説明

金属材料の自己析出被膜処理液、および自己析出被膜処理方法

【課題】従来の塗装工程と比較して工程長を短縮し、スラッジ等の環境に有害な副生成物をほとんど生じず、袋構造部内部のつきまわり性に優れ、クロム化合物のような環境に有害な成分を使用せず、耐食性を有し、かつ得られた塗膜の上に更に焼き付け塗装を重ね塗り可能な自己析出被膜処理用表面処理液の提供。
【解決手段】メチロール基を有するノボラック樹脂と、架橋剤と、第二鉄イオンと、フッ素元素と、酸化剤とを含む水溶液であって、前記架橋剤が、該メチロール基、フェノール核および/またはフェノール性ヒドロキシル基と熱硬化反応可能な架橋基を有する架橋剤であり、前記ノボラック樹脂と前記架橋剤との固形分質量濃度比が1:1から1:10の範囲であり、前記フッ素元素のモル濃度が前記第二鉄イオンの少なくとも3倍であり、かつ、pHが2から6の範囲であることを特徴とする、金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体や自動車部品、スチール家具、および家電製品のように耐食性が必要とされ、かつ用途に応じて塗料の重ね塗りが施されることがある鉄系金属材料表面に、単独でも十分な耐食性を有し、かつ塗料の重ね塗りが可能な有機塗膜を化学反応で析出させるための自己析出被膜処理用表面処理液、自己析出被膜処理方法、および自己析出被膜を有する金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を使用した工業製品は、一部の特別な用途、および材料を除き、そのほとんどが塗装されている。塗装の目的は、美観の向上もさることながら、金属の宿命である酸化、すなわち腐食を防止することである。ここで、金属材料に用いられる塗料は、その塗装方法や成分で様々に分類することができ、被塗装材料に要求される性能や可能な塗装方法によって選定される。ここで、自動車車体のように、被塗装材料が複雑な構造を有し、かつ高度な耐食性を要求される場合には、つきまわり性と称される袋構造部内部の塗膜厚の確保が重要である。
【0003】
袋構造部内部の耐食性を確保するために用いられる一般的な方法は、塗装下地用の化成処理であるリン酸亜鉛処理とカチオン電着塗装の組み合わせである。何れの方法も、被塗装材料を処理浴に浸漬して化成処理、および塗装を行うため、袋構造部内部までも化成処理液、および塗料と接触させることができる。しかしながら、リン酸亜鉛処理工程は、湯洗→予備脱脂→脱脂→多段水洗(通常2から3段)→表面調整→皮膜化成→多段水洗(通常2から3段)→イオン交換水洗であり、さらにカチオン電着塗装工程は、電着塗装→多段水洗(通常3から5段)→イオン交換水洗→焼き付けであるため、その処理工程は非常に長く、例えば自動車車体の場合には200mを超える工程長となる。
【0004】
リン酸亜鉛処理工程においては、従来から知られている通り、皮膜析出反応の副反応であるリン酸鉄スラッジの発生が避けられず、環境問題の観点から改良が望まれている。また、昨今のカチオン電着塗料は改良されてはいるものの、塗膜が電解によって析出し、析出した塗膜の電気抵抗によって塗膜がつきまわっていくメカニズム上、初期に塗膜が析出する外板部と遅れて塗膜が析出する袋構造部内部との膜厚差の発生は避けては通れない課題である。
【0005】
そこで、化学反応によって有機塗膜を析出させることで、工程短縮を図りつつ、リン酸鉄スラッジ発生の問題と袋構造部内部の塗膜厚の問題を解決すべく技術が古くから提案されており、このような組成物はオートデポジション組成物、または自己析出組成物、または自己沈着組成物と称されている。
【0006】
例えば、特許文献1は、塩化ビニリデンコポリマーを用いたオートデポジション組成物に関するものである。塩化ビニリデン樹脂は、防湿性、耐湿性、およびガスバリア性が非常に優れるため、塗膜とした際の腐食に対する抑制作用が非常に大きい。しかしながら、塩化ビニリデン樹脂は周知の通り耐熱性が非常に低い。そこで、特許文献1には、塩化ビニリデンモノマーをコモノマーたとえばアクリル系コモノマーと共重合させ、鎖中に熱により安定なコモノマーを挿入することで耐熱性を改善できることが開示されている。しかしながら、鎖中に安定な部位を挿入しても、塩化ビニリデン基本構造の耐熱性の低さは根本的に改善できない。従って、塩化ビニリデンを用いたオートデポジション技術は、高温に晒される環境で使用される金属材料には使用できないばかりか、オートデポジション塗膜の上に、焼き付け塗装による重ね塗りが出来ない問題点を有していた。
【0007】
塩化ビニリデンを使用しないオートデポジション組成物も数多く開示されている。塩化ビニリデン以外にオートデポジション組成物に用いられる樹脂成分の例としては、特許文献2,3および4に引用されるとおり、スチレンブタジエン、アクリル重合体およびその共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンおよびウレタン樹脂が開示されている。
【0008】
しかしながら、何れの方法においてもオートデポジション塗膜の耐食性は、塩化ビニリデンを用いたものと比較すると著しく低かった。そこで、耐食性を向上させるためには、特許文献3に示される通り、現在では環境問題の観点から使用が規制されるクロム化合物を使用した後処理をオートデポジション塗装の後に施す必要があった。
【0009】
そこで、近年になって特許文献5に示される通り、エポキシ樹脂と架橋剤とを組み合わせたオートデポジション組成物が提案された。しかしながら、本発明者らが前記発明の効果を検証した結果、エポキシ樹脂を使用したオートデポジション塗膜は、耐食性が未だ十分であるとは言い難く、かつ、溶剤塗料との密着性が著しく低く、重ね塗りが出来ないという致命的な欠陥を有することを見出した。
【0010】
特許文献6および7には、水分散性フェノール樹脂、及び柔軟剤重合体からなる、金属支持体上に自動付着できることを特徴とする水性塗料組成物が開示されている。しかしながら、本方法で得られた焼き付け前のオートデポジション塗膜には多量の水分を含んでいるため、焼き付け前の塗膜を水洗することができない。従って、平板な被塗装材料であれば問題はないが、袋構造部を有する材料である場合には、袋構造部内部に残った塗料を洗い出すことができないため、焼き付け後に塗膜膨れや剥離等の、耐食性に著しい影響を及ぼす重大な欠陥が生じる。
【0011】
従って、従来技術では、リン酸亜鉛処理と電着塗装の組み合わせからなる塗装工程と比較して、工程長を短縮し、スラッジ等の環境に有害な副生成物を生じず、袋構造部内部のつきまわり性に優れ、クロム化合物のような環境に有害な成分を使用せず、耐食性を有し、かつ得られた塗膜の上に更に焼き付け塗装を重ね塗り可能なオートデポジション塗膜を提供することは不可能であった。
【0012】
【特許文献1】特開昭60-58474
【特許文献2】特開昭47-32039
【特許文献3】特開昭48-13428
【特許文献4】特開昭61-168673
【特許文献5】特開2003-176449
【特許文献6】特表2002-501100
【特許文献7】特表2002-501124
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来技術の問題点を解決することである。すなわち、リン酸亜鉛処理と電着塗装の組み合わせからなる塗装工程と比較して工程長を短縮し、スラッジ等の環境に有害な副生成物をほとんど生じず、袋構造部内部のつきまわり性に優れ、クロム化合物のような環境に有害な成分を使用せず、耐食性を有し、かつ得られた塗膜の上に更に焼き付け塗装を重ね塗り可能な自己析出被膜処理用表面処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記課題を解決するための手段について鋭意検討した結果、従来技術にはない自己析出被膜処理用表面処理液、自己析出被膜処理方法及び自己析出被膜を有する金属材料を発明するに至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る自己析出被膜処理用表面処理液は、フェノール類とアルデヒド類とをF/P比が2.5から3の範囲でアルカリ触媒存在下において反応させることで得られるレゾール樹脂と、隣接する芳香環炭素上に二以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシフェノール類と、フェノール類と、を混合撹拌し、更にフェノール類とアルデヒド類と酸触媒を加えて重合することにより得られる、F/P比が0.7〜1.0のメチロール基を有するノボラック樹脂と、該メチロール基、フェノール核および/またはフェノール性ヒドロキシル基と熱硬化反応可能な架橋基を有する架橋剤とを前記ノボラック樹脂と架橋剤との固形分質量濃度比が1:1から1:10の範囲で含み、第二鉄イオンと、少なくとも第二鉄イオンの三倍モル濃度のフッ素元素(好適には溶解型フッ素元素)と、酸化剤とを更に含み、pHが2から6の範囲である水溶液である。
【0016】
前記ノボラック樹脂が、少なくとも、芳香環に置換したメチロール基と、互いに隣接する芳香環炭素上に二以上のヒドロキシル基を有するフェノール類部位を有することが好ましく、式1に示す構造式を有することがより好ましい。
【化2】

(式中、mおよびnは1〜5の整数、pは0〜5の整数、R1はメチロール、R2は独立にヒドロキシル又はアルキルアリール、R3は独立にメチロール、ヒドロキシル又はアルキルアリール、aは0又は1である。)
【0017】
前記架橋剤の熱硬化反応可能な架橋基がイソシアネート基であることが好ましい。
【0018】
さらに前記架橋剤が、1モルのポリオールに対して、予め一方のイソシアネート基がブロック剤でブロックされた少なくとも2モルのポリイソシアネートを付加した多官能ブロックイソシアネートであることが好ましい。
【0019】
また、前記架橋剤中のポリオールが少なくとも一分子のビスフェノールA構造を有することが好ましい。
【0020】
前記ノボラック樹脂の濃度が水溶液中の固形分濃度として1〜5質量%であることが好ましい。
【0021】
前記酸化剤が過塩素酸、次亜塩素酸、溶存酸素、オゾン、過マンガン酸、過酸化水素から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0022】
白金電極で測定される自己析出被膜処理用表面処理液の酸化還元電位が、300から500mVであることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、金属材料を予め脱脂、水洗処理によって表面を清浄化した後、前記自己析出被膜処理用表面処理液に記載された水溶液と接触させた後、さらに水洗工程で該金属材料表面に付着した余剰な前記処理液を除去し、次いで焼き付け処理を行うことによって被膜を熱硬化させることを特徴とする金属材料の自己析出被膜処理方法である。
【0024】
さらに、本発明は鉄系金属材料表面に前記方法によって析出した自己析出被膜層を有し、かつ焼き付け硬化後の自己析出被膜層の膜厚が10〜30μmであることを特徴とする自己析出被覆金属材料である。
【0025】
ここで、本特許請求の範囲及び本明細書において使用する各用語の意味について説明する。「第二鉄イオン」とは、Fe3+で示されるイオンであれば、表面処理用処理液中での存在形態は特に限定されず、例えば、Fe3+や配位子が配位した状態を示す。フッ素元素が第二鉄イオンに配位した状態の例としては、FeF2+、FeF、FeF等を挙げることができる。「フッ素元素」とは、分子の状態、イオンの状態など、その形態に特に限定されず、フッ化水素及び/又はその塩等のフッ素含有化合物によって供給されるフッ素元素全般を意味する。更に「フッ素元素」の濃度とは、系内に存在する様々なフッ素元素の合計モル濃度である。例えば、前記フッ素含有化合物によって供給されるフッ素元素は水溶液のpHによって、F、HF、HF等の解離形態をとることが出来、ここで言うフッ素元素の濃度とは、水溶液中の全てのFの合計モル濃度である。更には、第二鉄イオンと錯体を形成している場合、当該錯体は「第二鉄イオン」を含み「フッ素元素」をも含む。また、「溶解型フッ素元素」とは、分子の状態、イオンの状態など、その形態に特に限定されないが、本発明の自己析出被膜処理用表面処理液中において溶解せずに固体粒子として存在する塩等に含まれるフッ素元素は除かれる。更に「溶解型フッ素元素」の濃度とは、系内に存在する様々な溶解型フッ素元素の合計モル濃度である。また、「ノボラック樹脂」とは、フェノール類を酸触媒下でアルデヒド類で重合した樹脂を意味する。また、「レゾール」とは、フェノール類をアルカリ触媒下でアルデヒド類で重合した樹脂を意味する。ここで、「フェノール類」とは、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物を意味する。「アルデヒド類」とは、1分子中に1個以上のアルデヒド基をもつ化合物又は反応系において容易にアルデヒド基を生成できる化合物である。「アルキル」とは、C1〜C10の、直鎖又は分岐状の、置換又は非置換アルキルを意味する。「アリール」とは、置換又は非置換である、C6〜C14の1〜3環式アリール(ここで、環を構成するC原子の一以上がS,N、Oで置換されていてもよい)を意味する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の自己析出被膜処理用表面処理液を用いることで、湯洗→予備脱脂→脱脂→多段水洗(通常2から3段)→表面調整→皮膜化成→多段水洗(通常2から3段)→イオン交換水洗→電着塗装→多段水洗(通常3から5段)→イオン交換水洗→焼き付けからなる従来技術、すなわちリン酸亜鉛処理と電着塗装の組み合わせからなる塗装工程と比較して工程長を短縮することが可能である。さらに、本発明の方法によるとスラッジ等の環境に有害な副生成物を生じず、かつ自己析出被膜処理浴にはクロム化合物のような有害な成分を使用しないため、環境に対する影響も小さい。また、本発明の自己析出被膜は耐食性に優れ、袋構造部内部のつきまわり性に優れるため、複雑な構造を有する被塗装物の耐食性向上の有効である。さらに、本発明の自己析出被覆金属材料は、自己析出被膜の上に焼き付け塗装を重ね塗りすることが可能である。従って、様々な塗装と組み合わせて使用することが可能である。
【0027】
架橋剤をイソシアネートとすることにより、より耐食性にすぐれた自己析出被膜を形成できるという効果を奏する。
【0028】
架橋剤として多官能ブロックイソシアネートを使用することにより、よりいっそう耐食性に優れた自己析出膜を形成できるという効果を奏する。
【0029】
架橋剤に少なくとも一分子のビスフェノールA構造を有するものを用いることにより、よりいっそう耐食性に優れた自己析出膜を形成できるという効果を奏する。
【0030】
前記ノボラック樹脂の濃度を水溶液中の固形分濃度として1〜5質量%とすることにより、耐食性を得るのに十分な膜厚を有し、且つ、成分の消費量を抑えることができる。
【0031】
前記ノボラック樹脂と架橋剤を固形分質量濃度比が1:1から1:10とすることにより、均一な自己析出被膜外観が得られ、かつ耐食性も向上するという効果を奏する。
【0032】
前記酸化剤が過塩素酸、次亜塩素酸、溶存酸素、オゾン、過マンガン酸、過酸化水素から選ばれる少なくとも一種とすることにより、自己析出被膜処理用処理液の安定性を損なわずに自己析出反応を促進するという効果を奏する。
【0033】
白金電極で測定される酸化還元電位を300から500mVとすることにより、浴中に存在する全ての鉄イオンを第二鉄イオンに酸化しその酸化状態を維持するに十分な量の酸化剤が存在することとなり、自己析出膜の析出反応を促進し、かつ第一鉄イオンによる自己析出被膜処理液の不安定化を抑制することができる。
【0034】
本発明に係る自己析出被膜処理方法によれば、本発明に係る処理液を使用することにより、より耐食性に優れた自己析出被膜を形成できるという効果を奏する。
【0035】
前記金属材料が、鉄系金属材料であることにより、より自己酸化膜を形成し易くなり、耐食性に優れた該膜を形成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明者らは、金属材料を、フェノール類とアルデヒド類とをF/P比が2.5から3の範囲でアルカリ触媒存在下において反応させることで得られるレゾール樹脂と、隣接する芳香環炭素上に二以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシフェノール類と、フェノール類と、を混合撹拌し、更にフェノール類とアルデヒド類と酸触媒を加えて重合することにより得られる、F/P比が0.7〜1.0のメチロール基を有するノボラック樹脂と、該メチロール基、フェノール核および/またはフェノール性ヒドロキシル基と熱硬化反応可能な架橋基を有する架橋剤とを前記ノボラック樹脂と架橋剤との固形分質量濃度比が1:1から1:10の範囲で含み、第二鉄イオンと、少なくとも第二鉄イオンの三倍モル濃度のフッ素元素と、酸化剤とを更に含み、pHが2から6の範囲である表面処理液と接触させることで、金属材料表面に耐食性に優れる自己析出被膜を析出させることを可能としたのである。
【0037】
更に、前記ノボラック樹脂が、式1に示す構造式を有することが好ましい。
【化3】

(式中、mおよびnは1〜5の整数、pは0〜5の整数、R1はメチロール、R2は独立にヒドロキシル又はアルキルアリール、R3は独立にメチロール、ヒドロキシル又はアルキルアリール、aは0又は1である。)
【0038】
本発明の自己析出被膜処理用表面処理液は、鉄系金属材料や亜鉛めっき鋼板に適用することができる。しかしながら、もっとも適した金属材料は鉄系金属材料である。ここで言う鉄系金属材料とは、冷延鋼板、及び熱間圧延鋼板等の鋼板や、鋳鉄、及び焼結材等の鉄系金属を示す。
【0039】
本発明の金属材料の用途は、自動車車体や自動車部品、スチール家具、および家電製品等であり、各々の用途に応じて本発明の自己析出被膜のみの状態か、溶剤塗装等の他の上塗り塗装と組み合わせて使用することができる。
【0040】
基本分子構造中に少なくとも一つのメチロール基を含有するノボラック樹脂は、本発明における必須成分の一つである。本発明は、鉄系金属材料をある特定の水溶液と接触させることを特徴とする、金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液である。従って、本発明の処理方法に用いる成分は、第一に水溶性又は水分散性である必要がある。さらに、自己析出被膜の主成分となる樹脂分は、本発明に提示される処理条件において鉄系金属材料への自己析出性を有する必要があり、かつ自己析出後の焼き付け処理において熱硬化性を併せ持つ必要がある。
【0041】
本発明者らは、式1に示す特別な構造を有するノボラック樹脂を使用することによって、前記本発明に必要な条件を満たし、かつ優れた性能が得られることを見出したのである。式1において、mおよびnは1〜5の整数、pは0〜5の整数、R1はメチロール、R2は独立にヒドロキシル又はアルキルアリール、R3は独立にメチロール、ヒドロキシル又はアルキルアリール、aは0又は1である。さらに、R2およびR3の好ましいアルキルアリールは、ベンジル基、またはトリル基である。
【0042】
一般にノボラック樹脂、レゾール樹脂と称される樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を用いて重合される。ここで、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる際の反応モル比をF/P比という。一般にノボラックと称される樹脂は、フェノール類を酸触媒を用いてアルデヒド類で重合することによって得られる。ノボラックは、分子構造が三次元化することを防止するために小さいF/P比で重合され、フェノール類へ付加したアルデヒド類は、フェノール類の重合反応に使用される。従って、ホルムアルデヒドをアルデヒド類として使用した場合でも、一般に言われるノボラック樹脂には、ホルムアルデヒドはフェノール類の重合に使用され、ホルムアルデヒドの付加によるメチロール基は存在しない。本最良形態に係るノボラック樹脂は、特に限定されないが、F/P比が、0.7〜1.0が好適であり、0.75〜0.95がより好適であり、0.75〜0.9が更に好適である。
【0043】
メチロール基が存在しないノボラック樹脂は、水との親和性が著しく低いため水には分散せず、かつ熱によって架橋する官能基をもたないため、本発明の用途には適さない。片や、アルカリ触媒下で高いF/P比でホルムアルデヒドとフェノール類を重合させるレゾール樹脂は、メチロール基を有する熱硬化型樹脂であるが、その水分散物の酸性水溶液中での安定性が著しく低いために本発明に使用することはできない。
【0044】
本発明に用いられる式1に示すノボラック樹脂は、少なくとも一つのメチロール基を有するものである。メチロール基を有することによって、ノボラック樹脂には熱硬化性が付与される。さらに、メチロール基を有することによって、ノボラック樹脂の親水性を改善することができる。しかしながら、メチロール基のみでは十分な水溶性、水分散性を与えることはできない。また、メチロール基を付与したのみのノボラック樹脂では、自己析出性を得ることもできない。そこで、メチロール基を有するノボラック樹脂に、イオン性基を有するジヒドロキシフェノール類を導入することで、その水溶性、水分散性を改善し、更に自己析出性を付与したのである。
【0045】
式1に示すとおり、本発明のノボラック樹脂に用いるイオン性基を有するジヒドロキシフェノールとしては、2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸が最も好ましい。スルホン酸基によってノボラック樹脂に十分な水溶性、水分散性を、オルソ位の二つのヒドロキシ基によって自己析出性を付与することができる。なお、ノボラック樹脂の合成に際しては、2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸アルカリ金属塩を使用することができる。
【0046】
本発明に用いる式1に示す構造式の中にメチロール基を有するノボラック樹脂は、予めフェノール類をアルカリ触媒下において、好ましくは2.5から3の範囲のF/P比でアルデヒド類と反応させることでレゾール樹脂を合成した後に、該レゾール樹脂に2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸ナトリウム塩とフェノール類を混合撹拌し、さらにフェノール類とアルデヒド類と酸触媒を加えて重合することで合成することができる。尚、最終的なノボラックのF/P比は、全てのフェノール類(ヒドロキシフェノール類も含む)とアルデヒド類のモル比である。従って、レゾール樹脂合成に用いたフェノール類とアルデヒド類も最終的なF/P比に含まれる。さらに、合成されたノボラック樹脂にメチロール基が存在するか否かは、赤外分光法による1000cm-1付近に現れるメチロール基の吸収を測定することで判断可能である。
【0047】
ここで、フェノール類としては、フェノール、カテコール、レソルシノール、ピロガロール、クレゾール等を、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、ベンズアルデヒド等を用いることができる。中でも最も好ましいアルデヒド類は、ホルマリンとして市販されるホルムアルデヒドである。
【0048】
本発明に用いるメチロール基、フェノール核、およびフェノール性ヒドロキシル基と熱硬化反応可能な架橋基を有する架橋剤の架橋基としては、メチロール基、カルボキシル基、グリシジル基、グリシジル基が開環した二級アルコール基、およびイソシアネート基等を用いることができ、中でもイソシアネート基であることが好ましい。
【0049】
さらに前記架橋剤が、1モルのポリオールに対して、予め一方のイソシアネート基がブロック剤でブロックされた少なくとも2モルのポリイソシアネートを付加した多官能ブロックイソシアネートであることが好ましい。イソシアネート基は、ブロック剤でブロックすることによって、水との反応を抑制することができ、かつ熱を与えることでブロック剤が解離して架橋反応が起こるため、本発明の架橋剤として最適である。
【0050】
本発明に用いることができるポリイソシアネートとしては、公知のものを用いることができる。例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、エチル(2,6−ジイソシアナート)ヘキサノエート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの様な脂肪族ジイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8−ジイソシアナート−4−イソシアナートメチルオクタン、2−イソシアナートエチル(2,6−ジイソシアナート)ヘキサノエートの様な脂肪族トリイソシアネートやイソホロンジイソシアネートの様な環状構造を有するジイソシアネート、更には、m−またはp−フェニレンジイソシアネート、トルエン−2,4−または2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナート−3,3’−ジメチルジフェニル、3−メチル−ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネートの様な芳香族ジイソシアネート等を用いることができる。
【0051】
本発明に好適なポリイソシアネートは、得られる被膜の柔軟性の観点からは1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート基の反応性の観点からはトルエン−2,4−または2,6−ジイソシアネートである。
【0052】
本発明に用いるイソシアネート基のブロック剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、フェノール、メチルフェノール、クロルフェノール、p−iso−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−iso−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール等のフェノール類、マロン酸ジメチルエステル、マロン酸ジエチルエステル、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等の活性メチレン化合物類、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、2−ブタノンオキシム等のオキシム類、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム類、およびチオ硫酸塩等が挙げられる。
【0053】
イソシアネート基からの解離温度が低いブロック剤を選択することによって、本発明の自己析出被膜処理における被膜の焼き付け温度を低下させることができる。しかしながら、あまりにも解離温度が低い場合には、自己析出被膜処理用表面処理液の安定性を損なう恐れがある。そこで、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、2−ブタノンオキシム等のオキシム類、およびチオ硫酸塩の使用が好ましい。尚、ここで用いるブロック剤は、イソシアネート基に対して、使用するポリイソシアネートがジイソシアネートの場合は1/2倍のモル量が好ましく、トリイソシアネートの場合には2/3倍のモル量が好ましい。当該ブロック剤を用いると、ポリオールと反応させた後の架橋剤の水との反応を抑制し、自己析出表面処理用処理液の安定性を維持しつつ、焼き付け前の自己析出被膜に熱を与えることで塗膜を硬化させるという効果を奏する。
【0054】
本発明に用いることができるポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの様なポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジベート、ポリジエチレンアジベート、ポリプロピレンアジベート、ポリテトラメチレンアジベート、ポリ-ε-カプロラクトンの様なポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、トリメチロールプロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等が挙げられる。
【0055】
中でも、分子構造中に少なくとも一分子のビスフェノールA構造を有するエポキシポリオールやビスフェノールAが好ましい。ここで、「少なくとも一分子のビスフェノールA構造を有する」とは、前記エポキシポリオールのようなポリマーの直鎖の中に組み込まれていることや、ビスフェノールAの繰り返し単位を一部に有するポリマーであることや、ビスフェノールAのホモポリマーや、ビスフェノールAそのものであることを意味する。ビスフェノールAは、ベンゼン環を基本骨格に有し、かつ二つのベンゼン環が二つのメチル基がついたメチレン鎖で繋がれているため、樹脂自体の頑丈さ(堅さ)と高い耐薬品性を併せ持つ構造である(HO−C−C(CH−C−OH)。従って、ビスフェノールA構造を有するポリオールを本発明の多官能ブロックイソシアネートに用いることによって、本発明によって得られる耐食性が飛躍的に向上するのである。
【0056】
前記ノボラック樹脂の濃度が水溶液中の固形分濃度として1〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは、1〜3質量%である。前述したとおり、メチロール基を有するノボラック樹脂は、自己析出性と熱硬化性を有している。従って、その濃度が1質量%よりも小さい時は、十分な自己析出性が得られず、本発明の効果のひとつである耐食性を得られるだけの自己析出塗膜厚が得られない。また、5質量%よりも大きい場合は、被塗装物による処理液の持ち出しに起因する自己析出浴成分の消費量が増えるばかりか、持ち出された処理液は水洗工程で除去されて排水処理工程へ送られるため、不要な廃棄物の増大を招くこととなる。従って、より好ましいノボラック樹脂の上限濃度は3質量%である。
【0057】
水溶液中の前記ノボラック樹脂と架橋剤との固形分質量濃度比が1:1から1:10であることが好ましく、より好ましくは1:1から1:5であり、さらにより好ましくは1:1から1:3である。本発明に用いるノボラック樹脂は、その分子構造中に少なくとも1分子のメチロール基を有するために、メチロール基同士の架橋反応、すなわちエーテル結合、またはメチレン架橋によって、架橋剤を添加しなくとも熱を与えることで硬化することができる。しかしながら本発明者らは、実用上十分な、本発明の目的とするところの耐食性を得るためには、さらに架橋剤を添加して架橋密度を高めることが重要であることを見いだしたのである。
【0058】
さらに、メチロール基を有するノボラック樹脂とビスフェノールA構造を有するブロックポリイソシアネートを組み合わせることで、従来にない耐食性が発現される。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、いたずらに架橋剤の添加量を増加すれば、自己析出被膜の耐食性が向上するわけではないことが判明した。
【0059】
ノボラック樹脂によって形成された塗膜は、本来硬い性質を有する。さらに、架橋剤で複雑に架橋させることによって、塗膜の硬度は増していき最終的には非常に脆い塗膜となってしまう。本発明者らが検討した結果、ノボラック樹脂を利用した硬くて脆い塗膜は、密着性に劣ることが判明した。さらに、硬くて脆い塗膜は、塗膜に加えられた衝撃、および塗装された金属材料の変形によって、容易に破損してしまうため実用に適さない。
【0060】
メチロール基を有するノボラック樹脂に対する架橋剤の比率が1倍未満の場合は、架橋密度が低く十分な耐食性を得ることができない。また、10倍よりも大きい場合は、架橋密度が高すぎて塗膜が脆くなり実用に適さないのである。
【0061】
さらに本発明には、表面処理液中の成分、特に架橋剤の水溶性向上、および焼き付け硬化後の被膜の外観を向上するための溶剤成分を添加することができる。本発明に好適な溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、および2,2,4−トリメチルペンタンジオール−1,3−モノイソブチレート等が挙げられる。
【0062】
本発明は自己析出被膜処理用表面処理液に関するものである。ここで、自己析出反応は、pHが2から6であることによる鉄系金属材料の溶解反応、および第二鉄イオンによる金属鉄の酸化反応によって浴中に溶け出した第一鉄イオンと、メチロール基を有するノボラック樹脂中の2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸分子のオルソ位の二つのヒドロキシ基が第一鉄イオンとキレートすることによって、ノボラック樹脂が不溶化し自己析出被膜として析出するのである。
【0063】
さらに、自己析出反応に使用されなかった余剰の第一鉄イオンは、本発明の自己析出処理浴中の酸化剤によって速やかに第二鉄イオンに酸化される。酸化された第二鉄イオンは、そのままでは自己析出処理浴の安定性を損なう原因となり得るが、本発明の処理浴に含まれるフッ素元素が配位することによって、処理浴中でのノボラック樹脂とのキレート反応が抑制され、処理浴の安定性が保たれるのである。
【0064】
ここで、鉄イオンの供給源としては、可溶性の鉄塩、例えば硝酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄等を用いることができ、第一鉄塩、第二鉄塩のいずれを用いても、自己析出被膜処理用表面処理液中の酸化剤で酸化することによって、処理液中で第二鉄イオンとすることができる。また、鉄粉、酸化鉄、水酸化鉄等をフッ化水素酸で溶解して使用してもよい。
【0065】
前記自己析出反応が起こるための第二鉄イオンの濃度は0.1〜3g/Lであり、好ましくは、0.5〜2.5g/Lであり、より好ましくは1〜2g/Lである。尚、第二鉄イオンの濃度は、当業界で一般的な方法で測定でき、例えば、予め樹脂分を酸と加熱によって分解、分離した自己析出被膜処理用表面処理液を用い、原子吸光法、ICP発光分析、EDTAによるキレート分析法によって測定することができる。また、フッ素元素の好ましい濃度は、第二鉄イオンの少なくとも三倍モル濃度である。上限は特に限定されないが、例えば、第二鉄イオンの十倍モル濃度以下である。尚、フッ素元素の濃度は、当業界で一般的な方法で測定でき、例えば、本発明の自己析出被膜処理用表面処理液を蒸留操作を行い蒸留液中のフッ素元素濃度をイオンクロマトグラフやキャピラリー電気泳動装置により測定することができる。第二鉄イオン濃度が0.1g/L未満では、自己析出に好適な量の鉄の酸化溶解反応を起こしにくくなる。また、3g/Lよりも大きい場合には、析出した自己析出塗膜にとりこまれる鉄分濃度が上昇し、鉄イオンとともに塗膜中に取り込まれる水分量が増えるために、自己析出塗膜が後の水洗工程で剥離しやすくなる。
【0066】
フッ素元素の供給源としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、二フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、二フッ化水素カリウム等を用いることができる。ここで、フッ化水素酸以外のフッ化物を用いる場合には、硝酸、硫酸等の酸を使用して自己析出被膜処理用表面処理液のpHを調整してもよい。
【0067】
本発明の自己析出被膜処理用表面処理液の好ましいpHは2から6、より好ましくは、2.5から5、より好ましくは2.5から4である。尚、pHの測定方法は、JIS Z 8802の方法によるものとする。本発明の自己析出被膜処理方法は、前述したとおり、自己析出被膜処理用表面処理液中のフッ化水素酸よる鉄系金属材料の溶解反応、および第二鉄イオンによる金属鉄の酸化反応を起点とするものである。従って、pHが6よりも大きいと金属材料の溶解反応が起こりにくく、かつ第二鉄イオンの還元反応も起こりにくくなるのである。また、pHが2よりも小さいと自己析出被膜の析出反応に対する金属材料の溶解反応が大きくなりすぎて、自己析出被膜処理用表面処理液の安定性が損なわれる恐れがあるのである。
【0068】
前記酸化剤は過塩素酸、次亜塩素酸、溶存酸素、オゾン、過マンガン酸、過酸化水素から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。過酸化水素は、入手が容易であり、かつ自身の還元反応による副生成物が水であることから自己析出処理浴に対する影響を考慮する必要がなく、本発明に好適な酸化剤である。
【0069】
本発明の自己析出処理浴における酸化剤の濃度は、白金電極を作用局に用いた市販のORP電極で測定される酸化還元電位で管理することができる。ここで、本発明の自己析出反応メカニズムからは、全ての第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化した状態で余剰の酸化剤が処理浴に存在する状態が好ましい。即ち、酸化剤の量は、浴中に存在する全ての鉄イオンを第二鉄イオンに酸化しその酸化状態を維持するに十分な量が好ましい。酸化還元電位を、選択した酸化剤によって与えられる値の最小値以上に保つことによって、前記状態を維持することが可能となる、ここで、過酸化水素を例にとった場合の好ましい酸化還元電位は、少なくとも300mV以上であり、より好ましくは350mV以上であり、さらにより好ましくは400mV以上である。上限は特に限定されないが500mV以下である。
【0070】
さらに、本発明の金属材料の自己析出被膜処理方法は、鉄系金属材料を予め脱脂、水洗処理によって表面を清浄化した後、前記自己析出被膜処理用表面処理液に記載された水溶液と接触させた後、さらに水洗工程で該金属材料表面に付着した余剰な水溶液を除去し、次いで焼き付け処理を行うことによって被膜を熱硬化させることによって行う。
【0071】
ここで、脱脂処理は従来から一般に用いられている溶剤脱脂、アルカリ脱脂等を用いることができ、その工法も流しかけ、スプレー、浸漬、および電解等なんら制約されるものではない。また、脱脂処理後、および自己析出被膜処理後に行われる水洗処理に関しても何ら制約はなく、流しかけ、スプレー、浸漬等から選択することができる。水洗に用いられる水の水質にも特に制約はないが、自己析出被膜処理浴への微少成分の持ち込み、および塗膜中への残存を考慮するとイオン交換水が望ましい選択である。
【0072】
本発明の自己析出被膜処理は、被塗装物を処理浴へ浸漬する浸漬法によって行われる。浸漬法が行われる処理浴に関しては、処理浴中の成分濃度が均一に保たれる程度の攪拌を備えているのみでよい。また、好ましい浸漬時間は1〜10分であり、より好ましい浸漬時間は2〜5分である。
【0073】
被塗装材料の表面状態によっては酸洗工程を採用することもできる。その場合の処理工程は、脱脂→多段水洗(通常2から3段)→酸洗→多段水洗(通常1〜2段)→自己析出被膜化成→多段水洗(通常2から3段)→焼き付けとなる。
【0074】
さらに、本発明は鉄系金属材料表面に前記方法によって析出した自己析出被膜層を有し、かつ焼き付け硬化後の自己析出被膜層の膜厚が10〜30μmであることを特徴とする自己析出被覆金属材料である。当該範囲内では、十分な耐食性を有し、クラックや収縮といった外観不良が生じにくくなる。
【0075】
〔実施例〕
【0076】
以下に実施例を比較例とともに挙げ、本発明の自己析出被膜処理用表面処理液、および自己析出被膜処理された金属材料の効果を具体的に説明する。尚、実施例で使用した被処理金属材料、脱脂剤、及び塗料は市販されている材料の中から任意に選定したものであり、本発明の自己析出被膜処理用表面処理液、及び自己析出被膜処理された金属材料の実際の用途における材料の組み合わせを何ら限定するものではない。
【0077】
(供試板)
実施例と比較例に用いた供試板の略号と内訳を以下に示す。
・ CRS(冷延鋼板:JIS−G−3141)
【0078】
(自己析出被膜処理液組成と処理工程)
【0079】
・ 製造例1:メチロール基を含有するノボラック樹脂の合成
ジメチルアミノベンゼンをアルカリ触媒に用い、フェノール(試薬)60gと37質量%ホルムアルデヒド(試薬)135gとを70℃で混合攪拌し、F/P比が2.6で固形分が55質量%の水溶性レゾール樹脂を得た。前記水溶性レゾール樹脂200gに、40gの2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸ナトリウム塩(試薬)、35gのカテコ−ル(試薬)、及び50gの水を添加したものを90℃に加熱し3時間攪拌した。攪拌後に210gのレソルシノ−ル(試薬)、及び85質量%リン酸(試薬)5gを添加した水200gを添加し、温度を90℃に保ったまま1時間攪拌した。攪拌後、70gの37質量%ホルムアルデヒド(試薬)を少量ずつ加え、合成物の粘度が上昇することを目視で確認し、F/P比が0.84で固形分濃度53%のノボラック樹脂を得た。合成物を赤外分光法で分析した結果、メチロール基の存在を示す吸収が確認された。
【0080】
・ 製造例2:ノボラック樹脂の合成
85質量%リン酸(試薬)を酸触媒に用い、フェノール(試薬)61gと37質量%ホルムアルデヒド(試薬)42gとを70℃で混合攪拌し、F/P比が0.8で固形分が55質量%のノボラック樹脂を得た。前記ノボラック樹脂140gに、40gの2,3−ジヒドロキシナフタレン−6−スルホン酸ナトリウム塩(試薬)、35gのカテコ−ル(試薬)、30gの37質量%ホルムアルデヒド(試薬)及び30gの水を添加したものを90℃に加熱し3時間攪拌した。攪拌後に210gのレソルシノ−ル(試薬)、及び85質量%リン酸(試薬)5gを添加した水200gを添加し、温度を90℃に保ったまま1時間攪拌した。攪拌後、70gの37質量%ホルムアルデヒド(試薬)を少量ずつ加え、合成物の粘度が上昇することを目視で確認し、F/P比が0.3で固形分濃度53%のノボラック樹脂を得た。合成物を赤外分光法で分析した結果、メチロール基の存在を示す吸収は確認できなかった。
【0081】
・ 製造例3:架橋剤の合成
乾燥窒素雰囲気下で、174gのトルエンジイソシアネート(コロネートT80:日本ポリウレタン工業(株)製)に87gの2-ブタノンオキシムを、反応温度が40℃を超えないように外部から冷却しながら加えた。40℃で1時間保持した後に、反応容器を70℃に加温した。そこに、ビスフェノールA(試薬)113g、さらにジブチル錫ラウレート(STANN BL:三共有機合成(株)製)0.02gを加え120℃で2時間保持した後、エチレングリコールモノブチルエーテル(試薬)で固形分濃度が30質量%となるように希釈した。
【0082】
・ 製造例4:架橋剤の合成
乾燥窒素雰囲気下で、174gのトルエンジイソシアネート(コロネートT80:日本ポリウレタン工業(株)製)に87gの2-ブタノンオキシムを、反応温度が40℃を超えないように外部から冷却しながら加えた。40℃で1時間保持した後に、反応容器を70℃に加温した。そこに、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン(試薬)45g、さらにジブチル錫ラウレート(STANN BL:三共有機合成(株)製)0.02gを加え120℃で2時間保持した後、エチレングリコールモノブチルエーテル(試薬)で固形分濃度が30質量%となるように希釈した。
【0083】
・ 実施例1〜5、および比較例1
市販のアルカリ脱脂剤であるファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、製造例1のメチロール基を含有するノボラック樹脂、製造例3の架橋剤、鉄粉(試薬)、フッ化水素酸(試薬)、及び過酸化水素水(試薬)を用いて調整した表1に示す自己析出被膜処理浴に浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで160℃で20分間焼き付けを行った。自己析出浴への浸漬時間は、膜厚が15μmとなるように設定した。各々の実施例および比較例で得られた自己析出被覆金属材料を後述する方法に従って評価した。
【0084】
・ 実施例6〜9、および比較例2,3
市販のアルカリ脱脂剤であるファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、製造例1のメチロール基を含有するノボラック樹脂、製造例4の架橋剤、鉄粉(試薬)、フッ化水素酸(試薬)、及び過酸化水素水(試薬)を用いて調整した表2に示す自己析出被膜処理浴に浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで160℃で20分間焼き付けを行った。さらに市販のアミノアルキッド系中塗り塗装(商品名アミラックTP-37グレー:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)、および市販のアミノアルキッド系上塗り塗装(商品名アミラックTM-13白:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)を行った。各々の実施例および比較例で得られた自己析出被覆金属材料を後述する方法に従って評価した。
【0085】
・ 実施例11〜13
市販のアルカリ脱脂剤であるファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、製造例1のメチロール基を含有するノボラック樹脂、市販のブロックイソシアネート架橋剤であるエラストロンH38(第一工業製薬(株)製)、鉄粉(試薬)、フッ化水素酸(試薬)、及び過酸化水素水(試薬)を用いて調整した表3に示す自己析出被膜処理浴に5分間浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで160℃で20分間焼き付けを行った。さらに市販のアミノアルキッド系中塗り塗装(商品名アミラックTP-37グレー:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)、および市販のアミノアルキッド系上塗り塗装(商品名アミラックTM-13白:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)を行った。各々の実施例で得られた自己析出被覆金属材料を後述する方法に従って評価した。
【0086】
・ 比較例4
市販のアルカリ脱脂剤であるファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、製造例1のメチロール基を含有するノボラック樹脂、市販のブロックイソシアネート架橋剤であるエラストロンH38(第一工業製薬(株)製)、鉄粉(試薬)、フッ化水素酸(試薬)、及び過酸化水素水(試薬)を用いて調整した表3に示す自己析出被膜処理浴に5分間浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで160℃で20分間焼き付けを行った。なお、塩化第二鉄と鉄粉の配合割合は、塩化第二鉄を鉄分として1g/L、残りの鉄分を鉄粉とした。さらに市販のアミノアルキッド系中塗り塗装(商品名アミラックTP-37グレー:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)、および市販のアミノアルキッド系上塗り塗装(商品名アミラックTM-13白:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)を行った。各々の実施例で得られた自己析出被覆金属材料を後述する方法に従って評価した。
【0087】
・ 比較例5
市販のアルカリ脱脂剤であるファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、製造例1のメチロール基を含有するノボラック樹脂を固形分として3質量%、鉄粉(試薬)を1.5g/L、フッ化水素酸(試薬)をフッ素として1.6g/L、及び過酸化水素水(試薬)を用いてORPを400mVに調整した自己析出被膜処理浴に5分間浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで160℃で20分間焼き付けを行った。得られた自己析出被覆金属材料を後述する方法に従って評価した。
【0088】
・ 比較例6〜8
市販のアルカリ脱脂剤でファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、製造例2のノボラック樹脂、製造例3の架橋剤、鉄粉(試薬)、フッ化水素酸(試薬)、及び過酸化水素水(試薬)を用いて調整した表4に示す自己析出被膜処理浴に浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで160℃で20分間焼き付けを行った。自己析出浴への浸漬時間は、膜厚が15μmとなるように設定した。各々の比較例で得られた自己析出被覆金属材料を後述する方法に従って評価した。
【0089】
・ 比較例9
市販のアルカリ脱脂剤でファインクリーナーL4460(日本パーカライジング(株)製)を水で2質量%に希釈し40℃に加温した液を供試板にスプレー装置で噴霧し脱脂処理を行った。脱脂処理後の供試板表面を、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄した。前記表面を脱脂洗浄した供試板を、市販の自己析出被膜処理薬剤であるNSD−1000(塩化ビニリデンタイプ:日本パーカライジング(株)製)をカタログ値の中心に調整した処理浴に2分間浸漬した後、スプレー装置を用いてイオン交換水で洗浄し、次いで100℃で20分間焼き付けを行った。さらに市販のアミノアルキッド系中塗り塗装(商品名アミラックTP-37グレー:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)、および市販のアミノアルキッド系上塗り塗装(商品名アミラックTM-13白:関西ペイント(株)製、膜厚35μm、スプレー塗装、140℃で20分間焼き付け)を行った。上塗り塗装まで行った供試板塗膜の密着性を後述する方法に従って評価した。
【0090】
(自己析出被覆処理金属材料の外観および膜厚評価)
実施例、及び比較例の自己析出被膜処理方法で処理を行った供試板の外観を目視で判定した。また、被膜厚を電磁式膜厚計(フィッシャースコープMMS:FISCHER製)を用いて測定した。
【0091】
(自己析出被覆金属材料の性能評価)
実施例、及び比較例の性能評価を行った。評価項目と略号を以下に示す。尚、自己析出被膜処理完了時点での塗膜を自己析出塗膜、上塗り塗装完了時点での塗膜を3coats塗膜と称することとする。
(1)SST:塩水噴霧試験(自己析出塗膜)
(2)SDT:塩温水試験(自己析出塗膜)
(3)1stADH:1次密着性(3coats塗膜)
(4)2ndADH:耐水2次密着性(3coats塗膜)
【0092】
・SST
鋭利なカッターでクロスカットを入れた自己析出塗膜板に5質量%塩水を600時間噴霧(JIS−Z−2371に準ずる)した。噴霧終了後にクロスカット部からの両側最大ふくれ幅を測定した。
【0093】
・SDT
鋭利なカッターでクロスカットを入れた自己析出塗膜板を、50℃に昇温した5質量%のNaCl水溶液に240時間浸漬した。浸漬終了後に水道水で水洗→常温乾燥したクロスカット部を粘着テープで剥離し、塗膜の両側最大剥離幅を測定した。
【0094】
・ 1stADH
3coats塗膜に鋭利なカッターで2mm間隔の碁盤目を100個切った。碁盤目部のセロテープ(登録商標)剥離を行い碁盤目の残存個数を数えた。
【0095】
・2ndADH
3coats塗装板を40℃の脱イオン水に240時間浸漬した。浸漬後に鋭利なカッターで2mm間隔の碁盤目を100個切った。碁盤目部のセロテープ剥離を行い碁盤目の残存個数を数えた。
【0096】
表5に実施例1から5、および比較例1で得られた自己析出被膜の評価結果を示した。実施例1から5は、全ての水準において均一な外観が得られ、かつ耐食性も優れていた。対して、比較例1は、焼き付け後の自己析出被膜全面にクラックが発生したため、耐食性評価を行わなかった。
【0097】
表6に実施例6から9、および比較例2,3で得られた自己析出被膜の評価結果を示した。実施例6から9は、架橋剤にビスフェノールA構造を導入していないため、実施例1から5と比較すると若干劣るものの実用上十分な耐食性を示した。また、中上塗り塗装後の密着性も良好であった。対して、比較例2の自己析出被覆金属材料は、密着性は得られたものの、膜厚が低いため耐食性に劣る結果であった。比較例3では、焼き付け後の自己析出被膜にクラックが発生したため、耐食性評価を行わなかった。
【0098】
表7には、実施例11から13、および比較例4で得られた自己析出被膜の評価結果を示した。実施例11から13は、全ての水準において均一な外観が得られ、かつ耐食性も優れていた。また、中上塗り塗装後の密着性も良好であった。対して比較例4では、自己析出被膜処理工程の次工程である水洗工程において、焼き付け前の塗膜が剥離した。
【0099】
表8に比較例5で得られた自己析出被膜の評価結果を示した。比較例5においては、自己析出被膜は得られたが、架橋剤を使用しなかったため著しく耐食性に劣る結果であった。
【0100】
表9に比較例6から8で得られた自己析出被膜の評価結果を示した。比較例6から8に用いたノボラック樹脂は、メチロール基を有していないため耐食性に劣っていた。また、処理浴の安定性が著しく低く、自己析出被膜処理後1時間経過後には沈殿物が発生した。対して、全ての実施例においては、自己析出被膜処理後の処理液を1ヶ月間保管しても沈殿物の発生はなく、かつ自己析出被膜処理によってスラッジがほとんど発生しなかった。
【0101】
表10には、比較例9で得られた自己析出被膜の評価結果を示した。比較例9は市販の自己析出被膜処理剤であるため、比較的良好な耐食性を示した。しかしながら、中上塗り塗装後の密着性評価では、碁盤目部の塗膜が全て剥離した。
【0102】
以上より、本発明の効果は明らかである。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック樹脂と、架橋剤と、第二鉄イオンと、フッ素元素と、酸化剤とを含む水溶液であって、
前記ノボラック樹脂が、フェノール類とアルデヒド類とをF/P比が2.5から3の範囲でアルカリ触媒存在下において反応させることで得られるレゾール樹脂と、隣接する芳香環炭素上に二以上のヒドロキシル基を有するヒドロキシフェノール類と、フェノール類と、を混合撹拌し、更にフェノール類とアルデヒド類と酸触媒を加えて重合することにより得られる、F/P比が0.7〜1.0のメチロール基を有するノボラック樹脂であり、
前記架橋剤が、該メチロール基、フェノール核および/またはフェノール性ヒドロキシル基と熱硬化反応可能な架橋基を有する架橋剤であり、
前記ノボラック樹脂と前記架橋剤との固形分質量濃度比が1:1から1:10の範囲であり、
前記フッ素元素のモル濃度が前記第二鉄イオンの少なくとも3倍であり、かつ、pHが2から6の範囲である
ことを特徴とする、金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項2】
前記ノボラック樹脂が、式1に示す構造式を有することを特徴とする、請求項1記載の金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【化1】

(式中、mおよびnは1〜5の整数、pは0〜5の整数、R1はメチロール、R2は独立にヒドロキシル又はアルキルアリール、R3は独立にメチロール、ヒドロキシル又はアルキルアリール、aは0又は1である。)
【請求項3】
前記架橋剤の熱硬化反応可能な架橋基がイソシアネート基である、請求項1又は2に記載の金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項4】
前記架橋剤が、1モルのポリオールに対して、予め一方のイソシアネート基がブロック剤でブロックされた少なくとも2モルのポリイソシアネートを付加した多官能ブロックイソシアネートである、請求項3に記載の金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項5】
前記架橋剤中のポリオールが少なくとも一分子のビスフェノールA構造を有することを特徴とする、請求項4に記載の金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項6】
前記ノボラック樹脂の濃度が水溶液中の固形分濃度として1〜5質量%であることを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載の金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項7】
酸化剤が過塩素酸、次亜塩素酸、溶存酸素、オゾン、過マンガン酸、過酸化水素から選ばれる少なくとも一種である、請求項1から6の何れか一項に記載の金属材料の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項8】
白金電極で測定される酸化還元電位が、300から500mVであることを特徴とする、請求項7に記載の自己析出被膜処理用表面処理液。
【請求項9】
予め脱脂、水洗処理によって表面を清浄化した金属材料を、請求項1から8の何れか一項に記載された表面処理液と接触させた後、さらに水洗工程で該金属材料表面に付着した余剰な前記処理液を除去し、次いで焼き付け処理を行うことによって被膜を熱硬化させることを特徴とする金属材料の自己析出被膜処理方法。
【請求項10】
前記金属材料が、鉄系金属材料であることを特徴とする、請求項9に記載の金属材料の自己析出被膜処理方法。
【請求項11】
金属材料表面に請求項9又は10に記載された方法によって析出した自己析出被膜層を有し、かつ焼き付け硬化後の自己析出被膜層の膜厚が10〜30μmであることを特徴とする自己析出被覆金属材料。

【公開番号】特開2009−293101(P2009−293101A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149994(P2008−149994)
【出願日】平成20年6月7日(2008.6.7)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】