説明

酸性雨自動測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フィールドにおいて連続的な自動測定を行い、毎回の連続分析のキャリー・オーバー(Carry Over)を除くための洗浄機構をもつ酸性雨自動測定装置に係わるものであり、詳しくは、雨水のイオン主成分をイオンクロマトグラフィー手法を用い、フィールドにおいて連続的な自動測定を行い、毎回の連続分析のキャリー・オーバーを除くための洗浄機構を持った酸性雨自動測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、地球温暖化、酸性雨の頻発、種々の化学物質による汚染等、地球規模汚染は大きな社会問題となっている。このような状況の中で、雨水の化学主成分の状態について的確な情報を得ることは、環境変化の把握とその対策のための重要な課題となっている。
【0003】従来、この種の技術においては、雨が降ると感雨センサがその時の雨を感知してロートカバーを開いて採水ロートを通して一定量の降雨毎に転倒マス雨量計でサンプリングする。このサンプリングした雨について、pH、温度、導電率が測定される。この後、サンプリングカップを介して雨水分析部でイオンクロマトグラフィー手法を用いて雨水中のイオン濃度が分析される。雨が止むと前記ロートカバーが閉じ純水で採水ロートからサンプリングカップまで全てのラインが洗浄される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の技術にあっては、洗浄に用いられた純水はドレインとして排出されるが、採水ロートからサンプリングカップまでのラインに残留した純水、又は次に雨が降りだしたときに溢れ落ちるロートカバーに付着した洗浄水が初期降雨の雨水と混じり、分析結果が実際の雨水のイオン濃度より低い値となるというような問題点があった。
【0005】図3は従来の技術の問題点の説明に供する図であり、洗浄液のイオン濃度への影響を示す実験値、即ち、採雨部分の洗浄を行った後に模擬雨水を採水ロートから注ぎ分析を行った結果である。
【0006】これによれば、一定濃度の模擬雨水を注いだにも係わらず分析回数1回目と2回目の分析は低いイオン濃度を示していることが分かる。初期降雨は酸性度が高く、初期降雨の高性度な分析が非常に重要であるところから、特にこの点が問題となる。
【0007】本発明は、従来の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、洗浄液として雨水に含まれない特定イオンを加えたものを用いて、この洗浄液の各分析に与える影響を調べることにより高精度な分析を行うことができるようにした酸性雨自動測定装置を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、降雨を感知する感雨センサ(1)、前記感雨センサからの信号に基づいて開閉動作するロートカバー(2)、該ロートカバーを開いて採取した雨を転倒マス雨量計(4)に導く採水ロート(3)、前記転倒マス雨量計で一定量の降雨毎にサンプリングした雨についてpH、温度、導電率を測定する手段(5〜7)、該手段で測定した後の雨をサンプリングするサンプリングカップ(9〜10)、該サンプリングカップから送られてくる雨水をイオンクロマトグラフィー手法で雨水中のイオン濃度を分析する雨水分析部、雨水に含まれない特定イオンを加えた洗浄液を貯蔵する洗浄液タンク11、該洗浄液タンクから送液される洗浄液を噴射する洗浄液噴射口12から成り、洗浄後の雨水測定時に洗浄液のキャリー・オーバーを雨水のイオン濃度と同時にイオンクロマトグラフィー手法で調べて雨水のイオン濃度分析結果の補正を行う酸性雨自動測定装置ものである。
【0009】
【作用】このような本発明では、フィールドにおいて連続的な自動測定を行って毎回の連続分析のキャリー・オーバーを除くための洗浄機構を持つ酸性雨自動測定装置の、そのとき用いられる洗浄液に雨水に含まれない特定イオンを加える。そして採雨部に、この雨水に含まれない特定イオンを加えた洗浄液を流して、洗浄液のキャリー・オーバーを雨水のイオン濃度と同時にイオンクロマトグラフィー手法を用いて調べて、イオンクロマトグラフィー手法を用いた雨水のイオン濃度分析結果の補正を行う。これによれば、より高精度な分析を可能とした酸性雨自動測定装置を実現することができる。
【0010】
【実施例】実施例に付いて図面を参照して説明する。尚、以下の図面において、図3と重複する部分は同一番号を付してその説明は省略する。
【0011】図1は本発明の具体的な実施例を示す図である。図2は本発明の説明に供する図である。
【0012】図1において、1は雨の降雨状況を感知する感雨センサ、2はロートカバー駆動モータMによって開閉動作するロートカバー、3は採水ロート、4は転倒マス雨量計、5はpH計、6は温度計、7は導電率計である。
【0013】8a〜8gは電磁弁、9は第1のサンプリングカップ(個々には9a〜9cとする)、10は第2サンプリングカップである。
【0014】11は雨水に含まれない特定イオンを加えた洗浄液が貯蔵される洗浄液タンク、12は洗浄液タンク11からポンプPを用いて送液される洗浄液を噴射する洗浄液噴射口である。13はドレイン口、14はイオンクロマトグラフィー手法を用いて雨水中のイオン濃度が分析するために図示しない雨水分析部へ被分析雨水を送出するための送出口である。
【0015】このような構成における動作は以下のようになる。
【0016】(イ)雨が降ると、感雨センサ1がその時の雨を感知して、ロートカバー駆動モータMを用いてロートカバー2を開いて雨を採取する。
【0017】(ロ)この採取した雨は採水ロート3を通して0.5mm降雨毎に転倒マス雨量計4でサンプリングされる。
【0018】(ハ)このサンプリングした雨は、pH計5、温度計6、導電率計7で夫々pH、温度、導電率が測定される。
【0019】(ニ)この測定の後、電磁弁8bを動作させて(この電磁弁を含めて各機構の動作をさせるためのコントローラは図を省略する)1mm降雨毎に3つの第1サンプリングカップ9a〜9cに順次貯えられる。
【0020】(ホ)ここで、測定に先立って洗浄液による洗浄がなされているものとしたとき、第1サンプリングカップ9a〜9cに貯えられる最初の雨水は、採水ロート3から当該第1サンプリングカップまでのラインに残留した洗浄液、又は雨が降りだしたとき溢れ落ちるロートカバー2に付着した洗浄液のため、雨水中のイオンが薄まっている。
【0021】(ヘ)このような形で第1サンプリングカップ9a〜9cに貯えられた雨水は、夫々電磁弁8d(8e,8f)により、1カツプ分ずつ第2サンプリングカップ10に貯えられた上で電磁弁8gを開いて図示しない雨水分析部へと送られる。
【0022】(ト)雨水分析部ではイオンクロマトグラフィー手法を用いて、送られてきた液について、雨水中のイオン濃度と同時に、洗浄液に加えられたイオン濃度が分析され、雨水のイオン濃度分析結果の補正を行う。
【0023】(チ)雨が降り止むとこれを感雨センサ1で感知し、ロートカバー駆動モータMを動作させてロートカバー2を閉じる。
【0024】(リ)ロートカバー2を閉じた後に、洗浄液噴射口12からポンプPを用いて洗浄液タンク11から送液される洗浄液を噴射する。
【0025】(ヌ)この洗浄液によって採水ロート3から第2サンプリングカップ10まで全てのラインが洗浄される。
【0026】(ル)洗浄後の洗浄液はドレイン口13から排出される。
【0027】(オ)再び降雨があれば、以上の測定・分析動作が繰り返される。
【0028】ここで従来技術との差異がある洗浄液について説明する。
【0029】例えば、洗浄液にLiBr溶液を用いれば、Li-イオンもBr-イオンも雨水中に含まれないイオンなので、降雨中のイオン種成分濃度分析と同時に雨水分析部に送られてくる雨水中のBr-イオン濃度をイオンクロマトグラフィー手法を用いて調べて、雨水のイオン濃度分析結果の補正を行うことができる。
【0030】雨水の各イオン濃度の補正式は、 D’={DBr/(DBr−DBr’)}D …(1)
で表わすことができる。但し、D’は補正後のイオン濃度、DBrは洗浄液中のBr-イオン濃度、DBr’はBr-イオン濃度の分析結果、Dは雨水中イオン濃度の分析結果を夫々示す。
【0031】洗浄液キャリー・オーバーの補正実験結果は図2に示すようになる。図2は洗浄後の模擬雨水を採水ロート3から注ぎ分析を行ったものである。これを見ると明らかなように、1回目と2回目のBr-イオン濃度の分析結果から(1)式を用いて補正を行い、3回目の値により近い結果を得ることができる。
【0032】尚、本発明は以上説明したものに限定されるものではなく、洗浄液は、LiBr溶液以外にも雨水に含まれないイオンを含み、濃度が既知である溶液を色々選ぶことで更により高精度な分析を可能とする。
【0033】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように洗浄液として雨水に含まれない特定イオンを加えることで、洗浄液のキャリー・オーバーを調べ、イオンクロマトグラフィー手法を用いた雨水のイオン濃度分析結果の補正が可能となるから、より高精度な分析をすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の具体的な実施例を示す図である。
【図2】図2は本発明の説明に供する図である。
【図3】従来の技術の問題点の説明に供する図である。
【符号の説明】
1 感雨センサ
2 ロートカバー
3 採水ロート
4 転倒マス雨量計
11 洗浄液タンク
12 洗浄液噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】 降雨を感知する感雨センサ(1)、前記感雨センサからの信号に基づいて開閉動作するロートカバー(2)、該ロートカバーを開いて採取した雨を転倒マス雨量計(4)に導く採水ロート(3)、前記転倒マス雨量計で一定量の降雨毎にサンプリングした雨についてpH、温度、導電率を測定する手段(5〜7)、該手段で測定した後の雨をサンプリングするサンプリングカップ(9〜10)、該サンプリングカップから送られてくる雨水をイオンクロマトグラフィー手法で雨水中のイオン濃度を分析する雨水分析部、雨水に含まれない特定イオンを加えた洗浄液を貯蔵する洗浄液タンク11、該洗浄液タンクから送液される洗浄液を噴射する洗浄液噴射口12から成り、洗浄後の雨水測定時に洗浄液のキャリー・オーバーを雨水のイオン濃度と同時にイオンクロマトグラフィー手法で調べて雨水のイオン濃度分析結果の補正を行う酸性雨自動測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3018726号(P3018726)
【登録日】平成12年1月7日(2000.1.7)
【発行日】平成12年3月13日(2000.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−90657
【出願日】平成4年4月10日(1992.4.10)
【公開番号】特開平5−288744
【公開日】平成5年11月2日(1993.11.2)
【審査請求日】平成10年2月24日(1998.2.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【参考文献】
【文献】特開 平4−143659(JP,A)
【文献】特開 昭63−103969(JP,A)
【文献】実開 昭61−84525(JP,U)