説明

酸素濃縮装置

【課題】圧力変動吸着型酸素濃縮器の装置停止時の騒音、振動を防止する技術を提供する。
【解決手段】酸素よりも窒素を選択的に吸着し得る吸着剤を充填した複数の吸着筒105a、105b、該吸着筒へ加圧空気を供給するコンプレッサ103、該コンプレッサと各吸着筒間の流路を順次切り換え、各吸着筒へ加圧空気を供給し濃縮酸素を取り出す吸着工程、各吸着筒を減圧し吸着剤を再生する脱着工程を所定タイミングで繰り返すための流路切換手段104a、104bを具備した圧力変動吸着型酸素濃縮装置1において、装置停止時に該吸着筒の内圧を常圧にする該流路切換手段の切り換え制御を行なう停止制御手段401を備え、装置停止指令信号を受信した後、該吸着筒内圧が所定圧以下の時点で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中から酸素富化空気、酸素濃縮気体を分離して使用するための酸素濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肺気腫、肺結核後遺症や慢性気管支炎などの慢性呼吸器疾患に苦しむ患者が増加する傾向にあるが、かかる患者に対する治療方法として、高濃度酸素を吸入させる酸素吸入療法が行われている。酸素吸入療法とは前記疾病患者に対して酸素ガス若しくは酸素濃縮気体を吸入させる治療法である。治療用の酸素ガス或いは濃縮酸素気体の供給源としては、高圧酸素ボンベ、液体酸素ボンベ、酸素濃縮装置等の使用が挙げられるが、長時間の連続使用に耐えることができ、また使い勝手がよいなどの理由により、酸素濃縮装置を使用するケースが増加している。
【0003】
酸素濃縮装置は空気中の酸素を分離し、濃縮することを可能にした装置である。かかる酸素を分離濃縮する装置としては、90%以上の高濃度の酸素が得られるという観点で、空気中の窒素を選択的に吸着し得る吸着剤を吸着筒に充填した吸着型酸素濃縮装置が広く知られ使用されている。その中でも圧力変動装置としてコンプレッサを用いた圧力変動吸着型酸素濃縮装置が広く世の中に広まっている。かかる装置は通常窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填させた複数の吸着床に対して、コンプレッサから圧縮空気を供給し、吸着床内を加圧状態にして窒素を吸着させ、未吸着の高濃度の酸素を得る吸着工程と、吸着床内を減圧して窒素を脱着させる脱着工程からなり、これを一定サイクルで繰り返すことで、高濃度の酸素を得る装置である。圧力変動吸着法には、脱着工程を大気圧まで減圧するPSA(Pressure Swing Adsorption)法、吸着剤の再生効率を高める為にコンプレッサを用いて吸着筒を真空圧まで減圧するVPSA(Vacuum Pressure Swing Adsorption)法があり、医療用酸素濃縮装置として採用されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-79735号公報
【特許文献2】特開2001-552号公報
【特許文献3】特開2003-235982号公報
【特許文献4】特開2000-281315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる装置は通常窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填させた1個或いは複数の吸着床に対して、コンプレッサから圧縮空気を供給して吸着床内を加圧状態にして窒素を吸着させ、高濃度の酸素を得る吸着工程と、吸着床内を減圧して、窒素を脱着させる脱着工程からなり、これを一定サイクルで繰り返すことで、高濃度の酸素を得る装置である。かかる装置は、基本的に患者が飲食時、就寝時問わず、終日連続使用するものであり、装置は患者の比較的そばにある。そのため、かかる装置から発生する騒音や振動は、直接患者、患者の家族等の耳に入り、不快感を与える恐れがある。特に就寝時などは騒音の与える影響が大きく、患者、或いは患者の家族の睡眠を妨げ、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことが懸念される。圧力変動吸着型酸素濃縮装置の最大の騒音および振動の発生要素はコンプレッサである。
【0006】
騒音低減、振動防止のために医療用酸素濃縮装置には各種の対策が採られている。例えば、コンプレッサそのものの発生する騒音を低減する方法として、特開2003-79735号公報には、ヘリカルコンプレッサを搭載した酸素濃縮装置が記載されている。特開2001-552号公報には、酸素濃縮装置の筐体内を仕切り板で区画し、一方の区画にコンプレッサ及び冷却手段を設けると共に、他の区画に吸着床及びバッファータンクを設けた酸素濃縮装置が記載されている。
【0007】
また発生する騒音を消音させる対策としては、特開2003-235982号公報には、空気供給手段へ空気を送る吸気ライン上に共鳴型消音器を備えた酸素濃縮装置が記載されている。
更に、特開2000-281315号公報には、筐体内の各手段のうち、振動の発生源になっている手段とその振動の影響を受ける手段とを個々独立に、防振部材により宙に配置して弾性的に保持していることを特徴とする酸素濃縮装置が開示されている。
【0008】
定常運転中の騒音低減対策や振動防止策は上記のように、コンプレッサそのものの改良から筐体改良や消音器の搭載など各種の方法が行なわれている。しかし、装置に起動時や停止時の対策は全く採られていない。装置起動時には通常、酸素濃縮器の使用者である呼吸器疾患患者は起床しているが、装置停止時には患者は睡眠中で介護者が停止操作を行う可能性があり、停止時の騒音、振動が就寝中の患者や周囲の人を起こしてしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、圧力変動吸着型酸素濃縮器の装置停止時の騒音、振動を防止する技術を提供するものである。
【0010】
すなわち本発明は、酸素よりも窒素を選択的に吸着し得る吸着剤を充填した複数の吸着筒、該吸着筒へ加圧空気を供給するコンプレッサ、該コンプレッサと各吸着筒間の流路を順次切り換え、各吸着筒へ加圧空気を供給し濃縮酸素を取り出す吸着工程、各吸着筒を減圧し吸着剤を再生する脱着工程を所定タイミングで繰り返すための流路切換手段を具備した圧力変動吸着型酸素濃縮装置において、装置停止時に該吸着筒の内圧を常圧にする該流路切換手段の切り換え制御を行なう停止制御手段を備え、装置停止指令信号を受信した後、該吸着筒内圧が所定圧以下の時点で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とする酸素濃縮装置を提供する。
【0011】
また本発明は、加圧側吸着筒と真空脱着側吸着筒の製品端同士を連通する均圧弁を備えた均圧流路を備え、該停止制御手段が、装置停止指令信号に基づいて該均圧弁を開き、均圧弁を開放した状態で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段、あるいは装置停止指令信号に基づいて、加圧側吸着筒とコンプレッサの真空ライン、真空脱着側吸着筒とコンプレッサ加圧ラインを連通するように該流路切換手段の切り換え制御を行ない、切り換え制御の実施と同時乃至その直後に該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とする酸素濃縮装置を提供するものである。
【0012】
また本発明は、該停止制御手段が、該吸着筒内圧の最大圧力値の50%以下の時点で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とし、特に該吸着筒が2つの吸着筒、該コンプレッサが該吸着筒へ加圧空気を供給すると共に真空減圧する機能を備えたコンプレッサであり、該コンプレッサと各吸着筒間の流路を順次切り換え、各吸着筒へ加圧空気を供給し濃縮酸素を取り出す吸着工程、各吸着筒を真空減圧し吸着剤を再生する脱着工程を所定タイミングで繰り返すための流路切換手段を具備したことを特徴とする酸素濃縮装置に適用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸素濃縮装置では、コンプレッサの停止を吸着筒内圧が所定圧、特に最大吸着筒圧の50%以下の時点で駆動停止する制御を行なうことで、コンプレッサの停止騒音及び振動を抑えることが出来る。そのためには装置停止指令信号に基づいて該均圧弁を開き、均圧弁を開放した加圧パージ工程の状態でコンプレッサの駆動を停止する、あるいは加圧側吸着筒とコンプレッサの真空ライン、真空脱着側吸着筒とコンプレッサ加圧ラインを連通するように該流路切換手段の切り換え制御を行なうと同時乃至その直後に停止することで実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の酸素濃縮装置の実施態様例を、以下の図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態である2筒式VPSA型の圧力変動吸着型酸素濃縮装置を例示した概略装置構成図である。
【0015】
この図1において、1は酸素濃縮装置、3は加湿された酸素富化空気を吸入する使用者(患者)を示す。圧力変動吸着型の酸素濃縮装置1は、外部空気取り込みフィルタ101、圧縮・真空機能を有するコンプレッサ103、流路切換弁である三方電磁弁104a,104b、吸着筒105a,105b、逆止弁106a,106b、製品タンク107、調圧弁108、流量設定手段109、フィルタ110を備える。これにより外部から取り込んだ原料空気から酸素ガスを濃縮した酸素濃縮ガスを製造することができる。
【0016】
先ず、外部から取り込まれる原料空気は、塵埃などの異物を取り除くための外部空気取り込みフィルタ101などを備えた空気取り込み口から取り込まれる。このとき、通常の空気中には、約21%の酸素ガス、約77%の窒素ガス、0.8%のアルゴンガス、水蒸気ほかのガスが1.2%含まれている。かかる装置では、呼吸用ガスとして必要な酸素ガスのみを濃縮して取り出す。
【0017】
この酸素ガスの取り出しは、原料空気を酸素ガス分子よりも窒素ガス分子を選択的に吸着するゼオライトなどからなる吸着剤が充填された吸着筒105に対して、切換弁104a,104bによって対象とする吸着筒105a,105bを順次切り換えながら、原料空気をコンプレッサ103により加圧して供給し、吸着筒105内で原料空気中に含まれる約77%の窒素ガスを選択的に吸着除去する。
【0018】
前記の吸着筒105としては、前記吸着剤を充填した円筒状容器で形成され、通常、1筒式、2筒式の他に3筒以上の多筒式が用いられるが、連続的かつ効率的に原料空気から酸素富化空気を製造するためには、2筒式や多筒式の吸着筒を使用することが好ましい。
【0019】
また、前記のコンプレッサ103としては、圧縮機能及び真空機能を有するコンプレッサとして2ヘッドのタイプの揺動型空気圧縮機が用いられるほか、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式などの回転型空気圧縮機が用いられる場合もある。また、このコンプレッサ103を駆動する電動機の電源は、交流であっても直流であってもよい。
前記吸着筒105で吸着されなかった酸素ガスを主成分とする酸素富化空気は、吸着筒105へ逆流しないように設けられた逆止弁106a,106bを介して、製品タンク107に流入する。
【0020】
なお、吸着筒105内に充填された吸着剤に吸着された窒素ガスは、新たに導入される原料空気から再度窒素ガスを吸着するために吸着剤から脱着させる必要がある。このために、コンプレッサ103によって実現される加圧状態から、三方電磁弁(切換弁)104a,104bによってコンプレッサ103の真空ラインに接続され、真空減圧状態に切り換え、吸着されていた窒素ガスを脱着させて吸着剤を再生させる。さらにこの脱着工程において、その脱着効率を高めるため、均圧弁102を介して吸着工程中の吸着筒の製品端側から酸素濃縮ガスをパージガスとして逆流させるようにしてもよい。
【0021】
原料空気から酸素富化空気が製造され、製品タンク107へ蓄えられる。この製品タンク107に蓄えられた酸素富化空気は、例えば95%といった高濃度の酸素ガスを含んでおり、調圧弁108や流量設定手段109などによってその供給流量と圧力とが制御されながら、加湿器201へ供給され、加湿された酸素富化空気が患者に供給される。
【0022】
かかる加湿器201には、水分透過膜を有する水分透過膜モジュールによって、外部空気から水分を取り込んで乾燥状態の酸素富化空気へ供給する無給水式加湿器や、水を用いたバブリング式加湿器、或いは表面蒸発式加湿器を用いることが出来る。
【0023】
VPSA型の酸素濃縮装置では、一方の吸着筒105aが加圧吸着工程を行っている場合は、他方の吸着筒105bでは真空脱着工程を行い、吸着工程、脱着工程を各々逆位相の形で順次切り替え、酸素を連続的に生成している。
【0024】
装置停止時には、該吸着筒105a,105bの内圧を常圧にするため、流路切換弁104a,104bの切り換え制御を行なう停止制御手段401が、装置停止指令信号を受信した後、吸着筒内圧が所定圧以下の時点でコンプレッサ103の駆動を停止する制御を行なう。すなわち、吸脱着工程終了直後の圧力差が大きい時点ではなく、所定時間後の吸着筒間の圧力差が少ない時点でコンプレッサを停止させるように制御することにより、停止時の静穏化、振動抑制を実現する。
【0025】
具体的には、加圧側吸着筒105aと真空脱着側吸着筒105bの製品端同士を連通する均圧弁102を備えた均圧流路を用い、停止制御手段401が、装置停止指令信号に基づき、均圧弁102を開き、製品ガスの一部を用いて脱着側吸着筒105bのパージを行なう均圧パージ工程の状態でコンプレッサの駆動を停止する。均圧弁102を開くことにより加圧側吸着筒105aは最大圧力の50%以下になり、この状態でコンプレッサを停止させることで残圧も自動的に排気され、静穏状態で装置停止が実現できる。
【0026】
また、停止制御手段401が、装置停止指令信号に基づいて、加圧側吸着筒105aとコンプレッサ103の真空ライン、真空脱着側吸着筒105bとコンプレッサ加圧ラインを連通するように流路切換弁104a,104bの切り換え制御を行ない、吸着工程と脱着工程の切り換え制御を行なったと同時或いはその直後に該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なうことで、大気圧付近でコンプレッサを停止させることができ、装置停止時の静穏化、制振化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の酸素濃縮装置の実施態様例である圧力変動吸着型酸素濃縮装置の模式図。
【符号の説明】
【0028】
1:酸素濃縮装置
3:使用者
101:外部空気取り込みフィルタ
102:均圧弁
103:コンプレッサ
104a,104b:三方電磁弁(切換弁)
105a,105b:吸着筒
106a,106b:逆止弁
107:製品タンク
108:調圧弁
109:流量設定手段
110:フィルタ
201:加湿器
301:酸素濃度センサ
302:流量センサ
401:制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素よりも窒素を選択的に吸着し得る吸着剤を充填した複数の吸着筒、該吸着筒へ加圧空気を供給するコンプレッサ、該コンプレッサと各吸着筒間の流路を順次切り換え、各吸着筒へ加圧空気を供給し濃縮酸素を取り出す吸着工程、各吸着筒を減圧し吸着剤を再生する脱着工程を所定タイミングで繰り返すための流路切換手段を具備した圧力変動吸着型酸素濃縮装置において、装置停止時に該吸着筒の内圧を常圧にする該流路切換手段の切り換え制御を行なう停止制御手段を備え、装置停止指令信号を受信した後、該吸着筒内圧が所定圧以下の時点で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項2】
加圧側吸着筒と真空脱着側吸着筒の製品端同士を連通する均圧弁を備えた均圧流路を備え、該停止制御手段が、装置停止指令信号に基づいて該均圧弁を開き、均圧弁を開放した状態で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とする請求項1に記載の酸素濃縮装置。
【請求項3】
該停止制御手段が、装置停止指令信号に基づいて、加圧側吸着筒とコンプレッサの真空ライン、真空脱着側吸着筒とコンプレッサ加圧ラインを連通するように該流路切換手段の切り換え制御を行ない、切り換え制御の実施と同時乃至その直後に該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素濃縮装置。
【請求項4】
該停止制御手段が、該吸着筒内圧の最大圧力値の50%以下の時点で該コンプレッサの駆動を停止する制御を行なう手段であることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の酸素濃縮装置。
【請求項5】
該吸着筒が2つの吸着筒、該コンプレッサが該吸着筒へ加圧空気を供給すると共に真空減圧する機能を備えたコンプレッサであり、該コンプレッサと各吸着筒間の流路を順次切り換え、各吸着筒へ加圧空気を供給し濃縮酸素を取り出す吸着工程、各吸着筒を真空減圧し吸着剤を再生する脱着工程を所定タイミングで繰り返すための流路切換手段を具備したことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の酸素濃縮装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−228970(P2008−228970A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72466(P2007−72466)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)