説明

野菜育苗用培土

【課題】
有機農産物であると認定されるには栽培期間中、化学肥料等の無機物を使用してはならず、有機肥料だけで栽培しなければならない。そこで、本発明は有機肥料を配合した培土基材に無機肥料を添加することなく、速効性のある肥効を得られ、野菜苗の育苗に適した有機肥料を培土基材に配合した培土にすることを課題とする。
【解決手段】
前記有機肥料のC/N比を10以下、またはC/N比が10以上の有機肥料とC/N比が5以下の有機肥料を配合したバーミュキュライト等の培土基材を25℃〜40℃の温度で積算温度が160℃・日以上になるまで処理した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜苗を育苗する野菜育苗用培土に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機肥料を用いて栽培した有機農産物について、有機肥料は植物にとって吸収し難いものであり、肥効が出るまでに時間を要する。そのため、特に野菜苗のように短い期間の育苗で使用するには不向きで、通常、野菜苗の育苗には速効性のある無機肥料を培土基材に配合した培土を用いている。例えば、特許文献1には有機物であるピートモスに無機物である化学肥料を添加する技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−63114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機農産物であると認定されるには栽培期間中、化学肥料等の無機物を使用してはならず、有機肥料だけで栽培しなければならない。そこで、本発明は有機肥料を配合した培土基材に無機肥料を添加することなく、速効性のある肥効を得られ、野菜苗の育苗に適した有機肥料を培土基材に配合した培土にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するために次のような技術的手段を備える。
すなわち、請求項1記載の発明においては、有機肥料を配合した培土基材を25℃〜40℃の温度で積算温度が160℃・日以上になるまで処理したことを特徴とする野菜育苗用培土とする。ここで、積算温度160℃・日とは温度と日数の積で、例えば40℃なら4日で40×4=160ということである。
【0005】
請求項2記載の発明においては、前記有機肥料のC/N比を10以下としたことを特徴とする請求項1記載の野菜育苗用培土とする。
請求項3記載の発明においては、C/N比が10以上の有機肥料とC/N比が5以下の有機肥料とを前記培土基材に配合したことを特徴とする請求項1記載の野菜育苗用培土とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明においては、有機肥料を配合した培土基材を25℃〜40℃の温度で積算温度が160℃・日以上になるまで処理したことで、有機肥料を無機化することができ、苗が肥料分を吸収し易くなるためより生育が良好になる。
【0007】
請求項2記載の発明においては、前記有機肥料のC/N比を10以下としたことで、より短時間で有機肥料の無機化を促進させることができる。
請求項3記載の発明においては、C/N比が10以上の有機肥料とC/N比が5以下の有機肥料と前記培土基材に配合して温度処理をすることで、C/N比が5以下の有機肥料は所定の温度処理をすることで無機化がなされるため、育苗初期の段階で苗が肥効を得られ、C/N比が10以上の有機肥料は無機化が遅れるため、育苗中段階的に苗が肥効を得ることができるため、追肥をする回数を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態としてキャベツ、レタス等の野菜苗の育苗で用いられる培土について説明する。
培土に配合する有機肥料について説明すると、骨粉や魚粕や毛粉等の動物質有機物か、菜種粕やパーム粕や海藻粉末等の植物質有機物のいずれか、またはそれらを混合したものを主原料にして有機物が100パーセントの有機肥料を培土基材に配合する。
【0009】
有機肥料を培土基材に配合した培土は温度調節が可能な室内で、設定する積算温度になるまで温度処理がなされる。具体的に詳述すると、25℃〜40℃の温度の室内で積算温度が160℃・日以上になるまで連続あるいは断続的に保管する。ここで、積算温度160℃・日とは温度と日数の積で、例えば40℃なら4日で40×4=160ということである。
【0010】
図1は本実施例の培土に含有されているアンモニア態窒素量を培土作成直後と温度処理がなされた後分析した表である。
この表で用いられている培土は、ヤシガラとバーミュキュライトを混合した培土基材と、毛粉・チキン骨粉・菜種粕・海藻粉末を混合した有機肥料とから作成されている。
【0011】
そして、この表に示す通り前記の有機肥料を培土基材に配合して作成したばかりの培土に含有されているアンモニア態窒素量は7.5(mg/100g乾土)で、30℃で一週間温度処理された培土に含有されているアンモニア態窒素量は60.1(mg/100g乾土)にまで増加している。
【0012】
そして、前記作成直後の培土と温度処理がなされた培土とでそれぞれ図2のようなセルトレイSで約2週間育苗したところ、作成直後の培土で育苗した苗の丈が約5cm前後に対し、温度処理がなされた培土で育苗した苗の丈が約8cm前後と生育状態に差がついた実験データが出た。
【0013】
この表で分析されているアンモニア態窒素の増加は、有機肥料成分の無機化が進行していることを示している。ここでいう無機化とは有機肥料成分のタンパク質やアミノ酸が温度処理によってアンモニア態窒素に変化することで、このことにより苗が養分を吸収しやすい状態になり、より早く生育することができるものである。なお、アンモニア体窒素量は30.0mg/100g乾土〜100.0mg/100g乾土程度になるまで温度処理を行う。
【0014】
本実施の形態で配合する有機物は短時間で無機化しやすいC/N比が10以下のものを使用しており、C/N比が5以下ならさらに望ましい。
あるいは、別実勢例としてC/N比が10以上の無機化まで比較的時間の要する有機肥料とC/N比が5以下の比較的に短時間で無機化する有機肥料とを組み合わせて培土に配合して前記の温度処理をしても良い。
【0015】
この培土を育苗に使用すると、C/N比が5以下の有機肥料はすでに無機化しているため、肥効が早く苗の生育が良好であると共に、C/N比が10以上の有機肥料は温度処理時に無機化されず、育苗中に徐々に無機化されていくため、いわゆる緩行性の肥料の性質を有し、長い期間段階的に肥効が得られ、その分追肥の手間を省くことができる。また、有機肥料を多めに配合して肥料濃度を高くしても長い期間に段階的に肥効が得られるため、苗が肥料障害にあったり、徒長になったりすることを少なくすることができる。
【0016】
本実施の形態で使用する培土は、容量の50パーセント以上をヤシガラを使用し、残りはバーミュキュライトあるいはパーライトといった鉱物資材を使用している。通常セルトレイによる育苗で使用する培土はピートモスを主体にして作成された培土を使用することが多いが、ピートモスは撥水性が高いため、撥水性を抑制するために界面活性剤を用いていた。本来、有機肥料だけで栽培する有機農産物には化学物質である界面活性剤を使用することが出来ないが、ヤシガラやバーミュキュライトやパーライトを使用することにより、化学物質を用いることなく撥水性を抑制することができる。
【0017】
また、本実施の形態で使用する培土の水分量は、培土の最大容水量の30パーセント〜60パーセントに調整する。本実施の形態の温度処理により有機肥料が無機化する速度は培土の水分条件によって影響があり、通常の培土の水分状態は水分率(培土中の水分量/培土重量)で示されるが、培土を構成する資材の種類によっては有効となる水分率が異なり、複数の資材を混合する培土の水分を水分率で調節しようとすると、水分の調節が安定しない。本実施の形態のように培土の最大容水量で調節することで、培土の資材の種類に関わらず、安定した水分調節を行うことができ、より、安定した温度による無機化処理を行うことができる。
【0018】
また、別実施の形態の培土として、バーク堆肥等の堆肥化した資材を例えば容量の20パーセントから50パーセント配合した培土基材に有機肥料を配合した培土を前記の温度処理するようにしても良い。堆肥化資材には有機肥料を無機化するための有用な菌を多く含んでいるため、堆肥化資材を用いない培土に比べてより低温で、かつ少ない積算温度で有機肥料の無機化を促進することができる。
【0019】
次に、本実施の形態の培土の製造方法について説明する。
図2に示すように、ヤシガラやバーミュキュライトやパーライト等を混合した培土基材に有機肥料を配合した培土を、攪拌装置で攪拌する。そして、袋詰めにされて室温を調節できる温度処理室で25℃〜40℃の温度の中で保管され、積算温度が160℃・日以上になると、出荷される。
【0020】
次に、培土の製造方法の別実施例について説明する。
図3に示すように、無機化する必要のある有機肥料を培土基材に配合した培土を温度処理室で温度処理する。そして、この有機肥料入りの培土基材を別途用意している培土基材に配合し、攪拌装置で攪拌し、袋詰めにされてから出荷する。
【0021】
この生産方法によると、無機化する有機肥料の分だけを別途温度処理することで、その分温度処理する有機肥料入りの培土の量を少なくすることができるため、温度処理を行う温度処理室を小さくすることができる。また、袋詰め作業の終了と共に直ぐに出荷することができるため、生産工程が簡単になる。また、予め、育苗に必要なだけの養分を含んだ高濃度の肥料を無機化する場合には、温度処理の積算温度が長くなるのでこの製造方法を使用すると、より小さな温度処理室で多くの有機肥料の無機化作業ができる。
【0022】
次に、セルトレイで育苗するのに用いる培土の別実施例について説明する。
ウレタンの粉末とアクリル系の凝集剤あるいは団結剤を添加した培土を作成する。
セルトレイSで育苗した苗WをセルトレイSから取り出すと、苗の根元側に根鉢Rが形成されており、育苗後に根鉢が付いた状態で移植機で圃場に植えつける。このとき、根鉢が固まっていないと移植機で移植するときに根鉢が崩れてしまい移植精度の低下や移植後の生育に悪影響を招く。そこで、培土にアクリル系の凝集剤や団結剤を培土に添加して培土を固める技術は知られている。
【0023】
しかしながら、アクリル系の凝集剤や団結剤を添加した培土を固めるには潅水を停止して培土を乾燥させる必要があるため、乾燥させるまで時間を要すると苗に悪影響が出てしまう場合があった。
【0024】
本実施例のようにウレタンの粉末は凝集剤や団結剤によく反応して、より培土を固める作用を促進することができるため、前記乾燥させる時間をより短くすることができるものでありながら、移植機による移植作業の精度が向上し、移植後の生育状態を良好にすることができる。
【0025】
特にセルトレイSの底面を地面から10センチ程度空けることにより、根が必要以上に下方に向かって伸びるのを防止し、上方に向かって茎葉が成長させる育苗方法(いわゆる浮かし育苗)の場合には、潅水を停止すると苗への悪影響がより短期間で出るため、この実施例を用いることの効果は大きい。
【0026】
なお、本実施例のアクリル系の凝集剤として例えばポリアクリルアシドを用い、団結剤として例えばアルギン酸ナトリウムやベントナイトを使用する。また、培土基材としてウレタン単独で使用しても良いし、ピートモスやバーミュキュライトを混合して使用しても良い。
【0027】
なお、セルトレイSに形成されている多数のセルS1に培土を入れる方法として、図5の(イ)のようにセルS1の形状が円形状の場合には平面から見た(ロ)に示すように培土を前記円形に挿入できる大きさの角形状の培地F1に形成し、セルS1の形状が図5の(ハ)のように角形状の場合には平面から見た(ニ)に示すように培土を前記角形に挿入できる大きさの円形状の培地F2に形成してセルS1に挿入する。
【0028】
このようなセルの形状とと異なる形状の培地を形成することで、セルの内側壁S2と培地の側面とに空間を生じることができるため、いわゆるセルの内側壁S2に沿って根が伸びて苗の生育を阻害する根巻きの抑制をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】培土のアンモニア態チッソ量を分析した表
【図2】培土の製造方法の工程図
【図3】培土の製造方法の工程図
【図4】セルトレイと苗の斜視図
【図5】別実施例のセルと培地の斜視図・及び平面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機肥料を配合した培土基材を25℃〜40℃の温度で積算温度が160℃・日以上になるまで処理したことを特徴とする野菜育苗用培土。
【請求項2】
前記有機肥料のC/N比を10以下としたことを特徴とする請求項1記載の野菜育苗用培土。
【請求項3】
C/N比が10以上の有機肥料とC/N比が5以下の有機肥料とを前記培土基材に配合したことを特徴とする請求項1記載の野菜育苗用培土。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−14624(P2006−14624A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193973(P2004−193973)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】