説明

金属水銀の製造方法

【課題】毒性が低い還元剤を用いて、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元して金属水銀を製造する方法および水銀製造装置を提供する。
【解決手段】酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物が付着した蛍光放電灯の断片35と、クエン酸水溶液33と、を接触させ、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀とするものである、金属水銀の製造方法である。前記酸化状態が酸化数+1であってもよく、前記水銀化合物がHgOであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属水銀の製造方法に関し、より詳細には、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元して金属水銀を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀(Hg)は、常温で液体の金属として知られており、金属のアマルガム抽出、塩素製造、カセイソーダ製造、温度計等の計測機器、蛍光放電灯(所謂、蛍光灯は蛍光放電灯の一種である。)、農薬、火薬及びバッテリー等の様々な用途で多用される重要な物質である。水銀は、通常、+1又は+2の酸化数の酸化状態をとることが知られており、例えば、酸化水銀(酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物の一種)は、酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀(酸化数:+1))と酸化水銀(II)(HgO:酸化第二水銀(酸化数:+2))とが古くから広く知られている。
このような酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(例えば、酸化水銀)を還元して金属水銀にするための還元剤としては、塩化第一スズ(塩化スズ(II):SnCl)や亜スズ酸ナトリウム(NaSnO)等が知られており、具体的には、例えば、塩化第一スズ(塩化スズ(II):SnCl)の酸性溶液を、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(例えば、Hg(II)を含む酸化水銀(II)(HgO))と接触及び反応させて金属水銀とすることが知られていた(例えば、非特許文献1参照)。
なお、金属水銀の製造方法とは異なるが、本出願人は、硫化ナトリウムを含有する水溶液に水銀を接触させることで、該水溶液中に水銀を溶解させ、水銀を処理することができることを見いだし、それに関する特許出願を行っている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−327831号公報(例えば、発明の詳細な説明中の段落番号0006〜0008等)
【非特許文献1】大木道則・大沢利昭・田中元治・千原秀昭編,「化学辞典」,第1版(第4刷),株式会社東京化学同人,1994年10月1日(第4刷:1998年3月2日),p.202ー203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元して金属水銀にする方法は、塩化第一スズ(塩化スズ(II):SnCl)等といった重金属を含有し毒性を有するものを用いるため、環境や人体に対する影響が懸念されるものであった。
そこで、本発明においては、毒性が低い還元剤を用いて、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元して金属水銀を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元して金属水銀を製造する方法について鋭意研究を行ったところ、クエン酸が、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元することができることを見出し、本発明を完成するに至った。クエン酸は、食用に供されるダイダイやミカン等の果実中に遊離の状態で存在するものであり、人体や環境に対し毒性を有さないか又は極めて毒性が小さいものとして広く知られており、本発明においては酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物に対し無毒又は極低毒性の還元剤として作用する。
【0006】
即ち、本発明の金属水銀を製造する方法(以下、「本製造方法」という。)は、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物と、クエン酸と、を接触させ、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀とするものである、金属水銀の製造方法である。
また、本製造方法には、以下(1)〜(7)の態様が含まれる。
(1)前記酸化状態が酸化数+1である、上記製造方法。
(2)前記水銀化合物がHgOである、上記(1)の製造方法。
(3)前記水銀化合物と、クエン酸水溶液と、を接触させるものである、上記製造方法。
(4)蛍光放電灯に付着した前記水銀化合物をクエン酸水溶液と接触させるものである、上記(3)の製造方法。
(5)前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯をクエン酸水溶液中に浸漬することで、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させるものである、上記(4)の製造方法。
(6)前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯がクエン酸水溶液中に浸漬された状態で、前記蛍光放電灯に対してクエン酸水溶液が移動するものである、上記(5)の製造方法。
(7)前記クエン酸水溶液に界面活性剤が添加されているものである、上記(3)乃至(6)のいずれか1に記載の製造方法。
【0007】
また、本発明は、上記(3)乃至(7)のいずれか1に記載の製造方法により水銀を製造する装置(以下、「本製造装置」という。)を提供する。
本製造装置は、上記(3)乃至(7)のいずれか1に記載の製造方法により水銀を製造する装置であって、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる接触容器と、接触容器中に気体を導入する気体導入手段と、接触容器から排出される気体に含まれる金属水銀蒸気を回収する回収手段と、を備えてなる、水銀製造装置である。
そして、本製造装置においては、前記接触容器に収容されるクエン酸水溶液中に前記水銀化合物が浸漬されるものであり、前記気体導入手段が、クエン酸水溶液に気体を吹き込むものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本製造方法は、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物と、クエン酸と、を接触させ、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀とするものである、金属水銀の製造方法である。
「酸化状態の水銀原子」とは、正(通常は、+1又は+2である。)の酸化数を有する水銀原子をいい、代表的には、酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀)に含まれる水銀原子(酸化数:+1)や、酸化水銀(II)(HgO:酸化第二水銀)に含まれる水銀原子(酸化数:+2)を挙げることができる。
「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」とは、上記のような「酸化状態の水銀原子」を含む水銀化合物であれば何ら限定されるものではないが、代表的には、酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀)や、酸化水銀(II)(HgO:酸化第二水銀)を挙げることができる。
「クエン酸」は、2−ヒドロキシプロパンー1,2,3−トリカルボン酸、2−ヒドロキシトリカルバリル酸とも呼ばれる化合物であり、未熟のシトロン、ダイダイ、ミカン等の果実中に遊離の状態で存在するものである。このようなクエン酸が含まれるダイダイやミカン等の果実は食用に供されるものであるし、クエン酸は飲料水等の食品添加物として用いられること等から、クエン酸は人体やその他の生物等に対して毒性を有さないか極めて毒性が低いものとして広く知られている。このような無毒又は極低毒性のクエン酸を「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」と接触させることで、酸化状態の水銀原子をクエン酸が還元し金属水銀とすることができることを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本製造方法は、毒性が低い還元剤であるクエン酸を用いて、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を還元して金属水銀を製造する方法である。
【0009】
クエン酸と「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」との接触における該水銀原子(Mhモル)に対するクエン酸(Mcモル)の割合RM(=Mc/Mh)は、あまり小さいと酸化状態の水銀原子を十分還元することができず、逆にあまり大きいとクエン酸の無駄になるので、これら両方が両立される範囲とされることが好ましく、通常、割合RM(=Mc/Mh)は、好ましくは0.017×10以上、より好ましくは0.033×10以上、最も好ましくは0.050×10以上であり、好ましくは0.117×10以下、より好ましくは0.100×10以下、最も好ましくは0.083×10以下とされる(従って、該割合RM(=Mc/Mh)は、通常、好ましくは0.017×10〜0.117×10とされ、より好ましくは0.033×10〜0.100×10とされ、最も好ましくは0.050×10〜0.083×10とされる。)。
また、クエン酸と「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」との接触は、該水銀化合物のみをクエン酸と接触させる場合のみならず、該水銀化合物とその他のものを含む混合物と、クエン酸と、を接触させる場合であってもよい。
【0010】
本製造方法を適用する「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」の該酸化状態は、水銀原子の酸化数として、+1及び+2のいずれであってもよいが、とりわけ酸化数+1の酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(例えば、酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀))を用いることが好ましい。クエン酸と「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」とを接触させた際、酸化数+1の酸化状態の水銀原子の方が、酸化数+2の酸化状態の水銀原子よりもクエン酸によって迅速かつ確実に還元されるためである。
【0011】
本製造方法を適用する「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」としては、上記の如く「酸化状態の水銀原子」を含む水銀化合物であれば何ら限定されるものではないが、代表的には、酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀)や、酸化水銀(II)(HgO:酸化第二水銀)を挙げることができる。とりわけ酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀、酸化数+1)を該水銀化合物とすれば、クエン酸によって迅速かつ確実に還元されるので好ましい。
【0012】
本製造方法における「酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物」に接触させるクエン酸は、液体(融液)や固体であってもよいが、溶媒(例えば、水、エチルアルコール、エーテル等)にクエン酸を溶解させたクエン酸溶液を用いるようにしてもよく、クエン酸溶液を該水銀化合物と接触させるようにすれば、該水銀化合物にクエン酸をまんべんなく(略均一)容易に接触させることができ、酸化状態の水銀原子をクエン酸によって迅速かつ確実に還元することができる。
なお、クエン酸を溶解させクエン酸溶液にする際に用いる溶媒としては、上述のように水、エチルアルコール、エーテル等を用いることができるが、とりわけ水は、クエン酸をうまく溶解させることができると共に無害かつ安価であるので好ましい(即ち、この場合は、該水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる。)。
本製造方法において該水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる場合(以下、「クエン酸水溶液使用本製造方法」という。)、クエン酸水溶液中のクエン酸濃度はあまり小さいと酸化状態の水銀原子を十分還元することができず、逆にあまり大きいとクエン酸が無駄になる(クエン酸の消費量が多くなりコスト高になる)傾向があるので、これら両方が両立される範囲とされることが好ましく、通常、クエン酸水溶液中のクエン酸濃度(重量%、wt%ということもある。)は、好ましくは2重量%以上、より好ましくは4重量%以上、最も好ましくは6重量%以上であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは18重量%以下、最も好ましくは16重量%以下とされる(従って、クエン酸水溶液中のクエン酸濃度は、通常、好ましくは2〜20重量%とされ、より好ましくは4〜18重量%とされ、最も好ましくは6〜16重量%とされる。)。
また、本製造方法において該水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる場合(クエン酸水溶液使用本製造方法)の温度は、あまり低いと酸化状態の水銀原子を十分還元することができず、逆にあまり高いと反応速度が大きくなりすぎるので、これら両方が両立される範囲とされることが好ましく、通常、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、最も好ましくは20℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、最も好ましくは30℃以下とされる(従って、該水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる温度は、通常、好ましくは5〜50℃とされ、より好ましくは10〜40℃とされ、最も好ましくは20〜30℃とされる。)。
なお、本製造方法において該水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる時間は、あまり短いと酸化状態の水銀原子を十分還元することができず、逆にあまり長いと金属水銀を効率的に製造できないので、これら両方が両立される範囲とされることが好ましく、通常、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、最も好ましくは15分以上であり、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下、最も好ましくは45分以下とされる(従って、該水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる時間は、通常、好ましくは5〜90分とされ、より好ましくは10〜60分とされ、最も好ましくは15〜45分とされる。)。
【0013】
クエン酸水溶液使用本製造方法においては、蛍光放電灯に付着した前記水銀化合物をクエン酸水溶液と接触させるもの(以下、「蛍光放電灯使用本製造方法」という。)であってもよい。
蛍光放電灯は、一般家庭や企業事務所等において汎用される蛍光灯(低圧水銀灯のガラス管の内側に蛍光塗料を塗った照明器具であり、水銀アーク放電によって発生する紫外線を蛍光物質にあてて発光させるもの)を含む概念であり、蛍光放電灯が廃棄される際に蛍光放電灯内部に含まれる水銀分の処理が問題となる(蛍光灯等の蛍光放電灯には、通常、水銀が封入されており、蛍光放電灯を廃棄する際、該封入されている水銀が周辺環境に散逸することで環境汚染を引き起こすことが問題になる。)。このような蛍光放電灯を廃棄する際、蛍光放電灯を破壊して生じる断片(蛍光放電灯を形成していたガラス片、蛍光放電灯をコネクタに取り付けるための口金(なお、口金にはガラス片が付随することがある。)、蛍光放電灯内面に塗布されていた蛍光体粉等を含む。なお、本発明において蛍光放電灯とは、このような蛍光放電灯を破壊して生じる断片を含むものである。)には、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(後述のように、主として酸化水銀(I)(HgO:酸化第一水銀))が付着していることから、該断片に付着した酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を本製造方法によりクエン酸と接触させ、該酸化状態の水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀としてもよい。これにより該断片に付着した水銀分を金属水銀とすることで、該水銀分を容易に分離回収することができるので、水銀分の再利用を可能ならしめると共に水銀分が周辺環境に散逸することで生じうる環境汚染を防止又は減少させることができる。なお、蛍光放電灯を破壊して生じる断片に付着した酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物を、本製造方法によりクエン酸と接触させるには、該断片に付着した該水銀化合物を分離回収し、該回収した該水銀化合物のみをクエン酸と接触させる場合と、該断片に付着した状態のまま該水銀化合物を(該水銀化合物を分離回収することなく)クエン酸と接触させる場合と、のいずれであってもよい。
【0014】
蛍光放電灯使用本製造方法の場合、前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯をクエン酸水溶液中に浸漬することで、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させるもの(以下、「蛍光放電灯浸漬本製造方法」という。)であってもよい。
このように前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯をクエン酸水溶液中に浸漬して前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させるようにすれば、蛍光放電灯の断片に付着した該水銀化合物を分離回収することなく、該水銀化合物とクエン酸とを接触させることができる(該水銀化合物の分離回収は、手間がかかり、水銀分が周辺環境に散逸する原因になり得る。)と共に、蛍光放電灯の断片をクエン酸水溶液により洗浄する作用もあり、蛍光放電灯の断片を清浄化しリサイクル使用を容易ならしめる。
【0015】
蛍光放電灯浸漬本製造方法の場合、前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯がクエン酸水溶液中に浸漬された状態で、前記蛍光放電灯に対してクエン酸水溶液が移動するものであってもよい。
このように前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯の断片がクエン酸水溶液中に浸漬された状態で、前記蛍光放電灯の断片に対してクエン酸水溶液が相対的に移動することで、蛍光放電灯の断片に付着した該水銀化合物とクエン酸水溶液とがうまく接触(撹拌状態)すると共に、蛍光放電灯の断片に付着した該水銀化合物をクエン酸水溶液の移動(流動)が剥離するように作用するので、蛍光放電灯の断片に付着した該水銀化合物をうまく金属水銀とすることができると共に、蛍光放電灯断片の清浄化に資することができる。
なお、蛍光放電灯に対してクエン酸水溶液が移動するとは、蛍光放電灯の断片に対してクエン酸水溶液が相対的に移動するものであれば足り、例えば、前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯がクエン酸水溶液中に浸漬されたものを振動させる振動手段(例えば、振盪装置)や、前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯がクエン酸水溶液中に浸漬されたものに超音波を照射する超音波照射手段(例えば、超音波照射装置)や、前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯がクエン酸水溶液中に浸漬されたものに気体を吹き込む気体吹き込み手段(例えば、気体を圧送するブロアに接続された気体吹き込みノズル)、回転される撹拌羽根や撹拌子等を配設するようにしてもよい。
【0016】
クエン酸水溶液使用本製造方法の場合、前記クエン酸水溶液に界面活性剤が添加されているものであってもよい。
クエン酸水溶液に界面活性剤が添加されることにより、該水銀化合物とクエン酸水溶液とがうまく接触(界面活性化)するようにすることができ、該水銀化合物をうまく金属水銀とすることができる。また、蛍光放電灯使用本製造方法(前記断片に付着した状態のまま該水銀化合物をクエン酸と接触させる場合。なお、蛍光放電灯浸漬本製造方法の場合も含まれる。)の場合には、蛍光放電灯断片を洗浄する効果を高め、蛍光放電灯断片の清浄化に資することができる(例えば、蛍光放電灯断片のリサイクル使用を容易ならしめる。)。
なお、界面活性剤としては種々のものが使用できるが(クエン酸と不要な反応を起こさないものが好ましい。)、廉価性及び入手容易性等からは一般的に使用されている汎用洗剤を用いるようにしてもよい。
【0017】
本製造装置は、クエン酸水溶液使用本製造方法により水銀を製造する装置であって、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる接触容器と、接触容器中に気体を導入する気体導入手段と、接触容器から排出される気体に含まれる金属水銀蒸気を回収する回収手段と、を備えてなる、水銀製造装置である。
こうすることで接触容器にて前記水銀化合物(酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物)とクエン酸水溶液とを接触させることで(無論、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触容器は収容する。)、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀にする。生じた金属水銀は蒸発し(金属水銀は常温にて蒸発可能)、接触容器中にて水銀蒸気になる。一方、気体導入手段により接触容器中に気体を導入することで、該導入された気体は接触容器中を流動して接触容器から流出するので、接触容器中を流動し接触容器から流出する該気体に水銀蒸気を同伴させて接触容器から取り出すことができる。そして、接触容器から流出する該気体に同伴された水銀蒸気(接触容器から排出される該気体に含まれる金属水銀蒸気)を回収手段により回収することができる。このように本製造装置を用いることで、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる接触容器にて生じる金属水銀をうまく搬送(気体導入手段により導入された気体による。)し回収(回収手段による。)することができる。
なお、気体導入手段が導入する気体としては、種々のものが用いられてよく、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等が用いられてよいが、本製造装置の運転費用を低減すること等からは空気を用いることが好ましい。また、接触容器から排出される気体に含まれる金属水銀蒸気を回収する回収手段としては、気体に含まれる金属水銀蒸気を捕集するためこれまで用いられてきた種々の方法が用いられてよい。
また、本製造装置における前記水銀化合物及びクエン酸水溶液については、上で説明した本製造方法と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0018】
本製造装置においては、前記接触容器に収容されるクエン酸水溶液中に前記水銀化合物が浸漬されるものであり、前記気体導入手段が、クエン酸水溶液に気体を吹き込むものであってもよい。
クエン酸水溶液中に前記水銀化合物が浸漬されることにより前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを確実に接触させることができる。そして、気体導入手段が、クエン酸水溶液(接触容器中に収容されている。)に気体を吹き込むものであるので、気体吹き込みにより、前記水銀化合物がクエン酸水溶液中に浸漬された状態で前記水銀化合物に対してクエン酸水溶液が移動する(該水銀化合物とクエン酸水溶液とがうまく接触(撹拌状態)する)。そして、接触容器にて前記水銀化合物(酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物)とクエン酸水溶液とを接触させることで、該水銀原子がクエン酸にて還元されて生じた金属水銀が接触容器中にて水銀蒸気になることを促進し(生じる金属水銀は微細な大きさであるので、クエン酸水溶液に吹き込まれた気体が形成する気泡に同伴されてクエン酸水溶液の上面(表面)に浮上する。そして、クエン酸水溶液の上面(表面)に浮上した金属水銀は、吹き込まれた気体により円滑かつ迅速に蒸発し水銀蒸気(気体)となることができる。)、接触容器にて生じる金属水銀をうまく搬送し回収することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
(1)蛍光灯断片等の準備
一般家庭や企業事務所等から廃棄された蛍光灯を、約5cm×5cmの篩いを通過できる程度の大きさまで破砕し、蛍光灯断片(ガラス片、蛍光灯をコネクタに取り付けるための口金(なお、口金にはガラス破片が付随することがある。)、蛍光灯内面に塗布されていた蛍光体粉等を含む。)とした。
また、この蛍光灯断片とは別に、蛍光灯断片に付着している蛍光体含有粉を採取した。蛍光体含有粉は、蛍光灯内面に塗布されていた蛍光体粉を主として含むものであり、蛍光灯断片から回収された水銀含有粉体である(主として、蛍光灯のガラス管内面に付着した粉体層をかき落とし回収することで得た。)。
(2)反応液の調製
市販のクエン酸(一級試薬)20gを精製水180gに溶解し全体を200gとして10重量%のクエン酸水溶液を調製した。そして、該クエン酸水溶液200gに洗浄剤(具体的には、1%シリコーン液(ここでは信越化学工業株式会社製の商品名「信越シリコーン KM−72」)0.1mlと、界面活性剤(ここではポリエチレンノニフェニルエーテルと直鎖アルキルベンゼンスルホン酸との混合物を用いたが、一般的に使用されている汎用洗剤を適宜用いてもよい。)10mlと、を混合した混合物。なお、1%シリコン液は消泡剤として添加している。)を加え、混合して反応液とした。なお、該洗浄剤は、蛍光灯断片に油分等が付着している場合にも、蛍光灯断片と反応液とがうまく接触するように添加しているものであり、蛍光灯断片に油分等が付着していない場合等には該洗浄液の添加は必ずしも要しない。
(3)水銀吸収液の調製
ここでは水銀吸収液として10wt%(重量%。以下同じ。)の多硫化ナトリウム水溶液を用いた。ここに10wt%多硫化ナトリウムは、硫化ナトリウム(NaS)の10wt%水溶液500gに硫黄15g(硫黄粉末)を加熱下(煮沸)にて溶解させ調製したが、水酸化ナトリウム500gと硫黄400g(硫黄粉末)とを精製水5000gに加え加熱溶解させて調製してもよい。
なお、多硫化ナトリウムは、硫化ナトリウムに比して、硫黄(S)が過飽和状態で存在していることが異なり、これによって硫化ナトリウムが水銀と反応し硫化水銀(沈殿)となっても、さらに多硫化ナトリウムが含む硫黄(イオン)が水銀と迅速に反応することができ、多硫化ナトリウム水溶液を用いることで水銀を効果的に吸収することができる。
【0021】
(4)水銀回収装置
本実施例にて用いた水銀回収装置11を図1に示す。
水銀回収装置11は、図示しないポンプと、該ポンプから圧送される空気を導く第1導管21と、第1導管21の先端から内部に空気が送入される反応槽31と、反応槽31からの排気を導く第2導管41と、第2導管41の先端から内部に排気が送入される第1吸収槽51と、第1吸収槽51からの排気を導く第3導管61と、第3導管61の先端から内部に排気が送入される第2吸収槽71と、第2吸収槽71からの排気を導く第4導管81(第4導管81の先端からの排気は該ポンプの吸入口に戻される。)と、を備えてなる。
該ポンプからは、ここでは流量約0.5ml/分の空気が吐出され、このポンプから吐出される圧縮空気は、第1導管21の基端から先端に向けて移送される。
また、ポンプから吐出される圧縮空気、後述する反応液33、水銀吸収液53、73のいずれも、ほぼ常温(20〜25℃)である。
【0022】
反応槽31は、内容積約500mlのガラス製の容器であり、内部には反応液33(上記(2)にて調製した反応液)が約200ml注入されている。反応液33中には、上記(1)にて準備した蛍光灯断片35が約23g(この約23gの蛍光灯断片35の内訳は、ガラス片:約10g、蛍光灯をコネクタに取り付けるための口金:約12g、蛍光灯内面に塗布されていた蛍光体粉:約1gであった。なお、これらの比率は変動することがある。)程度投入されている(なお、ここで用いた蛍光灯断片35約23gには、後述するように水銀(純Hg分)が31.25μg含まれていた。)。このような反応液33には第1導管21の先端が潜入しており、該先端から吐出される圧縮空気(前記ポンプからの圧縮空気)は反応液33中に吹き込まれる(バブリング。図1中、気泡33bが形成されている。)。
蛍光灯断片35に付着していた水銀を含む成分と、反応液33と、が反応することで金属水銀が生じるが(詳しくは後述)、該生じる金属水銀は微細な大きさであるので、第1導管21の先端から生じる気泡33bに同伴されて反応液33の上面33a(表面)に浮上する。そして、反応液33の上面33aに浮上した金属水銀は蒸発し水銀蒸気(気体)となるが、該水銀蒸気は、第1導管21の先端から反応槽31の内部31aに導入され内部31aを流通する気体(空気)に同伴され、第2導管41の基端から先端へ向かって移送される。
なお、反応槽31中の反応液33及び蛍光灯断片35を撹拌し、反応液33及び蛍光灯断片35をうまく接触させると共に蛍光灯断片35から水銀含有成分を効果的に剥離するため、反応槽31の反応液33中には回転子37(撹拌子とも言う。ガラス又はプラスチックで被覆された鉄又は磁石の棒状の小片)が入れられており、回転子37はマグネチックスターラー39により回転されている。また、ここで用いたマグネチックスターラー39により回転される回転子37以外にも、反応液33の撹拌を行う種々の手段が用いられてよいことは言うまでもなく、該手段として一例を挙げれば、反応槽31に超音波を照射する超音波照射装置や、反応槽31を振とう(振盪)する振とう機(振盪機)や、極めて細かい気泡(所謂、マイクロバブル)を生じさせる気泡生成装置等を例示できる(なお、これらマグネチックスターラーにより回転される回転子、超音波照射装置、振とう機(振盪機)、気泡生成装置等の2以上のものを組み合わせて用いることもできる。)。
また、反応液33には、前述のように洗浄剤(特に、界面活性剤)が添加されているので、反応液33中に存する蛍光灯断片35に付着した水銀含有成分を効果的に洗浄することができる。
【0023】
第1吸収槽51及び第2吸収槽71には、上記(3)にて調製した水銀吸収液53、73がそれぞれ約50ml注入されている(なお、水銀吸収液53、73約50mlは、反応槽31から生じる水銀を吸収するのに十分な量である。)。
反応槽31の内部31aから第2導管41により導かれた空気(前述のように水銀蒸気が含まれている。)は、第2導管41の先端(水銀吸収液53中に潜入している。)から水銀吸収液53中に吹き込まれ(バブリング)、該空気に含まれる水銀蒸気は水銀吸収液53により吸収される。そして、水銀吸収液53を通過した空気は、第1吸収槽51から第2吸収槽71へ第3導管61を通じ(第3導管61の基端から先端へ)導かれ、再び、第3導管61の先端(水銀吸収液73中に潜入している。)から水銀吸収液73中に吹き込まれ(バブリング)、含まれる水銀蒸気は水銀吸収液73により吸収される。その後、水銀吸収液73を通過した空気は、第2吸収槽71から第4導管81を通じて前記ポンプの吸入口に戻される(第2吸収槽71から排出される排気に含まれる水銀は、前記ポンプから反応槽31を経て第1吸収槽51及び第2吸収槽71に再び戻り、水銀吸収液53、73によって吸収される。)。
【0024】
なお、水銀回収装置11を構成するため、ここでは大略次のように行った。
第1に、反応槽31に蛍光灯断片35約23gを投入した。前述のように、ここではこの約23gの蛍光灯断片35の内訳は、ガラス片:約10g、蛍光灯をコネクタに取り付けるための口金:約12g、蛍光灯内面に塗布されていた蛍光体粉:約1gであった。
第2に、蛍光灯断片35が投入された反応槽31に、反応液33約200mlを注入した(蛍光灯断片35全部が反応液33に浸るようにした。)。
第3に、反応槽31に回転子37を投入し、マグネチックスターラー39を起動し、反応槽31の撹拌を開始した(以降撹拌を継続した。)。
第4に、第3の撹拌開始の約30〜60分後、第1導管21に圧縮空気を圧送する前記ポンプを起動し、反応槽31の内部31aに存する反応液33に第1導管21の先端からの空気送入(空気流量:毎分約0.5ml)を開始した(空気送入を以降継続した)。これにより上述の如く、蛍光灯断片35に付着していた水銀含有成分と反応液33とが反応し金属水銀が生じ(該生じる金属水銀は反応液33の上面33aに浮上した。)、蒸発し生じた水銀蒸気(気体)は、内部31aを流通する気体(空気)に同伴され、第1吸収槽51及び第2吸収槽71に移送された(水銀蒸気は第1吸収槽51及び第2吸収槽71にて水銀吸収液53、73に吸収された。)。
第5に、第1導管21にて反応槽31の内部31aに圧縮空気を第4にて吹き込み始めてから約30分経過後、第1導管21に圧縮空気を圧送する前記ポンプの運転を停止し(即ち、第4にて開始した反応槽31の内部31aに存する反応液33への圧縮空気バブリングは約30分程度継続した。)、反応槽31から蛍光灯断片35を取り出した(その後、蛍光灯断片35は水洗され、ガラスと金属(主として口金部分)とに分別され、それぞれリサイクル使用された。)。
第6に、第1吸収槽51及び第2吸収槽71の水銀吸収液53、73中の水銀分を定量(定量方法は、「H.Aikoh and T.Shibahara,Analyst,Vol.118,1329−1332(1993)」、「H.Aikoh,C.Tagawa and T.Shibahara,J.Occup.Health,Vol.44,334−336(2002)」及び「H.Aikoh,C.Tagawa and T.Shibahara,Phisiol.Chem.Phys.& Med.NMR,Vol.34,83−90」に記載の方法に従って行った。)したところ、約30.26μgの水銀が検出された。
【0025】
次いで、ここで用いた約23gの蛍光灯断片35(ガラス片:約10g、蛍光灯をコネクタに取り付けるための口金:約12g、蛍光灯内面に塗布されていた蛍光体粉:約1g)に含まれていた水銀(純Hg分)の量を定量するため、第2において反応槽31に反応液33の代わりに10重量%の塩化第一スズ水溶液約150mlを注入する他は上述したと同様の手順で実験を行ったところ、第6の手順にて第1吸収槽51及び第2吸収槽71の水銀吸収液53、73中の水銀分は31.25μgと定量された。ここに塩化第一スズ(塩化スズ(II):SnCl)は、強い還元力を有しており、Hg(I)及びHg(II)を実質的に完全にHgに還元する還元剤として機能することが知られている。このため約23gの蛍光灯断片35が含むと考えられる酸化水銀はほぼ全量が還元され金属水銀に変換されると考えられるので、約23gの蛍光灯断片35が含むと考えられる酸化水銀中の水銀分(純Hg分)は31.25μgと考えられる。
以上のように、ここで用いた蛍光灯断片35約23gに含まれる水銀(純Hg分)約31.25μgのうち、30.26μgが金属水銀として反応槽31に生じたことになり、蛍光灯断片35に含まれる水銀分のうち約97%(=30.26/31.25)が金属水銀として反応槽31に回収されたことが明らかになった。
【0026】
蛍光灯断片35に含まれる水銀分がどのようなものかを確認するため、次のような実験を行った。
市販されている酸化水銀(II)(赤色、HgO)と反応液33とを混合したところ、金属水銀の生成は認められなかった。同様に、市販されている酸化水銀(II)(黄色、HgO)と反応液33とを混合しても、金属水銀の生成は認められなかった(このことから反応液33は、赤色及び黄色いずれの酸化水銀(II)も金属水銀に還元することができないか、その還元速度が極めて遅いことが明らかになった。)。
一方、市販されている酸化水銀(I)(黒色、HgO)と反応液33とを混合したところ、金属水銀が生成された(これにより反応液33に含まれるクエン酸は、酸化水銀(I)(黒色、HgO)に含まれる酸化数+1の酸化状態の水銀原子を還元して金属水銀とすることができることが明らかになった。)。
同様に、市販されている酸化水銀(I)(黒色、HgO)と塩化第一スズ溶液(SnCl)とを混合したところ、金属水銀が生成された。なお、塩化第一スズ(塩化スズ(II):SnCl)は、強い還元力を有しており、Hg(I)及びHg(II)を実質的には完全にHgに還元する還元剤として知られている。このことから反応液33は、塩化第一スズ(SnCl)と同様に、酸化水銀(I)(黒色、HgO)を金属水銀に還元することができることが明らかになった。
これに対して、蛍光灯断片35に含まれる水銀分は、上述のように反応液33と反応させても、また塩化第一スズ(SnCl)溶液と反応させても(詳しくは後述する。)、いずれも金属水銀が生成するので、蛍光灯断片35に含まれる水銀分は酸化水銀(I)(HgO)であると考えられる。
【0027】
このように酸化水銀(I)(HgO)とクエン酸とが反応することで、酸化水銀(I)(HgO)が還元され金属水銀を生成すると考えられる。この酸化水銀(I)(HgO)とクエン酸とが反応し金属水銀を生成する機構は、必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように予想する。
まず、クエン酸が酸化され、アコニット酸、電子及び水を生じる。
・C(クエン酸)→C(cisーアコニット酸)+2e+水
これにより生じる電子(2e)が、蛍光灯断片35に含まれる酸化水銀(I)(HgO)を還元することにより、金属水銀を生じるものと考えられる。
【0028】
最後に、蛍光灯断片35に付着している蛍光体含有粉(上述のように酸化水銀(I)(HgO)を含むと考えられる。)からクエン酸水溶液によってどの程度の金属水銀が得られるかを確認する実験を行った。
蛍光灯断片35は、元の蛍光灯のどの部位から生じたものか(例えば、口金部分が多いか、それともガラス管部分が多いか)等により、蛍光灯断片35単位質量当たりに含まれる水銀分(純Hg分)が大幅に変動し得る。このため単位質量当たりに含まれる水銀分(純Hg分)が比較的一定している蛍光体含有粉(蛍光灯内面に塗布されていた蛍光体粉を主として含むものであり、蛍光灯断片35から回収された水銀含有粉体である。)を用いて金属水銀回収実験を行った。
具体的には、上記した第1乃至第6の手順のうち第1において、反応槽31に投入する蛍光灯断片35約23gの代わりに、蛍光灯断片35に付着している蛍光体含有粉0.5gを反応槽31に投入すると共に、第2において反応槽31に反応液33約150mlを注入する他は上述したと同様の手順で実験を行ったところ、第6の手順にて第1吸収槽51及び第2吸収槽71の水銀吸収液53、73中の水銀分は8.82μgと定量された。
さらに、第1の手順において、蛍光灯断片35約23gの代わりに、蛍光灯断片35に付着している蛍光体含有粉0.5gを反応槽31に投入すると共に、第2において反応槽31に反応液33の代わりに10重量%の塩化第一スズ水溶液約150mlを注入する他は上述したと同様の手順で実験を行ったところ、第6の手順にて第1吸収槽51及び第2吸収槽71の水銀吸収液53、73中の水銀分は8.84μgと定量された。ここに前述のように、塩化第一スズ(塩化スズ(II):SnCl)は、強い還元力を有しており、Hg(I)及びHg(II)を実質的に完全にHgに還元する還元剤として機能する。このため蛍光体含有粉0.5gが含むと考えられる酸化水銀(I)(HgO)はほぼ全量が還元され金属水銀に変換されると考えられるので、蛍光体含有粉0.5gが含むと考えられる酸化水銀(I)(HgO)中の水銀分(純Hg分)は8.84μgと考えられる。
以上のことにより、蛍光体含有粉0.5gが含むと考えられる酸化水銀(I)(HgO)中の水銀分(純Hg分)は8.84μgであり、これを10重量%のクエン酸水溶液と反応させることによって8.82μgの金属水銀とすることができることが明らかになった。即ち、10重量%のクエン酸水溶液により、蛍光体含有粉が含むと考えられる酸化水銀(I)(HgO)中の水銀分(純Hg分)のうち、約99.8%(=8.82/8.84)を金属水銀とすることができた。
また、この実験において、第4の手順から第5の手順まで継続する反応槽31の反応液33への圧縮空気バブリング時間(上記では約30分間)を長くすると、酸化水銀(I)(HgO)を金属水銀に還元する変換率を高めることができることが明らかになった(例えば、圧縮空気バブリング時間を45〜60分にすれば、酸化水銀(I)(HgO)のほぼ全量100%が金属水銀に還元されると考えられる。)。
【0029】
以上のように、水銀回収装置11の反応槽31においては、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(約23gの蛍光灯断片35が含むと考えられる酸化水銀(I)(HgO))と、クエン酸(反応液33に含まれる。)と、を接触させ、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀とするものである、金属水銀の製造方法である本製造方法が行われている。なお、第1吸収槽51及び第2吸収槽71の水銀吸収液53、73中の水銀分は、上述の如く約30.26μgと定量され、反応槽31において酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))とクエン酸(反応液33に含まれる。)とが接触することで該水銀原子がクエン酸により還元されて金属水銀が生じたことが明らかになった。
また、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物は、酸化水銀(I)(HgO)であり、該酸化状態は酸化数が+1である。
そして、ここでは蛍光放電灯(蛍光灯断片35)に付着した前記水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))をクエン酸水溶液(反応液33)と接触させるものである。
【0030】
さらに、ここでは前記水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))が付着した前記蛍光放電灯(蛍光灯断片35)をクエン酸水溶液(反応液33)中に浸漬することで、前記水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))とクエン酸水溶液(反応液33)とを接触させるものである。
また、前記水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))が付着した前記蛍光放電灯(蛍光灯断片35)がクエン酸水溶液(反応液33)中に浸漬された状態で、前記蛍光放電灯(蛍光灯断片35)に対してクエン酸水溶液(反応液33)が移動するものである。具体的には、マグネチックスターラー39により回転される回転子37によって前記蛍光放電灯(蛍光灯断片35)に対してクエン酸水溶液(反応液33)が移動することに加え、反応液33に先端が潜入した第1導管21の先端から吐出される圧縮空気(気泡33b)によっても前記蛍光放電灯(蛍光灯断片35)に対してクエン酸水溶液(反応液33)が移動する。
前記クエン酸水溶液(反応液33)に界面活性剤(ここでは前記した洗浄剤に含まれる。)が添加されている。
【0031】
水銀回収装置11は、酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物(ここでは酸化水銀(I)(HgO))とクエン酸水溶液(反応液33)とを接触させ、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀とするものである、金属水銀の製造方法(クエン酸水溶液使用本製造方法)により水銀を製造する装置であって、前記水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))とクエン酸水溶液(反応液33)とを接触させる接触容器たる反応槽31と、接触容器(反応槽31)中に気体(ここでは空気)を導入する気体導入手段(ここでは図示しない前記ポンプと、前記ポンプから圧送される空気を導く第1導管21と、を有して構成される。)と、接触容器(反応槽31)から排出される気体(ここでは空気)に含まれる金属水銀蒸気を回収する回収手段(ここでは第2導管41と、第2導管41の先端から内部に排気が送入される第1吸収槽51(水銀吸収液53を含む)と、第1吸収槽51からの排気を導く第3導管61と、第3導管61の先端から内部に排気が送入される第2吸収槽71(水銀吸収液73を含む)と、を有して構成される。)と、を備えてなる、水銀製造装置である。
また、水銀回収装置11においては、前記接触容器(反応槽31)に収容されるクエン酸水溶液(反応液33)中に前記水銀化合物(酸化水銀(I)(HgO))が浸漬されるものであり、前記気体導入手段(図示しない前記ポンプと、前記ポンプから圧送される空気を導く第1導管21と、を有して構成される。)が、クエン酸水溶液(反応液33)に気体(ここでは空気)を吹き込むものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】水銀回収装置(本製造装置)を示す概念図である。
【符号の説明】
【0033】
11 水銀回収装置
21 第1導管
31 反応槽
31a 内部
33 反応液
33a 上面
33b 気泡
35 蛍光灯断片
37 回転子
39 マグネチックスターラー
41 第2導管
51 第1吸収槽
53 水銀吸収液
61 第3導管
71 第2吸収槽
73 水銀吸収液
81 第4導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化状態の水銀原子を含む水銀化合物と、クエン酸と、を接触させ、該水銀原子をクエン酸により還元して金属水銀とするものである、金属水銀の製造方法。
【請求項2】
前記酸化状態が酸化数+1である、請求項1に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項3】
前記水銀化合物がHgOである、請求項2に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項4】
前記水銀化合物と、クエン酸水溶液と、を接触させるものである、請求項1乃至3のいずれか1に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項5】
蛍光放電灯に付着した前記水銀化合物をクエン酸水溶液と接触させるものである、請求項4に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項6】
前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯をクエン酸水溶液中に浸漬することで、前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させるものである、請求項5に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項7】
前記水銀化合物が付着した前記蛍光放電灯がクエン酸水溶液中に浸漬された状態で、前記蛍光放電灯に対してクエン酸水溶液が移動するものである、請求項6に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項8】
前記クエン酸水溶液に界面活性剤が添加されているものである、請求項4乃至7のいずれか1に記載の金属水銀の製造方法。
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれか1に記載の金属水銀の製造方法により水銀を製造する装置であって、
前記水銀化合物とクエン酸水溶液とを接触させる接触容器と、
接触容器中に気体を導入する気体導入手段と、
接触容器から排出される気体に含まれる金属水銀蒸気を回収する回収手段と、
を備えてなる、水銀製造装置。
【請求項10】
前記接触容器に収容されるクエン酸水溶液中に前記水銀化合物が浸漬されるものであり、
前記気体導入手段が、クエン酸水溶液に気体を吹き込むものである、請求項9に記載の水銀製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−208423(P2008−208423A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46401(P2007−46401)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(507063791)
【出願人】(507063805)
【出願人】(502133974)
【出願人】(505188674)
【Fターム(参考)】