説明

金属基質上へのクロミウム−ジルコニウムコーティング用組成物及びその調製方法

【課題】様々な金属基質上のクロミウム−ジルコニウムコーティング用の組成物、及び前記組成物の使用方法の提供。
【解決手段】少なくとも1つの三価のクロム化合物、少なくとも1つのフルオロジルコニウム酸塩、少なくとも1つのカルボン酸化合物及び/又はポリヒドロキシ化合物、少なくとも1つの腐食抑制剤及び任意に有効量のフルオロ金属化合物(例えばフルオロチタン酸、フルオロタンタル酸塩、フルオロホウ酸塩、フルオロケイ酸塩)、二価の亜鉛化合物、界面活性剤、湿潤剤及び/又は増粘剤を含む有効量の酸性水溶液、並びにそれを用いた金属基質の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府関係であることの陳述)
本発明はアメリカ合衆国政府の職員によってなされたものであり、それはアメリカ合衆国政府によって、政府目的で製造又は使用され、その製品又はその使用のためのいかなるロイヤリティの支払いも発生しない。
【0002】
(関連出願)
本特許出願は、同時係属中の特許出願第NC−96,346(出願日:2005年2月15日)の一部継続出願である。
【0003】
(技術分野)
本発明は様々な金属基質上のクロミウム−ジルコニウムコーティングを調製するための組成物、及び前記組成物の使用方法に関する。該方法は、少なくとも1つの三価のクロム化合物、少なくとも1つのフルオロジルコニウム酸塩、少なくとも1つのカルボン酸化合物及び/又はポリヒドロキシ化合物、少なくとも1つの腐食防止剤及び任意に有効量のフルオロ金属化合物(例えばフルオロチタン酸、フルオロタンタル酸塩、フルオロホウ酸塩、フルオロケイ酸塩)、二価の亜鉛化合物、界面活性剤、湿潤剤及び/又は増粘剤を含む有効量の酸性水溶液を用いた金属基質の処理を含んでなる。本発明は具体的には、プレコーティングされた金属基質などの様々な金属基質を処理して、金属基質の接着結合性及び腐食防止特性を改良する方法に関する。該方法は、有効量の、少なくとも1つの水溶性三価のクロム塩、少なくとも1つの水溶性ヘキサフルオロジルコン酸塩、少なくとも1つの水溶性ポリ又はモノカルボン酸化合物及び/又はポリヒドロキシ化合物を含む安定な酸性水溶液で金属基質を処理することを含んでなる。更に、酸性溶液に、少量ではあるが有効量で添加してもよい化合物としては、少なくとも1つの水溶性フルオロ金属化合物、二価の亜鉛塩及び有効量の水溶性増粘剤及び/又は水溶性界面活性剤が挙げられる。
【0004】
本発明には特異的な化学物質を含む水溶液又は組成物、並びに既に金属プレコーティングされた基質などの様々な金属基質上へ、これらの化学物質に由来するコーティングを施す方法が含まれる。例えば、該組成物又は溶液は特に、アルミニウム及びアルミニウム合金のコーティング(すなわちアルミニウム化成被膜)による腐食保護及び塗料との粘着性の強化、陽極酸化による封孔処理による腐食保護の強化、チタン又はチタン合金の処理による塗料との粘着性強化、マグネシウム合金の処理による塗料との粘着性及び腐食保護の強化、鋼鉄のコーティング処理による、塗料との粘着性及び錆抑制の強化、並びに、リン酸塩コーティングによる後処理、鉄合金及び他の金属基質(例えば鋼鉄)への亜鉛、亜鉛−ニッケル、スズ−亜鉛及びカドミウムによる犠牲コーティングによる、塗料との粘着性及び腐食保護の強化に有用である。
【背景技術】
【0005】
現在用いられている前処理、後処理及び封孔用溶液の多くは、六価クロム化合物の使用に基づくものである。六価クロムは猛毒であり、発癌性を有することが知られている。その結果、これらのコーティング処理に用いる溶液及びコーティング物それ自体が有毒である。しかしながら六価クロムの膜又はコーティングにより顕著な塗料との粘着性、良好な耐食性、低い電気抵抗が付与され、それは浸漬、スプレー又は塗付技術によって容易に適用できる。しかしながら、環境法、行政庁からの命令及び地方の職業、安全性及び健康に関する規則(OSH)の存在により、軍事的及び商業的ユーザーはその代替技術の探索を余儀なくされている。更に、規則が厳しくなるにつれて六価クロムコーティングの使用は次第に高価となり、また環境保護庁及びOSHAにより将来課されるPEL規制によって経費が増加する。更に、クロム酸溶液のスプレーのような特定の手法はOSHによる取締りのために若干の施設では禁止されており、それにより最適でない代替的な溶液の使用を強いられている。以上をまとめると、六価クロム酸コーティングは技術的に優れているものの、ライフサイクル費用、環境及びOSHの観点から考慮すると、変形例の提供が大変望ましい。以上の背景により、環境及び健康面での課題を有さない、六価クロム酸コーティングと技術的に同等か又は優れた、金属の表面処理に関する代替法の開発が現在行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、組成物又は使用方法に関係なく、これらの多くの変形例では、特に多くの回数使用した後で、固体成分が溶液から分離し沈殿する傾向がある。この時間経過による沈殿の際に、不溶性の固体として活性化合物が沈殿してしまい、コーティング溶液としての効果が減弱するおそれがある。更に、固体物の沈殿により、浸漬及びスプレー塗装いずれの場合も、フィルタ、ライン及びポンプへの詰まりを生じさせるおそれがある。したがって、酸性溶液の貯蔵安定性向上、及び蒸着工程又はその蒸着によるコーティング物を用いた以降の作業を妨げない使用のために、より好適な組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、様々な金属基質(例えばプレコーティング(リン酸塩コーティング又は陽極酸化コーティング)された金属基質を含む)への腐食防止コーティングのための組成物及び処理方法に関し、該方法は三価のクロミウム(III)化合物、フルオロジルコニウム酸塩及び安定化剤、並びに任意に1つ以上のフルオロ金属化合物、界面活性剤、増粘剤及び二価の亜鉛化合物を含んでなる酸性水溶液による基質の処理を含んでなる。本発明を利用することにより、金属面と塗料などの塗膜との接着性が改善でき、また金属面(例えばアルミニウム、鋼、亜鉛めっき表面など)の腐食防止特性が改善できる。本発明の酸性溶液にはまた、ポリヒドロキシ化合物及び/又は式R−COO−(Rが水素又は低分子有機ラジカル又は官能基)で表される1つ以上のカルボン酸官能基を有する水溶性カルボン酸化合物から構成される、少なくとも1つの水溶性安定化剤又は化合物の有効量が含まれる。安定化剤、すなわちカルボン酸化合物は、それらの酸又は塩の形態で使用できる。場合によっては、該カルボン酸安定化剤の塩はそれらの酸よりも性能が優れている。例えば、弱酸性pH範囲で緩衝作用を発揮する有機酸(蟻酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、クエン酸及び他の短鎖又は低分子量カルボン酸)を溶液状の安定化剤として利用できる。酸性溶液へのポリヒドロキシ系又はカルボン酸系の安定化剤の添加により、溶液の使用期限の長期化及び使用時の安定性向上効果が得られる。安定化剤を添加した酸性溶液では、24ヵ月の使用期限の経過時の評価において沈殿が実質的に生じず、また析出などのコーティング性能のいかなる低下も生じなかった。
【0008】
図1から6では、腐食防止用のトリアゾールを含まないコーティングと比較した、本発明のトリアゾール含有溶液による同様のコーティングを施されたアルミニウム合金の性能向上を示す。
【0009】
以上より、本発明の目的は、三価のクロム化合物、フルオロジルコニウム酸塩、ポリヒドロキシ化合物及び/若しくはカルボン酸化合物を含んでなる、金属基質(プレコーティングされた基質を含む)のコーティングに使用する、金属の粘着性及び腐食耐性を高めるための安定な酸性水溶液を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、三価のクロム化合物、フルオロジルコニウム酸塩、ピッチング防止化合物、並びに、少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物及び/又はカルボン酸化合物を含む、pH約1.0〜5.5である、金属のプレコーティングの有無にかかわらず金属基質を処理するための安定な酸性水溶液を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、コーティングへの識別可能な色調、良好な粘着性及び向上した耐食性の提供を目的とした、金属基質の処理方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、三価のクロム化合物、ヘキサフルオロジルコン酸塩、並びに少なくとも1つのカルボン酸又はポリヒドロキシ化合物を含んでなり、pHが約1.0〜5.5である、常温及びそれ以上の温度で金属基質を処理するための安定な酸性水溶液であって、実質的に六価クロムが含まれない前記酸性溶液を提供することである。
【0013】
上記の、及びその他の本発明の目的は、添付の図1から6(写真)と組み合わせて以下の詳細な説明を参照することで明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は安定な酸性水溶液、並びに、プレコーティングした基質(陽極酸化アルミニウム又はリン酸塩などによりコーティングした基質など)をはじめとする金属基質上に、例えば化成処理によるジルコニウム−クロミウムコーティングを施すための、pH約1.0〜5.5、好ましくは約2.5〜4.5又は3.4〜4.0の前記水溶液を使用して、金属の接着結合性及び耐食性を向上させる方法に関する。公知のリン酸塩コーティング処理としては、例えばリン酸亜鉛コーティング、リン酸鉄、リン酸マンガン及びリン酸カルシウム−リン酸亜鉛混合物によるコーティングが挙げられる。該方法には、約48.9℃以上(例えば最高約93.3℃)の温度での酸性水溶液の使用が含まれる。該溶液には、少なくとも1つの水溶性三価クロム化合物(例えば硫酸クロム)が、酸性溶液1Lあたり約0.01〜100g、好ましくは約0.01〜22g又は5.0〜7.0g、少なくとも1つのフルオロジルコニウム酸塩(例えばHZrFのアルカリ金属塩)が、溶液1Lあたり約0.01〜24g、好ましくは約1.0〜12g又は1.0〜6.0g、並びに、カルボン酸化合物、ポリヒドロキシ化合物及びこれらのいずれの安定化剤の任意の比率による混合物からなる群から選択される水溶性の安定化剤又は化合物が、溶液1L当たり約0.001〜2.0モル、好ましくは約0.001〜1.0モル又は約0.01〜0.2モル含まれる。必要な場合、本発明の化合物の各々は処理される金属面に応じて、それらの酸性水溶液中への溶解限度までの量で使用できる。本発明により処理される金属面はいかなる金属基質であってもよく、例えば鉄、亜鉛、マグネシウム、亜鉛めっき鋼などの鋼鉄の表面、並びにアルミニウム及びアルミニウム合金などが挙げられる。保護コーティング又は金属プレコーティングを有する金属面などのいかなる金属面も、本発明の組成物で処理できる。
【0015】
金属基質(例えば従来の機械又は化学技術を経たアルミニウム基質)のクリーニング及びデオキシダイズ又はピックリングの後に、本発明の酸性溶液を、他の金属処理に使用する方法と同様の浸漬、スプレー又は塗装技術により金属基質に対して室温で適用する。溶液の滞留時間は、約1.0〜60分又はそれ以上にわたる。この溶液では、1.0〜40分又は1.0〜10分の滞留時間の間に最適な膜の色調変化、塗料の粘着及び耐食性が得られる。1.0〜10分の滞留時間では、主に水溶液の化学組成に依存して、コーティングがかなりの色調変化を呈する。残留する溶液はその後、タップ又は脱イオン水を用いて金属基質から洗浄除去する。
【0016】
若干の方法において、金属基質の物理的特徴(例えば鋼又はアルミニウム基質の物理的寸法)に応じて溶液に増粘剤を添加することにより、溶液蒸発が遅延され、スプレー及び塗装の間の最適な薄膜形成が助長される。これはまた、塗装の接着性を低下させる粉末を形成しにくくする。増粘剤の添加はまた、大面積に適用する際、適当な塗膜形成を助長し、前の工程に続く工程において、基質上に残留する洗浄水による希釈効果を緩和する。該方法のこの特徴により、かき傷のない、呈色及び腐食保護効果が改善されたフィルム又はコーティングが得られる。セルロース化合物などの水溶性増粘剤を、1Lあたり約0.0〜20g、好ましくは0.5〜10g(例えば水溶液1Lあたり約0.1〜5.0g)の量で酸性水溶液に添加できる。更に、金属基質の特徴に応じて、有効量の、但し微量の、少なくとも1つの水溶性界面活性剤又は湿潤剤を、約0.0〜20g、好ましくは0.5〜10g(例えば酸性溶液1Lあたり0.1〜5.0g)の量で酸性溶液に添加できる。多くの水溶性界面活性剤が従来技術において公知であり、ゆえに本発明でも非イオン性、カチオン性及び、アニオン性界面活性剤からなる群から界面活性剤を選択できる。
【0017】
三価のクロミウムは、水溶性の三価のクロム化合物(液体又は固体として、好ましくは三価のクロム塩)として溶液に添加する。具体的には、本発明の酸性水溶液を調製する際に、クロム塩を溶液に添加し、原子価がプラス3価である水溶状態のクロムとすることが好適である。例えば、Cr(SO、(NH)Cr(SO、Cr(NO)・9HO又はKCr(SO及びこれらの化合物の任意のクロム化合物混合物の形で、溶液に添加するのが好ましい。好ましい三価のクロム塩濃度は、水溶液1Lあたり約5.0〜7.0gである。三価のクロム化合物が好適な濃度で溶液に存在するとき、特に良好な結果がこれらの方法により得られることが分かっている。
【0018】
酸性溶液には少なくとも1つの二価の亜鉛化合物を含めてもよく、それにより着色がなされ、亜鉛を含まない他の処理又は組成物と比較して基質の腐食保護が改善される。亜鉛化合物の量は、コーティングに付与する色調を調整する場合、0.0〜20g、特に約0.001g〜10g(1Lあたり)(例えば0.5〜2.0gのZn2+カチオン)で調節できる。二価の亜鉛は、いかなる化学物質(例えば必要な濃度で水溶し、酸性溶液の他の成分と適合性を有する塩)によって供給してもよい。必要な濃度で水溶する二価の亜鉛化合物としては、好ましくは酢酸亜鉛、テルル化亜鉛、テトラフルオロホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ヘキサフルオロケイ酸亜鉛、硫酸亜鉛など、又はそれらの任意の比率におけるあらゆる組み合わせが例示される。金属基質の処理又はコーティングは、常温(例えば室温)から約48.9℃又はそれ以上(最高約93.3℃)における適切な溶液温度で実施できる。しかしながら、加熱装置が必要ないという点で、室温が好適である。コーティングは、例えばオーブン乾燥、エアジェット乾燥、赤外ランプ露光などのいずれかの公知技術の方法で空気乾燥してもよい。
【0019】
以下の実施例は、本発明の安定酸性溶液、並びに既に金属被覆を有する金属基質を含む金属基質へ、着色性、接着結合性及び耐食性が改善されたコーティングを施すための、上記溶液の使用方法を示す。
【0020】
<実施例1>
金属基質に腐食防止及び着色コーティングを施すための、約3.4〜4.0のpHを有する安定な酸性水溶液(溶液1Lあたり、約3.0gの三価の硫酸クロム(塩基)、約4.0gのヘキサフルオロジルコン酸カリウム、約1.0gの硫酸亜鉛及び約0.2モルの蟻酸のアルカリ金属塩)を調製した。
【0021】
<実施例2>
鋼基質に腐食防止コーティングを施すための、安定な酸性水溶液(溶液1Lあたり、約3.0gの三価の硫酸クロム(塩基)、約4.0gのヘキサフルオロジルコン酸カリウム及び0.2モルのクエン酸のアルカリ金属塩)を調製した。
【0022】
<実施例3>
鋼基質に腐食防止及び着色コーティングを施すための、安定な酸性水溶液(溶液1Lあたり、約3.0gの三価の硫酸クロム(塩基)、約4.0gのヘキサフルオロジルコン酸カリウム、約2.0gの二価の硫酸亜鉛及び約0.001モルの蟻酸)を調製した。
【0023】
<実施例4>
改良された酸性安定化剤溶液(1Lあたり、ヘキサフルオロジルコン酸カリウム約4.0g、硫酸クロム(III)(塩基)3.0g及び蟻酸カリウム0.01モル)を調製した。約30日後、溶液のpHは3.96であった。約12ヵ月後、溶液のpHは3.92であった。
【0024】
<実施例4A>
改良された酸性安定化剤溶液(1Lあたり、ヘキサフルオロジルコン酸カリウム約4.0g、硫酸クロム(III)(塩基性)3.0g、グリセロール0.1モル)を調製した。
【0025】
<実施例5>
1Lあたり、ヘキサフルオロジルコン酸カリウム約0.01〜10g、三価の硫酸クロム(塩基)約0.01〜10g、水溶性界面活性剤約0.0〜10g、メチルセルロース増粘剤約0.0〜10g、二価の亜鉛化合物約0.0〜5.0g、及び水溶性カルボン酸塩約0.001〜0.2モルを含む溶液を調製した。
【0026】
<実施例6>
実施例5の溶液において、1Lあたりヘキサフルオロジルコン酸カリウムを4.0g、硫酸クロム(塩基)を3.0g、二価の亜鉛化合物0.05〜2.0g、水溶性カルボン酸性塩0.005〜0.01モル、水溶性界面活性剤0.0〜10g及びメチルセルロース増粘剤0.0〜10g含む溶液を調製した。
【0027】
写真(図1から4)は、溶液中における安定化剤の有無で比較した、アルミニウムパネルの腐食及びpHデータを示す。金属基質(AA2024T3)を、非シリカ化合物である穏やかなアルカリ化合物で約15分間洗浄し、鉄ベースの化合物で約5分間酸素除去し、約5分間TCPで処理した。次いでパネルをASTM B117による塩霧曝露に供した。図1及び2(AA2024T3)のパネルの下部は、本発明の実施例4の溶液で処理した転換コーティング済アルミニウムパネルの場合の様子と、裸の金属の場合の様子を比較して示すために処理しなかった。金属基質(AA7075T6)を、非シリカ化合物である穏やかなアルカリ化合物で約15分間洗浄し、鉄ベースの化合物で約5分間酸素除去し、約5分間TCPで処理した。次いでパネルをASTM B117による塩霧曝露に供した。図3及び4(AA7075T6)のパネルの下部も上記と同様に、本発明の実施例4の溶液で処理した転換コーティング済アルミニウムパネルの場合の様子と、裸の金属の場合の様子を比較して示すために処理しなかった。用語「塩霧」とは、ASTM−B 117−61に示される塩水噴霧耐食性試験を指す。
【0028】
安定化剤としてのカルボン酸化合物としては、水溶性の酸及び/又はカルボン酸塩(例えば水溶性カルボン酸(アジピン酸、クエン酸、酢酸、シトラコン酸、フマル酸、グルタル酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸など)及びその塩)が挙げられるが、但しカルボキシル基上の炭化水素鎖が、化合物の溶解性を低下させるだけの有意な数の炭素原子を含まないことが条件となる。塩及び/又は酸のうちの2つ以上の組み合わせを採用することで、特異的なpHへの調節が可能となる。例えば、1Lあたり少なくとも0.001〜1.0モルの濃度の蟻酸カリウム又はクエン酸塩のような低分子の酸及び/又は塩の存在は、全ての安定化剤に関して良好である。最初の溶液調製から4日後に蟻酸カリウムを1Lあたり約0.01モル添加して調製した酸性溶液では、特に良好な結果が得られた。安定化剤がヒドロキシ基とカルボキシル基を含んでなるカルボン酸化合物(例えばクエン酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸、グルタル酸及びそれらの塩のような化合物)である場合、良好な結果が得られる。
【0029】
安定化剤としてのカルボン酸化合物に加えて、ポリヒドロキシ化合物を、微量であるが有効な量(1Lあたり約0.001〜2.0モル、好ましくは0.01〜1.0モルの量)で、安定化剤として使用してもよい。該化合物としては、三水素化合物(例えばグリセロール)、並びに二水素含有エーテルアルコール類(例えばグリコールエーテル類(アルキレングリコールエーテルなど(例えばメチレングリコールエーテル、プロピレングリコールエーテル、トリプロピレングリコールエーテル、ジエチレングリコールエーテル)))が挙げられる。他のグリコール(低分子化合物(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサノール)類、並びに水溶性ポリ(オキシアルキレングリコール)(例えばポリ−オキシエチレン又はポリ−オキシプロピレングリコール(約1000以下の低分子量を有する))を、コーティングバス中又は酸性溶液中における固体の安定性及び分散性を向上させるために使用してもよい。他の周知の二水素及び三水素の脂肪族アルコールとしては、水溶性低級アルカノール(例えば最高12個の炭素原子を含んでなる二水素及び三水素含有アルカノール類)が挙げられる。この種類の二水素及び三水素の低級アルカノールとしては、アルキレン基に最高10個の炭素原子が含まれるグリコール(例えばトリメチレングリコール)、並びに、ポリグリコール(例えばジエチレングリコール、メチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、トリブチレングリコール及び他のポリアルキレングリコールであって、アルキレンラジカルが2〜8個の炭素原子、好ましくは2〜4まで炭素原子を含む)が挙げられる。カルボン酸及びポリヒドロキシ系の安定化剤の組み合わせ又は混合物は、いかなる比率で酸性溶液に用いてもよい。
【0030】
酸性水溶液には、ポリヒドロキシ及びカルボン酸系の安定化剤に加えて、微量だが有効な量(溶液1Lあたり0.0〜24g、例えば0.01〜12g)の少なくとも1つのフルオロ金属化合物(ヘキサフルオロチタン酸塩、ヘプタフルオロタンタル酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩などの化合物)を含めてもよい。
【0031】
本発明の酸性溶液の調製の際、周知の水溶性界面活性剤を、1Lあたり約0〜20g、好ましくは約5.0〜10g又は1.0〜5.0gの量で三価のクロミウム溶液に添加してもよい。界面活性剤を水溶液に添加することにより、液面張力の低下による良好な湿潤性が得られ、それにより金属基質の全面への均一な薄膜形成が可能となる。界面活性剤には、非イオン性、アニオン性及びカチオン性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1つの水溶性化合物が含まれる。公知の水溶性界面活性剤としては、モノカルボキシイミダゾリン、アルキル硫酸ナトリウム塩(DUPONOL(登録商標))、トリデシロキシポリ(アルキルエノキシエタノール)エトキシ化又はプロポキシ化アルキルフェノール(IGEPAL(登録商標))、アルキルスルホンアミド、硫酸アルカリール、パルミチックアルカノールアミド(CENTROL(登録商標))、オクチルフェニルポリエトキシエタノール(TRITON(登録商標))、ソルビタンモノパルミテート(SPAN(登録商標))、ドデシルフェニルポリエチレングリコールエーテル(例えばTERGITROL(登録商標))、アルキルピロリドン、ポリアルコキシ化脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸及びこれらの混合物が挙げられる。他の公知の水溶性界面活性剤としては、例えばノニルフェノールエトキシレート及び脂肪族アミンを有するエチレンオキシドのアダクトが挙げられる(“Surfactants and Detersive Systems”,by John Wiley et al. in Kirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology, 3rd Ed.を参照)。
【0032】
表面積が広いために浸漬できない場合や、垂直面に噴霧する場合には、表面における水溶液との接触条件を維持するために増粘剤を添加する。使用する増粘剤としては水溶性無機及び有機増粘剤が公知であり、例えば3価クロム溶液に対して有効量(酸性溶液1Lあたり0〜10g、好適には0.5〜1.5g)を添加できる。好適な増粘剤の具体例としては、セルロース化合物、例えばヒドロキシプロピルセルロース(クルセル等)、エチルセロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース及びこれらの混合物が挙げられる。他の好適な水溶性無機増粘剤としては、コロイド状シリカ、ベントナイト等の粘土、でんぷん、アラビアガム、トラガカントゴム、寒天及び種々の組み合わせ等が挙げられる。
【0033】
通常の方法により金属基質の表面をコーティングした後、前記溶液を浸漬、噴霧又は塗布により適用できる。本発明のTCP溶液は、48.9℃以下の温度、あるいはそれ以上の温度(例えば93.3℃まで)の高温で使用でき、更に最適にはコーティングの耐腐食性を向上させるために浸漬工程で塗布する。溶液への滞留時間は、約23.8℃以上で約1〜60分、好ましくは1.0〜40分又は1.0〜10分である。滞留後、残存溶液を基板から叩き落とすか、又は脱イオン水で十分に洗い流す。良好な性能を発揮させるための、積層した薄膜への追加的な化学的操作は必要ない。しかし、強力な酸化溶液を用いると薄膜の耐蝕性が向上しうる。さらに耐蝕性が向上するのは、薄膜中において3価クロムから6価クロムが生じるためであると推定される。水溶液は、浸漬タンクの代替として設計された噴霧タンクから噴霧してもよい。
【0034】
本発明は多くの具体的な実施例により記載されているが、下記請求項において特定される本発明の範囲を逸脱することなく、他の変形や修正なすことができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(写真)本発明の実施例4に係る組成物(TCP/R−COO−)による化成被膜を有する、アルミニウム合金(AA2024T3)パネルの腐食の程度を示す。パネルの下部は処理しなかった。
【図2】(写真)(R−COO−)カルボン酸安定化剤を含まない従来の組成物(TCP)による化成被膜を有する、アルミニウム合金(AA2024T3)パネルの腐食の程度を示す。パネルの下部は処理しなかった。
【図3】(写真)本発明の実施例4に係る組成物(TCP/R−COO−)による化成被膜を有する、アルミニウム合金(AA7075T6)パネルの腐食の程度を示す。パネルの下部は処理しなかった。
【図4】(写真)(R−COO−)カルボン酸安定化剤を含まない従来の組成物(TCP)による化成被膜を有する、アルミニウム合金(AA7075T6)パネルの腐食の程度を示す。パネルの下部は処理しなかった。
【図5】(写真)中性塩による噴霧後25日における、溶液1Lあたり0.1モルのグリセロールを含む本発明の酸性水溶液(pH3.55)によるコーティングを有する、アルミニウム合金パネルの腐食の程度を示す。
【図6】(写真)中性塩による噴霧後25日における、溶液1Lあたり0.1モルのグリセロールを含む本発明の酸性水溶液(pH3.90)によるコーティングを有する、アルミニウム合金パネルの腐食の程度を示す。パネル(図5及び6)の下部は処理しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の腐食保護及び接着結合を改善するための金属基質のコーティング方法であって、金属基質を有効量のpH約1.0〜5.5の酸性水溶液で処理することを含み、前記酸性水溶液が、溶液1Lあたり、約0.01〜100gの少なくとも1つの三価のクロム化合物、約0.01〜24gの少なくとも1つのフルオロジルコニウム酸塩、約0.0〜20gの二価の亜鉛化合物、約0.0〜20gの界面活性剤、約0.0〜20gの増粘剤、並びに有効量の、ポリヒドロキシ化合物、カルボン酸化合物及びポリヒドロキシ化合物及びカルボン酸化合物の混合物からなる群から選択される少なくとも1つの安定化剤を含んでなる方法。
【請求項2】
前記金属基質がその表面に金属プレコーティングを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属プレコーティングを有する基質が陽極酸化アルミニウムである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記金属プレコーティングを有する基質がリン酸塩コーティングである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記金属基質がアルミニウム合金である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記金属基質が鉄合金である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記カルボン酸化合物がヒドロキシカルボン酸化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物がクエン酸及びその水溶性塩である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物がグリコール酸及びその水溶性塩である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物がグルコン酸及びその水溶性塩である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記カルボン酸化合物が蟻酸及びその水溶性塩である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記カルボン酸化合物がプロピオン酸及びその水溶性塩である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記酸性水溶液が1Lあたり約0.001〜1.0モルの蟻酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記酸性水溶液が1Lあたり約0.001〜2.0モルの安定化剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記安定化剤がグリセロールである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記安定化剤が1分子あたり複数の官能性カルボキシル基を有するカルボン酸化合物である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
金属の腐食保護及び接着結合を改善するための金属基質のコーティング用組成物であって、pHが約1.0〜5.5で、溶液1Lあたり、約0.01〜100gの少なくとも1つの三価のクロム化合物を含む酸性水溶液、約0.01〜24gの少なくとも1つのフルオロジルコニウム酸塩、約0.0〜20gの二価の亜鉛化合物、約0.0〜20gの界面活性剤、約0.0〜20gの増粘剤、並びに有効量の、ポリヒドロキシ化合物、カルボン酸化合物及びポリヒドロキシ化合物及びカルボン酸化合物の混合物からなる群から選択される少なくとも1つの安定化剤を含んでなる組成物。
【請求項18】
前記安定化剤が1分子あたり複数の官能性カルボキシル基を有するカルボン酸化合物である、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
前記カルボン酸化合物がオキシカルボン酸及びその水溶性塩である、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物がクエン酸及びその水溶性塩である、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物がグリコール酸及びその水溶性塩である、請求項19記載の組成物。
【請求項22】
前記ヒドロキシカルボン酸化合物が乳酸及びその水溶性塩である、請求項19記載の組成物。
【請求項23】
前記カルボン酸化合物が蟻酸及びその水溶性塩である、請求項17記載の組成物。
【請求項24】
前記カルボン酸化合物がプロピオン酸及びその水溶性塩である、請求項17記載の組成物。
【請求項25】
前記ポリヒドロキシ化合物がグリセロールであり、前記カルボン酸化合物が低分子カルボン酸及びその水溶性塩である、請求項17記載の組成物。
【請求項26】
前記安定化剤が低分子カルボン酸とポリヒドロキシ化合物の混合物である、請求項17記載の組成物。
【請求項27】
前記安定化剤が低分子ポリヒドロキシ化合物である、請求項17記載の組成物。
【請求項28】
前記ポリヒドロキシ化合物がグリセロールである、請求項17記載の組成物。
【請求項29】
前記亜鉛化合物が水溶性亜鉛塩であり、約0.5〜2.0gの量で酸性水溶液に存在する、請求項17記載の組成物。
【請求項30】
少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物がグリセロールである、請求項17記載の組成物。
【請求項31】
前記ポリヒドロキシ化合物がポリアルキレングリコールである、請求項17記載の組成物。
【請求項32】
pH範囲が約2.5〜4.5であり、溶液1Lあたり、前記三価のクロム化合物が約0.01〜22g、ヘキサフルオロジルコン酸塩である前記フルオロジルコニウム酸塩が約0.01〜12g、前記安定化剤が約0.001〜1.0モル含まれる、請求項17記載の組成物。
【請求項33】
前記安定化剤が低分子カルボン酸及び水溶性塩である、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
前記安定化剤がポリヒドロキシ化合物である、請求項32記載の組成物。
【請求項35】
前記亜鉛化合物が約0.001〜10gで含まれる、請求項32記載の組成物。
【請求項36】
前記増粘剤及び/又は界面活性剤が約1.0〜5.0gで含まれる、請求項32記載の組成物。
【請求項37】
亜鉛化合物が溶液1Lあたり約0.5〜2.0gの量で水溶液に存在する、請求項32記載の組成物。
【請求項38】
前記酸性水溶液が、フルオロチタン酸、フルオロタンタル酸塩、フルオロホウ酸塩、フルオロケイ酸塩及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのフルオロ金属化合物を1Lあたり約0.01〜12gで含む、請求項17記載の組成物。
【請求項39】
前記フルオロ金属化合物がテトラフルオロホウ酸塩であり、前記フルオロジルコニウム酸塩がヘキサフルオロジルコン酸塩である、請求項38記載の組成物。
【請求項40】
前記フルオロ金属化合物がヘキサフルオロケイ酸塩であり、前記フルオロジルコニウム酸塩がヘキサフルオロジルコン酸塩である、請求項38記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−530361(P2008−530361A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555078(P2007−555078)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/041414
【国際公開番号】WO2006/088519
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(505277484)ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ レプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー オブ ザ ネイビー エト アル. (7)
【氏名又は名称原語表記】THE UNITED STATES OF AMERICA,as represented by THE SECRETARY OF THE NAVY,et al.
【住所又は居所原語表記】Building 435,Suite A,Naval Air Warfare Center Aircraft Division,47076 Liljencrantz Road,Patuxent River,MD,U.S.A.
【Fターム(参考)】