説明

重量物吊下器

【課題】2本のワイヤを使用し、重量物を安全に吊上げまたは吊下げができ、かつ回転規制方向の切り換え操作を行わなくても、重量物の吊下げ、吊下げの停止位置を維持可能な重量物吊下器を提供する。
【解決手段】重量物の吊上げまたは吊下ろしに、両ドラムから導出した2本のワイヤを使用するため、1本のワイヤの場合に比べて、昇降中の重量物の回転や揺れが減少し、重量物を安全に吊上げまたは吊下げできる。また、駆動軸と外力の入力軸との間に、セルフロック機能付きのウォームギヤ伝動機構を設けたため、回転規制方向の切り換え操作を行うことなく、重量物の吊下げまたは吊下げの停止位置を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は重量物吊下器、詳しくは重量物を安全に昇降させる重量物吊下器に関する。
【背景技術】
【0002】
日本配電盤工業規格JSIA200により規定されたキュービクル式高圧受電設備(以下、キュービクル)では、高圧計器用変成器の一種である電力需給用計器用変成器(VCT)をキュービクルに収納する際、電力需給用計器用変成器を1000mm以上持ち上げて支持することが好ましいとされている。
電力需給用計器用変成器の重量は60kg〜100kgで、これをキュービクルの上部空間に吊上げまたは上部空間から吊下げる際には、例えば特許文献1の「電気製品吊り上げ工具」などの重量物吊下器が使用される。
【0003】
特許文献1のものは、キュービクルの上部空間に横架した支持アームに着脱可能に固定される矩形状のフレームと、フレームに固定され、滑車付きの両端部がフレームの幅方向の両端から外方へ延びた門型のブームと、フレームの長さ方向の中間部に離間して配設され、かつ軸線が垂直な一対のガイドローラと、フレームの長さ方向の一端部に軸支され、かつ2本のワイヤが巻回された1個のドラムとを備えている。ドラムはラチェット機構を有し、ラチェット機構の入力部には、ドラムの手動回動用のハンドルが連結されている。ドラムから導出した2本のワイヤは、それぞれ対応する側のガイドローラおよび滑車を経てブームの両端部から平行に垂下し、両ワイヤの先端部には掛止用のリングを固定している。
【0004】
変成器吊上げ時には、キュービクルの支持アームにフレームを固定し、1個のドラムから導出された2本のワイヤの先端部のリングを、電力需給用計器用変成器の両側面の上部に固定したフックに掛止し、ラチェット機構により逆回転を防止しながら、ハンドル操作でドラムをワイヤ巻き取り方向へ回転し、電力需給用計器用変成器を吊上げる。このように、2本のワイヤを使用することで、1本のワイヤのみの場合に比べて、電力需給用計器用変成器を安全に吊上げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−1290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、電力需給用計器用変成器などの電気製品を吊上げる専用工具であり、電力需給用計器用変成器の吊下げには利用することができなかった。そこで、ラチェット機構に、ドラム回転の規制方向を手動によって切り換え可能なものを採用し、この切り換え後、吊上げ時とは反対向きのハンドル操作でドラムをワイヤ繰り出し方向へ回転し、電力需給用計器用変成器を吊下ろすことも考えられる。
ところが、このような回転規制方向を切り換え可能なラチェット機構を有した電気製品吊り上げ工具を採用する場合には、電力需給用計器用変成器の吊上げと吊下げとを変更する毎に、手動操作によるドラム回転の規制方向の切り換えを行う手間を要し、煩わしいという別の課題が発生することになる。
【0007】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、特許文献1のような2本のワイヤを1個のドラムに巻回したものを使用せず、2本のワイヤを個別に巻回した2個の平行に離間したドラムを使用し、かつ両ドラムのギヤ式駆動系にセルフロック機能付きのウォームギヤを配置するように構成すれば、上述した問題はすべて解消することを知見し、この発明を完成させた。
【0008】
この発明は、2本のワイヤを使用して重量物を安全に吊上げまたは吊下げることができ、かつ回転規制方向の切り換え操作を行うことなく、重量物の吊下げまたは吊下げの停止位置を維持することができる重量物吊下器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、同一直径の一対のドラムから導出した2本のワイヤを使用し、重量物を吊上げおよび吊下ろす重量物吊下器であって、前記一対のドラムの回転軸は水平かつ平行に離間し、これらの回転軸には、直径および歯数が同一の従動ギヤが離間して固定され、これらの従動ギヤには、前記回転軸と平行で、かつ入力軸から伝達された外力によって回転する駆動軸に固定された駆動ギヤが噛合され、前記駆動軸と前記入力軸との間に、セルフロック機能を有するウォームギヤ伝動機構を設けた重量物吊下器である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記重量物吊下器は、キュービクルの上部空間に横架した支持アームに着脱自在に固定され、前記重量物は、前記キュービクルの上部空間に吊下げられる高圧計器用変成器である請求項1に記載の重量物吊下器である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記支持アーム上を走行する複数の離間した走行ローラを有した請求項2に記載の重量物吊下器である。
【0012】
重量物としては、例えばキュービクルの上部空間に支持アームを介して吊下げられる高圧計器用変成器が挙げられる。その他、電柱などに設置されている変圧器や開閉器などでもよい。
キュービクルとは、日本配電盤工業規格JSIA200にて規定されたキュービクル式高圧受電設備である。
ここでいうキュービクルの上部空間とは、ボックスであるキュービクルの内部空間のうち、高さ方向の中間より上部をいう。
支持アームは、キュービクルの上部空間に水平配置され、かつ高圧計器用変成器の下部高さを1000mm以上に維持するための高圧計器用変成器の支持部材である。支持アームはその長さ方向を、前板が開閉扉のキュービクルにおいて、例えば前後方向に向けてもよい。
【0013】
高圧計器用変成器としては、例えば、電力需給用計器用変成器などを採用することができる。
支持アームに高圧計器用変成器を着脱自在に固定する方法としては、例えば、ボルトナット止めなどを採用することができる。
ドラムは、1本のワイヤに対して1つのドラムが使用される。したがって、ここでは2つのドラムが用いられる。両ドラムの直径は同一である。
【0014】
高圧計器用変成器の場合、ドラムの回転軸の長さ方向は、支持アームの長さ方向とした方が、例えば特許文献1の電気製品吊り上げ工具のように、1個のドラムに2本のドラムを巻き付けたものに比べて機体幅が小さくなり、一般的に横幅が狭いキュービクル内での重量物吊下器の使用が容易となる。しかも、支持アームの両側方へワイヤを垂下して高圧計器用変成器を吊上げし易いために好ましい。
【0015】
重量物が高圧計器用変成器の場合、重量物吊下器には、キュービクルの上部空間に配置された支持アーム上を走行させる複数の離間した走行ローラを有した方が望ましい。走行ローラの使用本数は2本以上であればよい。各走行ローラは重量物吊下器を支持アーム上で移動する際に利用される。各走行ローラは、支持アームの長さ方向に離間して配置された方が重量物吊下器の走行が安定する。各走行ローラの軸線の方向は、支持アームの長さ方向(走行方向)と直交する方向である。
【0016】
「一対のドラムの回転軸は水平かつ平行に離間し」とは、一方のドラムの回転軸と他方のドラムの回転軸との長さ方向(軸線)が水平面内に存在し、かつ互いに平行な状態で離間していることをいう。ここでいう水平とは、重量物吊下器の使用時における水平である。
ワイヤ(ワイヤロープ)の素材、太さ、撚り方などは限定されない。また、ワイヤに代えてスリング(絶縁性のものが好ましい)を採用してもよい。
重量物吊下器としては、例えばウインチを採用することができる。
【0017】
一対の従動ギヤは、同一直径で同一歯数でなければならない。これは、駆動ギヤの回転により両ドラムから同一長さのワイヤを繰り出しまたは巻き取らなければ、2本のワイヤで吊下された重量物の水平な昇降姿勢が保てないからである。
駆動軸は、一対の回転軸(従動軸)と軸線同士が平行である。そのため、駆動軸も長さ方向は水平となる。入力軸を介して駆動軸を回転させる動力源は任意である。自動式の場合には電動レンチなどの各種のアクチュエータを採用することができる。また、手動式の場合には、レンチ、ハンドルなどの回転操作具を採用することができる。
駆動ギヤは、一対の従動ギヤのあいだの空間に、両従動ギヤの端面と端面とを平行にして配置され、外周面の多数の歯が、両側の従動ギヤの外周面に形成された多数の歯とそれぞれ噛合する。そのため、駆動ギヤが所定方向へ回転すれば、両従動ギヤは互いに反対方向へ回転する。これを踏まえ、一対のワイヤは対応のドラムに反対向きに巻き付けている。
【0018】
ここでいう「セルフロック」とは、ウォームギヤ伝動機構において、ドラム側(ウォームホイール側)から伝達された力により、入力軸(ウォーム軸)を回転できない状態にあることをいう。
ウォームギヤの減速比は、1/30〜1/60である。1/30未満ではウォームギヤの減速比が低すぎて十分なセルフロック機能が得られない。また、1/60を超えれば両ドラムからのワイヤの繰出しまたは巻取りに時間がかかり過ぎる。ウォームギヤの好ましい減速比は1/40〜1/60である。この範囲であれば、ウォームギヤによる十分なセルフロック機能が得られるとともに、ワイヤの繰出しまたは巻取りにさほど時間を要さない。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜請求項3に記載の発明によれば、重量物(請求項2では高圧計器用変成器)の吊上げまたは吊下ろしに、一対のドラムから導出された2本のワイヤを使用する。そのため、1本のワイヤのみを使用する場合に比べて、昇降中の重量物の回転や揺れが減少し、その結果、重量物を安全に吊上げまたは吊下げることができる。
また、2本のドラムのギヤ式駆動系にセルフロック機能付きのウォームギヤを配置したため、回転規制方向の切り換え操作を行うことなく、重量物の吊下げまたは吊下げの停止位置を維持することができる。
【0020】
特に、請求項3に記載の発明によれば、重量物吊下器に走行ローラを設けたため、キュービクルの上部空間に配置された支持アーム上で、重量物吊下器を走行させることができる。これにより、キュービクルの上部空間に吊上げた高圧計器用変成器のキュービクルからの出し入れが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施例1に係る重量物吊下器の概略構成の平面図である。
【図2】この発明の実施例1に係る重量物吊下器の動力伝達構造を示す要部正面図である。
【図3】この発明の実施例1に係る重量物吊下器が使用されるキュービクルの概略構成を示す側面図である。
【図4】この発明の実施例1に係る重量物吊下器の斜視図である。
【図5】この発明の実施例1に係る重量物吊下器の使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。ここでは、ビルの屋上に設置されたキュービクル内で電力需給用計器用変成器を吊上げまたは吊下げる重量物吊下器を例にとる。説明の都合上、X1方向を重量物吊下器の前方向、X2方向を重量物吊下器の後方向、Y1方向を重量物吊下器の右方向、Y2方向を重量物吊下器の左方向、Z1方向を重量物吊下器の上方向、Z2方向を重量物吊下器の下方向とする。
【実施例】
【0023】
まず、この発明の実施例1を説明する。
図1および図2において、10はこの発明の実施例1に係る重量物吊下器で、この重量物吊下器10は、キュービクル11の上部空間に横架した支持アーム12に着脱自在に固定し、かつ一対のドラム13A,13Bから導出した2本のワイヤ14A,14Bを使用し、キュービクル11の上部空間に高圧計器用変成器の一種である電力需給用計器用変成器(重量物)15を吊上げおよび吊下ろすものである。
以下、図1〜図5を参照して、重量物吊下器10の構成を具体的に説明する。
【0024】
図2に示すように、キュービクル11は、建物スペースの有効活用のため、ビルの屋上階に基礎を設け、その上に据え付けられている。キュービクル11の上部空間には、X1−X2方向へ水平に延びた前記支持アーム12が横架されている。支持アーム12は、重量物吊下器10により電力需給用計器用変成器15を吊上げた際、これの下部高さを1000mm以上維持可能な高さに配置されている。
【0025】
次に、図1、図3および図4を参照して、重量物吊下器10を詳細に説明する。
図1、図3および図4に示すように、重量物吊下器10は、平面視してY1−Y2方向へ長い略矩形状の本体枠16と、本体枠16のX2側に固定され、かつ本体枠16より長さが短い略矩形状のギヤボックス17とを有している。
本体枠16は、長尺なX1−X2側の枠板18,19と、短尺なY1−Y2側の枠板20,21と、X1側の枠板18とX2側の枠板19とを連結する多数本の連結ピン22とから構成される。また、本体枠16の長さ方向の中間部には、同一直径の一対のドラム13A,13BがY1−Y2方向へ離間して収納されている。両ドラム13A,13Bの回転軸23は、X1−X2方向へ長い互いに平行な軸体で、かつ本体枠16のX1側の枠板18と、X2側の枠板19と、ギヤボックス17のX2側の側板24とを貫通している。本体枠16のY1−Y2側の両端部には、上下一対のガイドローラ25をそれぞれ収納している。両ガイドローラ25は、両ドラム13A,13Bから導出したワイヤ14A,14Bを下方向へガイドする回転体である。各ガイドローラ25のローラ軸25aは、両ドラム13A,13BのX1−X2方向へ延び、本体枠16のX1−X2側の両枠板18,19にそれぞれ軸支されている。
【0026】
また、両ワイヤ14A,14Bの先端には、横長な一対の掛止リング26を連結している。両掛止リング26は、電力需給用計器用変成器15のY1−Y2側の両側板の上端部に固定した一対の掛止フック27に掛止される。また、電力需給用計器用変成器15のX1−X2側の両側板の上端部には、そのY1−Y2側の端部に2対の吊下突起28を配設している。各吊下突起28の先端部には、上下面を貫通したナット部29を配設している。各ナット部29にはZ1−Z2方向に延びた吊下ボルト30を螺着し、X1側とX2側とにそれぞれ対配置された吊下ボルト30の上端部間には、二重ナット構造体31を介して、一対の掛止プレート32を横架している。電力需給用計器用変成器15は、両掛止プレート32を介して、支持アーム12に吊下している。
【0027】
本体枠16のY1−Y2側の下部には、X1−X2方向へ延びて、幅方向がZ1−Z2方向へ向いた一対の固定板33が固定されている。両固定板33のX1−X2の方向の両端上部間には、Y1−Y2方向へ延びて、重量物吊下器10の支持アーム12上での走行を可能とする一対の走行ローラ34を架け渡している。また、両固定板33の走行ローラ34の取り付け位置の下部には、重量物吊下器10を支持アーム12に固定する合計4本の固定ねじ35を配設している。各固定ねじ35を支持アーム12の両側部に当接することで、重量物吊下器10を支持アーム12の所定位置に固定(位置決め)する。
【0028】
ギヤボックス17には、同一直径かつ同一歯数を有し、かつ両回転軸23に固定した一対の従動ギヤ36と、両従動ギヤ36に噛合し、かつ回転軸23と平行な駆動軸37に固定した駆動ギヤ38と、駆動軸37のX2側の端部に固定したウォームホイル40、および、Y1−Y2方向へ延びたウォーム軸41のY2側の端部に固定し、かつウォームホイル40に噛合するウォーム42からなるウォームギヤ39と、ウォーム軸41のY1側の端部に固定した従動傘歯車43と、従動傘歯車43に噛合し、かつX1−X2方向へ延びた入力軸(ソケット軸)44のX1側の端部に固定した駆動傘歯車45とを収納している。これらの部品のうち、ウォームギヤ39〜駆動傘歯車45により、駆動軸37と外力の入力軸44との間に設けられ、セルフロック機能を有したウォームギヤ伝動機構46が構成される。ここでのウォームギヤ39の減速比は1/30である。
【0029】
入力軸44のX2側の端部(先端部)は、ギヤボックス17のX2側の側板24から外方へ突出し、この突出部分に六角頭部44aが形成されている。両従動ギヤ36の直径および歯数は同一で、かつ両ドラム13A,13Bの直径も同一である。そのため、ワイヤ14A,14Bの巻取り量は常に一定となる。なお、図示しないが、各軸23,25a,37,41,44は、軸受により回転自在に支持されている。
また、両回転軸23の端部23aは、本体枠16およびギヤボックス17からそれぞれ突出し、これらの露出した各端部23aには、合計2対の抜け止めリング50が外挿されている。各端部23aおよび各抜け止めリング50には、それぞれ挿着状態で互いを直径方向に貫通した貫通孔が形成されている。各貫通孔にビス51をねじ込むことで、抜け止めリング50が両回転軸23の対応する端部23aに固定される。このうち、一対の回転軸23、一対の従動ギヤ36およびギヤボックス17側の一対の抜け止めリング50が、左右一対の手動クラッチ52を構成している。
【0030】
次に、図1〜図5を参照して、この発明の実施例1に係る重量物吊下器10を使用した新旧の電力需給用計器用変成器15の交換作業を説明する。
変成器吊下ろし時には、まずキュービクル11の上部空間に配置された支持アーム12のうち、使用済みの電力需給用計器用変成器15の直上(支持アーム12の長さ方向の中間部)に、重量物吊下器10を載置し、4本の固定ねじ35によって重量物吊下器10を支持アーム12に固定する。
その後、入力軸44の六角頭部44aに図示しない電動レンチのソケットを連結し、電動レンチを作動して、入力軸44をワイヤ繰り出し方向へ短時間だけ回転させる。これにより、両ドラム13A,13Bから数10cm程度両ワイヤ14A,14Bが繰り出される。この状態で、両ワイヤ14A,14Bの先端部の掛止リング26を使用済みの電力需給用計器用変成器15の掛止フック27に掛止する。このとき、両ワイヤ14A,14Bに若干の緩みが発生するが、電動レンチを作動し、入力軸44をワイヤ巻取り方向へ回転することにより、両ワイヤ14A,14Bは若干巻取られて緊張する。
【0031】
次に、使用済みの電力需給用計器用変成器15の4本の吊下ボルト30を、対応する吊下突起28のナット部29から外す。これにより、電力需給用計器用変成器15の全重量が両ワイヤ14A,14Bに作用する。この状態で、各固定ねじ35を緩め、走行ローラ34を介して、作業員の手作業により重量物吊下器10を支持アーム12の前側の端部まで移動する。こうして、使用済みの電力需給用計器用変成器15は、キュービクル11の開放されたドア11aの近くに配置される。
その後、重量物吊下器10を、各固定ねじ35によって支持アーム12の前側の端部に固定し、この状態で電動レンチのソケットをワイヤ繰り出し方向へ回転する。これにより、両ドラム13A,13Bから同一速度で両ワイヤ14A,14Bが繰り出される。その際、誤って入力軸44から電動レンチのソケットが外れたとしても、ウォームギヤ伝動機構46に設けた減速比1/30のウォームギヤ39のセルフロック機能が作用する。そのため、電力需給用計器用変成器15の重さの作用により両ドラム13A,13Bから両ワイヤ14A,14Bが一気に繰り出され、電力需給用計器用変成器15が床に落下して破損するおそれを解消することができる。
【0032】
なお、両ドラム13A,13Bから同一速度で両ワイヤ14A,14Bが繰り出される際には、電力需給用計器用変成器15を、開放されたキュービクル11のドア11aの外へ慎重に引き出す。これにより、両ワイヤ14A,14Bは徐々に斜め下方へ導出され、最終的には電力需給用計器用変成器15がドア11aの直前の床部分に着地する。その後も、両ワイヤ14A,14Bを若干量だけ繰り出し、両掛止リング26を両掛止フック27から取り外せるように、両ワイヤ14A,14Bにわずかな緩みを生じさせる。この状態で、両掛止リング26を両掛止フック27から外す。
【0033】
なお、手動クラッチ52の回転軸23にレバーを取り付け、このレバー操作により一方の回転軸23を軸線方向へスライドさせ、一方の従動ギヤ36を駆動ギヤ38との噛み合い位置から外すように構成することも可能である。この構成により、両ワイヤ14A,14Bの繰出し長さが異なる場合において、両ドラム13A,13Bのうちの一方のみを回転させ、左右のワイヤ14A,14Bの何れかを繰出し、両ワイヤ14A,14Bの長さを調整することができる。
その後、使用積みの電力需給用計器用変成器15を着地位置から撤去する。
【0034】
次に、新品の電力需給用計器用変成器15の吊上げ作業を説明する。
まず、新品の電力需給用計器用変成器15を、使用済みの電力需給用計器用変成器15の着地位置に配置する。
その後、両掛止リング26を両掛止フック27に引っ掛け、この状態で、電動レンチにより入力軸44をワイヤ巻取り方向へ回転し、両ワイヤ14A,14Bの同一速度(等速)での巻取りを行う。このとき、徐々に斜めに吊り上がる新品の電力需給用計器用変成器15が、安全な水平姿勢を可能な限り保つように、作業員が補助する。
なお、両ドラム13A,13Bから同一速度で両ワイヤ14A,14Bが繰り出される際、誤って入力軸44から電動レンチのソケットが外れたとしても、ウォームギヤ伝動機構46に組み込まれた減速比1/30のウォームギヤ39のセルフロック機能が作用する。その結果、電力需給用計器用変成器15の重さの作用により両ドラム13A,13Bから両ワイヤ14A,14Bが一気に繰り出され、電力需給用計器用変成器15が床に落下して破損するというおそれがない。
【0035】
最終的に、電力需給用計器用変成器15が、キュービクル11の上部空間の規定の高さ位置まで吊上げられた後は、重量物吊下器10の各固定ねじ35を緩め、走行ローラ34により重量物吊下器10を支持アーム12上のキュービクル11の変成器セット位置まで移動することで、新品の電力需給用計器用変成器15をこの変成器セット位置に配置する。その後、各固定ねじ35により重量物吊下器10を支持アーム12に固定するとともに、4本の吊下ボルト30を各吊下突起28のナット部29に螺合し、一対の掛止プレート32を支持アーム12に掛止して、新品の電力需給用計器用変成器15を変成器セット位置に位置決めする。
次いで、各固定ねじ35を緩め、重量物吊下器10を支持アーム12から撤去することにより、新旧の電力需給用計器用変成器15の交換作業が完了する。
【0036】
このように、新旧の電力需給用計器用変成器15の吊上げまたは吊下ろしに、一対のドラム13A,13Bから導出された2本のワイヤ14A,14Bを使用したため、1本のワイヤのみを使用する場合に比べて、昇降中の電力需給用計器用変成器15のワイヤ14A,14Bを中心とした回転や揺れが減少し、その結果、電力需給用計器用変成器15を安全に吊上げまたは吊下げることができる。
また、重量物吊下器10に一対の走行ローラ34を配設したため、支持アーム12上で重量物吊下器10を走行させることができる。これにより、キュービクル11の上部空間に吊上げた電力需給用計器用変成器15のキュービクル11からの出し入れが容易となる。
さらに、両ドラム13A,13Bの回転軸の23長さ方向を支持アーム12の長さ方向としたため、例えば特許文献1の電気製品吊り上げ工具のように、1個のドラムに2本のドラムを巻き付けたものに比べて装置幅が小さくなり、一般的に横幅が狭いキュービクル11の内部での重量物吊下器10の使用が容易となる。しかも、支持アーム12の両側方へワイヤ14A,14Bを垂下して電力需給用計器用変成器15を吊上げし易いために好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明は、電力需給用計器用変成器などの重量物を吊上げおよび吊下ろす際の重量物吊下器として有用である。
【符号の説明】
【0038】
10 重量物吊下器、
11 キュービクル、
12 支持アーム、
13A,13B ドラム、
14A,14B ワイヤ、
15 電力需給用計器用変成器(重量物、高圧計器用変成器)、
23 回転軸、
34 走行ローラ、
36 従動ギヤ、
37 駆動軸、
38 駆動ギヤ、
39 ウォームギヤ,
46 ウォームギヤ伝動機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一直径の一対のドラムから導出した2本のワイヤを使用し、重量物を吊上げおよび吊下ろす重量物吊下器であって、
前記一対のドラムの回転軸は水平かつ平行に離間し、
これらの回転軸には、直径および歯数が同一の従動ギヤが離間して固定され、
これらの従動ギヤには、前記回転軸と平行で、かつ入力軸から伝達された外力によって回転する駆動軸に固定された駆動ギヤが噛合され、
前記駆動軸と前記入力軸との間に、セルフロック機能を有するウォームギヤ伝動機構を設けた重量物吊下器。
【請求項2】
前記重量物吊下器は、キュービクルの上部空間に横架した支持アームに着脱自在に固定され、
前記重量物は、前記キュービクルの上部空間に吊下げられる高圧計器用変成器である請求項1に記載の重量物吊下器。
【請求項3】
前記支持アーム上を走行する複数の離間した走行ローラを有した請求項2に記載の重量物吊下器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67498(P2013−67498A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208015(P2011−208015)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000196565)西日本電線株式会社 (57)
【出願人】(507206228)九州計装エンジニアリング株式会社 (2)