説明

金属パターン形成方法および金属パターン

【課題】非インク吸収性基板に対するインクのパターン描画性および形成した金属の膜厚均一性に優れた金属パターン形成方法を提供する。
【解決手段】非インク吸収性基板の上に、少なくとも触媒、溶媒を含有するインクをインクジェット方式でパターン部を印字し、該パターン部の上に無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターン形成方法において、該インク中の、沸点180℃〜350℃の溶媒の合計の含有量が10質量%以下であることを特徴とする金属パターン形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属パターンの形成に用いる金属パターン形成方法、インクジェット用インクに関し、さらに詳しくは、インクジェット法による回路形成に用いる金属パターン形成方法、インクジェット用インク及び金属パターンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路に用いる金属パターンの形成は、従来、レジスト材料を用いた方法により行われてきた。すなわち、金属薄層上にレジスト材料を塗布し、必要なパターンを光露光した後、現像により不要なレジストを除去し、むき出しとなった金属薄をエッチングにより除去し、さらに残存するレジスト部分を剥離することで金属パターンを記録した金属薄を形成していた。
【0003】
しかしながら、この方法では工程が多岐にわたり時間がかかること、また不要なレジスト、金属薄を除去することなど、生産時間、およびエネルギーや原材料使用効率の点から無駄が多く、改善が要求されていた。
【0004】
近年、粒径が100nm以下の、いわゆる金属ナノ粒子を含有するインクを用い、スクリーン印刷やインクジェット印刷などで金属パターンを直接描画する金属パターン形成方法に注目が集まっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この金属パターン形成方法は、金属ナノ粒子の粒径を極小にすることで融点が低下することを活用し、200〜300℃程度の温度で焼成することにより、回路を形成する方法である。本技術は、確かに工数の低減、原材料の利用効率向上などの利点はあるものの、金属粒子同士を完全に融合させることが難しく、焼成後の金属パターンにおいて電気抵抗を下げるための後処理における温度や条件に厳しい制約がある、という課題が残っていた。
【0006】
金属ナノ粒子を用いず、金属塩を使用してインク中で金属イオンの形態にし、加熱下で還元性を有する還元剤を含有する溶液から導電パターンを形成する方法がある。しかしながら、金属塩に配位して安定化させる錯化剤が十分な性能を有していないため、金属塩の還元反応が進行しやすくなり、液保存性に乏しいものになっていた。
【0007】
一方、金属を穏和な条件で生成析出させる手段として、無電解めっき技術を活用して金属パターンを形成する方法も提案されている。例えば、無電解めっきが形成可能となる触媒を含有したインクで回路パターンを形成させた後、無電解めっき処理で金属を形成させる方法が開示されている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照。)。
【0008】
上記いずれの場合においても、可溶性なパラジウム金属塩をインクに含有させて、そのインクをインクジェット方式にて基板に印字させてパラジウム触媒のパターン形成を行う。その後に無電解めっきを行い、触媒パターン上に金属パターンを形成させている。しかし、通常インクの吸収性を持たない基板(非インク吸収性基板)にインク液滴を良好なパターン形成させることは難しく、液滴同士がくっつき合い凝集するという現象が発生し(液寄り)、良好な描画性が得られなかった。また、乾燥後に基板上にある触媒も均一に存在してないため、その後で行う無電解めっきで形成される金属層の膜厚バラつきが生じ、電気特性としても十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−299833号公報
【特許文献2】特開平7−131135号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】第21回エレクトロニクス実装学会講演大会講演文集p.105(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は非インク吸収性基板に対するインクのパターン描画性および形成した金属の膜厚均一性に優れた金属パターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0013】
1.非インク吸収性基板の上に、少なくとも触媒、溶媒を含有するインクをインクジェット方式でパターン部を印字し、該パターン部の上に無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターン形成方法において、該インク中の、沸点180℃〜350℃の溶媒の合計の含有量が10質量%以下であることを特徴とする金属パターン形成方法。
【0014】
2.前記溶媒において、沸点120℃以下の溶媒の合計の含有量が60質量%以上であることを特徴とする前記1に記載の金属パターン形成方法。
【0015】
3.前記触媒が可溶性金属塩であることを特徴とする前記1又は2に記載の金属パターン形成方法。
【0016】
4.前記可溶性金属塩がパラジウム金属塩であることを特徴とする前記3に記載の金属パターン形成方法。
【0017】
5.前記インク中における前記パラジウム金属塩の濃度を、0.01質量%以上、3.0質量%以下とすることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【0018】
6.前記インクに錯化剤をさらに含有させることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【0019】
7.前記可溶性金属塩と錯化剤のモル比を、1:0.5以上、1:10以下の範囲とすることを特徴とする前記6に記載の金属パターン形成方法。
【0020】
8.前記インクが含有する錯化剤が、アミン系化合物または含窒素複素環式化合物であることを特徴とする前記6又は7に記載の金属パターン形成方法。
【0021】
9.前記インクのpHを、8.0以上、13.5以下とすることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【0022】
10.前記非インク吸収性基板を40℃以上150℃以下に加熱しながら、前記インクでパターン形成することを特徴とする前記1から9のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【0023】
11.前記インクを非インク吸収性基板上に印字する工程と、前記無電解めっき処理を行う工程との間に、触媒活性化工程を有することを特徴とする前記1〜10のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【0024】
12.前記1〜11のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法によって形成されたことを特徴とする金属パターン。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、触媒を含有したインクを非インク吸収性基板上で印字しても良好なパターンを形成し、そのあとに行う無電解めっきにより印字部に形成された金属パターンの描画性および、膜厚均一性に優れた金属パターン形成方法及びそれを用いて形成した金属パターンを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
本発明者等は、本発明の要件により、形成された金属パターンの描画性、膜厚均一性に優れた金属パターン形成方法を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0028】
非インク吸収性基板にインクジェット液滴が着弾すると、基板中に吸収されないためインク液滴が長い時間、基板上に液体状態で存在する。そのため基板との濡れ性が大きい場合は液滴が拡張する、逆に濡れ性が小さい場合は液滴が収縮する現象が起こる。この現象によって上記液寄りが発生する。通常、色材(染料、顔料)や高分子(分散剤、活性剤)がインク中に存在すると、ある程度溶媒が蒸発すると、急激にインク液滴の粘度が上昇する。この粘度上昇により、液滴の拡散や収縮が押さえ込める。しかしながら、本発明のインクでは溶媒以外の化合物がほとんど含有されないため、粘度上昇が起きない。そこで、本発明ではインクが短時間で乾燥するプロセス条件にすることで、基板上のインクが液寄りせず固定化される。また、触媒膜厚の偏りもないため、その後の金属めっきを行っても、均一な金属膜厚が得られる。
【0029】
本発明ではインクが短時間で乾燥させるプロセスとして、インクに含有される溶媒の沸点とその含有量が重要であることが判った。非インク吸収性基板上ではインクの沸点が高いほど乾燥しにくい。特に、沸点180℃〜350℃の溶媒の含有量が10質量%超のインクでは、加熱や送風という工程プロセスを施しても、インク乾燥性の向上には限界があり、前述の「液寄り」現象により良好な触媒インクのパターン形成することができないことが分かった。
【0030】
以下、本発明の金属パターン形成方法及びそれを用いて形成する金属パターンの詳細について説明する。
【0031】
《インク》
本発明の金属パターン形成方法においては、インクジェット方式によりパターン形成を行う際に用いるインクは、触媒と溶媒とを含有することを一つの特徴とする。
【0032】
〔触媒〕
本発明に係るインクで用いられる触媒の形態としては、金属微粒子や金属塩コロイド(例えば、パラジウム−スズコロイドなど)や可溶性金属塩などを用いることができる。この中でも可溶性金属塩が好ましく、パラジウム金属塩がさらに好ましい。ここでいう可溶性金属塩とは、インク中において溶解状態で存在している金属塩のことである。これは、溶解均一系のインクとすることを意味しており、その結果、インクジェットヘッドの目詰まりの発生がなく、安定した出射性を実現することができる。
【0033】
本発明に適用可能なパラジウム金属塩としては、例えば、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、アセト酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、水酸化パラジウム、酸化パラジウム、硫化パラジウム等が挙げられ、中でも塩化パラジウムが好ましい。
【0034】
インク中におけるパラジウム金属塩の含有量としては、0.01質量%以上、3.0質量%以下が好ましい。パラジウム金属塩の濃度が0.01質量%以上であれば、次工程である無電解めっき反応の必要な活性度を得ることができ、3.0質量%以下であれば、インク中のパラジウム金属塩の安定性と溶解性の点で好ましい。
【0035】
〔錯化剤〕
本発明に係るインクには、上記可溶性金属塩と錯体形成可能な化合物(錯化剤)をさらに含有させせること好ましい。アミン系化合物または含窒素複素環式化合物であることが好ましい。アミン系化合物としては、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ベンジルアミンなどが挙げられ、含窒素複素環式化合物としては、例えば、ピリジン、ビピリジル、フェナントロリンなどが挙げられる。
【0036】
本発明に係るインクにおいて、可溶性金属塩と錯化剤のモル比は、1:0.5以上、1:10以下の範囲とすることが好ましい。可溶性金属塩と錯化剤のモル比を1:0.5以上にすることにより、パラジウム金属塩と錯化剤とで形成される錯体の比率が高まり、インク中での溶解性や還元反応性が良好となる。また、モル比を1:10以下にすることにより、過剰な錯化剤による反応阻害を抑止するうえで好ましい。
【0037】
また、インク中におけるパラジウム金属塩と錯化剤で形成された錯体の溶解性と保存性を高める目的で、インクのpHを8.0〜13.5の範囲に調整することが好ましく、さらに好ましくはpH9.0〜13.0である。パラジウム金属塩と錯化剤により形成される錯体は、インクのpHがアルカリ性であるほど形成が容易に進むため、pH8.0以上が好ましい。しかしながら、あまりpHが高くなりすぎて、pH13.5を超えると、錯化力が強くなりすぎるため、パラジウム金属(Pd)への還元の際に、錯化剤が離脱しにくくなり、安定してパラジウム金属(Pd)を生成させる観点からは、避けることが望ましい。
【0038】
〔沸点180℃〜350℃の溶媒〕
本発明インクに係る溶媒において、沸点180℃以上の溶媒の合計量が10質量%以下であることを特徴とする。さらに好ましくは、3質量%以下である。
【0039】
上記特性を満たせば、アルコール類、多価アルコール類、多価アルコールエーテル類、アミン類、アミド類、複素環類、スルホキシド類など広い範囲から選択可能である。例えば、エチレングリコール197℃、ジエチレングリコール244℃、トリエチレングリコール287℃、プロピレングリコール187℃、ジプロピレングリコール232℃、1,4−ブタンジオール229℃、1,3−ブタンジオール208℃、1,2−ブタンジオール191℃、2,3−ブタンジオール182℃、1,2−ペンタンジオール206℃、1,5−ペンタンジオール238℃、1,2−ヘキサンジオール223℃、1,6−ヘキサンジオール250℃、ジエチレングリコールモノエチルエーテル202℃、ジエチレングリコールモノブチルエーテル231℃、グリセリン290℃などが挙げられる。以上の溶媒を一定量以上含有したインクを非インク吸収性基板に印字した場合、液滴同士が凝集して「液寄り」現象が発生してしまい、線描画性に劣るものになってしまう。
【0040】
〔沸点120℃以下の溶媒〕
本発明インクに係る溶媒において、沸点120℃以下の溶媒の合計量が60質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、70質量%以上、90質量%以下にすることである。沸点120℃以下の溶媒が一定量以上インクに含有することで、非インク吸収性基板上でインクが短時間で蒸発乾燥するため、「液寄り」現象がより防止される。但し、90質量%以下することで、インクジェットヘッドノズルからの蒸発性が押さえることが可能となり、インク出射性に好ましい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノールなどが挙げられる。
【0041】
〔インク溶媒〕
本発明に係るインクに上記溶剤以外の広範な範囲からも適用可能であるが、上記金属塩との溶解性の観点から水性液媒体が好ましく用いられる。
【0042】
〔界面活性剤〕
本発明に係るインクに適用可能な界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。
【0043】
〔その他の各種添加剤〕
本発明に係るインクには、必要に応じて、その他のインクジェット用インクで従来公知の各種添加剤を含有することができる。例えば、蛍光増白剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤、水溶性多価金属塩、酸塩基、緩衝液等pH調整剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、非抵抗調整剤、防錆剤、無機顔料等を挙げることができる。
【0044】
〔基板〕
本発明の金属パターン形成方法においては、金属パターンを形成する基板として、非インク吸収性基板を用いることを特徴とし、更には、絶縁性を備えたポリイミドフィルムを用いることが好ましい。本発明でいう非インク吸収性樹脂とは、インク吸収率が1.0質量%以下の樹脂をいう。
【0045】
基材として非インク吸収性の樹脂基板、特に樹脂フィルムを用いることにより、優れた可堯性を得ることができ、広範囲な分野への適用が可能となり、加えて非インク吸収性基板とすることにより、金属パターン形成過程における基板の伸縮が抑制されることで、高精緻な金属パターンを形成することができる。
【0046】
非インク吸収性樹脂としては、絶縁性を備えたものであれば特に制限はなく、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアテセート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂等の材料を有するフィルム等が挙げられ、その中でもPET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリイミドなどの樹脂から構成されるフィルム状のものが好ましく、更に好ましくポリイミドフィルムである。
【0047】
本発明において用いられる非インク吸収性基板において、インク濡れ性を向上させる観点から、いわゆるプライマー処理やプラズマ処理等の表面改質を行っていても良い。
【0048】
《金属パターンの形成工程》
本発明の金属パターン形成方法は、1)触媒及び溶媒を含有するインクを、インクジェットヘッドより非インク吸収性基板上に吐出してパターン部を印字するパターン印字工程と、2)パターン部に無電解めっき処理を施して金属パターンを形成する無電解めっき処理工程を有し、更には、上記1)パターン印字工程と、2)無電解めっき処理工程との間に、3)触媒活性化工程を設けることが好ましい態様である。
【0049】
〔パターン印字工程〕
本発明の金属パターン形成方法においては、触媒及び溶媒を含有したインクは、インクジェットヘッドから非インク吸収性樹脂基板へ吐出させ、パターン形成させる。このとき非インク吸収性基板を予め加熱させることが好ましい。加熱することで基板上のインク乾燥性を高め液寄り防止となる。この時の加熱温度は、40℃以上150℃以下が好ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、熱風送風等特に制限はない。
【0050】
吐出させるインク液滴の大きさとしては、特に制限はないが、回路配線等の場合は微細線の形成が必要となるので50pl以下が好ましく、更に好ましくは20pl以下のインク液滴量である。
【0051】
インクジェットヘッドとしては、特に制限はなく、ピエゾ型、サーマル型いずれのヘッドを用いることが可能である。
【0052】
〔触媒活性化工程〕
本発明の金属パターン形成方法においては、上記触媒のパラジウム金属塩と錯化剤を含有するインクを基板上に印字する工程と、後述する無電解めっき処理を行う工程の間に、触媒活性化工程を有することが好ましい。
【0053】
すなわち、無電解めっき処理を行う工程の前に、触媒活性化処理を施すことにより、上記触媒を溶解状態で含有するインクを、基板に印字したあと、パラジウムイオン(Pd2+)を0価金属(Pd)にすることで、無電解めっき反応がより活性化される。本発明では、触媒パラジウム金属を0価にする工程を触媒活性化工程という。触媒活性化工程は、触媒の種類によって適正な方法を選択する必要があり、酸の付与、加熱、還元剤の付与等が挙げられる。パラジウムイオンに好ましい還元剤としては、ホウ素系化合物が好ましく、具体的には、水素化ホウ素ナトリウム、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン(DMAB)などが好ましい。
【0054】
〔無電解めっき処理工程〕
本発明に係る無電解めっき処理について説明する。
【0055】
非インク吸収性樹脂基板に触媒及び錯化剤を含有したインクをインクジェット法にてパターン印字したあと、無電解めっき処理を行い、パターン部に金属を形成させた金属パターンを得る。通常は、上記パターン印字した非インク吸収性樹脂基板を、無電解めっき液(浴)に浸漬する工程が一般的な方法である。
【0056】
無電解めっき液としては、1)金属イオン、2)錯化剤、3)還元剤が主に含有される。無電解めっきで形成される金属としては、例えば、金、銀、銅、パラジウム、ニッケルおよびそれらの合金などが挙げられるが、導電性や安全性の観点から銀または銅が好ましく、さらに銅が好ましい。よって、無電解めっき浴に使用される金属イオンとしても、上記金属に対応した金属イオンを含有させる。よって銅イオンが好ましく、例えば、硫酸銅などが挙げられる。錯化剤および還元剤も金属イオンに適したものが選択される。錯化剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(以下、EDTAと略記する)、ロシェル塩、D−マンニトール、D−ソルビトール、ズルシトール、イミノ二酢酸、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸、などが挙げられ、EDTAが好ましい。還元剤としては、ホルムアルデヒド、テトラヒドロホウ酸カリウム、ジメチルアミンボラン、グリオキシル酸、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられ、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0057】
上記無電解めっき工程は、めっき浴の温度、pH、浸漬時間、金属イオン濃度を制御することで、金属形成の速度や膜厚を制御することができる。
【0058】
本発明において形成される金属膜厚は、0.01μm以上、30μm以下が好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0060】
《インクの調製》
〔インク1の調製:本発明〕
触媒として塩化パラジウムを0.5質量%、錯化剤として2−アミノピリジンを0.5質量%、水溶性有機溶媒として、ジエチレングリコールを8質量%、イソプロピルアルコール20質量%、純水を残分としてインクを調製した。次いで、水酸化ナトリウムを用いてインクのpHを11.0に調整して、インク1とした。調製したインク1の外観を目視観察した結果、塩化パラジウムが完全に溶解している状態にあることを確認した。
【0061】
インクの各種構成材料を表1に記載のものに変更した以外は、インク1と同様の方法により、インクを調製した。
【0062】
【表1】

【0063】
《金属配線パターンの形成》
〔金属配線パターン1の形成〕
(配線パターン形成)
搬送系オプションXY100に装着したインクジェットヘッド評価装置EB100(コニカミノルタIJ(株)製)に、インクジェットヘッドKM256Aq水系ヘッドを取り付け、上記調製したインクが吐出できるようにした。ステージに、非インク吸収性樹脂基板として厚さ75μmのポリイミドシート(基板1)を取り付け、インク1を吐出して、配線幅50μm、配線間距離50μm、配線長30mmで100本の細線パターンと10mm×10mmの正方形金属パターンを形成した。ステージ下に電気ヒーターを設け、加熱できるようにした。非接触型の温度計にて、非インク吸収性基板での温度を測定しヒーター調整にて、加熱温度をコントロールした。
【0064】
(活性化工程)
上記方法でパターン形成した後の基板1を80℃で5分乾燥したのち、ホウ素系の還元剤を含有した下記活性化液に、室温で15分浸漬した。この工程で、Pd錯体を還元してPd金属を形成した。浸漬後の基板1は純水にて洗浄した。
【0065】
〈活性化液〉
アルカップMRD2−A(上村工業社製) 1.8質量%
アルカップMRD2−C(上村工業社製) 6質量%
純水 残量
(無電解めっき工程)
下記の無電解銅めっき溶液を調製した。
【0066】
水酸化ナトリウムで無電解銅めっき溶液のpHは、13.0に調整した。
【0067】
〈無電解銅めっき溶液〉
メルプレートCU−5100A(メルテックス社製) 6質量%
メルプレートCU−5100B(メルテックス社製) 5.5質量%
メルプレートCU−5100C(メルテックス社製) 2.0質量%
メルプレートCU−5100M(メルテックス社製) 4.0質量%
純水 残量
50℃に保温した上記無電解銅めっき溶液に、活性化工程1の処理を施した基板1を90分間浸漬し、Pd金属パターン部に銅金属にめっき化された配線幅50μm、配線間距離50μm、配線長30mmで100本の金属配線パターンと10mm×10mmの正方形の金属配線パターン1を形成した。
【0068】
インク番号、活性化工程、基板表面温度などを表2のように変更した以外は金属パターン1と同様にその他の金属パターンを作製した。
【0069】
《金属配線パターンの評価》
上記形成した金属配線パターンについて、下記の各評価を行った。
【0070】
〔細線描画性の評価〕
上記形成した各銅配線パターンを光学顕微鏡にて観察し、下記の基準に従って細線描写性を評価した。
【0071】
◎:細線の欠け(断線)や細線同士の接触が全くなく、かつ線形状の乱れ(細りや太り)も5%未満である
○:細線の欠け(断線)、細線同士の接触がなく、かつ線形状の乱れ(細りや太り)も5%以上、10%未満である
△:細線の欠け(断線)、細線同士の接触がなく、かつ線形状の乱れ(細りや太り)が10%以上、30%未満である
×:細線の欠け(断線)や細線同士の接触が認められ、かつ線形状の乱れ(細りや太り)が30%以上である。
【0072】
〔膜厚均一性の評価〕
上記形成した10mm×10mmの正方形金属パターンをミクロトームで切断してその断面を光学顕微鏡にて観察し、任意の50点の膜厚を測定した。なお、膜厚が1μm未満の場合には、走査型電子顕微鏡を用いて膜厚を測定した。
【0073】
次いで平均膜厚T及び膜厚のばらつきを測定し、下記の基準に従って膜厚均一性の評価を行った。
【0074】
平均膜厚T(μm)=(T1+T2+・・・+T50)/50×100
式中、T1、T2、・・・、はそれぞれ1箇所目の測定位置の膜厚、2箇所目の測定位置の膜厚、・・・、を表す。
【0075】
膜厚バラツキ={(最大膜厚−最小膜厚)/平均膜厚}×100
◎:膜厚バラツキが2%未満である
○:膜厚バラツキが2%以上、5%未満である
△:10μm未満で、膜厚バラツキが5%以上である
×:膜厚バラツキが5%以上である
以上により得られた各評価結果を、表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2から明らかな通り、本発明のインクを用いて、金属パターンを形成したものは何れも、細線描画性と膜厚均一性に優れており、特に、インクジェット方式でパターン部を印字する際、非インク吸収性基板を40℃以上150℃以下で加熱しながら行うと細線描画性と膜厚均一性に優れている。また、非インク吸収性基板上に印字する工程と、前記無電解めっき処理を行う工程との間に、触媒活性化工程を行うと、更に優れることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非インク吸収性基板の上に、少なくとも触媒、溶媒を含有するインクをインクジェット方式でパターン部を印字し、該パターン部の上に無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターン形成方法において、該インク中の、沸点180℃〜350℃の溶媒の合計の含有量が10質量%以下であることを特徴とする金属パターン形成方法。
【請求項2】
前記溶媒において、沸点120℃以下の溶媒の合計の含有量が60質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属パターン形成方法。
【請求項3】
前記触媒が可溶性金属塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属パターン形成方法。
【請求項4】
前記可溶性金属塩がパラジウム金属塩であることを特徴とする請求項3に記載の金属パターン形成方法。
【請求項5】
前記インク中における前記パラジウム金属塩の濃度を、0.01質量%以上、3.0質量%以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項6】
前記インクに錯化剤をさらに含有させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項7】
前記可溶性金属塩と錯化剤のモル比を、1:0.5以上、1:10以下の範囲とすることを特徴とする請求項6に記載の金属パターン形成方法。
【請求項8】
前記インクが含有する錯化剤が、アミン系化合物または含窒素複素環式化合物であることを特徴とする請求項6又は7に記載の金属パターン形成方法。
【請求項9】
前記インクのpHを、8.0以上、13.5以下とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項10】
前記非インク吸収性基板を40℃以上150℃以下に加熱しながら、前記インクでパターン形成することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項11】
前記インクを非インク吸収性基板上に印字する工程と、前記無電解めっき処理を行う工程との間に、触媒活性化工程を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法によって形成されたことを特徴とする金属パターン。

【公開番号】特開2010−251593(P2010−251593A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100803(P2009−100803)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】