説明

酸窒化アルミニウムおよびその製造方法

【課題】 窒素ガスやアンモニアガス等を必要としない簡便な方法で製造できる酸窒化アルミニウム、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくともアルミニウム含有物と炭素含有物を含む原料配合物の充填層の内部に設けた炭素粉からなる層に通電し加熱して得ることを特徴とする酸窒化アルミニウムおよびその製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム含有物と炭素を使用した酸窒化アルミニウムおよびその合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸窒化アルミニウムは、高い耐熱衝撃性と耐熱性を有し、かつ耐酸化性に優れ、溶融金属との親和性が小さいなど、高温材料として優れた性質を有していることから、各種の耐熱材料への応用が期待されている。酸窒化アルミニウムは天然には産出しないので、これを工業材料として利用するには、人工的に合成することが必要となる。これまでに、その製造方法について研究が行われ、金属アルミニウムを直接窒化する方法や、アルミナと炭素とを窒素雰囲気で加熱する熱炭素還元窒化法による合成法が知られている。これらのうち、特に、アルミナと炭素とを窒素雰囲気で加熱する熱炭素還元窒化法は、原料にアルミナと炭素を使用することから原料コストを低く抑えることができる。また、アルミナと窒化アルミニウムの混合物や、金属アルミニウムとアルミナの混合物を、窒素雰囲気中で焼成する方法も知られている。
【0003】
例えば[特許文献1]には、アルミナと金属アルミニウムを混合し加圧成形して窒素雰囲気で焼成して窒化アルミニウム−酸窒化アルミニウム複合材料を得る方法が開示されている。また、[特許文献2]には、金属アルミニウムと水酸化アルミニウムとを含む成形物を窒化性雰囲気中で焼成して酸窒化アルミニウムを合成する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】 特開平10−291859号公報
【特許文献2】 特開平2007−261888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの方法は、窒素ガスやアンモニアガス等の中で加熱を行う必要があるため、加熱処理に要する費用が高くなり、設備投資費用も高額となる。その結果、得られる酸窒化アルミニウムは高価なものとなり、一般的な高温材料への用途拡大が阻害されるという課題がある。
【0006】
本発明は、これらの課題を解決することを意図し、特に、窒素ガスやアンモニアガス等を使用せずに酸窒化アルミニウムを合成する方法について検討を行い、またできるだけ簡便な方法で酸窒化アルミニウムを合成できる方法について鋭意検討した結果、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明の目的とするところは、窒素ガスやアンモニアガス等を必要とせず、簡便な方法で酸窒化アルミニウムを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る酸窒化アルミニウムは、前記目的を達成する技術的構成として、少なくともアルミニウム含有物と炭素含有物を含む原料配合物の充填層の内部に設けた炭素粉からなる層に通電し加熱して得ることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る酸窒化アルミニウムの製造方法は、同じく前期目的を達成するための技術的構成として、少なくともアルミニウム含有物と炭素含有物を含む原料配合物の充填層の内部に設けた炭素粉からなる層に通電して加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明の酸窒化アルミニウムおよびその製造方法は、アルミニウム含有物と炭素含有物からなる原料配合物の充填層の内部に設けた炭素粉からなる層に通電し加熱することで、窒素ガスやアンモニアガス等を必要とせず、簡便な方法で酸窒化アルミニウムの合成が可能となる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いる原料には、アルミニウム含有物と炭素含有物の配合物を使用する。アルミニウム含有物としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、金属アルミニウム等、後述する雰囲気条件下で酸窒化アルミニウムに変化するものであれば、任意のものが使用できる。これらの中でも、アルミナ、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムの使用が好適である。
【0012】
アルミナまたは水酸化アルミニウムとしては、精製された高純度のものを使用してもよく、また合成する酸窒化アルミニウムの用途に応じてばん土頁岩等の天然原料や、不純物を含む副生物や廃棄物などを用いてもよい。金属アルミニウムとしては、精製された高純度のものを用いてもよく、また合成する酸窒化アルミニウムの用途に応じて、アルミ缶破砕物やアルミニウム研削屑などの不純物を含む副生物や廃棄物を用いてもよい。
【0013】
また、本発明の原料配合物に用いる炭素含有物としては、鱗状黒鉛や土状黒鉛等の天然黒鉛、あるいはピッチ炭や樹脂炭、木炭、コークス、熱分解炭素などの炭素原料、あるいはビニル樹脂やフェノール樹脂、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンポリスチレンなど、あるいは木材や紙、綿など、後述する雰囲気条件で還元剤として働く炭素を生成する炭素含有物であれば、任意のものが使用できる。これらの中でも、コークスなどの炭素原料の使用が好適である。なお、該炭素含有物には炭酸塩は含まないものとする。
【0014】
本発明では、少なくとも前述のアルミニウム含有物と炭素含有物を含む原料配合物の充填層の内部に、炭素粉からなる層を設け、この炭素粉に通電して発熱させることで、原料配合物を加熱する。使用する炭素粉は導電性を有するものであれば任意のものが使用できるが、一般には鱗状黒鉛や土状黒鉛等の天然黒鉛、あるいはピッチ炭や樹脂炭、木炭、コークス、熱分解炭素等を用いることができる。この炭素粉からなる層に通電すると、電気抵抗加熱によって炭素粉の温度が上昇し、周囲の原料配合物が加熱される。この炭素粉からなる層の大きさは、特に限定されるものではなく、通電によって後述する高温を得ることができるものであれば、任意に決定することができる。
【0015】
原料配合物に含まれる炭素は、1000℃以上になると、該配合物の充填層内部の空隙に存在する大気中の酸素と反応して、COガスを生成する。従って、1000℃以上では、充填層内部の雰囲気はCOガスと窒素ガスで満たされることになる。この雰囲気において、温度が上昇して1300〜1500℃程度に達すると、原料配合物に含まれるアルミニウム含有物が酸化物でない場合にも、アルミニウム成分は酸化アルミニウムに変化する。COガスと窒素ガスで満たされた雰囲気条件下において、更に温度が上昇して1800℃以上になると、酸化アルミニウムは、充填層中の空隙に含まれる窒素ガスと反応して、酸窒化アルミニウムへと変化する。
【0016】
充填層内部の空隙に含まれる窒素ガスは、酸窒化アルミニウムの生成によって消費されるが、窒化反応の進行によって充填層内部の窒素分圧が低下した場合には、外部の大気から窒素ガスが拡散して充填層中へと進入し、窒化反応の継続に必要な窒素ガスが供給される。この場合に、外部の大気から進入してくる酸素ガスは、充填層中に含まれる炭素と反応してCOガスに変化するため、充填層の内部は上述の雰囲気条件が常に維持される。
【0017】
すなわち、本発明においては、窒素ガスやアンモニアガス等を用いることなく、反応が進行する充填層内部をCOガスと窒素ガスの混合雰囲気に維持することができ、また、窒化反応が進行して雰囲気中の窒素が消費された場合にも、大気中の窒素が拡散することで窒素ガスの継続的な供給が可能となり、酸窒化アルミニウムの合成が可能となる。
【0018】
アルミナの還元と窒化が一定以上に進行すると窒化アルミニウムが同時に生成する場合があるが、本発明の酸窒化アルミニウムの使用目的である一般高温材料用の用途には窒化アルミニウムが共存していてもよく、良好に使用することができる。
【0019】
また、合成物中に未反応のアルミナや炭素が残存する場合も考えられるが、例えば、本発明の酸窒化アルミニウムを炭素を含む耐火物等へ添加する場合には、これらの未反応物が残存していても何らさしつかえなく、良好に使用することができる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明の実施例を挙げ、本発明について具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0021】
図1に示す構成の炉を用いて加熱を行った。炉の底面と側面には耐火断熱れんがを設置し、上面は開放とした。まず、炉内の端部に黒鉛製の電極を設置し、適当な高さまで原料配合物を自然充填した後に、鱗状黒鉛粉末を帯状に中央に設置し、更にその上に原料配合物を自然充填して施工した。設置した黒鉛粉末の幅と高さは共に約15mmであった。黒鉛電極に電圧を印加した場合には、この黒鉛粉末層(抵抗芯)に電流が流れて発熱し、温度上昇によって近傍の原料が反応を起こすことになる。炉内には抵抗芯近傍(抵抗芯から約5mmの位置)と充填層の周辺部に熱電対を設置して、加熱中の温度変化を追跡した。
【0022】
原料配合物には、表1に示す配合比率(質量%)で混合した粉末を用いた。アルミナには純度99質量%、20μm以下のものを使用し、また、メタカオリンにはアルミナ含有量45質量%、シリカ含有量52質量%、加熱減量1質量%未満、平均粒径1.3ミクロンのものを使用した。
【0023】
【表1】

【0024】
通電加熱は、炉の両端に設置した黒鉛電極間に50〜120Vの交流電圧を印加し、10〜20Aの電流値となるように電圧を変化させながら行った。表1に示す実施例1、実施例2ともに、約30分で中心部の熱電対の指示温度が2000℃に達した。通電加熱終了後は電圧の印加を停止し、室温まで放冷した後に、断熱材を取り外して内容物を回収した。充填層の周辺部は温度が低いので原料が未反応のまま残存するが、中心部には温度上昇によって反応が進行し、化合物が形成された。
【0025】
表1に、中心部に生成した反応生成物を回収して、粉末X線回折によって鉱物組成を調査した結果を示す。表1に示す実施例1、実施例2は酸窒化アルミニウム(AlON)と窒化アルミニウム(AlN)が、また、実施例3は酸窒化アルミニウムが検出され、アルミナおよびシリカは残存していないことが分かる。
【0026】
以上のことより、本発明の酸窒化アルミニウムおよびその製造方法は、窒素ガスやアンモニアガス等による雰囲気制御を必要とせず、簡便な方法で酸窒化アルミニウムの合成が可能となることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の酸窒化アルミニウムは、高温用セラミックス構造材料用や高温用セラミックス耐食性材料、あるいは耐摩耗性セラミックス材料等へ応用でき、また耐火物の原料としての利用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 加熱炉の構成図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有物と炭素含有物とを含む原料配合物の充填層の内部に設けた炭素粉からなる層に通電加熱する方法で得ることを特徴とする酸窒化アルミニウム
【請求項2】
アルミニウム含有物と炭素含有物とを含む原料配合物の充填層の内部に、炭素粉からなる層を設け、この層に通電加熱することを特徴とする酸窒化アルミニウムの製造方法

【図1】
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