説明

重荷重車のトレッド用ゴム組成物及び重荷重車用タイヤ

【課題】耐摩耗性及び耐欠け性能を両立できると同時に、低発熱性、加工性も改善できる重荷重車のトレッド用ゴム組成物及び重荷重車用タイヤを提供する。
【解決手段】本発明は、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含む重荷重車のトレッド用ゴム組成物に関する。ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が10質量%以上であることが好ましい。ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が50質量%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重車のトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた重荷重車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バスなどの重荷重車に用いられるタイヤには、優れた耐久性能や燃費性能の向上のための低発熱性が求められている。特に、主に悪路の走行に使用されるダンプトラック用タイヤでは、そのトレッドゴムにチップカットなどの損傷が発生するため、チップカットに対する耐久性能(耐欠け性能)を確保する必要がある。そのため、ダンプトラック用タイヤのトレッドゴムは全部又は大部分が高いゴム強度や低発熱性が得られる天然ゴムで構成されている。
【0003】
一方、タイヤの耐久性能として耐摩耗性も要求されており、主に良路の走行に使用されるオールシーズンタイヤなどでは、ブタジエンゴムを配合して耐摩耗性の向上が図られている。しかし、ダンプトラック用タイヤにブタジエンゴムを配合すると、耐摩耗性の改善傾向はみられるものの、耐チップカット性能が悪化するため、これらの性能の両立は困難であった。
【0004】
また、天然ゴムは合成ゴムに比べてムーニー粘度が高いため、加工性が悪く、通常しゃっ解剤を添加して素練りを行い、ムーニー粘度を低下させてから使用されることから、生産性に劣っている。更に素練りにより天然ゴムの分子鎖が切断され、天然ゴムが本来有する高分子量ポリマーの特性が失われるという問題もある。このように、重荷重車用タイヤ、特にダンプトラック用タイヤにおいて、耐摩耗性と耐欠け性能の両性能に優れるとともに、低発熱性、加工性も良好なトレッドゴムを提供することは困難である。
【0005】
例えば、特許文献1には、所定以下の総チッ素含有率を持つ脱蛋白天然ゴムを用い、未加硫粘度を低下させ、加工性が良好なスチールコード用ゴム組成物が開示されている。しかし、耐摩耗性及び耐欠け性能を両立するとともに、低発熱性、加工性にも優れるという点について、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−24073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、耐摩耗性及び耐欠け性能を両立できると同時に、低発熱性、加工性も改善できる重荷重車のトレッド用ゴム組成物及び重荷重車用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含む重荷重車のトレッド用ゴム組成物に関する。
【0009】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が10質量%以上であることが好ましい。
【0010】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0011】
改質天然ゴムは、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下、窒素含有量が0.3質量%以下であることが好ましい。
【0012】
改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものであることが好ましい。
【0013】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、更に天然ゴムを含むことが好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する重荷重車用タイヤに関する。
【0015】
上記重荷重車用タイヤは、ダンプトラックに用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の改質天然ゴムを使用しているため、耐摩耗性及び耐欠け性能を両立できるとともに、低発熱性、加工性にも優れた重荷重車のトレッド用ゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の重荷重車のトレッド用ゴム組成物は、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含む。天然ゴム(NR)中に含まれるリン脂質を低減、除去した改質天然ゴム(HPNR)を用いることで、BRを使用することなく耐摩耗性を改善できるとともに耐欠け性能も改善でき、両性能を同時に改善できる。また、低発熱性、加工性も改善できる。更に、リン脂質だけでなく、タンパク質やゲル分も低減することにより、これらの性能をより改善できる。
【0018】
上記改質天然ゴム(HPNR)は、リン含有量が200ppm以下である。200ppm以下にすることで、耐欠け性能及び耐摩耗性を同時に改善でき、また低発熱性及び加工性も改善できる。該リン含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。ここで、リン含有量は、たとえばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0019】
改質天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。20質量%を超えると、ムーニー粘度が高くなるなど、加工性が低下する傾向がある。また、充分な耐欠け性能、耐摩耗性、低発熱性が得られない傾向がある。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×10rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0020】
改質天然ゴムは、実質的にリン脂質が存在しないことが好ましい。「実質的にリン脂質が存在しない」とは、天然ゴム試料をクロロホルムで抽出し、抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しない状態を表す。−3ppm〜1ppmに存在するリンのピークとは、リン脂質におけるリンのリン酸エステル構造に由来するピークである。
【0021】
改質天然ゴムにおいて、窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。窒素含有量が0.3質量%を超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇する傾向がある。また、充分な耐欠け性能、耐摩耗性、低発熱性が得られない傾向がある。窒素は蛋白質に由来する。窒素含有量は、例えばケルダール法等、従来の方法で測定することができる。
【0022】
改質天然ゴムの製造方法としては、例えば、天然ゴムラテックスをアルカリによりケン化し、ケン化後凝集させたゴムを洗浄し、その後乾燥することにより製造する方法が挙げられる。ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行う。なお、必要に応じて撹拌等を行っても良い。上記製造方法によれば、ケン化により分離したリン化合物が洗浄除去されるので、天然ゴムのリン含有量を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることができる。本発明では、天然ゴムラテックスにアルカリを添加してケン化できるが、天然ゴムラテックスに添加することにより、効率的にケン化処理を行えるという効果がある。
【0023】
天然ゴムラテックスはヘビア樹の樹液として採取され、ゴム分のほか水、蛋白質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、ヘビア樹をタッピングして出てくる生ラテックス、あるいは遠心分離法によって濃縮した精製ラテックスを使用できる。さらに、生ゴムラテックス中に存在するバクテリアによる腐敗の進行を防止し、ラテックスの凝固を避けるために、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックスであってもよい。
【0024】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アミン化合物等が挙げられ、ケン化処理の効果や天然ゴムラテックスの安定性への影響の観点から、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0025】
アルカリの添加量は特に限定されないが、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、上限は12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下が更に好ましく、5質量部以下が特に好ましい。アルカリの添加量が0.1質量部未満では、ケン化処理に時間がかかってしまうおそれがある。また逆にアルカリの添加量が12質量部を超えると天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。
【0026】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が使用可能である。陰イオン性界面活性剤としては、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等の陰イオン性界面活性剤があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系等の非イオン性界面活性剤があげられる。両性界面活性剤としては、例えばアミノ酸型、ベタイン型、アミンオキサイド型等の両性界面活性剤があげられる。なかでも、陰イオン性界面活性剤が好ましく、スルホン酸系の陰イオン性界面活性剤がより好ましい。
【0027】
界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1.1質量部以上が更に好ましく、2.0質量部以上が特に好ましく、上限は6.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、3.5質量部以下が更に好ましい。界面活性剤の添加量が0.01質量部未満では、ケン化処理時に天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。また逆に界面活性剤の添加量が6.0質量部を超えると天然ゴムラテックスが安定化しすぎて凝固が困難になるおそれがある。また、1.1質量部以上である場合には、天然ゴム中のリン含有量、窒素含有量、ゲル含有率をより低減することができる。
【0028】
ケン化処理の温度は、アルカリによるケン化反応が十分な反応速度で進行しうる範囲、および天然ゴムラテックスが凝固等の変質を起こさない範囲で適宜、設定できるが、通常は20〜70℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。また処理の時間は、天然ゴムラテックスを静置して処理を行う場合、処理の温度にもよるが、十分な処理を行うことと、生産性を向上することとを併せ考慮すると3〜48時間が好ましく、3〜24時間がより好ましい。
【0029】
ケン化反応終了後、凝集させたゴムを破砕し、洗浄処理を行う。凝集方法としては、例えば、ギ酸等の酸を添加し、pHを調整する方法が挙げられる。また、洗浄処理としては、例えばゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離処理を行い、ゴム分を取り出す方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように水で希釈する。次いで、5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよく、所望のリン含有量になるまで洗浄を繰り返せばよい。洗浄処理終了後、ケン化処理天然ゴムラテックスが得られる。ケン化処理天然ゴムラテックスを乾燥することにより、本発明における改質天然ゴムが得られる。
【0030】
上記製造方法では、天然ゴムラテックス採取後15日以内にケン化、洗浄及び乾燥の工程を終了することが好ましい。より好ましくは10日以内、更に好ましくは5日以内である。採取後固形化せずに15日を超えて放置しておくとゲル分が増大していくためである。
【0031】
本発明のトレッド用ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。10質量%未満であると、本発明の効果が十分に得られないおそれがある。上記改質天然ゴムの含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下である。95質量%を超えると、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0032】
本発明に使用されるゴム成分としては、上記改質天然ゴム以外に、一般にタイヤ用ゴム組成物に使用されるジエン系ゴム等が挙げられる。ジエン系ゴムの具体例としては、上記改質天然ゴム(ケン化処理天然ゴム)以外の天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エポキシ化天然ゴムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、タイヤの強度を充分なものとし、優れた耐摩耗性を発現させる観点から、NRを使用することが好ましい。
【0033】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0034】
本発明のトレッド用ゴム組成物において、NRを使用する場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。5質量%未満であると、耐亀裂成長性が悪化するおそれがある。上記NRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。90質量%を超えると、上記改質天然ゴムの配合量が少なくなり、本発明の効果が得られないおそれがある。
【0035】
本発明のトレッド用ゴム組成物において、NRを使用する場合、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムとNRの合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。これにより、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0036】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックをHPNRとともに使用することにより優れた補強性が発揮されるため、BRを使用せずに耐摩耗性を改善でき、また耐欠け性能も改善できる。
【0037】
本発明のトレッド用ゴム組成物にカーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は90m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましく、105m/gが更に好ましい。90m/g未満では、充分な補強性が得られないおそれがある。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましく、120m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、低発熱性、加工性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0038】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、好ましくは90ml/100g以上、より好ましくは100ml/100g以上、更に好ましくは110ml/100g以上である。また、カーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは200ml/100g以下、より好ましくは160ml/100g以下、更に好ましくは120ml/100g以下である。200ml/100gを超えると、低発熱性、加工性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4の測定方法によって求められる。
【0039】
本発明のトレッド用ゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上である。10質量部未満では、補強性を充分に改善できないおそれがある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。70質量部を超えると、低発熱性が低下する傾向がある。
【0040】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、アロマオイル等のオイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0041】
本発明では、加硫剤として硫黄を好適に使用できる。HPNRを硫黄により加硫することで、耐摩耗性、耐欠け性能に優れ、低発熱性も良好な加硫ゴム組成物を得ることができる。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
【0042】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上である。また、該硫黄の含有量は、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.9質量部以下である。上記範囲外であると、耐摩耗性や耐欠け性能が低下する傾向がある。
【0043】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、所定量のステアリン酸を含有することが好ましい。所定量のステアリン酸を配合して加硫することで、上記性能に優れた加硫ゴム組成物を調製できる。
【0044】
本発明のトレッド用ゴム組成物がステアリン酸を含有する場合、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは3.5質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内に調整することで、前述の性能に優れた加硫ゴム組成物を調製できる。
【0045】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、老化防止剤を含有することが好ましい。老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。なかでも、耐オゾン性、耐熱特性に優れるという理由から、アミン系が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。
【0046】
本発明のトレッド用ゴム組成物が老化防止剤を含有する場合、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。1質量部未満であると、耐久性能が低下するおそれがある。また、該含有量は、好ましくは4質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。4質量部を超えると、タイヤ表面に老化防止剤が析出し、変色するおそれがある。
【0047】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、加硫促進剤を含有することが好ましい。加硫促進剤としては、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、ジフェニルグアニジン(DPG)などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、加硫特性に優れ、加硫後のゴムの物性において、低発熱性に優れ、機械的硬度向上の効果も大きいという理由から、TBBS、CBSなどのスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、TBBSがより好ましい。
【0048】
トレッド用ゴム組成物に加硫促進剤を配合する場合、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.3質量部以上である。1質量部未満であると、ゴム組成物が充分に加硫されず、必要とするゴム特性が得られないおそれがある。該配合量は、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1.7質量部以下である。2質量部を超えると、ゴム焼けの原因となるおそれがある。
【0049】
本発明のトレッド用ゴム組成物において、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下であり、オイルを含まないことが特に好ましい。オイルを減量することで優れた耐欠け性能や耐摩耗性が得られる。また、HPNRの使用により、NRの使用に比べてムーニー粘度を低減できるため、オイルを減量しても良好な加工性を維持できる。
【0050】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの混練機で前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。本発明のトレッド用ゴム組成物は、重荷重車用タイヤ(トラック・バス用)のトレッド(キャップトレッド)に使用される。なかでも、ダンプトラック用タイヤのトレッド(キャップトレッド)に使用されることが好ましい。
【0051】
本発明の重荷重車用タイヤは、上記トレッド用ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0052】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0053】
以下、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
天然ゴムラテックス:タイテックス社から入手したフィールドラテックスを使用
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
NR:RSS#3
HPNR−A:下記製造例1
HPNR−B:下記製造例2
未処理天然ゴム:下記製造例3
カーボンN220:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(NSA:111m/g、DBP吸油量:115cm/100g)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
老化防止剤(6C):大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0054】
(アルカリによるケン化処理天然ゴムの作製)
製造例1
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH20gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後110℃で2時間乾燥して固形ゴム(HPNR−A)を得た。
製造例2
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH15gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後110℃で2時間乾燥して固形ゴム(HPNR−B)を得た。
製造例3
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、110℃で2時間乾燥して固形ゴム(未処理天然ゴム)を得た。
【0055】
製造例1〜3により得られた固形ゴム及びRSS#3について以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、CHN CORDER MT−5(ヤナコ分析工業社製)を用いて測定した。測定には、まずアンチピリンを標準物質として、窒素含有量を求めるための検量線を作製した。次いで、各製造例で得られた天然ゴム約10mgを秤量し、3回の測定結果から平均値を求めて、試料の窒素含有量とした。
【0057】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(ICPS−8100、(株)島津製作所製)を使用してリン含有量を求めた。
また、リンの31P−NMR測定は、NMR分析装置(400MHz、AV400M、日本ブルカー社製)を使用し、80%リン酸水溶液のP原子の測定ピークを基準点(0ppm)として、クロロホルムにより生ゴムより抽出した成分を精製し、CDClに溶解して測定した。
【0058】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、HPNR−A、HPNR−Bは、未処理の天然ゴムやRSS#3に比べて、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率が低減していた。
また、HPNR−A、HPNR−Bから抽出した抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークを検出しなかった。
【0061】
(ゴム試験片およびタイヤの作製)
表2に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。なお、RSS#3を使用した比較例1では、RSS#3のゴム成分100質量部に対して素練促進剤を0.4質量部添加して、1.7Lバンバリーミキサーを用いてあらかじめ素練りを行った。一方、実施例1〜3、比較例2では、天然ゴムの素練りを行わなかった。
【0062】
次に、得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物(加硫ゴムシート)を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をタイヤ成型機上でトレッド形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせ、150℃で30分間加硫することにより試験用タイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)を製造した。
【0063】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤを下記により評価した。結果を表2に示す。
【0064】
(加工性)
JIS K6300−1「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、小ローターを回転させ、4分間経過した時点での上記未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4/130℃)を測定した。そして、比較例1のムーニー粘度を100とし、下記計算式により指数表示した。数値が大きいほど、ムーニー粘度が低く、加工性に優れることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0065】
(ゴム強度)
上記試験用タイヤのトレッドから採取したゴム試験片を、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を実施し、破断伸びEB(%)を測定した。そして、比較例1の破断伸びを100として、下記計算式により、各配合のEBを指数表示した。数値が大きいほど、ゴム強度が高く、耐チップカット性能に優れることを示す。
(ゴム強度指数)=(各配合のEB)/(比較例1のEB)×100
【0066】
(転がり抵抗)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で、上記加硫ゴムシートの損失正接(tanδ)を測定し、比較例1の損失正接(tanδ)を100として、下記計算式により、各配合の転がり抵抗特性を指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗特性に優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0067】
(摩耗試験)
(株)岩本製作所製のランボーン摩耗試験機を用い、表面回転速度50m/min、負荷荷重3.0kg、落砂量15g/min、スリップ率20%の条件で上記加硫ゴム組成物のランボーン摩耗量を測定した。そして、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1の容積損失量を100として、下記計算式により、各配合の容積損失量を指数表示した。数値が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0068】
【表2】

【0069】
表2より、HPNRを配合していない比較例に比べ、HPNRを配合する実施例では、BRを配合することなく、耐摩耗性及び耐チップカット性能の両性能を同時に改善できた。また、これらの性能だけでなく、低発熱性、加工性の性能の改善も可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含む重荷重車のトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が10質量%以上である請求項1に記載の重荷重車のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量が50質量%以上である請求項1又は2に記載の重荷重車のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
改質天然ゴムは、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下、窒素含有量が0.3質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の重荷重車のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものである請求項1〜4のいずれかに記載の重荷重車のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
更に天然ゴムを含む請求項1〜5のいずれかに記載の重荷重車のトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する重荷重車用タイヤ。
【請求項8】
ダンプトラックに用いられる請求項7に記載の重荷重車用タイヤ。

【公開番号】特開2011−231213(P2011−231213A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102599(P2010−102599)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】