説明

重金属汚染土壌の浄化方法

【課題】 重金属汚染土壌を効率良く浄化する方法の提供。
【解決手段】 重金属汚染土壌を、酸化状態及び/又は乾燥状態とした後、薬剤を用いて洗浄することを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属汚染土壌を効率良く浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属含有農用地の対策には、客土法、排土客土法、アルカリ資材施用法、還元条件下での栽培法、種々の薬剤を用いて洗浄する方法(例えば、特許文献1等)等が知られている。
特に、カドミウム含有水田土壌においては、土壌中のカドミウム濃度が低濃度(例えば2ppm程度)でも、玄米中のカドミウム濃度が1ppm以上(食品衛生法で流通禁止)になる危険性がある。これらカドミウム含有量が1ppm以上の玄米を産する水田については、農林水産省の予算補助を受け、公害防除特別土地改良事業等により、客土又は排土客土による対策がなされている。
【0003】
一方、CODEX(WHOとFAO合同の食品規格委員会)では、食品のカドミウム基準値案を検討中で、コメについては0.4mg/kgあるいは0.2mg/kgが提案されており、例えば0.2mg/kgが採択された場合、これまでに指定された地域の10倍程度のカドミウム汚染農用地が顕在化すると想定されている。この膨大な面積の浄化対策を、これまでの排土、客土で行なうと、大量の排土の処理と水田土壌に適した土壌を準備する必要があり、しかも客土した土壌がもとの生産性を回復するのに10年近い年月を要することや、対策をしても20〜30年経過するとまた汚染が再発するということもあり、物理的、またコスト的に現実的な対策法ではなく、より効率の良い土壌の浄化方法が求められている。
【0004】
また、薬剤を用いて洗浄する方法として、例えば、特許文献2には、汚染された土壌を、カルシウムあるいは鉄の硫酸塩、塩化物又はこれらの混合物を加えて混合し、水分の存在下に土壌中の重金属を水溶性にして、溶出除去する方法が記載されている。さらに、非特許文献1には、カドミウム含有水田土壌を塩化カルシウム、酢酸等によって処理すると、土壌中のカドミウム濃度が低下することが記載され、非特許文献2には、同様に、EDTAを用いた例が記載されている。
しかしながら、これらの文献では、実際のカドミウム含有水田土壌において、どのように洗浄すれば、効率良くカドミウムを除去して、浄化できるかについては示されていない。特に、浄化対象土壌の環境によっては、想定の浄化効果が得られないこともあり、重金属汚染土壌を効率良く浄化することは困難である。
【特許文献1】特開2002−355662号公報
【特許文献2】特開昭54−13466号公報
【非特許文献1】尾川文朗,「秋田県における水稲のカドミウム汚染の実態とその被害軽減に関する研究」,秋田県農業試験場研究報告,1994年,第35号,p31-38
【非特許文献2】中島征志郎,小野末太,「対馬の重金属汚染に関する調査研究」,長崎県総合農林試験場研究報告,1979年,第7号,p359-364
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、重金属汚染土壌を効率良く浄化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、汚染土壌を酸化状態とするか又は乾燥させた後、薬剤を用いて土壌中の重金属を抽出洗浄すれば、土壌を効率良く浄化できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、重金属汚染土壌を、酸化状態及び/又は乾燥状態とした後、薬剤を用いて洗浄することを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重金属汚染土壌を効率良く浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で浄化対象となる重金属汚染土壌としては、市街地、山林、工場跡地、農用地、沼地、更には排土等で、鉛、カドミウム、ヒ素等の重金属元素の単体、化合物又はイオンを含有する土壌が挙げられる。例えば平成3年環境庁告示第46号に定める方法によって測定される重金属類の溶出量が土壌環境基準を超える土壌や、土壌1kg当たり鉛重量で400mg以上の鉛を含有する鉛含有土壌、土壌1kg当たりカドミウム重量で2mg以上のカドミウムを含有するカドミウム含有土壌、土壌1kg当たりヒ素重量で30mg以上のヒ素を含有するヒ素含有土壌等の土壌に好適に適用することができる。
特に、カドミウム含有水田土壌、更に、カドミウム濃度が0.1〜5ppmの水田土壌の浄化に好適である。
【0010】
本発明においては、まず、このような浄化対象汚染土壌を、酸化状態とするか及び/又は乾燥状態とする。酸化又は乾燥方法としては、例えば現位置にて耕耘機により土壌と空気を接触させて酸化させる方法、土壌を一旦掘削除去し、攪拌機等により土壌と空気を接触させて酸化させる方法などが挙げられる。
【0011】
土壌の酸化状態としては、酸化還元電位(Eh)が100mV以上、特に200mV以上であるのが好ましい。土壌の酸化還元電位は、駒田充生、「酸化還元電位(Eh)白金電極法」博友社、p.197−199に記載の方法により、測定することができる。すなわち、酸化還元電位とは、例えば野外で測定する場合は、湛水条件下の水田土壌の作土層に不反応電極である白金電極を挿入し、十分な接触時間を保った後、基準電極である甘コウ電極との電位差を測定することにより、電子が電極から溶液方向に、あるいはその反対方向に移動して、電極と土壌溶液との間に生じた一定の電位差をいう。
【0012】
また、土壌の乾燥状態としては、水分ポテンシャルが−1Mpa以下、特に−5Mpa以下であるのが好ましい。土壌の水分ポテンシャルは、中野政詩、宮崎毅、塩沢択、「サイクロメーター法、土壌物理環境測定法」東京大学出版会、p.82−87に記載の方法により測定される。土壌水分ポテンシャルとは、土壌に含まれる水の化学ポテンシャルを指し、水の表面張力や土粒子の吸着力によるマトリックポテンシャル成分、溶質を含むことによる浸透ポテンシャル成分、そして重力ポテンシャル成分から構成されている。土壌が水分を多く含むときは、高い土壌水分ポテンシャルをもち、少ないときは低いポテンシャルをもつと表現される。土壌水分ポテンシャルを計測するには、土壌に含まれる水と平衡状態にある空気の相対湿度を測定する。具体的には、小さなチャンバー内で土壌試料の水ポテンシャルと空気の水蒸気圧を平衡させ、その相対湿度を湿球と乾球との湿度差として測定するものである。
【0013】
このように、重金属汚染土壌を酸化状態及び/又は乾燥状態とした後、薬剤を用いて洗浄する。薬剤としては特に制限されず、従来土壌洗浄に用いられているものを使用することができる。例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、ヨウ化カルシウム等のカルシウム塩;クエン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、酪酸、リンゴ酸、イタコン酸、グルコン酸、プロピオン酸等の有機酸;塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。
【0014】
また、アミノカルボン酸として、カドミウムとともに錯体を形成するもの、例えばアラニン、グルタミン酸、グリシン、システイン等のアミノ酸や、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、エチレンクリコールビス(2−アミノエチルエーテル)4酢酸(EGTA)、1,2−ジアミノシクロヘキサン4酢酸(DCTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、2−ヒドロキシエチルジアミン3酢酸(HEDTA)、ニトリロ3酢酸(NTA)、グルタミン酸二酢酸4ソーダ、アスパラギン酸二酢酸4ソーダ(ASDA)、メチルグリシン二酢酸3ソーダ(MGDA)、S,S−エチレンジアミンコハク酸(EDDS4H)、S,S−エチレンジアミンジコハク酸3ソーダ(EDDS3Na)等が挙げられる。
【0015】
さらに、薬剤として、土壌pH(H2O)以下において加水分解により水酸イオンを配位して金属水酸化物を生成する金属塩化合物を用いることもできる。浄化対象土壌のpHは、概ねpH9以下であり、このpH以下において、水酸イオンが金属塩に配位して、金属水酸化物を生成するものである。
かかる金属塩化合物としては、例えば塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、ポリ硫酸鉄等の鉄塩;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム塩;塩化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等のマンガン塩;塩化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト等のコバルト塩;塩化銅、硝酸銅、硫酸銅等の銅塩などが挙げられる。
【0016】
これらの金属塩化合物は、例えば下式のように、加水分解により水酸イオンを配位して金属水酸化物(M(OH)n)を生成する。本発明においては、生成する金属水酸化物の溶解度積が10-10未満、特に10-15未満である金属塩化合物を用いるのが、水酸イオンの配位するpHが低くなり、重金属の除去効果が向上するので好ましい。特に、塩化第二鉄は、生成する鉄の水酸化物Fe(OH)3の沈殿生成pHが2.3以上と低く、更に生成した沈殿の溶解度積が10-33と低いので好ましい。
【0017】
MXn + nH2O → M(OH)n + nX- + nH+
(式中、Mは金属イオンを示し、Xは1価の陰イオンを示し、nは金属イオンの価数を示す)
【0018】
特に、薬剤として、土壌pH(H2O)以下において加水分解により水酸イオンを配位して金属水酸化物を生成する金属塩化合物を用いた場合、土壌が酸化・乾燥状態であると、下記式のように、プロトン放出量が、還元状態の1.5倍となり、更に生成する3価の金属水酸化物は2価の金属水酸化物より溶解度積が低く、水酸イオンの配位するpHが低く、pH低減効果が高まることにより、重金属浄化効果がより高まる。
【0019】
(酸化・乾燥土壌での反応)
MX3 + 3H2O → M(OH)3 + 3X- + 3H+
(還元土壌での反応)
MX2 + X- + 2H2O → M(OH)2 + 3X- + 2H+
【0020】
さらに、土壌洗浄廃水の廃水処理において、凝集沈殿法を採用した場合、還元土壌中で施用した薬剤の金属塩化合物が水酸化物を生成せず、廃水中に大量の金属塩化合物が混入することで、発生する汚泥量が増加するほか、曝気による廃水の酸化処理に長時間必要となるので、土壌を酸化・乾燥状態にすることが非常に重要である。
【0021】
このような薬剤を用いて土壌を洗浄する方法は特に制限されず、公知の方法により、行なうことができる。例えば、薬剤を用いて土壌中の重金属を抽出洗浄する際には、水溶液として用いるのが好ましく、その濃度は、1〜200mM、特に3〜100mMであるのが、重金属の除去効果が大きいとともに、土壌への残留が少ないので好ましい。
【0022】
このような水溶液を用いて土壌中の重金属を抽出洗浄する方法としては、特に制限されず、現場にて洗浄する方法、土壌を掘削して洗浄した後、浄化土壌を埋め戻す方法等のいずれでも良い。
【0023】
また、本発明において、抽出洗浄するとは、土壌と薬剤水溶液を直接混合する以外に、土壌に薬剤と水を別々に加えて混合して洗浄する方法、水を含む土壌に薬剤を混合して洗浄する方法も含まれる。
水を含む土壌を洗浄する方法の一例としては、河川や湖沼の底土を水とともに浚渫し、ミキサーに投入して、薬剤粉末を所定濃度になるよう添加して混合する方法が挙げられる。
【0024】
抽出洗浄に用いる水溶液の量は、浄化対象土壌の1〜5重量倍、特に1〜2.5重量倍であるのが好ましい。
このように処理することにより、土壌中の重金属は水溶液中に抽出される。
洗浄は、土壌の重金属含有量のうち、洗浄水溶液に溶出しない重金属含有量が土壌汚染対策法(平14・5・29法律第53号)に定める含有量基準値以下になるまで繰り返すのが好ましく、さらに、洗浄処理後の土壌から溶出する重金属濃度が「土壌の汚染に係る環境基準について」(平3・8・23環告40号)に定める溶出基準値以下になるまで洗浄するのが好ましい。
【0025】
なお、土壌中の重金属含有量は、「土壌含有量調査に係る測定方法を定める件」(平15・3・6環告19号)により、また、土壌から溶出する重金属濃度は、「土壌の汚染に係る環境基準について」(平3・8・23環告40号)に定める方法により、原子吸光法、ICP発光法、ICP質量分析法の分析機器により測定される。
【0026】
重金属を抽出した水溶液は、自然沈降又は積極的な脱水などにより固液分離し、土壌から分離除去し、排出された重金属含有水は、イオン交換、電気分解、不溶化凝集沈殿等により、重金属の除去処理を行えば良い。
【0027】
一方、処理された土壌には、用いた水溶液中の薬剤の一部が残存する場合や、洗浄により抽出されたカドミウムの一部が残存する場合があるため、更に土壌を水で洗浄することにより、これらを除去するのが好ましい。
水による洗浄は、水溶液による洗浄と同様に行えば良く、土壌中の重金属の濃度、及び水溶液洗浄で用いた薬剤の残留量が土壌環境基準以下になるまで繰り返し行うのが好ましく、少なくとも1回、特に1〜6回、水で洗浄するのが好ましい。
【0028】
本発明方法は、カドミウム含有水田土壌、特にカドミウム濃度が0.1〜5ppmの水田土壌の浄化に好適である。
この場合には、前記のような薬剤の水溶液を浄化対象土壌の1〜5重量倍、特に1〜2.5重量倍用いて洗浄した後、更に水で洗浄するのが好ましい。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0030】
実施例1
カドミウム含有量(固液比1:5、0.1M塩酸で抽出されるカドミウム量)が0.67mg/kgである水田土壌を、5mm篩に通し、夾雑物を除いた後、含水率26.24%まで温室内で風乾処理し、100Lコンテナに充填した。このとき、土壌の酸化還元電位(Eh)は300mVであった。
コンテナへ充填後、速やかに土壌洗浄処理を行なった。洗浄は、15mM塩化第2鉄水溶液を用い、固液比(土壌に対する洗浄水溶液の量)1:1.5で行ない、コンクリート混練用のハンドミキサーにより、20秒間均一に撹拌した後、20分間静置し、これを3回くり返した。その後、10時間静置し、上澄液10cm分を洗浄廃液として排水した。更に、排水した量の水をコンテナに注入し、洗浄水溶液の場合と同様に撹拌静置し、上澄液10cm分を水洗浄廃液として排水し、これを3回くり返した。
洗浄廃液、水洗浄廃液のpH、鉄濃度、カドミウム濃度を表1に示す。洗浄後の土壌中のカドミウム含有量は0.33mg/kgであり、含有されていたカドミウムのうち、51%が除去された。
【0031】
比較例1
実施例1と同様の土壌を、風乾処理せず、コンテナに充填し、湛水状態を2ヶ月間維持した。このとき、土壌の酸化還元電位(Eh)は−100mVであった。この土壌について、実施例1と同様にして、土壌洗浄処理を行なった。
洗浄廃液、水洗浄廃液のpH、鉄濃度、カドミウム濃度を表1に示す。洗浄後の土壌中のカドミウム含有量は0.52mg/kgであり、含有されていたカドミウムのうち、23%が除去された。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例2
茨城県内で採取した水田土壌を、5mm篩に通して夾雑物を除き、土壌水分ポテンシャルが−0.75Mpaの生土を土壌材料として得た。この生土を6段階に風乾処理し、固液比1:10、1M硝酸アンモニウムで抽出されるカドミウム量を定量した。生土のカドミウム抽出量を100とし、風乾処理を行なった各土壌から抽出されるカドミウム量を、相対値で示した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属汚染土壌を、酸化状態及び/又は乾燥状態とした後、薬剤を用いて洗浄することを特徴とする重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
土壌の酸化状態が、酸化還元電位(Eh)100mV以上である請求項1記載の浄化方法。
【請求項3】
土壌の乾燥状態が、水分ポテンシャル−1Mpa以下である請求項1又は2記載の浄化方法。
【請求項4】
薬剤が、土壌pH(H2O)以下において加水分解により水酸イオンを配位して金属水酸化物を生成する金属塩化合物である請求項1〜3のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項5】
薬剤が、加水分解により水酸イオンを配位して生成する金属水酸化物の溶解度積が10-10未満である金属塩化合物である請求項1〜3のいずれか1項記載の浄化法法。
【請求項6】
薬剤が、塩化第二鉄である請求項1〜5のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項7】
薬剤が、塩化カルシウムである請求項1〜3のいずれか1項記載の浄化方法。

【公開番号】特開2006−75721(P2006−75721A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262190(P2004−262190)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】