説明

重金属等汚染土壌の不溶化剤及び不溶化処理方法

【課題】従来知られているジルコニウム化合物の重金属等イオンに対する吸着性能を大幅に改善し、重金属等で汚染された土壌に対して土壌への分散混合性、透水性、酸・アルカリ環境下での耐久性に優れた不溶化剤を提供し、更にトンネルや地下からの掘削汚染土壌を道路や堤防等の盛土に有効利用するに際して、この不溶化剤を使用した施工性、経済性に優れた盛土の不溶化処理方法を提供する。
【解決手段】珪藻土を主成分とする鉱物粒子の存在下にオキシ塩化ジルコニウムと消石灰、水を添加して、微細で活性の高い水酸化ジルコニウムを生成させてなる重金属等汚染土壌の不溶化剤及び、この不溶化剤を盛土の底部に敷土として使用し、その上部に重金属等汚染土壌を施工して盛土を構成する重金属汚染土壌の不溶化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場跡地の土壌再生工事、廃棄物処理場の焼却灰並びに汚染土壌処理または、トンネル工事や地下鉄工事、下水道工事などの工事現場から発生するヒ素、クロム、鉛、セレン、フッ素、ホウ素等(以下これらを総称して重金属等と云う)の有害物質を含む汚染土壌を埋め戻すか、建設用土として道路や堤防等の盛土等に有効利用するに際し、溶出成分を不溶性の物質に処理することにより、土壌溶出基準を満たし、地下水汚染や自然環境汚染等の誘発を防止する為に使用する重金属等汚染土壌の不溶化剤及び、土壌の不溶化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事や地下鉄工事、下水道工事などの山中や地下から掘削された土壌から検出される有害物質は、多くの場合自然的原因に基づくものであるが、それらを搬出し、利用する場合は、「土壌汚染対策法」に基づく「土壌汚染対策法施行規則」(平成14年12月26日施行)に規定されている汚染物質の除去等の処置が必要となる。これを道路や堤防等の盛土として利用する場合は、溶出防止策を施した後に表面をコンクリートやアスファルトで覆う工法が一般に採られている。
【0003】
上記のような工事現場から掘削された汚染土壌を道路や鉄道の盛土に利用する場合の施工法として、最近、吸着層工法と称されている重金属不溶化剤を土壌に配合して敷土とし、その上に汚染土壌を盛土として構成する工法が注目されている。
【0004】
この吸着層工法に適した重金属等の有害物質に対する不溶化剤としては、盛土から浸透する汚染水を吸着層で受け止め、処理水を地下に良く浸透させる為に透水性の良い不溶化剤が必要であるので、シュベルトマナイトを繊維状素材に担持させた不溶化剤(特許文献1)、セリウムを主成分とする希土類水酸化物と無機鉱物との混合物からなる不溶化剤(特許文献2)、ゼオライト、シュベルトマナイト及び鉄化合物とロックウールの混合物からなる不溶化剤(特許文献3)等が開示されているが、これらは、重金属等の有害イオンに対する吸着量が低い、耐久性試験における性能のpH依存性が大きい、材料費が割高である等いずれかの問題点がある。
【0005】
また、有害物質がヒ素、クロム、鉛、セレン、フッ素、ホウ素などの重金属等を含有する汚染土壌の不溶化剤としては、酸化マグネシウム(特許文献4)、アルミニウム化合物(特許文献5)、鉄化合物(特許文献6)、酸化セリウム水和物(特許文献7)等が知られている。
【0006】
一方、ジルコニウム化合物は、フッ素、ホウ素、ヒ素の吸着剤として有用であることが知られている。例えば、ホウ素含有排水にジルコニウム化合物を添加してホウ素を固定する方法(特許文献8)、固体状廃棄物にチタン、ジルコニウム、アルミニウム等の無機イオン交換体を添加して重金属等の有害物質を固定する方法(特許文献9)、含水酸化ジルコニウムを多孔性材料に担持させた吸着剤による廃水中のヒ素除去方法(特許文献10)等が知られているが、これらは熱処理された安定な含水酸化ジルコニウムまたは水酸化ジルコニウムの粉末を使用する為、吸着性能が低いといった問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2009−136795号公報
【特許文献2】特開2009−249554号公報
【特許文献3】特開2009−279550号公報
【特許文献4】特開2003−334526号公報
【特許文献5】特開平9−85225号公報
【特許文献6】特開平9−85224号公報
【特許文献7】特開2004−10776号公報
【特許文献8】特開平10−277563号公報
【特許文献9】特開平10−128287号公報
【特許文献10】特開平11−47505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第一の目的は、従来知られているジルコニウム化合物の重金属等イオンに対する吸着性能を大幅に改善し、重金属等で汚染された土壌に対して少量の添加量で土壌汚染対策法の溶出試験による土壌溶出基準を満たすと共に、土壌への分散混合性、透水性、酸・アルカリ環境下での耐久性、経済性に優れた不溶化剤を提供することであり、更に、第二の目的は、上述した吸着層工法における盛土の敷土に本発明の不溶化剤を使用する重金属等汚染土壌の不溶化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ジルコニウム水酸化物の出発原料であるオキシ塩化ジルコニウムを直接、少なくとも珪藻土を含有する鉱物粒子の存在下に添加してアルカリと反応させることで、高活性で微細な非結晶質の水酸化ジルコニウムを生成させることにより、従来、知られていたジルコニウム化合物の吸着性能が飛躍的に改善されることを見いだした。この知見に基づき、重金属等で汚染された土壌の不溶化剤、特に、汚染土壌を盛土として利用する場合の吸着層工法の敷土に利用するのに適した不溶化剤及び不溶化処理方法からなる本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、下記(1)から(8)で構成される。
(1)重金属等を含有する汚染土壌にオキシ塩化ジルコニウムにアルカリを添加して生成するジルコニウム水酸化物を配合することを特徴とする重金属等汚染土壌の不溶化処理方法。
(2)少なくとも珪藻土を含有する鉱物粒子の存在下に、オキシ塩化ジルコニウムと消石灰及び水を添加して生成する水酸化ジルコニウムと鉱物粒子の複合体からなる重金属等汚染土壌の不溶化剤。
(3)上記(2)の不溶化剤が、オキシ塩化ジルコニウム100重量部、水20〜50重量部及び、消石灰20〜30重量部を鉱物粒子20〜200重量部に配合し、攪拌下に反応させて水酸化ジルコニウムを生成させることを特徴とする鉱物粒子と水酸化ジルコニウムの複合体からなる重金属等汚染土壌の不溶化剤。
(4)上記(2)、(3)の不溶化剤が、水酸化ジルコニウムを10〜30重量%含有することを特徴とする重金属等汚染土壌の不溶化剤。
(5)上記(2)〜(4)に記載の鉱物粒子が、珪藻土単独または、珪藻土と平均粒子径0.01〜2mmのゼオライト、パーライト、シリカ、砂質土壌から選ばれた一種又は二種以上の鉱物粒子混合物である重金属等汚染土壌の不溶化剤。
(6)重金属等で汚染された土壌に上記(2)〜(5)の何れかの不溶化剤を混合することにより不溶化し、不溶化土壌を埋め戻すか、盛土として利用することを特徴とする上記(1)に記載の重金属等汚染土壌の不溶化処理方法。
(7)上記(2)〜(5)の何れかに記載の不溶化剤を汚染されていない土壌に混合して敷土とし、その上部に重金属等汚染土壌を盛土として構成する重金属等汚染土壌の不溶化処理方法。
(8)上記(1)から(7)の重金属等汚染土壌の汚染源が、ヒ素、クロム、鉛、セレン、フッ素、ホウ素から選ばれた1種又は2種以上である重金属等汚染土壌の不溶化処理方法及び不溶化剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不溶化剤は、重金属等の汚染物質を含有する土壌に少なくとも珪藻土を含有する鉱物粒子とジルコニウム水酸化物の複合体からなり、吸着性能が高く、土壌への分散混合性、透水性、酸・アルカリ環境下での耐久性に優れ、汚染土壌に少量を添加することで、「土壌汚染対策法」の溶出試験による土壌溶出基準を満たすことができる。特に、吸着層工法により重金属等を含有する掘削土を盛土として利用する場合に、盛土の底部に敷土としてこの不溶化剤を汚染されていない土壌と混合して使用し、盛土を構成することで、汚染物質が敷土に吸着され地下水への溶出を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の重金属等汚染土壌用不溶化剤は、少なくとも珪藻土を含有する鉱物粒子の存在下で、水溶性のジルコニウム塩に水とアルカリを添加して生成する水酸化ジルコニウムと鉱物粒子の複合体である。原料として使用できるジルコニウム塩としては、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム等があるが、取り扱い易さ、中和反応の穏やかさの点からオキシ塩化ジルコニウムを使用する。化学式〔ZrOCl・8HO〕で示されるオキシ塩化ジルコニウムは、一般に市販されている工業薬品が使用でき、Zr含有量は約28〜26重量%である。少なくとも珪藻土を含有する鉱物粒子を保持体として直接水酸化ジルコニウムを生成、保持させるので、水酸化ジルコニウムの粒子は極めて微粒子で高活性であり、従来吸着剤として用いられる水酸化ジルコニウムまたは含水酸化ジルコニウムの紛体と比較して極めて高い吸着性能が得られる。
【0013】
添加する水は、オキシ塩化ジルコニウムを溶解させながら、アルカリとの反応を加速させる為に必要であるが、過剰の水分は本発明の不溶化剤の水分率を高めるので、必要最少量にすることが望ましく、使用するオキシ塩化ジルコニウム100重量部に対して20〜50重量部の使用が好適である。また、添加するアルカリとしては、消石灰、苛性ソーダ、苛性カリ等が使用できるが、消石灰を粉末の状態で使用することが複合体の水分量を増やす事無く水酸化ジルコニウムを生成させることができるので好ましい。使用するオキシ塩化ジルコニウムに対する消石灰の量的割合は、オキシ塩化ジルコニウムに対して等モル量以上であるが、好ましくは、生成する水酸化ジルコニウムと鉱物粒子の複合体が中性から微アルカリ性になるように1.05〜1.35倍モル量使用することが好ましい。
【0014】
本発明の不溶化剤に用いる鉱物粒子は、生成する水酸化ジルコニウムを安定に保持しうる無機質の微粒子であれば種々のものが使用できるが、複合体中の水分の吸収量が多く、水分を吸収してもべとつきのない表面積の大きい鉱物粒子として珪藻土を必須成分とする。珪藻土と併用できる鉱物粒子としては、平均粒子径が0.01〜2mm程度の微〜小粒径であり、有る程度の吸水性が有り、不活性で、透水性の大きな鉱物粒子が適し、ゼオライト、パーライト、シリカ、砂質土壌から選ばれた一種又は二種以上の混合物が使用できる。これら鉱物粒子は、不溶化剤を構成する鉱物粒子の0〜80重量%の範囲で珪藻土と混合して使用する。
【0015】
本発明の不溶化剤は、鉱物粒子20〜200重量部と消石灰20〜30重量部を良く攪拌混合し、これにオキシ塩化ジルコニウム100重量部を加え均一に攪拌した後、攪拌を続けながら水20〜50重量部をゆっくり添加することで加水分解反応が始まり、10〜30分程度反応させることに得られる。水の添加量は、使用する珪藻土の吸水量の範囲内で使用し、珪藻土重量の0.8〜1.2重量倍程度添加することが好ましい。得られた不溶化剤には水酸化ジルコニウムを15〜30重量%含有させることが好ましい。水酸化ジルコニウムの含有量を増す程不溶化剤の吸着性能は向上するが、土壌への分散性、敷土の透水性を低下させない事を考慮すると30重量%以下が好ましい。
【0016】
本発明の不溶化剤の製造には、攪拌機付の反応釜、横型ニーダー、ロータリーミキサーなどの混合装置が使用でき、得られた混合物には水分が含まれるが、珪藻土が水分を吸収することで、べとつきなどがなく取り扱い性、土壌との混和性、透水性が良い。また、この水分を乾燥により除去使用することもできる。乾燥する場合には、生成した水酸化ジルコニウムの活性を低下させない為に80℃以下の温度で乾燥させることが好ましい。
【0017】
本発明の不溶化剤を用いて重金属等で汚染された土壌から有害物質を不溶化する方法は、土壌に本発明の不溶化剤を適量添加し、攪拌混合することによって行う。不溶化剤が添加された処理土壌は、原位置に戻しても良い。また本発明の不溶化剤は、吸着層工法によりトンネル工事や地下鉄工事、下水道工事などの工事現場からの重金属等で汚染された掘削土を、建設用土として道路や堤防等の盛土として利用する場合の敷土に適量配合して、吸着層とする不溶化処理方法に用いるのに適している。
【0018】
本発明で定義する重金属等汚染土壌とは、ヒ素、クロム、鉛、セレン、フッ素、ホウ素から選ばれた1種又は2種以上が「土壌汚染対策法施行規則」に規定されている土壌溶出基準値を超えている土壌を指す。本発明の不溶化剤に含有する水酸化ジルコニウムは、工業的に生産される水酸化ジルコニウムまたは含水酸化ジルコニウム粉末と比較すると、粒子径が極めて小さく表面の活性が大きいため、これらの重金属等のイオンに対して数倍〜10倍程度の高い吸着量を有すると共に、従来、知られているセリウム系、酸化マグネシウム系、鉄系、シュベルトマナイト系などの不溶化剤が酸性又はアルカリ性環境において吸着性能が低下するのに対して、本発明の不溶化剤ではpH3〜12程度の幅広い領域において吸着性能が安定する特徴を有する。特に、上記の重金属等汚染物質の中でもヒ素、鉛、セレン、フッ素、ホウ素などに対する吸着性能に優れており、少量の添加量で汚染物質を不溶化できる。
【0019】
重金属等で汚染された土壌に本発明の不溶化剤を適量混合することで、汚染土壌に含まれる重金属等イオンの溶出を防止し、土壌溶出基準以下に管理することが出来る。また、トンネル工事や地下鉄工事、下水道工事などの山中や地下から掘削された汚染土壌を道路や鉄道の盛土に利用する場合に、本発明の不溶化剤を有害物質の含有しない土壌に配合して敷土とし、その上に汚染土壌を盛土として構成する吸着層工法に使用するのに適する。吸着層工法の構成例を図1に示す。盛土の構成は、盛土高さ(Ht)の底部に敷土として吸着層(Hq)を施工し、その上部に重金属等含有土壌を(Ht−Hq)の高さで施工後、その盛土全体を非汚染土壌で覆い、その上部にアスファルト又はコンクリート層を施工する。吸着層の厚さは、盛土の積み高さの5〜20%程度が好ましい。吸着層に用いる本発明の不溶化剤の使用量は、吸着層上部の汚染土壌から溶出される重金属等イオンの溶出量の全てを吸着して不溶化するのに必要な相当量を超えた量を用いる。
【0020】
本発明の不溶化剤は、土壌中の重金属がヒ素の場合、液相濃度0.01mg/L以下での平衡ヒ素吸着量が1.0〜3g/Kgあるので、例えば、土壌1Kg当り溶出可能なヒ素を3g含有するヒ素汚染土壌の場合は、土壌1トン当り3〜1Kg程度の不溶化剤を添加すれば溶出試験でのヒ素濃度を土壌溶出基準の0.01mg/L以下に不溶化できる。盛土の高さと吸着層の厚みは、特に限定するものではないが、例えば盛土の比重が1.5で高さが5mの場合、吸着層の厚みは30〜50cm程度が好ましく、その場合は本発明の不溶化剤を盛土面積1m当り、22.5〜7.5Kgを敷土用土壌250〜500Lに混合して、吸着層の敷土として使用すれば良い。
【0021】
土壌溶出試験は、環境庁告示46号の試験法に準じて、50gの処理済みの土壌に、pH5.8〜6.3に調整した500mlの純水を添加し、これを6時間振とう撹拌する。この振とう撹拌により得られた溶出液を20分静置後、遠心分離を行い、0.45μmメンブランフィルタで濾過し、その濾液中に含まれる重金属等イオンの濃度を水素化物発生−ICP発光分析法によって測定する。又土壌のpHは、土壌10gを100mlの純水に入れて攪拌し、そのままpHメーターで測定する方法による。
【実施例】
【0022】
以下、この発明を具体的に説明するが、実施例はこの発明の理解を容易とするためのものであり、この発明を限定するものではない。実施例中%とあるのは重量%を表す。
【0023】
実施例1
不溶化剤−1の調製とヒ素吸着量の測定
珪藻土(平均粒子径0.03mm)42gに消石灰粉末25.3gを添加し均一に混合し、続いてオキシ塩化ジルコニウム(Zr含有量26.7%)100gを添加して均一に分散混合させた後、水40gを良くかき混ぜながら添加し、15分間攪拌を続けて、Zr(OH)含有量22.5%の不溶化剤―1を得た。この不溶化剤―1をpH10に調整した3mg/Lのヒ素含有水1Lに1.0g、2.0g、4.0g(水酸化ジルコニウム基準としてそれぞれ0.225g、0.45g、0.9g)添加し、6時間攪拌させた後濾過した。濾液のヒ素濃度は、それぞれ0.011、0.002、0.001mg/Lであった。この結果、不溶化剤−1のヒ素吸着量は、それぞれ3.0、1.5、0.75mg/gとなった。この結果から、処理後の液相のヒ素濃度と不溶化剤のヒ素吸着量との関係を示す吸着曲線を図2に示す。
【0024】
比較例1
市販のZr(OH)含有量が73%の水酸化ジルコニウム粉末0.62g、1.24g(水酸化ジルコニウム基準としてそれぞれ0.45g、0.9g)を実施例1の不溶化剤−1に代えて3mg/Lのヒ素含有水1Lに添加して同様の吸着処理をした後の濾液は、ヒ素濃度1.03、0.37mg/Lであり、実施例1の不溶化剤に比べて処理後のヒ素濃度は著しく高かった。
【0025】
実施例2
不溶化剤―2の調製とヒ素吸着量の測定
珪藻土(平均粒子径0.03mm)42gと天然ゼオライト(平均粒子径0.1mm)150g及び、消石灰粉末25.3gを均一に混合し、続いてオキシ塩化ジルコニウム(Zr含有量26.7%)100gを添加して均一に分散混合させた後、水40gを良くかき混ぜながら添加し、15分間攪拌を続けて、Zr(OH)含有量13.0%の不溶化剤―2を得た。この不溶化剤―2をpH10に調整した3mg/Lのヒ素含有水1Lに2.0g、4.0g(水酸化ジルコニウム基準としてそれぞれ0.26g、0.52g)添加し、6時間攪拌させた後ろ過した。ろ液のヒ素濃度は0.018、0.004mg/Lであった。
【0026】
実施例3及び比較例2
実施例1の不溶化剤―1を用い、10mg/Lのヒ素含有水1Lに1gの不溶化剤を添加し、液のpHを3〜11の範囲で個々に調節しながら6時間攪拌させた後、ろ液のヒ素濃度を測定した。一方、比較例2として、公開特許公報2009−249554号(特許文献2)の実施例に記載の方法で製造された不溶化剤―2の水酸化セリウムを含有する不溶化剤(CeO換算量として17.0%含有)を用いて、同様の試験を行い濾液のヒ素濃度を測定した。結果を表1に示す。また、本発明の不溶化剤とセリウム系不溶化剤の吸着時のpHと吸着量の関係を比較して図3に示す。この結果、本発明の不溶化剤は、ヒ素吸着時のpHが3〜11の範囲ではアルカリ側で僅かに残存するが、ほぼ完全に吸着除去され、吸着量が比較的安定しているのに対して、比較に用いたセリウム系の不溶化剤では、pHが高くなるにつれてヒ素の吸着量がかなり低下していることが分かる。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例4
実施例1の不溶化剤―1を用い、各種の重金属等イオンに対する吸着性能を測定した。重金属イオンの含有液としては、ヒ素(5価As)としてNaHAsO、セレン(4価Se)としてNaSeO、フッ素としてNaF、ホウ素としてHBO、クロム(6価Cr)としてKCrO、鉛としてPbCl+クエン酸(水酸化鉛の沈殿防止剤)を用い、各重金属イオンの濃度が約10mg/Lになるように溶解し、各試験液のpHを9.0に調整して使用した。これらの模擬液各1Lに不溶化剤―1を10g添加し、6時間攪拌させた後濾過し、濾液の重金属等イオンの濃度を測定し、その結果から除去率及び吸着量を求めた。結果を表2に示す。この結果、ヒ素イオンに対する除去率が高いほか、セレン、フッ素、クロム、鉛などの重金属等イオンに対しても優れた吸着性能を有することが分かる。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例5
実施例1の不溶化剤−1及び実施例2の不溶化剤−2と、比較例1で使用した水酸化ジルコニウム粉末をそれぞれ土壌に所定量配合して、ヒ素模擬液を用いてヒ素の吸着試験を行った。試験は、粒子径を2mm以下にふるった山土1Kgに上記の不溶化剤をそれぞれ所定量配合し、その50gをヒ素濃度3mg/L、pH10の水溶液500mlに添加し、振とう機で6時間振とうさせその後、ろ液のヒ素濃度を測定した。結果を表3に示す。この結果から、不溶化剤―1及び不溶化剤―2の場合は、それぞれ添加量20g、40g/土壌Kgの場合にヒ素の溶出基準の0.01mg/Lをはるかに下回るのに対し、水酸化ジルコニウム粉末の場合は、不溶化剤と同量以上の水酸化ジルコニウム換算量を添加しても溶出基準を超えていることが分かる。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例6
実施例5で得られた不溶化剤配合ヒ素吸着土壌を用いて環境庁告示46号の試験法に準じた溶出試験を行った。それぞれのヒ素吸着土壌(土壌Kg当り約30mgのヒ素含有に相当)を乾燥して、その溶出試験を行った結果を表4に示す。この結果から、ヒ素溶出濃度30mg/Kgの汚染土壌に対しては本発明の不溶化剤を20〜40g/Kg配合すればヒ素の溶出基準以下に処理できることが分かる。
【0033】
【表4】

【0034】
実施例7
吸着層工法のモデル試験として、不溶化剤を敷土用の土壌に配合してカラムの底部に敷き、その上部に擬似の盛土を置く方法でカラム試験を行った。
16.5g(ヒ素吸着量1.0mg/g相当量)の実施例1の不溶化剤―1を嵩比重1.4の山土520gに配合して敷土用の土壌試料を調製した。直径10cm、高さ80cmの塩化ビニール製の円筒の底部に金網付き目皿を付したカラムを準備し、その底部に5cmの厚みでこの敷土用土壌試料を吸着層として敷き詰めた。続いてこの吸着層部分の上部に山土5.5Kg(体積4.3L)を50cmの高さで積み、模擬盛土充填カラムを作成した。このカラムにヒ素濃度0.3mg/L、pH10のヒ素含有水55L(上部土壌の10倍量)を通水して、ヒ素濃度3mg/Kgに相当するヒ素負荷模擬盛土を得た。この時のカラム通過液のヒ素濃度は0.001mg/Lであった。次ぎに、環境庁告示46号に準ずる溶出試験として、このカラム上部からpH6.4の水道水43Lを6時間かけて通水し、底部から浸出した水を採取しそのヒ素濃度を測定した。その結果、ヒ素の溶出濃度は0.002mg/Lであった。引き続いて、このカラムに、酸性雨のモデル試験として、硫酸0.754g/Lを含むpH2.0の酸性水43Lを通水し、底部から浸出した水を採取してそのヒ素濃度を測定した結果、ヒ素の溶出濃度は、0.008mg/Lであった。
【0035】
この実施例により、本発明の不溶化剤は3mg/土壌Kgのヒ素含有土壌に対して不溶化剤を3g/土壌Kg使用することで、土壌溶出試験の基準値以下に処理できることが分かる。また、本発明の不溶化剤を土壌に混合して敷土とし、その上部に重金属等で汚染された土壌を施工する吸着層工法により、盛土の上部から給水される雨水等により溶出する有害物質を吸着層で不溶化し、地下水等への漏出を防止できることが予想できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の不溶化剤は、ヒ素、クロム、鉛、セレン、フッ素、ホウ素等の重金属等汚染土壌から溶出する重金属等イオンの溶出を防止する不溶化剤として有用であり、特にトンネル工事や地下鉄工事、下水道工事などの工事現場から発生する重金属等の有害物質を含む掘削土を建設用土として道路や堤防等の盛土として利用する場合に、本発明の不溶化剤を汚染されていない土壌に配合して敷土として汚染土壌の盛土を構成する吸着層工法に適している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】吸着層工法による盛土の構成を示す1例である。高さHtの下部に配置される高さHqの敷土(吸着層)は、本発明の不溶化剤と土壌の混合物で形成される。
【0038】
【図2】実施例1に記載した本発明の不溶化剤のヒ素吸着線図である。
【0039】
【図3】実施例3、比較例2に記載した本発明のジルコニウム系不溶化剤と公知のセリウム系不溶化剤のヒ素吸着におけるpH依存性の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属等を含有する汚染土壌にオキシ塩化ジルコニウムにアルカリを添加して生成するジルコニウム水酸化物を配合することを特徴とする重金属等汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項2】
少なくとも珪藻土を含有する鉱物粒子の存在下に、オキシ塩化ジルコニウムと消石灰及び水を添加して生成する水酸化ジルコニウムと鉱物粒子の複合体からなる重金属等汚染土壌の不溶化剤。
【請求項3】
オキシ塩化ジルコニウム100重量部、水20〜50重量部及び、消石灰20〜30重量部を鉱物粒子20〜200重量部に配合し、攪拌下に反応させて水酸化ジルコニウムを生成させることを特徴とする鉱物粒子と水酸化ジルコニウムの複合体からなる請求項2に記載の重金属等汚染土壌の不溶化剤。
【請求項4】
請求項2〜3に記載の不溶化剤が水酸化ジルコニウムを10〜30重量%含有することを特徴とする重金属等汚染土壌の不溶化剤。
【請求項5】
請求項2〜4に記載の鉱物粒子が、珪藻土または、珪藻土と平均粒子径0.01〜2mmのゼオライト、パーライト、シリカ、砂質土壌から選ばれた一種又は二種以上の鉱物粒子混合物である重金属等汚染土壌の不溶化剤。
【請求項6】
重金属等で汚染された土壌に請求項2〜5の何れかに記載の不溶化剤を混合することにより不溶化し、不溶化土壌を埋め戻すか、盛土として利用することを特徴とする請求項1に記載の重金属等汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項7】
請求項2〜5の何れかに記載の不溶化剤を汚染されていない土壌と混合して敷土とし、その上部に重金属等汚染土壌を盛土として構成する重金属等汚染土壌の不溶化処理方法。
【請求項8】
重金属等汚染土壌の汚染源が、ヒ素、クロム、鉛、セレン、フッ素、ホウ素から選ばれた1種又は2種以上である請求項1〜7の何れかに記載の重金属等汚染土壌の不溶化剤及び不溶化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−110852(P2012−110852A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263144(P2010−263144)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000191135)株式会社日本海水 (19)
【Fターム(参考)】