説明

金属接合体の製造方法及び金属接合体

【課題】容易に高い剥離強度を得ることができる金属接合体の製造方法及び金属接合体を提供する。
【解決手段】対向して配置したダイ11とパンチ12との間に、複数の金属部材21の板状部分を重ね合わせて配置し、ダイ11とパンチ12とが接近するように相対的に移動させて板状部分を押圧することにより、一方の面を突出させ、他方の面を陥没させた押出部22を形成して接合する。ダイ11には、円筒状の外枠11Aの中に、内部材11Bを挿入し、凹部11Cを形成したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属部材を塑性変形により接合させる金属接合体の製造方法及び金属接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の板状の金属部材を接合する方法としては、例えば、凹部を設けたダイの上に複数の板状の金属部材を重ね、パンチによりダイの凹部に金属部材を局所的に押し込むことにより、金属材料を塑性変形させて接合するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、溶接の難しい材料や、異種材料についても接合することができ、また、コストを低減しつつ、リサイクル性、軽量性、及び環境調和性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−90354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この接合方法では、溶接などに比べて接合体の剥離強度が弱いという問題があった。また、この接合方法は、金属部材の厚みや材質により最適の接合条件が異なり、接合条件の設定が難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、容易に高い剥離強度を得ることができる金属接合体の製造方法及び金属接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属接合体の製造方法は、対向して配置したダイとパンチとの間に、複数の金属部材の板状部分を重ね合わせて配置し、ダイとパンチとが接近するように相対的に移動させて板状部分を押圧することにより、一方の面を突出させ、他方の面を陥没させた押出部を形成し、複数の金属部材を板状部分で接合するものであって、ダイとして、円筒状の外枠の中に、内部材を挿入することにより凹部を形成したものを用い、内部材の一端面中央部には、外枠の伸長方向に突出する突起部を形成し、突起部は、先端側よりも基端側の方が大きい円錐台状とするものである。
【0007】
本発明の金属接合体は、対向して配置されたダイとパンチとの間に、複数の金属部材の板状部分を重ね合わせて配置し、ダイとパンチとが接近するように相対的に移動させて板状部分を押圧することにより、一方の面を突出させ、他方の面を陥没させた押出部を形成し、複数の金属部材を板状部分において接合したものであって、ダイには、円筒状の外枠の中に、内部材を挿入することにより凹部を形成したものを用い、内部材の一端面中央部には、外枠の伸長方向に突出された突起部を形成し、突起部は、先端側よりも基端側の方が大きい円錐台状として、押出部を形成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属接合体の製造方法及び金属接合体によれば、ダイとして、円筒状の外枠の中に、内部材を挿入することにより凹部を形成したものを用いるようにしたので、金属部材の厚みや材質に応じて、適切なダイの形状を細かく調整することができる。よって、容易に高い剥離強度を有する金属接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係る金属接合体の製造方法を表す図である。
【図2】本発明の実施例で用いたダイとパンチの寸法を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る金属接合体の製造方法を表すものである。本実施の形態に係る金属接合体の製造方法は、板状部分を有する複数の金属部材を板状部分で重ね合わせて接合するものであり、本実施の形態に係る金属接合体20は、この製造方法により得られたものである。
【0012】
まず、例えば、図1(A)に示したように、ダイ11とパンチ12とを対向させて配置し、板状部分を有する複数の金属部材21を板状部分において重ね合わせ、ダイ11とパンチ12との間に配置する。ダイ11には、例えば、円筒状の外枠11Aの中に、内部材11Bを挿入し、凹部11Cを形成したものを用いる。内部材11Bは、例えば、外周面が外枠11Aの内周面に当接する円柱部11Dを有するように形成し、円柱部11Dの凹部11C側の一端面中央部には、外枠11Aの伸長方向に突出する突起部11Eを形成する。突起部11Eは、例えば、先端側よりも基端側(円柱部11Dの側)の方が大きい円錐台状とする。凹部11Cの深さは、例えば、中心部が浅く、外縁部がドーナツ状に深くなるようにする。パンチ12は、例えば、直径が凹部11Cの内径よりも小さい円柱状とする。
【0013】
このように、外枠11Aと内部材11Bとを組み合わせるようにすれば、内部材11Bの外枠11Aに対する挿入位置を変えることにより、凹部11Cの深さを細かく調整することが可能となる。また、突起部11Eの大きさが異なる内部材11Bと入れ替えることにより、凹部11Cの形状を細かく調整することが可能となる。
【0014】
次いで、例えばパンチ12をダイ11に向かって押すことにより、ダイ11とパンチ12とが接近するように相対的に移動させて、金属部材21の板状部分を押圧し、板状部分の一方の面を突出させ、他方の面を陥没させた押出部22を形成する。これにより、複数の金属部材20を板状部分で接合する。なお、接合可能な金属部材20の材質としては、例えば、軟鋼材、高張力鋼材、超高張力鋼材、又は、アルミ合金が好ましく挙げられる。
【0015】
このように本実施の形態によれば、ダイ11として、円筒状の外枠11Aの中に、内部材11Bを挿入することにより凹部11Cを形成したものを用いるようにしたので、金属部材21の厚みや材質に応じて、適切なダイ11の形状、寸法を細かく調整することができる。よって、容易に高い剥離強度を有する金属接合体20を得ることができる。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
図2に示したダイ11とパンチ12とを用い、ダイ11とパンチ12との間に2枚の板状の金属部材21を配置し、パンチ12をダイ11に向かって押して、押出部22を形成することにより接合し、金属接合体20を作製した。ダイ11の凹部11Cの内径aは6mm、突起部11Eの先端側端面の直径bは3.15mm、突起部11Eの高さcは0.8mm、パンチ12の直径dは3.85mmとし、ダイ11の凹部11Cの外縁部の深さeは表1に示したように、1.15mmから2.23mmの範囲で変化させた。また、金属部材21は2枚とも高張力鋼板により構成し、厚みは2枚とも1.6mmとした。
【0017】
得られた金属接合体20について、2枚の金属部材を剥離する方向に引っ張った時に剥離する力(抜去力)を調べた。得られた結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
(実施例2)
パンチ12の直径dを4.1mmとしたことを除き、他は実施例1と同様にして金属接合体20を作成し、実施例1と同様にして抜去力を調べた。その際、ダイ11の凹部11Cの外縁部の深さeは、表2に示したように、1.42mmから2.32mmの範囲で変化させた。得られた結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
(実施例3)
パンチ12の直径dを3.6mmとしたことを除き、他は実施例1と同様にして金属接合体20を作成し、実施例1と同様にして抜去力を調べた。その際、ダイ11の凹部11Cの外縁部の深さeは、表3に示したように、1.24mmから2.14mmの範囲で変化させた。得られた結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
(実施例4)
実施例1と同様にして、厚み0.4mmの高張力鋼板よりなる2枚の金属部材21を重ね合わせて接合し、金属接合体20を作製した。その際、ダイ11の凹部11Cの内径aは4mm、突起部11Eの先端側端面の直径bは2.55mm、突起部11Eの高さcは0.4mm、パンチ12の直径dは3.5mmとし、ダイ11の凹部11Cの外縁部の深さeは表4に示したように、0.5mmから1.31mmの範囲で変化させた。得られた金属接合体20について、実施例1と同様にして抜去力を調べた。得られた結果を表4に示す。
【0024】
【表4】

【0025】
(実施例5)
実施例1と同様にして、厚み0.4mmの高張力鋼板よりなる金属部材21と、厚み1.6mmの高張力鋼板よりなる金属部材21とを重ね合わせて接合し、金属接合体20を作製した。その際、ダイ11の凹部11Cの内径aは6mm、突起部11Eの先端側端面の直径bは3.15mm、突起部11Eの高さcは0.8mm、パンチ12の直径dは3.85mmとし、ダイ11の凹部11Cの外縁部の深さeは表5に示したように、0.79mmから1.06mmの範囲で変化させた。また、金属部材21は、厚み1.6mmの方をダイ11の側、厚み0.4mmの方をパンチ12の側にして積層した。得られた金属接合体20について、実施例1と同様にして抜去力を調べた。得られた結果を表5に示す。
【0026】
【表5】

【0027】
(実施例6)
実施例1と同様にして、厚み1.6mmの高張力鋼板よりなる金属部材21と、厚み0.4mmの高張力鋼板よりなる金属部材21とを重ね合わせて接合し、金属接合体20を作製した。その際、ダイ11の凹部11Cの内径aは4mm、突起部11Eの先端側端面の直径bは2.45mm、突起部11Eの高さcは0.4mm、パンチ12の直径dは3mmとし、ダイ11の凹部11Cの外縁部の深さeは表6に示したように、1.18mmから1.72mmの範囲で変化させた。また、金属部材21は、厚み0.4mmの方をダイ11の側、厚み1.6mmの方をパンチ12の側にして積層した。得られた金属接合体20について、実施例1と同様にして抜去力を調べた。得られた結果を表6に示す。
【0028】
【表6】

【0029】
実施例1から実施例6に示したように、金属部材21の厚みや材質に応じて、ダイ11の寸法を細かく調整することにより、抜去力を大きくすることができることがわかる。すなわち、外枠11Aと内部材11Bとを組み合わせることによりダイ11を形成し、ダイ11の寸法を細かく調整するようにすれば、容易に高い剥離強度を有する金属接合体20を得ることができることがわかった。
【0030】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
金属部材の接合に用いることができる。
【符号の説明】
【0032】
11…ダイ、11A…外枠、11B…内部材、11C…凹部、11D…円柱部、11E…突起部、12…パンチ、20…金属接合体、21…金属部材、22…押出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置したダイとパンチとの間に、複数の金属部材の板状部分を重ね合わせて配置し、前記ダイと前記パンチとが接近するように相対的に移動させて前記板状部分を押圧することにより、一方の面を突出させ、他方の面を陥没させた押出部を形成し、前記複数の金属部材を板状部分で接合する金属接合体の製造方法であって、
前記ダイとして、円筒状の外枠の中に、内部材を挿入することにより凹部を形成したものを用い、前記内部材の一端面中央部には、前記外枠の伸長方向に突出する突起部を形成し、前記突起部は、先端側よりも基端側の方が大きい円錐台状とする
ことを特徴とする金属接合体の製造方法。
【請求項2】
対向して配置されたダイとパンチとの間に、複数の金属部材の板状部分を重ね合わせて配置し、前記ダイと前記パンチとが接近するように相対的に移動させて前記板状部分を押圧することにより、一方の面を突出させ、他方の面を陥没させた押出部を形成し、前記複数の金属部材を板状部分において接合した金属接合体であって、
前記ダイには、円筒状の外枠の中に、内部材を挿入することにより凹部を形成したものを用い、前記内部材の一端面中央部には、前記外枠の伸長方向に突出された突起部を形成し、前記突起部は、先端側よりも基端側の方が大きい円錐台状として、前記押出部を形成した
ことを特徴とする金属接合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−22628(P2013−22628A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160884(P2011−160884)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(311009376)株式会社アスター (1)