説明

重力鋳造方法及び鋳造装置

【課題】 キャビティの隅々に溶湯を充填して歩留まり率を高めることができる重力鋳造装置を提供する。
【解決手段】 上側型板6aと下側型板6bでキャビティ13が形成される。キャビティ13の湯口に溶湯貯留部16が設けられている。溶湯貯留部16の上部に開口するガス導入管14が設けられており、ガス導入管14を介してキャビティ13内に不活性ガスが導入される。上側型板6aにはキャビティ13の肉厚部端部に相当する部分にキャビティ13内の内部圧力を検出するための圧力検出器22が配置されている。上側型板6a及び下側型板6bにはキャビティ13の別の肉厚部端部に対応する位置に引抜孔15a乃至15cが設けられている。各引抜孔は熱電対21を有し、流量可変バルブを有する減圧配管18を介して減圧ポンプ19に接続されている。減圧ポンプ19は金型6の傾斜角度に応じた溶湯17が鋳込まれるようにキャビティ内を減圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を傾斜させることにより重力によってキャビティ内に溶湯を鋳込んで鋳造品を製造する重力鋳造方法及び鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の鋳型に重力によって金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳物を製造する方法をグラビティ鋳造法という。図6(a)乃至図6(e)は、このようなグラビティ鋳造法によって鋳造品を製造する工程を示す説明図である。
【0003】
図6(a)において、上側型板36aと下側型板36bとを合わせることにより、鋳造用キャビティ43が構成される。このキャビティ43は、図中左側から右側に向かって3箇所の拡径部43aと、3箇所の縮径部43bとが交互に形成され、左端の拡径部43aの先端部がテーパ状に先細になっている。一方、右端の縮径部43bには図中右側に向かって延びる縮径部43bよりもさらに細い円筒部分43cを有し、この円筒部分は湯口と連通している。金型36の湯口部には溶湯を一時貯留する湯受け46が設けられている。このキャビティは例えばロッド鋳造用のものである。
【0004】
上側型板36aと下側型板36bを夫々貫通するように2本の突き出しピン45及び1本のリターンピン44が設けられており、この突き出しピン45及びリターンピン44は上側型板36aの上側及び下側型板36bの下側に夫々配置された突き出し板49に固定されている。
【0005】
上側型板36aを下降させて下側型板36bに合わせると、キャビティ43が形成される。このキャビティ43の湯口部に付設された湯受け46に例えばアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムという)の溶湯47を注入する。アルミニウムの溶湯47を湯受け46に注入した後、金型36を例えば図6(b)に示したように、水平に対して約30度傾斜させると、湯受け46内のアルミニウムの溶湯47のキャビティ43内への注入が開始され、その後、更に金型36を傾斜させていくと、湯受け46内の溶湯はキャビティ43内に注入されていく。最終的に、金型36を垂直状態にしてアルミニウムの溶湯47のキャビティ43内への鋳込みが終了する(図6(c))。
【0006】
この状態でキャビティ43に鋳込んだアルミニウムの溶湯47を凝固させ、溶湯が凝固した後、図6(d)に示したように金型36を水平状態に戻す。
【0007】
その後、上側型板36aをリターンピン44に沿って上昇させると共に突き出しピン45によって鋳造品48を押し出すと、図6(e)に示したように、金型36が開き、鋳造品48が離型する
このようなグラビティ鋳造法に関する従来技術として、例えば特開平6−47517号公報(特許文献1)が挙げられる。
【0008】
図7(a)及び(b)は、上記従来技術における鋳造品製造方法を示す図であり、図7(a)は、金属製の鋳型(以下、金型という)のパーティングラインに沿った断面図、図7(b)はパーティングラインに直交する断面図である。図7(a)及び(b)において、鋳造品は以下のようにして製造される。
【0009】
即ち、金型Aの固定型aと可動型bを合わせて型閉めした後、ベント孔51からキャビティ52内のガスを吸引してキャビティ52内を減圧し、この状態で湯口53から溶湯を注入する。溶湯は重力により湯道を通ってキャビティ52内に鋳込まれる。
【0010】
次に、加圧シリンダ54を動作させて加圧子55によってキャビティ52内の溶湯に圧力を加え、この状態で溶湯が凝固し、製品が鋳造されるまで放置する。このような従来技術によれば、鋳造品への加圧効果によってより寸法精度の良い鋳造品が得られるということである。
【0011】
【特許文献1】特開平6−47517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来技術には以下のような問題点がある。即ち、薄肉鋳造品を製造する際、金型内に鋳込まれた溶湯の冷却速度が速いために、溶湯をキャビティの狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで十分に充填させることができず、歩留まり率が低下するという問題点がある。
【0013】
図5は、重力鋳造装置におけるキャビティ内に鋳込まれた溶湯の冷却速度曲線を示すものである。図5において、鋳造品の肉厚が30mmの場合、溶湯を鋳込んだ後、溶湯温度が570℃になるまでに約60秒を要しており、その後、約20秒間570℃を維持している。これに対し、肉厚が20mmの場合は、溶湯を鋳込んだ後、約40秒で570℃に降下し、その後15秒間570℃を維持した後、急激に温度を低下させ、溶湯を鋳込んでから70秒後には500℃まで温度を低下させている。一方、肉厚が10mmの場合は、溶湯鋳込み後、20秒で570℃に降下し、40秒後には500℃まで溶湯温度が低下していることが分かる。このように薄肉鋳造品を製造する場合は急激に溶湯温度が低下するので、特にキャビティ内の狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填することが困難となる。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、キャビティの狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填して湯廻り性を向上させると共に、溶湯の歩留まり率を向上させることができる重力鋳造方法及び鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願第1発明に係る重力鋳造方法は、金型を傾斜させることにより溶湯貯留部内の溶湯を前記金型のキャビティ内に注入して鋳造する重力鋳造方法において、前記キャビティ内を不活性ガスで充填する工程と、前記不活性ガスが充填されたキャビティ内に前記金型の傾斜により溶湯を注入すると共に前記キャビティに連通する1又は複数の引抜孔からガスを吸引して前記キャビティ内を減圧する工程と、を有し、前記引抜孔からのガス吸引のための減圧の程度は、前記金型の傾動角度に応じて調整することを特徴とする。
【0016】
この場合において、前記引抜孔は、前記キャビティにおける狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分に設けられていることが好ましい。
【0017】
また、前記狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分における金型の温度を測定し、この金型温度の測定結果も考慮して、前記減圧の程度を調整するようにすることができる。更に、前記溶湯はアルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。
【0018】
本願第2発明に係る重力鋳造装置は、キャビティを有する金型と、前記キャビティに連通し溶湯を貯留した溶湯貯留部と、前記金型を傾動させ前記溶湯貯留部から溶湯を前記キャビティ内に注入する駆動部と、前記キャビティに連通する1又は複数の引抜孔と、この引抜孔からガスを吸引して前記キャビティ内を減圧する減圧装置と、前記キャビティ内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入装置と、を有し、前記減圧装置は、前記金型の傾動角度に応じて減圧の程度を調整することを特徴とする。
【0019】
この場合において、前記引抜孔は、前記キャビティにおける狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分に設けられていることが好ましい。
【0020】
また、前記引抜孔内に設けられ前記狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分における金型の温度を測定する温度検出器を有し、前記減圧装置は、前記温度検出器の測定結果も考慮して前記狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分の減圧圧力を調整するものとすることができる。更に、前記溶湯はアルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本願第1発明である請求項1に係る重力鋳造方法によれば、キャビティ内に所定量の溶湯が鋳込まれるように金型の傾斜角度に応じてキャビティの1又は複数の引抜孔からガスを吸引すると共に、金型の傾斜角度に応じてガス引抜のための減圧の程度を調整するようにしたので、薄肉鋳造品を鋳造する場合であっても溶湯をキャビティの狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで充填することができ、湯廻り性が向上し、溶湯の歩留まり率を改善することができる。また、キャビティ内に不活性ガスを充填した後、溶湯を注入することによって、溶湯の酸化を防止して鋳造品の品質を向上させることができる。
【0022】
本願請求項2に係る重力鋳造方法によれば、キャビティ内の狭窄部又は肉厚部に相当する部分に引抜孔を設け、この引抜孔からガスを引き抜くようにしたので、キャビティの狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填しやすくなり、湯廻り性が向上し、溶湯の歩留まり率を改善することができる。
【0023】
本願請求項3に係る重力鋳造方法によれば、狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分における金型の温度を測定し、この金型温度の測定結果も考慮して、前記減圧の程度を調整するようにしたので、溶湯が廻りにくい狭窄部又は肉厚部の減圧量を増加させることによって溶湯がキャビティ内の狭窄部又は肉厚部端部へ良好に充填され、湯廻り性がより向上し、溶湯の歩留まり率を更に改善することができる。
【0024】
本願請求項4に係るの重力鋳造方法によれば、前記溶湯を、アルミニウム又はアルミニウム合金としたので、アルミニウム又はアルミニウム合金製の鋳造品を湯廻り性及び歩留りよく製造することができる。
【0025】
本願第2発明である請求項5に係る重力鋳造装置によれば、キャビティ内に所定量の溶湯が鋳込まれるように金型の傾斜角度に応じてキャビティ内を減圧する減圧程度を調整するようにしたので、湯廻り性及び溶湯の歩留まり率が向上する。
【0026】
本願請求項6に係る重力鋳造装置によれば、キャビティ内の狭窄部又は肉厚部に相当する部分に引抜孔を設け、この引抜孔からキャビティ内のガスを引き抜くようにしたので、狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填して溶湯の歩留まり率を向上させながら、品質の安定した鋳造品を製造することができる。
【0027】
本願の請求項7に係る重力鋳造装置によれば、キャビティ内の狭窄部又は肉厚部に相当する部分の温度を測定する温度検出器を設け、この温度検出器の測定結果をも考慮して減圧圧力を調整するようにしたので、溶湯の導入が遅い部分の減圧量を増大させる等によって湯廻り性をより改善することができる。
【0028】
本願請求項8に係る重力鋳造装置によれば、前記溶湯をアルミニウム又はアルミニウム合金としたので、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を効率よく鋳造してアルミニウム又はアルミニウム合金製の鋳造品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1及び図2は本実施形態に係る重力鋳造装置を示す説明図であって、図1(a)は正面図、図1(b)は図1(a)の左側面図である。また図2(a)乃至図2(c)は、夫々図1の要部を示す断面図であって、鋳造工程に沿った金型部分を示す断面図である。
【0031】
図1(a)において、この重力鋳造装置の鋳造機本体1は、架台2上に載置されており、直立状態(初期状態)から水平状態(注湯状態)に至るまで傾動可能になっている。鋳造機本体1の上下両端には夫々矩形の可動側取付板3及び固定側取付板4が配置されており、この可動側取付板3と固定側取付板4とは夫々その4角に配置された4本のタイバー5によって連結されている。
【0032】
上側型板6a及び下側型板6bの4角には夫々貫通孔が設けられており、この貫通孔に夫々4本のタイバー5が挿入されている。上側型板6a及び下側型板6bはタイバー5に沿って上下動可能に設けられている。
【0033】
上側型板6aは可動側取付板3を貫通して上方に延びる上側型締めシリンダ8に連結されており、下側型板6bは固定側取付板4を貫通して下方に延びる下側型締めシリンダ9に連結されている。上側型締めシリンダ8は上側型板6aをタイバー5に沿って上下動させるように作用し、下側型締めシリンダ9は下側型板6bをダイバー5に沿って上下動させるように作用する。
【0034】
上側型板6aと下側型板6bとの接合面には鋳造品を成型するためのキャビティが形成され、このキャビティ内に溶湯を鋳込んで鋳造品が製造される。
【0035】
鋳造機本体1の下方端は架台2の一端に設けられた1対の軸受け11に支持された傾動軸12に回転可能に支持されている。また鋳造機本体1の長さ方向中央部と架台2とは傾動シリンダ10によって連結されており、傾動シリンダ10と鋳造機本体1との連結部及び傾動シリンダ10と架台2との連結部は夫々回転可能となっている、従って、傾動シリンダ10が伸縮することによって鋳造機本体1は軸受け11に支持された傾動軸12を中心として回動し、架台2に対して垂直の初期状態と水平の注湯状態との間を傾動する。
【0036】
図1(b)において、傾動軸12は左右両側の軸受け11によって支持されており、鋳造機本体1の固定側取付板4は傾動軸12に回転可能に支持されている。固定側取付板4の4角には4本のタイバー5が配置されており、固定側取付板4はこの4本のタイバー5を介して図示省略した上方の固定側取付板3と連結されている。固定側取付板4のほぼ中央部には固定側取付板4を貫通するように下側型締めシリンダ9が配置されている。
【0037】
鋳造機本体1の金型部分を示す図2(a)において、上側型板6aと、下側型板6bとで金型6が形成され、この金型6内にキャビティ13が形成されている。キャビティ13の湯口部分には溶湯貯留部16が設けられており、この溶湯貯留部16に溶湯17が注入され、金型6を傾斜させることによって溶湯17がキャビティ13内に注入される。
【0038】
金型6には溶湯貯留部16の上部に開口する不活性ガス導入装置としてのガス導入管14が設けられており、このガス導入管14を介してキャビティ13内に不活性ガスとして、例えばアルゴンガスが導入、充填される。金型6の例えば上側型板6aにはキャビティ13の肉厚部分の端部に相当する部分にキャビティ13内の内部圧力を検出するための圧力検出器(圧力センサ)22が配置されている。
【0039】
上側型板6a及び下側型板6bにはキャビティ13の肉厚部の端部に対応する位置に引抜孔15a乃至15cが設けられている。この引抜孔15a乃至15cは夫々減圧配管18を介して減圧装置としての減圧ポンプ19に接続されている。この減圧ポンプ19によってキャビティ13内に充填された不活性ガスを吸引してキャビティ内を減圧する。減圧配管18には夫々流量可変バルブ20が設けられている。この流量可変バルブ20を調整することによって減圧配管18を流れるガス量、即ち肉厚部端部の減圧の程度が制御される。引抜孔15a乃至15c内には夫々熱電対21が配置されており、この熱電対21によって肉厚部端部の金型温度が検出される。この肉厚部端部の金型温度によって溶湯が充填されたか否かを推定することができる。
【0040】
金型6を傾斜することによって、図2(b)に示したように、溶湯貯留部16内の溶湯17のキャビティ13内への注入が開始する。金型6の傾斜角度を次第に大きくすることによって図2(c)に示したように、溶湯17をキャビティ13内へ鋳込む。
【0041】
図3は図2(a)の引抜孔15c部分を示す拡大図である。図3において、キャビティ13の肉厚部端部に連結された引抜孔15cは減圧流路18に連結されており、引抜孔15c内にはキャビティ13の肉厚部端部の金型温度を測定するための熱電対21が配置されている。熱電対21で肉厚部端部の金型温度を測定することによってキャビティ13の当該部分に溶湯が充填されたか否かを推定することができる。なお、引抜孔15cの上部は例えば絶縁物23によって封鎖されており、下部には多孔質体24が充填されている。
【0042】
図4は図2の引抜孔15a乃至15cにおける溶湯注入開始時点から鋳込み完了までの温度変化を示したものである。図4において、溶湯が最も充填され易い肉厚部端部に連結された引抜孔15a(図2(c)参照)内に配置された熱電対21の検出温度が最も速く上昇し、次に、引抜孔15b内に配置された熱電対21の温度が上昇し、最後に、溶湯注入時に最も上部に位置する肉厚部端部に連結された引抜孔15c内に配置された熱電対21の検出温度が上昇している。
【0043】
図4において、各部位の温度上昇時間の差が溶湯到達時間の差となる。従って、各部の温度を検出することによって溶湯のキャビティ13内への充填速度を測定することができる。
【0044】
次に、上述のように構成された本実施形態に係る重力鋳造装置の動作を説明する。鋳造を開始するに際し、先ず、図1の傾動シリンダ10を伸長して鋳造機本体1を垂直の初期状態に戻す。この初期状態において、上側型締めシリンダ8を操作して金型6の上側型板6aを下降させて下側型板6bに当接させ、これによってキャビティ13を形成する(図2)。
【0045】
キャビティ13を形成した後、ガス導入管14から不活性ガスとして例えばアルゴンガス(Ar)を供給してキャビティ13内に充填する。アルゴンガスを充填した後、キャビティ13に付設された溶湯貯留部16に例えばアルミニウムの溶湯17を注ぐ(図2(a))。
【0046】
アルミニウムの溶湯17を溶湯貯留部16に注いだ後、傾動シリンダ10を短縮させて鋳造機本体1を傾動させることによって金型6を傾斜させ、これによって溶湯17のキャビティ13への注入を開始する(図2(b))。次に、金型6の傾斜角度を更に大きくして溶湯17をキャビティ13内に鋳込む(図2(c))。
【0047】
このとき、金型の傾斜角度に応じてキャビティ内に所定量の溶湯が鋳込まれるように、前記金型の傾斜角度に応じて前記キャビティの肉厚部端部からのキャビティ内の不活性ガスの引き抜き量を調整する。即ち、金型6を傾斜させて溶湯17をキャビティ13内に鋳込む場合、金型の傾斜角度によってはキャビティ13の入口部分である湯口開口部が溶湯によって塞がれる場合があるが、開口部が塞がれることなく溶湯を注入した場合における金型の傾斜角度と溶湯注入量を予め測定しておき、金型傾斜角度に応じた溶湯量が注入されるように金型傾斜角度に応じて減圧圧力を調整する。
【0048】
減圧圧力は鋳造品の形状、鋳造条件等によって異なるが、例えば100hPa(ヘクトパスカル)程度である。なお、本実施形態における金型6は、減圧機能を備えているので、通常の金型に設けられているような大気と連通するエアー抜き用の孔は設けられていない。
【0049】
溶湯注入中の例えば図2(c)において、例えば引抜孔15a内に配置した熱電対21の検出温度が引抜孔15b内に配置した熱電対21の検出温度よりも上昇速度が遅い場合は、引抜孔15aに連通された肉厚部端部への溶湯17の充填が良好に行われていないことを示す。従ってこの場合、引抜孔15aに連通する減圧流路18に設けられた流量可変バルブ20を開いてガスの抜き出し量を増加させ、これによって引抜孔15aが連通する肉厚部端部の圧力をより低下させ、これによって対応する肉厚部端部の隅々にまで溶湯を廻らせる。
【0050】
本実施形態によれば、金型6の傾斜角度に対応した溶湯量がキャビティ13に鋳込まれるようにキャビティ13の肉厚部端部又は狭窄部に連通した引抜孔15からキャビティ内の不活性ガスを引き抜いて減圧することにより、キャビティ13の隅々にまで溶湯を良好に鋳込むことができる。特に溶湯の鋳込み速度が遅い肉厚部端部又は狭窄部をより減圧することによって湯廻り性及び溶湯の歩留まり率を著しく向上させることができる。
【0051】
湯廻り性が向上することにより、例えば300乃至400℃で注湯作業を行っていた従来技術に比べて金型温度を30乃至40℃、溶湯温度を10乃至20℃低下させることができる。従って、例えば金型保温材が不要となる。また、従来5分程度を要していた生産作業のリードタイムが30乃至40秒短縮され、鋳造品製造時間の短縮、必要保温エネルギ量の低減が可能となる。
【0052】
また、本実施形態によれば、キャビティ内に不活性ガスを充填した後、重力によって溶湯を注入するようにしたので、溶湯が層流でなく乱流となった場合でも、溶湯17が酸素と接触して酸化されることを防止することができる。従って、溶湯表面に酸化膜が形成され、湯境及び酸化膜の巻き込み等による鋳造品の品質低下を防止することができる。
【0053】
本実施形態によれば、金型6の初期温度を低下させることができるので、これに伴って相対的に鋳造品冷却速度が速くなり、内部組織のDAS(デントライロアームスペーシング)が密になり、製品強度が向上する。
【0054】
本実施形態において、温度センサは湯廻り性が良くない肉厚部端部又は狭窄部に対応して配置されるものであり、通常の金型に比べて極端に温度センサ数が増加することはない。また圧力センサは金型を倒立させた溶湯の鋳込み状態において、下側となる部分に主として配置されるものであり、その数も従来技術に比べて極端に多くなることはない。従って温度センサ又は圧力センサが金型の操作性に影響することはない。
【0055】
本実施形態においては、不活性ガスとしてアルゴンガスを使用した場合について説明したが、本発明において不活性ガスはアルゴンガスに限定されるものではなく、同様の目的を達成できれば窒素ガス、その他の不活性ガスを使用することもできる。また、本実施形態においては、肉厚部を有するキャビティを形成する金型を使用した場合について主とした説明したが、本発明は狭窄部を有するキャビティを形成する金型を有する場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、キャビティ内の狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填することができ、湯廻り性及び溶湯の歩留まり率を向上させることができるものであり、鋳造分野、特に重力鋳造分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】重力鋳造装置の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る重力鋳造装置の金型部分を示す断面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4】キャビティ内の各肉厚部の温度測定結果を示す図である。
【図5】鋳造品の肉厚と溶湯の温度降下との関係を示す図である。
【図6】従来技術の説明図である。
【図7】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1:鋳造機本体
2:架台
3:可動側取付板
4:固定側取付板
5:タイバー
6:金型
6a:上側型板
6b:下側型板
8:上側型締めシリンダ
9:下側型締めシリンダ
10:傾動シリンダ
11:軸受け
12:傾動軸
13:キャビティ
14:ガス導入管
15a〜15c:引抜孔
16:溶湯貯留部
17:溶湯
18:減圧流路
19:減圧ポンプ
20:流量可変バルブ
21:熱電対
22:圧力検出器
23:絶縁物
24:多孔質体
36:金型
36a:上側型板
36b:下側型板
43:キャビティ
43a:拡径部
43b:縮径部
44:リターンピン
45:突き出しピン
46:溶湯貯留部
47:溶湯
48:鋳造品
51:ベント孔
52:キャビティ
53:湯口
54:加圧シリンダ
55:加圧子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を傾斜させることにより溶湯貯留部内の溶湯を前記金型のキャビティ内に注入して鋳造する重力鋳造方法において、前記キャビティ内を不活性ガスで充填する工程と、前記不活性ガスが充填されたキャビティ内に前記金型の傾斜により溶湯を注入すると共に前記キャビティに連通する1又は複数の引抜孔からガスを吸引して前記キャビティ内を減圧する工程と、を有し、前記引抜孔からのガス吸引のための減圧の程度は、前記金型の傾動角度に応じて調整することを特徴とする重力鋳造方法。
【請求項2】
前記引抜孔は、前記キャビティにおける狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の重力鋳造方法。
【請求項3】
前記狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分における金型の温度を測定し、この金型温度の測定結果も考慮して、前記減圧の程度を調整することを特徴とする請求項2に記載の重力鋳造方法。
【請求項4】
前記溶湯はアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の重力鋳造方法。
【請求項5】
キャビティを有する金型と、前記キャビティに連通し溶湯を貯留した溶湯貯留部と、前記金型を傾動させ前記溶湯貯留部から溶湯を前記キャビティ内に注入する駆動部と、前記キャビティに連通する1又は複数の引抜孔と、この引抜孔からガスを吸引して前記キャビティ内を減圧する減圧装置と、前記キャビティ内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入装置と、を有し、前記減圧装置は、前記金型の傾動角度に応じて減圧の程度を調整することを特徴とする重力鋳造装置。
【請求項6】
前記引抜孔は、前記キャビティにおける狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の重力鋳造装置。
【請求項7】
前記引抜孔内に設けられ前記狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分における金型の温度を測定する温度検出器を有し、前記減圧装置は、前記温度検出器の測定結果も考慮して前記狭窄部又は鋳造品の肉厚部に相当する部分の減圧圧力を調整することを特徴とする請求項6に記載の重力鋳造装置。
【請求項8】
前記溶湯はアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の重力鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−175463(P2006−175463A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369985(P2004−369985)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(390027524)浅間技研工業株式会社 (7)