出力が小さくなるとともに、検出電流の立ち上がりが遅くなるので実用的ではない。
【0026】
また、電解液中には、蒸発防止剤としてエチレングリコール、グリセリン等を添加しても良い。これによって孔径の大きな気体透過性膜を使用しても電解液の蒸散を抑制することができる。したがって、作用極近傍の電解液薄層の乾燥の問題点がなくなり、作用極電位を一定に保持することができる。
エチレングリコールは、電解液中に容量比で40%〜60%の含有量を有することが好ましい。40%以下では通常の使用環境下でも電解液量が減少し、また60%よりも大きくなると、電解液の粘性が大きくなるために、生成したヨウ素およびヨウ化物イオンの移動速度が遅くなり、テーリング現象すなわち測定電流の立ち下がり速度が非常に遅くなる。また、60%よりも大きくなると吸湿性が大となるために大気中の水分を吸収し、電解液量が増加するので好ましくない。
【0027】
参照電極15は、入力インピーダンスが大きな増幅器(図示せず)の一方の入力端子に接続され、その出力側に対極13が接続されており、作用極11の電位は参照電極15に対して一定の電位に保持される。また、増幅器(図示せず)の他方の入力端子に安定な可変電圧電源(図示せず)を接続した場合には、参照電極に対する作用極11の電位を任意の値に設定することができる。
作用極11には、電流増幅器(図示せず)に接続されて、検出槽内における遊離したヨウ素の還元電流が検出出力として取り出される。
【0028】
また、検出槽5の気相部10には、圧力調整部8が装着されている。圧力調整部8には、検出気体透過膜7よりも気体の透過性が大きな気体透過膜を用いることが好ましい。圧力調整部8を気相部10に設けたことによって、気体検出器を高湿度雰囲気で使用する場合、あるいはエチレングリコールの割合が多く吸湿性が大きな電解液を用いる場合の圧力平衡に有効である。その結果、検出気体透過膜7と作用極11とのの距離が一定に保持される。その結果、測定感度の変動が生じにくくなる。
【0029】
また、作用極11および対極13は電界効果トランジスタ等のスイッチング手段14に接続しても良い。スイッチング手段14によって作用極11と対極13との間が導通状態にされると、酸性気体の検出器の待機時に大気中から吸収した二酸化炭素によって作用極表面に析出したヨウ素をヨウ化物イオンに変換する閉回路が形成される。その結果、検出器の待機中において検出電流をゼロとすることができる。
また、対極として用いる銀・ヨウ化銀電極は、検出時に流れる電流によって電位の変化の影響を受けないようにするために表面積が大きなものを用いることが好ましく、線状の電極である場合には、螺旋状等としたものが好ましい。
なお、測定対象の酸性気体としては、上記フッ化水素、塩化水素等のハロゲン化水素以外に、分解、燃焼等により結果としてこれらの気体を生じる酸性気体、例えばフッ化カルボニル(COF2)等のフッ素化合物も対象とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示し、本発明を説明する。
実施例1
第一の気体検出器の作製
直径12mmの開口部に気孔径0.1μm、厚さ60μmのポリテトラフルオロエチレン製の多孔膜(住友電工製:FP−010)を装着し、作用極として金電極を備え、対極および参照電極として銀・ヨウ化銀電極を有する第一の気体検出器に、ヨウ素酸カリウム2.0g/l、ヨウ化カリウム7.8g/lの水溶液に、炭酸カリウムを加えてpH(9.6)に調製した電解液を入れた。
【0031】
第二の気体検出器の作製
直径12mmの開口部に気孔径0.1μm、厚さ60μmのポリテトラフルオロエチレン製の多孔膜(住友電工製:FP−010)を装着し、作用極として金電極を備え、対極および参照電極として銀・ヨウ化銀電極を有する第二の気体検出器に、ヨウ化カリウム7.8g/lの水溶液に、炭酸カリウムを加えてpH(9.6)に調製した電解液を入れた。
作製した第二の気体検出器の作用極の電位を変化させた場合の出力電流の変化を、0.3ppmのオゾン含有空気Dおよび空気Cを供給した場合について測定し、図3において、横軸に銀・ヨウ化銀電極に対する電位を、縦軸に電流値を示した。オゾン濃度が0.3ppmの空気Dでは、電位が0.1〜0.3Vの範囲で、一定の出力が得られることが示している。また、空気Cにあっても同様に一定の出力を示している。
【0032】
酸性気体の測定
第一の気体検出器、第二の気体検出器を近接して配置して、それぞれの作用極の電位を参照電極の銀・ヨウ化銀電極に対して、0.1〜0.3Vの範囲に保持してフッ化水素濃度が異なる試料気体を、流量0.5L/minで通気し、第一の気体検出器の出力電圧から第二の気体検出器の出力電圧を減算してフッ化水素濃度(指示値)として図4に示す。図4において、横軸には、試料気体をフッ化水素検知管(ガステック製検知管17L)で測定したフッ化水素濃度を示し、縦軸には第一の気体検出器と第二の気体検出器の出力電圧の差から求めた本発明の酸性気体濃度の指示値を記載した。これによると、気体濃度と指示値はほぼ線形の相関を示すことがわかった。
【0033】
比較例1
実施例1で作製した第一の気体検出器の電解液として、ヨウ化カリウム、ヨウ素酸カリウムと共にエチレングリコールを(80)質量%配合したものと、実施例1で作製した第一の気体検出器の電解液としてヨウ化カリウムに代えて臭化カリウムを用い、ヨウ素酸カリウムとともにエチレングリコールを(80)質量%配合したものとを作製して、フッ化水素濃度0.5ppmの試験気体に対する応答速度試験を行い、ヨウ化カリウムを配合したAと、臭化カリウムを配合したBとの応答速度の違いを図5に示す。
以上の実施例、比較例から、臭化カリウムを配合したBの応答速度は5分となり、ヨウ化カリウムを配合したAの応答速度(3分)よりも長くなることがわかった。
【符号の説明】
【0034】
1…酸性気体濃度測定装置、3…気体検出器、3a…第一の気体検出器、3b…第二の気体検出器、5,5a,5b…検出槽、7,7a,7b…気体透過性膜、9,9a,9b…電解液、11,11a、11b…作用極、13,13a、13b…対極、14…スイッチング手段、15,15a,15b…参照電極、17a、17b…増幅器、19a,19b…可変電圧電源、 21a,21b…増幅器、23a,23b…反転増幅器、25a,25b…電圧ホロア回路、27…減算回路、V1…第一の気体検出器の出力、V2…第二の気体検出器の出力、V…酸性気体濃度に対応する出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体透過性の隔膜を有する検出槽内に作用極、対極、参照電極を有し、ヨウ素酸イオン、およびヨウ化物イオンを含有する電解液を有する第一の気体検出器、および前記第一の気体検出器の電解液からヨウ素酸イオンを除いた電解液を有する光化学オキシダントを検出する第二の気体検出器のそれぞれに被検気体を導入し、前記第一の気体検出器の出力から前記第二の気体検出器の出力を減算して、酸性気体濃度を求めることを特徴とする酸性気体濃度測定方法。
【請求項2】
前記第一の気体検出器および前記第二の気体検出器の電解液のpHを9よりも大きく、12よりも小さい範囲に保持し、前記参照電極が銀・ヨウ化銀電極であって、前記作用極の電位を前記参照電極に対して0.1Vから0.3Vの範囲に維持した状態で前記作用極と前記対極の間に流れる電流を検出することを特徴とする請求項1記載の酸性気体濃度測定方法。
【請求項3】
気体透過性の隔膜を有する検出槽内に作用極、対極、参照電極を有し、ヨウ素酸イオン、およびヨウ化物イオンを含有する電解液を有する第一の気体検出器と、前記第一の気体検出器の電解液からヨウ素酸イオンを除いた電解液を有する光化学オキシダントを検出する第二の気体検出器と、前記第一の気体検出器の出力から前記第二の気体検出器の出力を減算する減算器と、を有することを特徴とする酸性気体濃度測定装置。
【請求項4】
前記第一の気体検出器および前記第二の気体検出器の電解液のpHが9よりも大きく、12よりも小さい範囲であり、前記参照電極が銀・ヨウ化銀電極であって、前記作用極の電位を前記参照電極に対して0.1Vから0.3Vの範囲に維持した状態で前記作用極と前記対極の間に流れる電流を検出することを特徴とする請求項3記載の酸性気体濃度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−220737(P2011−220737A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87837(P2010−87837)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(501149950)バイオニクス機器株式会社 (6)