説明

重金属除去装置

【課題】本願発明の課題は、短時間において体内の重金属、特に、水銀を除去する装置を提供することである。
【解決手段】本願発明は、磁気力を利用した磁気工学の適用により、この課題を解決する。すなわち、血液を体外循環させ、血球と血漿に分離し、血漿中に含まれる重金属を、優れた選択的吸着特性を有するマイクロサイズ磁性ビーズに吸着させ、磁気分離により該重金属を上記血漿からビーズごと分離・回収することにより、血漿中の重金属、特に水銀を浄化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、人体に取り込まれた重金属、特に、水銀を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本においては水俣病、イタイイタイ病、ヒ素中毒などの公害病が引きおこされた現実がある。現在、同じような被害は世界中に広がっているといわれている。しかし、実態は明らかにされていない。
【0003】
重金属の被害についてもっとも関心の高いアメリカにおいては、科学的根拠は証明されていないが、一例として、感染症用予防ワクチンの保存料であるチオメルサール(分解生成物はエチル水銀)を予防措置として使用を控えるようにアメリカ小児科学会が勧告している。
【0004】
一方、日本においては厚生労働省が食品安全情報として平成17年11月2日に「妊婦への魚介類の摂取と水銀に関する注意事項」を公表し注意を促している。しかしながら、これら重金属の体内蓄積に対する治療法は、確立されていない。
【0005】
体内の有害な重金属を取り込むアミノ酸を点滴で注入し尿から排泄するという、キレーションと呼ばれる治療が行われている。しかし、この方法では代謝・排泄系における肝臓・腎臓に負荷をかける可能性もあり、信頼性に問題を残している。
【0006】
また、国外においては、水銀に対し選択的に吸着特性を持つマイクロビーズの研究が行われている(非特許文献1参照)。
【0007】
また、本願発明者は、ヒ素や、水銀を始めとするカドミウム、鉛などの重金属、ウラン、ラジウム等の放射性重金属、およびリン汚染水の磁気分離による浄化の研究を実施してきた(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】M. Andac et al, Int. J.Biological Macromolecules, 40, 2, pp. 159-166(2007)
【非特許文献2】D. Ito et al, IEEETrans. Applied Superconductivity, Vol.14, No.2,pp. 1551-1553, (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明の課題は、短時間で体内の重金属、特に、水銀を除去する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、磁気力を利用した磁気工学の適用により、この課題を解決する。すなわち、血液を体外循環させ、血球と血漿に分離し、血漿中に含まれる重金属を、優れた選択的吸着特性を有するマイクロサイズ磁性ビーズに吸着させ、磁気分離により該重金属を上記血漿からビーズごと分離・回収することにより、血漿中の重金属、特に水銀を除去する。浄化された血漿は体内に戻される。
【0010】
本願発明は、この一連のプロセスを体外で実施するところに特徴を有している。このため、磁界の印加が容易になり、濾過法と異なり、磁気力により血漿から重金属を吸着したマイクロビーズを分離するので、短時間の分離が可能であり、患者に与える負荷も小さい。水銀を吸着したマイクロビーズは、99%以上回収できるので、代謝・排泄系における肝臓・腎臓にも負荷をかけることはない。

【発明の効果】
【0011】
本願発明においては、既存の濾過法と異なり、磁気力により血漿から水銀を吸着したマイクロビーズを分離するので、短時間の分離が可能であり、患者に与える負担が軽い。

【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下においては、本願発明を実施するための最良の形態を示す。
【0013】
磁性ビーズの大きさは、分離のために印加する磁界の大きさとも関係するが、100nmから50μm程度、好ましくは、500nmから50μm程度が分離に適している。
【0014】
選択的な水銀吸着特性を有する物質としては、水銀で錯体化したN-メタクリロイル・システイン・モノマー(単量体)を懸濁重合してアクリルビーズを形成し、水銀イオンをチオ尿素により取り除くことにより形成することができる。
【0015】
また、別の方法としては、アクリル樹脂等に磁性粉を加えた磁性ビーズの表面に、水銀を吸着する物質(例えば、N-メタクリロイル・システイン・モノマーやキレート樹脂等)をコーティングする方法でもよい。
【0016】
採血流量としては、血漿分離器内における血液凝固や溶血を避けるために、60ml/min以上の血液流量が望ましい。
【実施例1】
【0017】
磁性ビーズの材料として、平均直径5μmのN-メタクリロイル・システイン・モノマー(単量体)を懸濁重合する過程で、このビーズの中にFe2O4等の磁性体粒子を混入させる。そうすると、N-メタクリロイル・システインにより構成された磁性ビーズが形成される。その後、水銀イオンをチオ尿素により取り除き水銀吸着磁性ビーズとして使用する。
【0018】
図1に示すように、人体より血液を100ml/minの流量で採取する。これを血漿分離器により血漿と血球とに分離し、分離された血漿を貯留し、該血漿と水銀を吸着する特性を有する水銀吸着磁性ビーズとを混合する水銀吸着槽へと導く。
【0019】
該水銀吸着槽において水銀を吸着した該ビーズ及び血漿は、該血漿と該ビーズを分離する磁石を備えた磁気分離装置へと導かれる。水銀を吸着した磁性ビーズは、磁気分離装置を構成する超電導磁石が発生する強い磁界により捕捉され、磁気分離装置を通過できないが、血漿はそのまま通過して返血回路へと導かれる。
【0020】
このときの血漿の流速は、ほぼ血液の採取速度に近い100ml/min程度の値になるが、この値は、従来の濾過法の流速の最大値約30ml/minより速いので、本願発明の方法は、従来の濾過法に比べて、患者の負担を軽減することができる。
【0021】
図2に示すように、血漿と水銀を吸着した該ビーズは、超電導磁石中央部に設置される磁性細線又は磁性球を充填したカラムに導かれ、該磁気ビーズは、該磁性細線又は磁性球の表面に磁気力により捕獲される。血漿は、非磁性であるので、そのまま通過する。該磁気ビーズを捕獲する該磁性細線又は磁性球の表面が飽和(破過)した場合には、これを新しいカラムと交換して使用する。
【0022】
電気抵抗がゼロの超電導磁石を利用することにより、磁気分離装置の定常状態の消費電力は、超電導磁石の冷却に必要な冷凍機に供給する5kW程度の僅かな電力のみとなる。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】水銀除去装置の概略図
【図2】磁気分離装置の拡大図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体中水銀の除去装置において、人体より取り出した血液を血球成分と血漿成分に分離する血漿分離器、該血漿分離器において分離された血漿を貯留し、該血漿と水銀を吸着する特性を有する水銀吸着磁性ビーズとを混合する水銀吸着槽並びに該水銀吸着槽において水銀を吸着した該ビーズ及び血漿を受け入れて、該血漿と該ビーズを分離する磁石を備えた磁気分離装置を有することを特徴とする人体中水銀の除去装置。
【請求項2】
上記水銀吸着磁性ビーズは、水銀を特定的に吸着する有機物と磁性体の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の人体中水銀の除去装置。
【請求項3】
上記磁性ビーズの大きさは、0.5μmから50μmであることを特徴とする請求項2に記載の人体中水銀の除去装置。
【請求項4】
上記有機物は、N-メタクリロイル・システインをモノマーとする錯体であることを特徴とする請求項2に記載の人体中水銀の除去装置。
【請求項5】
上記磁石は、超電導磁石であることを特徴とする請求項1に記載の人体中水銀の除去装置。
【請求項6】
上記磁石による磁界の強さは、0.5テスラから10テスラであることを特徴とする請求項5に記載の人体中水銀の除去装置。
【請求項7】
上記磁気分離装置は、磁石中央部に磁性細線を充填したカラムを具備し、上記水銀吸着磁性ビーズは、該磁性細線の磁気力により捕獲されることを特徴とする請求項1に記載の人体中水銀の除去装置。
【請求項8】
上記磁気分離装置は、磁石中央部に磁性球を充填したカラムを具備し、上記水銀吸着磁性ビーズは、該磁性球の磁気力により捕獲されることを特徴とする請求項1に記載の人体中水銀の除去装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−268690(P2009−268690A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121502(P2008−121502)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】