説明

重金属含有灰の処理方法

【課題】クロム、或いは更に鉛、カドミウムおよび水銀の溶出の問題がある重金属含有灰の溶出防止処理において、安定かつ効率的な重金属処理を行うことができ、しかも、作業上の安全性が高く、また薬注配管や混練機などの接液部に対しての腐食の問題もない重金属含有灰の処理方法を提供する。
【解決手段】クロム含有量の多い重金属含有灰に、エリソルビン酸および/またはその塩を添加、混合する重金属含有灰の処理方法。クロム、鉛、カドミウムおよび水銀の含有量の多い重金属含有灰に、エリソルビン酸および/またはその塩と重金属固定化剤とを添加、混合する重金属含有灰の処理方法。重金属固定化剤としてはジチオカルバミン酸系キレート剤が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般廃棄物または産業廃棄物を、焼却、溶融または焼成した際に発生する煤塵や燃え殻、製鋼電気炉から発生する煤塵などの、クロム(Cr)、更には鉛(Pb)、カドミウム(Cd)および水銀(Hg)を多く含む重金属含有灰からの重金属の溶出を防止する重金属含有灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物焼却炉(特に灰溶融炉、ガス化溶融炉、産業廃棄物焼却炉)、炭化炉、木屑ボイラ、発電ボイラ、製鋼電気炉等の焼却、溶融施設等の燃焼施設において発生する排ガスは、塩化水素、硫黄酸化物等の有害な酸性ガスを含むことから、消石灰等の酸性ガス処理剤で処理され、その後、バグフィルター等の集塵機で徐塵された後、煙突から排出される。
【0003】
一方、集塵機で集塵された煤塵や焼却灰(燃え殻)(以下、これらを「飛灰」と称す場合がある。)は、有害な六価クロム(Cr6+)、水銀(Hg)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)等の重金属類を含有しているため、これらの有害重金属の安定化処理が施された後、埋立処分されている。
【0004】
なお、飛灰等の重金属含有物を陸上埋立処分する際には、環境庁告示13号試験における各種重金属の溶出量を鉛0.3mg/L以下、カドミウム0.3mg/L以下、水銀0.005mg/L以下、六価クロム1.5mg/L以下にする必要があり、更に海面埋立処分する際には鉛0.1mg/L以下、カドミウム0.1mg/L以下、水銀0.005mg/L以下、六価クロム0.5mg/L以下以下にまで処理する必要がある。
【0005】
従来、このような重金属含有灰のうち、六価クロムが溶出する煤塵に対しては、処理薬剤としてジチオカルバミン酸系キレート剤や硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)が多く使用されていることが多い(特許文献1、特許文献2)。
また、六価クロム、鉛、水銀が溶出する煤塵に対しては、キレート剤と硫酸鉄(II)もしくは塩化鉄(II)を併用する場合が多い(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−224560号公報
【特許文献2】特開平7−60219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の処理薬剤のうち、ジチオカルバミン酸系キレート剤は、鉛やカドミウム、水銀などに優れた溶出防止効果を示すが、六価クロムに対してはほとんど固定効果が認められない。
また、硫酸鉄(II)や塩化鉄(II)は六価クロムに対して優れた溶出防止効果があるが、強酸性薬剤であるため、薬注配管や混練機などの接液部に対して腐食の問題が生じたり、腐食防止のために材質変更等の改造が必要となる。
【0007】
また、硫酸鉄(II)や塩化鉄(II)は強酸性薬剤であるため、ジチオカルバミン酸系キレート剤と混合すると、有害な二硫化炭素や硫化水素ガスの発生の問題がある。そのため、処理装置、添加作業が複雑になり、また、細心の管理のもとに作業を行うことも必要になってくる。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、クロム、或いは更に鉛、カドミウムおよび水銀の溶出の問題のある重金属含有灰の溶出防止処理において、安定かつ効率的な重金属処理を行うことができ、しかも、作業上の安全性が高く、また薬注配管や混練機などの接液部に対しての腐食の問題もない重金属含有灰の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エリソルビン酸および/またはその塩が有効であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] 重金属として少なくともクロムを含有する重金属含有灰に、エリソルビン酸および/またはその塩を添加して、混合することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【0011】
[2] 重金属として少なくともクロム、鉛、カドミウムおよび水銀を含有する重金属含有灰に、エリソルビン酸および/またはその塩と重金属固定化剤とを添加して、混合することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【0012】
[3] [2]において、前記重金属固定化剤がジチオカルバミン酸系キレート剤であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記重金属含有灰のクロム含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【0014】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記重金属含有灰は環境庁告示13号試験による溶出液中の原子吸光法による全クロムの測定濃度が1.5mg/L以上であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【0015】
[6] [2]ないし[5]のいずれかにおいて、前記重金属含有灰のクロム含有量が0.005質量%以上、鉛含有量が0.001質量%以上、カドミウム含有量が0.005質量%以上、水銀含有量が0.00005質量%以上であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【0016】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記重金属含有灰が、一般廃棄物または産業廃棄物を、焼却、溶融または焼成した際に発生する煤塵または燃え殻、製鋼電気炉から発生する煤塵であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クロム、或いは更に鉛、カドミウムおよび水銀の溶出の問題のある重金属含有灰を、作業上の安全性を確保すると共に、薬注配管や混練機などの接液部の腐食の問題を引き起こすことなく、安定にかつ効率的に処理して、重金属含有灰からのこれらの重金属類の溶出を、確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の重金属含有灰の処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明においては、廃棄物焼却炉(特に灰溶融炉、ガス化溶融炉、産業廃棄物焼却炉)、炭化炉、木屑ボイラ、発電ボイラ、製鋼電気炉等の焼却、溶融、または焼成施設等の燃焼施設において発生する飛灰に、エリソルビン酸および/またはその塩(以下「エリソルビン酸(塩)」と称す場合がある。)、或いはエリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤とを添加して混練する。
【0020】
エリソルビン酸の塩としては、エリソルビン酸のナトリウム塩(エリソルビン酸Na)、エリソルビン酸のカリウム(エリソルビン酸K)等を用いることができる。
エリソルビン酸(塩)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ジチオカルバミン酸系キレート剤としては、ジメチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸、ピペラジンジチオカルバミン酸及びこれらの塩(例えばナトリウム、カリウム塩)を用いることができる。ジチオカルバミン酸系キレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明においては、クロム含有量が多い重金属含有灰、例えば全クロム含有量が0.005質量%以上、例えば0.01〜1.0質量%程度の重金属含有灰にエリソルビン酸(塩)を添加、混合してクロム等の重金属を固定化し、その溶出を防止する。
【0023】
この場合、重金属含有灰へのエリソルビン酸(塩)の添加量は、重金属含有灰の重金属含有量等の性状によっても異なるが、重金属含有灰に対して0.1質量%以上、例えば0.5〜20質量%とすることが好ましい。
【0024】
エリソルビン酸(塩)の添加量が少な過ぎると十分な重金属溶出防止効果を得ることができず、過度に多量に添加しても、それ以上の効果の向上は認められず、薬剤添加量が高くつき不利である。
【0025】
また、本発明においては、クロムと共に、更に鉛、カドミウムおよび水銀を多く含む重金属含有灰、例えば全クロム含有量が0.005質量%以上、例えば0.01〜1.0質量%程度で、鉛含有量が0.001質量%以上、例えば0.05〜10質量%程度、カドミウム含有量が0.005質量%以上、例えば0.01〜1.0質量%程度、水銀含有量が0.00005質量%以上、例えば0.0001〜1.0質量%程度であるような重金属含有灰に、エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤とを併用添加して混合することにより、クロム、鉛、カドミウムおよび水銀等の重金属を固定化し、その溶出を防止する。
【0026】
この場合、重金属含有灰へのエリソルビン酸(塩)の添加量は、重金属含有灰の重金属含有量等の性状によっても異なるが、重金属含有灰に対して0.01質量%以上、例えば0.1〜20質量%とすることが好ましい。また、ジチオカルバミン酸系キレート剤の添加量についても重金属含有灰の重金属含有量等の性状によっても異なるが、重金属含有灰に対して0.1質量%以上、例えば0.1〜40質量%とすることが好ましい。
【0027】
エリソルビン酸(塩)およびジチオカルバミン酸系キレート剤の添加量が少な過ぎると、十分な重金属溶出防止効果を得ることができず、過度に多量に添加しても、それ以上の効果の向上は認められず、薬剤添加量が高くつき不利である。
【0028】
また、エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤との併用割合としては、エリソルビン酸(塩):ジチオカルバミン酸系キレート剤(質量比)=1:0.5〜19程度の割合とし、エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤との合計で重金属含有灰に対して、0.2〜60質量%程度となるように添加することが好ましい。
【0029】
即ち、エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤との併用で、特にクロムの溶出防止効果が大幅に改善されるが、その併用割合が上記範囲から外れると、エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤とを併用することによる優れた相乗効果が得られない場合がある。
【0030】
なお、エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤とは予め混合して一剤化して重金属含有灰に添加しても良く、別々に添加しても良い。エリソルビン酸(塩)とジチオカルバミン酸系キレート剤とを別々に添加する場合、これらは同時期に添加しても良く、いずれか一方を先に添加、混合した後、他方を添加、混合しても良い。
【0031】
なお、重金属含有灰へのこれらの薬剤の添加、混合時には水を添加しても良く、水の添加により混合均一性が向上するため好ましい。この場合、水は、エリソルビン酸(塩)やジチオカルバミン酸系キレート剤の水溶液として添加しても良く、別途添加して混練しても良い。エリソルビン酸(塩)、ジチオカルバミン酸系キレート剤を水溶液として添加する場合、それぞれその濃度は0.1〜15質量%、20〜60質量%程度とすることが好ましい。
【0032】
本発明によれば、環境庁告示13号試験による溶出液中の原子吸光法による全クロムの測定濃度が1.5mg/L以上であるようなクロムの溶出性の高い重金属含有灰を安定かつ効率的に処理して、クロム、その他の重金属の溶出を確実に防止することができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下において「%」は「質量%」を示す。
【0034】
なお、以下の実施例及び比較例では、
1)一般廃棄物焼却炉から発生した煤塵である飛灰A
2)産業廃棄物焼却炉から発生した煤塵である飛灰B
を試供灰として重金属の溶出防止処理を行った。
これらの飛灰の主要成分含有量を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
ジチオカルバミン酸系キレート剤としては40質量%ピペラジンジチオカルバミン酸カリウム水溶液を用いた。エリソルビン酸ナトリウムは12.5質量%水溶液、塩化第一鉄は30質量%水溶液として用いた。
【0037】
[実施例1〜8、比較例1〜15]
表2,3に示す飛灰に、それぞれ表2,3に示す薬剤を表2,3に示す添加量(純分)で20質量%(対飛灰)の水とともに添加して混練し(ただし、比較例1,6では薬剤添加せず)、得られた処理灰について環境庁告示13号試験を行い、結果を表2,3に示した。なお、六価クロム(Cr6+)の溶出濃度はジフェニルカルバジド吸光光度法により計測し、また、全クロム(T−Cr)の溶出濃度は原子吸光法により測定した。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表2,3より次のことが分かる。
飛灰Aの処理において、ジチオカルバミン酸系キレート剤を用いた比較例2〜5においては、吸光光度法による六価クロムの溶出量の測定値は小さいが、原子吸光法による全クロムの溶出量の測定値は非常に大きい。これは、JIS K0102 65.2.1においてジフェニルカルバジドを測定試薬として用いる場合、分析工程時に硫酸を用いて溶出液を酸性条件下にするため、残留したジチオカルバミン酸キレート剤が還元剤として作用し、六価クロムの測定値が小さくなったものであると推定され、実際には原子吸光法により測定した全クロムのように基準値を超える溶出が起こっていることを示唆するものである。
これに対し、エリソルビン酸ナトリウムを用いた実施例1〜4においては、2(質量%対飛灰)の添加量(実施例3)で原子吸光法による全クロムの溶出量の測定値も小さく抑えることができる。
【0041】
また、飛灰Bの処理において、塩化第一鉄を用いた比較例7〜11およびジチオカルバミン酸系キレート剤を用いた比較例12〜15から、多量の薬剤を添加しても十分にクロムおよび鉛の溶出を抑えることができないことがわかる。
これに対して、エリソルビン酸ナトリウムとジチオカルバミン酸系キレート剤とを用いた実施例5〜8では、少ない薬剤添加量で確実にクロムおよび鉛の溶出を抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属として少なくともクロムを含有する重金属含有灰に、エリソルビン酸および/またはその塩を添加して、混合することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【請求項2】
重金属として少なくともクロム、鉛、カドミウムおよび水銀を含有する重金属含有灰に、エリソルビン酸および/またはその塩と重金属固定化剤とを添加して、混合することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記重金属固定化剤がジチオカルバミン酸系キレート剤であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記重金属含有灰のクロム含有量が0.005質量%以上であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記重金属含有灰は環境庁告示13号試験による溶出液中の原子吸光法による全クロムの測定濃度が1.5mg/L以上であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、前記重金属含有灰のクロム含有量が0.005質量%以上、鉛含有量が0.001質量%以上、カドミウム含有量が0.005質量%以上、水銀含有量が0.00005質量%以上であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記重金属含有灰が、一般廃棄物または産業廃棄物を、焼却、溶融または焼成した際に発生する煤塵または燃え殻、製鋼電気炉から発生する煤塵であることを特徴とする重金属含有灰の処理方法。