重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システム
【課題】重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することができる重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムを提供する。
【解決手段】重金属汚染土壌の処理システム1では、スラリー生成装置2において重金属を含有する汚染土壌に水を混合してスラリーを生成し、このスラリーに鉄粉を反応槽3において混合している。鉄粉は、重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、スラリー化した汚染土壌に鉄粉を混合することにより、水に溶出した重金属を鉄粉に付着させることができる。そして、重金属が付着した鉄粉を磁気分離装置4により回収することで、汚染土壌に含まれる重金属を土壌から分離させることができ、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することが可能となる。
【解決手段】重金属汚染土壌の処理システム1では、スラリー生成装置2において重金属を含有する汚染土壌に水を混合してスラリーを生成し、このスラリーに鉄粉を反応槽3において混合している。鉄粉は、重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、スラリー化した汚染土壌に鉄粉を混合することにより、水に溶出した重金属を鉄粉に付着させることができる。そして、重金属が付着した鉄粉を磁気分離装置4により回収することで、汚染土壌に含まれる重金属を土壌から分離させることができ、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
重金属は、カドニウム、鉛、6価クロム、砒素及び水銀等であり、土壌に吸着し易く、分離しにくいといった特徴を有している。この重金属による土壌汚染は、人為的なものに限らず、自然由来の有害物質を原因とするものもある。このような汚染土壌を含む領域において、例えばトンネル工事等を行う場合、切削に用いた水(泥水)に重金属が溶出して汚染が拡大するおそれがあるため、適切に無害化する必要がある。
【0003】
そこで、重金属による汚染土壌の対策技術の一種として、不溶化技術が知られている。この不溶化技術では、不溶化剤(例えばマグネシウム等)を汚染土壌に混合して、化学反応を利用して土壌から基準値を超える重金属が溶出しないようにし、重金属による土壌汚染の拡大を防止している(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−11956号公報
【特許文献2】特開2009−155414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の不溶化技術では、重金属の溶出を抑制するだけであり、土壌自体を浄化することができないので、根本的な土壌の改善を行うことができない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することができる重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明は、重金属を含有する汚染土壌を浄化処理する重金属汚染土壌の処理方法であって、重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、汚染土壌と水とを含むスラリーを生成するスラリー生成工程と、スラリー生成工程において生成されたスラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、重金属を鉄含有粒子に付着させる混合工程と、混合工程においてスラリーに混合された鉄含有粒子をスラリーから磁気により分離して回収する磁気分離工程と、磁気分離工程において回収された鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために返送する返送工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
或いは、本発明は、重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理システムであって、重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、汚染土壌と水とを含むスラリーを生成するスラリー生成装置と、スラリー生成装置によって生成されたスラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、重金属を鉄含有粒子に付着させる混合装置と、混合装置によってスラリーに混合された鉄含有粒子をスラリーから磁気により分離して回収する磁気分離装置と、磁気分離装置によって回収された鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために混合装置に返送する返送路と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムでは、重金属を含有する汚染土壌に水を混合してスラリーを生成し、このスラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合している。鉄を含有する鉄含有粒子は、重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、スラリー化した汚染土壌に鉄含有粒子を混合することにより、水に溶出した重金属を鉄含有粒子に付着させることができる。そして、重金属が付着した鉄含有粒子を磁気分離により回収することで、汚染土壌に含まれる重金属を土壌から分離させることができ、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明では、磁気分離工程(磁気分離装置)で回収した鉄含有粒子を混合工程(混合装置)で再利用できるので、鉄含有粒子の吸着能力の限界まで繰り返し鉄含有粒子を利用できる。従って、1回の利用で鉄含有粒子を廃棄してしまう場合に比べてコストの低減に有効であり、また、大量の鉄含有粒子の投入を行い易くなって処理時間の短縮化を図り易い。
【0011】
さらに、本発明により処理された土壌は、重金属が分離されることで無害化(浄化)されているので、土質材料として掘削した場所の埋め戻し等に再利用することができる。
【0012】
また、鉄含有粒子の中間粒径は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。鉄含有粒子は、中間粒径が小さい方が同重量の鉄含有粒子に対する表面積が増加するため、多くの重金属を吸着・保持するといった特性を有している。一方、鉄含有粒子の中間粒径が小さくなり過ぎると、磁気分離による回収率が低くなることがある。そこで、鉄含有粒子の中間粒径を10μm以上100μm以下とすることにより、重金属の吸着・保持効率を維持しつつ、回収率を維持することができる。
【0013】
さらに、スラリー生成装置は、重金属を含有する汚染土壌と水とが投入される筒状の本体部と、本体部内に設けられると共に回転軸が駆動部に連結され、重金属を含有する汚染土壌と水とを混合するパドルと、本体部の一端側に設けられ、水が投入される水供給部と、本体部の他端側に設けられ、スラリーが排出される排出部と、本体部内の排出部側に設けられ、スラリーを水供給部側で保持し、所定の水位に達したスラリーがオーバーフローして排出部側に流出する堰部と、を有していることが好ましい。この場合には、汚染土壌と水とが本体部内でパドルにより混練され、流動性の高くなったスラリーが所定の水位に達した場合に堰部からオーバーフローして排出部から排出される。すなわち、流動性の低い汚染土壌は本体部内に長く滞留してパドルにより多くの水と混練され、所定の流動性が得られた汚染土壌のみが排出部から排出される。従って、所定の流動性を有するスラリーを確実に生成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る重金属汚染土壌の処理システムの概要を示す図である。
【図2】スラリー生成装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図3】磁気分離装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図4】鉛吸着速度評価の実験結果を示すグラフである。
【図5】鉛吸着速度評価の実験結果を示すグラフである。
【図6】鉛吸着速度評価の実験結果を示す表である。
【図7】砒素吸着速度評価の実験結果を示す表である。
【図8】鉄粉の回収・再利用実験結果を示すグラフである。
【図9】スラリーを用いた吸着評価実験結果を示す表である。
【図10】スラリーにおける鉄粉回収・再利用評価実験結果を示すグラフである。
【図11】変形例に係る重金属汚染土壌の処理システムの反応槽の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係る重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムの好適な実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る重金属汚染土壌の処理システムの概要を示す図である。図1に示す重金属汚染土壌の処理システム1は、例えば砒素・鉛に代表される重金属に汚染された土壌の浄化処理を行うシステムである。この重金属汚染土壌の処理システム1は、スラリー生成装置2と、反応槽3と、磁気分離装置4と、気液分離器5と、処理槽6とを備えている。
【0018】
重金属汚染土壌の処理システム1では、重金属汚染土壌がスラリー生成装置2においてスラリー化され、反応槽3においてスラリーに鉄粉(鉄含有粒子)が混合されて、鉄粉に重金属を付着させる。そして、重金属を付着した鉄粉を含むスラリーが磁気分離装置4に搬送され、磁気分離装置4において鉄粉が回収される。その後、磁気分離装置4において回収された鉄粉は、気液分離器5に搬送されて気液分離され、再度反応槽3に戻される。重金属汚染土壌の処理システム1では、このような処理工程により重金属汚染土壌を浄化している。以下、各構成要素について説明する。
【0019】
スラリー生成装置2は、重金属汚染土壌と水とを混練することによりスラリーを生成する装置である。具体的には、図2を参照しながら説明する。図2は、スラリー生成装置2の構成を概略的に示す側面断面図である。同図に示すように、スラリー生成装置2は、本体部7と、パドル8と、水供給部9と、土壌投入部10、排出部11と、堰部12とを含んで構成されている。
【0020】
本体部7は、筒状に形成されており、スラリーを混練する部分である。この本体部7は、水平方向に対して傾斜して設けられている。より具体的には、本体部7は、後述する水供給部9から供給される水の下流側が排出部11となるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。
【0021】
パドル8は、汚染土壌と水とを混練するためのもの混練羽である。パドル8は、モータ8aに連結された回転軸8bに沿って複数設けられている。回転軸8bは、本体部7の両端部に軸支され、本体部7内において回動自在に設けられており、パドル8は、回転軸8bの回転に連動して回転する。
【0022】
水供給部9は、本体部7内に水を供給する部分である。水供給部9は、本体部7における一端側(図示右側)に設けられている。なお、水供給部9から排出される水は、シャワー状となっている。
【0023】
土壌投入部10は、本体部7内に重金属汚染土壌を投入する部分である。土壌投入部10は、本体部7における一端側において水供給部9に隣接して設けられている。具体的には、土壌投入部10は、水供給部9から供給される水の下流側に設けられている。
【0024】
排出部11は、スラリーを排出する部分である。排出部11は、本体部7の他端側(図示左側)の下部に設けられており、スラリーの下流側となる位置に配置されている。排出部11は、搬送ラインL1(図1参照)に接続されている。
【0025】
堰部12は、本体部7内のスラリーの排出を規制する部分である。堰部12は、本体部7の他端側で排出部11に隣接して設けられており、排出部11よりも上流側となる位置に配置されている。堰部12は、板状の部材であり、本体部7内においてスラリーが所定の水位に達した場合に、そのスラリーを排出部11側に流出する。つまり、スラリーは、堰部12をオーバーフローした場合に排出部11から排出されることになる。
【0026】
図1に戻って、反応槽3は、スラリー生成装置2によって生成されたスラリーに鉄粉を混入し、スラリーと鉄粉とを混合して重金属汚染土壌に含まれる重金属を鉄粉に付着させるための槽である。この反応槽3は、鉄粉投入器13と、攪拌器14と、水中ミキサー15と、汲み上げポンプ16とを備えている。反応槽3には、スラリー生成装置2に接続された搬送ラインL1が延設されており、スラリー生成装置2において生成されたスラリーが搬送される。
【0027】
鉄粉投入器13は、反応槽3に鉄粉を投入するものである。この鉄粉投入器13は、反応槽3内のスラリーに対して所定量の鉄粉を投入する。より具体的には、鉄粉投入器13は、例えば鉄粉の粒径が10μm〜100μmの場合、スラリーに対して約1%程度の鉄粉を投入する。なお、鉄粉投入器13によって投入される鉄粉の詳細については、後述する。
【0028】
攪拌器14は、反応槽3内のスラリーと鉄粉とを攪拌するものである。攪拌器14は、モータ14aに回転軸14bが連結されており、回転軸14bの先端には、回転羽14cが設けられている。従って、攪拌器14は、モータ14aに連動する回転羽14cによって、反応槽3内のスラリーと鉄粉投入器13によって投入された鉄粉とを攪拌して混合する。
【0029】
水中ミキサー15は、攪拌槽3内のスラリーを流動させるためのものである。水中ミキサー15は、反応槽3に底部に設けられており、吸入したスラリーを噴射して水圧によりスラリーを流動させる。つまり、反応槽3では、攪拌器14と水中ミキサー15との協働により、スラリーと鉄粉とを混合して重金属汚染土壌に含まれる重金属を鉄粉に付着させる。なお、反応槽3におけるスラリーと鉄粉との混合時間は、例えば鉄粉の粒径が10〜100μmの場合には、約1分程度である。
【0030】
汲み上げポンプ16は、反応槽3内のスラリーを汲み上げるポンプである。汲み上げポンプ16には、磁気分離装置4に鉄粉を含有するスラリーを搬送する搬送ラインL2が接続されている。汲み上げポンプ16は、反応槽3内から汲み上げたスラリーを搬送ラインL2を介して磁気分離装置4に送出する。なお、汲み上げポンプ16は、毎分0.3〜0.5m3程度のスラリーを搬送ラインL2を介して磁気分離装置4に送出する。
【0031】
磁気分離装置4は、スラリーから鉄粉を回収する。磁気分離装置4には、上述の搬送ラインL2上に設けられたバルブV1が調整されることによって、毎分0.3〜0.5m3程度のスラリーが反応槽3から搬送される。磁気分離装置4では、スラリーに含まれる鉄粉を99%以上回収する。これは、発明者等の試験・実験等により明らかとなっている。なお、磁気分離装置4は、20m3/h以上の処理能力を有している。
【0032】
磁気分離装置4について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3は、磁気分離装置4の構成を概略的に示す側面断面図である。同図に示すように、磁気分離装置4は、磁界発生部20と、本体部21とを備えている。
【0033】
磁界発生部20は、磁界(磁場)を発生させる部分である。磁界発生部20は、本体部21に当接して配置されており、超伝導電磁石を有して構成されている。磁界発生部20から発生される磁界は、本体部21の下側では強く、上側になるにつれて弱くなるように設定されている。磁界の強さは、制御装置22(図1参照)によって適宜変更可能となっている。
【0034】
本体部20は、筺体23と、モータ24とから構成されている。筺体23は、流入口25と、流出口26と、排出口27と、ベルト28と、ウォータージェット29a、29bと、鉄粉回収口30とを備えている。
【0035】
流入口25は、スラリーの流入方向が斜め下方となるように、水平方向に対して傾斜して筺体23に設けられている。流入口25は、搬送ラインL1に接続され、スラリーを筺体23内に流入させる。
【0036】
流出口26は、流入口25の反対側に設けられており、泥水等を排出する。流出口26は、流入口25よりも上方に設けられている。これにより、筺体23内部では、流出口26よりも上側には水が浸水しないようになっている。この流出口26には、泥水等を処理槽6に搬送する搬送ラインL3(図1参照)が接続されている。
【0037】
排出口27は、ベルト28よりも下方(筺体23の底部)に設けられており、スラリーに含まれている土粒子等を筺体23内に堆積させないように排出する。この排出口27は、搬送ラインL4を介して貯留槽31(図1参照)に接続されており、この搬送ラインL4には、バルブV2(図1参照)が設けられている。これにより、排出口27からの排出量がそのバルブV2によって調整が可能となっている。貯留槽31は、土粒子等と共に排出されるスラリーを一時的に貯留する部分であり、ポンプ31によって処理槽6に処理後のスラリーを搬送ラインL5を介して搬送する。なお、排出口27の排出量は、流出口26の排出量よりも少なくなくなるように設定されている。
【0038】
ベルト28は、筺体23の上部に設けられたローラー状の駆動回転体33と、筺体23の下部に設けられたローラー状の従動回転体34とに掛け渡されている。駆動回転体33と従動回転体34とは、鉛直方向に沿った同一直線状に水平方向に延在して配置固定されている。駆動回転体33は、モータ24に連結され、モータ24の回転に応じて回転する。回転方向は、図3において時計回りである。従動回転体34は、回動自在に設けられている。ベルト28は、駆動回転体33の回転に伴って回転する。
【0039】
また、ベルト28は、駆動回転体33と従動回転体34との間の略中央部分、且つ流入口25に対向する面F側に配置固定されたローラー状の回転体34に接触している。回転体35は、駆動回転体33及び従動回転体34よりも流入口25側に設けられている。これにより、ベルト28は、流入口25に対向する面Fが、従動回転体34から回転体35までの部分において、鉛直方向に対して流入口25から遠ざかる方向に例えば15°程度傾斜している。また、回転体35から駆動回転体33までの部分において、鉛直方向に対して流入口25に近づく方向に例えば20°程度傾斜している。したがって、ベルト28は、回転体35を略中心として流入口25側の面F、GがV字状となっている。なお、ベルト28の上記配置により、ベルト28の流入口25に対向する面Fは、流入口25から流入されるスラリーの流入方向と略直交する角度となっている。
【0040】
ウォータージェット29a,29bは、ベルト28に対して水(流体)を噴射する。ウォータージェット29a,29bには、ポンプ(図示しない)から水が供給されており、ウォータージェット29a,29bから噴射される水の圧力は、0.3Mpa程度である。ウォータージェット29a,29bは、ベルト28の流出口26の配置位置の直上部分において、流入口25と対向する面Gと、その面Gの裏面とに水が噴射されるように、ベルト28を挟むように配置されている。ウォータージェット29a,29bは、水平方向に沿って一定の間隔で配置された複数のノズルN1,N2を有しており、そのノズルN1,N2からベルト28の噴射位置Pに向けて水を噴射する。なお、ウォータージェット29a,29bは、ウォータージェット29aが噴射位置P、ウォータージェット29bが噴射位置Pよりも上方に噴射するといったように、噴射位置を違えて水を噴射してもよい。
【0041】
鉄粉回収口30は、ベルト28から鉄粉を吸引することにより回収する。鉄粉回収口30には、吸引口の上側部分に沿ってベルト28に接触する接触片30aが設けられている。鉄粉回収口30は、気液分離器5に搬送ラインL6を介して接続されており、ブロア5aの吸引により鉄粉を接触片30aによってベルト28から剥離しながら吸引して回収する。鉄粉回収口30における吸引力は、20kpa程度である。
【0042】
図1に戻って、気液分離器5は、磁気分離装置4によって回収された鉄粉と共に吸引される空気を分離し、鉄粉を回収する装置である。気液分離器5には、ブロア5aが接続されており、搬送ラインL6を介して鉄粉が搬送される。気液分離器5によって回収された鉄粉は、再度反応槽3(鉄粉投入器13)に返送され、浄化材として再利用される。
【0043】
処理槽6は、磁気分離装置4によって鉄粉が回収された後のスラリーを貯留する部分である。処理槽6には、磁気分離装置4から送出されたスラリー及び貯留槽31から送出されたスラリーが、それぞれ搬送ラインL3、L4を介して搬送される。この処理槽6に貯留されるスラリーは、重金属が所定濃度以下、すなわち土については、土壌汚染対策法における指定基準以下であり、水については、水質汚濁防止法に定める水質汚濁に係わる基準値以下となっている。そして、処理槽6には、ポンプ36が設けてあり、ポンプ36により汲み上げられたスラリーは、土と水との分離処理等が行われる。その後、土は土質材料として敷地内の埋め戻し材料等に利用され、水は搬送ラインL7を介してスラリー生成装置2に搬送され、水供給に再利用される。
【0044】
続いて、本実施形態における重金属汚染土壌の処理システムに用いた鉄粉の実験結果について説明する。
【0045】
(吸着速度評価実験)
(鉛吸着速度評価実験)
まず、浄化処理に使用する鉄粉を選別するにあたり、鉄粉による重金属の吸着速度に関する実験を行った。実験方法は、鉛を1mg/L含有する重金属汚染水100gに炭酸水素ナトリウムを混入させることで中和し、中和した重金属汚染水に鉄粉を1,3,10%混入した。そして、鉄粉と汚染水とを1,5,10分で接触(振とう)させた後に、磁石で鉄粉を抽出し、0.45μmのフィルターでろ過して鉄粉と水とを分離してから、対象汚染物質の分析を行った。混入した鉄粉は、中間粒径が100μmよりも大きいもの(以下、100μm超)、中間粒径が50μm、及び中間粒径が10μm未満のものである。なお、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、混合時間を1分のみとした。
【0046】
図4及び図5に実験結果を示す。図4及び図5は、鉄粉の中間粒径が100μm超及び50μmの実験結果を示すグラフである。図4及び図5において、(a)はいずれも横軸が混合時間(min)、縦軸が鉛濃度(mg/L)であり、(b)はいずれも横軸が鉄粉混合量(%)、縦軸が鉛濃度(mg/L)である。なお、実験結果は、累乗型でフィッティングして示している。
【0047】
図4(a)及び(b)に示すように、中間粒径が100μm超の鉄粉では、全ての鉄粉混合量において、混合時間に応じて鉛濃度が低下、すなわち混合時間が長いほど鉛濃度が低下(鉄粉への吸着が進行)している。そして、鉄粉混合量の多い方が、短時間で鉛濃度が低下している。
【0048】
また、図5(a)及び(b)に示すように、中間粒径が50μmの鉄粉では、中間粒径が100μm超と同様に、値に多少ばらつきはあるものの、全ての鉄粉混合量において、混合時間に応じて鉛濃度が低下、すなわち混合時間が長いほど鉛濃度が低下している。そして、鉄粉混合量の多い方が、短時間で鉛濃度が低下している。
【0049】
図6は、鉛吸着速度評価の結果を示す表である。図6において、(a)は重金属汚染水に対して鉄粉を1%添加した場合、(b)は鉄粉を3%添加した場合、(c)は鉄粉を10%添加した場合を示している。図6に示すように、初期濃度1mg/Lの鉛濃度は、鉄粉の添加量(混入量)にかかわらず、1分の混合により1/10程度低下する傾向にある。そして、中間粒径が10μm未満の鉄粉では、添加量が少なくても短時間で処理することができる。
【0050】
(砒素吸着速度評価実験)
次に、重金属汚染水として砒素を用いて実験を行った。実験方法は、砒素を1mg/L含有する重金属汚染水100gに塩酸を混入させることで中和し、中和した重金属汚染水に中間粒径が100μm超及び50μmの鉄粉を1%混入した。そして、鉄粉と汚染水とを1,10分で接触(振とう)させた後に、磁石で鉄粉を抽出し、0.45μmのフィルターでろ過して鉄粉と水とを分離してから、対象汚染物質の分析を行った。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、0.03%とした。
【0051】
実験結果を図7に示す。図7は、砒素吸着速度評価の実験結果を示す表である。同図に示すように、全ての鉄粉において、砒素は鉛よりも鉄粉に吸着しにくい(濃度が下がりにくい)結果となった。そして、最も性能(混合時間に対する砒素濃度の低下量等)が良いのは、中間粒径が10μm未満、すなわち中間粒径が最も小さい鉄粉であった。また、中間粒径が50μmの鉄粉においても、10分の処理時間で濃度が1/100程度に低下している。
【0052】
以上より、鉄粉と重金属汚染水との混合時間(接触時間)が長いほど重金属濃度(鉛濃度、砒素濃度)が低下すること、及び、重金属汚染水に対して鉄粉の混合量が多いほど短時間で鉛濃度が低下することが吸着速度評価実験より得られた。
【0053】
(鉄粉回収・再利用評価実験)
続いて、鉄粉の回収・再利用に関する評価実験を行った。実験方法は、重金属汚染水に鉄粉を混入し、重金属汚染水と鉄粉とを5分間接触させた。そして、鉄粉を磁石で回収した後に、その回収した鉄粉に再度重金属汚染水に混合して重金属を付着させた。なお、鉄粉の混入量は、中間粒径が50μm及び100μm超においては、重金属汚染水に対して1%とした。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉においては、0.15%とした。実験結果を図8に示す。
【0054】
図8は、鉄粉の回収・再利用実験結果を示すグラフである。同図に示すように、どの中間粒径の鉄粉においても、2回以上の回収・再利用が可能であることが分かった。しかし、中間粒径が100μm超(最も中間粒径が大きい)の鉄粉は、初期性能(1回目の使用)及び長期性能(複数回使用)共に他の鉄粉に比べて性能が劣ることが分かった。これに対して、中間粒径が10μm未満(最も中間粒径が小さい)の鉄粉は、初期性能及び長期性能ともに処理能力が高いことが分かった。なお、中間粒径が50μmの鉄粉における総吸着量は、1500mg/kgであり、処理能力として十分な結果が得られた。
【0055】
(スラリーを用いた吸着速度評価実験)
次に、土壌を含む重金属汚染水における鉄粉の処理能力に関する実験を行った。実験方法は、粘性土(笠岡粘土)に水と砒素とを加えて汚染泥水(以下、スラリー)を生成し、このスラリーに鉄粉を混合した。より具体的には、スラリーは、土壌量15gに対して水を150g混入し、固液比を10(土に対して水を10倍混入)とした。なお、固液比を10としたのは、土壌溶出濃度で重金属汚染の度合を設定したこと、及び、実際の土壌処理においては重金属汚染土壌をスラリー化して浄化処理することを考慮したためである。実験結果を図9に示す
【0056】
図9は、スラリーを用いた吸着評価実験結果を示す表である。なお、図9に示すように、使用した固液比10のスラリーは、無処理つまり鉄粉を混合しない場合で、液中の砒素濃度は0.18mg/Lである。これに鉄粉を混合した場合の液中の砒素濃度を分析することにより、鉄粉による処理効果を評価した。CASE1−6では、鉄粉とスラリーとの混合時間を20分とした。図9に示すように、土壌を混入したスラリーにおいては、混合時間を長くしたにもかかわらず、水のみの汚染水(図6、7参照)に比べて濃度は低下しにくい結果となった。すなわち、重金属汚染水の場合には、重金属汚染水に対して鉄粉を1%混入し、汚染水と水とを10分混合することにより、砒素濃度を初期値の1mg/Lから鉄粉の種類により0.003〜0.2mg/Lまで低減でき、濃度が1/300から1/5となった。一方、スラリーの場合には、鉄粉を1%添加して20分混合した場合であっても、初期値0.18mg/Lから0.02〜0.05mg/Lであり、1/10から1/4程度しか低下しなかった。また、鉄粉の中間粒径別に見ると、50μm及び10μm未満の鉄粉は、ほぼ同等の結果となった。より具体的には、中間粒径が50μmと10μm未満とでは、鉄粉とスラリーとの混合時間を長くした場合、及び、スラリーに対する鉄粉の混合量(添加量)が多い場合において、スラリーの砒素濃度を低下させることができる。
【0057】
(スラリーにおける鉄粉回収・再利用評価実験)
次に、スラリーにおける鉄粉の回収・再利用に関する評価実験を行った。実験は、上記スラリーにおいて上述の鉄粉回収・再利用評価実験と同様に行った。実験を行った鉄粉は、上記の評価実験において処理能力の高かった中間粒径が50μm及び10μm未満のものである。なお、中間粒径が10μm未満の鉄粉においては、0.05%とした。実験結果を図10に示す。
【0058】
図10は、スラリーにおける鉄粉回収・再利用評価実験結果を示すグラフである。実験結果において、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、回収率が低かった。これにより、図10に示すように、中間粒径の鉄粉10μm未満は、再利用する際の鉄粉添加量が少なくなるため、結果として処理能力が低下する。これに対して、中間粒径が50μmの鉄粉は、繰り返し使用しても回収率が中間粒径10μm未満の鉄粉に比べて高いため、処理能力が低下することがない。以上より、鉄粉の中間粒径が小さくなると、回収率が下がるため、処理能力が低下することが分かった。従って、回収率を維持するためには、適当な中間粒径を選択する必要があること分かった。
【0059】
以上の実験結果により、反応槽3における鉄粉とスラリーとの混合時間は、中間粒径が10μm〜100μm鉄粉では1分以上とすることが好適であることが分かった。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉では、混合時間を1分以内にすることが好適であることが分かった。さらに、スラリーに対する鉄粉の混合量は、中間粒径が10μm〜100μのものでは1%以上とすることが好適であり、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、スラリーに対して0.03%以上が好適であることが分かった。なお、鉄粉を再利用するといった観点から考えると、中間粒径が10μm以上100μm以下の鉄粉を利用することが好適であることが分かった。従って、本実施形態では、重金属汚染土壌の処理システム1において使用する鉄粉は、中間粒径が10μm以上100μm以下のものとした。
【0060】
以上説明したように、重金属汚染土壌の処理システム1では、スラリー生成装置2において重金属を含有する汚染土壌に水を混合してスラリーを生成し、このスラリーに鉄粉を反応槽3において混合している。鉄粉は、重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、スラリー化した汚染土壌に鉄粉を混合することにより、水に溶出した重金属を鉄粉に付着させることができる。そして、重金属が付着した鉄粉を磁気分離装置4により回収することで、汚染土壌に含まれる重金属を土壌から分離させることができ、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することが可能となる。
【0061】
ここで、スラリー中の重金属の除去時間は、鉄粉の添加量に依存し、例えば、大量に添加すると短時間での除去が可能になり、少量で有れば長時間を要する。本実施形態では、磁気分離装置4で回収した鉄粉を反応槽3で再利用できるので、鉄粉の吸着能力の限界まで(吸着破過するまで)繰り返し鉄粉を利用できる。従って、1回の利用で鉄粉を廃棄してしまう場合に比べてコストの低減に有効であり、また、大量の鉄粉の投入を行い易くなって処理時間の短縮化を図り易い。
【0062】
さらに、本発明により処理された土壌は、重金属が分離されることで無害化(浄化)されているので、土質材料として掘削した場所の埋め戻し等に再利用することができる。
【0063】
また、本実施形態では、鉄粉の中間粒径が10μm以上100μm以下のものを採用している。鉄粉は粒径が小さい方が同重量の鉄粉に対する表面積が増加するため、多くの重金属を吸着・保持するといった特性を有している。一方、鉄粉の粒径が小さくなり過ぎると、磁気分離装置4による回収率が低くなることがある。そこで、鉄粉の粒径の重量パーセント割合において、50%が所定の粒径以下であることを示す中間粒径を、10μm以上100μm以下の範囲とすることにより、重金属の吸着・保持効率を維持しつつ、回収を維持することができる。
【0064】
また、本実施形態では、スラリー生成装置2によって重金属汚染土壌と水とを混練してスラリーを生成している。このスラリー生成装置2は、本大部7が水平方向に対して傾斜して設けられており、この本体部7の下流側に堰部12が排出部11に隣接して設けられている。このような構成のスラリー生成装置2により、傾斜した本体部7において重金属汚染土壌と水とが混練されるので、流動性の高まったもの(スラリー化したもの)から堰部12をオーバーフローして排出部11から排出される。すなわち、流動性の低い汚染土壌は本体部内に長く滞留してパドル8により多くの水と混練され、所定の流動性が得られた汚染土壌のみが排出部11から排出される。従って、所定の流動性を有するスラリーを確実に生成することができる。その結果、磁気分離装置4に流動性のあるスラリーが搬送されるので、磁気分離装置4における鉄粉の回収効率の向上を図ることができる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態に加えて、反応槽3においてスラリーを加熱する構成としてもよい。具体的には、図11を参照しながら説明する。
【0066】
図11は、変形例に係る重金属汚染土壌の処理システムの反応槽の概略図である。なお、図11においては、説明の便宜上、鉄粉投入器13、攪拌器14、汲み上げポンプ15等を省略して示している。図11に示すように、反応槽3Aには、電熱線40が設けられている。この伝熱線40は、電源41に接続されており、反応槽3A内のスラリーを加熱する。加熱温度は、例えば45℃である。そして、反応槽3Aでは、電熱線40による加熱を行いつつ、水中ミキサー15でスラリーを流動させることで、スラリー全体を加熱する。
【0067】
このように、伝熱線40によりスラリーを加熱することにより、以下のような作用効果を得ることができる。鉄粉による重金属の吸着力は、温度の上昇と共に増大する。これは、実験結果等から明らかとなっている。従って、伝熱線40によりスラリーの温度を上昇させることにより、鉄粉による重金属の吸着力が増大し、スラリー内の重金属をより効果的に鉄粉に付着させることができる。
【0068】
ここで、下水放流における温度の規制値は、45℃となっている。そこで、電熱線40による加熱温度を45℃に設定することより、過熱後の冷却装置等を必要としない。そのため、システム全体の大型化の招来を防止することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…重金属汚染土壌の処理システム、2…スラリー生成装置(スラリー生成手段)、3、3A…反応槽(混合装置)、5…気液分離器、7…本体部、8…パドル、9…水供給部、11…排出部、12…堰部、14…攪拌器(混合装置)、15…水中ミキサー(混合装置)、L6…搬送ライン(返送路)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
重金属は、カドニウム、鉛、6価クロム、砒素及び水銀等であり、土壌に吸着し易く、分離しにくいといった特徴を有している。この重金属による土壌汚染は、人為的なものに限らず、自然由来の有害物質を原因とするものもある。このような汚染土壌を含む領域において、例えばトンネル工事等を行う場合、切削に用いた水(泥水)に重金属が溶出して汚染が拡大するおそれがあるため、適切に無害化する必要がある。
【0003】
そこで、重金属による汚染土壌の対策技術の一種として、不溶化技術が知られている。この不溶化技術では、不溶化剤(例えばマグネシウム等)を汚染土壌に混合して、化学反応を利用して土壌から基準値を超える重金属が溶出しないようにし、重金属による土壌汚染の拡大を防止している(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−11956号公報
【特許文献2】特開2009−155414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の不溶化技術では、重金属の溶出を抑制するだけであり、土壌自体を浄化することができないので、根本的な土壌の改善を行うことができない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することができる重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明は、重金属を含有する汚染土壌を浄化処理する重金属汚染土壌の処理方法であって、重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、汚染土壌と水とを含むスラリーを生成するスラリー生成工程と、スラリー生成工程において生成されたスラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、重金属を鉄含有粒子に付着させる混合工程と、混合工程においてスラリーに混合された鉄含有粒子をスラリーから磁気により分離して回収する磁気分離工程と、磁気分離工程において回収された鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために返送する返送工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
或いは、本発明は、重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理システムであって、重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、汚染土壌と水とを含むスラリーを生成するスラリー生成装置と、スラリー生成装置によって生成されたスラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、重金属を鉄含有粒子に付着させる混合装置と、混合装置によってスラリーに混合された鉄含有粒子をスラリーから磁気により分離して回収する磁気分離装置と、磁気分離装置によって回収された鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために混合装置に返送する返送路と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムでは、重金属を含有する汚染土壌に水を混合してスラリーを生成し、このスラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合している。鉄を含有する鉄含有粒子は、重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、スラリー化した汚染土壌に鉄含有粒子を混合することにより、水に溶出した重金属を鉄含有粒子に付着させることができる。そして、重金属が付着した鉄含有粒子を磁気分離により回収することで、汚染土壌に含まれる重金属を土壌から分離させることができ、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明では、磁気分離工程(磁気分離装置)で回収した鉄含有粒子を混合工程(混合装置)で再利用できるので、鉄含有粒子の吸着能力の限界まで繰り返し鉄含有粒子を利用できる。従って、1回の利用で鉄含有粒子を廃棄してしまう場合に比べてコストの低減に有効であり、また、大量の鉄含有粒子の投入を行い易くなって処理時間の短縮化を図り易い。
【0011】
さらに、本発明により処理された土壌は、重金属が分離されることで無害化(浄化)されているので、土質材料として掘削した場所の埋め戻し等に再利用することができる。
【0012】
また、鉄含有粒子の中間粒径は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。鉄含有粒子は、中間粒径が小さい方が同重量の鉄含有粒子に対する表面積が増加するため、多くの重金属を吸着・保持するといった特性を有している。一方、鉄含有粒子の中間粒径が小さくなり過ぎると、磁気分離による回収率が低くなることがある。そこで、鉄含有粒子の中間粒径を10μm以上100μm以下とすることにより、重金属の吸着・保持効率を維持しつつ、回収率を維持することができる。
【0013】
さらに、スラリー生成装置は、重金属を含有する汚染土壌と水とが投入される筒状の本体部と、本体部内に設けられると共に回転軸が駆動部に連結され、重金属を含有する汚染土壌と水とを混合するパドルと、本体部の一端側に設けられ、水が投入される水供給部と、本体部の他端側に設けられ、スラリーが排出される排出部と、本体部内の排出部側に設けられ、スラリーを水供給部側で保持し、所定の水位に達したスラリーがオーバーフローして排出部側に流出する堰部と、を有していることが好ましい。この場合には、汚染土壌と水とが本体部内でパドルにより混練され、流動性の高くなったスラリーが所定の水位に達した場合に堰部からオーバーフローして排出部から排出される。すなわち、流動性の低い汚染土壌は本体部内に長く滞留してパドルにより多くの水と混練され、所定の流動性が得られた汚染土壌のみが排出部から排出される。従って、所定の流動性を有するスラリーを確実に生成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る重金属汚染土壌の処理システムの概要を示す図である。
【図2】スラリー生成装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図3】磁気分離装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【図4】鉛吸着速度評価の実験結果を示すグラフである。
【図5】鉛吸着速度評価の実験結果を示すグラフである。
【図6】鉛吸着速度評価の実験結果を示す表である。
【図7】砒素吸着速度評価の実験結果を示す表である。
【図8】鉄粉の回収・再利用実験結果を示すグラフである。
【図9】スラリーを用いた吸着評価実験結果を示す表である。
【図10】スラリーにおける鉄粉回収・再利用評価実験結果を示すグラフである。
【図11】変形例に係る重金属汚染土壌の処理システムの反応槽の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係る重金属汚染土壌の処理方法及び重金属汚染土壌の処理システムの好適な実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る重金属汚染土壌の処理システムの概要を示す図である。図1に示す重金属汚染土壌の処理システム1は、例えば砒素・鉛に代表される重金属に汚染された土壌の浄化処理を行うシステムである。この重金属汚染土壌の処理システム1は、スラリー生成装置2と、反応槽3と、磁気分離装置4と、気液分離器5と、処理槽6とを備えている。
【0018】
重金属汚染土壌の処理システム1では、重金属汚染土壌がスラリー生成装置2においてスラリー化され、反応槽3においてスラリーに鉄粉(鉄含有粒子)が混合されて、鉄粉に重金属を付着させる。そして、重金属を付着した鉄粉を含むスラリーが磁気分離装置4に搬送され、磁気分離装置4において鉄粉が回収される。その後、磁気分離装置4において回収された鉄粉は、気液分離器5に搬送されて気液分離され、再度反応槽3に戻される。重金属汚染土壌の処理システム1では、このような処理工程により重金属汚染土壌を浄化している。以下、各構成要素について説明する。
【0019】
スラリー生成装置2は、重金属汚染土壌と水とを混練することによりスラリーを生成する装置である。具体的には、図2を参照しながら説明する。図2は、スラリー生成装置2の構成を概略的に示す側面断面図である。同図に示すように、スラリー生成装置2は、本体部7と、パドル8と、水供給部9と、土壌投入部10、排出部11と、堰部12とを含んで構成されている。
【0020】
本体部7は、筒状に形成されており、スラリーを混練する部分である。この本体部7は、水平方向に対して傾斜して設けられている。より具体的には、本体部7は、後述する水供給部9から供給される水の下流側が排出部11となるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。
【0021】
パドル8は、汚染土壌と水とを混練するためのもの混練羽である。パドル8は、モータ8aに連結された回転軸8bに沿って複数設けられている。回転軸8bは、本体部7の両端部に軸支され、本体部7内において回動自在に設けられており、パドル8は、回転軸8bの回転に連動して回転する。
【0022】
水供給部9は、本体部7内に水を供給する部分である。水供給部9は、本体部7における一端側(図示右側)に設けられている。なお、水供給部9から排出される水は、シャワー状となっている。
【0023】
土壌投入部10は、本体部7内に重金属汚染土壌を投入する部分である。土壌投入部10は、本体部7における一端側において水供給部9に隣接して設けられている。具体的には、土壌投入部10は、水供給部9から供給される水の下流側に設けられている。
【0024】
排出部11は、スラリーを排出する部分である。排出部11は、本体部7の他端側(図示左側)の下部に設けられており、スラリーの下流側となる位置に配置されている。排出部11は、搬送ラインL1(図1参照)に接続されている。
【0025】
堰部12は、本体部7内のスラリーの排出を規制する部分である。堰部12は、本体部7の他端側で排出部11に隣接して設けられており、排出部11よりも上流側となる位置に配置されている。堰部12は、板状の部材であり、本体部7内においてスラリーが所定の水位に達した場合に、そのスラリーを排出部11側に流出する。つまり、スラリーは、堰部12をオーバーフローした場合に排出部11から排出されることになる。
【0026】
図1に戻って、反応槽3は、スラリー生成装置2によって生成されたスラリーに鉄粉を混入し、スラリーと鉄粉とを混合して重金属汚染土壌に含まれる重金属を鉄粉に付着させるための槽である。この反応槽3は、鉄粉投入器13と、攪拌器14と、水中ミキサー15と、汲み上げポンプ16とを備えている。反応槽3には、スラリー生成装置2に接続された搬送ラインL1が延設されており、スラリー生成装置2において生成されたスラリーが搬送される。
【0027】
鉄粉投入器13は、反応槽3に鉄粉を投入するものである。この鉄粉投入器13は、反応槽3内のスラリーに対して所定量の鉄粉を投入する。より具体的には、鉄粉投入器13は、例えば鉄粉の粒径が10μm〜100μmの場合、スラリーに対して約1%程度の鉄粉を投入する。なお、鉄粉投入器13によって投入される鉄粉の詳細については、後述する。
【0028】
攪拌器14は、反応槽3内のスラリーと鉄粉とを攪拌するものである。攪拌器14は、モータ14aに回転軸14bが連結されており、回転軸14bの先端には、回転羽14cが設けられている。従って、攪拌器14は、モータ14aに連動する回転羽14cによって、反応槽3内のスラリーと鉄粉投入器13によって投入された鉄粉とを攪拌して混合する。
【0029】
水中ミキサー15は、攪拌槽3内のスラリーを流動させるためのものである。水中ミキサー15は、反応槽3に底部に設けられており、吸入したスラリーを噴射して水圧によりスラリーを流動させる。つまり、反応槽3では、攪拌器14と水中ミキサー15との協働により、スラリーと鉄粉とを混合して重金属汚染土壌に含まれる重金属を鉄粉に付着させる。なお、反応槽3におけるスラリーと鉄粉との混合時間は、例えば鉄粉の粒径が10〜100μmの場合には、約1分程度である。
【0030】
汲み上げポンプ16は、反応槽3内のスラリーを汲み上げるポンプである。汲み上げポンプ16には、磁気分離装置4に鉄粉を含有するスラリーを搬送する搬送ラインL2が接続されている。汲み上げポンプ16は、反応槽3内から汲み上げたスラリーを搬送ラインL2を介して磁気分離装置4に送出する。なお、汲み上げポンプ16は、毎分0.3〜0.5m3程度のスラリーを搬送ラインL2を介して磁気分離装置4に送出する。
【0031】
磁気分離装置4は、スラリーから鉄粉を回収する。磁気分離装置4には、上述の搬送ラインL2上に設けられたバルブV1が調整されることによって、毎分0.3〜0.5m3程度のスラリーが反応槽3から搬送される。磁気分離装置4では、スラリーに含まれる鉄粉を99%以上回収する。これは、発明者等の試験・実験等により明らかとなっている。なお、磁気分離装置4は、20m3/h以上の処理能力を有している。
【0032】
磁気分離装置4について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3は、磁気分離装置4の構成を概略的に示す側面断面図である。同図に示すように、磁気分離装置4は、磁界発生部20と、本体部21とを備えている。
【0033】
磁界発生部20は、磁界(磁場)を発生させる部分である。磁界発生部20は、本体部21に当接して配置されており、超伝導電磁石を有して構成されている。磁界発生部20から発生される磁界は、本体部21の下側では強く、上側になるにつれて弱くなるように設定されている。磁界の強さは、制御装置22(図1参照)によって適宜変更可能となっている。
【0034】
本体部20は、筺体23と、モータ24とから構成されている。筺体23は、流入口25と、流出口26と、排出口27と、ベルト28と、ウォータージェット29a、29bと、鉄粉回収口30とを備えている。
【0035】
流入口25は、スラリーの流入方向が斜め下方となるように、水平方向に対して傾斜して筺体23に設けられている。流入口25は、搬送ラインL1に接続され、スラリーを筺体23内に流入させる。
【0036】
流出口26は、流入口25の反対側に設けられており、泥水等を排出する。流出口26は、流入口25よりも上方に設けられている。これにより、筺体23内部では、流出口26よりも上側には水が浸水しないようになっている。この流出口26には、泥水等を処理槽6に搬送する搬送ラインL3(図1参照)が接続されている。
【0037】
排出口27は、ベルト28よりも下方(筺体23の底部)に設けられており、スラリーに含まれている土粒子等を筺体23内に堆積させないように排出する。この排出口27は、搬送ラインL4を介して貯留槽31(図1参照)に接続されており、この搬送ラインL4には、バルブV2(図1参照)が設けられている。これにより、排出口27からの排出量がそのバルブV2によって調整が可能となっている。貯留槽31は、土粒子等と共に排出されるスラリーを一時的に貯留する部分であり、ポンプ31によって処理槽6に処理後のスラリーを搬送ラインL5を介して搬送する。なお、排出口27の排出量は、流出口26の排出量よりも少なくなくなるように設定されている。
【0038】
ベルト28は、筺体23の上部に設けられたローラー状の駆動回転体33と、筺体23の下部に設けられたローラー状の従動回転体34とに掛け渡されている。駆動回転体33と従動回転体34とは、鉛直方向に沿った同一直線状に水平方向に延在して配置固定されている。駆動回転体33は、モータ24に連結され、モータ24の回転に応じて回転する。回転方向は、図3において時計回りである。従動回転体34は、回動自在に設けられている。ベルト28は、駆動回転体33の回転に伴って回転する。
【0039】
また、ベルト28は、駆動回転体33と従動回転体34との間の略中央部分、且つ流入口25に対向する面F側に配置固定されたローラー状の回転体34に接触している。回転体35は、駆動回転体33及び従動回転体34よりも流入口25側に設けられている。これにより、ベルト28は、流入口25に対向する面Fが、従動回転体34から回転体35までの部分において、鉛直方向に対して流入口25から遠ざかる方向に例えば15°程度傾斜している。また、回転体35から駆動回転体33までの部分において、鉛直方向に対して流入口25に近づく方向に例えば20°程度傾斜している。したがって、ベルト28は、回転体35を略中心として流入口25側の面F、GがV字状となっている。なお、ベルト28の上記配置により、ベルト28の流入口25に対向する面Fは、流入口25から流入されるスラリーの流入方向と略直交する角度となっている。
【0040】
ウォータージェット29a,29bは、ベルト28に対して水(流体)を噴射する。ウォータージェット29a,29bには、ポンプ(図示しない)から水が供給されており、ウォータージェット29a,29bから噴射される水の圧力は、0.3Mpa程度である。ウォータージェット29a,29bは、ベルト28の流出口26の配置位置の直上部分において、流入口25と対向する面Gと、その面Gの裏面とに水が噴射されるように、ベルト28を挟むように配置されている。ウォータージェット29a,29bは、水平方向に沿って一定の間隔で配置された複数のノズルN1,N2を有しており、そのノズルN1,N2からベルト28の噴射位置Pに向けて水を噴射する。なお、ウォータージェット29a,29bは、ウォータージェット29aが噴射位置P、ウォータージェット29bが噴射位置Pよりも上方に噴射するといったように、噴射位置を違えて水を噴射してもよい。
【0041】
鉄粉回収口30は、ベルト28から鉄粉を吸引することにより回収する。鉄粉回収口30には、吸引口の上側部分に沿ってベルト28に接触する接触片30aが設けられている。鉄粉回収口30は、気液分離器5に搬送ラインL6を介して接続されており、ブロア5aの吸引により鉄粉を接触片30aによってベルト28から剥離しながら吸引して回収する。鉄粉回収口30における吸引力は、20kpa程度である。
【0042】
図1に戻って、気液分離器5は、磁気分離装置4によって回収された鉄粉と共に吸引される空気を分離し、鉄粉を回収する装置である。気液分離器5には、ブロア5aが接続されており、搬送ラインL6を介して鉄粉が搬送される。気液分離器5によって回収された鉄粉は、再度反応槽3(鉄粉投入器13)に返送され、浄化材として再利用される。
【0043】
処理槽6は、磁気分離装置4によって鉄粉が回収された後のスラリーを貯留する部分である。処理槽6には、磁気分離装置4から送出されたスラリー及び貯留槽31から送出されたスラリーが、それぞれ搬送ラインL3、L4を介して搬送される。この処理槽6に貯留されるスラリーは、重金属が所定濃度以下、すなわち土については、土壌汚染対策法における指定基準以下であり、水については、水質汚濁防止法に定める水質汚濁に係わる基準値以下となっている。そして、処理槽6には、ポンプ36が設けてあり、ポンプ36により汲み上げられたスラリーは、土と水との分離処理等が行われる。その後、土は土質材料として敷地内の埋め戻し材料等に利用され、水は搬送ラインL7を介してスラリー生成装置2に搬送され、水供給に再利用される。
【0044】
続いて、本実施形態における重金属汚染土壌の処理システムに用いた鉄粉の実験結果について説明する。
【0045】
(吸着速度評価実験)
(鉛吸着速度評価実験)
まず、浄化処理に使用する鉄粉を選別するにあたり、鉄粉による重金属の吸着速度に関する実験を行った。実験方法は、鉛を1mg/L含有する重金属汚染水100gに炭酸水素ナトリウムを混入させることで中和し、中和した重金属汚染水に鉄粉を1,3,10%混入した。そして、鉄粉と汚染水とを1,5,10分で接触(振とう)させた後に、磁石で鉄粉を抽出し、0.45μmのフィルターでろ過して鉄粉と水とを分離してから、対象汚染物質の分析を行った。混入した鉄粉は、中間粒径が100μmよりも大きいもの(以下、100μm超)、中間粒径が50μm、及び中間粒径が10μm未満のものである。なお、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、混合時間を1分のみとした。
【0046】
図4及び図5に実験結果を示す。図4及び図5は、鉄粉の中間粒径が100μm超及び50μmの実験結果を示すグラフである。図4及び図5において、(a)はいずれも横軸が混合時間(min)、縦軸が鉛濃度(mg/L)であり、(b)はいずれも横軸が鉄粉混合量(%)、縦軸が鉛濃度(mg/L)である。なお、実験結果は、累乗型でフィッティングして示している。
【0047】
図4(a)及び(b)に示すように、中間粒径が100μm超の鉄粉では、全ての鉄粉混合量において、混合時間に応じて鉛濃度が低下、すなわち混合時間が長いほど鉛濃度が低下(鉄粉への吸着が進行)している。そして、鉄粉混合量の多い方が、短時間で鉛濃度が低下している。
【0048】
また、図5(a)及び(b)に示すように、中間粒径が50μmの鉄粉では、中間粒径が100μm超と同様に、値に多少ばらつきはあるものの、全ての鉄粉混合量において、混合時間に応じて鉛濃度が低下、すなわち混合時間が長いほど鉛濃度が低下している。そして、鉄粉混合量の多い方が、短時間で鉛濃度が低下している。
【0049】
図6は、鉛吸着速度評価の結果を示す表である。図6において、(a)は重金属汚染水に対して鉄粉を1%添加した場合、(b)は鉄粉を3%添加した場合、(c)は鉄粉を10%添加した場合を示している。図6に示すように、初期濃度1mg/Lの鉛濃度は、鉄粉の添加量(混入量)にかかわらず、1分の混合により1/10程度低下する傾向にある。そして、中間粒径が10μm未満の鉄粉では、添加量が少なくても短時間で処理することができる。
【0050】
(砒素吸着速度評価実験)
次に、重金属汚染水として砒素を用いて実験を行った。実験方法は、砒素を1mg/L含有する重金属汚染水100gに塩酸を混入させることで中和し、中和した重金属汚染水に中間粒径が100μm超及び50μmの鉄粉を1%混入した。そして、鉄粉と汚染水とを1,10分で接触(振とう)させた後に、磁石で鉄粉を抽出し、0.45μmのフィルターでろ過して鉄粉と水とを分離してから、対象汚染物質の分析を行った。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、0.03%とした。
【0051】
実験結果を図7に示す。図7は、砒素吸着速度評価の実験結果を示す表である。同図に示すように、全ての鉄粉において、砒素は鉛よりも鉄粉に吸着しにくい(濃度が下がりにくい)結果となった。そして、最も性能(混合時間に対する砒素濃度の低下量等)が良いのは、中間粒径が10μm未満、すなわち中間粒径が最も小さい鉄粉であった。また、中間粒径が50μmの鉄粉においても、10分の処理時間で濃度が1/100程度に低下している。
【0052】
以上より、鉄粉と重金属汚染水との混合時間(接触時間)が長いほど重金属濃度(鉛濃度、砒素濃度)が低下すること、及び、重金属汚染水に対して鉄粉の混合量が多いほど短時間で鉛濃度が低下することが吸着速度評価実験より得られた。
【0053】
(鉄粉回収・再利用評価実験)
続いて、鉄粉の回収・再利用に関する評価実験を行った。実験方法は、重金属汚染水に鉄粉を混入し、重金属汚染水と鉄粉とを5分間接触させた。そして、鉄粉を磁石で回収した後に、その回収した鉄粉に再度重金属汚染水に混合して重金属を付着させた。なお、鉄粉の混入量は、中間粒径が50μm及び100μm超においては、重金属汚染水に対して1%とした。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉においては、0.15%とした。実験結果を図8に示す。
【0054】
図8は、鉄粉の回収・再利用実験結果を示すグラフである。同図に示すように、どの中間粒径の鉄粉においても、2回以上の回収・再利用が可能であることが分かった。しかし、中間粒径が100μm超(最も中間粒径が大きい)の鉄粉は、初期性能(1回目の使用)及び長期性能(複数回使用)共に他の鉄粉に比べて性能が劣ることが分かった。これに対して、中間粒径が10μm未満(最も中間粒径が小さい)の鉄粉は、初期性能及び長期性能ともに処理能力が高いことが分かった。なお、中間粒径が50μmの鉄粉における総吸着量は、1500mg/kgであり、処理能力として十分な結果が得られた。
【0055】
(スラリーを用いた吸着速度評価実験)
次に、土壌を含む重金属汚染水における鉄粉の処理能力に関する実験を行った。実験方法は、粘性土(笠岡粘土)に水と砒素とを加えて汚染泥水(以下、スラリー)を生成し、このスラリーに鉄粉を混合した。より具体的には、スラリーは、土壌量15gに対して水を150g混入し、固液比を10(土に対して水を10倍混入)とした。なお、固液比を10としたのは、土壌溶出濃度で重金属汚染の度合を設定したこと、及び、実際の土壌処理においては重金属汚染土壌をスラリー化して浄化処理することを考慮したためである。実験結果を図9に示す
【0056】
図9は、スラリーを用いた吸着評価実験結果を示す表である。なお、図9に示すように、使用した固液比10のスラリーは、無処理つまり鉄粉を混合しない場合で、液中の砒素濃度は0.18mg/Lである。これに鉄粉を混合した場合の液中の砒素濃度を分析することにより、鉄粉による処理効果を評価した。CASE1−6では、鉄粉とスラリーとの混合時間を20分とした。図9に示すように、土壌を混入したスラリーにおいては、混合時間を長くしたにもかかわらず、水のみの汚染水(図6、7参照)に比べて濃度は低下しにくい結果となった。すなわち、重金属汚染水の場合には、重金属汚染水に対して鉄粉を1%混入し、汚染水と水とを10分混合することにより、砒素濃度を初期値の1mg/Lから鉄粉の種類により0.003〜0.2mg/Lまで低減でき、濃度が1/300から1/5となった。一方、スラリーの場合には、鉄粉を1%添加して20分混合した場合であっても、初期値0.18mg/Lから0.02〜0.05mg/Lであり、1/10から1/4程度しか低下しなかった。また、鉄粉の中間粒径別に見ると、50μm及び10μm未満の鉄粉は、ほぼ同等の結果となった。より具体的には、中間粒径が50μmと10μm未満とでは、鉄粉とスラリーとの混合時間を長くした場合、及び、スラリーに対する鉄粉の混合量(添加量)が多い場合において、スラリーの砒素濃度を低下させることができる。
【0057】
(スラリーにおける鉄粉回収・再利用評価実験)
次に、スラリーにおける鉄粉の回収・再利用に関する評価実験を行った。実験は、上記スラリーにおいて上述の鉄粉回収・再利用評価実験と同様に行った。実験を行った鉄粉は、上記の評価実験において処理能力の高かった中間粒径が50μm及び10μm未満のものである。なお、中間粒径が10μm未満の鉄粉においては、0.05%とした。実験結果を図10に示す。
【0058】
図10は、スラリーにおける鉄粉回収・再利用評価実験結果を示すグラフである。実験結果において、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、回収率が低かった。これにより、図10に示すように、中間粒径の鉄粉10μm未満は、再利用する際の鉄粉添加量が少なくなるため、結果として処理能力が低下する。これに対して、中間粒径が50μmの鉄粉は、繰り返し使用しても回収率が中間粒径10μm未満の鉄粉に比べて高いため、処理能力が低下することがない。以上より、鉄粉の中間粒径が小さくなると、回収率が下がるため、処理能力が低下することが分かった。従って、回収率を維持するためには、適当な中間粒径を選択する必要があること分かった。
【0059】
以上の実験結果により、反応槽3における鉄粉とスラリーとの混合時間は、中間粒径が10μm〜100μm鉄粉では1分以上とすることが好適であることが分かった。また、中間粒径が10μm未満の鉄粉では、混合時間を1分以内にすることが好適であることが分かった。さらに、スラリーに対する鉄粉の混合量は、中間粒径が10μm〜100μのものでは1%以上とすることが好適であり、中間粒径が10μm未満の鉄粉は、スラリーに対して0.03%以上が好適であることが分かった。なお、鉄粉を再利用するといった観点から考えると、中間粒径が10μm以上100μm以下の鉄粉を利用することが好適であることが分かった。従って、本実施形態では、重金属汚染土壌の処理システム1において使用する鉄粉は、中間粒径が10μm以上100μm以下のものとした。
【0060】
以上説明したように、重金属汚染土壌の処理システム1では、スラリー生成装置2において重金属を含有する汚染土壌に水を混合してスラリーを生成し、このスラリーに鉄粉を反応槽3において混合している。鉄粉は、重金属を吸着・保持する特性を有している。そのため、スラリー化した汚染土壌に鉄粉を混合することにより、水に溶出した重金属を鉄粉に付着させることができる。そして、重金属が付着した鉄粉を磁気分離装置4により回収することで、汚染土壌に含まれる重金属を土壌から分離させることができ、重金属により汚染された汚染土壌を効果的に浄化することが可能となる。
【0061】
ここで、スラリー中の重金属の除去時間は、鉄粉の添加量に依存し、例えば、大量に添加すると短時間での除去が可能になり、少量で有れば長時間を要する。本実施形態では、磁気分離装置4で回収した鉄粉を反応槽3で再利用できるので、鉄粉の吸着能力の限界まで(吸着破過するまで)繰り返し鉄粉を利用できる。従って、1回の利用で鉄粉を廃棄してしまう場合に比べてコストの低減に有効であり、また、大量の鉄粉の投入を行い易くなって処理時間の短縮化を図り易い。
【0062】
さらに、本発明により処理された土壌は、重金属が分離されることで無害化(浄化)されているので、土質材料として掘削した場所の埋め戻し等に再利用することができる。
【0063】
また、本実施形態では、鉄粉の中間粒径が10μm以上100μm以下のものを採用している。鉄粉は粒径が小さい方が同重量の鉄粉に対する表面積が増加するため、多くの重金属を吸着・保持するといった特性を有している。一方、鉄粉の粒径が小さくなり過ぎると、磁気分離装置4による回収率が低くなることがある。そこで、鉄粉の粒径の重量パーセント割合において、50%が所定の粒径以下であることを示す中間粒径を、10μm以上100μm以下の範囲とすることにより、重金属の吸着・保持効率を維持しつつ、回収を維持することができる。
【0064】
また、本実施形態では、スラリー生成装置2によって重金属汚染土壌と水とを混練してスラリーを生成している。このスラリー生成装置2は、本大部7が水平方向に対して傾斜して設けられており、この本体部7の下流側に堰部12が排出部11に隣接して設けられている。このような構成のスラリー生成装置2により、傾斜した本体部7において重金属汚染土壌と水とが混練されるので、流動性の高まったもの(スラリー化したもの)から堰部12をオーバーフローして排出部11から排出される。すなわち、流動性の低い汚染土壌は本体部内に長く滞留してパドル8により多くの水と混練され、所定の流動性が得られた汚染土壌のみが排出部11から排出される。従って、所定の流動性を有するスラリーを確実に生成することができる。その結果、磁気分離装置4に流動性のあるスラリーが搬送されるので、磁気分離装置4における鉄粉の回収効率の向上を図ることができる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態に加えて、反応槽3においてスラリーを加熱する構成としてもよい。具体的には、図11を参照しながら説明する。
【0066】
図11は、変形例に係る重金属汚染土壌の処理システムの反応槽の概略図である。なお、図11においては、説明の便宜上、鉄粉投入器13、攪拌器14、汲み上げポンプ15等を省略して示している。図11に示すように、反応槽3Aには、電熱線40が設けられている。この伝熱線40は、電源41に接続されており、反応槽3A内のスラリーを加熱する。加熱温度は、例えば45℃である。そして、反応槽3Aでは、電熱線40による加熱を行いつつ、水中ミキサー15でスラリーを流動させることで、スラリー全体を加熱する。
【0067】
このように、伝熱線40によりスラリーを加熱することにより、以下のような作用効果を得ることができる。鉄粉による重金属の吸着力は、温度の上昇と共に増大する。これは、実験結果等から明らかとなっている。従って、伝熱線40によりスラリーの温度を上昇させることにより、鉄粉による重金属の吸着力が増大し、スラリー内の重金属をより効果的に鉄粉に付着させることができる。
【0068】
ここで、下水放流における温度の規制値は、45℃となっている。そこで、電熱線40による加熱温度を45℃に設定することより、過熱後の冷却装置等を必要としない。そのため、システム全体の大型化の招来を防止することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…重金属汚染土壌の処理システム、2…スラリー生成装置(スラリー生成手段)、3、3A…反応槽(混合装置)、5…気液分離器、7…本体部、8…パドル、9…水供給部、11…排出部、12…堰部、14…攪拌器(混合装置)、15…水中ミキサー(混合装置)、L6…搬送ライン(返送路)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理方法であって、
前記重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、前記汚染土壌と前記水とを含むスラリーを生成するスラリー生成工程と、
前記スラリー生成工程において生成された前記スラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、前記重金属を前記鉄含有粒子に付着させる混合工程と、
前記混合工程において前記スラリーに混合された前記鉄含有粒子を前記スラリーから磁気により分離して回収する磁気分離工程と、
前記磁気分離工程において回収された前記鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために返送する返送工程と、
を含むことを特徴とする重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
前記鉄含有粒子の中間粒径は、10μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1記載の重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理システムであって、
前記重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、前記汚染土壌と前記水とを含むスラリーを生成するスラリー生成装置と、
前記スラリー生成装置によって生成された前記スラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、前記重金属を前記鉄含有粒子に付着させる混合装置と、
前記混合装置によって前記スラリーに混合された前記鉄含有粒子を前記スラリーから磁気により分離して回収する磁気分離装置と、
前記磁気分離装置によって回収された前記鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために前記混合装置に返送する返送路と、
を備えることを特徴とする重金属汚染土壌の処理システム。
【請求項4】
前記スラリー生成装置は、
前記重金属を含有する汚染土壌と前記水とが投入される筒状の本体部と、
前記本体部内に設けられると共に回転軸が駆動部に連結され、前記重金属を含有する汚染土壌と前記水とを混合するパドルと、
前記本体部の一端側に設けられ、前記水が投入される水供給部と、
前記本体部の他端側に設けられ、前記スラリーが排出される排出部と、
前記本体部内の前記排出部側に設けられ、前記スラリーを前記水供給部側で保持し、所定の水位に達した前記スラリーがオーバーフローして前記排出部側に流出する堰部と、
を有していることを特徴とする請求項3記載の重金属汚染土壌の処理システム。
【請求項1】
重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理方法であって、
前記重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、前記汚染土壌と前記水とを含むスラリーを生成するスラリー生成工程と、
前記スラリー生成工程において生成された前記スラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、前記重金属を前記鉄含有粒子に付着させる混合工程と、
前記混合工程において前記スラリーに混合された前記鉄含有粒子を前記スラリーから磁気により分離して回収する磁気分離工程と、
前記磁気分離工程において回収された前記鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために返送する返送工程と、
を含むことを特徴とする重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
前記鉄含有粒子の中間粒径は、10μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1記載の重金属汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
重金属を含有する汚染土壌を浄化する重金属汚染土壌の処理システムであって、
前記重金属を含有する汚染土壌に水を混合し、前記汚染土壌と前記水とを含むスラリーを生成するスラリー生成装置と、
前記スラリー生成装置によって生成された前記スラリーに鉄を含有する鉄含有粒子を混合して、前記重金属を前記鉄含有粒子に付着させる混合装置と、
前記混合装置によって前記スラリーに混合された前記鉄含有粒子を前記スラリーから磁気により分離して回収する磁気分離装置と、
前記磁気分離装置によって回収された前記鉄含有粒子を、再度スラリーに混合するために前記混合装置に返送する返送路と、
を備えることを特徴とする重金属汚染土壌の処理システム。
【請求項4】
前記スラリー生成装置は、
前記重金属を含有する汚染土壌と前記水とが投入される筒状の本体部と、
前記本体部内に設けられると共に回転軸が駆動部に連結され、前記重金属を含有する汚染土壌と前記水とを混合するパドルと、
前記本体部の一端側に設けられ、前記水が投入される水供給部と、
前記本体部の他端側に設けられ、前記スラリーが排出される排出部と、
前記本体部内の前記排出部側に設けられ、前記スラリーを前記水供給部側で保持し、所定の水位に達した前記スラリーがオーバーフローして前記排出部側に流出する堰部と、
を有していることを特徴とする請求項3記載の重金属汚染土壌の処理システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−56482(P2011−56482A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212337(P2009−212337)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(508237801)株式会社MSエンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(508237801)株式会社MSエンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】
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