説明

重窒素濃縮製造装置

【課題】 商業的規模の大量の重窒素を安全に且つ効率よく濃縮製造することが可能な重窒素濃縮製造装置を提供する。
【解決手段】 HNOとSOガスからNOガスを発生させる還流装置20と、HNOと還流装置20で生成したNOガスとの窒素同位体化学交換反応により重窒素をHNOに濃縮する交換塔10とを備えた重窒素濃縮製造装置において、還流装置20が、HNOとSOガスの反応を行う還流反応槽22と、還流反応槽22の前段に設けられ、未反応SOガスが交換塔10に流入することを防ぐ前処理手段21と、還流反応槽22の後段に設けられ、重窒素が濃縮された未反応HNOが副生HSOとともに系外に排出されることを防ぐ後処理手段23とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸と二酸化硫黄ガスの反応で発生させた一酸化窒素を用いて、硝酸との化学交換法により重窒素15Nを濃縮製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する窒素の同位体は、質量数14の14Nが99.634%、質量数15の15Nが0.366%の割合である。上記同位体のうち質量数15の15Nは一般に重窒素と呼ばれており、分離濃縮された重窒素はバイオ分野におけるトレーサーや、化学分野における核磁気共鳴分析などに利用されている。
【0003】
窒素を含む軽元素の同位体分離法としては、様々な方法が研究もしくは開発されているが、実用化されているのは統計的分離法(化学交換法あるいは蒸留法)によるものだけである。個別的分離法(レーザー法あるいは電磁的分離法)も知られているが、この分離法は、一段の分離係数が高いため少量の分離精製には有効である反面、分離速度が極端に遅いために、研究用はともかく、商業的に必要な量を大量に生産する場合には実質的な製造コストが高くなりすぎるという欠点がある。
【0004】
現在実用化されている窒素同位体の分離方法は、下記化学式1に示すように、一酸化窒素NOガスと硝酸HNOの水溶液との接触によって起こる窒素同位体化学交換反応において、交換反応が僅かに右側にシフトする、即ち15Nが硝酸水溶液側に偏ることを利用している。具体的には、ある程度の長さを有し、内部に気液接触を促す充填材が詰められた交換塔内において、下記化学式1のHNO−NO化学交換反応が重畳されることにより、HNO中に15Nの濃縮が進行する。
【0005】
[化学式1]
15NO+H14NO14NO+H15NO(分離係数α=1.055)
【0006】
実際の濃縮操作は、例えば特開平3−47518号公報(特許文献1)に示されたように行われる。具体的には、図1に示すように、硝酸HNOは交換塔1の塔頂部から供給されて交換塔1内を下降する。交換塔1の下には充填材が詰められた還流塔2が設置されており、交換塔1の底部から抜け出たHNOはこの還流塔2に入った後、還流塔2内を下降する。このとき、HNO下降流は還元剤として還流塔2の下端から供給された二酸化硫黄SOガスの上昇流と接触し、界面で下記化学式2の反応が起こり一酸化窒素NOと硫酸HSOが生成する。
【0007】
[化学式2]
2HNO+3SO+2HO → 3HSO+2NO
【0008】
生成したNOは上昇流となって還流塔2を出た後、交換塔1に入る。交換塔1内では、このNO上昇流と前述したHNO下降流とが気液対向流となり、上記化学式1のHNO−NO化学交換反応により15NがHNO側に濃縮される。そして、15Nが濃縮されて所定の15N濃度となった硝酸HNOの一部は、還流比に従って交換塔1の底部から製品として抜き取られる。また、還流塔2で生成したHSOは還流塔2の底部から回収され、HNOと同位体交換したNOガスは交換塔1の塔頂部から排出される。
【0009】
上記の方法では、還流塔でHNOを還元してNOとするとき大量のSOガスが必要であり、また大量の硫酸が副生することから処理の負担が大きい。このため、特開2005−205346号公報(特許文献2)では、硫酸製造プロセスのプロセスガスを精製して得られたSOを利用し、また副生した硫酸を硫酸製造プロセスで利用することが提案されている。これにより、SO源の確保および大量に副生する硫酸の処理の問題から大規模な製造装置の設置は困難と考えられていた重窒素濃縮製造装置の大型化が可能になると期待されている。
【0010】
【特許文献1】特開平3−47518号公報
【特許文献2】特開2005−205346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記化学式1のHNO−NO化学交換反応により重窒素15Nを濃縮製造する装置では、還流塔で行われるNO生成のための上記化学式2による反応が大きな発熱を伴う反応であるため、還流塔を常に冷却する必要がある。しかし、還流塔を冷却していても、局所的な熱負荷のために還流塔が破損する危険があるなどの問題があった。
【0012】
また、高温のHSOが発生する還流塔には、内部冷却管及び/又は外部冷却ジャケットを備えたガラス製の反応塔が使用されている。装置サイズが大きくなった場合、還流塔は複数本の内部冷却管を備えた構造のものとなり、そのため、破損の危険性が増す。さらに、材質がガラスであることから作製可能な還流塔の大きさには自ずと制限が生じ、大量の重窒素を濃縮製造するためには、上記した冷却の問題から交換塔1基に対して数多くの還流塔を設置するか、あるいは複数の重窒素濃縮製造装置を並列して設置することが必要になるという問題があった。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、従来の充填塔形式の還流塔のみで構成された還流装置と比較して効率的にHNOとSOガスの反応熱を除去することができる還流装置を備え、商業的規模で大量の重窒素を安全に且つ効率よく濃縮製造することが可能な重窒素濃縮製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明が提供する重窒素濃縮製造装置は、HNOとSOガスからNOガスを発生させる還流装置と、HNOと還流装置で生成したNOガスとの窒素同位体化学交換反応により重窒素をHNOに濃縮する交換塔とを備えた重窒素濃縮製造装置において、還流装置が、HNOとSOガスの反応を行う還流反応槽と、還流反応槽の前段に設けられ、未反応SOガスが交換塔に流入することを防ぐ前処理手段と、該還流反応槽の後段に設けられ、15Nが濃縮された未反応HNOが副生HSOとともに系外に排出されることを防ぐ後処理手段とで構成されることを特徴としている。
【0015】
この前処理手段は充填塔又は反応槽であることが好ましく、後処理手段は充填塔又は反応槽であることが好ましい。また、前処理手段は未反応SOガスの流入を検知する第1検知手段を有していることが好ましく、後処理手段は未反応HNOの流入を検知する第2検知手段を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、HNOとSOガスの反応熱を効率的に除去することができる還流装置を備えているため、商業的規模で大量の重窒素を安全に且つ効率よく濃縮製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明が提供する重窒素濃縮製造装置は、HNOとSOガスからNOガスを発生させる還流装置と、HNOと還流装置で生成したNOガスとの窒素同位体化学交換反応により重窒素をHNOに濃縮する交換塔とで構成されている。上記還流装置は、HNOとSOガスの反応を行う還流反応槽を備え、還流反応槽の前段には、未反応SOガスが交換塔に流入することを防ぐ前処理手段が設けてあり、還流反応槽の後段には、15Nが濃縮された未反応HNOが副生HSOとともに系外に排出されることを防ぐ後処理手段が設けてある。
【0018】
HNOとSOガスの反応を行う還流反応槽は外部冷却ジャケットを備えており、必要に応じて蛇管形式等の内部冷却管を挿入しても良い。還流反応槽内に存在するHSO、HNO、SOなどのプロセス流体に接する部分の材質は、これらプロセス流体に対して耐食性を有していることが好ましく、ガラス、ガラスライニングを施したステンレス等が例として挙げられる。また、HNOとSOの反応を効率良く行うために撹拌翼を備えても良い。さらに、反応槽内の反応状況を知るために、熱電対などの温度検出手段を設けても良い。
【0019】
また、還流反応槽の前段、即ち、還流反応槽と交換塔との間には、未反応SOガスが交換塔に流入することを防ぐために、充填塔又は反応槽形式の前処理手段が設置されている。これにより、還流反応槽で発生したNOガス及び交換塔底部から出たHNOは、それぞれ、この前処理手段を介して交換塔及び還流反応槽に流入する。
【0020】
前処理手段の材質としては、NOガスとHNOに対して耐食性のあることに加えて、還流反応槽から未反応のSOガスが流入した場合には、このSOガスがHNOと反応して高温のHSOが生成することから、HSOに対しても耐食性のあることが望ましい。具体的には、ガラス製、ガラスライニング製のものが例として挙げられる。また、前処理手段は外部冷却ジャケットを備えることが好ましい。
【0021】
さらに、前処理手段には、還流反応槽から未反応のSOガスが流入してHNOとの反応が起こった場合に、これを検知する第1検知手段、例えば、熱電対、光学的検知手段又はSO検知器などを備えることが好ましい。この第1検知手段からの信号により、SOガスの供給量をコントロールすることも可能である。
【0022】
また、還流反応槽の後段、即ち、還流反応槽に関して前述の前処理手段の反対側には、未反応HNOが副生HSOとともに系外に排出されることを防ぐために、充填塔又は反応槽形式の後処理手段が設置されている。これにより、還流反応槽で発生したHSOは、この後処理手段を介して系外に排出される。
【0023】
後処理手段の材質はとしては、HSOに対して耐食性があるものが望ましく、ガラス製、ガラスライニング製のものが例として挙げられる。また、後処理手段は、外部冷却ジャケットを備えることが好ましい。
【0024】
後処理手段には常にSOガスが供給されている。そのため、未反応HNOが還流反応槽から後処理手段に流入した場合には、このSOガスが未反応HNOと反応してNOガスを発生させ、SOガスと共に前段の還流反応槽に戻すことができる。これにより未反応HNOが副生HSOと共に系外に排出されるのを防止できる。
【0025】
後処理手段に供給するSOガス量は、還流装置に流入するHNOの流量に対して前記化学式2で計算される必要量の全量としてもよいが、当該必要量を前段の還流反応槽と後処理手段に分けて供給することが好ましい。この分配比率は特に限定されるものではなく、実際の運転において未反応HNOが後処理手段に流入する程度に合わせて決定すればよいが、前記化学式2で計算される必要量の5〜20%を後処理手段に供給し、残部を還流反応槽に供給することが好ましい。
【0026】
さらに、後処理手段には、還流反応槽から未反応HNOが流入してSOとの反応が起こった場合に、これを検知する第2検知手段、例えば、熱電対や硝酸イオン検出器などを備えることが好ましい。この第2検知手段からの信号により、SOガスの供給量をコントロールすることも可能である。
【0027】
次に、本発明の一具体例を図2に基づいて説明する。なお、本発明は、ここで示す一具体例に限定されるものではない。
【0028】
図2において、交換塔10の塔頂から供給されたHNOは、交換塔10の底部から還流装置20の前処理手段21(図2では充填塔とした)に入り、前処理手段21を経て還流装置20の還流反応槽22に入る。還流反応槽22内の液相部には、SO源から直接供給されるSOと、後述する後処理手段23を経て供給されるSOとが吹き込まれている。これにより、HNOとSOが反応し、生成したNOガスは前処理手段21を経て交換塔10に入る。
【0029】
一方、HNOとSOの反応により副生されるHSOは、還流反応槽22の底部から還流装置20の後処理手段23(図2では充填塔とした)に入った後、系外に排出される。還流反応槽22は冷却ジャケットを有しており、ここに冷却水を流すことによってHNOとSOの反応による反応熱が除去される。
【0030】
この際、還流反応槽22で処理されなかった未反応SOが還流反応槽22から前処理手段21に流入しても、前処理手段21では上部から十分な量のHNOが下降流となって流れているため、HNOとの反応によって、未反応SOは消費される。
【0031】
また、還流反応槽22で処理されなかった未反応HNOが還流反応槽22から後処理手段23に流入しても、後処理手段23では下端からSOが供給されているため、SOとの反応によって、未反応HNOは消費される。
【0032】
また、前処理手段21および後処理手段23には、それぞれ未反応物の流入を検知する第1および第2検知手段(図2では共に熱電対24、25とした)が備えてある。この第1および第2検知手段を用いたSOガス流量コントロールは、例えば次のようにして行われる。
【0033】
還流反応槽22から未反応SOが前処理手段21に流入した場合は、前処理手段21内で当該未反応SOとHNOの反応が起こる。その結果、還流反応槽22で正常に反応が起こっている場合に比べて温度が上昇する。この温度上昇を熱電対24で検知した際には、還流反応槽22へのSO供給量を減らす。その後、熱電対24で検知される温度が正常な温度に戻った時点で、SO供給量を元の量に戻せばよい。
【0034】
一方、還流反応槽22から未反応HNOが後処理手段23に流入した場合は、後処理手段23内でSOとHNOの反応が起こる。その結果、還流反応槽22で正常に反応が起こっている場合に比べて温度が上昇する。この温度上昇を熱電対25で検知した際には、還流反応槽22へのSO供給量を増やす。その後、熱電対25で検知される温度が正常な温度に戻った時点で、SO供給量を元の量に戻せばよい。
【0035】
このように、本発明は、前述の化学式2の反応を行う部分に反応槽形式を採用しているので、従来の充填塔形式と異なり偏流や局所的熱負荷等の問題がなくなるうえ、構造が簡易になる。したがって、従来の充填塔形式の還流塔のみで構成された還流装置と比較して、スケールアップが容易となる。また、HNOとSOガスの反応熱を効率的に除去することが可能となる。
【0036】
さらに、前述の化学式2の反応を行う部分の前後に前処理手段及び後処理手段を設けているので、未反応のSOガスやHNOが溢れ出しても前処理手段や後処理手段で処理することが可能である。このように、本発明によれば、商業的規模で大量の重窒素を安全に且つ効率よく濃縮製造することができる。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
図2に示す本発明の重窒素濃縮製造装置の交換塔10として、内径25mm×長さ2000mmのパイレックス管を使用し、内部に充填材のヘリパックを充填した。また、還流装置20の還流反応槽22として、内径100mm×高さ200mmのガラス製容器(外部水冷ジャケット、上蓋、攪拌器付)を設けた。還流装置20の前処理手段21として、内径25mm×長さ500mmで、外部水冷ジャケットを備えたパイレックス管を設け、内部に充填材としてガラス製ヘリックスを充填した。
【0038】
さらに、還流装置20の後処理手段23として、内径25mm×長さ300mmで、外部水冷ジャケットを備えたパイレックス管を設け、内部に充填材としてガラス製ヘリックスを充填した。なお、還流反応槽22、前処理手段21、後処理手段23には、それぞれ内部の温度を測定するためにパイレックス保護管で保護した熱電対を挿入した。
【0039】
比較のため、上記還流装置20に代えて、図1に示す従来の還流塔2として、内径44mm×長さ1500mmで、外部水冷ジャケットと内部冷却管を備えたパイレックス管を設け、内部に充填材のガラス製ヘリックスを充填した。尚、交換塔1は上記本発明のものと同一とした。
【0040】
上記本発明の交換塔10の塔頂部から10モル/リットルの硝酸HNO水溶液を10ミリリットル/minで供給すると共に、還流反応槽22に2.9リットル/min、後処理手段(充填塔)23の底部から0.5リットル/minの流量で、それぞれSOガスを供給した。
【0041】
また、従来の還流塔2を用いた比較例では、交換塔1の塔頂部から10モル/リットルの硝酸HNO水溶液を10ミリリットル/minで供給すると共に、還流塔2の下部から3.4リットル/minでSOガスを供給した。
【0042】
その際、以下の4通りの条件で、それぞれ重窒素の濃縮製造を行った。
(1)還流反応槽内で反応がほぼ正常に起こっている場合
(2)交換塔から供給する硝酸量を必要量より10%程度減じることによって、故意に前処理手段21に未反応SOガスを流入させた場合(前処理手段21の熱電対24の温度が上昇した。前処理手段21に未反応SOガスが流入した後は硝酸量を正常値に戻した。)
(3)交換塔から供給する硝酸量を必要量より10%程度増加させることによって、故意に後処理手段23に未反応HNOを流入させた場合(後処理手段23の熱電対25の温度が上昇した。後処理手段23に未反応HNOが流入した後は硝酸量を正常値に戻した。)
(4)従来の還流塔を用いた場合(比較例)
【0043】
上記(1)〜(4)の各製造条件において、還流装置から流出するNOガス中のSOの濃度、および、排出HSO中のNO濃度を測定した。得られた結果を下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記表1中の(1)と(4)の結果から、定常状態においては、本発明の還流装置においても、従来の還流塔と同様に処理を行うことが可能であることが分かる。また、上記表1中の(2)及び(3)の結果が(1)や(4)の結果と同様であることから、本発明の還流装置においては、還流反応槽22から未反応SOガスや未反応HNOが溢れ出るような非定常状態においても、問題なく処理できることが分かる。
【0046】
[実施例2]
前処理手段21、後処理手段23として内径70mm×高さ150mmのガラス製容器(外部水冷ジャケット、上蓋、攪拌器付)を取り付けた以外は実施例1と同様の条件で操作を行った(上記実施例1の(2)、(3)の操作は行わず)。交換塔に流入するNOガス中のSOの濃度、および、排出HSO中のNO濃度を測定した結果、SOは検出されず、NO濃度は3ppmであった。
【0047】
[比較例1]
実施例1の還流装置20を還流反応槽22のみで構成した以外は実施例1と同様の条件で操作を行った(上記実施例1の(2)、(3)の操作は行わず)。還流装置から流出するNOガス中のSOの濃度、および、排出HSO中のNO濃度を測定した結果、SOが8600ppm検出され、還流装置と交換塔を連結する配管内でHNOとHSOの反応による発熱が見られた。また、NO濃度は3200ppmであった。
【0048】
[比較例2]
実施例1の還流装置20を還流反応槽22および前処理手段21で構成した以外は実施例1と同様の条件で操作を行った(上記実施例1の(2)、(3)の操作は行わず)。還流装置から流出するNOガス中のSOの濃度、および、排出HSO中のNO濃度を測定した結果、SOは検出されなかったが、排出HSO中のNO濃度は2700ppmであった。
【0049】
[比較例3]
実施例1の還流装置20を還流反応槽22および後処理手段23で構成した以外は実施例1と同様の条件で操作を行った(上記実施例1の(2)、(3)の操作は行わず)。還流装置から流出するNOガス中のSOの濃度、および、排出HSO中のNO濃度を測定した結果、SOが8100ppm検出され、還流装置と交換塔を連結する配管内でHNOとHSOの反応による発熱が見られた。NO濃度は4ppmであった。
【0050】
[実施例3]
交換塔10として、内径100mm×長さ2000mmのパイレックス管を使用し、内部に充填材のヘリパックを充填した。また、還流装置20の還流反応槽22として、内径200mm×高さ400mmのガラス製容器(外部水冷ジャケット、上蓋、攪拌器付)を設けた。還流装置20の前処理手段21として、内径60mm×長さ1000mmで、外部水冷ジャケットを備えたパイレックス管を設け、内部に充填材としてガラス製ヘリックスを充填した。
【0051】
さらに、還流装置20の後処理手段23として、内径60mm×長さ1000mmで、外部水冷ジャケットを備えたパイレックス管を設け、内部に充填材としてガラス製ヘリックスを充填した。なお、還流反応槽22、前処理手段21、後処理手段23には、それぞれ内部の温度を測定するためにパイレックス保護管で保護した熱電対を挿入した。
【0052】
交換塔10の塔頂部から10モル/リットルの硝酸HNO水溶液を300ミリリットル/minで供給すると共に、還流反応槽22に87リットル/min、後処理手段(充填塔)23の底部から15リットル/minの流量で、それぞれSOガスを供給して、重窒素の濃縮製造を行った。還流装置から流出するNOガス中のSOの濃度、および、排出HSO中のNO濃度を測定した結果、SOは検出されず、NO濃度は3ppmであった。
【0053】
以上のことから、本発明により、従来の充填塔形式の還流塔のみで構成された還流装置と比較して効率的にHNOとSOガスの反応熱を除去することができる還流装置を備え、商業的規模で大量の重窒素を安全に且つ効率よく濃縮製造することが可能な重窒素濃縮製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】還流塔と交換塔を備えた従来の重窒素濃縮製造装置を示す概略の断面図である。
【図2】本発明の重窒素濃縮製造装置の一具体例を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1、10 交換塔
2 還流塔
20 還流装置
21 前処理手段
22 還流反応槽
23 後処理手段
24、25 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸と二酸化硫黄ガスから一酸化窒素を生成する還流装置と、硝酸と還流装置で生成した一酸化窒素との窒素同位体化学交換反応により重窒素を硝酸に濃縮する交換塔とを備えた重窒素濃縮製造装置において、該還流装置が、硝酸と二酸化硫黄ガスの反応を行う還流反応槽と、該還流反応槽の前段に設けられ、未反応二酸化硫黄ガスが交換塔に流入することを防ぐ前処理手段と、該還流反応槽の後段に設けられ、重窒素が濃縮された未反応硝酸が副生硫酸とともに系外に排出されることを防ぐ後処理手段とで構成されることを特徴とする重窒素濃縮製造装置。
【請求項2】
前記前処理手段が、充填塔又は反応槽であることを特徴とする、請求項1に記載の重窒素濃縮製造装置。
【請求項3】
前記後処理手段が、充填塔又は反応槽であるであることを特徴とする、請求項1に記載の重窒素濃縮製造装置。
【請求項4】
前記前処理手段が、未反応二酸化硫黄ガスの流入を検知する第1検知手段を有していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の重窒素濃縮製造装置。
【請求項5】
前記後処理手段が、未反応硝酸の流入を検知する第2検知手段を有していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の重窒素濃縮製造装置。
【請求項6】
前記第1検知手段が熱電対、光学的検知手段又は二酸化硫黄検知器のいずれかであることを特徴とする、請求項4に記載の重窒素濃縮製造装置。
【請求項7】
前記第2検知手段が熱電対又は硝酸イオン検出器のいずれかであることを特徴とする、請求項5に記載の重窒素濃縮製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−255009(P2009−255009A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109780(P2008−109780)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)