説明

金型用保持装置

【課題】金型基材と保持具との導通部がめっきされないようにマスキングする。
【解決手段】保持具11の先端に金型基材10を螺子構造により取り付け、金型基材10の端面40と雌ねじ18の底面41とを部分的に導通させる。その後、保持具11にマスキング部材12を取り付ける。これにより、金型基材10のうちの成形面13を含むめっき必要範囲は、マスキング部材12に設けた開口部31から外部に露呈する。そして、保持具11に設けたパッキン22と、マスキング部材12に設けたパッキン32とで、底面41と端面40との導通部が確実に防水される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を成形する金型の一部を構成する金型基材に対して、無電解ニッケル−リン合金めっき(無電解ニッケルめっき)等のめっき処理を施すときに、その金型基材を保持するための治具である金型用保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子を成形するための成形用金型基材は、荒削り加工によりレンズを成形する面(成形面)を作った後に、ダイヤモンドバイトによる切削により成形面を超精密に加工して光学素子に転写される光学素子形状をもった光学鏡面にすることで作られる。例えば、プラスチック用金型には、マルエージング鋼などの時効硬化鋼、焼入れ焼戻し鋼やプリハードン鋼などの材料が用いられる。これら材料には、炭素を含んでいるため、ダイヤモンドバイトを使用して切削を行うと、ダイヤモンドバイトの先端が炭化してしまってダイヤモンドバイトが使いものにならなくなり、また、成形面も精密に加工することができなくなる。このため、ダイヤモンドバイトを頻繁に交換する作業が必要になる。そこで、荒削り加工により作られた成形面に対して、無電解ニッケルめっき等のめっき処理を施し、その後にめっき層をダイヤモンドバイトによる精密な切削加工を行って、所望の形状をもった鏡面に仕上げている(特許文献1)。
【0003】
ステンレス材料を含む金型の場合、無電解ニッケルめっき処理を行う前に、アルカリ脱脂、電解脱脂、活性化処理、ニッケルストライクめっき、及び、活性化処理などの前処理を順に行う。アルカリ脱脂は、アルカリ脱脂液中に浸漬する脱脂であり、荒削り加工時に付着する機械油等を脱脂する。電解脱脂は、仕上げ脱脂とも呼ばれ多量のガスの力で浸漬する脱脂であり、所定の溶液中に金型を陰極又は陽極として浸し、電解によって脱脂する。これにより、取り除けない微細な凹凸面に付着したバフカスや焼き入れのスケールなどを取り除くことができる。活性化処理、及び、ニッケルストライクめっきは、ステンレス材の金型の表面に頑固に形成されている不動態化皮膜を取り除くためのものであり、後の無電解ニッケルめっき処理での密着性を良くするために、塩化ニッケルを主成分とするニッケルストライク(ウッド)浴にてストライクめっきを行う。
【0004】
このような前処理、及び、無電解ニッケルめっきの工程では、金型基材を保持具に保持させ、その保持具を移動して金型基材をめっき液などに浸漬する。
【0005】
ところで、前述した電解脱脂、及び、ニッケルストライクめっきでは、電気分解を行うため、金型基材と保持具とを部分的に導通させておく必要がある。そこで、導電性材料で保持具を作っている。しかも、金型基材を保持具に取り付けた後に、導通部を含む必要範囲以外がめっきされないようにマスキング剤で塗布して、保持具と金型基材との導通部を保護している(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−157852号公報
【特許文献2】特開2000−256865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハケなどを用いてマスキング剤を金型基材に塗布する作業は、手間がかかり、また、塗布範囲にバラツキが生じて、例えば、金型と保持具との導通部にマスキング剤が塗布されてしまって電解脱脂又はニッケルストライクめっき処理のときに導通不良が発生する欠点があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を考慮してなされたもので、金型基材のうちの成形面を含む必要範囲以外、すなわち保持具との導通部を含む不必要範囲を確実にかつ簡便にマスキングすることができる金型用保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の金型用保持装置では、金型基材のうちの成形面を含むめっき必要範囲以外に設けられた保持具用取り付け部に着脱自在に取り付けられる金型用取り付け部と、前記金型用取り付け部とは異なる位置に設けられた被取り付け部と、を有する導電性材料で形成された保持具と;前記必要範囲以外を覆うカバー部と、前記保持具に取り付けられた前記金型基材を前記成形面から受け入れるための開放部と、前記開放部に対向する位置に設けられ前記必要範囲を外部に露呈するための開口部と、前記カバー部の内面に設けられ前記被取り付け部に着脱自在に取り付けられる取り付け部と、を有するマスキング部材と;を備えたものである。
【0009】
また、金型用取り付け部を挟んだ前後の金型基材と保持具との隙間、及び、金型基材とマスキング部材との間の隙間をそれぞれシールする少なくとも2つのパッキンを備えるのが好適である。パッキンの取り付けとしては、保持具又はマスキング部材の何れか一方又は両方に設け、相手側当接部に押されることで前記隙間をシールする。これによれば、金型用取り付け部を水密に保持することができるので、めっき槽に浸しても金型用取り付け部がめっきされることはない。
【0010】
カバー部としては、開放部を有する断面コ字状のキャップ形状に形成するのが望ましい。この場合、取り付け部としては、断面コ字状の内面に形成し、また、開口部としては、断面コ字状の底部に形成するのが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金型用保持装置によれば、金型基材を着脱自在に保治する保持具に加えて、形成面を含むめっきに必要な範囲以外を覆うカバー部と、保持具に取り付けられた金型基材を成形面から受け入れるための開放部と、開放部に対向する位置に設けられめっきに必要な範囲を外部に露呈するための開口部と、カバー部の内面に設けられ保持具に設けた被取り付け部に着脱自在に取り付けられる取り付け部と、を有するマスキング部材を備えているため、金型基材のうちの導通部を含む不必要範囲を確実にマスキングすることができる。しかも、カバー部材を保持具に取り付けるだけであるので、簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
プラスチック材料で光学レンズを射出成形するための金型は、一対の金型基材で構成される。各金型基材は、荒削り加工により光学レンズ形状を転写する成形面を作り、その後に、成形面に対して従来技術で説明した前処理、及び、無電解ニッケルめっきとの処理を施した後に、無電解ニッケルめっきを施した成形面のめっき層をダイヤモンドバイトによる精密な切削加工を行って、所望の形状をもった鏡面に仕上げている。
【0013】
荒削り加工済みの金型基材10は、図1及び図2に示すように、保持装置9で保持される。保持装置は、保持具11とマスキング部材12とで構成される。保持具11には、金型基材10が取り付けられ、その後にマスキング部材12が取り付けられる。マスキング部材12は、電解脱脂やニッケルストライクめっき処理のときに、金型基材10のうちの成形面13を含む必要範囲以外がめっきされないようにマスキングするためのものである。
【0014】
金型基材10は、円柱部14と支持部15とを一体形成した部材である。円柱部14は、先端に成形面13を有する円柱形状となっている。支持部15は、円柱部14の後端を支持しており、円柱部14よりも径の大きい円板状となっている。支持部15の外周には、保持具11に取り付けるための保持具用雄ねじ16が形成されている。めっきは、前述したように光学素子に転写される光学素子形状に切削するために成形面13に施される。しかも、本実施形態では、円柱部14の外周にも、光学レンズを射出成形するための金型を構成する胴型に組み込む寸法に精度良く切削するために、めっきを施す。
【0015】
保持具11は、略円柱形状となっている。保持具11の一方側の端面17には、下穴が作られ、その下穴に保持具用雄ねじ16が螺合する金型用雌ねじ(金型用取り付け部)18が形成されている。また、前記端面17の外周には、マスキング部材12を取り付けるためのマスキング用雄ねじ(被取り付け部)20が形成されている。また、保持具11には、マスキング用雄ねじ20よりも他方側に寄った外周に、一段凹んだ溝21が形成されており、溝21には環状のマスキング用パッキン22が嵌め込まれている。マスキング用パッキン22としては、フッ素系材料で作ったOリング(環状ガスケット)などが好適である。なお、パッキン22の代わりに、弾性変形自在な部材を用いても良い。
【0016】
さらに、保持具11には、他方側の端面外周に、支持板用雄ねじ23が形成されている。支持板用雄ねじ23は、詳しくは図3に示すように、支持板24に設けられた保持具用雌ねじ25に螺合する。保持具用雌ねじ25は支持板24に多数形成されており、支持板24には多数の保持具11が取り付けられるようになっている。この支持板24を用いることで、多数の金型基材10を一度にめっきすることができる。
【0017】
マスキング部材12は、開放部27を有する断面コ字状のキャップ形状となっており、開放部27を先頭にして保持具11に取り付けられる。開放部27を構成するカバー部28の内面には、マスキング用雄ねじ20に螺合する保持具用雌ねじ(取り付け部)29が形成されており、また、開放部27に対向する端面30には、成形面13を外部に露呈するための開口部31が形成されている。この開口部31は、円柱部14よりも僅かに大きい径となっている。また、開口部31の奥には、金型用パッキン32が取り付けられている。金型用パッキン32は、開口部31と金型基材10の円柱部14又は支持部15との間の隙間をシールするためのものである。なお、この金型用パッキン32も、フッ素系樹脂材料のOリングやシリコンゴムなどが好適である。
【0018】
マスキング部材12のカバー部28は、保持具11に取り付けられた金型基材10の成形面13を含むめっきに必要な範囲以外を覆う。このカバー部28の内周には、保持具用雌ねじ29に対して開放部27寄りに押さえ部33が形成されている。押さえ部33は、保持具11に取り付けられたときに、マスキング用雄ねじ20と保持具用雌ねじ29との螺合位置よりも外側でマスキング用パッキン22を外周から押し潰してマスキング部材12と保持具11との間の隙間、すなわち、マスキング用雄ねじ20と保持具用雌ねじ29との螺合隙間をシールするためのものである。
【0019】
金型基材10を保持具11に取り付けるときには、保持具用雄ねじ16を金型用雌ねじ18に一方向から挿入して係合させてから、金型基材10と保持具11とを相対的に回転させて保持具用雄ねじ16を金型用雌ねじ18に締め込む。締め込むと、図4に示すように、保持具11に対して金型基材10が位置決めされ、かつ、金型基材10の支持部15の端面40が、保持具11のうちの金型用雌ねじ18の底面41に当たっているので金型基材10と保持具11とが互いの螺合部20,29の奥で部分的に導通される。
【0020】
その後に、マスキング部材12を保持具11に取り付ける。この取り付けは、まず、開放部27を先頭にしてマスキング部材12を保持具11に一方向から挿入する。このとき、金型基材10の成形面13が開口部31から外部に露呈するように行う。その後、保持具用雌ねじ29が、保持具11のマスキング用雄ねじ20に係合するので、後はマスキング部材12を締め込み方向に回転させて保持具用雌ねじ29をマスキング用雄ねじ20に締め込む。締め込むと、金型用パッキン32が、金型基材10の円柱部14と支持部15との間の段差部50に強固に押し付けられる。これにより、図5に示すように、前述したマスキング用パッキン22と金型用パッキン32とで、金型基材10と保持具11との接触部である端面40と底面41との導通部、及び、マスキング用雄ねじ20と保持具用雌ねじ29との螺合部とが確実に防水される。
【0021】
このようにして保持具11に金型基材10を取り付けた後に、マスキング部材12を取り付けていく。取り付けが完成した保持具11は、支持板24に取り付ける。この取り付けは、支持板用雄ねじ23を保持具用雌ねじ25に螺合させることで行う。これにより、図6に示すように、支持板24には多数の保持具11が取り付けられていく。なお、取り付け順番としては、支持板24に多数の保持具11を取り付け、各保持具11に金型基材10とマスキング部材12と取り付けるようにしてもよい。
【0022】
この支持板24は、図示していない搬送手段により、アルカリ脱脂、電解脱脂、活性化処理、ニッケルストライクめっき、活性化処理、及び、無電解ニッケルめっきの各工程に順に搬送されて各処理が行われる。このうちニッケルストライクめっき処理を行う工程においては、その工程に配した昇降機構により支持板24を所定の溶液52の中に下降させて金型基材10を浸漬し、金型基材10に対してめっき処理が施される。このとき、マスキング部材12を取り付けているので、端面40と底面41との接触部にめっきが施されることはなく、また、金型基材10と保持具11との導通性が保たれる。しかも、マスキング用雄ねじ20と保持具用雌ねじ29とのネジ部も、マスキング部材12により防水しているから、そのネジ部に溶液52が浸入することがなく、金型基材10を金型のベース部に取り付けるときに不都合が生じることはない。
【0023】
前述した実施形態では、金型基材10と保持具11との取り付けをネジ構造にしているが、本発明ではこれに限らず、例えば3つ爪のチャック方式など周知の着脱自在な取り付け手段を採用してもよい。また、マスキング部材12と保持具11との取り付けもネジ構造にしているが、本発明ではこれに限らず、周知の着脱自在な取り付け手段を採用してもよい。
【0024】
また、上記各実施形態では、二つのパッキン22,32を用いているが、本発明では必ずしも必要としないので、省略してもよい。また、パッキン22を保持具11に取り付けているが、逆にマスキング部材12に取り付けても良い。この場合には、押さえ部33を保持具11に設ければよい。さらに、パッキン32も前述したと同じに、保持具11に設けても良い。
【0025】
さらにまた、上記各実施形態では、保持具11、金型基材10、及び、マスキング部材12は、図1などで説明した形状に限ることはない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】金型基材と、本発明を構成する保持具とマスキング部材とを示す斜視図である。
【図2】図1で説明した金型基材、保持具、及び、マスキング部材とを示す断面図である。
【図3】多数の保持具を取り付ける支持板を示す斜視図である。
【図4】金型基材を取り付けた保持具にマスキング部材を取り付ける状態を示す断面図である。
【図5】金型基材を取り付けた保持具にマスキング部材を取り付けた状態を示す断面図である。
【図6】支持板を下降して金型基材をめっき槽に浸す状態を示す斜視図ある。説明図である。
【符号の説明】
【0027】
9 保持装置
10 金型基材
11 保持具
12 マスキング部材
13 成形面
16 保持具用雄ねじ
18 金型用雌ねじ(金型用取り付け部)
20 マスキング用雄ねじ(被取り付け部)
22 マスキング用パッキン
29 保持具用雌ねじ(取り付け部)
32 金型用パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を成型する金型基材を保持し、前記金型基材のうちの前記光学素子形状を転写する成形面を含む必要範囲にめっき処理を施すときに使用される金型用保持装置において、
前記金型基材のうちの前記必要範囲以外に設けられた保持具用取り付け部に着脱自在に取り付けられる金型用取り付け部と、前記金型用取り付け部とは異なる位置に設けられた被取り付け部と、を有する導電性材料で形成された保持具と、
前記必要範囲以外を覆うカバー部と、前記保持具に取り付けられた前記金型基材を前記成形面から受け入れるための開放部と、前記開放部に対向する位置に設けられ前記必要範囲を外部に露呈するための開口部と、前記カバー部の内面に設けられ前記被取り付け部に着脱自在に取り付けられる取り付け部と、を有するマスキング部材と、を備えたことを特徴とする金型用保持装置。
【請求項2】
前記保持具又はマスキング部材のうちの何れか一方、又は両方に設けられており、前記金型用取り付け部を挟んだ前後の前記金型基材と前記保持具との隙間、及び、前記金型基材と前記マスキング部材との間の隙間をそれぞれシールして前記金型用取り付け部を水密に保持するための少なくとも2つのパッキンを備えていることを特徴とする請求項1記載の金型用保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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