説明

金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法

【課題】金属炭化物素材をムライトよりなるブランケットで囲んだ状態で、金属炭化物素材をマイクロ波で焼結させて金属炭化物構造体とする金属炭化物構造体の製造方法において、焼結後の金属炭化物構造体の表面加工を容易にする。
【解決手段】金属炭化物よりなる金属炭化物素材11をムライトよりなるブランケット30で囲んだ状態で、金属炭化物素材11をマイクロ波で焼結させて金属炭化物構造体10とする製造方法において、カーボンよりなりマイクロ波を透過する厚さのシート状をなす被覆材20によって、金属炭化物素材11の表面を被覆し、この被覆材20を介して金属炭化物素材11とブランケット30の内面とを接触させた状態で焼結を行った後、金属炭化物構造体10を、被覆材20とともにブランケット30から取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD法によるSiC結晶成長装置の構成部品として用いられる金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材をマイクロ波焼成により製造する金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材としては、たとえばCVD法によるSiC結晶成長装置の反応容器や導入するガスの流路の壁面部材などが挙げられる。ここで、表面に金属炭化物層を形成した部材とは、内部はたとえば金属やセラミックなどの別材料よりなり表面に金属炭化物層を形成した部材である。
【0003】
このCVD法によるSiC結晶成長は、当該反応容器内にて、Siを含有するガスとCを含有するガスと水素を含有する還元雰囲気にて約1600℃〜2600℃の高温状態で行われる。そこで、このような金属炭化物構造体または金属炭化物層としては、TiC、TaC、NbC、ZrC、VCなどの高融点(たとえば3000℃前後)の金属炭化物よりなるものが使用される。
【0004】
このような金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材は、仮焼成等により成形された金属炭化物よりなる金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材をマイクロ波焼成装置の焼成室内に配置し、そこで焼結させて緻密化することで形成するものであり、たとえば特許文献1〜4に記載の方法が提案されている。
【0005】
ここで、一般には、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材を、マイクロ波の透過性がよく断熱効果のあるムライトよりなるブランケットで囲んで焼結を行う方法がとられる。ここで、ムライトはシリカやアルミナを含有するものであり、融点は通常2000℃以下である。
【0006】
しかし、この従来の方法では、マイクロ波焼成時の温度(たとえば1800〜2000℃程度)により、このブランケットのムライトが金属炭化物表面と化学反応してしまう。すると、ブランケットから金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材を取り出した後に、該金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の表面からムライトを含む層を除去する工程、たとえば研磨等の工程が必要であった。
【0007】
仮に、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の表面にムライトが多量に存在すると、SiC結晶成長時に構造体表面から、ムライト中のシリカやアルミナ成分が出てきて、SiC結晶に汚染物質として付着する。そのため、上記したように焼結後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材に対して研磨等による表面加工を行う必要があり、手間がかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−257725号公報
【特許文献2】特開2003−112983号公報
【特許文献3】特開平6−345541号公報
【特許文献4】特開平3−257072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の製造方法において、単純には、ムライトよりなるブランケットと金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材とを離してやれば、焼成時にムライトと金属炭化物または表面金属炭化物層との化学反応が抑制できると考えられる。しかし、その場合、ムライトよりなるブランケットによる断熱効果が不十分となり、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材の保温ができず、焼結が困難となる可能性がある。
【0010】
そのため、従来では、ブランケットと金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材とを接触させて、断熱性を確保したうえで焼結を行うのであり、それゆえ上記したムライトとの化学反応が発生し、焼結後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の表面加工に手間がかかるのである。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材をムライトよりなるブランケットで囲んだ状態で、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材をマイクロ波で焼結させて金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材とする金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法において、焼結後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の表面加工を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、CVD法によるSiC結晶成長装置の構成部品として用いられる金属炭化物よりなる金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)の製造方法であって、金属炭化物よりなる金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)をムライトよりなるブランケット(30)で囲んだ状態で、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)をマイクロ波で焼結させて金属炭化物構造体(10)とする金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法において、
カーボンよりなりマイクロ波を透過する厚さのシート状をなす被覆材(20)によって、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)の表面を被覆し、この被覆材(20)を介して金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)とブランケット(30)の内面とを接触させた状態で、前記焼結を行い、その後、前記焼結により形成された金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)を、被覆材(20)とともにブランケット(30)から取り出すことを特徴とする。
【0013】
それによれば、カーボンよりなる被覆材(20)は、マイクロ波を透過可能な薄いシート状のものとしても、融点が非常に高いので、焼成時に金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)やムライトよりなるブランケット(30)とはほとんど化学反応しない。そのため、ブランケット(30)から取り出した後においても、被覆材(20)の表面に付着するムライトの量は、従来よりも大幅に減少する。
【0014】
また、このブランケット(30)取り出し後の焼結された金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)において、被覆材(20)が取り付けられた状態のままであってもかまわない。
【0015】
なぜならば、この金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)は、CVD法によるSiC結晶成長装置の構成部品として用いられるが、この結晶成長は、上述のように、水素を含有する還元雰囲気にて約1600℃〜2500℃の高温状態で行うものである。そして、そのような状態では、カーボンよりなる被覆材(20)は、炭化水素等となって気化して除去されるため、SiC結晶に対して汚染物質とはならない。
【0016】
このように、本発明によれば、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)を被覆材(20)で被覆して焼成を行うことにより、被覆材(20)表面のムライト付着量を抑制し、且つ、被覆材(20)自身がSiC結晶成長時に汚染物質となることがない。そのため、本発明によれば、従来のような焼結後の研磨等の工程が不要となり、焼結後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)の表面加工を容易にすることができる。
【0017】
ここで、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法において、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)を、被覆材(20)とともにブランケット(30)から取り出した後、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)から被覆材(20)を剥がして取り外すことを特徴とする。
【0018】
それによれば、シート状の被覆材(20)を金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)から剥がすという簡単な工程によって、被覆材(20)に付着したブランケット(30)の成分を、被覆材(20)とともに金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)から除去できるので好ましい。
【0019】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法においては、SiC結晶成長装置の構成部品の典型的形状として、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)は中空筒状のものであるものにできる。
【0020】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の概略外観斜視図である。
【図2】上記実施形態の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造工程のフローチャートを示す図である。
【図3】上記実施形態に係る金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法における(a)成形および仮焼成工程、(b)被覆工程を示す外観斜視図である。
【図4】上記製造方法においてブランケットへの金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材の投入の様子を示す外観斜視図である。
【図5】上記製造方法においてブランケットへの金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材の投入後の状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の概略外観構成を示す外観斜視図である。この金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、CVD法によるSiC結晶成長装置の構成部品として用いられる。
【0024】
ここでは、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、一端が開口し他端が閉塞され側面にはガスの流路には開穴部を有する有底円筒状をなしており、このような金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、SiC結晶成長装置の反応容器や導入するガスの流路の壁面部材などに用いられる。
【0025】
上述のように、このCVD法によるSiC結晶成長は、当該反応容器内にて、Siを含有するガスとCを含有するガスと水素を含有する還元雰囲気にて約1600℃〜2500℃の高温状態で行われるものであり、反応容器や導入するガスの流路の壁面部材などを構成する金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、高融点のものとされる。
【0026】
具体的には、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、TiC(炭化チタン)、TaC(炭化タンタル)、NbC(炭化ニオブ)、ZrC(炭化ジルコニア)、VC(炭化バナジウム)などの金属炭化物を部材の全体もしくは一部に形成した構造からなる。これらの金属炭化物または部材表面に形成した金属炭化物層は、いずれも3000℃前後の高融点のものである。
【0027】
次に、この金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の製造方法について述べる。図2は、本実施形態の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の製造工程のフローチャートを示す図であり、図3は、この製造方法における(a)成形および仮焼成工程、(b)被覆工程を示す外観斜視図である。また、図4は、ブランケット30への金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の投入の様子を示す外観斜視図であり、図5は、その投入後の状態を示す概略断面図である。
【0028】
まず、成形および仮焼成工程では、図3(a)に示されるように、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10を構成する金属炭化物粉を用意し、この金属炭化物粉を成形し、この成形された金属炭化物粉を仮焼成することで金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11を形成する。ここでは、金属炭化物素材11は、有底円筒形状に成形される。
【0029】
ここで、金属炭化物素材11の形成においては、金属炭化物粉を型成形して有底円筒形状とした後に一般的なオーブンで加熱して仮焼成したり、ホットプレスやCIP(Cold Isostatic Press)などの一般的な熱成形方法により仮焼成して成形体を作製すればよい。また、表面に金属炭化物層を形成した部材の場合は、たとえば有底円筒状の部材の表面に金属炭化物層を仮焼成などにより形成すればよい。
【0030】
この後、従来では、この金属炭化物よりなる金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11をムライトよりなるブランケット30で囲んだ状態で、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11をマイクロ波で焼結させて金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10とするが、本実施形態では、その焼成前に被覆工程を行う。
【0031】
この被覆工程では、図3(b)に示されるように、カーボンよりなるシート状をなす被覆材20によって、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の表面を被覆する。ここでは、被覆材20は、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の外表面に接触した状態で金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11を被覆するようにしている。
【0032】
このシート状の被覆材20は、焼成時に照射されるマイクロ波を透過する厚さのものであり、主成分はカーボンであるが、微量の不純物を含んでいてもよい。この被覆材20を構成するカーボンは、マイクロ波を吸収しやすい物質であるが、本実施形態では、被覆材20を薄いシート状に成形されたものとしてマイクロ波を透過できるようにしている。
【0033】
具体的には、フェルト状のカーボンやグラフォイル(グラフテック社の商品名)などのカーボンシートが挙げられる。また、マイクロ波を透過するために、その厚さは、たとえば0.5mm〜1.5mm程度とすることができる。なお、この厚さは、被覆材20の材質などにより適宜変わるものであるが、実験や計算などにより容易に決められる。
【0034】
ここでは、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11は有底円筒状であり、被覆材20によって金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の外周面および底の外表面を取り巻くように包み、このものを、さらに当該外周面に巻き付けたカーボン製のひも21で縛ることで、被覆材20を金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11に固定している。
【0035】
なお、この被覆材20の金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11への取り付け方法としては、たとえば折り込みなどを使用した一般的な包装紙による物品の包装形態を準用することで、ひも21で縛らないで固定する方法も可能である。
【0036】
こうして、被覆材20によって金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の表面を被覆した後、図4に示されるように、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11を被覆材20とともに、ブランケット30に投入する。このブランケット30は、一般のものと同様、マイクロ波の透過性がよく断熱効果のあるムライトよりなるものであり、融点は通常2000℃以下である。
【0037】
ここで、ブランケット30は、中空部に金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11および被覆材20が入るような有底筒状のものであり、ここでは有底円筒状をなす。また、このブランケット30は、その開口部を閉塞する蓋31を有するものである。このブランケット30は、焼成時において、内部の金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11を保温する断熱材として機能する。
【0038】
そして、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11を被覆材20とともに、ブランケット30に投入した後、蓋31によりブランケット30の開口部を閉塞する。これにより、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11および被覆材20は、閉塞空間とされたブランケット30中空部内に位置し、ブランケット30で囲まれた状態となる。
【0039】
このように、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11および被覆材20が、ブランケット30で囲まれた状態が図5に示される。つまり、この状態では、被覆材20を介して金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11とブランケット30の内面とが接触した状態となっている。
【0040】
ここで、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11、被覆材20、ブランケット30の三者の接触がなされる部位は、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の外面全体であってもよいし、一部であってもよい。たとえば、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11が円筒状、ブランケット30が四角筒状の場合には、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11の円周面の一部が、ブランケット30における四辺の内面の一部に対して被覆材20を介して接触していればよい。
【0041】
こうして、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11をブランケット30に設置した後、マイクロ波焼成工程を行い、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11をマイクロ波で焼結させて金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10とする。このとき、図5の状態、すなわち、被覆材20を介して金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11とブランケット30の内面とを接触させた状態で、焼成を行う。
【0042】
具体的にマイクロ波焼成工程では、ブランケット30ごと、図示しない焼成装置における焼成室に投入する。ここで、焼成室は、非酸化性雰囲気とされている。
【0043】
また、この焼成装置は、一般的なマイクロ波焼成装置と同様、焼成室内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段を有しており、導入されたマイクロ波は、ブラケット30および被覆材20を透過して金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11に照射される。
【0044】
そして、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11は、自ら発熱し、1800〜2000℃程度の高温となり、たとえば30分〜1時間程度の時間で焼結に至る。このとき、ブランケット30が断熱機能を発揮し、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11が保温されるため、高温となった金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11が焼結されて、緻密化し、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10となる。
【0045】
こうしてマイクロ波焼成工程を行った後、取り出し工程を行い、焼結により形成された金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10を、被覆材20とともにブランケット30から取り出す。これについては、ブランケット30の蓋31を開けて、当該取り出しを行う。
【0046】
本実施形態では、この後、被覆材20を付けた状態で、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10をSiC結晶装置の反応容器や導入するガスの流路の壁面部材として用いてもよいし、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10から被覆材20を剥がして取り外した後、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10を当該反応容器や導入するガスの流路の壁面部材として用いてもよい。その理由は以下のとおりである。
【0047】
まず、本実施形態によれば、カーボンよりなる被覆材20は、マイクロ波を透過可能な薄いシート状のものとしても、カーボン特有の性質として融点が非常に高いので、焼成時に金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11やムライトよりなるブランケット30とはほとんど化学反応しない。そのため、ブランケット30から取り出した後においても、被覆材20の表面に付着するムライトの量は、従来よりも大幅に減少する。
【0048】
また、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、CVD法によるSiC結晶成長装置の構成部品として用いられるが、この結晶成長は、上述のように、Siを含有するガスとCを含有するガスと水素を含有する還元雰囲気にて約1500℃〜2500℃の高温状態で行うものである。
【0049】
そして、そのような状態では、カーボンよりなる被覆材20は、炭化水素等となって気化して除去されるため、SiC結晶に対して汚染物質とはならない。その一方、従来のムライトはSiやAlやOを含むため、汚染物質としてSiC結晶に混入しやすい。
【0050】
そのため、このブランケット30から取り出した後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、被覆材20が取り付けられた状態のままであってもかまわない。この場合、焼成後における金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の表面加工が不要である。
【0051】
ただし、ブランケット30から取り出し後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10から被覆材20を剥がしてやれば、被覆材20に付着したブランケット30のムライト成分を、被覆材20とともに金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10から除去できるので好ましい。
【0052】
しかも、この被覆材20の除去は、被覆材20を剥がすという簡単な工程で可能である。そして、完全に剥がすことができずに、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の表面に多少被覆材20が残っていても、上述の理由から結晶成長の雰囲気で除去されるので問題は無い。つまり、この場合、従来の研磨などに比べて、焼成後における金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の表面加工が大幅に簡素化される。
【0053】
このように、本実施形態によれば、金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材11を被覆材20で被覆して焼成を行うことにより、被覆材20表面のムライト付着量を抑制し、且つ、被覆材20自身がSiC結晶成長時に汚染物質となることがない。そのため、本実施形態によれば、従来のような焼結後の研磨等の工程が不要となり、焼結後の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の表面加工を容易にすることができる。
【0054】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は有底円筒状のものであったが、その形状はこれに限定されるものではなく、両端が開口する円筒状、角筒状、段付き筒状などでもよいし、さらには、板状、ブロック状、不定形などであってもよい。
【0055】
いずれにせよ、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10は、上記SiC結晶成長装置の構成部品に応じて適宜形状が異なるものであってもよい。そして、このような種々の形状をなす金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10を被覆するうえで、上記した薄いシート状の被覆材20を用いれば、金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材10の外形に応じて被覆材20が変形して、当該被覆が容易に行える。
【符号の説明】
【0056】
10 金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材
11 金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材
20 被覆材
30 ブランケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD法によるSiC結晶成長装置の構成部品として用いられる金属炭化物よりなる金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)の製造方法であって、
前記金属炭化物よりなる金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)をムライトよりなるブランケット(30)で囲んだ状態で、前記金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)をマイクロ波で焼結させて前記金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)とする金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法において、
カーボンよりなりマイクロ波を透過する厚さのシート状をなす被覆材(20)によって、前記金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)の表面を被覆し、
この被覆材(20)を介して前記金属炭化物素材または表面に金属炭化物層を形成した素材(11)と前記ブランケット(30)の内面とを接触させた状態で、前記焼結を行い、
その後、前記焼結により形成された前記金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)を、前記被覆材(20)とともに前記ブランケット(30)から取り出すことを特徴とする金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法。
【請求項2】
前記金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)を、前記被覆材(20)とともに前記ブランケット(30)から取り出した後、前記金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)から前記被覆材(20)を剥がして取り外すことを特徴とする請求項1に記載の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法。
【請求項3】
前記金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材(10)は中空筒状のものであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属炭化物構造体または表面に金属炭化物層を形成した部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35715(P2013−35715A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173591(P2011−173591)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)