説明

金属ガラス合金の製造方法、および金属ガラス合金

【課題】耐磨耗性と摺動性とを両立するとともに、耐久性に富んだ金属ガラス合金の製造方法を提供すること。
【解決手段】合金体18は、表面では密に、内面に行くほど疎に形成された窒化ホウ素層を有する金属ガラス合金の成形物である。このような合金体18は、ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む金属ガラス合金(原料)を窒素雰囲気中で成形、または加熱処理することにより製造することができる。窒化ホウ素は、優れた潤滑性、強度を有しているため、合金体18の表面に窒化ホウ素層が形成されることにより、潤滑性、および耐磨耗性を高めることができる。さらに、窒化ホウ素が合金の一部として一体化(分布)したものであるため、剥離してしまう恐れはなく、長期間に渡って耐磨耗性、摺動性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス合金の製造方法、および当該製造方法によって製造された金属ガラス合金に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の金属材料を主成分とし、所定の条件を満たす元素を含む材料を混合した原料を、溶融状態から極めて急速に冷却すると、結晶が形成される前のランダムな非晶質状態の合金が形成される場合がある。このような合金は、所定の温度領域においてガラスの性質を有することから、「金属ガラス合金」と呼ばれている。
この金属ガラス合金は、一般の金属材料よりも、強く(高強度)、しなやか(低ヤング率)であり、かつ、耐磨耗性にも優れているため、これらの物性を活かした用途が検討されている。例えば、高強度、かつ、しなやかさが求められる圧力センサーのダイヤフラムや、強度と、耐摩耗性とが必要な歯車などへの適用が進められている。
【0003】
金属ガラス合金を歯車に用いた場合、鋼などの金属材料を用いた場合と比べて、数倍以上の耐久性を確保することが可能となる。なお、歯車に用いる場合には、噛み合う歯車の硬度や、摩擦係数が異なると、一方の歯車の磨耗が著しく進行してしまうため、2つの歯車ともに金属ガラス合金を用いることが好ましい。
他方、連続駆動が必要な歯車や、回転軸などの用途においては、金属ガラス合金を超えた耐久性(高硬度、高強度)や、摺動性(低摩擦係数)が求められていた。
【0004】
このような問題に鑑み、金属ガラス合金の表面に機能膜を後付け形成する技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、スパッタリングやCVD法などを用いて、金属ガラス合金の表面に窒化ホウ素膜を形成することが開示されている。これにより、窒化ホウ素の持つダイヤモンドに次ぐ硬さ(耐磨耗性)を付加することができるとしている。また、窒化ホウ素は、摩擦係数が小さいため、固体潤滑剤としても用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−265917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、表面の窒化ホウ素膜により、耐磨耗性と摺動性との両立を期待できるが、窒化ホウ素膜が剥離してしまう恐れがあるという課題があった。詳しくは、スパッタリングやCVD法などを用いて形成(後付け)された窒化ホウ素膜では、歯車の継続駆動に耐えられずに剥離してしまう恐れがあった。
つまり、従来技術で形成された窒化ホウ素膜を備えた金属ガラス合金では、十分な耐久性を確保することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
(適用例)本適用例に係る金属ガラス合金の製造方法は、(a)ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む原料を溶解する工程と、(b)溶解された原料を成形する工程と、(c)成形された合金を冷却する工程と、を含み、(a)〜(c)工程は、窒素雰囲気中で一貫して行われることを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、金属ガラス合金の形成工程において、ホウ素と雰囲気中の窒素とが反応し、窒化ホウ素が生成される。この反応は、ホウ素が露出している表面で活発に行われ、内面では比較的穏やかに行われる。
これにより、金属ガラス合金の表面では窒化ホウ素が密(層状)に形成され、内面に行くほど疎に形成された金属ガラス合金が形成される。換言すれば、窒化ホウ素の密度が表面から内部にかけて傾斜的に分布した金属ガラス合金が形成される。
この金属ガラス合金は、従来技術のように後付けされた窒化ホウ素膜ではなく、窒化ホウ素が一体となって分布したものであるため、剥離の問題は無く、長期間に渡って耐磨耗性、摺動性を維持することができる。
また、表面に窒化ホウ素が層状(皮膜状)に形成されるため、合金全体として金属ガラスの優れた強度特性を保持することができる。さらに、摩擦係数が小さい窒化ホウ素層が表面に形成されるため、異種材料との摺動でも優れた磨耗特性が得られる。
従って、耐磨耗性と摺動性とを両立するとともに、耐久性に富んだ金属ガラス合金の製造方法を提供することができる。
また、コバルトや鉄を含む金属ガラス合金では、表面に絶縁体の窒化ホウ素が配置されるため、高周波での渦電流が低減でき、良好な磁気特性も得ることができる。
【0010】
また、原料における金属材料は、窒素との化合物生成エネルギーがホウ素よりも大きいことが好ましい。
【0011】
また、(c)工程では、合金が100℃以下となるまで冷却することが好ましい。
【0012】
また、窒素雰囲気中における窒素ガスの純度は、99.9%以上であることが好ましい。
【0013】
(適用例)本適用例に係る金属ガラス合金の製造方法は、(x)ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む金属ガラス合金をガラス転移点の温度以下の温度で焼成する工程と、(y)成形された合金を冷却する工程と、を含み、(x)(y)工程は、窒素雰囲気中で一貫して行われることを特徴とする。
【0014】
本適用例によれば、成形後の無垢な金属ガラス合金に対して、後加工で、窒化ホウ素層を付加することができるため、切削加工が必要な形状など、鋳型では成形が難しい形状の合金体に対しても、容易に窒化ホウ素膜を付加することができる。
また、焼成温度は溶解温度よりも低いため、焼成チャンバーなどの設備を簡易的な設備とすることができる。さらに、焼成温度や、焼成時間を調整することにより、所望の厚さの窒化ホウ素層を形成することができる。
【0015】
また、金属材料は、窒素との化合物生成エネルギーがホウ素よりも大きいことが好ましい。
【0016】
また、(x)工程における焼成の温度は、150℃以上、かつ、ガラス転移点の温度以下であることが好ましい。
【0017】
また、(y)工程では、合金が100℃以下となるまで冷却することが好ましい。
【0018】
また、窒素雰囲気中における窒素ガスの純度は、99.9%以上であることが好ましい。
【0019】
(適用例)本適用例に係る金属ガラス合金は、ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む金属ガラス合金であって、窒素雰囲気中における加熱処理により形成された窒化ホウ素層を有することを特徴とする。
【0020】
本適用例によれば、表面に窒化ホウ素層が形成されるため、十分な強度(耐磨耗性)を得ることができる。さらに、摩擦係数が小さい窒化ホウ素層が表面に形成されているため、異種材料との摺動でも優れた磨耗特性が得られる。
従って、耐磨耗性と摺動性とを両立するとともに、耐久性に富んだ金属ガラス合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1の金属ガラス合金の成形装置を示す概略構成図。
【図2】製造方法の流れを示すフローチャート図。
【図3】(a);上述の製造方法で成形された金属ガラス合金の斜視図、(b);(a)におけるQ−Q断面の断面図。
【図4】金属ガラス合金内における窒化ホウ素の分布態様を示すグラフ図。
【図5】実施形態2に係る金属ガラス合金の製造方法の流れを示すフローチャート図。
【図6】(a)〜(c)焼成温度と形成される窒化ホウ素層の厚さとの相関関係の比較断面図。
【図7】(a);実施例1に係る合金体と従来品との摩擦係数を比較したグラフ図、(b);実施例1に係る合金体と従来品との透磁率を比較したグラフ図。
【図8】実施例2に係る評価装置の概要を示す要部の断面図。
【図9】実施例2に係る合金体と従来品との耐久試験結果を示す比較斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0023】
(実施形態1)
「成形装置の概要」
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の金属ガラス合金の成形装置を示す概略構成図である。
成形装置100は、供給源10、鋳型20、チャンバー30などから構成されている。詳しくは、成形装置100は、所望の雰囲気を設定可能なチャンバー30内に、鋳型20と、この鋳型20内に溶融材料を供給する供給源10とを備えた射出成形装置である。
鋳型20は、例えば、銅、耐熱鋼、超硬合金等で構成されており、キャビティ22内に溶融原料が充填されて成形体を形成する射出成形に用いられる。ここで、溶融原料としては、固化したときに金属ガラス合金となる組成の溶融原料を用いる。
【0024】
鋳型20には、上下方向に沿って角柱状のキャビティ22が設けられている。
キャビティ22は、上部が開口した有底穴であり、供給源10から供給される溶融原料がこの開口部(湯道)からキャビティ22内に充填されるようになっている。なお、キャビティ22の形状は、角柱状に限定するものではなく、歯車や、板状など、金型で成形可能な形状であれば良く、用途に応じて様々な形状とすることができる。
このようにして充填された溶融原料は、冷却されて固化することによりキャビティ22の形状をなし、金属ガラス合金で構成された成形体となる。なお、図1では、鋳型20を一体のブロックとして描いているが、実際は一対の雄雌型から構成されており、その間隙がキャビティ22となる。また、成形時には雄型(コア)と雌型(キャビティ)とを閉じてキャビティ22を形成し、成形後(冷却後)には雄型と雌型とを開いて、成形物を突き出し(エジェクター)するための油圧シリンダーを含む型締ユニットや、鋳型20を冷却するための冷却ユニットなどを備えているが、図示を省略している。
【0025】
供給源10は、溶融原料をキャビティ22の開口部に供給するものである。
この供給源10は、上部が開口した円筒状のノズル5と、ノズル5の外周に巻き付けられた高周波コイル7などから構成されており、石英製のノズル5内の原料8(金属ガラス合金の原材料)を高周波コイル7で加熱して溶融状態とし、その溶融原料をガス圧によりノズル5の下端部に形成されたノズル孔6から射出(吐出)させるようになっている。
なお、ノズル5の材質は、石英に限定するものではなく、原料8と反応しなければ材質は任意である。また、加熱方法も高周波コイル7を用いることに限定するものではなく、原料8を射出可能な状態に溶解可能な加熱方法であれば良い。
【0026】
チャンバー30は、その内部空間31の環境(雰囲気)を圧力を含めて外部環境と異なる所望の環境に設定可能なエアーチャンバーである。
チャンバー30には、真空ポンプ35と、ガス供給装置36とが接続されている。この構成により、内部空間31の環境(雰囲気)を任意に調整可能となっている。
【0027】
原料8としては、ホウ素(B)と、2元素以上の金属材料とを含む原料であれば良い。金属材料としては、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニオブ、(Nb)などの金属が好適である。また、2元素以上の金属材料に加えて、シリコン(Si)や、リン(P)などの非金属元素をさらに含んでいても良い。
好適例としては、例えば、Co66―Fe4―Si11―B17―Nb2が挙げられる。または、Co43−Fe20−Ta5.5−B31.5や、Fe85―Si2―B8―P4―Cu1、Fe36−Co36−Si4.8−B19.2−Nb4などを用いても良い。なお、各原料例の組成は、原子%濃度で表記している。
また、金属材料は、窒素との化合物生成エネルギーがホウ素よりも大きい材料であれば良く、Cr(クロム)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、Mo(モリブデン)などを用いても良い。同様に、非金属元素についても、シリコン(Si)や、リン(P)など、窒素との化合物生成エネルギーがホウ素よりも大きい材料であれば良い。これは、これらの材料を用いても、窒化ホウ素が優先的に生成されるからである。
また、成形(生成)される金属ガラス合金の組成は、Fe基、Co基、Ni基、Cu基、Hf基、Pt基、Pd基などのうち、いずれであっても良い。
【0028】
「製造方法」
図2は、本実施形態に係る製造方法の流れを示すフローチャート図である。
ここでは、本実施形態の製造方法について、図1および図2を用いて説明する。なお、成形に用いる装置は図1で説明した成形装置100である。
ステップS1では、ノズル5内に原料8をセットする。
ステップS2では、真空ポンプ35を用いて、チャンバー30の内部空間31の環境を10Pa以下に真空排気する。なお、10Paを超えて空気が残ってしまうと、空気中の酸素と原料8のホウ素との反応が進んでしまい、窒化ホウ素の生成が阻害されてしまう恐れがある。
【0029】
ステップS3では、ガス供給装置36により、チャンバー30内に窒素ガスを導入し、内部空間31の環境を10Pa以上にする。なお、窒素ガスの純度は99.9%以上であることが望ましい。それ以下の場合、例えば、10000Pa導入した場合に、0.1%にあたる10Paが酸素であったとすると、酸素が先に反応して酸化膜が形成されてしまう恐れがあるからである。
ステップS4では、高周波コイル7を用いてノズル5を加熱し、所定の温度で原料8を溶解する。なお、溶解温度は、原料成分に応じて適切な温度設定とする。
ステップS5では、溶解した原料8を鋳型20のキャビティ22内に射出(注入)する。なお、溶解温度を高くする、または溶解時間を長くすることにより、周囲の窒素との反応が進むため、金属ガラス合金の内部における窒化ホウ素の濃度を高めることができる。
ステップS6では、冷却ユニット(図示せず)により、鋳型20を100℃以下まで冷却する。
ステップS7では、鋳型20の雄雌型(図示せず)を開き、成形された金属ガラス合金を取り出す。なお、100℃以上で成形品を取り出してしまうと、大気中の酸素と合金構成元素とが反応して酸化膜を形成してしまう恐れがある。
【0030】
なお、ここまで成形装置100を用いた製造(成形)方法について説明したが、成形方法としては、鋳造法や、射出成形に限定するものではなく、上述した窒素雰囲気中においてホウ素を含む原料を用いて急速冷却を行う金属ガラス合金の成形方法であれば良い。
例えば、薄帯の作製に用いられる単ロール液体急冷法や、双ロール液体急冷法であっても良いし、ガン法、ピストン・アンビル法、トーションカタパルト法などの液体急冷法にも適用することができる。または、ガスアトマイズ法、傾角鋳造法や、遠心鋳造法であっても良いし、金属ガラス板や、棒棟をガラス転移点まで加熱した状態で、型を押し付けて形状転写する形状転写加工法などの成形方法にも適用することができる。
【0031】
図3(a)は、上述の製造方法で成形された金属ガラス合金の斜視図である。図3(b)は、(a)におけるQ−Q断面の断面図である。図4は、金属ガラス合金内における窒化ホウ素の分布態様を示すグラフである。
成形された合金体18は、キャビティ22(図1)を象った角柱状をなしている。なお、角柱の長辺における一端面を端面18aとしている。
また、図中のハッチングは、合金体18における窒化ホウ素の濃度(分布度合い)を模式的に表現しており、ハッチングが密な程、窒化ホウ素の密度が高いことを示している。
図3(a)に示すように、合金体18の端面18aを含む全ての面(表面)には、一様に窒化ホウ素が形成されていることが解る。
【0032】
また、図3(b)に示すように、合金体18は、端面18a(表面)で最も窒化ホウ素密度が高く、内部に行くほど窒化ホウ素密度が低くなっている。換言すれば、窒化ホウ素が表面で密に、内面で疎となるように形成されている。
図4は、この密度態様(分布)をグラフにしたものであり、縦軸には窒化ホウ素の密度を、横軸には表面からの深さを取っている。
当該グラフに示すように、合金体18の表面では、窒化ホウ素密度が略100%に近く、内部(中心部)に行くほど密度が低くなっているのが解る。換言すれば、合金体18の表面には、窒化ホウ素が皮膜状(層状)に形成(分布)されている。
これは、鋳造工程において、原料中のホウ素と雰囲気中の窒素とが反応し、窒化ホウ素が生成される際に、当該反応がホウ素が露出している表面で活発に行われ、内面では比較的穏やかに行われるからである。
これにより、合金体18の表面では窒化ホウ素が密に形成され、内面に行くほど疎に形成された金属ガラス合金が形成される。換言すれば、窒化ホウ素が表面から内部にかけて傾斜的に分布した合金体18が形成される。
【0033】
以上述べたように、本実施形態に係る金属ガラス合金の製造方法では、以下のような効果を得ることができる。
上述した通り、本実施形態の製造方法によれば、合金の表面では窒化ホウ素が密に形成され、内面に行くほど疎に形成された金属ガラス合金(合金体18)を得ることができる。
この金属ガラス合金は、従来技術のように後付けされた窒化ホウ素膜ではなく、窒化ホウ素が合金の一部として一体化(分布)したものであるため、剥離してしまう恐れはなく、長期間に渡って耐磨耗性、摺動性を維持することができる。
また、金属ガラス合金の表面に皮膜状(層状)に窒化ホウ素が形成されるため、窒化ホウ素の持つダイヤモンドに次ぐ硬さ(耐磨耗性)を金属ガラス合金に付加することができる。さらに、窒化ホウ素は、固体潤滑剤としても用いられているように、摩擦係数が小さいため、異種材料との摺動でも優れた磨耗特性を得ることができる。
従って、耐磨耗性と摺動性とを両立するとともに、耐久性に富んだ金属ガラス合金、および、その製造方法を提供することができる。
【0034】
また、コバルトや鉄を含む金属ガラス合金では、表面に絶縁体の窒化ホウ素が配置されるため、高周波における渦電流を低減することが可能となり、良好な磁気特性も得ることができる。
【0035】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る金属ガラス合金の製造方法の流れを示すフローチャート図である。
以下、本実施形態に係る金属ガラス合金の製造方法について説明する。なお、実施形態1と同一の構成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
【0036】
実施形態1の製造方法では、一連の鋳造工程において窒化ホウ素が形成されていたが、換言すれば、鋳造工程と窒化ホウ素形成工程とが一緒になっていたが、本実施形態の製造方法では、鋳造工程と窒化ホウ素形成工程とが区分けされている点が実施形態1と異なる。
詳しくは、本実施形態の製造方法は、あらかじめ別工程で成形された無垢の金属ガラス合金に対して、窒化ホウ素層を付加(追加形成)するための製造方法である。
【0037】
図2に戻る。
まず、無垢の金属ガラス合金の製造方法について図2を用いて説明する。
無垢の金属ガラス合金の製造方法は、図2のステップS3において、チャンバー30内に導入するガスが希ガスとなっている点のみが、実施形態1の製造方法と異なる。換言すれば、本実施形態で用いる金属ガラス合金は、希ガス雰囲気下において溶解、鋳造、および冷却された原料以外の添加物のないプレーンな金属ガラス合金である。
希ガスは、好適例としてヘリウム(He)、またはアルゴン(Ar)を用いる。または、ネオン(NE)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)を用いても良い。
また、無垢の金属ガラス合金の製造方法は、図1の成形装置100を用いた鋳造法に限定するものではなく、上述した希ガス雰囲気中において行われる成形方法であれば良く、前述した様々な製法を適用することができる。
【0038】
図5に戻る。
次に、図5を用いて、窒化ホウ素の形成工程について説明する。
無垢の金属ガラス合金としては、図3(a)に示した、角柱(角棒)状の成形物(合金体28)であるものとして説明する。なお、窒化ホウ素膜(層)は形成されていない無垢表面であるものとする。
そして、本形成工程では、窒素ガス雰囲気下で加熱が可能な焼成チャンバー(図示せず)を用いる。なお、特別な焼成炉を用いる必要はなく、窒素ガス雰囲気下で数百度の加熱が可能な装置であれば良い。例えば、室内環境を窒素ガス雰囲気とすることが可能な小型チャンバー内に、オーブンをセットした簡易装置であっても良い。
【0039】
ステップS11では、焼成チャンバー(図示せず)内に合金体28をセットする。
ステップS12では、焼成チャンバー内の環境を10Pa以下に真空排気する。
ステップS13では、焼成チャンバー内に窒素ガスを導入し、内部環境を10Pa以上にする。なお、窒素ガスの純度は99.9%以上であることが望ましい。それ以下の場合、酸素が混入していると、窒素よりも先に反応してしまい、酸化膜が形成されてしまう恐れがあるからである。
ステップS14では、合金体28を加熱し焼成する。焼成温度および焼成時間は、原料に応じて適切に設定する。焼成温度は、溶解温度よりも低く、合金体28のガラス転移点の温度から、−100℃までの温度の範囲内で設定することが好ましい。なお、−100℃までの範囲に限定するものではなく、150℃以上の温度であれば、窒化ホウ素層が形成され得る。
ステップS15では、合金体28の温度を100℃以下まで冷却する。
ステップS16では、焼成された合金体28を取り出す。なお、100℃以上で成形品を取り出してしまうと、大気中の酸素と合金構成元素とが反応して酸化膜を形成してしまう恐れがある。
【0040】
図6(a)〜(c)は、ステップS14における焼成温度と形成される窒化ホウ素層の厚さとの相関関係を示した比較断面図(画像)である。
ここでは、本実施形態の製造方法で形成される窒化ホウ素層の厚さと焼成温度との相関関係について説明する。
図6(a)〜(c)は、図3における合金体28の端面18aのQ−Q断面の拡大断面図であり、本実施形態の製造方法で形成された窒化ホウ素層の厚さを示している。詳しくは、図6(a)〜(c)は、それぞれ異なる焼成温度で形成された窒化ホウ素層を示している。
【0041】
まず、原料として、Co66―Fe4―Si11―B17―Nb2を用いて無垢の合金体28を形成した。この合金体28のガラス転移点は550℃である。
そして、図5のフローチャートに沿って、焼成温度の異なる3種類のサンプルを作成した。焼成温度は、470℃、500℃、550℃の3点とし、焼成時間は共通で1時間とした。
また、図4を用いて説明したように、窒化ホウ素層は、表面から内側にかけて除々に密度が変化しているため、正確な厚さを測定することは難しいが、密度約70%の周辺までで表層(密集)部分を形成していることが解る。この表層部分と、合金体の母材部分との境界は、図6(a)に示すように、濃淡の差として視覚的に判別可能である。
以下、説明する窒化ホウ素膜の厚さは、合金体28の端面28aの表面から、この視覚的な濃淡(コントラスト)差が顕著となる点で測定した寸法であり、前述した表層部分の厚さと略一致しているものと考察している。
【0042】
図6(a)に示すように、焼成温度が470℃の場合には、合金体28の端面28a(表面)に形成される窒化ホウ素膜の厚さは、約1μmであった。
図6(b)に示すように、焼成温度が500℃の場合には、合金体28の端面28a(表面)に形成される窒化ホウ素膜の厚さは、約2μmであった。
図6(c)に示すように、焼成温度が550℃の場合には、合金体28の端面28a(表面)に形成される窒化ホウ素膜の厚さは、約4μmであった。
このように、焼成温度と窒化ホウ素膜(層)の厚さとは略比例関係にあり、焼成温度が高くなるほど窒化ホウ素膜が厚くなることが解る。また、この実験では、焼成時間を一定としたが、発明者等の実験結果によれば、同じ焼成温度であっても、焼成時間を長くすることにより、ホウ素と窒素との反応が進み、窒化ホウ素膜が厚くなることが解っている。
【0043】
以上述べたように、本実施形態に係る金属ガラス合金の製造方法によれば、実施形態1での効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
本実施形態の製造方法によれば、成形後の無垢な金属ガラス合金に対して、後加工で、窒化ホウ素膜(層)を付加することができるため、切削加工が必要な形状などのように、鋳型では成形が難しい形状の合金体に対しても、容易に窒化ホウ素膜を付加することができる。
また、焼成温度は溶解温度よりも低いため、焼成チャンバーなどの設備を簡易的な設備とすることができる。
さらに、焼成温度や、焼成時間を調整することにより、所望の厚さの窒化ホウ素層を形成することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
実施例1では、実施形態1の製造方法を用いて形成した金属ガラス合金の摩擦係数、および透磁率特性を測定した。
実施形態1の製造方法により、Co66―Fe4―Si11―B17―Nb2を原料とした金属ガラス合金の合金体Aを製造した。合金体Aは、「幅×長さ×厚さ」が「5mm×20mm×1mm」の板状の形状とした。
【0045】
図7(a)は、実施例1に係る合金体と従来の合金体(従来品)との摩擦係数を比較したグラフである。
当該グラフでは、縦軸に摩擦係数を、横軸に従来品と本実施例1の合金体Aとを取っている。また、従来品は、合金体Aと同一サイズ、同一原料の無垢な(窒化ホウ素層が無い)金属ガラス合金である。摩擦係数の測定は、基準面に対して板状の合金体の表裏面のいずれかを接面させた状態で測定した。
当該グラフに示すように、従来品の摩擦係数が0.4なのに対して、合金体Aの摩擦係数は0.1と、1/4に軽減していることが解る。これは、窒化ホウ素層の有無による差と考察される。
【0046】
図7(b)は、実施例1に係る合金体と従来品との透磁率を比較したグラフである。当該グラフでは、縦軸に透磁率、横軸に周波数を取っている。
当該グラフに示すように、合金体Aの透磁率(実線)は、100Hz以上の周波数帯において、従来品(破線)よりも高くなっていることが解る。
この結果から、窒化ホウ素層を形成することにより、透磁率特性も向上することが解る。
【0047】
(実施例2)
図8は、実施例2に係る評価装置の概要を示す要部の断面図である。
実施例2では、実施形態2の製造方法によって製造した金属ガラス合金の耐摩耗性を評価するために、図8に示す評価装置70を用いて耐久試験を行った。
評価装置70は、歯車55と、当該歯車を回転自在に保持する一対の軸受60などから構成されている。
歯車55は、ギア51と、当該ギアを貫通する軸52と、軸の両端に取り付けられたほぞ53とから構成されている。
両端のほぞ53は、それぞれ対応する軸受60の穴に挿入されており、歯車55は、軸52の中心線Ceを回転軸として回転可能に保持されている。換言すれば、歯車55は、上下の軸受60の穴に挿入された両端のほぞ53を支点として回転する。
なお、歯車55を回転させる際には、駆動ギア(図示せず)をギア51に噛み合せて、駆動力を伝達する。
【0048】
ギア51、および軸52の材質は、無垢の金属ガラス合金を用いた。また、軸受60の材料には、ルビーを用いた。
本実施例では、常に軸受60に接しているため、ギア51よりも磨耗が激しいほぞ53に実施形態2の製造方法で製造した合金体Bからなるほぞを用いて評価を行った。
合金体Bは、Co66―Fe4―Si11―B17―Nb2を原料とした無垢の金属ガラス合金を、ほぞ53の形状に成形した後、実施形態2の製造方法を用いて窒化ホウ素層を形成したものである。また、合金体Bの焼成条件は、焼成温度500℃で、焼成時間を1時間とした。
また、比較例として、無垢の(窒化ホウ素層が無い)金属ガラス合金製のほぞを従来品として用いた。換言すれば、同じ原料で形成された無垢の金属ガラス合金製のほぞを従来品とした。
【0049】
図8は、実施例2に係る評価装置の概要を示す要部の断面図である。図9は、実施例2に係る合金体と、従来品との耐久試験結果を示す比較斜視図(画像)である。
耐久試験は、駆動ギア(図示せず)をギア51に噛み合せて、歯車55を一定速度で連続駆動(回転)させて、定期的にほぞ53の太さを測定する方法で行った。具体的には、一定速度を通常の回転速度10rpmに対して加速係数を乗じた回転速度(120rpm)とした加速試験を行った。なお、ほぞ53の初期状態における太さは、従来品、合金体Bともに125μmであった。
図9に示すように、12ヶ月経過した時点の太さは、従来品、合金体Bともに125μmであり、初期状態を維持している。
その後、従来品では、24ヶ月経過後の太さが112μm、36ヶ月経過後の太さが100μmと磨耗が進行していることが解る。
他方、合金体Bでは、24ヶ月経過後の太さが120μm、24ヶ月経過後の太さも120μmとなっており、従来品と比べて磨耗度合いが小さいことが解る。
これは、合金体Bの窒化ホウ素層の硬さにより耐磨耗性が向上していることと、摩擦係数の小ささにより摺動性が向上していることによる相乗効果によるものと考察される。
【符号の説明】
【0050】
5…ノズル、6…ノズル孔、7…高周波コイル、8…原料、10…供給源、20…鋳型、22…キャビティ、30…チャンバー、31…内部空間、35…真空ポンプ、36…ガス供給装置、100…成形装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む原料を溶解する工程と、
(b)前記溶解された前記原料を成形する工程と、
(c)前記成形された合金を冷却する工程と、を含み、
前記(a)〜(c)工程は、窒素雰囲気中で一貫して行われることを特徴とする金属ガラス合金の製造方法。
【請求項2】
前記原料における前記金属材料は、窒素との化合物生成エネルギーがホウ素よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項3】
前記(c)工程では、前記合金が100℃以下となるまで冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項4】
前記窒素雰囲気中における窒素ガスの純度は、99.9%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項5】
(x)ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む金属ガラス合金をガラス転移点の温度以下の温度で焼成する工程と、
(y)前記成形された合金を冷却する工程と、を含み、
前記(x)(y)工程は、窒素雰囲気中で一貫して行われることを特徴とする金属ガラス合金の製造方法。
【請求項6】
前記金属材料は、窒素との化合物生成エネルギーがホウ素よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項7】
(x)工程における前記焼成の温度は、150℃以上、かつ、前記ガラス転移点の温度以下であることを特徴とする請求項5または6に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項8】
前記(y)工程では、前記合金が100℃以下となるまで冷却することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項9】
前記窒素雰囲気中における窒素ガスの純度は、99.9%以上であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の金属ガラス合金の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属ガラス合金の製造方法で製造された金属ガラス合金。
【請求項11】
ホウ素と、二元素以上の金属材料とを含む金属ガラス合金であって、
窒素雰囲気中における加熱処理により形成された窒化ホウ素層を有することを特徴とする金属ガラス合金。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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