説明

金属ケイ素の精製方法

【解決手段】一方向凝固法により金属ケイ素を精製する方法であって、溶融した金属ケイ素を撹拌翼により最大線速50cm/sec以下で撹拌しながら一方向凝固する金属ケイ素の精製方法。
【効果】遠心法や沈降法等の他の工程を特に行わないで一方向凝固法だけでも金属ケイ素中の炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の不純物を効率よく低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ケイ素の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的なケイ素の主要な用途は、ケイ素樹脂の主原料や、半導体、合金成分としての添加剤などで、産業上広範な用途に使用されている。このケイ素の製造方法としては、通常、サブマージアーク炉に原料の珪石と還元剤となる炭材との混合物を導入し、高温で珪石を還元することで金属ケイ素を製造する。この金属ケイ素は純度が98〜99%程度であり、主要な不純物は鉄、チタン、アルミニウムなどである。
【0003】
このように製造するケイ素の用途で、半導体としての用途では、ケイ素の半導体物性を発現させるために超高純度に精製したものが必要である。その精製方法は、一般にはケイ素をハロゲン化して液体ないしはガス化し、これを精製した後に再度ケイ素に還元するシーメンス法と呼ばれる方法がとられるのが一般的である。この方法では確実に高純度のケイ素を製造することは可能なものの、その生産設備費や製造費は高額となってしまい、そのコスト相応な付加価値の高い用途に限定され、具体的にはLSI製造用ウェハーや、太陽電池セル用基板材料が主要な用途となる。
【0004】
一方、ケイ素の純度が高純度でなくても使用可能な用途として、ケイ素樹脂用の原料、鉄の脱酸材、アルミニウムの合金成分などがあり、この用途ではケイ素の純度はケイ素製造炉より出湯したままの純度でも使用が可能となる。
【0005】
最近、これらのケイ素の用途とは異なる新たなケイ素の用途が検討されている。これは例えばハードディスクドライブのメディアとしての用途や、LSIテスト用のプルーブ基板などであり、これらの用途においては、ケイ素を半導体などの機能材料としての使用ではなく、構造材料として使用するもので、ケイ素の電気的特性ではなく、研磨特性や熱膨張係数などの物理的特性が有用とされて使用が検討されている。このような用途でのケイ素には、半導体用途のような純度は必要とされないが、上記の研磨特性や熱膨張係数特性などケイ素が持つ特性をその用途に合致させるためには、金属ケイ素をそのままで使用するのではその目的の特性を発揮することは難しい可能性がある。
【0006】
これについて説明すると、ケイ素中の不純物には、大きく分類すると3種類の不純物が存在する。一つめは鉄やチタンのような金属元素成分で、これらの成分はケイ素とほとんど固溶しないのでケイ素製造炉から出湯した溶融ケイ素の凝固時に、これらの不純物がケイ素と分離してケイ素結晶内でケイ素結晶とは異なる第二相を形成することとなる。この第二相はケイ素とは別の相であるので、例えば研磨速度がケイ素と異なるなど、上記の用途に合わない特性となることがある。
【0007】
二つめは、ホウ素やゲルマニウムなど、ケイ素が融体から凝固する際もケイ素中に固溶体として溶け込み、第二相を実質的に形成しない不純物で、その熱膨張係数や反射率等がケイ素と同等であれば特に除去しなくても問題とならない不純物である。
【0008】
三つめは、溶融ケイ素中で固体として存在する不純物である。これには例えば金属ケイ素製造時に不可避的に混入する炭化ケイ素や、原料由来の酸化アルミニウムなどや、酸化カルシウムなどが該当する。これらの不純物は、ケイ素凝固時もそのまま固体ケイ素中に存在する。ケイ素の溶融温度でも固体である炭化ケイ素や酸化アルミニウムなどは、セラミック物質であって、高硬度物質で、難研削物質であり、しかもケイ素と熱膨張係数が異なる物質である。このため炭化ケイ素や酸化アルミニウムなどが、凝固したケイ素中に介在物(不純物)として存在すると、これら介在物近傍には凝固時の熱膨張由来の歪みが発生し、また、介在物自身の研磨特性もケイ素とは異なるので、ケイ素の目的とする用途には合致しないものである。
【0009】
上述のように、溶融した金属ケイ素中には固体成分として炭化ケイ素、酸化アルミニウムや酸化カルシウムなどが混入している。炭化ケイ素は金属ケイ素を製造する際の副産物として不可避的に存在する。また、上記酸化物、炭化物などはケイ素の溶融温度でも安定して存在するもので、その一部は溶融ケイ素中で浮遊中に互いに接触することで複合化合物となり、低融点化するので、固体から融体に変化して存在することもある。
【0010】
しかし、炭化ケイ素は金属ケイ素が生成する素反応で生成する物質であり、金属ケイ素の製造時には必ず生成し、この炭化ケイ素を経由して金属ケイ素が生成する。従って、金属ケイ素の製造時には未反応の炭化ケイ素が不可避的に混入する。これが溶融金属ケイ素中の介在物となる。耐熱性材料である炭化ケイ素は、金属ケイ素の融点付近の温度では分解しないので、溶融金属ケイ素中の介在物である炭化ケイ素は金属ケイ素製造炉中、或いは炉外の取鍋中でも安定的に存在する。
【0011】
これらの溶融金属ケイ素中の炭化ケイ素或いはその他の固体介在物の分離は、濾過などによってできる。濾過による方法では、炭素や多孔質炭化ケイ素など金属ケイ素溶融温度でも強度を有する材料を濾材として固体介在物を除去するものである。例えば、特開昭64−56311号公報(特許文献1)では、溶融したケイ素を濾過し、更に加熱して不純物炭素を炭化ケイ素化する方法が提案されている。また、特開平04−228414号公報(特許文献2)では、ケイ素の精製処理に先立って炭化ケイ素を濾過で除去する方法が提案されている。
【0012】
これらの方法では、除去された介在物のサイズは濾材の開孔サイズによって決定されてしまうもので、それよりも小さいサイズの介在物はほとんど除去できないし、溶融ケイ素を保持する容器と濾材との接合部のシールが高温故に良好な状態を維持できないなどの理由で、濾材の開孔径よりも大きなサイズの介在物が通過してしまう危険性があった。
【0013】
また、遠心力による分離法も提案されており、例えば独国特許発明第3416559号明細書では、溶融ケイ素より、固体の炭化ケイ素、二酸化ケイ素を遠心法、沈降法で除去する方法が提案されている。溶融するケイ素を収納する容器或いはるつぼを水平方向或いは垂直方向に回転させ、この回転によって固形介在物に作用する遠心力で介在物を容器外周部に集中させるというものである。この方法では、大きな介在物は容器外周に移動するものの、小さい介在物にとっては、小さい介在物に働く遠心力よりも溶融したケイ素融液内の温度差によって発生する溶融ケイ素の対流による力の方が大きく、期待した程の効果が発揮されない方法であった。
【0014】
一方、金属ケイ素中の不純物である金属元素は、ケイ素との凝固偏析係数が非常に小さい。それ故に、溶融ケイ素の凝固条件を適当な条件とすることで溶融ケイ素中の不純物金属元素は、凝固するケイ素中にほとんど取り込まれず、液相状態のケイ素に残留濃縮することでケイ素中の金属元素成分の排除が達成できることはよく知られている。この方法による代表的な金属不純物の除去方法は、一方向凝固と呼ばれる方法で、電気炉内のるつぼ中でケイ素を溶融させ、そのるつぼを電気炉内の高温部から低温部に一方向に移動することによってるつぼの低温部端からケイ素が凝固し始め、更に同じ方向にるつぼを移動することでるつぼ内のケイ素全体を一端から他端へ連続的に凝固させる方法である。この方法では、通常はるつぼを下方へ移動することでるつぼ底から上方に凝固が進行することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭64−56311号公報
【特許文献2】特開平04−228414号公報
【特許文献3】独国特許発明第3416559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、一方向凝固法では鉄、チタン等の金属不純物元素は十分に除去できるものの、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物は一方向凝固しただけでは金属不純物のように凝固末期に偏析するようなことが無く、溶湯の各部に固形物が異物として取り込まれてしまい十分に低減することはできなかった。そのため、一方向凝固法で効率よくこれらの固形不純物を除去する方法が望まれていた。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、一方向凝固時に溶融ケイ素を特定の撹拌速度で撹拌することだけで炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物を金属不純物同様に凝固末期部に偏析させ、更に効率よくこれらの不純物を除去できる金属ケイ素の製造条件を提供すると共に、太陽電池用途として十分な精製度をもった金属ケイ素を得ることができる金属ケイ素の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、溶融した金属ケイ素を一方向凝固するに際し、溶融金属ケイ素を撹拌翼により翼端線速が最大線速50cm/sec以下で撹拌するだけで、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物を凝固末期までケイ素中に取り込むこと無く凝固が進行し、金属不純物同様に凝固末期部に偏析するので、特に遠心法や沈降法等の他の工程を行わなくても、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物を十分に偏析除去した金属ケイ素が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0018】
従って、本発明は、下記金属ケイ素の精製方法を提供する。
請求項1:
一方向凝固法により金属ケイ素を精製する方法であって、溶融した金属ケイ素を撹拌翼により翼端線速の最大線速50cm/sec以下で撹拌しながら一方向凝固することを特徴とする金属ケイ素の精製方法。
請求項2:
金属ケイ素中の炭化ケイ素、酸化アルミニウム及び酸化カルシウムから選ばれる1種以上を除去する請求項1記載の精製方法。
請求項3:
一方向凝固速度が1〜30mm/hrである請求項1又は2記載の精製方法。
請求項4:
溶融金属ケイ素を耐熱性濾過材で濾過した後、一方向凝固する請求項1乃至3のいずれか1項記載の精製方法。
請求項5:
耐熱性濾過材が、カーボン/カーボンコンポジット、炭素フェルト、又は多孔性の耐熱性非金属物材料である請求項4記載の精製方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、遠心法や沈降法等の他の工程を特に行わないで一方向凝固法だけでも金属ケイ素中の炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の不純物を効率よく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る炉の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の精製方法は、溶融した金属ケイ素を一方向凝固するに際し、溶融金属ケイ素を撹拌翼により翼端線速が最大線速50cm/sec以下で撹拌するものである。
【0022】
以下、本発明に係る金属ケイ素の精製方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の精製方法に用いられる炉の一例が示されている。ここで、図1において、ケイ素を溶融するるつぼ1は、断熱材2,3、遮熱板4、及び断熱材3の内側に配したヒーター5を具備した炉の中央部に設置されており、るつぼ台6を介して昇降シャフト7で支持されている。ケイ素10は溶融容器としてのるつぼ1に装填される。るつぼ1内には撹拌翼付き撹拌棒8が設置されており、溶融したケイ素を撹拌できるようになっている。なお、ヒーター5は電源(図示せず)に、昇降シャフト7及び撹拌棒8は駆動装置(図示せず)にそれぞれ接続されている。
【0023】
金属ケイ素を収容するるつぼの材質は、黒鉛、石英ガラス(二酸化ケイ素)、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、マグネシア、ジルコニア等の耐火物などの耐火材から選択できる。るつぼは炉中の断熱材2及び3と遮熱板4に囲まれ、ヒーター5が設置されている空間に置かれる。るつぼのサイズは特に制限されないが、通常150mmφ×300mmH程度以上、特に200mmφ×300mmH〜1000mmφ×600mmH程度である。炉の昇温形態としては、抵抗加熱電気炉、高周波誘導炉、ガス炉、プラズマ炉などが挙げられるが、ケイ素の融点が比較的高いことからガス炉では溶融することは容易ではないので、電気をエネルギー源とした電気炉が使用されることが好ましい。なかでも抵抗加熱式の電気炉は、設備価格が比較的安いこと、電力効率が高いことなどから好適であり、図1は抵抗加熱式の電気炉を想定しているが、本発明はこの図1及び加熱手段に拘束されるものではない。
【0024】
電気炉はヒーター5に通電することで昇温し、ケイ素の融点の1450℃以上まで昇温することでケイ素は溶融する。このとき炉内は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。溶融したケイ素10は、その融体が均一組成となるように一定時間溶融状態のまま保持することが好ましい。このときの温度は、それが高いほど溶融ケイ素の均一化が促進されるので、ケイ素の融点より20℃以上、特に50〜100℃高いことが好ましい。
【0025】
均一組成となった溶融ケイ素が入ったるつぼは、昇降シャフト7が下降することで炉の下部に移動する。遮熱板4は、ヒーター5のある空間と炉下部の空間とを温度的に遮断しており、遮熱板4より下部では炉内温度が急激に降下する。るつぼ及び溶融ケイ素は、この遮熱板近傍を通過することで底部より冷却され、凝固を開始する。この場合、るつぼの降下と共に炉の温度も降下させることで、るつぼ底部よりケイ素を凝固させることも可能である。
【0026】
るつぼの引き下げ速度(溶融ケイ素の凝固速度)は、1〜30mm/hrが好ましく、より好ましくは5〜20mm/hrである。この範囲内にすると金属不純物の除去効率や装置への負担と工程のコストを上昇させない点においてバランスがよく有利である。
【0027】
本発明においては、溶融ケイ素を一方向凝固させる際に、溶融ケイ素を撹拌翼で撹拌する。撹拌翼の形状及びサイズは特に制限されず、るつぼの大きさにもよるが、平板状、曲面状等の任意のデザインのものを用いることができる。撹拌翼は、撹拌翼全体が浸かるように溶融ケイ素内に挿入し、撹拌翼最下部がケイ素の凝固面よりも5〜25mm、特に10〜15mm上方に位置するようにし、凝固したケイ素の量に応じて撹拌翼の位置を移動させることが好ましい。撹拌翼の位置をこの範囲内に保つことで、凝固を阻害しない範囲で効率よく撹拌することができる。
【0028】
また、撹拌速度は、撹拌翼の翼端線速が最大線速50cm/sec以下であり、好ましくは45cm/sec以下である。線速が大きすぎると撹拌力が強すぎるためか、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物がケイ素の凝固時にケイ素中に取り込まれてしまい偏析効果が果たせない。線速の下限値は特に制限されないが、5cm/sec以上、特に8cm/sec以上が好ましい。撹拌は、一方向凝固の開始と共に行い、凝固面が最上面まで達した時点で終了する。
【0029】
凝固終了後、凝固インゴットの凝固終端部に集中した固形不純物はインゴットの同部を切断することで除去し目的の用途に従った状態で供される。
【0030】
以上の説明は、溶融したケイ素を収容したるつぼを降下させることで凝固を開始・進行させ、固相−液相界面を移動させる方法であるが、この方法以外にも、(イ)電気炉の設定温度を降下させてるつぼを冷却する方法、(ロ)るつぼ底部を強制的に冷却することでるつぼ底から冷却する方法、(ハ)それらを組み合わせた方法などでも同様に凝固時の固相−液相界面を移動させることができる。これらのうち、るつぼの昇降による方法は、るつぼの移動状態が直接的に固相−液相界面の移動として認識できるので、本発明の方法の実施としては好適である。
【0031】
本発明においては、一方向凝固を行う前に、溶融した金属ケイ素を耐熱性濾過材で濾過して予め炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物を除去することがより純度の高い金属ケイ素を得る点から好ましい。この場合、耐熱性濾過材としては、カーボン/カーボンコンポジット、炭素フェルト、ポーラス炭化ケイ素といった多孔性の耐熱性非金属物を材料とするものが好適である。
【0032】
また、本発明の精製方法に加え、本発明の一方向凝固を実施する前又は後に、真空加熱、イオンビーム照射、水練法等の公知の方法を組み合わせて行うことで、より高純度な金属ケイ素を得ることができる。
【0033】
本発明によれば、通常の光学顕微鏡観察による断面観察で発見されないばかりでなく、IR顕微鏡によるケイ素内部の観察ですら認められない程度まで、金属ケイ素中の炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム等の固形不純物を低減することができる。
本発明の精製方法によって得られる金属ケイ素は、特に太陽電池等を製造する際の原料として有用である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0035】
[実施例1]
電気炉内に設置した二酸化ケイ素製のるつぼ(内寸195mmφ×300mmH)内に金属ケイ素を10kg入れ、これを一方向凝固炉に装填した。また、るつぼ内の溶融ケイ素を撹拌するために電気炉上部より炭素棒を電気炉内に下ろした。この炭素棒先端には100mm×30mm×5mmの大きさの撹拌翼を設置した。炭素棒は電気炉外のモーターにより回転させることができ、これにより撹拌翼を回転させることができる構造となっている。
次に、一方向凝固炉をロータリーポンプで真空にし、Arガスを導入して炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気とした後に、炉に通電して炉の温度を1470℃まで昇温し、金属ケイ素を全量溶解し、撹拌翼のモーターの回転数を85rpmとして溶融ケイ素を撹拌翼で撹拌しながらるつぼの引き下げ速度を10mm/hrで一方向凝固を実施した。このときの撹拌翼の翼端線速(最大線速)は45cm/secであった。なお、撹拌翼の位置は、ケイ素の凝固面よりも10mm上部となるように凝固量に応じて撹拌翼の位置を移動させながら凝固を継続した。
【0036】
凝固したケイ素インゴット(195φmm×120mmH)を高さ方向で底部から上部にかけて10等分になるように輪切りにして、輪切り各部からそれぞれ厚さ1mmのスライスインゴットを切り出し、それらを両面研磨した。
IR顕微鏡にてスライスインゴットの表面及び内部をXYZ方向でスライスインゴット全部について観察したところ、底部より1番目から9番目のスライスインゴットにはインクルージョンは観察されなかったが、10番目のスライスインゴットにはケイ素中の金属元素が凝集した第二相及び固形物相の炭化ケイ素(SiC)が観察された。なお、固形物相の同定はEPMA分析によって実施した。
【0037】
[実施例2]
実施例1の電気炉と撹拌翼機構を用いて、実施例1と同様の方法で金属ケイ素10kgを一方向凝固した。なお、るつぼの引き下げ速度は10mm/hr、モーターの回転数は50rpmとした。このときの撹拌翼の翼端線速(最大線速)は26cm/secであった。
【0038】
この凝固インゴットを高さ方向で底部から上部にかけて10等分になるように輪切りにして、輪切り各部からそれぞれ厚さ1mmのスライスインゴットを切り出し、それらを両面研磨した。
IR顕微鏡にてスライスインゴットの表面及び内部をXYZ方向でスライスインゴット全部について観察したところ、5番目を除く底部より1番目から8番目のスライスインゴットにはインクルージョンは無かったが9番目のスライスインゴットにはケイ素中の金属元素が凝集した第二相及び固形物相の炭化ケイ素(SiC)相が観察された。また5番目のスライスインゴットにも微量の固形物相が観察された。なお、固形物相の同定はEPMA分析によって実施した。
【0039】
[比較例1]
実施例1の電気炉と撹拌翼機構を用いて、実施例1と同様の方法で金属ケイ素10kgを一方向凝固した。なお、モーターの回転数は120rpmとした。このときの撹拌翼の外周速度(最大線速)は63cm/secであった。
【0040】
凝固終了後、凝固インゴットの外周部に集中した固形不純物を選択的に除去した。この凝固インゴットを高さ方向で底部から上部にかけて10等分になるように輪切りにして、輪切り各部からそれぞれ厚さ1mmのスライスインゴットを切り出し、それらを両面研磨した。
IR顕微鏡にてスライスインゴットの表面及び内部をXYZ方向でスライスインゴット全部について観察したところ、底部より1番目から4番目のスライスインゴットにはインクルージョンは無かったが5番目以降のスライスインゴットにはケイ素中の金属元素が凝集した第二相及び固形物相が観察された。固形物相を切り出しEPMA分析によって同定したところ炭化ケイ素(SiC)であった。
【符号の説明】
【0041】
1 るつぼ
2 断熱材
3 断熱材
4 遮熱板
5 ヒーター
6 るつぼ台
7 昇降シャフト
8 撹拌翼付き撹拌棒
10 ケイ素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向凝固法により金属ケイ素を精製する方法であって、溶融した金属ケイ素を撹拌翼により翼端線速の最大線速50cm/sec以下で撹拌しながら一方向凝固することを特徴とする金属ケイ素の精製方法。
【請求項2】
金属ケイ素中の炭化ケイ素、酸化アルミニウム及び酸化カルシウムから選ばれる1種以上を除去する請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
一方向凝固速度が1〜30mm/hrである請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項4】
溶融金属ケイ素を耐熱性濾過材で濾過した後、一方向凝固する請求項1乃至3のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項5】
耐熱性濾過材が、カーボン/カーボンコンポジット、炭素フェルト、又は多孔性の耐熱性非金属物材料である請求項4記載の精製方法。

【図1】
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