説明

酸洗設備及び酸洗設備の停止時処理方法

【課題】酸洗設備が突発的に停止した場合であっても、鋼帯の破断を防止することが可能な酸洗設備、及び、酸洗設備における停止時処理方法を提供する。
【解決手段】酸洗設備1は、酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽10と、酸洗槽10の内部に配設されて洗浄液を放出する鋼帯洗浄ノズル30bと、酸洗槽10を貫通して酸洗槽10の外部から鋼帯洗浄ノズル30bに洗浄液を供給する配管32とを備えている。酸洗設備1の停止時処理方法は、酸性薬液によって酸洗される鋼帯2が酸洗槽10において停止したときに、酸洗槽10から酸性薬液を排出する排出開始工程と、鋼帯2に向けて洗浄液を放出する鋼帯洗浄工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗設備及び酸洗設備の停止時処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯の表面に形成されたスケールを除去する設備として、酸性薬液が貯留された連続酸洗設備が使用される。酸性薬液としては、例えば、塩酸や硫酸が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した90℃程度の高温となっている。
【0003】
酸性薬液を貯留する従来の酸洗槽は、酸洗槽の外形を形作る鉄皮タンクと、鉄皮タンクの内面を覆う耐熱性及び耐酸性を備えたライニング材と、ライニング材の内面に敷き詰められた耐熱性及び耐酸性を備えたレンガとで構成されている。ライニング材は、酸性薬液による鉄皮タンクの腐食を防止する。レンガは、酸性薬液からライニング材及び鉄皮タンクに伝わる熱を遮断して、熱によりライニング材及び鉄皮タンクが変形したり破損したりすることを防いでいる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−45071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、連続酸洗設備が突発的に停止したようなときには、酸洗槽内の鋼帯が例えば局部的に過酸洗となる部位が発生し、これを起因として鋼帯が破断してしまうことがある。酸洗槽の蓋部を開放して鋼帯を洗浄することも可能ではあるものの、酸洗槽の蓋部が開放されると酸ヒュームが拡散し、周辺の設備を腐食させてしまうだけでなく、酸洗槽付近での作業に困難を伴うといった問題があり、現実的ではない。
【0006】
本発明は、連続酸洗設備が突発的に停止した場合であっても、鋼帯の破断を防止することが可能な連続酸洗設備及び酸洗設備における停止時処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の酸洗設備は、鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、酸洗槽の内部に配設されて鋼帯に向けて洗浄液を放出する鋼帯洗浄ノズルと、酸洗槽を貫通して酸洗槽の外部から洗浄ノズルに洗浄液を供給する配管とを備える。
【0008】
本発明の第1の酸洗設備によれば、鋼帯に向けて洗浄液を放出する鋼帯洗浄ノズルを備えているため、酸洗槽の蓋部を開けることなく鋼帯表面から酸性薬液を洗い流すことが可能となる。これにより、酸洗設備が突発的に停止した場合であっても、鋼帯の過酸洗を防止でき、ひいては鋼帯の破断を防止することができる。しかも、蓋部を開放することなく酸洗槽内の鋼帯を洗浄することができるので、酸洗設備の復旧に向けて迅速に対応することが可能となる。
【0009】
また、従来のようなレンガを敷き詰めた酸洗槽や、レンガ以外の積層構造を有する酸洗槽では、酸洗槽を貫いて洗浄液用の配管を挿入すると、酸洗槽を構成するレンガ、ライニング材及び鉄皮タンクをすべて貫くように加工しなければならず、加工が困難である。更に、洗浄液用の配管を酸洗槽内のレンガ又はレンガ以外の積層部分に強固に据え付けることが容易でないため、使用時に洗浄液用の配管が破損するおそれがある。また、洗浄液用の配管を酸洗槽内のレンガ又はレンガ以外の積層構造に強固に据え付けることが容易でないため、最適な位置に洗浄液用の配管を固定することができず、洗浄性能が低くなる可能性がある。
【0010】
この点、酸洗槽を耐酸性樹脂製とすることにより、酸洗槽を単層で形成することができ、従来よりも酸洗槽を加工することが容易となるため、酸洗槽を貫いて洗浄用の配管を挿入することが容易となることに加えて、洗浄用の配管を最適な位置に据え付けやすくなる。耐酸性樹脂製の酸洗槽としてはポリプロピレン製の酸洗槽が例示される。
【0011】
本発明の第2の酸洗設備は、第1の酸洗設備において、酸洗槽に向けて洗浄液を放出する酸洗槽洗浄ノズルを更に備える。
【0012】
酸洗設備を定期的に点検または修理点検したり、緊急の際に不定期的に点検または修理したりする際には、酸洗槽の蓋部を開放して作業者が内部を点検する場合がある。しかし、従来のように酸洗槽内部にレンガを敷き詰めている場合には、たとえ酸洗槽内から酸性薬液の抜き取りを行ったとしても、レンガの気泡に酸性薬液がしみ込んでおり、更に、従来のようにライニング材及び鉄皮タンクなどを積層した構造を有している場合には、層間に酸性薬液が残る。つまり、従来の酸洗設備では、蓋部が開放されたときに、残存した酸性薬液からの酸ヒュームの発生を防ぐことができない。すなわち、酸ヒュームを抑制しながら酸洗槽の蓋部を開放することは実質的に不可能である。
【0013】
この点、本発明の第2の酸洗設備によれば酸洗槽が例えばポリプロピレンのような耐酸性樹脂によって形成されているため、レンガの気泡のような構造上不可避の残留場所がなく、酸性薬液の残留量を従来に比べて極めて微量にすることが可能となり、その結果、洗浄後に酸洗槽の蓋部を開放することによって、酸ヒュームの拡散を抑制することが可能となる。とくに、酸洗槽を例えばポリプロピレンのような耐酸性樹脂製とすることにより単層で形成することができるので、従来の酸洗槽と比べて酸性薬液の残留量を顕著に少なくすることができる。
【0014】
本発明の第1の酸洗設備の停止時処理方法は、酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、酸洗槽の内部に配設されて洗浄液を放出する洗浄ノズルと、酸洗槽を貫通して酸洗槽の外部から洗浄ノズルに洗浄液を供給する配管と、を備える酸洗設備において実行される。更に、本発明の第1の酸洗設備の停止時処理方法は、酸性薬液によって酸洗される鋼帯が酸洗槽において停止したときに、酸洗槽から酸性薬液を排出する排出開始工程と、鋼帯に向けて洗浄液を放出する鋼帯洗浄工程とを含む。耐酸性樹脂製の酸洗槽としてはポリプロピレン製の酸洗槽が例示される。
【0015】
本発明の第1の酸洗設備の停止時処理方法によれば、鋼帯に向けて洗浄液を放出する鋼帯洗浄工程を含んでいるため、酸洗槽の蓋部を開放する前に、酸ヒュームを発生させる酸性薬液を鋼帯表面から洗い流すことが可能となる。これにより、酸ヒュームの発生源となりえる酸性薬液を迅速に除去することができ、酸洗槽の開放による酸ヒュームの拡散が抑制される。その結果、蓋部が開放されたとしても、酸洗槽の周辺設備の腐食を抑えることができる。
【0016】
更に、本発明の第1の酸洗設備の停止時処理方法によれば、鋼帯の表面に局所的に残留した酸性薬液を洗い流すことにより、酸性薬液を排出した後において鋼帯が破断する可能性を極めて少なくすることが可能となる。
【0017】
本発明の第2の酸洗設備の停止時処理方法は、第1の酸洗設備の停止時処理方法において、酸洗槽に向けて洗浄液を放出する酸洗槽洗浄工程を更に含む。
【0018】
本発明の第2の酸洗設備の停止時処理方法によれば、耐酸性樹脂製の酸洗槽に向けて洗浄液を放出する酸洗槽洗浄工程を含むため、酸性薬液の残留量を極めて微量にすることが可能となる。また、従来のレンガの気泡のように構造上不可避の残留箇所がないため、迅速に酸性薬液を洗い流して迅速に酸洗槽内部へ立ち入ることが可能となる
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸洗設備が突発的に停止した場合であっても、鋼帯の破断を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、一実施形態に係る連続酸洗設備の概略構成図である。
【図2】図2は、図1の連続酸洗設備で実行する停止時処理方法を示すフロー図である。
【図3】図3は、従来の酸洗槽の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、一実施形態に係る連続酸洗設備1の概略構成図である。図1に示すように、連続酸洗設備1は、酸洗槽10、廃液ダクト11、廃液ピット12、洗浄ユニット13、残量検出ユニット14、及び、制御装置15により構成されている。
【0022】
本実施形態の酸洗槽10は、ポリプロピレン(PP:polypropylene)を材料として略直方体形状に形成されている。酸洗槽10は、従来のようにレンガ、ライニング材及び鉄皮タンクを積層して形成されているのではなく、ポリプロピレンにより単層で形成されている。酸洗槽10の略長方形板状の底部20は水平面に対して若干傾斜するよう配設されている。酸洗槽10の底部20の4つの直線状の端縁部から略垂直に4つの壁部21が立設されている。4つの壁部21の全上端部により長方形状に囲われた酸洗槽10上部の開口22は、蓋部23により開閉可能に覆われている。
【0023】
表面にスケールが形成された鋼帯2は、表面に形成されたスケールを除去すべく、内部に酸性薬液が貯留された酸洗槽10内を搬送される。酸性薬液としては、例えば、塩酸や硫酸、硝酸、フッ化水素酸(フッ酸)が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した90℃程度の高温となっている。
【0024】
酸洗槽10の壁部21の下部には廃液ダクト11につながった廃液口24が備えられている。酸洗槽10の底部20は上述したように傾斜しており、位置レベルの最も低い底部20の面と廃液口24の最下面とが面一、または、位置レベルの最も低い底部20の面よりも廃液口24の最下面の位置レベルの方が低くなるように、廃液口24が備えられている。
【0025】
また、酸洗槽10の底部20及び壁部21の各内面は、酸洗槽10内の流体を重力によって自然に廃液口24に誘導するように滑らかに形成されている。廃液ダクト11は、流体を酸洗槽10から廃液ピット12に誘導するように配設されている。廃液口24と廃液ダクト11との間は排出バルブ25が配設されている。排出バルブ25が閉状態のとき、酸洗槽10から廃液ダクト11に流体が流れない。排出バルブ25が開状態のとき、酸洗槽10から廃液ダクト11に流体が排出される。酸洗槽10から酸性薬液を抜き取る工程は、定期的に実施されるとともに、製造ラインの緊急停止時などにおいて不定期的に実施される。
【0026】
図3の概略断面図に例示した従来の酸洗槽50は、酸洗槽50の外形を形作る鉄皮タンク51と、鉄皮タンク51の内面を覆う耐熱性及び耐酸性を備えたゴム製のライニング材52と、ライニング材52の内面に敷き詰められた耐熱性及び耐酸性を備えたレンガ53と吸引ダクト54とにより構成されている。このような従来の酸洗槽50において、酸洗槽50の内側で最も下に位置する底面55付近に破線で示すような孔56を形成する場合、レンガ53、ライニング材52及び鉄皮タンク51の複数層を全て貫通するように孔56を形成しなければならず、加工が困難である。更に、加工した孔56周辺の強度が弱くなるおそれがあるため、孔56を通すことは現実的ではない。そのため、従来は、酸洗槽50の上部開口から酸洗槽50の内部の底面55まで、酸性薬液をポンプ等によって吸引するために吸引ダクト54が配設されていた。しかし、従来のこのような構成によると、吸引ダクト54の吸引口57を酸洗槽50の底面55付近まで低く配置しても、底面55と吸引口57との間に酸性薬液が残ることを避けられない。
【0027】
この点、本実施形態の連続酸洗設備1では、酸洗槽10の底部20が傾斜しているとともに、酸洗槽10の壁部21の下端に廃液口24が備えられている(位置レベルの最も低い底部20の面と廃液口24の最下面とが面一、または、位置レベルの最も低い底部20の面よりも廃液口24の最下面の位置レベルの方が低くなるように廃液口24が備えられている)。更に、酸洗槽10の底部20及び壁部21の各内面が、酸洗槽10内の流体を重力によって自然に廃液口24に誘導するように滑らかに形成されているため、酸洗槽10内面に付着した酸性薬液を従来よりも残りにくくすることができる。
【0028】
ただし、重力によって酸性薬液を廃液口24に導くだけでは、底部20、壁部21及び蓋部23の各内面を含む酸洗槽10の内面、並びに、鋼帯2の表面に酸性薬液が残る。その対策として、本実施形態の連続酸洗設備1は、酸性薬液を抜き取った後に酸洗槽10の内面及び鋼帯2の表面を洗浄するために、洗浄ユニット13を備えている。
【0029】
洗浄ユニット13は、酸洗槽10内部に配設された複数の酸洗槽洗浄ノズル30aと、酸洗槽10内部に配設された複数の鋼帯洗浄ノズル30bと、酸洗槽10の外部に配置されて洗浄液を送り出すポンプ31と、ポンプ31から送り出される洗浄液を酸洗槽洗浄ノズル30a及び鋼帯洗浄ノズル30bに供給する複数の配管32と、各配管32の流量を調整する供給バルブ33とにより構成されている。酸洗槽洗浄ノズル30a、鋼帯洗浄ノズル30b及び配管32は、全て、耐酸性を有する樹脂を材料として形成されている。酸洗槽洗浄ノズル30a、鋼帯洗浄ノズル30b及び配管32は、互いに、接着又は捻じ込みにより接続されている。酸洗槽10内部に配設された部材には、樹脂に比べて耐酸性に劣る金属を使用しないことが好ましい。複数の酸洗槽洗浄ノズル30aは、底部20、壁部21及び蓋部23の各内面に、できるだけ万遍なく洗浄液をかけられるように適宜配設されている。複数の鋼帯洗浄ノズル30bは、酸洗槽10内部において搬送される鋼帯2の表面に、できるだけ万遍なく洗浄液をかけられるように適宜配設されている。ポンプ31及び供給バルブ33は、制御装置15から操作可能となっている。なお、洗浄液は、水であってもよいし、種々の薬品が含まれた流体であってもよい。
【0030】
酸洗槽洗浄ノズル30a及び鋼帯洗浄ノズル30bが酸洗槽10の内部に配設されているのに対し、ポンプ31は酸洗槽10の外部に配設されている。そのため、配管32は、酸洗槽10の壁部21を貫くように配設されている。酸洗槽10に単に穴を開けるだけでは酸洗槽10の内部から酸洗槽10の外部に酸性薬液及び酸ヒュームが漏れるおそれがある。そのため、本実施形態の酸洗槽10では、配管32と壁部21とを隙間が無いように結合している。配管32と壁部21との結合方法としては、配管32と壁部21とを溶着する方法、配管32と壁部21との間に他の部材を充てんする方法、配管32と壁部21とを隙間なく密着させる方法などが例示される。
【0031】
洗浄液によって洗い流された酸性薬液と洗浄液とを混合した廃液は、廃液ダクト11を通じて廃液ピット12に排出される。
【0032】
廃液ダクト11の途中には、残量検出ユニット14が配設されている。残量検出ユニット14は、酸洗槽10から廃液ピット12に向かう廃液の一部を分流させる分岐管40と、分岐管40によって分流された廃液を一時的に貯留する計測槽41と、計測槽41に貯留された廃液のph値を測定するPH計42とにより構成されている。PH計42で測定されたph値は、制御装置15に伝達される。計測槽41に流れ込んだ流体は、最終的に廃液ピット12に排出される。
【0033】
滑らかに形成された酸洗槽10の内面には、従来の酸洗槽の内面のように酸性薬液が残留する箇所がほとんど存在しないため、洗浄時間が増加すると、酸洗槽10内に残留している酸性薬液が徐々に減少していく。酸洗槽10内に残留している酸性薬液が減少すると、廃液に含まれる酸性薬液の量が減少する。廃液に含まれる酸性薬液の量が減少すると、廃液のph値が洗浄液のph値に近づく。すなわち、洗浄時間が増加すると、廃液のph値が酸性薬液のph値から徐々に洗浄液のph値に近づく。従って、残量検出ユニット14において、廃液のph値を計測することにより酸洗槽10内に残存する酸性薬液の残量を間接的に検出することができる。
【0034】
制御装置15は、排出バルブ25、ポンプ31、供給バルブ33及びPH計42を制御する。更に、制御装置15は、図示されていない搬送装置を制御することによって鋼帯2の搬送を制御するとともに、鋼帯2の搬送停止を検知する。更に、制御装置15は、連続酸洗設備1全体の動作を制御している。制御装置15は、例えば、汎用コンピュータによって構成されている。
【0035】
図2は、連続酸洗設備1の制御装置15が実行する停止処理方法のフロー図である。
【0036】
まず、制御装置15は、連続酸洗設備1の停止ひいては鋼帯2の停止を検出する(ステップS100)。鋼帯2の停止には、制御装置15の指示による停止、作業者の操作による停止、緊急停止など種々の停止が含まれる。
【0037】
制御装置15は、鋼帯2の停止を検出した場合、排出バルブ25を開状態にすることによって酸性薬液の排出を開始する(ステップS101)。排出バルブ25を開状態にすると、酸性薬液が重力により酸洗槽10から廃液ダクト11に流れ出る。
【0038】
次に、制御装置15は、酸洗槽洗浄ノズル30aから洗浄液を放出することにより、酸洗槽10の洗浄を開始する(ステップS102)。酸洗槽10の洗浄は、酸性薬液を酸洗槽10から排出している途中に開始してもよいし、酸性薬液を酸洗槽10から十分に排出した後に開始してもよい。酸洗槽洗浄ノズル30aから酸洗槽10の内面に洗浄液を放出すると、酸洗槽10の内面に残留している酸性薬液が徐々に除去される。
【0039】
次に、制御装置15は、鋼帯洗浄ノズル30bから洗浄液を放出することにより、鋼帯2の洗浄を開始する(ステップS103)。鋼帯2の洗浄は、酸性薬液を酸洗槽10から排出している途中に開始してもよいし、酸性薬液を酸洗槽10から十分に排出した後に開始してもよい。また、鋼帯2の洗浄は、酸洗槽10を洗浄した後に実行されてもよいし、酸洗槽10を洗浄する前に実行されてもよいし、酸洗槽10の洗浄中に実行されてもよい。鋼帯洗浄ノズル30bから鋼帯2に洗浄液を放出すると、鋼帯2の表面に残留している酸性薬液が徐々に除去される。
【0040】
次に、制御装置15は、酸性薬液が酸洗槽10に残留しているか検出する(ステップS104)。制御装置15は、PH計42において検出されたph値が所定範囲に入った場合に、酸洗槽10に酸性薬液が残留していないと判定する。なお、酸洗槽10内の酸性薬液の残量とph値との関係は、シミュレーション、実験及び事前検証などに基づいて、制御装置15の記憶装置に予めデータとして記憶されている。洗浄完了の判定基準となるph値は予め固定されていてもよく、適宜入力できるように形成されていてもよい。
【0041】
制御装置15は、酸洗槽10に酸性薬液が残留していないと判定した場合、酸洗槽洗浄ノズル30a及び鋼帯洗浄ノズル30bへの洗浄液の供給を停止することにより、洗浄を終了する(ステップS105)。
【0042】
次に、制御装置15は、蓋の開放が可能であることをランプやスピーカーなどの報知手段を使用して報知し(ステップS106)、連続酸洗設備1の停止時処理方法を終了する。なお、作業者がph値を確認して蓋部23の開閉を許可するようにしてもよい。
【0043】
仮に、鋼帯2の表面に酸性薬液が残留したまま鋼帯2が放置されると、酸洗槽内の鋼帯2が局部的に過酸洗となる部位が発生し、これを起因として鋼帯が破断してしまうことがある。また、酸洗槽10の蓋部23を開放したときに、鋼帯2から酸ヒュームが拡散し、周辺装置が腐食するおそれが高いだけでなく、酸洗槽付近での作業に困難を伴う。この点、本実施形態によれば、酸洗槽10の蓋部23を開放することなく酸洗槽10とともに鋼帯2を洗浄することによって、鋼帯2に残留する酸性薬液を極めて少ない量まで除去することが可能となる。とくに、突発的に連続酸洗設備1が停止した場合には、酸洗槽10の蓋部23を開放することなく鋼帯2を洗浄できる点においてメリットが大きい。
【0044】
洗浄ユニット13を使用して酸洗槽10及び鋼帯2を洗浄しながら、残量検出ユニット14を使用して酸洗槽10における酸性薬液の残量を把握することにより、酸洗槽10を開ける前に酸ヒュームの拡散量を予測することが可能となる。従って、酸性薬液が十分に洗い流されたことを確認してから酸洗槽10の蓋部23を開放することが可能となり、更に、酸ヒュームの拡散による周辺機器への影響を従来の連続酸洗設備より著しく減らすことが可能となる。
【0045】
更に、酸性薬液より低温の洗浄液によって酸洗槽10を洗浄することにより、酸洗槽10の温度を素早く下げることができるため、酸洗槽10の内部での作業が比較的容易になる。特に、ポリプロピレン製の酸洗槽10は、従来の酸洗槽より柔軟に伸縮するため、急速に温度を低下させても従来よりも破損するおそれが少ない。
【0046】
本実施形態の連続酸洗設備1及び連続酸洗設備1によって実行される停止時処理方法によれば、連続酸洗設備1が突発的に停止した場合であっても、蓋部23を開放することなく鋼帯2を洗浄できるので、過酸洗による鋼帯2の破断を防止することができる。加えて、蓋部23を開放する場合であっても、酸ヒュームによる酸洗槽周辺装置の腐食と酸洗槽付近での作業の困難性を軽減しながら迅速に酸洗槽10を開放することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の連続酸洗設備に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 連続酸洗設備
2 鋼帯
10 酸洗槽
11 廃液ダクト
12 廃液ピット
13 洗浄ユニット
14 残量検出ユニット
15 制御装置
20 底部
21 壁部
22 開口
23 蓋部
24 廃液口
25 排出バルブ
30a 酸洗槽洗浄ノズル
30b 鋼帯洗浄ノズル
31 ポンプ
32 配管
33 供給バルブ
40 分岐管
41 計測槽
42 PH計
50 酸洗槽
51 鉄皮タンク
52 ライニング材
53 レンガ
54 吸引ダクト
55 底面
56 孔
57 吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、
前記酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、
前記酸洗槽の内部に配設されて鋼帯に向けて洗浄液を放出する鋼帯洗浄ノズルと、
前記酸洗槽を貫通して前記酸洗槽の外部から前記洗浄ノズルに洗浄液を供給する配管と、を備える、
酸洗設備。
【請求項2】
前記酸洗槽に向けて前記洗浄液を放出する酸洗槽洗浄ノズルを更に備える
請求項1に記載の酸洗設備。
【請求項3】
酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、前記酸洗槽の内部に配設されて洗浄液を放出する洗浄ノズルと、前記酸洗槽を貫通して前記酸洗槽の外部から前記洗浄ノズルに洗浄液を供給する配管と、を備える酸洗設備において実行される、酸洗設備の停止時処理方法であって、
前記酸性薬液によって酸洗される鋼帯が前記酸洗槽において停止したときに、前記酸洗槽から前記酸性薬液を排出する排出開始工程と、
前記鋼帯に向けて前記洗浄液を放出する鋼帯洗浄工程と、を含む
酸洗設備の停止時処理方法。
【請求項4】
前記酸洗槽に向けて前記洗浄液を放出する酸洗槽洗浄工程を更に含む、
請求項3に記載の酸洗設備の停止時処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236459(P2011−236459A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107441(P2010−107441)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】