説明

金属の溶媒抽出方法

【課題】 一年を通じて抽出量をアップし、その抽出量を維持できる手法を提供する。 冬季および寒冷地においては、更に重要な課題となる。
【解決手段】DBC溶媒の温度を継続して、25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金の溶媒抽出方法に関する。
特に冬季或いは低温度の地域に於いて、溶媒が低温と成り金属の抽出が困難に成る場合に於ける対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金抽出は、反応が早いためミキサーセットラーを用いて連続操作を行っている。ミキサーセットラーでは、水溶液相と溶媒相を分相させ、金抽出後のジブチルカルビトール(以下DBCと称す。)を回収している。 金抽出後のDBCは、金還元工程で金を還元分離した後、金抽出前DBC貯槽に送られ、定量ポンプにてミキサーセットラーに送り、金抽出操作に用いている。
【0003】
DBCは第4類第3石油類に該当し、これまでは常温で用いていた。
そのため金抽出に供与されるDBCの温度は、金抽出前液温度および気温の影響を受け変動していた。
【0004】
上記の問題は、意外にも特開2001−316735号(特許文献1:段落0025、0046、図1等)においてもDBCによる金抽出時の温度は、全く意識されていない。
これは、DBCが、抽出率が高く、温度による影響を当業者は余り意識しなかったためと思われる。
【0005】
また特開平02−310326号(特許文献2:実施例2等)にもDBCを用いた金の抽出に関しての記述があるが、温度に関する記載は全く無い。
【0006】
【特許文献1】特開2001−316735号
【特許文献2】特開平02−310326号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって気温が下がる冬期は、夏期と比べ抽出能力が低下する問題を認識し、この対策により一年を通じて一定の抽出能力を維持できる手法が要望されるに至った。
又この問題は、寒冷地においては、更に重要な問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、以下の発明を成した。
即ち本発明は、
(1) DBC溶媒の温度を、継続して25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
(2)上記(1)の溶媒の加温方法に於いて、溶媒を直接或いは、間接的に昇温することを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
(3)DBC溶媒と接触させる対象処理溶液の温度を、熱媒体により26℃以上に保持し、前記昇温した溶液と接触させ、DBC溶媒の温度を25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法
(4) DBC溶媒と接触させる対象処理溶液の温度を、熱交換器により26℃以上に保持し、前記昇温した溶液と接触させ、DBC溶媒の温度を25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【0009】
(5)金属抽出後の溶媒温度を検知し、金属抽出前液の加熱温度を制御することを特徴とする上記(4)記載の金属の溶媒抽出方法。
(6)金属抽出後の溶媒のスクラビングに供する溶液も加温し、DBC溶媒の温度を25℃以上に保持したスクラビングを可能とすることを特徴とする上記(4)及び又は(5)記載の金属の溶媒抽出方法。
(7)上記(4)〜(6)記載の熱交換器が、蒸気及び又は温水を熱媒体としたことを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【0010】
(8)上記(4)〜(7)記載の熱交換器がシェル アンド チューブ方式であり、内壁をテフロンライニングとし、テフロンチューブ内或いはテフロンチューブ外に対象処理液を流し、加温することを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
(9)上記(4)〜(8)記載の金属が、金であることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、
(1)年間を通じて、抽出能力のアップを図れるが、特に気温の低い冬季或いは寒冷地において、抽出能力アップの効果が大きい。
(2)溶媒の対象処理液による間接加熱は、直接加熱法と比較して、より高い安全性を確保できる。
【0012】
(3)金抽出法の前工程における一態様の処理として、溶液中の鉛、テルル、アンチモンを除去するため、溶液の温度を下げ、前記不純物を析出分離・除去している方法があるが、この場合、冬季は、溶液の温度が5℃以下と成り、金抽出能力が著しく低下する。しかし、本発明を採用することで、金抽出能力の低下を未然に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明に関して、詳細に説明する。
本発明に関する対象の液は、金が溶解する酸性浴である。例えば、塩酸酸性である。金の濃度は、例えば 1〜50g/Lの液である。
【0014】
該液中の金を溶媒であるDBCにより、抽出する。この際に、溶媒の温度により、金の抽出量が(同時に比重も異なる)異なることを本発明者等は、知見している。このため溶媒の温度を冬季等の外気の低い場合は、特にあげることが望ましい。
また、継続して25℃以上に保持できることにより、一定の抽出量が維持できることとなり、一定の処理能力を維持できることとなり、企業活動上重要な要素となる。
ただ直接溶媒の温度を上げるには、地域によっては、多くの制約や必要となる設備費の増大を招くことから、予め対象の処理液を熱媒体により、温度を上昇させて置くことが望ましい。
【0015】
熱媒体とは、例えば熱交換器等による方法がある。
図1に示すように、例えば金の抽出前の対象処理液は、熱交換器に通される。
熱交換器は、例えば蒸気及び又は温水を熱媒体とし、熱交換器の内壁は、テフロン性とする。 更にテフロンチューブを用いて、チューブ内に対象処理液を通過し、昇温させる方法、或いはその反対の態様も考えられる。
【0016】
蒸気熱交換器を出た対象処理液は、26〜60℃程度に昇温される。
該昇温した処理液とDBC溶媒とが接触することにより、必然的に抽出後の溶媒の温度は、冬季或いは、冷寒地であっても25℃以上の保持されることになる。
これにより、例えば分相性を確保したところでの金の抽出量は、10℃では38g/Lであったものが、26℃では47g/Lと、1.2倍以上の能力アップを図ることができる。
【0017】
又溶媒の温度は、抽出後の溶媒の温度を感知し、対象処理液の熱交換器出口の温度を感知することにより、熱交換器の蒸気量及び又は温水を自動的に調整できるようにすることにより、変動の無い温度管理ができる。
即ち図1においては、T2において、溶媒の温度を検知し、T1の処理対象温度を感知し、蒸気量及び又は温水の温度或いは液量を自動調節する。
【実施例】
【0018】
以下図1に則して、具体例を説明する。
図1に示す装置により金抽出前液の温度を熱交換器により加温し、26〜39℃とした。
この結果、表1に示すように対象処理液中の金をミキサーセットラーにおいて、抽出した後のDBCの温度は、26〜30℃と昇温した。
これにより、金のDBCによる抽出量を表1に示すように47〜51g/Lとしても分相性を確保でき、操業が可能と成った。
また図2からDBCの温度が、25℃以上において、好ましい金の抽出量となることが把握される。
抽出後のDBCの温度は、T1において測定し、蒸気量は、対象処理液の熱交換器出口の温度T2を感知し、熱交換器の蒸気量を調整し、一定したT2温度と成るように調整し、DBCの温度を一定とした。
加温を行わなかった場合と比べ、2割以上の増産が可能となった。
【表1】

【0019】
(比較例)
加温を行わなかった場合、DBCの温度は、10〜18℃となり、DBC中の金の抽出量を、38〜43g/L以下にしなければ分相性を確保し、操業を継続することが出来なかった。
また、金の抽出量が低く、1日の間でDBCの温度(=比重)が変化するため、分相性を確保した上で抽出量の最大を得るためには、対象処理液流量とDBC流量のきめ細かい調整・管理が必要となり、抽出作業も煩雑であった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用される溶媒加温装置の略図の一態様である。
【図2】DBCを加温した場合と加温しない場合の金抽出量の一態様を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブチルカルビトール(以下DBCと称す。)溶媒の温度を継続して、25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【請求項2】
請求項1の溶媒の加温方法に於いて、溶媒を直接或いは、間接的に昇温することを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【請求項3】
DBC溶媒と接触させる対象処理溶液の温度を、熱媒体により26℃以上に保持し、前記昇温した溶液と接触させ、DBC溶媒の温度を25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【請求項4】
DBC溶媒と接触させる対象処理溶液の温度を、熱交換機により26℃以上に保持し、前記昇温した溶液と接触させ、DBC溶媒の温度を25℃以上に保持し、溶液と溶媒の分相性を良好にし、抽出能力を高めることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【請求項5】
金属抽出後の溶媒温度を検知し、金属抽出前液の加熱温度を制御することを特徴とする請求項4記載の金属の溶媒抽出方法。
【請求項6】
金属抽出後の溶媒のスクラビングに供する溶液も加温し、DBC溶媒の温度を25℃以上に保持したスクラビングを可能とすることを特徴とする請求項4及び又は5記載の金属の溶媒抽出方法。
【請求項7】
請求項4〜6記載の熱交換器が、蒸気及び又は温水を熱媒体としたことを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【請求項8】
請求項4〜7記載の熱交換器が、シェル アンド チューブ方式であり、内壁をテフロンライニングとし、テフロンチューブ内或いはテフロンチューブ外に対象処理液を流し、加温することを特徴とする金属の溶媒抽出方法。
【請求項9】
請求項1〜8記載の金属が、金であることを特徴とする金属の溶媒抽出方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−16657(P2006−16657A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194904(P2004−194904)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(397027134)日鉱金属株式会社 (29)
【Fターム(参考)】