説明

重合体の精製方法

【課題】少量の溶媒を使用するだけで、重合体を効率よく、しかも簡便に精製することができる重合体の精製方法を提供すること。
【解決手段】重合体に含まれている不純物を除去する重合体の精製法であって、重合体に対する良溶媒と該重合体に対する貧溶媒との混合溶媒2が収容された溶媒容器1から、該混合溶媒2を加熱することによって混合溶媒蒸気を発生させ、発生した混合溶媒蒸気を冷却し、凝縮させることによって液化混合溶媒を生成し、生成した液化混合溶媒を重合体溶液9が収容された重合体溶液用容器8内に導入し、該重合体溶液用容器8の側面または底面に設けられた、重合体溶液9に含まれている不純物を透過するが、重合体を透過しない孔を有するフィルター10から不純物を透過させ、フィルター10を透過した不純物を含有する溶媒を前記溶媒容器1に導入することを特徴とする重合体の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の精製方法に関する。さらに詳しくは、重合体溶液を用いて重合体を簡便にかつ効率よく精製することができる重合体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単量体を重合させたとき、得られる重合体には、目的とする重合体以外に原料の単量体が残存したり、単量体同士が反応することによって生成したオリゴマーなどの低分子量の副生成物が不純物として含まれる。
【0003】
重合体に含まれている不純物を除去する方法として、生成した重合体に対する良溶媒と該重合体に対する貧溶媒との混合溶媒を用いて該重合体を洗浄する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、生成した重合体は、良溶媒に溶解するが貧溶媒には溶解せず、他方、不純物は貧溶媒に溶解することから、重合体を精製することができる。しかし、この方法では、生成した重合体を混合溶媒で洗浄するためには、多量の混合溶媒を必要とするため、環境への負荷が大きく、しかもその操作が煩雑であるのみならず、単量体を重合させる際に生成した低分子量の副生成物が残存しやすいという欠点がある。
【0004】
また、重合体に含まれている不純物を除去する他の方法として、重合体を該重合体に対して良溶媒に溶解させ、得られた重合体溶液を該重合体に対して貧溶媒に添加し、重合体を固体として析出させる再沈法が採られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この再沈法によって重合体を精製した場合、重合体を精製するのに長時間を要し、煩雑な操作を必要とするのみならず、大量の重合体を一度に精製することができない。また、溶媒蒸気が大気中に放出されることから、環境への負荷が大きく、溶媒の種類によっては引火のおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開平7−196725号公報
【特許文献2】特開平6−56998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、少量の溶媒を使用するだけで、重合体を効率よく、しかも簡便に精製することができる重合体の精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重合体に含まれている不純物を除去する重合体の精製法であって、重合体に対する良溶媒と該重合体に対する貧溶媒との混合溶媒が収容された溶媒容器から、該混合溶媒を加熱することによって混合溶媒蒸気を発生させ、発生した混合溶媒蒸気を冷却し、凝縮させることによって液化混合溶媒を生成し、生成した液化混合溶媒を重合体溶液が収容された重合体溶液用容器内に導入し、該重合体溶液用容器の側面または底面に設けられた、重合体溶液に含まれている不純物を透過するが、重合体を透過しない孔を有するフィルターから不純物を透過させ、フィルターを透過した不純物を含有する溶媒を前記溶媒容器に導入することを特徴とする重合体の精製方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の重合体の精製方法によれば、少量の溶媒を使用するだけで、重合体を効率よく、しかも簡便に精製することができるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の重合体の精製方法は、重合体に含まれている不純物を除去する重合体の精製法であり、重合体に対する良溶媒と該重合体に対する貧溶媒との混合溶媒が収容された溶媒容器から、該混合溶媒を加熱することによって混合溶媒蒸気を発生させ、発生した混合溶媒蒸気を冷却し、凝縮させることによって液化混合溶媒を生成し、生成した液化混合溶媒を重合体溶液が収容された重合体溶液用容器内に導入し、該重合体溶液用容器の側面または底面に設けられた、重合体溶液に含まれている不純物を透過するが、重合体を透過しない孔を有するフィルターから不純物を透過させ、フィルターを透過した不純物を含有する溶媒を前記溶媒容器に導入することを特徴とする。
【0010】
本発明の重合体の精製方法を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の重合体の精製方法に用いることができる精製装置の一実施態様を示す概略説明図であるが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0011】
溶媒容器1には、重合体に対する良溶媒と、該重合体に対する貧溶媒との混合溶媒が収容されている。
【0012】
重合体に対する良溶媒は、精製の対象とする重合体に対し、常温で常圧のもとで、10重量%以上、好ましくは15重量%以上の溶解度を有する溶媒であることが、不純物を効率よく除去する観点から望ましい。重合体に対する良溶媒は、重合体の種類によって異なるため、一概には決定することができない。したがって、精製の対象とする重合体の種類に応じて、良溶媒を適宜決定することが好ましい。その一例として、精製の対象とする重合体がアクリル系重合体である場合、アクリル系重合体に対する良溶媒として、アセトンなどが挙げられる。
【0013】
なお、重合体に含まれている不純物としては、例えば、原料の単量体、単量体から副生したオリゴマーなどの低分子量の副生成物、重合の際に用いられた溶媒などが挙げられる。
【0014】
重合体に対する貧溶媒は、精製の対象とする重合体に対し、常温で常圧のもとで、3重量%以下、好ましくは2重量%以下の溶解度を有する溶媒であることが、重合体を貧溶媒に溶解させずに収率を向上させる観点から望ましい。重合体に対する貧溶媒は、重合体の種類によって異なるため、一概には決定することができない。したがって、精製の対象とする重合体の種類に応じて、貧溶媒を適宜決定することが好ましい。その一例として、精製の対象とする重合体がアクリル系重合体である場合、アクリル系重合体に対する貧溶媒として、ヘキサンなどが挙げられる。
【0015】
なお、良溶媒及び貧溶媒は、いずれも、精製の対象とする重合体の変性を防止する観点から、重合体に対して反応性が小さい溶媒であることが好ましい。
【0016】
良溶媒および貧溶媒に用いられる溶媒の例としては、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒のなかから、精製の対象とする重合体に適した良溶媒および貧溶媒を適宜選択して用いることができる。
【0017】
良溶媒と貧溶媒との比率は、重合体に含まれている不純物量などによって異なるので、一概には決定することができないが、通常、良溶媒と貧溶媒との比率(良溶媒/貧溶媒:容量比)は、好ましくは5/95〜95/5、より好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20である。
【0018】
溶媒容器1に入れられる混合溶媒2の量は、精製の対象とする重合体の量などによって異なるので一概には決定することができない。通常、混合溶媒2の量は、精製の対象とする重合体100gあたり、300〜1000mL程度であることが好ましい。従来の混合溶媒で重合体を洗浄するいわゆる連続洗浄法では、重合体100gあたりの混合溶媒の量が10〜20L(リットル)であるので、本発明の精製方法は、従来の方法と対比して、溶媒量を格段に低減させることができるという利点がある。
【0019】
溶媒容器1には、加熱装置3が装着されている。加熱装置3としては、例えば、オイルバス、ヒーターなどが挙げられる。図1に示される実施態様では、混合溶媒2は、溶媒容器1の外部から間接的に加熱されるが、例えば、シーズヒーターなどを混合溶媒2中に浸漬することにより、直接、混合溶媒2を加熱してもよい。混合溶媒2の加熱温度は、混合溶媒2に使用されている溶媒の種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、混合溶媒2は、その共沸温度程度まで加熱することができる。
【0020】
なお、マグネティックスターラーの攪拌子や攪拌翼などの攪拌器(図示せず)を溶媒容器1内の混合溶媒2に入れて混合溶媒2を攪拌してもよい。
【0021】
溶媒容器1の上部は、溶媒蒸気導入管4を介して、重合体溶液収容室5と連通するように接続されている。混合溶媒2を加熱することによって発生した混合溶媒蒸気は、溶媒蒸気導入管4を介して、重合体溶液収容室5内の空間に導入され、重合体溶液収容室5の上部に設けられている冷却部6に上昇する。冷却部6にまで上昇した混合溶媒蒸気は、冷却装置7によって冷却部6で冷却され、凝縮して液化混合溶媒が生成する。冷却装置7としては、例えば、その内部に冷却水が導入されたパイプが巻回されている冷却装置などが挙げられる。
【0022】
生成した液化混合溶媒は、冷却部6の内壁を伝い、重合体溶液収容室5内の空間で滴下することにより、冷却部6の下部に配置され、重合体溶液収容室5内に収容されている重合体溶液用容器8内に導入される。したがって、混合溶媒2を加熱することにより、混合溶媒2は、混合溶媒蒸気および液化混合溶媒に変化しながら重合体溶液9に供給されることになる。
【0023】
重合体溶液用容器8内には、重合体溶液9が収容されている。重合体溶液9は、重合体を調製することによって得られた反応混合物であってもよく、反応混合物から重合の際に使用された溶媒があらかじめある程度の量で除去されたものであってもよいが、重合の際に使用された溶媒が不純物として含有される量を低減する観点から、該溶媒をできるだけ除去しておくことが好ましい。反応混合物に含まれている溶媒は、例えば、貧溶媒を用いて重合体を再沈させることにより、反応混合物に含まれている溶媒を除去する方法、減圧乾燥や加熱乾燥などによって重合体を濃縮する方法などにより、除去することができる。
【0024】
なお、重合体溶液9に含まれている溶媒は、重合体を調製する際に用いられた溶媒であってもよく、本発明に用いられる混合溶媒と置換されていてもよい。重合体溶液9は、例えば、反応混合物に含まれている溶媒を除去することによって濃縮し、重合体を固体または高濃度で回収し、これを重合体溶液用容器8内に入れた後、液化混合溶媒を重合体溶液用容器8に導入することにより、固体または高濃度の重合体を溶解または希釈することによって調製してもよい。
【0025】
重合体溶液に使用される重合体の種類は、良溶媒に溶解または膨潤するものであればよく、特に限定されない。重合体の例としては、(メタ)アクリル酸系重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、アクリルアミド系重合体、ポリイソブチレンなどのオレフィン系重合体、ポリブタジエンなどのジエン系重合体、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、エチレン−酢酸ビニル系重合体、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系重合体、6−ナイロンなどのポリアミド系重合体、ポリウレタン系重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0026】
重合体を調製する方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。塊状重合法によって重合体を調製した場合、得られた重合体をあらかじめ前記混合溶媒に溶解させておくことが精製効率を高める観点から好ましい。溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などの重合方法によって重合体を調製した場合、得られた重合体には溶媒が含まれているので、そのままの状態で重合体溶液として用いることができるほか、その溶媒をあらかじめ除去しておいてもよく、あるいはこの溶媒を前記混合溶媒と置換しておいてもよい。
【0027】
重合体溶液9における重合体の含有率は、特に限定されないが、重合体の精製効率を高める観点から、通常、好ましくは40〜85重量%程度、より好ましくは50〜75重量%程度である。
【0028】
重合体溶液9が入れられる重合体溶液用容器8の形状、容量、材質などには、特に限定がない。重合体溶液用容器8の形状としては、例えば、円筒状、角筒状などが挙げられる。重合体溶液収容室5の容量および重合体溶液用容器8の容量は、重合体を精製するときの規模によって左右されるので一概には決定することができない。例えば、一度に大量の重合体の精製をする場合には、重合体溶液収容室5の容量および重合体溶液用容器8の容量は、大量の重合体の精製に適した大きさであることが好ましく、実験室レベルでの重合体の精製が必要である場合には、それほど容量が大きくなくてもよい。
【0029】
重合体溶液用容器8の材質は、混合溶媒2および重合体溶液9に対して不活性であればよく、特に限定されないが、その代表例として、ガラスなどが挙げられる。
【0030】
重合体溶液用容器8には、フィルター10が設けられている。フィルター10は、重合体に含まれている不純物を透過するが、重合体溶液9に含まれている重合体を透過しない孔を有するものが用いられる。
【0031】
フィルター10の孔径は、重合体溶液9に含まれている重合体の分子量、除去しようとする不純物の分子量などによって異なるので一概には決定することができないため、重合体の種類や不純物の分子量などに応じて適宜、選択することが好ましい。フィルター10の代表例としては、フッ素樹脂製のメンブレンフィルターなどが挙げられる。例えば、孔径が1μm以下、好ましくは0.3μm以下のフッ素樹脂製のメンブレンフィルターを用いることにより、重合体に含まれている分子量が1000以下の低分子量化合物を効率よく除去することができることが、本発明者らの研究によって確認されている。好適なフィルター10としては、例えば、孔径が0.05〜1μm、好ましくは0.05〜0.3μmであるフッ素樹脂などの樹脂からなるメンブレンフィルターなどが挙げられる。
【0032】
フィルター10は、例えば、図1に示されるように、重合体溶液用容器8の側面に設けられていてもよく、あるいはその底面に設けられていてもよい。液化混合溶媒は、冷却部6の内壁を伝い、滴下することによって重合体溶液用容器8の上部から導入されるので、重合体溶液に含まれている不純物の除去効率を高める観点から、フィルター10は、重合体溶液用容器8の上部の反対側である底面に設けられていることが好ましい。
【0033】
なお、重合体溶液用容器8内の重合体溶液9に、例えば、攪拌翼などの攪拌器(図示せず)を入れ、重合体溶液9を攪拌することが、精製効率を高める観点から好ましい。
【0034】
液化混合溶媒が重合体溶液用容器8の上部に導入されると、重合体溶液用容器8内の重合体溶液9の液面が上昇するが、重合体溶液用容器8の内部に存在している重合体溶液9に含まれている不純物として含まれている残存単量体、単量体から副生したオリゴマーなどの低分子量の副生成物、重合時に使用した溶媒などがフィルター10を介して重合体溶液用容器8の外部に排出される。このとき、重合体溶液収容室5と重合体溶液用容器8との間隙に存在する重合体溶液9の液面と、重合体溶液用容器8に存在する重合体溶液9の液面との位置がほぼ同一となる。
【0035】
重合体溶液収容室5と溶媒容器1とは、排出管11を介して連通するように接続されている。フィルター10を透過して重合体溶液用容器8の外部に排出された不純物は、排出管11を介して溶媒容器1に導入される。図1において、排出管11が上方に向かって屈曲点11aまで伸びているのは、重合体溶液用容器8内で重合体溶液9の液面を一定の高さとなるようにするためである。屈曲点11aの位置が低い場合、重合体溶液9の量が少なくなり、精製効率が低下するようになるので、屈曲点11aは、できるだけ高いことが好ましいが、重合体溶液収容室5内の溶液が溶媒蒸気導入管4に流入しないようにするために、溶媒蒸気導入管4と重合体溶液収容室5との接続部4aの下部よりも低い位置に設けられていることが好ましい。
【0036】
図1に示される実施態様では、重合体溶液収容室5と排出管11との接続部11bの位置は、重合体溶液収容室5の下方であることが、フィルター10を介して重合体溶液用容器8の外部に排出された不純物を含む溶媒を効率よく除去する観点から好ましい。しかし、接続部11bは、必ずしも重合体溶液収容室5の下方に設けられていなくてもよく、例えば、重合体溶液収容室5の上方(図示せず)に設けられていてもよく、あるいは重合体溶液収容室5の高さ方向の中間部分(図示せず)に設けられていてもよい。
【0037】
重合体溶液用容器8の外部に排出された不純物を含む溶媒は、排出管11を介して溶媒容器1に導入されると、溶媒容器1内で混合溶媒2と混ざり合い、不純物が混合溶媒2に含まれる。しかし、混合溶媒2に含まれる不純物は、一般に混合溶媒2よりも蒸気圧が低いので、混合溶媒2を加熱したときに蒸気となって溶媒蒸気導入管4から重合体溶液収容室5内に導入されがたい。したがって、重合体溶液用容器8から排出された不純物は、重合体溶液収容室5に導入されることなく、溶媒容器1内で滞留するので、この溶媒容器1内の混合溶媒2中で蓄積するようになる。
【0038】
したがって、混合溶媒2を加熱し、混合溶媒蒸気を重合体溶液収容室5に送り込めば、液化混合溶媒が生じ、生じた液化混合溶媒が重合体溶液9に導入される結果、重合体溶液9に含まれている不純物がフィルター10を介して重合体溶液9から除去され、除去された不純物は、混合溶媒2に蓄積されるようになる。
【0039】
前記操作を行なっているとき、任意の時間で、重合体溶液用容器8内の重合体溶液9をサンプリングし、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーなどにより、その重合体の純度を確認することができる。
【0040】
重合体が所望の純度となった時点で、重合体の精製を終了することができる。重合体の精製の終了後には、重合体溶液収容室5から重合体溶液用容器8を取り出し、次いで重合体溶液用容器8内から精製された重合体溶液9を取り出し、この精製された重合体溶液9に含まれている溶媒を除去することにより、精製された重合体を回収することができる。重合体溶液9に含まれている溶媒は、例えば、加熱乾燥、真空乾燥などによって容易に除去することができる。
【0041】
前記操作は、図1に示されるように、外気と接触させずに閉鎖系で行なうことができるので、混合溶媒2が外気に漏出することを防止することができることから、環境汚染を防止することができるのみならず、引火の危険性を回避することができる。また、混合溶媒2は、系内で循環して使用されるので、従来の溶媒を用いて重合体を洗浄したときのように大量の溶媒を使用する必要がないことから、環境への負荷を軽減することができるという利点がある。さらに、混合溶媒2を加熱するだけで、重合体が精製されるので、人手を煩わせずに簡便に効率よく重合体を精製することができるという利点がある。
【0042】
また、本発明の精製方法によれば、精製に要する時間が短くてよく、系外に重合体を排出することがないので、高純度を有する重合体を高収率で効率よく得ることができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
製造例1
5L容の5つ口フラスコ内に、モノマーとしてグリシジルメタクリレート45gおよびヒドロキシプロピルメタクリレート155g、連鎖移動剤として1−チオグリセロール6g、および溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル3800gを加え、フラスコ内の内容物をメカニカルスターラーで撹拌しながら、フラスコに取り付けた窒素ガス導入管から窒素ガスを前記内容物に吹き込み、窒素ガス置換を1時間行なった。
【0045】
次に、フラスコ内の内容物を75℃まで昇温した後、重合開始剤として2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシ)バレロニトリル5gをこの内容物に添加し、80±2℃の温度で重合を行なった。
【0046】
重合開始から4時間経過時にターシャリーブチルパーオキシピバレート8gを前記内容物に添加し、さらに80±2℃の温度で4時間経過後にターシャリーブチルパーオキシピバレート4gを添加し、さらに8時間養生を行なった。その後、フラスコを室温まで冷却し、フラスコ内の重合体溶液を多量のヘキサン中に投入し、重合体を析出させ、デカンテーションで上澄み溶液を取り除き、固形物をアセトンに溶解させた後、濃縮し、これを乾燥することにより、重合体Aを回収した。
【0047】
製造例2
2L容の5つ口フラスコ内に、モノマーとしてベンジルアクリレート21gおよびヒドロキシプロピルアクリレート64g、および溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル1615gを加え、メカニカルスターラーでフラスコ内の内容物を撹拌しながら、フラスコに取り付けた窒素ガス導入管から窒素ガスを前記内容物に吹き込み、窒素ガス置換を1時間行なった。
【0048】
次に、フラスコ内の内容物を75℃まで昇温した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル5gをこの内容物に添加し、80±2℃の温度で重合を行なった。
【0049】
重合開始から4時間経過時にアゾビスイソブチロニトリル0.4gを前記内容物に添加し、さらに80±2℃の温度で10時間養生を行なった。その後、フラスコを室温まで冷却し、フラスコ内の重合体溶液を多量のヘキサン中に投入し、重合体を析出させ、デカンテーションで上澄み溶液を取り除き、固形物をアセトンに溶解させた後、濃縮し、これを乾燥することにより、重合体Bを回収した。
【0050】
実施例1〜3
図1に示される精製装置を用いた。500mL容の溶媒容器1に、重合体に対する良溶媒(アセトン)と重合体に対する貧溶媒(n−ヘキサン)とを表1に示す比率で混合した混合溶媒200mLを入れた。
【0051】
300mL容のガラス製の重合体溶液用容器8内に、各製造例で得られた重合体50gをそれぞれ別々に入れ、混合溶媒の蒸気が冷却されることによって得られた液化混合溶媒をこの重合体溶液用容器8に滴下して重合体を溶解させ、20%の重合体溶液とした。
【0052】
重合体溶液用容器8にフィルター10として、メンブレンフィルター〔(株)セントラル科学貿易製、商品名:PORAFIL CM、孔径:0.2μm〕を重合体溶液用容器8の底面に設けた。重合体溶液用容器8内に攪拌翼(図示せず)を入れ、重合体溶液9を攪拌するようにした。
【0053】
加熱装置3としてオイルバスを用いて混合溶媒2の温度を50℃に調整することにより精製を開始した。なお、溶媒容器1内の混合溶媒2は、マグネティックスターラーの攪拌子(図示せず)を入れて攪拌した。
【0054】
精製を行なっているとき、任意の時間で、重合体溶液9から重合体をサンプリングし、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーにより、その重合体の純度を確認し、所定時間経過後に、重合体溶液用容器8を重合体溶液収容室5から取り出し、次いで重合体溶液用容器8内から重合体溶液9を取り出し、重合体溶液9に含まれている溶媒を除去することにより、重合体を回収し、精製された重合体の収率および分子量を調べた。その結果を表1に併記する。
【0055】
なお、重合体の収率および分子量は、以下の方法にしたがって調べた。
(1)重合体の収率
重合体を再沈法によって析出させ、乾燥させた後に定量した。また、精製した後の重合体を回収し、1日間減圧乾燥させた後、その重量を測定し、この重合体の重量と精製前の重合体の重量に基づいて、収率を求める。
【0056】
(2)重合体の分子量
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を調べ、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。その具体的な条件は、以下のとおりである。
【0057】
・ゲルパーミエーションクロマトグラフ:東ソー(株)製、品番:HLC−8020
・カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHXL、G4000HXLおよびG5000HXLを直列に連結
・溶離液:テトラヒドロフラン、流量1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
・検出方法:示差屈折率(RI)
【0058】
なお、表1に記載の重合体の種類は、各製造例で得られた重合体の種類を示す。また、Mは、検量線より求めた分子単体の分子量を示す。また、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示された結果から、以下のことがわかる。
実施例1の結果から、精製時間の経過とともに分子量が1000未満の低分子量の化合物の量が低減するので、分子量が1000以上の重合体の量が増大することがわかる。
【0061】
実施例2の結果から、混合溶媒のヘキサン/トルエンの容量比が40/60である場合、精製開始から5時間経過後では、分子量分布(Mw/Mn)が1.16であることから、分子量分布(Mw/Mn)が1に近い理想的な重合体が得られ、1000以上の分子量を有する重合体が99.9重量%を占める反面、収率が低くなることがわかる。一方、実施例3の結果から、混合溶媒のヘキサン/トルエンの容量比が60/40である場合、精製開始から12時間経過後では、分子量分布(Mw/Mn)が1.27であり、実施例2よりも分子量分布(Mw/Mn)が大きい重合体が得られ、1000以上の分子量を有する重合体が99.8重量%を占め、収率が高くなることがわかる。
【0062】
これらのことから、本発明の精製方法によれば、混合溶媒における良溶媒と貧溶媒の比率を調整することにより、収率に変動が生じるが、分子量分布(Mw/Mn)が1に近い重合体を容易に得ることができることがわかる。
【0063】
以上のことから、実施例1〜3によれば、1000未満の分子量を有する不純物の含有量を1重量%未満にまで効率よく低減させることができることがわかる。
【0064】
比較例1
製造例1で得られた重合体Aの20%プロピレングリコールモノメチルエーテル溶液50mLと、テトラヒドロフラン300mLおよびヘキサン150mLの混合溶媒とを混合し、重合体Aを再沈させることにより、精製した。その結果、収率は52.8重量%であり、分子量が1000以上の重合体Aの含有率は98.1重量%と低く、分子量が1000未満の不純物量が1重量%を超えていることから、分子量が1000未満の不純物が十分に除去されていないことがわかった。なお、重合体Aの分子量分布(Mw/Mn)を調べたところ、6200/4700(1.31)であった。
【0065】
比較例2
製造例2で得られた重合体Bの20%プロピレングリコールモノメチルエーテル溶液100mLと、テトラヒドロフラン200mLおよびヘキサン200mLの混合溶媒とを混合し、重合体Bを再沈させることにより、精製した。その結果、収率は20重量%であり、分子量が1000以上の重合体Bの含有率は98.2重量%と低く、分子量が1000未満の不純物量が1重量%を超えていることから、分子量が1000未満の不純物が十分に除去されていないことがわかった。なお、重合体Bの分子量分布(Mw/Mn)を調べたところ、6500/4400(1.48)であった。
【0066】
以上の結果から、各実施例の精製方法によれば、各比較例の従来の方法と対比して、少量の溶媒量を使用するだけで選択的に低分子量の不純物を容易に除去することができ、その結果、分子量1000以上の割合が高く、数平均分子量が低い重合体を高収率で回収することができることがわかる。
【0067】
実験例1
実施例1において、精製前の重合体A、精製後の重合体Aおよび重合体Aを精製した後に溶媒容器1内の混合溶媒に含まれている不純物の数平均分子量(Mn)をそれぞれ前記と同様にしてゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって調べた。その結果を図2に示す。
【0068】
図2において、符号Aは重合体Aを精製した後に溶媒容器1内の混合溶媒に含まれている不純物のGPCの測定結果を示すチャート、符号Bは重合体Aを精製した後の重合体AのGPCの測定結果を示すチャート、符号Cは重合体Aを精製する前の重合体AのGPCの測定結果を示すチャートを示す。
【0069】
図2に示された結果から、重合体Aを精製した後の重合体AのGPCの測定結果を示すチャート(符号B:精製品)と、重合体Aを精製する前の重合体AのGPCの測定結果を示すチャート(符号C:洗浄前)とを対比して、精製後の重合体AのGPCの測定結果を示すチャートでは、チャートのピークの右側の精製前の低分子量の重合体を示す部分がカットされていることから、精製することにより、低分子量化合物が選択的に除去されていることがわかる。このことは、重合体Aを精製した後に溶媒容器1内の混合溶媒のGPCの測定結果を示すチャート(符号A:母液)に、低分子量化合物の存在を示すチャートが検出されていることから裏づけられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の重合体の精製方法に使用される精製装置の一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】本発明の実験例1において、精製前または精製後の重合体Aおよび精製後の混合溶媒のゲルパーミエイションクロマトグラフィーの測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 溶媒容器
2 混合溶媒
3 加熱装置
4 溶媒蒸気導入管
4a 溶媒蒸気導入管と重合体溶液収容室との接続部
5 重合体溶液収容室
6 冷却部
7 冷却装置
8 重合体溶液用容器
9 重合体溶液
10 フィルター
11 排出管
11a 屈曲点
11b 重合体溶液収容室と排出管との接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体に含まれている不純物を除去する重合体の精製法であって、重合体に対する良溶媒と該重合体に対する貧溶媒との混合溶媒が収容された溶媒容器から、該混合溶媒を加熱することによって混合溶媒蒸気を発生させ、発生した混合溶媒蒸気を冷却し、凝縮させることによって液化混合溶媒を生成し、生成した液化混合溶媒を重合体溶液が収容された重合体溶液用容器内に導入し、該重合体溶液用容器の側面または底面に設けられた、重合体溶液に含まれている不純物を透過するが、重合体を透過しない孔を有するフィルターから不純物を透過させ、フィルターを透過した不純物を含有する溶媒を前記溶媒容器に導入することを特徴とする重合体の精製方法。

【図1】
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【図2】
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