説明

重窒素濃縮製造方法

【課題】 還流塔内で副生したHSOにSOが溶け込む量を少なくする重窒素濃縮製造方法を提供する。
【解決手段】 硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの気液接触反応により一酸化窒素ガスを生成し、生成された一酸化窒素ガスと硝酸水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素を硝酸に濃縮する重窒素濃縮製造方法において、硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの気液接触反応において副生される硫酸の温度を55〜100℃に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスの反応で発生させた一酸化窒素ガスを用いて、硝酸水溶液との化学交換法により重窒素15Nを濃縮して製造する重窒素濃縮製造方法に関し、特に、供給する二酸化硫黄ガスが、副生した硫酸に溶け込むことを抑制し、供給された二酸化硫黄ガスを効率的に用いて重窒素15Nを製造する重窒素濃縮製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する窒素の同位体は、質量数14の14Nが99.634%、質量数15の15Nが0.366%の割合となっている。これらの同位体のうち、質量数15の15Nは一般に重窒素と呼ばれており、分離濃縮された重窒素はバイオ分野におけるトレーサーや、化学分野における核磁気共鳴分析などに利用されている。
【0003】
窒素を含む軽元素の同位体分離法としては、統計的分離法や個別的分離法など、様々な方法が研究・開発されているが、実用化されているのは統計的分離法(化学交換法あるいは蒸留法)によるものだけである。個別的分離法(レーザー法あるいは電磁的分離法)は、一段の分離係数が高いため少量の分離精製には有効であるものの、分離速度が極端に遅いために、商業的に必要な量を大量に生産する場合には実質的な製造コストが高くなりすぎるという欠点がある。
【0004】
現在実用化されている窒素同位体の分離方法は、一酸化窒素(NO)ガスと硝酸(HNO)水溶液との接触によって起こる窒素同位体化学交換反応を利用したものである。具体的には、例えば下記の化学式(I)において、交換反応が僅かに右側にシフトすることを利用して分離する方法である。より具体的には、例えばある程度の長さを有し、内部に気液接触を促す充填材が詰められた交換塔内において、下記の化学式(I)のHNO−NO化学交換反応が重畳されることにより、HNO中に15Nの濃縮が進行する。
【0005】
【化1】

【0006】
実際の濃縮操作は、例えば特開平3−47518号公報に示されるように行われる。具体的には、図1に示すように、HNO水溶液は交換塔100の塔頂部から供給されて交換塔100内を下降する。交換塔100の下方には充填材が詰められた還流塔200が設置されており、交換塔100の底部から抜け出たHNO水溶液が還流塔200に入って、還流塔200内を下降する。このとき、HNO水溶液の下降流は、還元剤として還流塔200の下端部から供給された二酸化硫黄(SO)ガスの上昇流と接触し、界面で下記の化学式(II)の反応が起こり一酸化窒素(NO)ガスと硫酸(HSO)が生成する。
【0007】
【化2】

【0008】
上記化学式(II)の反応で生成したNOガスは、上昇流となって交換塔100に戻り、交換塔100内においてHNO水溶液とNOガスとの気液対向流により、上記の化学式(I)のHNO−NO化学交換反応が起こることによって、15NがHNO側に濃縮される。そして、15Nが濃縮されて所定の15N濃度となったHNOの一部は、還流比に従って交換塔100の底部から製品として抜き取られる。また、還流塔200で生成したHSOは、還流塔200の底部から回収されて、HNO水溶液と同位体交換したNOガスは交換塔100の塔頂部から排出される。
【0009】
ところで、上述のように、HNO−NO化学交換反応により重窒素15Nを濃縮製造する装置では、上記化学式(II)の反応によってNOが生成されるが、このとき、還元剤として大量のSOガスを必要とし、また大量のHSOが副生される。副生したHSOは、還流塔200を下降して塔底部のHSO流出口から流出するようになっているが、その流出量は制御されている。具体的に、還流塔200は、その下端部から供給されたSOガスが塔底部から抜け出さないようにするため、HNO水溶液とSOガスとの反応により生成したHSOを還流塔200の底部に一旦滞留するようにしてHSOの流出量を制御している。このため、還流塔200の下端部から供給されて上昇するSOガスの一部が、還流塔200の底部に滞留しているHSOに溶け込んでしまうことがある。
【0010】
このため、還流塔200の塔頂部から供給されたHNO水溶液のすべてを上記化学式(II)による反応でNOガスにするには、供給されたHNO量に対して上記化学式(II)で示された化学量論量よりも多くのSOガスを供給する必要がある。
【0011】
15Nの濃縮製造コストにおいて、SOガスの使用に関わるコストは比較的大きな割合を占めている。そのため、副生したHSOに溶け込むSO量をできる限り少なくすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−47518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、還流塔内で副生したHSOにSOガスが溶け込む量を少なくする重窒素濃縮製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、還流塔の底部に滞留するHSOの温度を所定温度となるように制御することによって、供給するSOガスがHSOに溶け込む量を少なくできることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明に係る重窒素濃縮製造方法は、硝酸(HNO)水溶液と二酸化硫黄(SO)ガスとの気液接触反応により一酸化窒素(NO)ガスを生成し、生成された一酸化窒素(NO)ガスと硝酸(HNO)水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素を硝酸(HNO)に濃縮する重窒素濃縮製造方法において、硝酸(HNO)水溶液と二酸化硫黄(SO)ガスとの上記気液接触反応において一酸化窒素(NO)ガスと共に生成される硫酸(HSO)の温度を55〜100℃に制御する。
【0016】
また、硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの気液接触反応により一酸化窒素ガスを生成する還流塔と、該還流塔で生成した一酸化窒素ガスと硝酸水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素を硝酸に濃縮する交換塔とを備えた重窒素濃縮製造装置を用いた場合において、その還流塔の塔底部には、加温手段が設けられ、さらに還流塔の塔底部には、熱電対が挿入される保護管が設けられている。本発明に係る重窒素濃縮製造方法は、これにより、還流塔内における硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの気液接触反応によって副生し、還流塔内に滞留する硫酸の温度を制御することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る重窒素濃縮製造方法によれば、還流塔内で副生したHSOにSOガスが溶け込む量を少なくすることができ、重窒素濃縮のためのHNO−NO化学交換反応に用いられるNOガスの生成に、供給されたSOガスを効率的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】還流塔と交換塔とを備えた重窒素濃縮製造装置の概略断面図である。
【図2】還流塔の一具体例の概略断面図である。
【図3】還流塔の塔底部を介して接続されたHSO排出管の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本実施の形態に係る重窒素濃縮製造方法は、図1に概略的に示したような重窒素濃縮製造装置1を用いて行われる。上述したように、図1に示す重窒素濃縮製造装置1は、硝酸(HNO)水溶液と二酸化硫黄(SO)ガスから一酸化窒素(NO)ガスを生成する還流塔20と、還流塔20で生成したNOガスとHNO水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素15NをHNOに濃縮する交換塔10とを備えている。
【0021】
交換塔10は、その塔頂部にHNO供給口を備え、また塔底部にHNO流出口を備えている。交換塔10では、HNO供給口からHNO水溶液が供給され、供給されたHNO水溶液は交換塔10内を下降し、HNO流出口を通って交換塔10を流出し、交換塔10の下方に設けられた還流塔20内に流入する。交換塔10の内部には、充填材として例えばヘリパック等が充填されており、供給されたHNOは充填材の間隙を通ってHNO流出口から流出し、還流塔20内に流入する。また、交換塔10には、その塔底部にHNOの一部が取り出される15N取出口が設けられている。15N取出口では、HNO水溶液と後述する還流塔20内で生成するNOガスとの化学交換反応によって交換塔10内において濃縮製造され、所定の15N濃度となったHNOが還流比に従って抜き取られる。
【0022】
上述した構成の交換塔10では、具体的に、下記の化学式(I)の反応が生じる。すなわち、交換塔10では、交換塔10のHNO供給口より供給されたHNO水溶液と、後述する還流塔20内において生成されたNOガスとが接触し、HNO−NO化学交換反応が起こる。そして、この化学式(I)の化学交換反応が重畳されることにより、HNO中に15Nが濃縮製造される。
【0023】
【化3】

【0024】
なお、交換塔10を構成する材質は、特に限定されるものではなく、HNO等に対して耐食性のあるものであればよい。
【0025】
次に、還流塔20について説明する。還流塔20は、図1に示したように、交換塔10の下方に設けられている。この還流塔20内では、交換塔10内を下降してその塔底部から抜け出たHNO水溶液が流入し、還流塔20の下部から供給されたSOガスと気液接触することによってNOガスとHSOを生成する。還流塔20を構成する材質は特に制限されるものではなく、還流塔20内に存在するHSO、HNO、SOに対して耐食性を有するものであればよく、例えばガラス製とすることができる。
【0026】
図2は、還流塔20の一具体例を概略的に示す断面図である。還流塔20には、その内部に充填材21としてガラス製のヘリックス等が充填されており、還流塔20内の下部には充填材21の落下を防止するための目皿22が設けられている。還流塔20は、その上端部にHNO供給口23を備えるとともに、その下端部にSO供給口24を備えている。還流塔20では、交換塔10内を下降して交換塔10のHNO流出口を通って流出されたHNO水溶液が、還流塔20のHNO供給口23から供給される。そして、供給されたHNO水溶液の下降流は、SO供給口24から供給されたSOガスの上昇流と気液接触して、NOガスが生成され、またHSOが副生される。生成されたNOガスは、上昇流となって交換塔10に戻り、交換塔10内においてHNO−NO化学交換反応が起こる。一方で、副生されたHSOは、塔底部25に設けられたHSO流出口26を介して排出される。具体的に、還流塔20では、下記の化学式(II)の反応が生じる。
【0027】
【化4】

【0028】
還流塔20では、上記化学式(II)のHNO水溶液とSOガスとの気液接触反応により、NOガスを生成し、またHSOを副生する。そして、生成されたNOガスは、上昇流となって交換塔10に戻り、上述した化学式(I)のHNO−NO化学交換反応に用いられる。
【0029】
また、還流塔20には、冷却機構が設けられている。還流塔20における反応は、高温のHSOが副生されて大きな発熱を伴う反応であるため、冷却機構は、その反応熱を取り除いて反応温度を調整可能なようにしている。このように、還流塔20に冷却機構を設けて反応温度を調整することによって、ガラス製の反応塔が破損したり、その大きさが制限されて、装置全体が複雑化することを防止している。具体的に、還流塔20には、冷却機構として外部冷却ジャケット27と内部冷却管28とが設けられている。
【0030】
外部冷却ジャケット27は、還流塔20の周囲を覆うように還流塔20の上部から下部に亘って設けられ、HNO水溶液とSOガスとの反応界面が還流塔20の何れの箇所に位置しても、気液接触反応の反応温度を制御可能なようになっている。外部冷却ジャケット27は、その下端部に設けられた冷却水供給口27aから冷却水が供給され、冷却水をその内部において上部方向に流すことによって、還流塔20内におけるHNO水溶液とSOガスとの反応温度を制御する。なお、供給された冷却水は、外部冷却ジャケット27を上昇した後、その上端部に備えられた冷却水排出口27bから排出される。
【0031】
また、内部冷却管28は、還流塔20の内部に、その還流塔20の上部から下部に亘って挿通して設けられ、気液接触反応の反応温度を制御可能なようになっている。内部冷却管28は、その下端部に設けられた冷却水供給口28aから冷却水が供給され、冷却水をその内部において上部方向に流すことによって、還流塔20内におけるHNO水溶液とSOガスとの反応温度を制御する。なお、供給された冷却水は、内部冷却管28の上端部に備えられた冷却水排出口28bから排出される。
【0032】
なお、還流塔20に設けられる冷却機構は、還流塔20内における反応温度を所望とする温度に制御できるのであれば、外部冷却ジャケット27と内部冷却管28のどちらか一方のみでもよい。
【0033】
また、還流塔20には、熱電対等の温度検出手段29が挿入されるようになっている。還流塔20内に挿入される熱電対等の温度検出手段29は、還流塔20内におけるHNO水溶液とSOガスとの反応温度を検出する。このように、熱電対等の温度検出手段29が還流塔20内に挿入されるようにすることによって、的確に還流塔20内の気液接触反応温度を検出することができ、上述した冷却機構による反応温度の制御を容易に行うことができる。
【0034】
熱電対等の温度検出手段29は、還流塔20の内部に設けられた保護管30に挿入される。保護管30は、有底筒状に形成された、例えばガラス製の細管であり、還流塔20の上端部から還流塔20内に挿通され、外部冷却ジャケット27や内部冷却管28の下端部よりやや上方まで伸びて配設されている。また、保護管30の内部には、ミネラルオイルやシリコンオイル等の液体が注入されており、保護管壁から熱電対等の温度検出手段29への熱の伝導効率を高めるようにしている。このようにして、この保護管30は、還流塔20内におけるHNO水溶液とSOガスとの反応熱を吸収し、保護管30内部に挿入される熱電対等の温度検出手段29による反応温度の検出を可能にしている。さらに、保護管30は、大きな発熱を伴う気液接触反応によって熱電対等の温度検出手段29が損傷等したり、温度検出手段29によって気液接触反応が阻害されることを防止することができる。
【0035】
温度検出手段29は、保護管30内に挿入されて配置され、還流塔20内の気液接触反応の反応温度を検出する。温度検出手段29は、このように、還流塔20の上端部から下端部のやや上方まで伸びて配設された保護管30内に挿入され、気液接触反応の反応界面に応じて、その位置を調整することができる。温度検出手段29として例えば熱電対を用いる場合、熱電対は、反応熱を吸収した保護管30の温度を電気信号に変換する。そして、熱電対は、テフロン(登録商標)等で被覆された信号線を介して図示しない制御部に電気信号を出力して、還流塔20内の気液接触反応の温度を計測し、制御する。その熱電対としては、温度を計測することができる周知のものであればよく、例えばK型熱電対素線等を用いることができる。
【0036】
上述のように、還流塔20においては、供給されたHNO水溶液がSO供給口24から供給されたSOガスの上昇流と気液接触してNOガスが生成されるとともに、HSOが副生される。ここで、還流塔20には、図2のX部に示すように、テーパ状の塔底部25を介してHSO流出口26が接続されており、さらに図3に示すように、そのHSO流出口26に、HSOに耐食性のあるガラス製又はテフロン(登録商標)チューブ等からなるU字形状のHSO排出管33が接続されている。還流塔20において副生されたHSOは、HSO流出口26を通ってHSO排出管33に排出されるが、HSO排出管33がU字状となっているので、図2X部及び図3に示すように、還流塔20の塔底部25に一旦滞留する。このように、還流塔20では、副生したHSOを一旦滞留させることによって、供給されるSOガスが還流塔20下部から抜け出さないようにしている。
【0037】
還流塔20では、上述ように、副生したHSOを一旦滞留させることによって、副生したHSOの流出量を制御するようにしているが、このとき、塔底部25に滞留しているHSOに、供給されたSOガスが溶け込んでしまうことがある。また、副生されたHSOが、還流塔20内を下降してHSO流出口26に排出される際に、下降するHSOに還流塔20の下端部から供給されるSOガスが溶け込んでしまうことがある。
【0038】
そこで、本実施の形態に係る重窒素濃縮製造方法では、この還流塔20の底部に滞留するHSOを所定温度に制御するようにしている。具体的には、還流塔20の底部に滞留するHSOの温度を55〜100℃、より好ましくは70〜100℃に制御する。このように、HSOの温度を55〜100℃に制御することによって、SOガスがHSOに溶け込む量を少なくすることができる。そして、これにより、必要最小限のSOガス供給量で、効率的に、重窒素濃縮のためのHNO−NO化学交換反応に用いられるNOガス生成を行わせることができる。
【0039】
このように、還流塔20の底部に滞留するHSOを所定温度に制御することによって、温度に依存するSOガスのHSOへの溶解度が制御され、SOガスがHSOに溶け込む量を少なくすることができる。具体的には、上述のように、還流塔20の底部に滞留するHSOの温度を55〜100℃に制御する。HSOの温度を55℃以上とすることにより、HNO供給量に対するSOガス供給量を過不足なく適正な量とすることができる。また、HSOの温度を100℃以下とすることにより、SO供給量を過不足なく適正な量とすることができ、さらに制御する100℃以下いう温度は、大掛かりな加温機構を備えなくても簡易な構成で制御できる温度であり、装置が大型化・複雑化すること等を防止することができる。
【0040】
還流塔20におけるHSOの温度の制御機構として、還流塔20には、HSOが滞留する塔底部25に加温手段が設けられている。HNO-水溶液とSOガスとの気液接触反応により発生したHSOは、気液接触反応の反応位置である還流塔20の中央部付近から下降して還流塔20の底部に達するまでに温度が低下する。本実施の形態においては、塔底部25に設けられた加温手段によって、塔底部25に滞留するHSOを加温して、その温度を制御するようにしている。具体的に、還流塔20に設けられる加温手段としては、特に限定されるものではなく、還流塔20の塔底部25の外周面に捲回可能なものであればよい。例えば、加温手段として、シリコンラバーヒータ、シリコンコードヒータ、シリコンベルトヒータ、シリコンスパイラルヒータ、リボンヒータ、テープヒータ、フィルムヒータ、シートヒータ等が挙げられる。
【0041】
加温手段は、塔底部25における図2に示すX部に対して、捲き付けられて設けられており、X部に滞留しているHSOを加温して所定の温度となるように制御可能となっている。この加温手段は、信号線を介して図示しない制御部と接続されており、制御部による制御によって加温温度を変化させ、滞留するHSOの温度を所定の温度範囲となるようにしている。
【0042】
本実施の形態に係る重窒素濃縮製造方法では、このように、還流塔20の塔底部25に滞留しているHSOの温度を制御する制御機構として加温手段が設けられている。そして、その加温手段を制御することによって、滞留しているHSOの温度を所定の温度範囲に制御するようにしている。
【0043】
さらに、還流塔20の塔底部25には、熱電対等の温度検出手段31が挿入されるようになっている。還流塔20内に挿入される熱電対等の温度検出手段31は、塔底部25に滞留するHSOの温度を検出する。このように、熱電対等の温度検出手段31が、還流塔20の塔底部25に挿入されるようにすることによって、的確に塔底部25に滞留しているHSOの温度を検出することができ、上述した加温手段によるHSOの温度制御を容易に行うことができる。
【0044】
具体的に、熱電対等の温度検出手段31は、還流塔20の塔底部に設けられた保護管32に挿入される。保護管32は、有底筒状に形成された、例えばガラス製の細管であり、還流塔20の下端部から還流塔20内に挿通され、還流塔20の塔底部25付近まで伸びて配設されている。また、保護管32の内部には、ミネラルオイルやシリコンオイル等の液体が注入されており、保護管壁から熱電対等の温度検出手段31への熱の伝導効率を高めるようにしている。このようにして、保護管32は、還流塔20の塔底部25に滞留したHSOの熱を吸収し、保護管32内部に挿入される熱電対等の温度検出手段31によるHSO温度の検出を可能にしている。さらに、保護管32は、滞留しているHSOによって熱電対等の温度検出手段31が耐食等されることを防止することができる。
【0045】
なお、保護管32は、還流塔20の所定位置、すなわち還流塔20の下端部から還流塔20の塔底部25付近まで伸びて配設されるように、還流塔20と一体に成形されるようにしてもよく、還流塔20とは別体として配設されるようにしてもよい。
【0046】
温度検出手段31は、保護管32内に挿入されて配置され、還流塔20の塔底部25に滞留しているHSOの温度を検出する。温度検出手段31としては、上述した保護管30に挿入して配置され、還流塔20内の気液接触反応温度を検出する温度検出手段29と同様のものを用いることができる。具体的に、例えば熱電対を用いる場合、熱電対は、HSOの熱を吸収した保護管32の温度を電気信号に変換する。そして、熱電対は、テフロン等で被覆された信号線を介して図示しない制御部に電気信号を出力して、還流塔20の塔底部25に滞留したHSOの温度を計測し、制御する。
【0047】
以上詳述したように、本実施の形態に係る重窒素濃縮製造方法は、HNO水溶液とSOガスとの気液接触反応によりNOガスを生成する還流塔20と、還流塔20で生成したNOガスとHNO水溶液との窒素同位体化学交換反応により15NをHNOに濃縮する交換塔10とを備えた重窒素濃縮製造装置を用いた重窒素濃縮製造方法において、還流塔20におけるHNO水溶液とSOガスとの気液接触反応において一酸化窒素ガスと共に生成されるHSOの温度を55〜100℃、より好ましくは70〜100℃に制御するようにしている。具体的には、還流塔20において、副生したHSOが滞留する塔底部25をシリコンラバーヒータ等の加温手段で捲いて、その加温手段によって、滞留しているHSOの温度を制御する。
【0048】
このような本願発明によれば、還流塔20の下端部から供給されるSOガスが、副生したHSOに溶け込むことを抑制することができる。これにより、還流塔20内において、供給したSOガスを、重窒素濃縮のためのHNO−NO化学交換反応に用いられるNOガスの生成に効率的に用いることができる。また、所望とする濃度の15Nを含んだHNOを、必要最小限のSOガスを供給することによって製造することができる。
【0049】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0050】
例えば、上述した実施の形態においては、SO供給口24が還流塔20の下端部に一つだけ設けられている具体例を説明したが、SO供給口は一つだけに限られず、例えば還流塔20の下端部の他に中間部にもSO供給口を設けてSOガスを供給する場合においても、本実施の形態に係る重窒素濃縮製造方法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0052】
本実施例においては、硝酸(HNO)水溶液と二酸化硫黄(SO)ガスとの気液接触反応によって副生したHSOの温度を所定温度に制御し、所定の流速で供給したHNO水溶液に対するSOガス供給量及びSOガス供給量の化学量論量に対する倍率について検討した。
【0053】
本実施例において用いた重窒素濃縮製造装置1は、交換塔10として、内径25mm×長さ2000mmのパイレックス管を使用し、内部に充填材のヘリパックを充填した。また、還流塔20として内径44mm×長さ1500mmで、外部冷却ジャケット27と内部冷却管28を備えたパイレックス管を作製し、内部に充填材21のガラス製ヘリックスを充填した。なお、還流塔20内部及び塔底部25には、パイレックス保護管30,32で保護した熱電対を挿入して内部の温度を測定した。さらに、還流塔20の塔底部25にシリコンラバーヒータを巻きつけ、塔底部25に滞留するHSOの温度を所定の温度となるように制御した。
【0054】
上述した重窒素濃縮製造装置1を用いて、交換塔10の塔頂部から10モル/LのHNO水溶液を7ml/minで供給するとともに、還流塔20の下端部に設けられたSO供給口24からSOガスを供給した。その際、還流塔20に設けた外部冷却ジャケット27と内部冷却管28に冷却水を流し、還流塔20中央部付近のHNOとSOガスの反応界面付近の温度が80℃程度となるようにした。また、HNOとSOガスの反応により発生したHSOは、反応位置である還流塔20中央付近から下降して還流塔20の底部に達する際には温度が低下するが、塔底部25に滞留するHSOの温度をシリコンラバーヒータにより加温することにより、その温度を変化させた。
【0055】
ここで、以下の化学式(II)によれば、10モル/Lの硝酸水溶液を7ml/minの供給に対して必要なSOガス供給量は3.36L/minと計算される。
【0056】
【化5】

【0057】
そこで、還流塔20の塔底部25に滞留しているHSOの温度を変化させて、還流塔20内でのHNO水溶液とSOガスとの気液接触反応界面の位置が略一定(HNO供給量に対してSO供給量が過不足ない状態)となるのに必要なSOガス供給量を測定した。気液接触反応界面は、SOガス供給量が多い場合には、余分となったSOガスが還流塔20の上方にあるHNOと反応することにより、徐々にその位置が上昇する。一方、SOガス供給量が少ない場合には、反応位置が還流塔20の下方に移行するため、気液接触界面の位置は下降してくる。したがって、一定割合で供給するHNO水溶液に対して、還流塔20の下端部よりSOガスを一定割合で供給したとき、気液接触反応界面の位置が略一定となるのに必要な量が化学量論量と略同量であるということは、供給されたSOガスが、副生するHSOに溶け込むことなく、HNO水溶液との反応に効率的に用いられていると評価することができる。表1に測定結果を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果から判るように、還流塔20の塔底部25に滞留しているHSOの温度を55〜100℃に制御した場合、SOガス供給量が3.53〜3.43L/minの範囲となり、化学量論量に対する倍率も1.01〜1.05と低い値となった。さらに、滞留しているHSOの温度を約70〜100℃に制御した場合、SOガス供給量が3.40〜3.43L/minの範囲となり、化学量論量に対する倍率も1.01〜1.02と非常に低い値となった。このことから、滞留しているHSOの温度55〜100℃、より好ましくは70〜100℃に制御することによって、SOガスがそのHSOに殆んど溶け込むことなく、効率的にHNO水溶液との気液接触反応に、供給したSOガスを用いることができることが判る。
【0060】
一方で、気液接触反応の反応温度を55℃より低い、29℃、45℃に制御した場合には、55〜100℃に制御した場合よりも約0.1L/min以上もの多くの量のSOガスを供給する必要が生じてしまった。また、反応温度を100℃より高い、110℃に制御した場合においても、70〜100℃に制御した場合よりも約0.2L/min以上もの多くの量のSOガスを供給する必要が生じてしまった。すなわち、副生されて塔底部25に滞留しているHSOを、これらの温度範囲とした場合には、供給したSOガスがそのHSOに溶け込んでしまったため、化学量論量よりも多くの量のSOガスを供給する必要が生じてしまったことが判る。
【0061】
以上のことから、還流塔20の塔底部25に滞留した、気液接触反応の副生物であるHSOの温度を55〜100℃に制御することにより、SOガスが還流塔20内でHSOに溶け込む量を少なくすることができ、SOガスを余分に追加供給することなく、重窒素濃縮のためのHNO−NO化学交換反応に用いられるNO生成に、供給されたSOガスを効率的に用いることができることが判った。
【符号の説明】
【0062】
1 重窒素濃縮製造装置、10,100 交換塔、20,200 還流塔、21 充填材、22 目皿、23 HNO供給口、24 SO供給口、25 塔底部、26 HSO流出口、27 外部冷却ジャケット、28 内部冷却管、27a,28a 冷却水供給口、27b,28b 冷却水排出口、29 温度検出手段、30 保護管、31 温度検出手段、32 保護管、33 HSO排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの気液接触反応により一酸化窒素ガスを生成し、生成された一酸化窒素ガスと硝酸水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素を硝酸に濃縮する重窒素濃縮製造方法において、
硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの上記気液接触反応において一酸化窒素ガスと共に生成される硫酸の温度を55〜100℃に制御することを特徴とする重窒素濃縮製造方法。
【請求項2】
硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの気液接触反応により一酸化窒素ガスを生成する還流塔と、該還流塔で生成した一酸化窒素ガスと硝酸水溶液との窒素同位体化学交換反応により重窒素を硝酸に濃縮する交換塔とを備えた重窒素濃縮製造装置を用いた重窒素濃縮製造方法において、
上記還流塔における硝酸水溶液と二酸化硫黄ガスとの上記気液接触反応において一酸化窒素ガスと共に生成される硫酸の温度を55〜100℃に制御することを特徴とする重窒素濃縮製造方法。
【請求項3】
上記還流塔の塔底部には、加温手段が設けられていることを特徴とする請求項2記載の重窒素濃縮製造方法。
【請求項4】
上記還流塔の塔底部には、保護管に挿入された熱電対が設けられていることを特徴とする請求項2又は3記載の重窒素濃縮製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−83752(P2011−83752A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240698(P2009−240698)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)