説明

酸素カニューラ

【課題】高濃度酸素を吸入する酸素吸入療法を受けている患者が誤ってカニューラに引火させた場合、カニューラの火炎伝播防止を図った酸素カニューラを提供する。
【解決手段】酸素供給源から酸素ガスを供給するカニューラであり、該カニューラの酸素供給路に酸素ガスが通過可能な金網部を備えるプラスチック製の酸素カニューラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を使用者に供給する酸素カニューラに関する。更に詳細には、酸素カニューラに火炎伝播防止手段を装着したプラスチック製の酸素カニューラに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肺気腫、肺結核後遺症や慢性気管支炎などの慢性呼吸器疾患に苦しむ患者が増加する傾向にあり、肺における炭酸ガスと酸素ガスの交換機能が低下したこれら患者に対して高濃度酸素を吸入させる酸素吸入療法が行われている。治療用の酸素ガス或いは濃縮酸素気体の供給源としては、高圧酸素ボンベ、液体酸素ボンベ、酸素濃縮装置等の使用が挙げられる。この療法の場合は、注射などの医療機関における侵襲的な治療操作でなく、長時間にわたり酸素濃縮装置などを用いて高濃度酸素を患者呼吸によって吸入する治療法である為に、治療を在宅で行うことが薬事法で認められている。
【0003】
酸素治療において、カニューラより酸素を吸引しながらタバコを吸うなど火を扱うことは禁止されているが、この疾患は喫煙に起因して発症するケースが多いこと、長時間に亘り酸素の供給を受ける為に、ついうっかり或いは一寸なら良いだろうと考えて酸素を吸引しながら喫煙など火を扱うことがある。高濃度の酸素の雰囲気である為に空気中では難燃性のプラスチック製カニューラでも大きな火炎と共に引火し火災が拡大することがある。
【0004】
これらの火災拡大を防ぐ手段として、特許第2598126号公報には、カニューラを難燃性繊維で被覆する、特開2006-280470号公報には、カニューラに不燃材料の継手を挿入する等の方法により火災の拡大を防ぐことに主眼をおいた提案がされている。
【0005】
【特許文献1】特許第2598126号公報
【特許文献2】特開2006-280470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
在宅酸素療法では、酸素濃縮装置や酸素ボンベ、液体酸素ボンベ等の医療用酸素ガス供給源から90〜100%の酸素ガスが、カニューラを介して患者の鼻孔に供給される。カニューラは、塩化ビニールやシリコン等のプラスチック材料で製造されている。大気中の21%の酸素濃度環境下では、塩化ビニール等は難燃性の材料の該当するが、100%酸素が供給される環境下ではほぼ全てのプラスチック材料は燃焼する。
【0007】
したがって、酸素濃縮装置等の取扱いに際しては、酸素吸入状態での喫煙や火気使用を厳禁する旨の警告がメーカーや医師、消防署等からなされているが、残念ながら取扱い方法を守らずに火災を起こすケースが存在する。
【0008】
酸素カニューラを鼻に装着した状態で、カニューラ先端に裸火が近づくことは通常はないが、タバコを吸っている間にタバコが発火し、それに続いてカニューラに引火し火災を引き起こすケースが多い。カニューラに一度引火した火は酸素の供給が停止するまで大きな火炎を生じつつ燃え続ける。特にプラスチック製カニューラの酸素出口より火炎がチューブ内に入った場合、酸素の供給が継続的にチューブで供給されると、非常な速度でチューブ内表面を火炎が走るかたちで火災を拡大させてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はプラスチック製の酸素カニューラの内部に金網を装着することで、酸素カニューラに引火した場合の延焼防止を実現することを見出したものである。
【0010】
すなわち本発明は、酸素供給源から酸素ガスを供給するカニューラであり、該カニューラの酸素供給路に酸素ガスが通過可能な金網部を備えるプラスチック製の酸素カニューラを提供する。
【0011】
また本発明は、かかる金網部が、酸素カニューラの酸素噴出口部、または酸素供給源から延びる1本のカニューラが左右耳掛け用に2本に分岐する分岐部、或いは、カニューラ同士またはカニューラと酸素供給源とを接続する接続部に設けられた酸素カニューラであり、特に金網を内部に装着した金属パイプで構成された酸素カニューラを提供する。
【0012】
また本発明は、かかる金網部の金網の金属成分が、鉄、ステンレス、銅、黄銅、チタン或いはそれらの合金からなり、特に該金網の目開きが1.0mm以下である酸素カニューラを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸素カニューラは、酸素供給経路内部に金網部を設けることで酸素ガスの供給を確保すると共に、カニューラに引火した場合、カニューラの内部を走る火炎の伝播を金網部で遮断することができ、上流側への延焼、火災の拡大防止を図ることができる。また、鼻プロングなど酸素噴出口部の金網を設けることで、酸素カニューラへの引火そのものを抑制することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
在宅酸素療法等の酸素吸入には、一般に酸素カニューラ(鼻孔カニューラ)が使用されている。かかるカニューラは、酸素濃縮器や酸素ボンベから供給される酸素ガスを使用者の鼻孔まで導くために、途中で分岐したカニューラを左右両耳に掛けて固定し、患者鼻腔に挿入する酸素供給管(鼻プロング)を有する酸素噴出口部にカニューラ開放端を接続することで酸素ガスを使用者鼻孔に供給する用具である。
【0015】
図1に示すように酸素濃縮器や酸素ボンベ、液体酸素容器などの酸素供給装置より、塩化ビニールやシリンコン等のチューブを延ばし、延長部4を通じて高濃度酸素が供給された酸素は、分岐部2で更に延長或いは分岐され首周部3を回って、酸素噴出口1より鼻に酸素が供給される。
【0016】
図2は、プラスチック製カニューラの酸素噴出口部1の実施態様を示す概略図であり、ポリエチレン樹脂製の酸素噴出口部1の鼻孔に挿入される2本の鼻プロング部内部に目開き0.75mmのステンレス製の円形状金網1aを装着した。また、図3は酸素噴出口部1と2本の分岐カニューラとの接続部内部に目開き0.75mmのステンレス製の円形状金網1bを装着した。かかる酸素噴出口部1を金属管で作成すれば、酸素自体には燃焼性がないため、引火することはない。一方、酸素噴出口部1は鼻孔や鼻周辺に直接接触し、金属の冷感等、装着時の患者の違和感を避けるために樹脂材料を採用し、酸素噴出口部、特にその先端である鼻プロング部にステンレス金網を採用することで、引火防止効果を実現することができる。
【0017】
図4は、酸素供給装置から延長された1本の酸素カニューラから患者に装着する際に首及び耳に掛けて固定するのカニューラ分岐部2の内部に目開き1mmのステンレス製金網2aを装着したものである。接続部自体は通常、樹脂製であるが、金属材料を使用することにより、酸素カニューラに引火し、上流側に延焼してきた炎を遮断することが出来る他、その内部金網を装着することで、カニューラ内面を走る炎の遮断を実現し、類焼を防止することが可能となる。
【0018】
その他、酸素カニューラ2本或いはそれ以上接続して使用する延長チューブの接続部や酸素カニューラと酸素供給源との接続部(図示せず)にも同様の金属製の接続部内部に金網を装着したものを使用することで酸素供給源への類焼を防止することができる。
【0019】
使用する金網は、ステンレス製のほか、鉄、銅、黄銅、チタン或いはそれらの合金材料のものを使用することができる。金網の目開きは、炎の遮断効果と、通常の酸素供給時の圧力損失への影響を考慮して設定される。炎の遮断効果を得る為には金網の目開きが1mm以下、供給時の圧力損失を考慮し目開き0.5mm〜1mmの金網を用いるのが、好ましい。金網1枚よりも複数毎重ねて使用する方が、当然に炎の遮断効果は向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施態様である酸素カニューラの概略斜視図である。
【図2】本発明の実施態様である酸素カニューラの酸素噴出口部1の概略図である。
【図3】本発明の別の実施態様である酸素カニューラの酸素噴出口部1の概略図である。
【図4】本発明の実施態様である酸素カニューラの分岐部2の概略図である。
【符号の説明】
【0021】
1 酸素カニューラの酸素噴出口部
1a 金網
1b 金網
2 酸素カニューラの分岐部
2a 金網
3 酸素カニューラの首周り部
4 酸素カニューラの延長部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素供給源から酸素ガスを供給するカニューラであり、該カニューラの酸素供給路に酸素ガスが通過可能な金網部を備えるプラスチック製の酸素カニューラ。
【請求項2】
該金網部が、酸素カニューラの酸素噴出口部、酸素供給源から延びる1本のカニューラが左右耳掛け用に2本に分岐する分岐部、或いは、カニューラ同士またはカニューラと酸素供給源とを接続する接続部に設けられた請求項1記載の酸素カニューラ。
【請求項3】
該金網部が、金網を内部に装着した金属管で構成された請求項2記載の酸素カニューラ。
【請求項4】
該金網部の金網の金属成分が、鉄、ステンレス、銅、黄銅、チタン或いはそれらの合金からなる請求項3に記載の酸素カニューラ。
【請求項5】
該金網の目開きが1.0mm以下である請求項4の記載の酸素カニューラ。
【請求項6】
該金網部が、金属繊維を綿状に構成して内部に装着した請求項1から5の何れかに記載の酸素カニューラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−183545(P2009−183545A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27814(P2008−27814)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)