説明

重金属元素等の水系への溶出量推定方法及びそのための鉱物量推定方法

【課題】重金属元素等の水系への溶出量を長期的に推定するための方法の提供。
【解決手段】土壌等に含まれ得る複数のノルム鉱物の存在比率から水系の少なくともpHを含む水質変化を推定しこれに対応して重金属元素等の溶出量の推定を行う方法において、S、Fe、Si、C、K、Al、Na、Ca、Mgの主要元素及び重金属元素等の含有元素量比を化学分析する。(1)重金属元素等の含有元素量比をSの含有元素量比により硫化鉱物に分配し、(1−1)残余のSの元素量比をFeの含有元素量比により黄鉄鉱に分配する。(1−2)残余の重金属元素等の含有元素量比をCの含有元素量比により炭酸塩鉱物に分配する。(2)残余の重金属元素等の含有元素量比を酸化鉱物又は単体元素鉱物に分配する。そして、主要元素の含有元素量比からノルム鉱物の存在比率をノルム計算で推定するにあたっては、(1−1)の残余のFeの元素量比をノルム計算に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌及び/又は岩石に含まれる重金属元素等の雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事などの掘削で多量の残土が発生する。かかる残土には、ヒ素、セレン、カドミウム、鉛、クロム、亜鉛、銅、水銀などの有害な元素が微量に含まれていることがある。なお、以下において、これらの元素を単に「重金属元素等」と称する。このため、掘り返された残土が雨水や地下水等の水に曝されると、自然由来の重金属元素等が水系に溶出して自然環境を汚染することが指摘されている。そこで掘削工事の施工前の土壌及び/又は岩石(以下、「土壌等」と称する。)に含まれる重金属元素等の各種の測定が行われる。
【0003】
例えば、非特許文献1では、土壌等に含まれる重金属元素等を特定するための測定方法について述べられている。掘削工事の施工前の土壌等から試料を採取して蛍光X線分析法や湿式分析法などで化学分析して元素を特定している。
【0004】
また、土壌等は鉱物種の集合体であるが、非特許文献1に述べられているような化学分析の結果から、土壌等を構成する理想的な鉱物種であるノルム鉱物の存在比率を求める方法も知られている。例えば、非特許文献2では火成岩からなる土砂を構成する理想的な鉱物種であるノルム鉱物の存在比率を推定するノルム計算について、非特許文献3では粘土質を含む岩石の理想的な鉱物種であるノルム鉱物を構成する鉱物種の存在比率を推定するノルム計算について述べられている。蛍光X線を用いた化学分析などで、土砂や岩石に含まれる元素量比を測定し、代表的な元素の酸化物についての分子比に変換する。そして、珪酸塩鉱物などのノルム鉱物に順に元素分配を行って、土壌等を構成し得る各ノルム鉱物の存在比率を求め得るのである。
【0005】
ところで、土壌等に含まれる自然由来の重金属元素等の水系への溶出量を長期的に推定することは、公定法や特許文献1に開示されたような土壌等の溶出試験だけでは困難であり、かかる溶出量を推定するために土壌等に含まれる鉱物種の溶出による水質変化シミュレーションが併せて行われる。該シミュレーションにより得られた水質変化に対応して、土壌等に含まれる重金属元素等の溶出量を推定するのである。ここで共沈現象など、特定の鉱物種の水への溶出が他の鉱物種の溶出にも影響を与えるため、かかる水質変化シミュレーションは非常に複雑である。
【0006】
例えば、上記した非特許文献1では、このような水質変化シミュレーションの1つとして、米国地質調査所が無償供給しているPHREEQCなる地球化学用シミュレータについても述べている。かかるシミュレータによれば、土壌等の情報と水系の情報から現在の水質がどのような反応系を経て形成されたかを推定できる。詳細には、水系の形成機構モデルを構築して、これに基づいて複数の各鉱物種の化学平衡論計算を行う。化学平衡論計算によれば、複数の鉱物種の溶出量を互いの相関関係を考慮しつつ得られ、これに反応速度項を加えて計算することによりpHを含む水質の時間変化をシミュレーション出来るのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−245579号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル検討委員会、“建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)”、87頁、[online]、平成22年3月、国土交通省、[平成23年2月4日検索]、インターネット〈URL:http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/pdf/recyclehou/manual/sizenyuraimanyu_zantei_honbun.pdf〉
【非特許文献2】都城秋穂・久城育夫共著、「岩石学II 岩石の性質と分類」共立全書、1975年、P162-170
【非特許文献3】五十嵐俊雄著、「粘土質試料のノルム計算」、地質ニュース、1984年、No.353、P37-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
化学分析の結果から土壌等を構成する理想的な鉱物種であるノルム鉱物の存在比率を求め、上記したような反応速度項を加えた化学平衡論計算を用いたシミュレーションに導入することで、少なくともpHを含む水質の時間変化をシミュレーション出来る。このシミュレーションにおいて、重金属元素等の影響を受ける鉱物種の情報を加えて少なくともpHを含む水質の時間変化を得るとともに、土壌等に含まれる重金属元素等の含有量を化学分析で与えれば、重金属元素等の溶出量の変化を求め得るであろう。
【0010】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、土壌及び/又は岩石に含まれる重金属元素等の雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定するための方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による推定方法は、土壌等に含まれる重金属元素等の水系への溶出量を長期的に推定するための推定方法であって、前記土壌等に含まれ得る複数のノルム鉱物の存在比率から前記水系の少なくともpHを含む水質変化を推定しこれに対応して重金属元素等の溶出量の推定を行う方法において、前記土壌等に含まれる少なくともS、Fe、Si、C、K、Al、Na、Ca、Mgの主要元素及び重金属元素等の各元素の含有元素量比を化学分析し、(1)重金属元素等の含有元素量比をSの含有元素量比により硫化鉱物に分配し、(1−1)残余のSの元素量比のあるときは、これをFeの含有元素量比により黄鉄鉱に分配し残余のFeの元素量比を求め、(1−2)残余の重金属元素等の元素量比のあるときは、これをCの含有元素量比により炭酸塩鉱物に分配し残余のCの元素量比を求め、一方、(2)残余の重金属元素等の含有元素量比のあるときは、これを酸化鉱物又は単体元素鉱物に分配し、前記主要元素の含有元素量比から前記ノルム鉱物の存在比率をノルム計算で推定するにあたって、(1−1)の残余のFeの元素量比のあるときはこれを前記ノルム計算に導入することを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、化学分析の結果から、重金属元素等を含有し得る硫化鉱物、炭酸塩鉱物、酸化鉱物、単体元素鉱物に重金属元素等を分配し、続いて、所定のノルム鉱物への各元素の分配を行うことで、ノルム鉱物を含む各種鉱物種の存在比率を求め得る。これにより、水質の時間変化のシミュレーションを行って少なくともpHを含む水質の時間変化を得られ、土壌等に含まれる重金属元素等の含有量の化学分析結果とともに、重金属元素等の溶出量の変化を求め得るのである。つまり、土壌等に含まれる重金属元素等の雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定することができる。
【0013】
また、上記した発明において、前記土壌等は火成岩からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、火成岩に含まれる重金属元素等の雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定できる。
【0014】
さらに、上記した発明において、前記土壌等は堆積岩からなり、(1−2)の残余のCの元素量比のあるときはこれを前記ノルム計算に導入することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、堆積岩に含まれる重金属元素等の雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定できる。
【0015】
さらに、上記した発明において、前記重金属元素等は、Se、As、Pbの少なくとも1つ又は複数であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、より正確に雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定できる。
【0016】
また、本発明による鉱物量推定方法は、上記した自然由来の重金属元素等の水系への溶出量推定に用いられる鉱物量推定方法であってこれを前記ノルム計算によることを特徴とする。かかる発明によれば、化学分析の結果から、土壌等に含まれる重金属元素等の雨水等を介しての水系への溶出量を長期的に推定することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を含む推定方法を示すフロー図である。
【図2】本発明による推定方法を示すフロー図である。
【図3】ノルム計算による鉱物への重金属元素等の分配方法を示す図である。
【図4】本発明による推定方法に用いられるノルム計算の図である。
【図5】本発明による推定方法に用いられるノルム計算の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による土壌等に含まれる自然由来の重金属元素等の水系への溶出量、特に、Se、As、Pbの水系への溶出量について長期的に推定する推定方法について図1乃至図4を用いて説明する。
【0019】
まず、該推定方法の概略を図1に沿って説明する。掘削工事の施工予定地域の土壌及び/又は岩石をサンプル採取し(S1)、これに含まれる元素についての化学分析を行う(S2)。かかる化学分析により自然由来の重金属元素等を含む含有元素比を求める。そして、重金属元素等については、硫化鉱物、炭酸塩鉱物、酸化鉱物、単体元素鉱物のいずれかの鉱物に含有元素量比に従ってノルム計算により鉱物分配する(S3)。なお、単体元素鉱物とは、元素鉱物のうち単一の元素からなる鉱物を指すが、以降において単に元素鉱物と称する。更に、地殻を構成する主要元素について含有元素比に従ってノルム計算によりノルム鉱物に鉱物分配する(S4)。鉱物分配による元素量比を公知の水質変化シミュレーション、例えば、背景技術の欄で述べたPHREEQCのような地球化学用シミュレータに導入し、鉱物の溶出について反応速度項を加えた平衡濃度計算などを行って水質のpHや各種化学種の濃度変化などを求める(S5)。そして水質変化シミュレーションによって得られたpHなどの情報から重金属元素等の溶出量を求める(S6)。
【0020】
次に、図1に沿って、図2乃至図4を併せて、各ステップの処理について、その詳細を説明する。
【0021】
掘削工事の施工予定地域から土壌及び/又は岩石をサンプル採取し(S1)、破砕・粉砕して粉体試料を得る。
【0022】
粉体試料は蛍光X線分析法や湿式分析法などで全岩化学分析され(S2)、土壌等の中に含まれる元素の含有元素量比を測定される。つまり、少なくとも、S、Fe、C、Si、K、Al、Na、Ca、Mgの地殻を構成する主要元素と、Se、As、Pbなどの重金属元素等の各元素の含有元素量比を求める。ここで、水質変化シミュレーションへ導入すべきデータの必要に応じて化学分析の方法が適宜、選択される。
【0023】
次に、図2に示すように、重金属元素等について含有元素量比に従ってノルム計算により鉱物分配し(S3)、更に、地殻を構成する主要元素について含有元素比に従ってノルム計算によりノルム鉱物に鉱物分配する(S4)。
【0024】
まず、Sを各重金属元素等の含有元素量比に基づいて硫化鉱物に分配する(S311)。この分配により残余のSのある場合は、これをFeの含有元素量比に基づいて黄鉄鉱(FeS)に分配する(S312)。この分配により、残余のFeのある場合については、後述する。
【0025】
詳細には、図3に示すように、Pb、S及びFeの含有元素量比が化学分析(S1)でそれぞれ4:10:10となったとする。重金属元素等の1つであるPbを硫化鉱物の1つである方鉛鉱(PbS)へ分配する場合、Pb:S=4:4で分配する。そして、残余のPb:残余のS:含有元素量のFe=0:6:10となる。残余のSを黄鉄鉱(FeS)へ分配するが、S:Fe=6:3で分配する。すると、最終的には、残余のFeの元素量比が7となるのである。つまり、ノルム計算による分配では、少なくとも1つの元素については、元素量比に残余がないように分配していく。
【0026】
再び図2に示すように、硫化鉱物への分配(S31)の後に、硫化鉱物に分配されない残余の重金属元素等のある場合、これをCの含有元素量比に基づいて炭酸塩鉱物へ分配する(S32)。更に、残余の重金属元素等のある場合、これを元素鉱物又は酸化鉱物へ分配する(S33)。つまり、土壌等中に単体で存在し得る重金属元素等は、例えば、Cuなどの元素は元素単体からなる元素鉱物として、酸化物として存在し得る元素は酸化鉱物に分配するのである。
【0027】
続いて、主要元素のK、Ca、Na、Mg、Alなどをそれぞれの酸化物として珪酸塩鉱物へ鉱物分配する(S4)。つまり、硫化鉱物への分配(S31)、炭酸塩鉱物への分配(S32)、元素鉱物又は酸化鉱物への分配(S33)により分配しなかった元素の酸化物をSiにより珪酸塩鉱物に分配するのである。よって、上記したFeの分配(S312)においてFeの元素量比に残余のある場合、Feの分配をここでも行う。
【0028】
例えば、火成岩を多く含む土壌等から試料を採取した場合には、図4に示すノルム鉱物にノルム計算で鉱物分配され、これによって各ノルム鉱物の存在比率を推定する。このノルム計算は、一般的に、火成岩からなる土砂を構成する理想的な鉱物種であるノルム鉱物に主要元素の鉱物分配を行うために使われている。詳細な手順は以下の通りである。
【0029】
KとAlは、正長石又は白雲母のうち試料に多く存在すると推定される鉱物にSiに基づいて分配する(S11)。残余のKのある場合は、これをSiによってメタ珪酸カリウムへ分配し(S12)、残余のAlのある場合はこれをNaとともにSiによって曹長石に分配する(S13)。更に、残余のAlのある場合、これをCaとともにSiによって灰長石に分配し(S14)、更に残余のAlのある場合には、これをコランダムに分配する(S15)。
【0030】
曹長石への分配(S13)において残余のNaのある場合はこれを上記した残余のFeとともにSiによって錐輝石に分配する(S16)。Naに残余のない場合は錐輝石への分配(S16)は行わず、Feを磁鉄鉱に分配する(S17)。その後、残余の3価のFeのある場合はこれを赤鉄鉱へ分配する(S18)。
【0031】
上記した灰長石への分配(S14)において残余のCaがあり、さらにTiのある場合は、これらをともにSiによってチタナイトへ分配する(S19)。チタナイトへの分配(S19)を行わなかった場合など、残余のCaのある場合はこれをMgとともにSiによって透輝石へ分配する(S20)。この分配の後に残余のMgのある場合は、磁鉄鉱への分配(S17)により残余の2価のFeとともにSiによって頑火輝石及び鉄珪輝石に分配する(S21)。また、透輝石への分配(S20)では、残余のCaのある場合はこれをSiによって珪灰石へ分配する(S22)。
【0032】
なお、図示していないが、更に、残余のSiのある場合はこれを石英へ分配する。このノルム計算においてSiが不足するなどの場合は一部の分配をやり直すが、これについては説明を省略する。また、塩化物、フッ化物、リン酸塩などの土壌等に少量含まれると推定される副成分鉱物への分配についての説明も省略する。なお、図4で説明したノルム鉱物のうち、コランダム、磁鉄鉱及び赤鉄鉱は酸化鉱物であり、それ以外のノルム鉱物についてはSiによって分配される珪酸塩鉱物である。
【0033】
一方、例えば堆積岩などの粘土質の鉱物を多く含む土壌等から試料を採取した場合にあっては、図5に示すノルム計算を利用できる。このノルム計算は、一般的に、粘土質鉱物を多く含む土砂を構成する理想的な鉱物種であるノルム鉱物に主要元素を分配するために使われている。このノルム計算では、珪酸塩鉱物及び酸化鉱物の他に炭酸塩鉱物への分配も行う。そのため、炭酸塩鉱物への分配(S32)において分配されなかった残余のCの元素量比を珪酸塩鉱物への分配(S4)のノルム計算の初期値として導入する。
【0034】
詳細には、図5に示すように、まず、ノルム鉱物として方解石の存在が推定されている場合は、上記した残余のCをCaとともに方解石へ分配する(S41)。方解石がノルム鉱物にない場合又はさらに残余のCのある場合は、これを2価のFeとともに菱鉄鉱へ、Mgとともにマグネサイトへそれぞれ分配する(S42)。なお、方解石への分配(S41)におけるCa、菱鉄鉱及びマグネサイトへの分配(S42)におけるFe及びMgOについての図5における分配を示す矢印の表示は省略する。
【0035】
次に、セリサイトをノルム鉱物とする場合は、K及びAlをSiによってセリサイトへ分配する(S43)。次いで、残余のAlをMgとともに、緑泥石又はモンモリロナイトのうち、多く存在すると推定されるノルム鉱物へSiによって分配する(S44)。セリサイトをノルム鉱物としない場合は、Kと残余のAlとをSiによってマイクロクリンに分配する(S45)。次いで、残余のAlをNaとともにSiによって曹長石に分配する(S46)。更に、残余のAlのある場合はCaとともにSiによって灰長石へ分配する(S47)。緑泥石又はモンモリロナイトへの分配(S44)において、残余のMgのある場合は、これを2価のFeとともにSiによって紫蘇輝石に分配する(S48)。なお、紫蘇輝石は頑火輝石と鉄珪輝石との1対1の固溶体とする。灰長石への分配(S47)において残余のAlのある場合は、これをSiによってカオリナイトへ分配する(S49)。カオリナイトへの分配(S49)において、Siが不足した場合は残余のAlをギブサイトへ分配する(S50)。カオリナイトへの分配(S49)において残余のAl及びSiのある場合はこれらを紅柱石に分配する(S51)。さらに残余のSiのある場合はこれを石英に分配する(S52)。ギブサイトへの分配(S50)、又は紅柱石への分配(S51)において残余のAlのある場合はこれをコランダムに分配する(S53)。
【0036】
また、紫蘇輝石への分配(S48)の後に残余の2価のFe及び3価のFeのある場合、これらを磁鉄鉱に分配する(S54)。さらに、残余の3価のFeのある場合はこれを褐鉄鉱へ分配する(S55)。さらに残余の3価のFeのある場合はこれを赤鉄鉱へ分配する(S56)。火成岩を多く含む土壌等から試料を採取した場合と同様に、矛盾が生じた場合の一部の分配のやり直しや、副成分鉱物への分配についての説明は省略する。
【0037】
以上の方法により、試料に含まれる重金属元素等を含む鉱物及び主要元素からなるノルム鉱物の種類と各鉱物同士の存在比率をノルム計算で推定することができる。特に、この方法では、硫化鉱物、炭酸塩鉱物、酸化鉱物及び元素鉱物のいずれかの鉱物への重金属元素等の分配を優先的に行う。すなわち、重金属元素等の含有されるノルム鉱物の推定を優先的におこなうことでこれらの鉱物の存在比率の推定を正確に行うことを意図している。また同時に分配されるFe及びCについて、残余のFeの元素量比及び残余のCの元素量比を主要元素からなるノルム鉱物への元素分配に導入することで、重金属元素等の含有の影響を考慮したノルム鉱物の存在比率の算出ができる。つまり、試料に含まれる重金属元素等を含有する鉱物及びノルム鉱物が試料を採取した土壌等にどのくらい含まれているかをノルム計算で推定できる。
【0038】
再び図1を参照すると、上記したノルム計算で推定される各鉱物の存在比率を用いて、鉱物溶出シミュレーション(S5)を行う。各鉱物の存在比率を公知の水質変化シミュレーションに導入することで、各鉱物の溶出についての反応速度項を加えた平衡濃度計算を行う。これによって、水質のpHや各種化学種の濃度変化を求め、水質の変化を長期的にシミュレートする。例えば、米国地質調査所より無償提供されている地球化学用シミュレーションソフト「PHREEQC」によれば、各鉱物の水への溶解速度を各鉱物の相互作用を含めて計算し、水系の少なくともpHを含む水質の時間変化を得ることができる。
【0039】
次に、重金属元素等の溶出量の推定を行う(S6)。鉱物溶出シミュレーション(S5)で得られたpHや化学種の濃度などの時間変化の情報から、対象とする重金属元素等についての溶出量の変化を求める。つまり、対象とする鉱物の水系への溶解及び沈殿を化学平衡論計算し、土壌等に含まれる重金属元素等の雨水等を介した水系への溶出量を長期的に推定できる。
【0040】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌等に含まれる重金属元素等の水系への溶出量を長期的に推定するための推定方法であって、
前記土壌等に含まれ得る複数のノルム鉱物の存在比率から前記水系の少なくともpHを含む水質変化を推定しこれに対応して重金属元素等の溶出量の推定を行う方法において、
前記土壌等に含まれる少なくともS、Fe、Si、C、K、Al、Na、Ca、Mgの主要元素及び重金属元素等の各元素の含有元素量比を化学分析し、
(1)重金属元素等の含有元素量比をSの含有元素量比により硫化鉱物に分配し、
(1−1)残余のSの元素量比のあるときは、これをFeの含有元素量比により黄鉄鉱に分配し残余のFeの元素量比を求め、
(1−2)残余の重金属元素等の含有元素量比のあるときは、これをCの含有元素量比により炭酸塩鉱物に分配し残余のCの元素量比を求め、
一方、
(2)残余の重金属元素等の含有元素量比のあるときは、これを酸化鉱物又は単体元素鉱物に分配し、
前記主要元素の含有元素量比から前記ノルム鉱物の存在比率をノルム計算で推定するにあたって、(1−1)の残余のFeの元素量比のあるときはこれを前記ノルム計算に導入することを特徴とする推定方法。
【請求項2】
前記土壌等は火成岩からなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記土壌等は堆積岩からなり、(1−2)の残余のCの元素量比のあるときはこれを前記ノルム計算に導入することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記重金属元素等は、Se、As、Pbの少なくとも1つ又は複数であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちの1つに記載の自然由来の重金属元素等の水系への溶出量推定に用いられる鉱物量推定方法であってこれを前記ノルム計算によることを特徴とする鉱物量推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19815(P2013−19815A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154333(P2011−154333)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、「環境研究総合推進費 第二種特定有害物質汚染土壌の迅速で低コストな分析法の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(512052764)株式会社アサノ大成基礎エンジニアリング (2)