説明

酸素欠乏型マグネタイト製造装置

【課題】高温場を利用せずとも、簡易な構成で、酸素欠乏型マグネタイトを容易に製造することが可能となる。
【解決手段】酸素欠乏型マグネタイト製造装置100は、受光した光10を内部118に透過させる受光面部112aを有する反応容器110と、反応容器110に収容されるマグネタイト120と、反応容器110に収容される光触媒130と、反応容器110に収容され、還元剤としての機能を有する気体である還元ガス140と、を備え、マグネタイト120は、光触媒130によって還元ガス140との反応が促進されて、酸素欠乏型マグネタイト150に変換される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を還元して炭素に変換する酸素欠乏型マグネタイト製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年問題となっている地球温暖化は、人間の産業活動に伴って大気中に排出される温室効果ガスによって引き起こされている。つまり、大気中の温室効果ガス量が増加することで、地球温暖化が促進されてしまう。
【0003】
温室効果ガスとして、特に量が多い二酸化炭素を大気中から除去する技術として、酸素欠乏型マグネタイトに二酸化炭素を接触させることにより、二酸化炭素を還元して炭素に変換する技術が知られている。このような酸素欠乏型マグネタイトを製造する技術として、例えば、350℃の水素下でマグネタイトを保持しておく技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−83159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような特許文献1の技術では、高温の水素を利用するため、耐熱性を有する専用の容器が必要となり、コスト高となってしまっていた。また、水素を高温にするために利用されるエネルギーを生成する際に化石燃料を燃焼させると、その燃焼にコストを要するばかりか、二酸化炭素が発生してしまい本末転倒となってしまう。
【0006】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、高温場を利用せずとも、簡易な構成で、酸素欠乏型マグネタイトを容易に製造することが可能な酸素欠乏型マグネタイト製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の酸素欠乏型マグネタイト製造装置は、受光した光を内部に透過させる受光面部を有する反応容器と、反応容器に収容されるマグネタイトと、反応容器に収容される光触媒と、反応容器に収容され、還元剤としての機能を有する気体である還元ガスと、を備え、マグネタイトは、光触媒によって還元ガスとの反応が促進されて、酸素欠乏型マグネタイトに変換されることを特徴とする。上記還元ガスは、水素または窒素であってもよい。
【0008】
上記酸素欠乏型マグネタイト製造装置は、反応容器を回転する回転装置をさらに備え、回転装置は、反応容器の回転処理によって、反応容器に収容されたマグネタイトおよび光触媒を撹拌するとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温場を利用せずとも、簡易な構成で、酸素欠乏型マグネタイトを容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】酸素欠乏型マグネタイト製造装置の斜視図である。
【図2】酸素欠乏型マグネタイト製造装置の概略的な構造を説明するための説明図である。
【図3】変形例の酸素欠乏型マグネタイト製造装置の概略的な構造を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
(酸素欠乏型マグネタイト製造装置100)
図1は、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100の斜視図であり、図2は、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100の概略的な構造を説明するための説明図である。図1に示すように、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100は、反応容器110と、マグネタイト120と、光触媒130と、還元ガス140とを含んで構成される。本実施形態では、説明の便宜上、マグネタイト120および光触媒130を反応容器110に対して大きく表現しているが、実際は、例えば、反応容器110の底面積が1m程度であり、マグネタイト120および光触媒130は粒径が1mm程度の粒子である。
【0013】
反応容器110は、図1、図2中Y軸方向に対向配置された受光面部112aおよび底面部112bと、図1、図2中X軸方向に対向配置された右側面部114aおよび左側面部114bと、図1中Z軸方向に対向配置された正面部116aおよび背面部116bとを備えている。
【0014】
受光面部112aは、アクリル樹脂や、ガラス等で構成されており、受光した光10(太陽光や紫外線)を内部118に透過させる。受光面部112aは、少なくとも、後述する光触媒130を活性化させることができる波長(例えば、350nm)を含む光10を内部118に透過させることができればよい。
【0015】
なお、本実施形態において、底面部112b、右側面部114a、左側面部114b、正面部116a、背面部116bも、受光面部112aと同様に光触媒130を活性化させることができる波長を含む光10を内部118に透過させる、アクリル樹脂やガラス等の材質で形成されている。
【0016】
反応容器110の内部118には、マグネタイト120および光触媒130が収容されるとともに、還元ガス140が収容(充填)される。ここで、マグネタイト120と光触媒130とは、これら両者が好適に接触するように、満遍なく混合された状態で反応容器110に収容される。また、反応容器110に収容されるマグネタイト120と光触媒130との混合物の、図1、図2中Y軸方向の深さは、受光面部112aを通過した光10が、底面部112bに位置する光触媒130に十分到達する程度であるとよい。
【0017】
マグネタイト(Fe)120は、磁鉄鉱とも呼ばれる化合物である(図1、図2中、黒い丸で示す)。
【0018】
光触媒130は、例えば、酸化チタン(TiO)を含んで構成される(図1、図2中、白い丸で示す)。酸化チタンの結晶形や結晶系に限定はなく、アナターゼ型(正方晶系)、ルチル型(正方晶系)、ブルカイット型(斜方晶系)のいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0019】
還元ガス140は、還元剤としての機能を有する気体であって、例えば、水素(H)、窒素(N)、一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)であり、好ましくは、水素または窒素である。
【0020】
そして、図2(a)に示すように、反応容器110に、マグネタイト120および光触媒130を収容するとともに、還元ガス140を充填した状態で、受光面部112aから光10が入射されると、光触媒130によって、マグネタイト120と還元ガス140との還元反応が促進される。例えば、還元ガス140が水素である場合、以下の式(1)に示すように、マグネタイト120と還元ガス140との還元反応が進行する。
【化1】

…式(1)
そうすると、図2(b)に示すように、マグネタイト120は、酸素欠乏型マグネタイト(Fe4-n)150に変換される(図2中、ハッチングの丸で示す)。なお、酸素欠乏型マグネタイト150は、酸素不足型マグネタイト、酸素欠陥型マグネタイト、酸素欠損型マグネタイト、または、金属過剰型マグネタイトと呼ばれることもある。
【0021】
以上説明したように、本実施形態にかかる酸素欠乏型マグネタイト製造装置100によれば、光10を照射するだけで、マグネタイト120を還元して酸素欠乏型マグネタイト150に変換することができる。したがって、低コストで大量の酸素欠乏型マグネタイト150を製造することが可能となる。また、高温場を利用する必要がない、すなわち、何らの加熱を必要としないため、化石燃料を燃焼させる事態を回避することができ、新たな二酸化炭素の発生を抑制することが可能となる。
【0022】
(変形例:酸素欠乏型マグネタイト製造装置200)
図3は、変形例の酸素欠乏型マグネタイト製造装置200の概略的な構造を説明するための説明図である。図3に示すように、酸素欠乏型マグネタイト製造装置200は、反応容器210と、回転装置300と、マグネタイト120と、光触媒130と、還元ガス140とを含んで構成される。なお、上述した酸素欠乏型マグネタイト製造装置100と実質的に機能が等しい構成については、上述の実施形態で既に述べているので、同一の符号を付して説明を省略する。
【0023】
反応容器210は、円筒形状を有する受光面部212と、図3中X軸方向に対向配置された右側面部214aおよび左側面部214bとを備えている。
【0024】
受光面部212は、アクリル樹脂や、ガラス等で構成されており、受光した光10(太陽光や紫外線)を内部218に透過させる。受光面部212は、少なくとも、光触媒130を活性化させることができる波長(例えば、350nm)を含む光10を内部218に透過させることができればよい。また、右側面部214aおよび左側面部214bも、受光面部212と同様に光触媒130を活性化させることができる波長を含む光10を内部218に透過させる、アクリル樹脂やガラス等の材質で形成されている。
【0025】
変形例においても、反応容器210にマグネタイト120および光触媒130が収容されるとともに、還元ガス140が収容(充填)されることになる。
【0026】
回転装置300は、モータ310と、第1プーリ312と、ベルト314と、第2プーリ316と、軸固定ローラ318と、フリーローラ320と、を含んで構成され、受光面部212すべてにおいて満遍なく光を受光するように反応容器210の長軸を回転軸として反応容器210を回転させる(図3中白抜き矢印で示す)。
【0027】
具体的に説明すると、モータ310によって第1プーリ312が回転すると、ベルト314を通じて第1プーリ312に接続された第2プーリ316が回転するとともに、その回動力を受けて、第2プーリ316と同軸で連結された軸固定ローラ318が回転する。ここで、反応容器210は、軸固定ローラ318およびフリーローラ320に当接支持されているため、第2プーリ316の回転によって、反応容器210が回転することになる。
【0028】
酸素欠乏型マグネタイト製造装置200は、回転装置300を備えることにより、反応容器210が回転し、反応容器210の内部218に収容されたマグネタイト120および光触媒130が攪拌されることになる。そうすると、反応容器210に収容されるマグネタイト120と光触媒130との混合物の、図3中Y軸方向の深さが、受光面部212を透過した光10が到達しない程度であったとしても、回転装置300によって攪拌されるため、いずれは光触媒130に光10が到達することになる。したがって、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100と比較して、大量のマグネタイト120を効率よく酸素欠乏型マグネタイト150に変換することが可能となる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態および変形例にかかる酸素欠乏型マグネタイト製造装置100、200によれば、光10を照射するだけといった簡易な構成で、マグネタイト120を還元して酸素欠乏型マグネタイト150に変換することができる。したがって、低コストで大量の酸素欠乏型マグネタイト150を製造することが可能となる。
【0030】
酸素欠乏型マグネタイト150は、以下の式(2)、(3)に示すように、二酸化炭素を還元して炭素に変換する機能を有する。したがって、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100、200を利用して、酸素欠乏型マグネタイト150を製造することで、大気中の二酸化炭素を炭素に変換できる、すなわち、大気中の二酸化炭素を除去することができ、地球温暖化を抑制することが可能となる。
CO+Fe(4−n)→CO+Fe
…式(2)
CO+Fe(4−n)→C+Fe
…式(3)
【0031】
また、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100、200は、光10以外のエネルギーを利用せずとも酸素欠乏型マグネタイト150を製造することができるため、化石燃料を燃焼させる必要がなく、さらなる二酸化炭素の発生を抑制することが可能となる。
【0032】
なお、酸素欠乏型マグネタイト150に二酸化炭素を接触させることで得られた炭素は、別途燃料として利用することができる。例えば、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100、200で製造した酸素欠乏型マグネタイト150と光触媒130の混合物にそのまま二酸化炭素を接触させる場合、これによって得られた、炭素が析出したマグネタイトと、光触媒130との混合物をそのまま燃料として利用することができる。この場合、炭素が析出したマグネタイトと、光触媒130との混合物を燃焼させると、マグネタイト120と光触媒130との混合物に戻るため、マグネタイト120と光触媒130との混合物を、還元ガス140とともに反応容器110、210に収容して光10を受光させれば、酸素欠乏型マグネタイト150と光触媒130の混合物を繰り返し製造することが可能となる。
【0033】
また、磁力選別機を利用することで、酸素欠乏型マグネタイト製造装置100、200で製造した酸素欠乏型マグネタイト150と光触媒130の混合物を分離することも可能である。この場合、酸素欠乏型マグネタイト150のみを二酸化炭素に接触させることができ、これによって得られた、炭素が析出したマグネタイトをそのまま燃料として利用することができる。こうすることで、炭素が析出したマグネタイトと光触媒130との混合物を燃焼させる場合と比較して、燃焼効率を向上させることが可能となる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0035】
例えば、上述した酸素欠乏型マグネタイト製造装置100では、マグネタイト120と光触媒130とを混合して反応容器110に収容する例について説明したが、混合せずともよい。例えば、塗料状の光触媒130を底面部112bに塗布しておき、その上にマグネタイト120を分散させてもよい。
【0036】
また、反応容器110、210に収容するマグネタイト120や光触媒130は、両者が接触して、酸素欠乏型マグネタイト150に変換できれば、その粒径は限定されない。
【0037】
さらに、上述した回転装置300は、一例であって、反応容器210内のマグネタイト120および光触媒130に満遍なく光10を到達させるように、マグネタイト120および光触媒130を攪拌できれば、どのような機構であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、二酸化炭素を還元して炭素に変換する酸素欠乏型マグネタイト製造装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
100、200 …酸素欠乏型マグネタイト製造装置
110、210 …反応容器
112a、212 …受光面部
118、218 …内部
120 …マグネタイト
130 …光触媒
140 …還元ガス
150 …酸素欠乏型マグネタイト
300 …回転装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光した光を内部に透過させる受光面部を有する反応容器と、
前記反応容器に収容されるマグネタイトと、
前記反応容器に収容される光触媒と、
前記反応容器に収容され、還元剤としての機能を有する気体である還元ガスと、
を備え、
前記マグネタイトは、前記光触媒によって前記還元ガスとの反応が促進されて、酸素欠乏型マグネタイトに変換されることを特徴とする酸素欠乏型マグネタイト製造装置。
【請求項2】
前記還元ガスは、水素または窒素であることを特徴とする請求項1に記載の酸素欠乏型マグネタイト製造装置。
【請求項3】
前記反応容器を回転する回転装置をさらに備え、
前記回転装置は、前記反応容器の回転処理によって、該反応容器に収容されたマグネタイトおよび光触媒を撹拌することを特徴とする請求項1または2に記載の酸素欠乏型マグネタイト製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−10653(P2013−10653A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143534(P2011−143534)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】