金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合体とその製造方法
【課題】生理活性機能の優れた持続性、生理活性物質の徐放性とともに、保水性、環境親和性を有する有機無機複合材料、その製造方法、及びそれを含む加工製品を提供する。
【解決手段】無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に、層間イオンとして、生理活性機能を有する、1種又は2種以上の選択された金属イオン及びトロポロン類化合物を、金属−トロポロン錯体の形で陽イオン交換反応により層間に挿入することからなる、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法、それにより得られる有機無機複合材料、及びこれを用いた加工製品。
【効果】活性機能を有する有機物や金属イオン、有機金属錯体の徐放速度を制御できる、生理活性を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料であって、その生理活性機能の徐放性を大幅に向上させた有機無機複合材料を提供することができる。
【解決手段】無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に、層間イオンとして、生理活性機能を有する、1種又は2種以上の選択された金属イオン及びトロポロン類化合物を、金属−トロポロン錯体の形で陽イオン交換反応により層間に挿入することからなる、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法、それにより得られる有機無機複合材料、及びこれを用いた加工製品。
【効果】活性機能を有する有機物や金属イオン、有機金属錯体の徐放速度を制御できる、生理活性を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料であって、その生理活性機能の徐放性を大幅に向上させた有機無機複合材料を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、無機層状化合物を主原料とし、その層間に植物生長調節機能、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の生理活性作用を有する金属−トロポロン錯体を層間に挿入し、担持させた新規な生理活性機能を有する有機無機複合材料、その製造方法、及び該方法で作製される有機無機複合材料を含有する加工製品に関するものである。
【0002】
本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した新規有機無機複合材料とその製造方法を提供するものであり、特に、優れた生理活性機能の持続性や保水性、耐候性及び環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能な生理活性機能を有する有機無機複合材料、該有機無機複合材料を含有する加工製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
ヒノキチオールをはじめとするトロポロン類化合物は、台湾檜油、青森産檜葉油及びウェスタンレッドセダーオイル等に含有する結晶性物質である。この天然由来の化合物は、現在では、合成品としても入手可能であり、例えば、抗菌防黴剤や養毛育毛剤、アロマテラピー用芳香剤、歯磨や食品添加物等の様々な分野で広く利用されている。
【0004】
しかし、このトロポロン類化合物は、融点が52−53℃と低いことと、昇華性や光分解性が高いために、上記効果を長期間持続させることが困難であった。そのため、こうした生理活性物質あるいは薬剤が徐々に供給されるように、それらを徐放性にした内服又は外用の製剤が、徐放薬、徐放錠、徐放製剤、持効性製剤などと称されて、盛んに用いられている。
【0005】
これまでに、薬剤を無機層状物質と組み合わせて、徐放性、耐熱性あるいは分散性を改善する製薬に関する幾つかの手段が報告されている。トロポロン類化合物であるヒノキチオールを含む製品として、先行技術文献には、例えば、ヒノキチオール−粘土複合体を含む成形品、ヒノキチオールを含む粘土複合物、ヒノキチオールを含む殺菌剤組成物、ヒノキチオールを混合した品質保存剤(特許文献1〜4参照)や、セラミックス中の金属イオンにヒノキチオールを配位させることにより得られるセラミックス系組成物(特許文献5〜6参照)、等が報告されている。
【0006】
そこで、これらの手段について詳しくみてみると、例えば、層状粘土成分の層間空隙中に、ヒノキチオールをゲストとして導入させる手段(特許文献1参照)、が提案されている。しかし、これは、熱可塑性樹脂に配合して成形することが困難であったヒノキチオールを粘土と複合し、成形品としたものに過ぎない。
【0007】
また、例えば、ヒノキチオールを油溶性抗菌防黴剤として含む粘土複合物(特許文献2参照)、ヒノキチオールを含む殺菌剤組成物(特許文献3参照)、ヒノキチオールとニンニク成分や唐辛子成分を含む品質保存剤(特許文献4参照)、が提案されている。しかし、これらは、上記生理活性物質を混合するのみであり、徐放性について考慮されておらず、これらの成分を無機層状化合物の層間に導入するものではない。
【0008】
また、セラミックス中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンにヒノキチオールを配位させて得られるセラミックス系組成物(特許文献5参照)、が提案されている。しかし、得られたヒノキチオール包接セラミックスは、セラミックスであるトバモライト、ゾノトライト等の層間にヒノキチオールを取り込んだという相互関係が明らかとされておらず、また、組成物のヒノキチオール含有率が数%程度と極めて低い。
【0009】
更に、セラミックス中のカルシウムイオン又はマグネシウムイオンを他の金属イオンと交換し、導入された金属イオンにヒノキチオールを配位させて得られるヒノキチオール包接セラミックス(特許文献6参照)、が提案されている。しかし、これも、同様に、セラミックスである粘土鉱物の層間にヒノキチオールが挿入されたことを示す明確な実証はなされておらず、導入されたとされる金属イオン及びヒノキチオールの含有率も数%程度であり、積極的に粘土鉱物層間に生理活性物質を挿入するものではない。
【0010】
【特許文献1】特開2004−18661号公報
【特許文献2】特開2003−104719号公報
【特許文献3】特開平10−265408号公報
【特許文献4】特開平10−210958号公報
【特許文献5】特開平11−21201号公報
【特許文献6】特開平11−71215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、有効成分の長期持続性、徐放性、耐熱性及び耐候性を兼備した機能性材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、無機層状化合物である粘土鉱物の層間に、生理活性機能を有するトロポロン類化合物と、抗菌防黴機能を有する金属イオンからなる有機金属錯体を層間に挿入、担持し、その層間からの有機金属錯体の放出量を制御することで、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与させることを可能とする、新しい生理活性機能を有する有機無機複合材料とその新規製造方法、該方法で製造される、生理活性機能の優れた持続性あるいは生理活性物質の徐放性とともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する新規有機無機複合材料、及びそれを用いた加工製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属−トロポロン錯体を層間担持して、その生理活性機能の徐放性を向上させた有機無機複合材料であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入、担持させたことを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(2)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(3)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(4)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(5)層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、前記(4)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載の有機無機複合材料を製造する方法であって、無機層状化合物を主原料とし、その無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、この無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換することにより、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を合成することを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(7)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、前記(6)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(8)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、前記(6)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(9)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(6)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(10)前記(1)から(5)のいずれかに記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする加工製品。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の生理活性機能を有する有機無機複合材料は、特に、主原料として、無機層状化合物、例えば、層状粘土鉱物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母等を用いている。本発明は、この無機層状化合物の層間に、Cu、Zn、Ni及びAl等あるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンと、トロポロン類化合物で形成された金属−トロポロン錯体を挿入、担持したことを特徴としている。
【0015】
本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入することにより、その層間からの金属−トロポロン錯体の放出量を制御することを可能とし、本発明は、無機層状化合物の層間と金属−トロポロン錯体の静電的な相互作用により、生理活性機能の優れた持続性あるいは生理活性物質の徐放性を有するとともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する新規有機無機複合材料、及びそれを用いた加工製品を製造し、提供することを可能とするものである。
【0016】
次に、本発明の無機層状化合物について詳しく説明する。粘土鉱物は、無機結晶物質であり、組成や構造によって様々な種類が存在するが、その基本構造は、どれも類似している。ここでは、これらの粘土鉱物の構造について説明する。粘土鉱物は、一部の例外を除いて、全て層状構造を有している。層状構造とは、無機結晶層が多数積み重なった積層構造である。
【0017】
例えば、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトを代表例として説明すると、モンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイト族に分類される粘土鉱物である。層状ケイ酸塩鉱物の結晶構造は、イオン半径の大きい酸素原子の数と配置により決まる。ケイ酸塩鉱物の基本構造は、1個のケイ酸原子を中心とした四面体の各頂点に酸素原子を有する正四面体である。大部分のケイ酸塩鉱物は、この正四面体の3個の原子を隣接した各々の四面体と共有することにより、1次元的な六角網目状の層を形成している。
【0018】
この四面体層の他に、O2−やOH−などの陰イオンが八面体の各頂点に各々1個ずつ位置し、その中心にAl3+、Mg2+などの陽イオンが存在し、各頂点の陰イオンが隣接した八面体同士を結びつけ、二次元的な網状をなす八面体層、がある。これは、Mg、Alなどの原子を中心とし、酸素原子が六配位している八面体と、その八面体が稜共有(酸素原子と酸素原子を結んだ辺を共有している)によって、二次元的な網目状を形成している八面体層である。
【0019】
これらの四面体層と八面体層との結びつきは、各層が1枚ずつの二層構造(1:1型)、二枚の四面体層の間に八面体層が挟まった構造(2:1型)、2:1型の層間域に八面体層が位置する構造(2:1:1型)、等があり、四面体層と八面体層の様々な組み合わせ方で、一組の単位層を形成している。
【0020】
モンモリロナイトの結晶構造は、ケイ酸四面体層−アルミナ八面体層−ケイ酸四面体層の3層が積み重なっており(2:1型)、その単位層は、厚さ約10Å(1nm)、広がり0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。アルミナ八面体層の中心原子であるAl3+の1部がMg2+に置換されることで陽電荷不足となり、各結晶層自体は負に帯電しているが、結晶層間にNa+、K+、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを挟むことで電荷不足を中和し、モンモリロナイトは安定状態となる。
【0021】
そのため、モンモリロナイトは、結晶層が何層も重なり合った状態で存在しており、層と層の間には、陽イオンと空隙が存在している。層表面の負電荷及び層間陽イオンが様々な作用を起こすことによって、モンモリロナイトの特異的性質は発揮される。モンモリロナイト単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は弱いため、他のイオンを含む溶液と接触すると、層間陽イオンと液中の陽イオンは瞬間的に交換反応を起こし、陽イオン交換反応が生じる。
【0022】
水中に放出された陽イオンの量を測定すれば、モンモリロナイトの反応関与電荷量(陽イオン交換容量:CEC)を知ることができる。陽イオン交換容量は、溶液のpHや濃度によって変わり、モンモリロナイトは、pH6以上になると陽イオン交換容量が増加することが知られている。モンモリロナイトは、層状構造を成しているため、極めて大きな表面積を有している。その表面上において、層表面の酸素原子や水酸基との水素結合、層間において、層間負電荷や層間陽イオンとの静電気的結合などが生じ、吸着能を発揮し、それは、特に、極性分子に対して作用しやすい。
【0023】
本発明において、無機層状化合物とは、層間に交換性陽イオンを有する層状ケイ酸塩鉱物を意味する。層状ケイ酸塩としては、特に限定されないが、好適には、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母等が用いられる。層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、天然物でも合成物であっても良く、これらの1種又は2種以上を併用して用いることも適宜可能である。
【0024】
上記層状ケイ酸塩の中でも、スメクタイト族のモンモリロナイト及び膨潤性雲母が好ましい。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、水と接触すると、水を吸着して膨らむ(膨潤する)作用があり、これは、層間陽イオンと水分子との相互作用によって生じる。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母の単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は、層間陽イオンと水分子の相互作用エネルギーより弱いため、層間陽イオンが水分子を引き寄せる力により層間が押し広げられる。この層間陽イオンと水分子の相互作用により層間挿入反応が容易に進行しやすくなる。
【0025】
三次元結晶層が負電荷を帯びているモンモリロナイトに代表されるスメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等は、イオン交換性、膨潤性、有機あるいは無機複合体形成能等の化学的活性が顕著であり、これらの交換反応が自然界の物質循環に果たす役割は大きく、また、粘土鉱物や膨潤性雲母の工業的利用面でも、イオン交換能は直接的間接的に用いられている。粘土鉱物や膨潤性雲母と様々な物質との複合体の形成は、極性分子の吸着や、イオン交換能等を含めた粘土層内表面による吸着現象である。代表的な複合体は、粘土と各種の有機化合物との複合体であり、スメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等の利用をはじめ、自然現象の解釈等にも広く利用されている。すなわち、モンモリロナイト以外の、イオン交換能を有するスメクタイト族粘土鉱物や、イオン交換能を有する膨潤性雲母等を本発明に用いた場合でも、本発明による金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合体を、イオン交換反応を用いて形成し得ることが可能であり、それらは、同様に実施が可能である。
【0026】
層状ケイ酸塩の層間に存在する交換性陽イオンとは、結晶表面上のナトリウム、カルシウム等のイオンであり、これらのイオンは、カチオン性物質に対してイオン交換性を有するので、カチオン性を有する種々の物質を層状ケイ酸塩の層間に挿入することができる。層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)は、特に限定されないが、CEC=30〜400ミリ等量/100gであることが好ましい。30ミリ等量/100g未満であると、陽イオン交換によって結晶層間に挿入できる生理活性物質の量が少なくなるので、生理活性機能の発現と持続性が充分に発揮できない可能性がある。一方、400ミリ等量/100gを超えると、層状ケイ酸塩の層間の結合力が強固となり、生理活性物質の層間挿入が困難になることがある。
【0027】
無機層状化合物は、市販されているものを使用することができ、市販されているスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「クニピアシリーズ」、「スメクトンシリーズ」(クニミネ工業株式会社)や、市販されている膨潤性マイカやスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「TNシリーズ」、「TSシリーズ」、「NHTシリーズ」(トピー工業株式会社)、「ルーセンタイトシリーズ」「ミクロマイカシリーズ」「ソマシフシリーズ」(コープケミカル株式会社)等を挙げることができる。いずれの市販品も、結晶構造、陽イオン交換容量や比表面積等、その性質に応じて種々のグレードがあるが、本発明では、いずれも用いることができる。
【0028】
本発明において、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体については、錯体を形成する有機配位子であるトロポロン系化合物として、好適には、例えば、ヒノキチオール,β−ドラブリン,α−ツヤプリシン,γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン等が例示される。錯体を形成する中心金属としては、Cu、Zn、Ni及びAl等あるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンが例示される。本発明において、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体は、無機層状化合物の層間に物理的あるいは静電的に保持されている。すなわち、無機層状化合物の層間は、一般には、陽イオンが静電的に保持されているが、本発明においては、層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体が保持されている。
【0029】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ有機無機複合材料を製造するには、例えば、次のような方法によることができる。先ず、無機層状化合物を任意の重量分計量する。これに、脱イオン水を適量添加し、充分に撹拌を行い、無機層状化合物の重量濃度が0.1〜10wt%程度となる無機層状化合物懸濁液を調製する。次に、使用する無機層状化合物の陽イオン交換容量当量に対し、0.1〜3倍量分の脱イオン水あるいは有機溶媒の金属塩溶液を調製する。一方で、この陽イオン交換容量当量に対し、0.3〜9倍量分のトロポロン系化合物を秤量し、脱イオン水あるいは有機溶媒に溶解し、トロポロン系化合物溶液を得る。
【0030】
この時、使用する有機溶媒は、金属塩あるいはトロポロン系化合物が溶解すれば良く、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール及びアセトン等が使用できる。次に、金属塩溶液とトロポロン系化合物溶液を充分に混合撹拌し、金属−トロポロン錯体を得る。必要であれば、加熱により、錯体形成反応を促進しても良い。合成された金属−トロポロン錯体は、使用する金属溶液や溶媒の種類により、溶液状態あるいは懸濁液状態として得ることができる。
【0031】
この金属−トロポロン錯体を、あらかじめ分散させておいた無機層状化合物懸濁液中に投入し、撹拌しながら陽イオン交換反応を行うことで、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入、担持する。交換反応速度は、混合した上記懸濁液を加熱することで、早めることができる。反応は、懸濁液温度が5℃付近からでも進行するが、5〜90℃付近までの加熱を行い、交換反応を円滑に進行させることが望ましい。反応時間は、設定した温度条件によって変化するが、0.5〜72時間程度が適当である。
【0032】
使用する中心金属イオンや有機配位子の種類によって、最適反応温度や反応時間は勿論異なる。加熱反応中には、反応系の水分が蒸発しないように、反応容器上部に水冷の冷却管を装備することが好ましい。反応終了後、固液を分離洗浄して金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ有機無機複合材料を得ることができる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、凍結乾燥、噴霧乾燥あるいは加熱乾燥等が挙げられる。更に、金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ有機無機複合材料懸濁液を平面に展開・乾燥し、キャスト膜として得ることもできる。
【0033】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、ぺレット等の、散布又は塗布に適した形態に任意に製剤加工して、加工製品とすることができる。加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により製造することができる。
【0034】
本発明の生理活性機能を有する有機無機複合材料は、無機層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体がイオン化して存在しているため、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の系外への徐放速度を制御することが可能であり、生理活性効果の持続性が極めて高い。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0035】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料は、無機層間に金属−トロポロン錯体が、静電的に固定化されて存在している。そのため、本発明の有機無機複合材料の合成に使用する無機層状化合物を、陽イオン交換容量や結晶構造、比表面積等から適宜選択して、層の荷電量と電荷分布割合を考慮することにより、層間内における生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の保有量や、層間内における生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の保持力を制御することができる。
【0036】
すなわち、上記因子を選択制御することで、生理活性作用を有する金属−トロポロン錯体が徐々に放たれて行く徐放速度を制御することが可能であることから、生理活性効果の程度及び持続性・耐候性を制御することができ、また、持続性を極めて長くすることもできる。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0037】
従来、層間支柱を有する層状粘土成分と、その層間空隙中にゲストとしてヒノキチオールを導入したヒノキチオール−粘土複合体や、塩基交換能を有する膨潤性粘土に抗菌防黴剤及び塩基性物質を含有させた粘土複合物、ヒノキチオール等の殺菌剤と水膨潤性粘土鉱物との複合体、セラミックス中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンにヒノキチオールを配位、包接させたセラミックス系組成物等が提案されている。しかし、それらは、ヒノキチオール単体を粘土ないしセラミックスに混合又は配位させたものであり、その徐放効果は限られたものであり、高い徐放性を付与することは困難であった。
【0038】
これに対して、本発明は、主原料として、層間に交換性陽イオンを有し、所定の陽イオン交換容量(CEC)を有する無機層状化合物を用いること、無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、そのカチオン交換性を利用してこの無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換すること、それにより、トロポロン類化合物を金属−トロポロン錯体の形で層間に担持させること、が重要であり、それにより、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に安定に担持させて、著しく徐放性を向上させた有機無機複合材料を合成することを実現可能としたものである。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した新規有機無機複合材料、その製造方法及びそれを用いた加工製品を提供することができる。
(2)本発明の有機無機複合材料は、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の持続性や保水性、耐候性及び環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能である。
(3)本発明の有機無機複合材料の層間では、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体が、ナノメートルオーダーで均一に分散しているため、有機無機複合材料を培地表面あるいは田畑などに使用する場合でも、均一に散布又は塗布し、培地あるいは土などと均一に混合できるので、植物生長調節機能、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の生理活性作用を有効に及ぼすことができる。
(4)本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する有機物や金属イオン、有機金属錯体の徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、例えば、任意の製剤形態を有する加工製品とすることもできる。
(5)低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与した加工製品を製造することができる。
(6)加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられている方法により製造することができる。
(7)加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計が可能であるため、広範な産業分野での利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
(1)銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の塩化銅2水和物水溶液と、CECに対して2倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、黄緑色の銅−ヒノキチオール錯体を得た。
【0042】
この銅−ヒノキチオール錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状の銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオールを層間担持した有機無機複合体を得た。
【0043】
(2)銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の確認試験
得られた銅−ヒノキチオール/粘土複合体は、原料モンモリロナイトよりも疎水性が高く、有機金属錯体の層間挿入が行われたことが示唆された。図1に、銅−ヒノキチオール錯体を層間に担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。図1に示した有機無機複合体の粉末X線回折の結果より、低角度側に2.28nmの(001)回折線が確認された。この時の層間内間隔は1.32nm程度であり、この層間距離は、銅−ヒノキチオール錯体が、銅を中心としてその周囲を包囲する配位子である2分子のヒノキチオールの七員環が、層平面に対して縦に直立している距離にほぼ相当する。
【0044】
更にまた、低角度側に1.31nmの回折線が確認されるが、これは、銅−ヒノキチオール錯体が層間内で平行に配列している距離にほぼ等しい。この系においては、銅−ヒノキチオール錯体は、2種類の立体配置でモンモリロナイトの層間に存在していることが判る。また、この有機無機複合体の炭素含有率を測定した結果、銅−ヒノキチオール錯体は、陽イオン交換容量に対して、80%以上の含有率で層間内に存在していることが明らかとなった。これらのことより、銅−ヒノキチオール錯体は、モンモリロナイトの層間に確実に担持されたことが判明した。
【0045】
比較のため、対照試料として、無機層間にNa+のみを担持した原料モンモリロナイトのX線回折のプロファイルを図1に示した。粉末X線回折の結果より、モンモリロナイトの回折図形からは、粘土鉱物特有の回折ピークが多数確認された。基底面間隔とそれに起因する(00l)の回折線と(0kl)回折線が確認され、(001)回折線から計算された基底面間隔値は水一分子層を含む1.24nmであった。層間内の水分子のサイズを考慮すると、粘土層一層の厚さは0.96nm程度となることが判った。
【実施例2】
【0046】
(アルミニウム−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造)
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の塩化アルミニウム6水和物水溶液と、CECに対して3倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、白色のアルミニウム−ヒノキチオール錯体を得た。
【0047】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状のアルミニウム−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する有機無機複合体を得た。図2に、得られたアルミニウム−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。
【実施例3】
【0048】
(亜鉛−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造)
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイドゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の硝酸亜鉛6水和物水溶液と、CECに対して2倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、亜鉛−ヒノキチオール錯体を得た。
【0049】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状の亜鉛−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する有機無機複合体を得た。図2に、得られた亜鉛−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。
【実施例4】
【0050】
(1)ニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の硝酸ニッケル6水和物水溶液と、CECに対して3倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、黄色のニッケル−ヒノキチオール錯体を得た。
【0051】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状のニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイト層間に担持した生理活性機能を有する有機無機複合体を得た。図2に、得られたニッケル−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。
【0052】
(2)実施例2、3及び4のアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の確認試験
図2に示した粉末X線回折の結果より、モンモリロナイトの基底面間隔値は、層間のナトリウムイオンに水分子が配位した水分子1層分にほぼ相当する1.24nmであり、(00l)と(hk0)回折線が確認された。上記金属−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイト懸濁液に投入すると、凝集塩効果による相分離が観察されたことにより、層間挿入反応が生じたことが示唆された。
【0053】
アルミニウム−ヒノキチオール錯体を挿入した試料は、層間距離が1.59nmにまで拡大した。この時の層間内距離は0.63nmであり、ヒノキチオールの7員環が層内に対して平行に2層配列した距離にほぼ等しい。また、長周期構造に起因する(003)回折線と原料モンモリロナイトの(hk0)回折線も確認された。
【0054】
亜鉛−ヒノキチオール錯体を挿入した試料についても、同様の挙動が確認され、基底面間隔値は1.52nmであった。ニッケル−ヒノキチオール錯体を反応させた系では、基底面間隔値が1.51nmとなり、層構造に起因する(003)と(005)回折線も確認された。
【0055】
合成された複合体の基底面間隔値は、いずれも1.5nm程度であり、使用した遷移金属イオンの水和半径は、およそ水2分子に相当することを考えると、配位子が層間に対して(屈曲しながら)平行に配列した距離とほぼ等しい。この基底面間隔値は、金属錯体との反応前のモンモリロナイトの基底面間隔値である0.96nmと比較して、明らかに拡大しているため、これらの金属錯体が、モンモリロナイトの層間に挿入されたことが判明した。
【0056】
(3)実施例1、2、3及び4の銅、アルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱的挙動
実施例に準じた方法で得られた複合体の熱的挙動を調査するため、示差熱重量分析装置を用いた分析を行った。それぞれの試料について、昇温速度5℃/分、1050℃までの熱処理を行い、熱的過程における熱重量変化(TG)と、熱的過程における示差熱変化、すなわち、吸熱及び発熱挙動(DTA)をモニターした。図3に、原料モンモリロナイトの示差熱重量分析曲線を示す。また、図4に、ヒノキチオールの示差熱重量分析曲線を示す。また、図5及び図6に、銅及びアルミニウム−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線を示す。
【0057】
図3に示した原料モンモリロナイトからは、100℃付近での急激な熱重量減少と吸熱ピークが確認された。これは、表面吸着水と、層間内に存在するナトリウムイオンに配位している水分子の離脱によるものである。また、600〜700℃付近の熱減量と吸熱ピークは、結晶構造内の水酸基の離脱に起因する。図4に示したヒノキチオールのみのTG曲線からは、150℃付近より熱減量を開始し、300℃付近で終了する。50℃付近と200℃付近の融解と分子脱離による吸熱ピークと、250〜300℃には、残存炭素質燃焼の発熱ピークが観察された。
【0058】
図5及び図6に示した銅及びアルミニウム−ヒノキチオール担持モンモリロナイトは、類似の熱分析曲線を示した。300〜400℃付近の層間内炭素質の燃焼による発熱ピークと、300℃付近からの熱重量減少が観測された。それぞれの理論有機物含有率を計算すると、26.6wt%及び36.1wt%であり、最終熱重量減量率と吸着水率から算出した数値とほぼ一致していた。
【0059】
図7及び8に、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール担持モンモリロナイトの熱分析曲線を示す。亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体を担持したモンモリロナイト複合体の両試料について考察してみると、それぞれのDTA曲線より、400℃付近の発熱ピークの高さ(発熱量)が、銅及びアルミニウム−ヒノキチオール担持モンモリロナイトのそれと比較して、極めて低いことが判る。
【0060】
更に、200℃付近までの低温領域において、10wt%以上の急速な熱減量が確認され、最終減量率は、共に25wt%程度であった。それぞれの理論有機物含有率は26.6wt%と35.4wt%であることを考え合わせると、亜鉛及びニッケルのヒノキチオール錯体は、粘土層間に存在してはいるが、ヒノキチオールと錯体を形成する安定度定数が銅やアルミニウムのそれと比較して低いために、低温側で離脱しているものと考えられる。
【0061】
ヒノキチオール自体は、昇華性があり、融点が低く、極めて耐熱性が低い有機物であるが、金属−ヒノキチオール錯体として無機層状化合物への層間挿入を行うと、内部有機物の燃焼開始温度は400℃付近まで上昇する。上記の結果より、トロポロン類化合物を金属−トロポロン錯体の形で無機層状化合物の層間へ挿入することで、層間内部に静電的に固定された有機配位子の耐熱性は、大幅に向上し、それにより、その生理活性機能の徐放性を向上させることができることが明らかとなった。
【0062】
(4)実施例1の銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱処理後の挙動
銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗菌防カビ材料の耐熱性を検討するために、熱処理後の試料について、各種測定を行った。実施例1で得られた銅−ヒノキチオール粘土複合体について、電気炉を用いた熱処理(空気中、昇温速度10℃/分、保持1時間)を行った。処理温度は、それぞれ200、250、300、400及び500℃とした。
【0063】
各熱処理温度にて得られた試料について、粉末X線回折による分析を行った。図9に、その結果を示す。粉末X線回折の結果より、未処理試料からは2.28nmの基底面間隔値を示す回折線と、それに隣接して層構造に起因すると思われる回折線が確認された。配位子であるヒノキチオールは、銅イオンと2:1型の平面錯体を形成することが知られており、層間に対し直立して配置していると仮定すると、基底面間隔値は2.45nmとなる。(001)回折線は、250℃処理まで2.2nm程度の数値を示していたが、300℃処理で1.46nmまで低下した。これに伴い、(002)と思われる回折線も高角度側にシフトした。400〜500℃処理では、層内有機物の離脱に伴い、1.3nmまで減少したが、中心化学種である銅の酸化還元状態は、X線的には確認されなかった。
【0064】
各熱処理段階における試料の構造変化を調査するために、各熱処理温度毎の試料について、CHNコーダーを用いた炭素含有率測定結果と、粉末X線回折より得られた基底面間隔値の変化を図10に示す。これによると、炭素含有率の変化は、250℃処理後までは一定の数値を保持しており、層間内有機物である銅−ヒノキチオール錯体への熱的影響は軽微であることが確認される。これは、基底面間隔値についても同様の傾向を示しており、この温度領域までの層間隔の変化は微小である。しかし、処理温度が300℃以上になると、炭素含有率、基底面間隔値とも急激な減少を開始する。500℃処理後には層間内有機物は殆ど脱離し、それに伴い層間隔も収縮する。これらのことより、内部有機物は250℃付近までの耐熱性を有することが判る。
【0065】
(5)実施例1の銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の赤外吸収スペクトル
図11に、得られた銅−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体と、錯体の配位子であるヒノキチオールの赤外吸収スペクトルの結果を示す。使用した原料モンモリロナイトである粘土鉱物特有の吸収である、3624cm−1に八面体のAl−OH伸縮による吸収、3434cm−1に層間水分子のOH伸縮振動による吸収が見られた。1639cm−1の吸収も、吸着水のOH伸縮振動による。また、1038cm−1には四面体Si−O−Si伸縮振動が、914cm−1には八面体Al−OH変角振動、及び847cm−1には(Al、Mg)−OH変角振動に帰属する強い吸収が確認された。
【0066】
更に、520、467cm−1にはSi−O−Al変角振動とSi−O−Mg変角振動がそれぞれ確認された。銅−ヒノキチオール担持モンモリロナイトの赤外吸収スペクトルの結果より、2965、2873cm−1にCH3基及び七員環のC−H伸縮振動、1593、1513cm−1の七員環分子骨格に帰属するC=C伸縮振動が存在し、1434及び1356cm−1にCH3基及び七員環のC−H変角振動、また、812、741cm−1には芳香環C−H変角振動による吸収が確認された。上記複合体の系については、挿入有機物に特有の吸収と、それらの層間担持に伴う若干のシフトが確認され、これらのことから、目的とする有機無機複合体が合成されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上詳述したように、本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料とその製造方法に係るものであり、本発明により、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の持続性や保水性、環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能な金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を提供することができる。この有機無機複合材料は、無機層状化合物の層間では、生理活性機能を有する有機金属錯体がナノメートルオーダーで均一に分散しているため、培地表面や田畑へ使用された場合でも分散性に優れているという利点を有する。
【0068】
また、本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する金属−トロポロン錯体の系外への徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、任意の製剤形態を有する加工製品とすることができる。加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により適宜製造することができる。こうした加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計及び製造が可能であるため、本発明の有機無機複合材料を含有する加工製品は、広範な産業分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図2】本発明の実施例2、3及び4に係る、生理活性機能を有するアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図3】本発明の実施例1に係る、無機層状化合物である原料モンモリロナイトの示差熱重量分析曲線である。
【図4】本発明の実施例1に係る、有機配位子であるヒノキチオールの示差熱重量分析曲線である。
【図5】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図6】本発明の実施例2に係る、生理活性機能を有するアルミニウム−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図7】本発明の実施例3に係る、生理活性機能を有する亜鉛−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図8】本発明の実施例4に係る、生理活性機能を有するニッケル−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図9】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱処理前後の粉末X線回折図形である。
【図10】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱処理前後の炭素含有率と基底面間隔値である。
【図11】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の赤外吸収スペクトルである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、無機層状化合物を主原料とし、その層間に植物生長調節機能、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の生理活性作用を有する金属−トロポロン錯体を層間に挿入し、担持させた新規な生理活性機能を有する有機無機複合材料、その製造方法、及び該方法で作製される有機無機複合材料を含有する加工製品に関するものである。
【0002】
本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した新規有機無機複合材料とその製造方法を提供するものであり、特に、優れた生理活性機能の持続性や保水性、耐候性及び環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能な生理活性機能を有する有機無機複合材料、該有機無機複合材料を含有する加工製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
ヒノキチオールをはじめとするトロポロン類化合物は、台湾檜油、青森産檜葉油及びウェスタンレッドセダーオイル等に含有する結晶性物質である。この天然由来の化合物は、現在では、合成品としても入手可能であり、例えば、抗菌防黴剤や養毛育毛剤、アロマテラピー用芳香剤、歯磨や食品添加物等の様々な分野で広く利用されている。
【0004】
しかし、このトロポロン類化合物は、融点が52−53℃と低いことと、昇華性や光分解性が高いために、上記効果を長期間持続させることが困難であった。そのため、こうした生理活性物質あるいは薬剤が徐々に供給されるように、それらを徐放性にした内服又は外用の製剤が、徐放薬、徐放錠、徐放製剤、持効性製剤などと称されて、盛んに用いられている。
【0005】
これまでに、薬剤を無機層状物質と組み合わせて、徐放性、耐熱性あるいは分散性を改善する製薬に関する幾つかの手段が報告されている。トロポロン類化合物であるヒノキチオールを含む製品として、先行技術文献には、例えば、ヒノキチオール−粘土複合体を含む成形品、ヒノキチオールを含む粘土複合物、ヒノキチオールを含む殺菌剤組成物、ヒノキチオールを混合した品質保存剤(特許文献1〜4参照)や、セラミックス中の金属イオンにヒノキチオールを配位させることにより得られるセラミックス系組成物(特許文献5〜6参照)、等が報告されている。
【0006】
そこで、これらの手段について詳しくみてみると、例えば、層状粘土成分の層間空隙中に、ヒノキチオールをゲストとして導入させる手段(特許文献1参照)、が提案されている。しかし、これは、熱可塑性樹脂に配合して成形することが困難であったヒノキチオールを粘土と複合し、成形品としたものに過ぎない。
【0007】
また、例えば、ヒノキチオールを油溶性抗菌防黴剤として含む粘土複合物(特許文献2参照)、ヒノキチオールを含む殺菌剤組成物(特許文献3参照)、ヒノキチオールとニンニク成分や唐辛子成分を含む品質保存剤(特許文献4参照)、が提案されている。しかし、これらは、上記生理活性物質を混合するのみであり、徐放性について考慮されておらず、これらの成分を無機層状化合物の層間に導入するものではない。
【0008】
また、セラミックス中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンにヒノキチオールを配位させて得られるセラミックス系組成物(特許文献5参照)、が提案されている。しかし、得られたヒノキチオール包接セラミックスは、セラミックスであるトバモライト、ゾノトライト等の層間にヒノキチオールを取り込んだという相互関係が明らかとされておらず、また、組成物のヒノキチオール含有率が数%程度と極めて低い。
【0009】
更に、セラミックス中のカルシウムイオン又はマグネシウムイオンを他の金属イオンと交換し、導入された金属イオンにヒノキチオールを配位させて得られるヒノキチオール包接セラミックス(特許文献6参照)、が提案されている。しかし、これも、同様に、セラミックスである粘土鉱物の層間にヒノキチオールが挿入されたことを示す明確な実証はなされておらず、導入されたとされる金属イオン及びヒノキチオールの含有率も数%程度であり、積極的に粘土鉱物層間に生理活性物質を挿入するものではない。
【0010】
【特許文献1】特開2004−18661号公報
【特許文献2】特開2003−104719号公報
【特許文献3】特開平10−265408号公報
【特許文献4】特開平10−210958号公報
【特許文献5】特開平11−21201号公報
【特許文献6】特開平11−71215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、有効成分の長期持続性、徐放性、耐熱性及び耐候性を兼備した機能性材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、無機層状化合物である粘土鉱物の層間に、生理活性機能を有するトロポロン類化合物と、抗菌防黴機能を有する金属イオンからなる有機金属錯体を層間に挿入、担持し、その層間からの有機金属錯体の放出量を制御することで、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与させることを可能とする、新しい生理活性機能を有する有機無機複合材料とその新規製造方法、該方法で製造される、生理活性機能の優れた持続性あるいは生理活性物質の徐放性とともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する新規有機無機複合材料、及びそれを用いた加工製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属−トロポロン錯体を層間担持して、その生理活性機能の徐放性を向上させた有機無機複合材料であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入、担持させたことを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(2)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(3)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(4)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(1)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(5)層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、前記(4)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載の有機無機複合材料を製造する方法であって、無機層状化合物を主原料とし、その無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、この無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換することにより、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を合成することを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(7)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、前記(6)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(8)生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、前記(6)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(9)主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、前記(6)に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
(10)前記(1)から(5)のいずれかに記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする加工製品。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の生理活性機能を有する有機無機複合材料は、特に、主原料として、無機層状化合物、例えば、層状粘土鉱物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母等を用いている。本発明は、この無機層状化合物の層間に、Cu、Zn、Ni及びAl等あるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンと、トロポロン類化合物で形成された金属−トロポロン錯体を挿入、担持したことを特徴としている。
【0015】
本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入することにより、その層間からの金属−トロポロン錯体の放出量を制御することを可能とし、本発明は、無機層状化合物の層間と金属−トロポロン錯体の静電的な相互作用により、生理活性機能の優れた持続性あるいは生理活性物質の徐放性を有するとともに、耐熱性、耐候性、保水性、環境親和性を有する新規有機無機複合材料、及びそれを用いた加工製品を製造し、提供することを可能とするものである。
【0016】
次に、本発明の無機層状化合物について詳しく説明する。粘土鉱物は、無機結晶物質であり、組成や構造によって様々な種類が存在するが、その基本構造は、どれも類似している。ここでは、これらの粘土鉱物の構造について説明する。粘土鉱物は、一部の例外を除いて、全て層状構造を有している。層状構造とは、無機結晶層が多数積み重なった積層構造である。
【0017】
例えば、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトを代表例として説明すると、モンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイト族に分類される粘土鉱物である。層状ケイ酸塩鉱物の結晶構造は、イオン半径の大きい酸素原子の数と配置により決まる。ケイ酸塩鉱物の基本構造は、1個のケイ酸原子を中心とした四面体の各頂点に酸素原子を有する正四面体である。大部分のケイ酸塩鉱物は、この正四面体の3個の原子を隣接した各々の四面体と共有することにより、1次元的な六角網目状の層を形成している。
【0018】
この四面体層の他に、O2−やOH−などの陰イオンが八面体の各頂点に各々1個ずつ位置し、その中心にAl3+、Mg2+などの陽イオンが存在し、各頂点の陰イオンが隣接した八面体同士を結びつけ、二次元的な網状をなす八面体層、がある。これは、Mg、Alなどの原子を中心とし、酸素原子が六配位している八面体と、その八面体が稜共有(酸素原子と酸素原子を結んだ辺を共有している)によって、二次元的な網目状を形成している八面体層である。
【0019】
これらの四面体層と八面体層との結びつきは、各層が1枚ずつの二層構造(1:1型)、二枚の四面体層の間に八面体層が挟まった構造(2:1型)、2:1型の層間域に八面体層が位置する構造(2:1:1型)、等があり、四面体層と八面体層の様々な組み合わせ方で、一組の単位層を形成している。
【0020】
モンモリロナイトの結晶構造は、ケイ酸四面体層−アルミナ八面体層−ケイ酸四面体層の3層が積み重なっており(2:1型)、その単位層は、厚さ約10Å(1nm)、広がり0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。アルミナ八面体層の中心原子であるAl3+の1部がMg2+に置換されることで陽電荷不足となり、各結晶層自体は負に帯電しているが、結晶層間にNa+、K+、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを挟むことで電荷不足を中和し、モンモリロナイトは安定状態となる。
【0021】
そのため、モンモリロナイトは、結晶層が何層も重なり合った状態で存在しており、層と層の間には、陽イオンと空隙が存在している。層表面の負電荷及び層間陽イオンが様々な作用を起こすことによって、モンモリロナイトの特異的性質は発揮される。モンモリロナイト単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は弱いため、他のイオンを含む溶液と接触すると、層間陽イオンと液中の陽イオンは瞬間的に交換反応を起こし、陽イオン交換反応が生じる。
【0022】
水中に放出された陽イオンの量を測定すれば、モンモリロナイトの反応関与電荷量(陽イオン交換容量:CEC)を知ることができる。陽イオン交換容量は、溶液のpHや濃度によって変わり、モンモリロナイトは、pH6以上になると陽イオン交換容量が増加することが知られている。モンモリロナイトは、層状構造を成しているため、極めて大きな表面積を有している。その表面上において、層表面の酸素原子や水酸基との水素結合、層間において、層間負電荷や層間陽イオンとの静電気的結合などが生じ、吸着能を発揮し、それは、特に、極性分子に対して作用しやすい。
【0023】
本発明において、無機層状化合物とは、層間に交換性陽イオンを有する層状ケイ酸塩鉱物を意味する。層状ケイ酸塩としては、特に限定されないが、好適には、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト等のスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母等が用いられる。層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、天然物でも合成物であっても良く、これらの1種又は2種以上を併用して用いることも適宜可能である。
【0024】
上記層状ケイ酸塩の中でも、スメクタイト族のモンモリロナイト及び膨潤性雲母が好ましい。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母は、水と接触すると、水を吸着して膨らむ(膨潤する)作用があり、これは、層間陽イオンと水分子との相互作用によって生じる。上記層状ケイ酸塩及び膨潤性雲母の単位層表面の負電荷と層間陽イオンとの結合力は、層間陽イオンと水分子の相互作用エネルギーより弱いため、層間陽イオンが水分子を引き寄せる力により層間が押し広げられる。この層間陽イオンと水分子の相互作用により層間挿入反応が容易に進行しやすくなる。
【0025】
三次元結晶層が負電荷を帯びているモンモリロナイトに代表されるスメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等は、イオン交換性、膨潤性、有機あるいは無機複合体形成能等の化学的活性が顕著であり、これらの交換反応が自然界の物質循環に果たす役割は大きく、また、粘土鉱物や膨潤性雲母の工業的利用面でも、イオン交換能は直接的間接的に用いられている。粘土鉱物や膨潤性雲母と様々な物質との複合体の形成は、極性分子の吸着や、イオン交換能等を含めた粘土層内表面による吸着現象である。代表的な複合体は、粘土と各種の有機化合物との複合体であり、スメクタイト族粘土鉱物や膨潤性雲母等の利用をはじめ、自然現象の解釈等にも広く利用されている。すなわち、モンモリロナイト以外の、イオン交換能を有するスメクタイト族粘土鉱物や、イオン交換能を有する膨潤性雲母等を本発明に用いた場合でも、本発明による金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合体を、イオン交換反応を用いて形成し得ることが可能であり、それらは、同様に実施が可能である。
【0026】
層状ケイ酸塩の層間に存在する交換性陽イオンとは、結晶表面上のナトリウム、カルシウム等のイオンであり、これらのイオンは、カチオン性物質に対してイオン交換性を有するので、カチオン性を有する種々の物質を層状ケイ酸塩の層間に挿入することができる。層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量(CEC)は、特に限定されないが、CEC=30〜400ミリ等量/100gであることが好ましい。30ミリ等量/100g未満であると、陽イオン交換によって結晶層間に挿入できる生理活性物質の量が少なくなるので、生理活性機能の発現と持続性が充分に発揮できない可能性がある。一方、400ミリ等量/100gを超えると、層状ケイ酸塩の層間の結合力が強固となり、生理活性物質の層間挿入が困難になることがある。
【0027】
無機層状化合物は、市販されているものを使用することができ、市販されているスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「クニピアシリーズ」、「スメクトンシリーズ」(クニミネ工業株式会社)や、市販されている膨潤性マイカやスメクタイト系層状ケイ酸塩としては、例えば、「TNシリーズ」、「TSシリーズ」、「NHTシリーズ」(トピー工業株式会社)、「ルーセンタイトシリーズ」「ミクロマイカシリーズ」「ソマシフシリーズ」(コープケミカル株式会社)等を挙げることができる。いずれの市販品も、結晶構造、陽イオン交換容量や比表面積等、その性質に応じて種々のグレードがあるが、本発明では、いずれも用いることができる。
【0028】
本発明において、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体については、錯体を形成する有機配位子であるトロポロン系化合物として、好適には、例えば、ヒノキチオール,β−ドラブリン,α−ツヤプリシン,γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン等が例示される。錯体を形成する中心金属としては、Cu、Zn、Ni及びAl等あるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンが例示される。本発明において、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体は、無機層状化合物の層間に物理的あるいは静電的に保持されている。すなわち、無機層状化合物の層間は、一般には、陽イオンが静電的に保持されているが、本発明においては、層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体が保持されている。
【0029】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ有機無機複合材料を製造するには、例えば、次のような方法によることができる。先ず、無機層状化合物を任意の重量分計量する。これに、脱イオン水を適量添加し、充分に撹拌を行い、無機層状化合物の重量濃度が0.1〜10wt%程度となる無機層状化合物懸濁液を調製する。次に、使用する無機層状化合物の陽イオン交換容量当量に対し、0.1〜3倍量分の脱イオン水あるいは有機溶媒の金属塩溶液を調製する。一方で、この陽イオン交換容量当量に対し、0.3〜9倍量分のトロポロン系化合物を秤量し、脱イオン水あるいは有機溶媒に溶解し、トロポロン系化合物溶液を得る。
【0030】
この時、使用する有機溶媒は、金属塩あるいはトロポロン系化合物が溶解すれば良く、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール及びアセトン等が使用できる。次に、金属塩溶液とトロポロン系化合物溶液を充分に混合撹拌し、金属−トロポロン錯体を得る。必要であれば、加熱により、錯体形成反応を促進しても良い。合成された金属−トロポロン錯体は、使用する金属溶液や溶媒の種類により、溶液状態あるいは懸濁液状態として得ることができる。
【0031】
この金属−トロポロン錯体を、あらかじめ分散させておいた無機層状化合物懸濁液中に投入し、撹拌しながら陽イオン交換反応を行うことで、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に挿入、担持する。交換反応速度は、混合した上記懸濁液を加熱することで、早めることができる。反応は、懸濁液温度が5℃付近からでも進行するが、5〜90℃付近までの加熱を行い、交換反応を円滑に進行させることが望ましい。反応時間は、設定した温度条件によって変化するが、0.5〜72時間程度が適当である。
【0032】
使用する中心金属イオンや有機配位子の種類によって、最適反応温度や反応時間は勿論異なる。加熱反応中には、反応系の水分が蒸発しないように、反応容器上部に水冷の冷却管を装備することが好ましい。反応終了後、固液を分離洗浄して金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ有機無機複合材料を得ることができる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、凍結乾燥、噴霧乾燥あるいは加熱乾燥等が挙げられる。更に、金属−トロポロン錯体を層間に取り込んだ有機無機複合材料懸濁液を平面に展開・乾燥し、キャスト膜として得ることもできる。
【0033】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、ぺレット等の、散布又は塗布に適した形態に任意に製剤加工して、加工製品とすることができる。加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により製造することができる。
【0034】
本発明の生理活性機能を有する有機無機複合材料は、無機層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体がイオン化して存在しているため、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の系外への徐放速度を制御することが可能であり、生理活性効果の持続性が極めて高い。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0035】
本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間に担持した有機無機複合材料は、無機層間に金属−トロポロン錯体が、静電的に固定化されて存在している。そのため、本発明の有機無機複合材料の合成に使用する無機層状化合物を、陽イオン交換容量や結晶構造、比表面積等から適宜選択して、層の荷電量と電荷分布割合を考慮することにより、層間内における生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の保有量や、層間内における生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体の保持力を制御することができる。
【0036】
すなわち、上記因子を選択制御することで、生理活性作用を有する金属−トロポロン錯体が徐々に放たれて行く徐放速度を制御することが可能であることから、生理活性効果の程度及び持続性・耐候性を制御することができ、また、持続性を極めて長くすることもできる。目的や使用環境に応じて、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料と、他の有機あるいは無機材料と混合して成形体を形成して使用することも可能である。
【0037】
従来、層間支柱を有する層状粘土成分と、その層間空隙中にゲストとしてヒノキチオールを導入したヒノキチオール−粘土複合体や、塩基交換能を有する膨潤性粘土に抗菌防黴剤及び塩基性物質を含有させた粘土複合物、ヒノキチオール等の殺菌剤と水膨潤性粘土鉱物との複合体、セラミックス中に含まれるカルシウムイオン又はマグネシウムイオンにヒノキチオールを配位、包接させたセラミックス系組成物等が提案されている。しかし、それらは、ヒノキチオール単体を粘土ないしセラミックスに混合又は配位させたものであり、その徐放効果は限られたものであり、高い徐放性を付与することは困難であった。
【0038】
これに対して、本発明は、主原料として、層間に交換性陽イオンを有し、所定の陽イオン交換容量(CEC)を有する無機層状化合物を用いること、無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、そのカチオン交換性を利用してこの無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換すること、それにより、トロポロン類化合物を金属−トロポロン錯体の形で層間に担持させること、が重要であり、それにより、金属−トロポロン錯体を無機層状化合物の層間に安定に担持させて、著しく徐放性を向上させた有機無機複合材料を合成することを実現可能としたものである。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した新規有機無機複合材料、その製造方法及びそれを用いた加工製品を提供することができる。
(2)本発明の有機無機複合材料は、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の持続性や保水性、耐候性及び環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能である。
(3)本発明の有機無機複合材料の層間では、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体が、ナノメートルオーダーで均一に分散しているため、有機無機複合材料を培地表面あるいは田畑などに使用する場合でも、均一に散布又は塗布し、培地あるいは土などと均一に混合できるので、植物生長調節機能、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の生理活性作用を有効に及ぼすことができる。
(4)本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する有機物や金属イオン、有機金属錯体の徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、例えば、任意の製剤形態を有する加工製品とすることもできる。
(5)低コストでかつ安全に、目的に応じた機能を賦与した加工製品を製造することができる。
(6)加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられている方法により製造することができる。
(7)加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計が可能であるため、広範な産業分野での利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
(1)銅−ヒノキチオール錯体を無機層状化合物のモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の塩化銅2水和物水溶液と、CECに対して2倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、黄緑色の銅−ヒノキチオール錯体を得た。
【0042】
この銅−ヒノキチオール錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状の銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオールを層間担持した有機無機複合体を得た。
【0043】
(2)銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の確認試験
得られた銅−ヒノキチオール/粘土複合体は、原料モンモリロナイトよりも疎水性が高く、有機金属錯体の層間挿入が行われたことが示唆された。図1に、銅−ヒノキチオール錯体を層間に担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。図1に示した有機無機複合体の粉末X線回折の結果より、低角度側に2.28nmの(001)回折線が確認された。この時の層間内間隔は1.32nm程度であり、この層間距離は、銅−ヒノキチオール錯体が、銅を中心としてその周囲を包囲する配位子である2分子のヒノキチオールの七員環が、層平面に対して縦に直立している距離にほぼ相当する。
【0044】
更にまた、低角度側に1.31nmの回折線が確認されるが、これは、銅−ヒノキチオール錯体が層間内で平行に配列している距離にほぼ等しい。この系においては、銅−ヒノキチオール錯体は、2種類の立体配置でモンモリロナイトの層間に存在していることが判る。また、この有機無機複合体の炭素含有率を測定した結果、銅−ヒノキチオール錯体は、陽イオン交換容量に対して、80%以上の含有率で層間内に存在していることが明らかとなった。これらのことより、銅−ヒノキチオール錯体は、モンモリロナイトの層間に確実に担持されたことが判明した。
【0045】
比較のため、対照試料として、無機層間にNa+のみを担持した原料モンモリロナイトのX線回折のプロファイルを図1に示した。粉末X線回折の結果より、モンモリロナイトの回折図形からは、粘土鉱物特有の回折ピークが多数確認された。基底面間隔とそれに起因する(00l)の回折線と(0kl)回折線が確認され、(001)回折線から計算された基底面間隔値は水一分子層を含む1.24nmであった。層間内の水分子のサイズを考慮すると、粘土層一層の厚さは0.96nm程度となることが判った。
【実施例2】
【0046】
(アルミニウム−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造)
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の塩化アルミニウム6水和物水溶液と、CECに対して3倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、白色のアルミニウム−ヒノキチオール錯体を得た。
【0047】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状のアルミニウム−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する有機無機複合体を得た。図2に、得られたアルミニウム−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。
【実施例3】
【0048】
(亜鉛−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造)
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイドゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の硝酸亜鉛6水和物水溶液と、CECに対して2倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、亜鉛−ヒノキチオール錯体を得た。
【0049】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状の亜鉛−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した生理活性機能を有する有機無機複合体を得た。図2に、得られた亜鉛−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。
【実施例4】
【0050】
(1)ニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の製造
モンモリロナイト粉末((株)クニミネ工業製、クニピアF)を丸底フラスコ中に所定量秤量し、脱イオン水を適量添加した後、充分に撹拌して、1〜2wt%のモンモリロナイトゾルを調製した。一方、陽イオン交換容量(CEC)当量の硝酸ニッケル6水和物水溶液と、CECに対して3倍量のヒノキチオール(C10H12O2)エタノール溶液を混合撹拌して、黄色のニッケル−ヒノキチオール錯体を得た。
【0051】
この錯体を、あらかじめ調製しておいたモンモリロナイトゾルに添加し、40℃で撹拌しながら48時間保持して交換反応を行った。反応終了後、得られた生成物を脱イオン水により洗浄した後、40℃電気乾燥機中で乾燥させ、粉末状のニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイト層間に担持した生理活性機能を有する有機無機複合体を得た。図2に、得られたニッケル−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の粉末X線回折の結果を示す。
【0052】
(2)実施例2、3及び4のアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の確認試験
図2に示した粉末X線回折の結果より、モンモリロナイトの基底面間隔値は、層間のナトリウムイオンに水分子が配位した水分子1層分にほぼ相当する1.24nmであり、(00l)と(hk0)回折線が確認された。上記金属−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイト懸濁液に投入すると、凝集塩効果による相分離が観察されたことにより、層間挿入反応が生じたことが示唆された。
【0053】
アルミニウム−ヒノキチオール錯体を挿入した試料は、層間距離が1.59nmにまで拡大した。この時の層間内距離は0.63nmであり、ヒノキチオールの7員環が層内に対して平行に2層配列した距離にほぼ等しい。また、長周期構造に起因する(003)回折線と原料モンモリロナイトの(hk0)回折線も確認された。
【0054】
亜鉛−ヒノキチオール錯体を挿入した試料についても、同様の挙動が確認され、基底面間隔値は1.52nmであった。ニッケル−ヒノキチオール錯体を反応させた系では、基底面間隔値が1.51nmとなり、層構造に起因する(003)と(005)回折線も確認された。
【0055】
合成された複合体の基底面間隔値は、いずれも1.5nm程度であり、使用した遷移金属イオンの水和半径は、およそ水2分子に相当することを考えると、配位子が層間に対して(屈曲しながら)平行に配列した距離とほぼ等しい。この基底面間隔値は、金属錯体との反応前のモンモリロナイトの基底面間隔値である0.96nmと比較して、明らかに拡大しているため、これらの金属錯体が、モンモリロナイトの層間に挿入されたことが判明した。
【0056】
(3)実施例1、2、3及び4の銅、アルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱的挙動
実施例に準じた方法で得られた複合体の熱的挙動を調査するため、示差熱重量分析装置を用いた分析を行った。それぞれの試料について、昇温速度5℃/分、1050℃までの熱処理を行い、熱的過程における熱重量変化(TG)と、熱的過程における示差熱変化、すなわち、吸熱及び発熱挙動(DTA)をモニターした。図3に、原料モンモリロナイトの示差熱重量分析曲線を示す。また、図4に、ヒノキチオールの示差熱重量分析曲線を示す。また、図5及び図6に、銅及びアルミニウム−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線を示す。
【0057】
図3に示した原料モンモリロナイトからは、100℃付近での急激な熱重量減少と吸熱ピークが確認された。これは、表面吸着水と、層間内に存在するナトリウムイオンに配位している水分子の離脱によるものである。また、600〜700℃付近の熱減量と吸熱ピークは、結晶構造内の水酸基の離脱に起因する。図4に示したヒノキチオールのみのTG曲線からは、150℃付近より熱減量を開始し、300℃付近で終了する。50℃付近と200℃付近の融解と分子脱離による吸熱ピークと、250〜300℃には、残存炭素質燃焼の発熱ピークが観察された。
【0058】
図5及び図6に示した銅及びアルミニウム−ヒノキチオール担持モンモリロナイトは、類似の熱分析曲線を示した。300〜400℃付近の層間内炭素質の燃焼による発熱ピークと、300℃付近からの熱重量減少が観測された。それぞれの理論有機物含有率を計算すると、26.6wt%及び36.1wt%であり、最終熱重量減量率と吸着水率から算出した数値とほぼ一致していた。
【0059】
図7及び8に、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール担持モンモリロナイトの熱分析曲線を示す。亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体を担持したモンモリロナイト複合体の両試料について考察してみると、それぞれのDTA曲線より、400℃付近の発熱ピークの高さ(発熱量)が、銅及びアルミニウム−ヒノキチオール担持モンモリロナイトのそれと比較して、極めて低いことが判る。
【0060】
更に、200℃付近までの低温領域において、10wt%以上の急速な熱減量が確認され、最終減量率は、共に25wt%程度であった。それぞれの理論有機物含有率は26.6wt%と35.4wt%であることを考え合わせると、亜鉛及びニッケルのヒノキチオール錯体は、粘土層間に存在してはいるが、ヒノキチオールと錯体を形成する安定度定数が銅やアルミニウムのそれと比較して低いために、低温側で離脱しているものと考えられる。
【0061】
ヒノキチオール自体は、昇華性があり、融点が低く、極めて耐熱性が低い有機物であるが、金属−ヒノキチオール錯体として無機層状化合物への層間挿入を行うと、内部有機物の燃焼開始温度は400℃付近まで上昇する。上記の結果より、トロポロン類化合物を金属−トロポロン錯体の形で無機層状化合物の層間へ挿入することで、層間内部に静電的に固定された有機配位子の耐熱性は、大幅に向上し、それにより、その生理活性機能の徐放性を向上させることができることが明らかとなった。
【0062】
(4)実施例1の銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱処理後の挙動
銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した抗菌防カビ材料の耐熱性を検討するために、熱処理後の試料について、各種測定を行った。実施例1で得られた銅−ヒノキチオール粘土複合体について、電気炉を用いた熱処理(空気中、昇温速度10℃/分、保持1時間)を行った。処理温度は、それぞれ200、250、300、400及び500℃とした。
【0063】
各熱処理温度にて得られた試料について、粉末X線回折による分析を行った。図9に、その結果を示す。粉末X線回折の結果より、未処理試料からは2.28nmの基底面間隔値を示す回折線と、それに隣接して層構造に起因すると思われる回折線が確認された。配位子であるヒノキチオールは、銅イオンと2:1型の平面錯体を形成することが知られており、層間に対し直立して配置していると仮定すると、基底面間隔値は2.45nmとなる。(001)回折線は、250℃処理まで2.2nm程度の数値を示していたが、300℃処理で1.46nmまで低下した。これに伴い、(002)と思われる回折線も高角度側にシフトした。400〜500℃処理では、層内有機物の離脱に伴い、1.3nmまで減少したが、中心化学種である銅の酸化還元状態は、X線的には確認されなかった。
【0064】
各熱処理段階における試料の構造変化を調査するために、各熱処理温度毎の試料について、CHNコーダーを用いた炭素含有率測定結果と、粉末X線回折より得られた基底面間隔値の変化を図10に示す。これによると、炭素含有率の変化は、250℃処理後までは一定の数値を保持しており、層間内有機物である銅−ヒノキチオール錯体への熱的影響は軽微であることが確認される。これは、基底面間隔値についても同様の傾向を示しており、この温度領域までの層間隔の変化は微小である。しかし、処理温度が300℃以上になると、炭素含有率、基底面間隔値とも急激な減少を開始する。500℃処理後には層間内有機物は殆ど脱離し、それに伴い層間隔も収縮する。これらのことより、内部有機物は250℃付近までの耐熱性を有することが判る。
【0065】
(5)実施例1の銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の赤外吸収スペクトル
図11に、得られた銅−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体と、錯体の配位子であるヒノキチオールの赤外吸収スペクトルの結果を示す。使用した原料モンモリロナイトである粘土鉱物特有の吸収である、3624cm−1に八面体のAl−OH伸縮による吸収、3434cm−1に層間水分子のOH伸縮振動による吸収が見られた。1639cm−1の吸収も、吸着水のOH伸縮振動による。また、1038cm−1には四面体Si−O−Si伸縮振動が、914cm−1には八面体Al−OH変角振動、及び847cm−1には(Al、Mg)−OH変角振動に帰属する強い吸収が確認された。
【0066】
更に、520、467cm−1にはSi−O−Al変角振動とSi−O−Mg変角振動がそれぞれ確認された。銅−ヒノキチオール担持モンモリロナイトの赤外吸収スペクトルの結果より、2965、2873cm−1にCH3基及び七員環のC−H伸縮振動、1593、1513cm−1の七員環分子骨格に帰属するC=C伸縮振動が存在し、1434及び1356cm−1にCH3基及び七員環のC−H変角振動、また、812、741cm−1には芳香環C−H変角振動による吸収が確認された。上記複合体の系については、挿入有機物に特有の吸収と、それらの層間担持に伴う若干のシフトが確認され、これらのことから、目的とする有機無機複合体が合成されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上詳述したように、本発明は、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料とその製造方法に係るものであり、本発明により、優れた生理活性機能、例えば、病害虫防除機能、雑草防除機能、抗微生物機能等の持続性や保水性、環境親和性を有し、生活環境や医療福祉環境、植物の組織培養、農業、植林をはじめとする林業全般、植物栽培などに応用可能な金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を提供することができる。この有機無機複合材料は、無機層状化合物の層間では、生理活性機能を有する有機金属錯体がナノメートルオーダーで均一に分散しているため、培地表面や田畑へ使用された場合でも分散性に優れているという利点を有する。
【0068】
また、本発明の生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料は、そのままでの使用も勿論可能であるが、活性機能を有する金属−トロポロン錯体の系外への徐放速度を制御できるため、生理活性効果の持続性が極めて高く、任意の製剤形態を有する加工製品とすることができる。加工製品を製造する方法は、特に限定されず、生理活性機能を有する有機無機複合材料を油性基剤中に混合溶解する方法や、一般に用いられる方法により適宜製造することができる。こうした加工製品は、使用環境に応じた合目的な設計及び製造が可能であるため、本発明の有機無機複合材料を含有する加工製品は、広範な産業分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図2】本発明の実施例2、3及び4に係る、生理活性機能を有するアルミニウム、亜鉛及びニッケル−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体と、対照試料である原料モンモリロナイトの粉末X線回折図形である。
【図3】本発明の実施例1に係る、無機層状化合物である原料モンモリロナイトの示差熱重量分析曲線である。
【図4】本発明の実施例1に係る、有機配位子であるヒノキチオールの示差熱重量分析曲線である。
【図5】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図6】本発明の実施例2に係る、生理活性機能を有するアルミニウム−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図7】本発明の実施例3に係る、生理活性機能を有する亜鉛−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図8】本発明の実施例4に係る、生理活性機能を有するニッケル−ヒノキチオール錯体を層間担持した有機無機複合体の示差熱重量分析曲線である。
【図9】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱処理前後の粉末X線回折図形である。
【図10】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の熱処理前後の炭素含有率と基底面間隔値である。
【図11】本発明の実施例1に係る、生理活性機能を有する銅−ヒノキチオール錯体をモンモリロナイトの層間に担持した有機無機複合体の赤外吸収スペクトルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−トロポロン錯体を層間担持して、その生理活性機能の徐放性を向上させた有機無機複合材料であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入、担持させたことを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項2】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項3】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項4】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項5】
層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、請求項4に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の有機無機複合材料を製造する方法であって、無機層状化合物を主原料とし、その無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、この無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換することにより、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を合成することを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項7】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、請求項6に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項8】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、請求項6に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項9】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項6に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする加工製品。
【請求項1】
金属−トロポロン錯体を層間担持して、その生理活性機能の徐放性を向上させた有機無機複合材料であって、無機層状化合物を主原料とし、この無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入、担持させたことを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項2】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項3】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項4】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項1に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項5】
層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトのスメクタイト族粘土鉱物、バーミキュライト、又は膨潤性雲母である雲母粘土鉱物あるいはフッ化雲母である、請求項4に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の有機無機複合材料を製造する方法であって、無機層状化合物を主原料とし、その無機層状化合物の層間に生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を挿入して、この無機層状化合物の層間に存在する交換性陽イオンと、生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を交換することにより、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を合成することを特徴とする、金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項7】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する金属カチオンが、Cu、Zn、Ni及びAlあるいは遷移金属群の中から選ばれた少なくとも一種以上の金属イオンである、請求項6に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項8】
生理活性機能を有する金属−トロポロン錯体を形成する有機配位子が、ヒノキチオール、β−ドラブリン、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン及び4−アセチルトロポロン中から選ばれた少なくとも一種以上の有機配位子である、請求項6に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項9】
主原料とする無機層状化合物が、天然もしくは合成の層状粘土鉱物、又は天然もしくは合成の膨潤性雲母である、請求項6に記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の金属−トロポロン錯体を層間担持した有機無機複合材料を含有し、任意の形態に製剤加工されていることを特徴とする加工製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−195600(P2008−195600A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1715(P2008−1715)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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