説明

重合体の製造方法

【目的】 良好な流動性および低複屈折性を示し、開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークやゲルが発生しない重合体を製造するための製造方法を提供することにある。
【構成】 下記化1で表わされる特定単量体をメタセシス開環重合させる開環重合工程を含む重合体の製造方法であって、開環重合工程において、特定単量体の、最終的に開環重合反応に供される量の1〜30重量%を、メタセシス触媒および分子量調節剤と共に溶媒に溶解させ、その後、開環重合反応を開始し、特定単量体の、最終的に開環重合反応に供される量の99〜70重量%を、連続的あるいは断続的に反応系に添加しながら開環重合反応を進行させることを特徴とする。(化1中、AおよびBは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基、XおよびYは水素原子、ハロゲン原子または一価の有機基、mは0または1である。)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、重合体の製造方法に関し、特に分子量分布の狭いメタセシス開環重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、透明樹脂は自動車部品、照明機器、電気部品など通常の透明性が要求される成形品の材料として用いられ、特に最近においては、光学的性質が重視される光学材料としての応用が進みつつある。斯かる用途に好適に用いられる透明樹脂として、ノルボルネン誘導体よりなる単量体をメタセシス触媒の存在下にメタセシス開環重合させて得られる開環重合体およびそれらの水素添加物が知られており、これらの開環重合体および水素添加物は、透明性、低吸水性、低複屈折性、耐熱性を兼ね備えているものである。
【0003】しかして、これらの開環重合体のうち分子量の大きいものは、流動性が不十分で加工が困難であり、また、形成複屈折が発生しやすくなる。斯かる場合に、オレフィン化合物よりなる分子量調節剤の存在下にメタセシス開環重合反応を行うことにより分子量の調節を行うことが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、分子量調節剤の存在下にメタセシス開環重合反応を行うだけでは、開環重合体の分子量を十分にコントロールすることができない。すなわち、(1)オレフィン化合物よりなる分子量調節剤は、ノルボルネン誘導体よりなる単量体に対して活性が低いものであり、当該単量体に対する分子量調節剤の割合が過少である場合には、得られる開環重合体は分子量の大きなものとなる。分子量の大きい開環重合体は十分な流動性および低複屈折性を有するものとならず、また、このような開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてゲルが発生したりする。
(2)単量体に対する分子量調節剤の割合が過大である場合には、過剰の分子量調節剤のために得られる開環重合体の分子量が小さくなりすぎ、このような開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークが発生し、また、成形品の表面にベタツキが生じたりする。
(3)ノルボルネン誘導体よりなる単量体は、メタセシス触媒および分子量調節剤と共に溶媒に溶解された後、通常一括して反応容器に仕込まれて開環重合反応に供される。
■ 従って、開環重合反応開始時において、単量体に対する分子量調節剤の割合が適当であっても、開環重合反応の進行に伴って、単量体に対する分子量調節剤の割合が徐々に過大になって、反応後期に得られる開環重合体については上記(2)と同様の問題を生じる。これは、開環重合反応による単量体の減少速度が、分子量調節剤であるオレフィン化合物の減少速度に比べて大きいために、単量体に対する分子量調節剤の割合が経時的に変化(増加)するからである。
■ また、単量体に対する分子量調節剤の割合が、反応初期において過少であり、この割合が経時的に増加して反応後期において過大となる場合には、分子量分布が相当広いものとなって、得られる開環重合体は、上記(1)および上記(2)の問題を併有するものとなる。
【0005】以上のように、オレフィン化合物よりなる分子量調節剤を反応系に単に添加するだけでは、分子量を調節することが困難であり、好適な分子量分布のメタセシス開環重合体を得ることができない。本発明は以上のような事情に基いてなされたものであって、その目的は、良好な流動性および低複屈折性を示し、しかも、開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークやゲルが発生しない重合体を製造するための製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、開環重合反応に供されるノルボルネン誘導体よりなる単量体を、特定の割合で一部と残部とに分割し、単量体の一部を予め反応系に仕込んだ後、開環重合反応を開始し、単量体の残部を、連続的あるいは断続的に反応系に添加すれば、単量体に対する分子量調節剤の割合が反応初期の好ましい割合に維持されながら開環重合反応が進行し、シルバーストリーク発生の原因となる低分子量体およびゲル発生の原因となる高分子量体を含まない、分子量分布の狭い開環重合体が得られることを見出し、斯かる知見に基いて本発明を完成した。
【0007】すなわち、本発明の重合体の製造方法は、下記化2で表わされる少なくとも1種のノルボルネン誘導体よりなる単量体(以下「特定単量体」ともいう)を、メタセシス触媒および分子量調節剤の存在下にメタセシス開環重合させる開環重合工程を含む重合体の製造方法であって、前記開環重合工程において、ノルボルネン誘導体よりなる単量体の、最終的に開環重合反応に供される量の1〜30重量%を、メタセシス触媒および分子量調節剤と共に溶媒に溶解させ、その後、開環重合反応を開始し、ノルボルネン誘導体よりなる単量体の、最終的に開環重合反応に供される量の99〜70重量%を、連続的あるいは断続的に反応系に添加しながら開環重合反応を進行させることを特徴とする。
【化2】


〔化2中、AおよびBは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、XおよびYは水素原子、ハロゲン原子または一価の有機基を示し、mは0または1である。〕
【0008】以下、本発明について具体的に説明する。本発明の方法に用いられる特定単量体は、上記化2で表されるノルボルネン構造を有する化合物である。特定単量体のうち、上記化2におけるXまたはYが極性基、特に式−(CH2 n COOR1 で表わされるカルボン酸エステル基である特定単量体は、得られる開環重合体の水素添加物が高いガラス転移温度と低い吸湿性を有するものとなる点で好ましい。上記の式において、R1 は炭素原子数1〜12の炭化水素基である。また、nの値が小さいものほど、得られる開環重合体のガラス転移温度が高くなるので好ましく、更にnが0である特定単量体は、その合成が容易である点で、また、得られる開環重合体のガラス転移温度が高いものとなる点で好ましい。更に、上記化2におけるAおよびBはアルキル基、特にメチル基であることが好ましく、特に、このアルキル基が、上記のカルボン酸エステル基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが好ましい。また、上記化2においてmが1である特定単量体は、ガラス転移点の高い開環重合体が得られる点でmが0のものより好ましい。
【0009】上記化2で表わされる特定単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−8−デセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペンタデセン、トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、5−カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−カルボキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−カルボキシエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−カルボキシn−プロピルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−カルボキシイソプロピルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−カルボキシn−ブチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシn−プロピルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシイソプロピルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシn−ブチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、9−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、ノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、エチルテトラシクロドデセン、トリメタノオクタヒドロナフタレンその他を挙げることができる。これらのうち、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセンは、ガラス転移温度が高く、吸水性が小さいことから好ましい。上記の特定単量体は必ずしも単独で用いられる必要はなく、二種以上を用いて開環共重合反応を行うこともできる。
【0010】開環重合体は、上記の特定単量体を単独で開環重合させたものであってもよいが、当該特定単量体と共重合性単量体とを開環共重合させたものであってもよい。この場合に使用される共重合性単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−3−デセンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。更にポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素−炭素間二重結合を含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下に特定単量体を開環重合させてもよい。そして、この場合に得られる開環共重合体の水素添加物は、耐衝撃性の大きい樹脂の原料として有用である。
【0011】本発明において、開環重合反応はメタセシス触媒の存在下に行われる。このメタセシス触媒は、(a)W、MoおよびReの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)デミングの周期律表IA族元素(例えばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(例えばMg、Caなど)、IIB族元素(例えばZn、Cd、Hgなど)、III A族元素(例えばB、Alなど)、IVA族元素(例えばSi、Sn、Pbなど)あるいはIVB族元素(例えばTi、Zrなど)の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合あるいは当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなる触媒である。またこの場合に触媒の活性を高めるために、後述の添加剤(c)が添加されたものであってもよい。(a)成分として適当なW、MoあるいはReの化合物の代表例としては、WCl6 、MoCl5 、ReOCl3 など特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。(b)成分の具体例としては、n−C4 9 Li、(C2 5 3 Al 、(C2 52 AlCl 、LiHなど特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。添加剤である(c)成分の代表例としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができるが、更に特開平1−240517号公報に示される化合物を使用することができる。
【0012】メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と特定単量体とのモル比で「(a)成分:特定単量体」が、通常、1:500〜1:50000となる範囲、好ましくは、1:1000〜1:10000となる範囲である。(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比で(a):(b)が1:1〜1:40、好ましくは1:2〜1:20の範囲とされる。(a)成分と(c)成分との割合は、モル比で(c):(a)が0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲とされる。
【0013】開環重合反応において用いられる溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素、クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン、アリールなどの化合物、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
【0014】開環重合体の分子量の調節は重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、本発明においては、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節する。斯かる分子量調節剤としては、例えばエチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類などを挙げることができ、特に1−ブテン、1−ヘキセンが好ましい。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0015】反応系に添加される分子量調節剤の添加量は、開環重合反応開始時に反応系に存在する特定単量体に対して0.5〜40モル%、好ましくは3〜30モル%とされる。
【0016】開環重合工程において、特定単量体は、特定の割合で一部と残部とに分割される。
【0017】特定単量体の一部は、開環重合反応が開始される前に、メタセシス触媒および分子量調節剤と共に溶媒に溶解され、これにより反応溶液が調製される。開環重合反応の開始前に溶媒に溶解される特定単量体の割合は、最終的に開環重合反応に供される量の1〜30重量%とされ、好ましくは1〜20重量%とされる。この割合が1重量%未満であると、特定単量体に対する分子量調節剤の割合が、反応初期には過大となり、反応後期には過少となって、得られる開環重合体は分子量分布の広いものとなり、この開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークやゲルが発生する。また、得られる開環重合体の収率が小さいものとなる。一方、この割合が30重量%を超えると、特定単量体に対する分子量調節剤の割合が、反応初期には過少となり、反応後期には過大となって、得られる開環重合体は分子量分布の広いものとなり、この開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークやゲルが発生する。
【0018】本発明においては、メタセシス触媒、特に(a)成分であるW化合物などを反応系に添加する時に、特定単量体が反応系に存在していることが必要である。反応系を調製するための好ましい方法としては、特定単量体の一部、分子量調節剤およびメタセシス触媒のうちの(b)成分を予め混合し、この系にメタセシス触媒の(a)成分を添加する方法を挙げることができる。
【0019】開環重合反応が開始された後、特定単量体の残部が反応系に添加される。特定単量体の残部の添加は、連続的に行っても断続的に行ってもよい。特定単量体の残部を添加するタイミングは、反応系に存在するメタセシス触媒の量、反応温度などの反応条件によっても異なるが、例えば、開環重合反応を開始してから1〜60分経過後に残部の添加を開始し、30分〜3時間、好ましくは1〜2時間かけて特定単量体の残部全量を添加する。
【0020】特定単量体の残部を添加する速度は、反応系中の特定単量体に対する分子量調節剤の割合が、反応開始時より常に一定に、例えば10〜35モル%程度となるような速度であることが好ましい。
【0021】開環重合反応によって得られる開環重合体の固有粘度(ηinh )は、0.2〜5.0の範囲にあることが好ましい。
【0022】また、開環重合体のGPC測定によるポリスチレン換算の平均分子量(溶媒:テトラヒドロフラン)としては、数平均分子量(Mn )が、通常0.8×104 〜10×104 、好ましくは1.5×104 〜8×104 、より好ましくは2.0×104 〜6.0×104 であり、重量平均分子量(Mw )が、通常2.5×104 〜30×104 、好ましくは3.0×104 〜25×104 、より好ましくは4.0×104 〜20×104 である。また、分子量分布(Mw /Mn )は、通常1.5〜4.5、好ましくは1.5〜4.0、より好ましくは1.5〜3.5である。分子量が大き過ぎる場合には、得られる開環重合体およびその水素添加物が十分な流動性を有するものとはならず、また形成複屈折が発生しやすくなる。一方、分子量が小さ過ぎる場合には、開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークが発生し、また、成形品の表面にベタツキが生じたりする傾向がある。
【0023】以上のようにして得られる開環重合体は、水素添加触媒を用いて水素添加できる。水素添加反応は、通常の方法、すなわち、開環重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行われる。水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒および均一系触媒が公知である。不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどを挙げることができる。触媒の形態は粉末でも粒状でもよい。これらの水素添加触媒は、「開環重合体:水素添加触媒(重量比)」が、1:1×10-4〜1:2となる割合で使用される。このように、水素添加することにより、得られる水素添加重合体は優れた熱安定性を有するものとなり、成形加工時や製品としての使用時の加熱によってはその特性が劣化することはない。ここに、水素添加率は、通常50%以上、好ましく70%以上、更に好ましくは90%以上である。
【0024】本発明の方法により製造される重合体には、公知の酸化防止剤、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;紫外線吸収剤、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどを添加することによって安定化することができる。また、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。
【0025】本発明の方法により製造される重合体およびその水素添加重合体は、公知の成形手段、例えば射出成形、圧縮成形、押出成形法などを用いて成形品を作製することができる。
【0026】また、作製された成形品の表面に、無機化合物、シランカップリング剤などの有機シリコン化合物、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂などからなるハードコート層を形成することができる。ハードコート層の形成手段としては、熱硬化法、紫外線硬化法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の方法を挙げることができ、これによって、成形品の耐熱性、光学特性、耐薬品性、耐摩耗性および透湿性などを向上させることができる。
【0027】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「部」は「重量部」を示す。
【0028】〔実施例1〕
■開環重合工程特定単量体として、下記化3で表される8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセンを用い、以下のようにして特定単量体の開環重合反応を行った。
【0029】
【化3】


【0030】ジャケットを有する反応容器の内部を窒素ガスで置換し、この反応容器内に、トルエン65部と、特定単量体2.5部(全添加量の10重量%)と、分子量調節剤である1−ヘキセン0.36部と、ジエチルアルミニウムクロリドのトルエン溶液(濃度1.20モル/l)0.6部とを仕込み、攪拌しながら80℃に加熱した。次いで、六塩化タングステンのジメトキシエタン溶液(濃度0.05モル/l)0.7部を添加し、開環重合反応を開始した。開環重合反応を開始してから5分間経過後、反応温度を80℃に保ちながら、特定単量体のトルエン溶液32.5部(特定単量体:トルエン=22.5部:10部)を1時間にわたり連続的に添加した。特定単量体の全量が添加された後、反応温度を80℃に保ちながら、更に2時間開環重合反応を行った。開環重合反応を停止し、反応系の溶液を多量のメタノール中に加えて開環重合体を析出させ、濾別分離後乾燥して白色粉末状の開環重合体A−1を得た。
【0031】以上のようにして得られた開環重合体A−1の収率は99.2%、固有粘度(ηinh )は0.46dl/g(クロロホルム中,30℃,濃度0.5g/dl)であり、GPC測定によるポリスチレン換算の平均分子量(展開溶媒:テトラヒドロフラン)は、数平均分子量Mn =2.3×104 、重量平均分子量Mw =7.0×104(Mw /Mn =3.0)であった。
【0032】■水素添加工程開環重合体A−1の100部をテトラヒドロフラン2000部に溶解して重合体溶液を調製した。この重合体溶液に、水素添加触媒としてパラジウム触媒(活性炭担持触媒:パラジウム濃度=5重量%)10部を加え、オートクレーブ中で水素ガス圧150kg/cm2 、温度150℃で4時間加熱することにより水素添加反応を行った。反応終了後、反応系の冷却および水素ガスの放圧を行い、更に水素添加触媒を濾別し、濾液をメタノール中に注いで、水素添加重合体を凝固させた。この水素添加重合体の水素添加率は実質上100%であった。また、前記と同様にして数平均分子量を測定したところ、2.3×104 であり、水素添加前と同一であった。
【0033】■光ディスク板の製造得られた水素添加重合体100部に、酸化防止剤「イルガノックス1010」(チバガイギー社製)0.2部を添加し、押出機(押出温度290℃)によりペレットを作製した。作製したペレットを、射出成形機「DISK5」(住友重機工業社製:成形温度300℃)を用いて射出成形を行い、光ディスク板を製造した。この光ディスク板の外観を目視検査したところ、シルバーストリークおよびゲルの発生は認められなかった。また、複屈折値は12と良好であった。
【0034】〔実施例2〕反応開始前における特定単量体の仕込み量を9部(全添加量の30重量%)、1−ヘキセンの仕込み量を0.45部とし、反応進行中における特定単量体の添加量を21部としたこと以外は実施例1と同様にして開環重合反応を行い、白色粉末状の開環重合体A−2を得た。以上のようにして得られた開環重合体A−2の収率は99.6%、固有粘度(ηinh )は0.48dl/gであり、GPC測定によるポリスチレン換算の平均分子量は、数平均分子量Mn =2.2×104 、重量平均分子量Mw =7.5×104 (Mw /Mn =3.4)であった。開環重合体A−1に代えて、開環重合体A−2を用いたこと以外は実施例1と同様にして水素添加工程を実施し、得られた水素添加重合体を用いて実施例1と同様にして光ディスクを製造した。この光ディスク板の外観を目視検査したところ、シルバーストリークおよびゲルの発生は認められなかった。また、複屈折値は16と良好であった。
【0035】〔比較例1〕特定単量体として、実施例1で用いたと同様の8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセンを用い、以下のようにして特定単量体の開環重合反応を行った。ジャケットを有する反応容器の内部を窒素ガスで置換し、この反応容器内に、トルエン75部と、1−ヘキセン0.36部と、ジエチルアルミニウムクロリドのトルエン溶液(濃度1.20モル/l)0.6部とを仕込み、攪拌しながら80℃に加熱した。次いで、六塩化タングステンのジメトキシエタン溶液(濃度0.05モル/l)0.7部を添加した。5分間経過後、反応温度を80℃に保ち、特定単量体のトルエン溶液35部(特定単量体:トルエン=25部:10部)を、1時間にわたり連続的に添加しながら開環重合反応を行った。特定単量体の全量が添加された後、反応温度を80℃に保ちながら、更に2時間開環重合反応を行った。開環重合反応を停止し、反応系の溶液を多量のメタノール中に加えて開環重合体を析出させ、濾別分離後乾燥して白色粉末状の開環重合体a−3を得た。以上のようにして得られた開環重合体a−3の収率は56%に止まった。この開環重合体a−3の固有粘度(ηinh )は0.71dl/g(クロロホルム中,30℃,濃度0.5g/dl)であり、GPC測定によるポリスチレン換算の平均分子量は、数平均分子量Mn =1.1×104 、重量平均分子量Mw =4.5×104 (Mw /Mn =4.1)であった。開環重合体A−1に代えて、開環重合体a−3を用いたこと以外は実施例1と同様にして水素添加工程を実施し、得られた水素添加重合体を用いて実施例1と同様にして光ディスクを製造した。この光ディスク板の外観を目視検査したところ、表面にシルバーストリークおよびゲルの発生が認められた。また、複屈折値は30未満であった。
【0036】〔比較例2〕特定単量体として、実施例1で用いたと同様の8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセンを用い、以下のようにして特定単量体の開環重合反応を行った。ジャケットを有する反応容器の内部を窒素ガスで置換し、この反応容器内に、トルエン75部と、特定単量体25部と、1−ヘキセン1.36部と、ジエチルアルミニウムクロリドのトルエン溶液(濃度1.20モル/l)0.6部とを仕込み、攪拌しながら80℃に加熱した。次いで、六塩化タングステンのジメトキシエタン溶液(濃度0.05モル/l)0.7部を添加し、開環重合反応を開始した。開環重合反応は、反応温度を80℃に保ちながら3時間行われた。開環重合反応を停止し、反応系の溶液を多量のメタノール中に加えて開環重合体を析出させ、濾別分離後乾燥して白色粉末状の開環重合体a−4を得た。以上のようにして得られた開環重合体a−4の収率は94.7%、固有粘度(ηinh )は0.61dl/gであり、GPC測定によるポリスチレン換算の平均分子量は、数平均分子量Mn =1.8×104 、重量平均分子量Mw =10×104 (Mw /Mn =5.6)であった。開環重合体A−1に代えて、開環重合体a−4を用いたこと以外は実施例1と同様にして水素添加工程を実施し、得られた水素添加重合体を用いて実施例1と同様にして光ディスクを製造した。この光ディスク板の外観を目視検査したところ、シルバーストリークの発生が認められた。また、複屈折値は40以上であった。
【0037】〔比較例3〕反応開始前における特定単量体の仕込み量を10部(全添加量の40重量%)とし、反応進行中における特定単量体の添加量を15部としたこと以外は実施例1と同様にして開環重合反応を行い、白色粉末状の開環重合体a−5を得た。以上のようにして得られた開環重合体a−5の収率は98.7%、固有粘度(ηinh )は0.84dl/gであり、GPC測定によるポリスチレン換算の平均分子量は、数平均分子量Mn =2.9×104 、重量平均分子量Mw =16.7×104 (Mw /Mn =5.8)であった。開環重合体A−1に代えて、開環重合体a−5を用いたこと以外は実施例1と同様にして水素添加工程を実施し、得られた水素添加重合体を用いて実施例1と同様にして光ディスクを製造した。この光ディスク板の外観を目視検査したところ、シルバーストリークの発生が認められた。また、複屈折値は70以上であった。
【0038】
【発明の効果】本発明の方法によれば、単量体の一部を予め反応系に仕込んだ後開環重合反応を開始し、単量体の残部を、連続的あるいは断続的に反応系に添加しながら開環重合反応を進行させるので、重合反応中における特定単量体に対する分子量調節剤の割合が好適な割合に維持される結果、分子量分布の狭い開環重合体を得ることができる。得られた開環重合体は、良好な流動性および低複屈折性を示し、しかも、開環重合体の水素添加物を射出成形する際においてシルバーストリークやゲルが発生しないものである。
【0039】本発明の方法により製造される重合体の用途は特に限定されるものではなく、広い範囲にわたって使用することができ、一般カメラ用レンズ、ビデオカメラ用レンズ、望遠鏡レンズ、レーザービーム用レンズなどのレンズ類、光学式ビデオディスク、オーディオディスク、文書ファイルディスク、メモリディスクなどの光ディスク類などの光学材料として特に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記化1で表わされる少なくとも1種のノルボルネン誘導体よりなる単量体を、メタセシス触媒および分子量調節剤の存在下にメタセシス開環重合させる開環重合工程を含む重合体の製造方法であって、前記開環重合工程において、ノルボルネン誘導体よりなる単量体の、最終的に開環重合反応に供される量の1〜30重量%を、メタセシス触媒および分子量調節剤と共に溶媒に溶解させ、その後、開環重合反応を開始し、ノルボルネン誘導体よりなる単量体の、最終的に開環重合反応に供される量の99〜70重量%を、連続的あるいは断続的に反応系に添加しながら開環重合反応を進行させることを特徴とする重合体の製造方法。
【化1】


〔化1中、AおよびBは水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、XおよびYは水素原子、ハロゲン原子または一価の有機基を示し、mは0または1である。〕