説明

金属フタロシアニン化合物、水溶性インク、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、記録画像及び画像形成方法

【課題】金属フタロシアニン化合物を含むインクの、安定性の向上、耐目詰まり性の向上、耐コゲ性の向上、更に、形成画像の、耐候性及び画像品位の向上。
【解決手段】水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、特定の構造を介してのみ該可溶性基を有する金属フタロシアニン化合物であって、更に、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、下記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物、該化合物を用いた水溶性インク、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、記録画像、画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属フタロシアニン化合物、水溶性インク、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、記録画像及び画像形成方法に関する。更に詳しくは、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を特定の構造を介して有する金属フタロシアニン化合物、該金属フタロシアニン化合物を含有してなる水溶性インク、これらを利用するインクジェット記録方法、記録装置、記録画像及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、高精細度を要求されるインクジェット用記録液(インク)の色材には、染料又は顔料が用いられてきた。染料を用いたインクによって形成された画像は、高透明度、高精細度や優れた演色性等の特徴を有するが、耐候性及び耐水性等の問題を有する場合が多い。そこで、近年、画像の耐候性及び耐水性の問題を解決するために、染料に代えて有機顔料やカーボンブラック等の顔料を用いたインクが製造されている。色材に顔料を用いたインクによれば、耐候性及び耐水性に優れた画像が得られるが、この場合は、インク中で生じる顔料の凝集等に起因して顔料の分散が不安定となり、インクの吐出等、信頼性の観点で問題がある場合が多い。顔料組成物(顔料インク)に関しては、従来より種々の提案がある(例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献1参照)。
【0003】
これに対し、インクに使用でき、染料の性質と顔料の性質を合わせ持つ新しい色材として、下記の如き提案がある。例えば、所定の溶媒に対する親溶媒性の基を有する構造の化合物とすることによって、該溶媒に可溶であり、且つ、逆ディールス−アルダー反応によって上記親溶媒性の基が脱離して、上記溶媒に対する溶解度が不可逆的に低下可能である化合物、及びかかる化合物を用いたインクが提案されている(特許文献3参照)。この化合物をインクの色材とした場合には、該色材は、インク中では溶媒に溶解状態(即ち、染料状態)であるが、該インクを被記録媒体上に付与し、且つ該色材を逆ディールス−アルダー反応させると、溶媒に不溶解状態(即ち、顔料状態である)にすることができ、画像の堅牢性が良好なものとなる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−27016公報
【特許文献2】特許第3024998号公報
【特許文献3】特開2003−47459公報
【非特許文献1】Ricoh Technical Report No.25 NOVEMBER,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献3で提案されている化合物を含有するインクは、得られる画像の耐水性、耐候性に関しては向上するが、インクの安定性、そしてインクの目詰まり、特に、インクジェット記録においてはコゲ等、インクの信頼性に関しては十分な性能を得るには至っていない。
【0006】
従って、本発明の第1の目的は、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を特定の構造で介して有する金属フタロシアニン化合物を用いたインクに対して新たな効果を得ることのできる新規な金属フタロシアニン化合物を提供することにある。
【0007】
本発明の第2の目的は、インクの安定性を向上させ、耐目詰まり性、耐コゲ性を向上させることであり、本発明の第3の目的は、得られる画像の耐候性、画像品位を良好なものにすることである。
【0008】
又、本発明の第4の目的は、上記した第2の目的、第3の目的を共に達成することができる金属フタロシアニン化合物を用いた水溶性インク、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置、記録画像及び画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した目的は、以下の本発明によって解決される。
即ち、本発明は、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、下記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ該可溶性基を有する金属フタロシアニン化合物であって、更に、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、下記一般式(2)で示される基が配位結合していることを特徴とする金属フタロシアニン化合物である。

(上記一般式(1)において、A、B中のR1〜R8が、水又は有機溶剤に溶解するための可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分である。又、C、D中のR1〜R6が、水又は有機溶剤に溶解するための可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分である。)

(上記一般式(2)において、X1、X2及びX3は、それぞれ、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、置換アラルキル基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アリーロキシ(アリールオキシ)基、置換アリーロキシ基、ポリエーテル基、置換ポリエーテル基、水酸基、及び水素原子の何れかを表し、且つ、X1、X2及びX3は、互いに同じであっても異なってもよい。)
【0010】
本発明の別の実施形態は、上記金属フタロシアニン化合物を色材として含有することを特徴とする水溶性インクである。
【0011】
本発明の別の実施形態は、インク滴を記録信号に応じてオリフィスより吐出させて被記録媒体に記録を行って記録物を得るインクジェット記録方法において、インクに、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0012】
本発明の別の実施形態は、インクを収容したインク収容部、該インクをインク滴として吐出させるためのヘッド部を備えた記録ユニットにおいて、上記インクが、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクであることを特徴とする記録ユニットである。
【0013】
本発明の別の実施形態は、インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、上記インクが、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクであることを特徴とするインクカートリッジである。
【0014】
本発明の別の実施形態は、インクを収容したインク収容部と、該インクをインク滴として吐出させるためのヘッド部とを備えたインクジェット記録装置において、上記インクが、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクであることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、インク滴を吐出させるための記録ユニット、インクを収容したインク収容部を有するインクカートリッジ、及び、該インクカートリッジから記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給部を備えたインクジェット記録装置において、上記インクが、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクであることを特徴とするインクジェット用記録装置である。
【0016】
本発明の別の実施形態は、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクを用いて形成されたことを特徴とする記録画像である。
【0017】
本発明の別の実施形態は、金属フタロシアニン化合物を被記録媒体に付与して画像を形成する画像形成方法において、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が下記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、下記一般式(2)で示される基が配位結合していることを特徴とする金属フタロシアニン化合物を用い、該金属フタロシアニン化合物を被記録媒体に付与する間又は付与後に、逆ディールス−アルダー反応させて金属フタロシアニン化合物を不溶化させることを特徴とする画像形成方法である。
【0018】
本発明の別の実施形態は、金属フタロシアニン化合物を色材として含有してなる水溶性インクを被記録媒体に付与して画像を形成する画像形成方法において、上記インクが、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、該可溶性基が前記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、前記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物を色材として含有する水溶性インクであって、該インクを被記録媒体に付与する間又は付与後に、逆ディールス−アルダー反応によってインクを不溶化させることを特徴とする画像形成方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を特定の構造を介して有する金属フタロシアニン化合物の耐凝集・会合性を良好にさせることができ、該金属フタロシアニン化合物をインクに用いた場合には、インクの安定性が向上し、耐目詰まり性、更には、インクジェット記録においては耐コゲ性が向上し、又、該インクによって形成した画像の、画像品位、耐候性、更には耐水性が良好なものとなる。本発明によれば、上記優れた効果の実現が可能な、水溶性インク、インクジェット記録方法、記録画像、記録装置及び画像形成方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明者らは、前記した特許文献3に記載の技術を用いて、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を特定の構造を介して有する金属フタロシアニン化合物を作製し、該金属フタロシアニン化合物を用いたインクについて、当該インクの安定性、耐目詰まり性、耐コゲ性、更に、該インクによって得られた画像の耐水性、画像品位を向上させるための検討を行ってきた。その結果、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ下記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ該可溶性基を有する金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に下記一般式(2)で示される基が配位結合している金属フタロシアニン化合物とすることによって、該化合物の凝集・会合を抑制でき、該化合物をインクの色材として用いた場合、インクの安定性、耐目詰まり性、耐コゲ性が良好になるという知見を得た。更に、該インクによって得られた画像は、耐水性、耐候性、画像品位も良好になるという事実にもたどり着き、本発明に至った。
【0021】

(上記一般式(1)において、A、B中の、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8が、水又は有機溶剤に溶解するための可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分である。又、C、D中の、R1、R2、R3、R4、R5、R6が、水又は有機溶剤に溶解するための可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分である。)
【0022】

(上記一般式(2)において、X1、X2及びX3は、それぞれ、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、置換アラルキル基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アリーロキシ(アリールオキシ)基、置換アリーロキシ基、ポリエーテル基、置換ポリエーテル基、水酸基、及び水素原子から選ばれる何れかを示し、且つ、X1、X2及びX3は、互いに同じであっても異なってもよい。)
【0023】
一般的に、金属フタロシアニン化合物は、平面性が強いために会合しやすい特性がある(図1(1)参照)。このような金属フタロシアニン化合物の構造中に、水又は水溶性有機溶剤に溶解するためのカルボキシ基やスルホニル基等の可溶性基を導入してもこの性質は変わらない。又、該可溶性基を、前記一般式(1)を介してのみ有する構造の金属フタロシアニン化合物においても、会合しやすい特徴はかわらない(図1(2)参照)。これに対して、本発明者らの検討によれば、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、前記一般式(1)を介してのみ該可溶性基を有する金属フタロシアニン化合物の中心金属に、更に、上記一般式(2)を配位結合させた構造の本発明にかかる金属フタロシアニン化合物は、図1(3)に示したように、中心金属に配位させた前記一般式(2)が、あたかも会合を制御するがごとく存在するため、会合・凝集が抑制される。
【0024】
即ち、インクの液媒体中で金属フタロシアニン化合物が会合・凝集しないためには、下記一般式(2)中のX1、X2、X3の部分がフタロシアニン環と略平行に伸び、フタロシアニン環を覆うように広がることが必要である。
【0025】

【0026】
本発明者らの検討によれば、このためには、一般式(2)において、X1、X2及びX3は、それぞれ、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、置換アラルキル基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アリーロキシ基、置換アリーロキシ基、ポリエーテル基、置換ポリエーテル基、水酸基及び水素原子のいずれかであることを要する。この場合、一般式(2)中のX1、X2及びX3は、互いに同じでも異なってもよい。
【0027】
上記一般式(2)においてX1、X2、X3の部分がフタロシアニン環と略平行に伸び、フタロシアニン環を覆うように広がるには、X1、X2、X3で表される基が、フタロシアニン環に対して略平行に伸びる基であることが好ましい。本発明者らの更なる検討によれば、略平行に伸びる基の中でフタロシアニン環を覆うのに必要な炭素数が少ない、つまり金属フタロシアニンの分子量を小さくできるという観点から、好ましい基としてアルキル基が挙げられる。又、X1、X2、X3の炭素数が、フタロシアニン環を覆うことができるような数であることが好ましい。
【0028】
以下に、上記一般式(2)においてX1、X2、X3で示した部分がアルキル基の場合について詳細に述べる。本発明者らの検討によれば、アルキル基が、フタロシアニン環を覆うには、炭素数は6以上であることが好ましい。炭素数が6以上の基が1つでもあれば、金属フタロシアニン化合物の会合・凝集を防止することができる。炭素数が6以上の基が2つあると、金属フタロシアニン化合物の会合・凝集の防止効果が更に向上するので、より好ましい。全てのX1、X2、X3の炭素数が6以上であると、金属フタロシアニン化合物の会合・凝集の防止効果が更に向上し、最も好ましい。
【0029】
このように、上記一般式(2)においてX1、X2、X3で表される置換基によって完全にフタロシアニン環を覆うことができると、金属フタロシアニンの会合・凝集防止効果が大きくなる。又、X1、X2、X3がアルキル基の場合、その炭素数は20以下であることが好ましい。20よりも多いと、色材として使用する金属フタロシアニンの分子量が大きくなってしまい、インクの信頼性を低下させてしまう。又、置換基が長くなってしまうことで、液媒体に対する溶解性を下げてしまう。
【0030】
本発明を構成する金属フタロシアニン化合物は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。

(上記一般式(3)において、Xは、前記一般式(1)中のAを示し、Yは、前記一般式(1)中のBを示す。又、Zは、前記一般式(2)で示される基を表し、nはZの数であり、1又は2である。又、Mは、金属を表す。)
【0031】
本発明を構成する金属フタロシアニン化合物の中心金属Mは、フタロシアニンと錯体を形成し得る金属であればいずれのものであってもよい。好ましい具体例としては、Al、Cu、Zn、Mg、Si、Ga、In、Tl、Ge、Sn及びPbが挙げられる。
【0032】
又、本発明を構成する金属フタロシアニン化合物としては、イソインドール環を5個もつスーパーフタロシアニン化合物や3個持つサブフタロシアニン化合物でもかまわない。この場合、金属フタロシアニン化合物の中心金属に配位結合する前記一般式(2)で表される基は、これらのスーパーフタロシアニン化合物やサブフタロシアニン化合物の大きさに伴い、好ましい構造にかえることでより好ましい効果を得ることができる。
【0033】
次に、上記で説明した本発明にかかる金属フタロシアニン化合物を用いたインクについて詳細に述べる。本発明にかかる水溶性インクは、上記した金属フタロシアニン化合物を色材として含有してなるものであればよく、その他は、従来の水溶性インクと同様にして調製すればよい。具体的には、上記金属フタロシアニン化合物を下記のような液媒体に溶解して得られる。
【0034】
本発明に使用される液媒体としては、水と有機溶媒との混合媒体が好ましい。この際に使用する有機溶媒としては、例えば、グリセリン、キシリトール等の糖アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルフォキサイド、2−ピロリドン等や結晶性を有する、例えば、尿素、エチレン尿素、ε−カプロラクトン、スクシンイミド、チオ尿素、ジメチロール尿素等が挙げられる。又、これらの化合物に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びアルキルの少なくとも1種を置換基として付加してもよい。又、これらは、単独でも、混合して用いてもよい。
【0035】
又、本発明にかかるインクは、先に説明した金属フタロシアニン化合物とともに、他の色材を併用してもよい。色材としては、主溶媒に安定に溶解、又は分散するものであれば差し支えない。
【0036】
本発明にかかるインク中の水の含有量は、好ましくは、インク全質量に対し30〜95質量%の範囲から選択する。30質量%より少ないと水溶性の成分の溶解性が確保できない場合があり、又、インクの粘度も高くなる。一方、水が95質量%より多いと蒸発成分が多過ぎて、十分な固着特性を満足することができない場合がある。
【0037】
本発明にかかるインクは、上記した成分の他、必要に応じて、更に、他の水溶性有機溶剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー及びpH調整剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0038】
本発明にかかるインクは、表面張力が40dyn/cm以下であると、インクジェット記録方法に用いた場合、吐出性が良好になり好ましい。又、本発明にかかるインクは、インクの安定性の面からpH6.5以上にすることで一般式(2)による会合・凝集抑制効果がより良好になる。特に、X1、X2、X3のいずれかがアルキル鎖である場合は、アルキル鎖が広がりやすくなるため好ましい。
【0039】
更に、本発明にかかるインクは、色材の対イオンとして、複数のアルカリ金属イオンを併用することが好ましい。インクジェット記録に用いた場合、両者が併用されていると、インクの安定性及びインクの吐出性が良好になる。アルカリ金属イオンとしては、Li+、Na+及びK+等を挙げることができる。
【0040】
本発明にかかるインクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインク収納容器としても、或いは、その充填用のインクとしても有効である。特に、本発明にかかるインクは、インクジェット記録方式の中でも、バブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0041】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0042】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通すると吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0043】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【0044】
本発明にかかる記録画像を形成するための被記録媒体としては、普通紙、或いは光沢紙、コート紙、光沢フィルムと呼ばれるような、表面にコート層或いはインク受容層を有する特殊媒体等、一般的に用いられている被記録媒体を用いることができる。これらの中でも、より鮮やかさ、コントラスト、透明感の高い画像が得られる被記録媒体の一例として、基材上に親水性の多孔質粒子層、多孔質高分子層等を有する特殊媒体を挙げることができる。
【0045】
本発明で用いられる被記録媒体としての特殊媒体の一例を更に詳述すると、染料や顔料等の色材をインク受容層内の親水性多孔質構造を形成する微粒子に吸着させて、少なくともこの吸着した色材によって画像が形成される被記録媒体が挙げられ、インクジェット法を利用する場合には特に好適である。このような被記録媒体としては、支持体上のインク受容層に形成された空隙によりインクを吸収するいわゆる吸収タイプであることが好ましい。
【0046】
吸収タイプのインク受容層は、微粒子を主体とし、必要に応じて、バインダーやその他の添加剤を含有する親水性多孔質層として構成される。微粒子の例としては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナ或いはアルミナ水和物等の酸化アルミニウム、珪藻土、酸化チタン、ハイドロタルサイト、酸化亜鉛等の無機顔料や尿素ホルマリン樹脂、エチレン樹脂、スチレン樹脂等の有色顔料が挙げられ、これらの1種以上が使用される。
【0047】
バインダーとして好適に使用されているものには、水溶性高分子やラテックスを挙げることができる。例えば、ポリビニルアルコール又はその変性体、澱粉又はその変性体、ゼラチン又はその変性体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロオイルメチルセルロース等のセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸又はその共重合体、アクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。又、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。その他、添加剤を使用することもでき、例えば、必要に応じて分散剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が使用される。
【0048】
次に、前記した本発明にかかる金属フタロシアニン化合物或いは、該金属フタロシアニン化合物を含有してなる水溶性インクを被記録媒体に付与して画像を形成する本発明にかかる画像形成方法について説明する。該方法では、上記金属フタロシアニン化合物を、上記したような被記録媒体に付与する間又は付与後に、逆ディールス−アルダー反応させて金属フタロシアニン化合物を不溶化させることを特徴とする。
【0049】
ここで、逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応について詳細を述べる。本発明にかかる金属フタロシアニン化合物は、可溶性金属化合物(染料)状態(可溶性色材)から不溶性化合物(顔料)状態(不溶性色材)へと変換が可能である。その変換手段には、逆ディールス−アルダー反応を用いる。
【0050】
[逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応]
逆ディールス−アルダー反応とは、ディールス−アルダー反応の逆反応のこと、即ち、ディールス−アルダー反応によって形成された環状化合物の架橋部位(即ち、脱離部位)から、置換又は未置換のエチレン基(脱離部分)を脱離する反応を意味する。例えば、上記架橋部分を持ったビシクロ[2,2,2]オクタジエン骨格の縮環部分を有する化合物を逆ディールス−アルダー反応させることで、脱離部位(架橋部位)からエチレンを脱離させる反応を意味する。該脱離の結果、芳香環を構築することができる。
【0051】
上記に定義した逆ディールス−アルダー反応の例を、下記に式で示す。先ず、下記に示した例1は、ディールス−アルダー反応を用いて得られた可溶性色材の脱離部位(架橋部位)から、架橋部分であるエチレン基を逆ディールス−アルダー反応を用いて脱離して、不溶性色材になる場合の反応を部分的に式で示したものである。
【0052】

【0053】
又、下記に示した例2は、ディールス−アルダー反応を用いて得られた、水酸基を保護するための可溶性色材の中間体を経て得られた、親水性媒体に対する可溶性付与基である水酸基を有する可溶性色材の脱離部位から、水酸基で置換されているエチレン基(脱離部分)を逆ディールス−アルダー反応を用いて脱離することで、不溶性色材を生成する場合の反応を部分的に式で示したものである。
【0054】

【0055】
上記の例2に示したように、可溶性色材の逆ディールス−アルダー反応によって脱離される脱離部分に、当該化合物が溶媒に対する溶解性を増すような置換基(上記した例2では親水性基である水酸基)を、直接或いは間接に導入しておくことによって、可溶性色材(染料)を、不溶性色材(顔料)へと変換することが可能となる。更に、脱離後に構築される芳香環上に存在させたい置換基(例1におけるR5〜R8)を、ディールス−アルダー反応及び逆ディールス−アルダー反応に関連する部分にあらかじめ導入しておくことにより、置換芳香環を構築することが可能である。
【0056】
上記に示したように、特有の構造を有する可溶性色材である本発明にかかる金属フタロシアニン化合物は、逆ディールス−アルダー反応によって可溶性付与基を有する脱離部分を脱離し、その結果、パイ共役系が構築される化合物(即ち、顔料)へと変換されるが、この場合に、更に、パイ共役系の構築の結果として、分子の立体構造が嵩高い構造から、平坦な構造に変化するように分子構造を構築(設計)しておくことは、好ましい態様である。即ち、このようにすることで、本発明にかかる金属フタロシアニン化合物を逆ディールス−アルダー反応させた結果として得られる化合物(即ち、顔料)の凝集性や会合性を、所望の特性のものに変化させることができる。
【0057】
上記好ましい態様を実現するために、逆ディールス−アルダー反応後に分子間で水素結合や、ファンデルワールス力、静電相互作用、極性による相互作用が大きくなる系を設計することがより好ましい。従来であれば会合状態が大きくなっているため制御が困難であった系においても、反応前後の化合物の性質を設計することによって効果的に凝集性や会合性を変化させることが可能となる。
【0058】
本発明にかかる金属フタロシアニン化合物は、逆ディールス−アルダー反応によって脱離した部分を極めて安定で安全性の高いものにすることが可能であり、系に悪影響を与えるような可逆的な反応や副次的な反応は起こさないような反応を構築することが可能である。
【0059】
このような好ましい態様にするためには、可溶性色材から脱離した化合物と、可溶性色材から生成した不溶性色材が、再びディールス−アルダー(Diels−Alder)反応を起こすジエンとジエノフィルの関係で反応しないことが必要である。本発明の場合、脱離した化合物が、反応性2重結合を持たない化合物へと自動酸化、還元等によって逆反応が不可能な物質に変換される仕組みを持たせて反応を非可逆的に進行させていることが特徴となっている。
【0060】
[逆ディールス−アルダー(Retro Diels−Alder)反応の誘起方法]
上記で説明した逆ディールス−アルダー反応を誘起する具体的な方法としては、例えば、外部エネルギーの付与、及び化学的摂動(熱エネルギー、光エネルギー、電磁波エネルギー、化学的作用)が挙げられる。
【0061】
本発明にかかる金属フタロシアニン化合物から逆ディールス−アルダー反応を誘起して目的の脱離部位を脱離する方法は、先に示した一般式のR1、R2の置換基の種類と、脱離前後の分子のエネルギー準位によって変化する。例えば、R1、R2が水素であると通常の熱的反応でエチレン分子が脱離する、更に脱離後に構築される不溶性色材の芳香環の共鳴安定化エネルギーが大きいほど、活性化エネルギーが大きくなり、加熱に必要な温度は高くなっていくことが知られている。又、R1、R2の部分がケトンである場合には、その可視光によるn−π*励起によって反応が起こることが知られている。更には、R1、R2が水酸基の場合、金属化合物(塩基性化合物)により電子引き抜きが生じる状態になることによって化学的作用により反応が起こることが知られている。この場合、脱離基と金属が電気的な相互作用をするための物理的パラメータや、原子半径等のこのようなパラメータを考慮に入れる必要がある。
【0062】
このように、R1、R2の置換基と脱離機構を検討することによって、種々の方法によって脱離反応を誘起することが可能である。これらの検討の際には、先に示した一般式のR3〜R6の置換基が反応系に及ぼす電気的誘起効果を考慮することが好ましい。これらの脱離反応は1つの反応種のみで完結されてもよいし、化学的反応下で加熱する、或いは光励起下加熱するといった複数の反応系を組み合わせて同時に誘起してもよいし、更には、逐次的(光反応で脱離させた中間生成物を加熱により最終生成物に変換する)といった複雑な工程を用いてより高度な脱離反応系を構築することが可能である。
【実施例】
【0063】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0064】
特開2003−47459公報(特許文献3)に記載の方法に基づき、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、前記一般式(1)を介してのみ該可溶性基を有する構造の金属フタロシアニン化合物を合成した。
【0065】
先ず、図2中の化合物1とエチルブロマイドをDMF(ジメチルホルムアミド)中、塩基を用いて反応させることによりカルボキシル基を保護した化合物2を得る。化合物2とジシアノアセチレンをトルエンの存在下でディールスアルダー反応させて、フタロシアニン前駆体としてのジシアノ化合物3を得る。こうして得た化合物3を窒素置換した環境下で、酢酸銅とともに、n−ブタノール等に溶かし、反応させることによって、4量体化してフタロシアニン骨格を形成させると共に、金属元素をフタロシアニン骨格中に配位させて化合物4を得る。次いで、化合物4に対してリチウムクロライドを用いて、DMF中で脱保護反応を行うことで、カルボキシル基が置換された化合物5を得る。こうして得られた化合物5の、25℃における水に対する溶解度は50%程度である。
【0066】

上記式中のXにおいて、R1=R3=COOH、R2=R4=R5=R6=R7=R8=Hである。
上記式中のYにおいて、R1=R3=COOH、R2=R4=R5=R6=R7=R8=Hである。
上記金属フタロシアニン化合物において、M=Cu、n=0である。
【0067】
[実施例1]
(化合物6の合成)
上記で得た化合物5と、(CH3)3SiCl、ピリジン及び水を反応容器に入れて混合した。反応容器に、機械攪拌器、窒素入口を有する凝縮器、及びストッパーを取り付けた。混合物を連続的に攪拌しながら反応させた。反応終了後、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で濃縮しこれをカラムクロマトグラフィ(充填剤:シリカゲル)で精製し、再結晶することで以下の化合物6を得た。
【0068】

上記式中のXにおいて、R1=R3=COOH、R2=R4=R5=R6=R7=R8=Hである。
上記式中のYにおいて、R1=R3=COOH、R2=R4=R5=R6=R7=R8=Hである。
上記金属フタロシアニン化合物において、M=Cu、Z=−OSi(CH3)3、n=2である。
【0069】
[実施例2]
(化合物7の合成)
化合物6を合成したと同様の方法で、下記の化合物7を合成した。
【0070】

上記式中のXにおいて、R1=R3=COOH、R2=R4=R5=R6=R7=R8=Hである。
上記式中のYにおいて、R1=R3=COOH、R2=R4=R5=R6=R7=R8=Hである。
上記金属フタロシアニン化合物において、M=Cu、Z=−OSi(C613)3、n=2である。
【0071】
[実施例3]
下記成分を混合し、更に、ポアサイズが0.2ミクロンのメンブレンフィルターを用いて加圧濾過し、記録インクを作製した。尚、インクの総量は100部である。
・グリセリン 10部
・エチレングリコール 10部
・金属フタロシアニン化合物(化合物6)のNa塩
3部
・イオン交換水 残部
【0072】
[実施例4]
下記成分を混合し、更にポアサイズが0.2ミクロンのメンブレンフィルターを用いて加圧濾過し、記録インクを作製した。尚、インクの総量は100部である。
・グリセリン 10部
・エチレングリコール 10部
・金属フタロシアニン化合物(化合物7)のNa塩
3部
・イオン交換水 残部
【0073】
[比較例1]
下記成分を混合し、更にポアサイズが0.2ミクロンのメンブレンフィルターを用いて加圧濾過し、記録インクを作製した。尚、インクの総量は100部である。
・グリセリン 10部
・エチレングリコール 10部
・金属フタロシアニン化合物
(C.I.ダイレクトブルー 86) 3部
・イオン交換水 残部
【0074】
[比較例2]
下記の方法によりC.I.ピグメントブルー15:3を用いた記録インクを作製した。
(C.I.ピグメントブルー15:3の水分散液1の作製)
ベンジルメタクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価250、数平均分子量3,000のAB型ブロックポリマーを作り、更に、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50%ポリマー水溶液を作成した。このポリマー溶液を180g、C.I.ピグメントブルー15:3を100g及びイオン交換水を220gを混合し、そして機械的に0.5時間撹拌した。次いで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約10,000psi(約70Mpa)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理し、分散液を得た。更に、この分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去して分散液1とした。得られた分散液1は、その顔料濃度が10%、分散剤濃度が10%であった。
【0075】
(インクの調製)
上記分散液1を含む下記成分を混合して、記録インクを作製した。尚、インクの総量は100部である。
・グリセリン 10部
・エチレングリコール 10部
・分散液1 30部
・イオン交換水 残部
【0076】
[参考例1]
下記成分を混合し、更に、ポアサイズが0.2ミクロンのメンブレンフィルターを用いて加圧濾過し、記録インクを作製した。尚、インクの総量は100部である。
・グリセリン 10部
・エチレングリコール 10部
・金属フタロシアニン化合物(化合物5)Na塩
3部
・イオン交換水 残部
【0077】
[評価]
上記で作製した各インクをインクジェット記録装置PIXUS950i(商品名、キヤノン(株)製)用のインクカートリッジに詰め、実施例3、実施例4、比較例1、比較例2及び参考例1の各インクの性能評価を行った。得られた評価結果については、表1に各インク特性の評価結果を示し、表2に、各インクで形成した画像の評価結果を示した。
【0078】
(1)耐コゲ性
プリンターで1×108回吐出を繰り返した後、ヒーター表面を顕微鏡を用いて観察し、下記基準にて評価した。
◎:ヒーター上に堆積物がない。
○:ヒーター上に堆積物が少しあるが吐出に問題はない。
△:ヒーター上に堆積物が多少ある。
×:ヒーター上に堆積物が多量にある。
【0079】
(2)耐目詰り性(固着回復性)
35℃の恒温槽に1カ月間放置し、その後室温に24時間放置し、回復操作(ポンピングによる吸引操作)を行った後、印字させ、下記基準にて評価した。
◎:回復操作0〜2回以内に正常な印字状態に戻る。
○:回復操作3〜5回以内に正常な印字状態に戻る。
△:回復操作6〜10回で正常な印字状態に戻る。
×:回復操作6〜10回で不吐出又は印字の乱れがある。
【0080】
(3)溶解安定性(インク安定性)
実施例3、実施例4、比較例1、比較例2及び参考例1の各インクの安定性を確認するために、100ml容のガラス容器(ショット社製)にこのインクを100ml入れ、ねじ蓋により密閉した状態で、60℃の恒温のオーブン中に3ヶ月間保存した。ガラス容器を室温に戻した後、逆さまの状態のまま1日静置させ、ガラス表面を観察した。
◎:凝集物がない。
○:凝集物が小さく量も少ない。
△:凝集物が小さいが量が多い。
×:凝集物が大きく量も多い。
【0081】
次に、実施例3、実施例4、比較例1、比較例2及び参考例1の各インクのインクをつめたカートリジと、インクジェット式画像形成装置であるPIXUS950i(商品名、キヤノン(株)を用いて画像を形成した。実施例3、実施例4及び参考例1の各インク得られた画像に対しては、その後に以下の2通りの手段を用いて金属フタロシアニン化合物に逆ディールス−アルダー反応を生じさせた。そして、実施例3、実施例4、比較例1、比較例2及び参考例1の各インクによって形成したそれぞれの画像に対して画像評価を行った。
手段1:画像を太陽光のあたるところで1週間放置。
手段2:画像を70℃のオーブン内に1分間放置。
【0082】
(4)耐水性
記録媒体としてSP−101(商品名、キヤノン(株)製)を用い、英数文字、ベタ画像を印字して評価用の画像を形成した。得られた画像に純水を滴下し、画像の滲み具合を目視によって観察し、下記の基準で耐水性を評価した。
◎:画像のにじみは生じない。
○:画像のにじみは生じるが、気にならない程度である。
△:画像の滲みが生じ、文字がよみにくくなる。
×:画像の滲みが酷く生じ、文字が読めなくなる。
【0083】
(5)耐ガス性
記録媒体としてPR−101(商品名、キヤノン(株)製)を用い、ベタ画像を印字して評価用の画像を形成した。得られた画像に対して、評価装置;オゾンフェードメーターで、槽内温度40℃、相対湿度55%、3ppmのオゾン雰囲気下の曝露条件のもとで、2時間曝露した後、曝露を行っていない初期画像と目視によって比較観察し、下記の基準で耐ガス性の評価を行った。
◎:オゾンによる劣化は生じていない。
○:オゾンによる劣化は少しあるが、気にならない程度である。
△:オゾンによる劣化があり、画像の劣化を感じる。
×:オゾンによる劣化が酷く変色している。
【0084】
(6)画像品位(にじみ)
プリンターでPB PAPER(商品名、キヤノン(株)製)に英数文字を印字して評価用の画像を形成した。得られた画像について、顕微鏡及び目視で、文字のシャープさや文字より発生するヒゲ状のにじみの度合を観察し、下記の基準で画像品位を評価した。
◎:文字がシャープでにじみも生じていない。
○:文字がシャープであるが、ひげ状のにじみを生じている。
△:文字にシャープさがなく、にじみも少し発生。
×:文字にシャープさがなく、にじみも多い。
【0085】
(7)ブロンズ
ブロンズ現象は打ち込み濃度(duty)が高いほど、顕著に観察される。そこで、記録媒体としてHG−201(商品名、キヤノン(株)製)を用い、dutyを0〜100%まで5%ごとにふり、ブロンズ現象が現れ始めるもっとも高いdutyをもってその指標とした。つまり、発現するdutyが高いほどブロンズ現象が発現しにくいインクといえる。ブロンズの発生は、目視による観察で判断し、下記の基準で評価した。
◎:ブロンズ現象は発生しない。
○:ブロンズ現象が高duty部分で生じるが画像として問題はない。
△:ブロンズ現象が中〜高duty部分で生じ、画像として目立つ。
×:ブロンズ現象が低duty部分で生じる。
【0086】

【0087】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の活用例としては、水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を特定の構造を介して有する金属フタロシアニン化合物の耐凝集・会合性を良好にさせることができるので、インクの色材として有用な金属フタロシアニン化合物が挙げられる。更に、該金属フタロシアニン化合物を利用することで、インクの安定性、耐目詰まり性、更には、インクジェット記録においては耐コゲ性が向上し、又、該インクによって形成した画像の、画像品位、耐候性、更には耐水性が良好なものとなる、上記優れた効果の実現が可能な、水溶性インク、インクジェット記録方法、記録画像、記録装置及び画像形成方法が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】各金属フタロシアニン化合物の状態を模式的に示した図である。
【図2】化合物6の製造方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又は水溶性有機溶剤に溶解するための可溶性基を有し、且つ、下記一般式(1)のA、B、C、Dのいずれかで示される構造を介してのみ該可溶性基を有する金属フタロシアニン化合物であって、更に、該金属フタロシアニン化合物の中心金属に、下記一般式(2)で示される基が配位結合していることを特徴とする金属フタロシアニン化合物。

(上記一般式(1)において、A、B中の、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8が、水又は有機溶剤に溶解するための可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分である。又、C、D中の、R1、R2、R3、R4、R5、R6が、水又は有機溶剤に溶解するための可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分である。)

(上記一般式(2)において、X1、X2及びX3は、それぞれ、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、置換アラルキル基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アリーロキシ(アリールオキシ)基、置換アリーロキシ基、ポリエーテル基、置換ポリエーテル基、水酸基、及び水素原子の何れかを表し、且つ、X1、X2及びX3は、互いに同じであっても異なってもよい。)
【請求項2】
前記可溶性基が、水可溶性基である請求項1に記載の金属フタロシアニン化合物。
【請求項3】
前記可溶性基を直接又は間接的に連結し得る部分が、前記一般式(1)のA、B、C、D中のいずれかに記載されているR1、R2、R3、R4のいずれかである請求項1に記載の金属フタロシアニン化合物。
【請求項4】
前記一般式(2)においてX1、X2、X3のうち少なくとも1つが、炭素数6以上のアルキル基である請求項1に記載の金属フタロシアニン化合物。
【請求項5】
前記一般式(2)で表される基が複数、中心金属に配位結合している請求項1に記載の金属フタロシアニン化合物。
【請求項6】
前記金属フタロシアニン化合物が、下記一般式(3)で表される請求項1に記載の金属フタロシアニン化合物。

(上記一般式(3)において、Xは、前記一般式(1)中のAを示し、Yは、前記一般式(1)中のBを示す。又、Zは、前記一般式(2)で示される基を表し、nはZの数であり、1又は2である。又、Mは、金属を表す。)
【請求項7】
金属フタロシアニン化合物を色材として含有してなる水溶性インクであって、上記金属フタロシアニン化合物が請求項1〜6の何れか1項に記載の金属フタロシアニン化合物であることを特徴とする水溶性インク。
【請求項8】
インク滴を記録信号に応じてオリフィスより吐出させて被記録媒体に記録を行って記録物を得るインクジェット記録方法において、上記インクに、請求項7に記載の水溶性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記インク滴をオリフィスより吐出させる手段が、熱エネルギーを作用させてインク滴を吐出させるものである請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
インクを収容したインク収容部、該インクをインク滴として吐出させるためのヘッド部を備えた記録ユニットにおいて、上記インクが、請求項7に記載の水溶性インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項11】
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、上記インクが請求項7に記載の水溶性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項12】
インクを収容したインク収容部と、該インクをインク滴として吐出させるためのヘッド部とを備えたインクジェット記録装置において、上記インクが、請求項7に記載の水溶性インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項13】
インク滴を吐出させるための記録ユニット、インクを収容したインク収容部を有するインクカートリッジ、及び、該インクカートリッジから記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給部を備えたインクジェット記録装置において、上記インクが、請求項7に記載の水溶性インクであることを特徴とするインクジェット用記録装置。
【請求項14】
水溶性インクを用いて形成されてなる記録画像であって、上記水溶性インクが、請求項7に記載の水溶性インクであることを特徴とする記録画像。
【請求項15】
金属フタロシアニン化合物を被記録媒体に付与して画像を形成する画像形成方法において、上記金属フタロシアニン化合物が請求項1〜6の何れか1項に記載の金属フタロシアニン化合物であって、該金属フタロシアニン化合物を被記録媒体に付与する間又は付与後に、逆ディールス−アルダー反応させて金属フタロシアニン化合物を不溶化させることを特徴とする画像形成方法。
【請求項16】
金属フタロシアニン化合物を色材として含有してなる水溶性インクを被記録媒体に付与して画像を形成する画像形成方法において、上記インクが請求項7に記載のインクであって、該インクを被記録媒体に付与する間又は付与後に、逆ディールス−アルダー反応によってインクを不溶化させることを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−182989(P2006−182989A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380659(P2004−380659)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】